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[22476] 【ネタ・チラ裏出】Masked Rider in Nanoha~仮面ライダー、世界を渡る~
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/11/21 07:23
これは、タイトルにもあるようになのは(A's)の世界に仮面ライダー(クウガ・アギト・龍騎)が次元漂流者として現れるものです。

仮面ライダーの怪人は現在一体出てきます。ライダーが増える事が確定です(平成か昭和か判断に困ったライダー)

基本的にネタですので話の作りは甘いです。そして、作者が映像でやって欲しかった事を好きに書いてるだけです。それでも良ければどうぞ。

後、ライダー無双ではないと思います。でも、魔法有利でもないです。

追記 小説家になろうにも投稿しました

11/16 前書き修正
11/21 その他板に移動



[22476] 【一発ネタ】Masked Rider in Nanoha 1 (クウガ・アギト・龍騎)
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/10/25 13:03
「あれ? ここ、どこ?」

 確かに先程まで、自分は果てしない青空を見上げながら、砂浜を歩いていたはず。

(そういえば、突然目の前がパッと光ったな)

 そう思い出し、青年は視線を動かす。どうも公園らしい。平和そのものといった雰囲気の中を、カップルが、家族連れが、老夫婦が歩いている。
 それを眺め、笑顔を浮かべる青年。その鼻に、ふと海風が香る。それに誘われるように足を動かしてみると、視界に広い海が広がった。

「……いい所だな、ここ」

 穏やかで静かな光景。そして見上げれば気持ちのいい青空がある。
 視線を戻せば、どこまでも続く大海原。それを見ていると、さっきまでの悩みも途端にちっぽけなものに見えて……。

「いや、見えないって」

 つい自分の発想に突っ込んでしまう青年。そして何を思ったのか、とりあえず自分の頬を抓ってみた。

「っ!」

 鋭い痛みが走った。どうやら夢ではないらしい。それを確認し、公園の外へ出てみる事にする。現在地を確認しようと思ったのだ。
 雰囲気的には、日本のようだがまだ分からないと思い、青年は入口へ向かう。そこには、公園の名前だろう名前が刻まれていた。
 それを見て、青年は安堵すると同時に途方に暮れる。

「海鳴……海浜公園……」

 その名に聞き覚えもなく、先程まで自分のいた国から日本は、ありえない程の距離がある。
 だから、彼はどうしてこうなったかを考えて、一つの可能性に行き着き、お腹の辺りに手を当てて困った顔で呟いた。

「……どうしてこうなったんだろ……? ……まさか、アマダムのせい?」

 青年の名は五代雄介。戦士を意味する力を手にした優しき男。またの名を、仮面ライダークウガ。



 平和な一軒家。そこから上機嫌な雰囲気を漂わせ、一人の青年が庭に顔を出す。彼はそのまま庭の一角に作った菜園に近付くと、雑草を抜き始めた。
 その菜園は、今から半年前、彼がこの家に居候するようになってから作られたものだった。
 彼のたっての希望により、実現されてからというもの、この家の家計を助けてはいるのだが、問題もある。
 それは、彼は野菜しか育てないという事。そして、何故かそれが通常よりも大きくなるという事だった。

 青年はどうやら菜園の手入れをしに来たようだった。そこで育てられているのは、青年が丹精込めて世話をする野菜達。味は保障される無農薬の一品だが……。

「よしっ」

「よし、じゃね~よ。いつになったらイチゴやメロン育ててくれんだ」

 全ての雑草を抜き終え、満足そうに頷く青年に、Tシャツと半ズボンの少女が蹴りを入れつつ、文句を述べる。
 それに青年は怒るでもなく、申し訳なさそうに表情を歪め、手を合わせた。

「ゴメン、ヴィータちゃん。今は野菜達で場所が埋まってるからさ。それに、今からじゃ今年は無理だから」

「それぐらいにしておけ、ヴィータ。何だかんだ言って、お前も野菜が美味しくなったと喜んでいたではないか」

「へっ、それはそれ。これはこれだ」

 シグナムの指摘に、どこか照れながらヴィータは青年から顔を背けた。その仕草が可愛らしく、子供のように見える。
 それを思い、シグナムと青年は笑顔を浮かべる。

「じゃ、約束するよ。来年からは、ちゃんと甘いものも育てるから」

「約束だかんな。嘘吐くなよ、翔一っ!」

 ヴィータの言葉に笑みを浮かべて青年は頷く。それにヴィータも笑顔を返す。

 彼の名は、津上翔一。人の新たな可能性に目覚めた男。またの名を、仮面ライダーアギト。



 ジェイル・スカリエッティは戸惑っていた。天才科学者として名高い彼が戸惑うなど、珍しいのだが、今回ばかりはおそらく誰でもそうなるだろう。
 何故なら、急に、何の前触れもなく人間が現れたのだ。それもただの人ではない。全身を鎧のようなもので覆った人物だったのだ。
 人物と判断出来るのは、先程から色々喚いているからであり、そして動きが本当に人間くさい事もある。

「……まずは落ち着きたまえ。君は一体何者だい?」

「え? おわっ! 誰だ、あんた!?」

 どうやら、相手はジェイルに気付いてなかったらしい。声を掛けた途端、軽く飛び跳ね、ジェイルを警戒するように見つめてきた(ような気がした)
 そんな相手の言葉に、それを聞きたいのはこちらの方だと思い、ジェイルは頭を押さえる。だが、ふとある事を疑問に思い尋ねた。

「君は……管理局員かい?」

「は? 管理局? いや、ただの仮面ライダーだけど……」

「カメンライダー?」

「あ、そうか知らないよな。えっと……」

 聞いた事のない名称にジェイルが疑問符を浮かべると、彼は何かに納得したようだ。
 そう言うなり、鎧の人物はベルトのようなものに手を伸ばし、それからバックルらしきものを外した。
 その途端、鎧が消えて一人の青年が現れた。どこか人懐っこい笑みを浮かべ、青年は告げた。

「俺は城戸真司。OREジャーナルのジャーナリストやってます」

 そういって名刺を慌てて取り出す真司。それを見つめ、ジェイルは久方ぶりの興奮と感動に打ち震えていた。
 見た事も聞いた事もないシステム。そして、管理局を知らないという事は管理外の人間。つまり、それは何をしても管理局が動く事はないという事だった。

 どこか不気味な雰囲気のジェイルに、真司は不安そうな視線を送る。

(だ、大丈夫か、この人。それに……何かここやな感じがするし……)

 彼の名は城戸真司。戦いを止めるために戦いに身を投じた男。またの名は、仮面ライダー龍騎。



運命に導かれ、異世界に現れた三人の異なる仮面ライダー。彼らが出会う事は何を意味するのか。

そして、何故彼らが呼ばれたのか。それは誰にも分からない……。





終わっておきます。




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一発ネタ。思った以上に広がらなかった……。

時系列は一応同じ。アギトだけ若干先に来てたって事で。

……後出せるのは、平成は響鬼さんとキバがいます。

555や剣、カブトに電王は俺はほとんど知らないので無理。ディケイドはもう大変なので不可能。



[22476] 【一発ネタ】Masked Rider in Nanoha 2 (クウガ・アギト・龍騎)
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/11/22 09:20
 五代の目の前で展開されている光景。それは、自分が世話になっている少女の友達が空を飛び、赤い服の少女に襲われているというものだった。
 しかも、その少女はその赤い服の少女によってビルへ向かって吹き飛ばされたのだ。何か胸騒ぎを感じ、散歩に出た先で起きた出来事。
 周囲の色がまるで抜け落ちたようなものに変わり、驚いていたのも束の間、そんな光景を見たのだ。
 そして、そんな時、五代が選ぶ事は一つ。

「なのはちゃんっ!」

 走る。だが、追いつけるはずもない。届かない。”今の自分”では。だからこそ、五代は願う。助けたい。守りたいと。
 もう二度と。そう思った力を、彼は再び使う事を決意する。それは、倒すための力ではない。それは、守るための力。
 五代の想いに応えるように、彼の腹部にベルト状の装飾品が出現する。

「変身っ!」

 五代の言葉が、アークルと呼ばれるベルトに息吹を吹き込む。中央にある宝石。アマダムと呼ばれる神秘の輝石が、五代の姿を変えていく。
 赤い身体。赤い瞳。古代の戦士にして、現代に甦った英雄。その名は―――。

「っ!!」

―――クウガ。笑顔を守るために戦い抜いた、青空の如き心の勇者。

そして、その身体が飛び上がりながら赤から青へ変わり、ビルに激突しようとしていたなのはを受け止める。
 その温もりになのはは目を開け、驚いた。だが、その瞬間聞こえた声にそれが別のものに変わる。

「大丈夫? なのはちゃん」

「ふぇ?! ……その声、もしかして五代さん!?」

 こうして、戦士と魔法は出会う。後に『闇の書事件』と呼ばれる戦い。その幕開けを兼ねて……。



「だ、第四号……」

 翔一は、驚愕を隠す事もせずに目の前を見つめていた。はやてが寝付いた後、蒐集行為へ出かけたヴィータ達が心配になり、シャマルに頼んで連れていってもらったのだ。
 そして、そこで見たものは、未確認生命体第四号がヴィータと戦っている光景だった。いや、正確には戦ってはいない。
 まるでヴィータを止めるようにしか動いていない。その証拠に一度も第四号、クウガはその拳を振るっていないのだ。

「でも、このままじゃ……」

「シグナム、どうするの?」

「……介入するか。私があいつを「いえ、俺が行きます」……何?」

 シャマルとシグナムが揃って翔一を見る。翔一は、何かを決意した眼差しでクウガを見つめる。
 その眼差しの強さに、二人は何も言えなくなる。普段は大人しく優しい翔一が、そんな眼差しをするなど想像もつかなかったからだ。
 しかも、その視線は紛れもなく戦士のもの。だからこそ、何も言わない。
 そして、それを了承と取った翔一の腹部にベルトのようなものが出現する。オルタリングと呼ばれるそれは、彼がもう一つの姿になるためのもの。
 それと同時に、翔一が左手を腰に、右手を前へとゆっくり動かしていく。

(な、何だあれは。いや、それよりもこの安心感は何故だ……?)

(デバイスではないわ。……まさか、翔一さんが私達を平然と受け入れたのも……)

「変身っ!」

 その言葉と共に両手でオルタリングの側面を押す。それをキッカケに、翔一の身体を光が包む。
 それは、人類に与えられし光の力。闇を払う誰もが持つ可能性の姿。金色の身体と真紅の瞳。その名は―――。

「はっ!」

―――アギト。全ての人間のために、全てのアギトのために戦い抜いた勇者。

 アギトはヴィータとクウガの前へ降り立つと、ヴィータに対して視線を向けた。

「ヴィータちゃん。ここは俺に任せて逃げて」

「そ、その声……翔一なのかよ?!」

「え……? クウガに……似てる……?」

 当然の乱入者に戸惑いを見せる二人。それに構わず、アギトはクウガへ視線を戻す。それに気付き、クウガもアギトを見つめる。
 本来ならば出会う事のなかった二人の仮面ライダー。互いに何か思う事はあれど、守る者のためにその力を使うのは同じ。
 だが今は、まだその力が重なり合う事はない。互いに互いを見つめ、呟く。

「「……何で戦うんだ……この人は……」」



 ジェイルは久方振りの満足感を味わっていた。ライダーシステムと名付けた真司の変身能力。それの解析が一向に進まないからだ。
 普通ならばそれに満足などしない。むしろ不満にさえ思うのだろう。だが、ジェイルは違う。自分の知識や技術が通用しない事に喜びを見出していたのだ。

「素晴らしい……。鏡の中へ……ミラーワールドだったかね?」

「そうそう。でも、ここにはモンスターいないみたいだ」

 ジェイルの視線にいい加減に答える真司。その視線は出された食事に固定されている。
 真司がジェイルのラボに来て数日。既に真司はここに馴染んでいた。
 最初こそジェイルの性格や行動に戸惑ったが、話してみれば質問には答えてくれるし、住む場所や食事まで世話してくれるので今では変わり者の良い人と思っていた。

「で、真司さん。そのミラーワールドへ行く事が出来るのは、仮面ライダーだけなんですか?」

「いや、行くだけなら何とか出来るけど……は~、戻ってくる事が出来ないんだよ」

 ウーノの問いかけに、真司は最後のジュースを飲み干して答えた。それにジェイルが益々笑みを深くする。
 それを見て、ウーノはやれやれとため息一つ。最近、真司が来てからジェイルが上機嫌なのはいいのだが、本来の研究を放り出しているのだ。
 理由は簡単。ライダーシステムに魅入られているのだ。ま、流石に残りのナンバーズを仕上げる事は忘れていないが。

「失礼しまぁ~す」

「げ、クアットロ」

 ウーノがどうやってジェイルに研究をさせるか思案し始めたところに、ナンバー4ことクアットロが現れた。
 ちなみに真司はクアットロが苦手である。初対面から事ある毎にからかわれ、真司はすっかりクアットロを、浅倉とは違った意味で厄介な相手だと認識していた。

「あっらぁ~、シンちゃんじゃなぁい。げっ、なんて酷いわねぇ。ウーノ姉様~、シンちゃんが私を嫌うんですぅ~」

「……当然でしょ、クアットロ。あまり真司さんをからかうんじゃないわ。……彼は、その気になったら誰にも手が出せなくなるのよ?」

 嗜めるウーノ。だが、さり気無く近付き、後半をやや警告のように言うのを忘れない。それにクアットロも渋々頷き、視線を真司へと向ける。
 真司は食事の片付けを始めており、それを見てクアットロは少し不満気味にため息を吐き、それを取り上げる。

「何だよ?」

「私が片付けておくから。シンちゃんは、チンクちゃんの相手、お願い出来る?」

「いいけど……貸しなんかにすんなよ?」

「はいはい。別にそんな事考えてないから」

「絶対だぞ~!」

 そう行って真司は研究室を出て行く。それを確認し、クアットロは視線をジェイルへと向ける。
 彼女がここに来た理由。それは、真司がいては邪魔だったからだ。

「……それで?」

「はい。ドクターの希望通り、ドゥーエ姉様から例のものが手に入った、と」

「それは良かった。で、ドゥーエは何と?」

「それが……シンちゃんの事を聞いて一度会ってみたいと」

「……戻ってくるつもりなの?」

 ウーノのどこか呆れた表情と声にクアットロも同じ表情で頷いた。それにジェイルは一人笑う。それは心からの笑い。
 一番自分に近いドゥーエが、真司に会いたいと言った事が堪らなく嬉しかったのだ。変化していると。
 何故なら、ドゥーエは一番冷酷で残忍な性格。それが与えられた任務を終えたとはいえ、自分から仕事ではなく帰還を選んだだけでも驚きなのだ。
 ましてや、その理由が次元漂流者に会ってみたいとは。だからこそ、ジェイルは笑う。自分から離れ、独自の道を歩き出した存在に。

「いやぁ~、愉快だ。実に愉快だよ。……ククッ、真司は本当に私の興味を尽きさせないね」



「……ヘックシッ!」

「風邪か?」

「いや、多分違う。ジェイルさんが噂してんだ、きっと」

 どこか心配そうに声を掛けるチンク。それに笑顔で答える真司。既に、真司はナンバーズから一定の尊敬を受けている。
 その理由の一つは、ジェイルと平然と会話している事。ちなみにジェイルは自分が犯罪者だと真司に告げた。だが、真司は―――。

「いやいや、ならどうして俺を助けたりすんのさ。犯罪者って、大抵酷い奴だし」

 と言って、まったく信じなかったのだ。まぁ、後にそれが真実と知った時も真司は、ジェイルを悪人とは思えず、助けるのだが。
 そして、もう一つはその力。戦闘用のナンバー3、トーレすら勝てないその能力にあった。

「じゃ、やろうか」

「頼む」

 チンクの言葉に、真司は頷き、用意された鏡へと向き合う。そして、ケースのようなものを取り出し、それを鏡へ突き出す。
 するとその鏡の自分の腰に、ベルトが装着される。そして、それは実際の真司も同様で、そのままケースを片手に―――。

「変身っ!」

 叫ぶ。そして、そのケースをバックルの位置にはめ込む。すると、その身体が鎧で覆われる。銀の鎧と銀の仮面。赤い身体に赤い瞳。
 その姿こそ、人が手出しできない世界から襲い来る怪物を倒すため、戦い続ける戦士。その名は―――。

「っしゃあ!」

―――龍騎。戦いを止めるべく戦う、龍の影を纏う勇者。

「さ、行くぞチンクちゃん」

「ああ……それと、何度も言うが、ちゃん付けはやめろ」

 そういいながら、どこか嬉しそうなチンクであった。


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一応続き。話が飛んでるのは、仕様です。

何か電波が入ったらまた書くやも?



[22476] 【一発ネタ】Masked Rider in Nanoha 3 (クウガ・アギト・龍騎)
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/11/22 09:21
「ちょっといいですか?」

 突然掛けられた声に、クウガは戸惑う。今まで未確認と戦っていた時、相手からこんな風に話しかけられた事がなかったからだ。
 故に若干戸惑うものの、クウガは出来るだけ柔らかい声で返した。

「……何かな」

「貴方は……第四号ですか」

「そう……呼ばれてるね」

 クウガの答えに、アギトは内心驚いていた。本来自分がいた世界にいた存在。それが目の前にいる。そして、人の言葉を話している事に。
 それはクウガも同じ。最初こそ未確認かと思ったが、どうやら違うらしい事は雰囲気で分かった。先程の少女に対して逃げろと言っていた事からも、それが窺える。
 だからこそ、クウガは聞かねばならない。何故、少女がなのはを襲っていたのかを。

「今度は俺からいい?」

「……どうぞ」

「さっきの女の子。俺の知り合いの子を……えっと……」

 襲っていた。そう言おうとしてクウガは躊躇う。目の前の相手が守ろうとした子。それが襲う事にした理由を聞かねばならない。
 だが、少女の事を一方的に悪く言うように取られかねない言葉はどうかと、そう思ったのだ。
 アギトはそんなクウガの沈黙の理由に気付かないが、それが言い出し難そうにしている事だけは理解した。

「もしかして……知り合いの子に迷惑を掛けたんですか?」

「……うん。どうしてかな? って理由を聞いたんだけど、お前には関係ないって」

 それを聞き、アギトは実にヴィータらしいと思った。でも、それが本当ならアギトとしても許せる事ではない。
 はやてのために。そう聞いたからこそ、彼は蒐集行為を見逃した。でも、誰かに迷惑を掛けるのは、はやて自身が許さない事だ。

「そうだったんですか。すいません! ちゃんと言っておきます」

「えっと……でも、さ。きっと……仕方ない理由があったんだよね。だから、あの子もどこか悲しい目をしてたんだろうし」

 クウガは自分と対峙していた時のヴィータの目を思い出していた。まるで、したくない事をしなければならないと言っているような目を。
 それは、クウガには良く分かる。かつての自分が、そうだったのだから。
 だからこそ、理由が知りたかった。どうして望まない事をしなければならないのか。それを聞きたかったのだ。
 もしかしたら、自分が力になれるかも知れない。そう思っていたから。

「……四号さん」

 そんなクウガの思いを感じ取ったのか、アギトはどこか感動したように呟いた。そう、そうなのだ。
 ヴィータ達も蒐集なんてしたくない。だが、それをしなければはやてが死んでしまう。それを防ぐために、四人ははやてとの約束さえ破って行動しているのだ。

「四号さんは止めてくれるかな? 俺、クウガって言うんだ」

「あ、すいません。じゃ、俺はアギトって呼んでください」

「アギト? それもかっこいいなぁ……でも、クウガが一番だな、うん」

 どこか和やかな空気さえ感じさせる二人の仮面ライダー。だが、周囲はそうはいかないようで……。

「ちっ、やるな!」

「速い……そして強い」

 空中では、なのはを助けるため現れたフェイトとシグナムが戦っており……。

「やるじゃないのさ!」

「……まだ甘いな。今度はこちらから行くぞぉ!」

 アルフとザフィーラが激しい攻防を展開し……。

「くそ、厄介な奴だ」

「ユーノ君、気をつけて!」

「あの術式……まさかベルカ式?!」

 デバイスを損傷したなのはを守るため、ユーノがヴィータをひきつける。その守りは、鉄槌の騎士さえ舌を巻いていた。

 そんな周囲に気付き、クウガとアギトは共に空を見上げ、互いへ視線を送り―――頷いた。

「っ!」

「はぁ!」

 同時に飛び上がり、叫んだ。

「「止めてくださいっ!!」」

 その声にフェイト達もシグナム達も動きを止める。その視線はクウガとアギトへ注がれ、シグナム達はともかく、フェイト達は完全に動揺していた。
 二人は、近くのビルへと着地すると、そのまま両陣営へと呼びかけた。

「もうやめてください。なのはちゃんからも何とか言って」

「シグナムさん達もやめてください。人を襲ったなんて聞いたら、はやてちゃんが悲しみますよ」

 二人の告げた言葉が両陣営へ動揺を生む。そして、クウガから指名されたなのはは、少し驚きながらもフェイト達へと念話を送った。
 クウガは敵ではなく、味方で自分を助けてくれた事。あの姿をしているが、本当は人間だとも。
 一方、シグナム達も念話で相談していた。アギトとクウガが揃って戦闘する気がない事に疑問を抱きつつも、アギトの言った、はやてが悲しむとの言葉から、これ以上何かアギトが言う前に早期撤退するべしと結論付けた。

 そんな風に落ち着いたのを見て、クウガとアギトは安堵した。どうやらもう戦う必要はない。全てが片付いた。そう思ったのだ。
 だが、それが間違いだと二人は気付く。そう、二人だけは感付いたのだ。何者かがこちらを見ている事を。
 それに感付いたクウガは、変身時と同じ構えを取った。そして、叫ぶ。

「超変身っ!」

「緑になった……」

 ペガサスフォーム。時間制限こそあれ、全ての感覚が鋭敏になる姿。それでクウガは、こちらを窺う仮面の男を確かに確認した。

「アギトさんっ!」

「はいっ!」

 クウガが指差した方向へ向かってジャンプするアギト。そして、何をしているのか理解出来ないフェイト達へ向かって、身体を赤に戻し、クウガは叫ぶ。

「誰か射撃出来る道具持ってないですか? ちょっと貸して欲しいんだ!」

「何に使うの?」

 なのはの問いかけに、クウガは簡単に答える。

「こっちを監視してる相手がいるんだ。その人、かなり怪しいし、万が一に備えておきたいんだ!」





 ジェイルは困っていた。それは、真司から聞いたとある事が原因だった。それは……。

「餌?」

「そ。え・さ」

 真司はいつものように食事を平らげた後、思い出したと言ってそう切り出した。それは、自身が契約しているモンスターのついて。
 ミラーモンスターは、定期的に餌を与えなければ最後は契約者を襲う。そして、そのまま本能のままに暴れる存在となるのだ。
 それを聞き、何を食べるのかと尋ねた答えに、ジェイルは初めての絶望感を味わう事になる。

「ミラーモンスターかな? あ、後は……」

 何か言い出し辛そうな真司。だが、ジェイルの続きを促す視線に、どこか嫌そうに答えた。

「人間、だったはず」

「……それは困ったね」

「だろ? どうしよ……」

 無論、真司とジェイルの間には考えの違いがある。
 真司は、純粋に人を餌になんて使えないと思っているのに対し、ジェイルはそうそう確保出来ないし、後始末が面倒との理由から困っているのである。

 故に、今ジェイルは、ドラグレッターの餌をどうするかをその天才と呼ばれた頭脳をフルに活用し、考案中なのだ。

「……ドクター、真面目に仕事をしてくれないと困ります」

 そんなジェイルを、秘書的な役割をしているウーノが呆れつつ見ていた。その手には数多くの書類が抱えられている。
 全てジェイルが要求された最高評議会絡みの仕事のものだ。これをやらなければ、この生活もままならないのだが……。

「う~ん……下手に人工生命体を与えると真司が煩いだろうし……」

「ドクター?」

「そうだ……原生生物ならいいか。それも人に危害を加える程の凶暴なものなら生命力も強い……ああ!
 それを真司に倒してもらってデータ取りにも使えるなぁ! 一石二鳥だ。これで行こう!」

 ウーノを完全無視して呟き、いや、ただの狂言にも近い独り言を叫ぶジェイル。それを聞き、ウーノはため息一つ。
 そして、視線をジェイルから天井へ移し、呟いた。

「ドクターの世話、クアットロに押し付けようかしら……?」



 その頃、真司はと言えば……。

「空を飛べないくせに、中々しぶといな」

「馬鹿にすんなよ! モンスターの中には空飛ぶ奴もいたつ~の!」

 訓練場でトーレと戦闘中。龍騎へと変身し、その手には剣が握られている。トーレは、そんな龍騎を空から見下ろしていた。
 だが、その表情は言葉とは裏腹に嬉々としている。

「なら、見せてみろ。どうやって空の相手に対応するのかを……なっ!」

 インヒューレントスキル。ISと呼ばれる特殊能力を、ナンバーズは全員所持している。トーレのISは”ライドインパルス”と呼ばれる高速移動。
 その速度はかなりのものがあり、今の龍騎では完全に捉える事は出来ないのだが……。

「何度もやられるかっての!」

”ガードベント”

 ドラグバイザーにカードを差し込む龍騎。それを読み込ませ、音声と共に龍騎の肩に盾が出現する。
 それにトーレのブレードが叩き付けられるが―――。

「何だとっ?!」

 まったく傷付かない。それどころか強度の差か、ブレードの方が欠けてしまったのだ。
 あまりの事に戸惑うトーレ。それを見逃す程、真司も素人ではない。即座に手にした剣で、欠けていない方のブレードを叩き折る。

「折れたぁ~!!」

「折れた、だと!」

 自分の武器を失い、距離を取ろうとするトーレだったが、そこへ龍騎が手にした剣を投げつける。
 それをかわすトーレだったが、そこで距離を取ったのが間違いだと気付いた。

”ストライクベント”

「はあぁぁぁぁぁ……」

 剣を投げると同時に、カードを読み込ませ、龍の顔をした手甲のようなものを龍騎が構えていたからだ。
 それは、トーレも知る攻撃。ドラゴンストライク、と彼女が名付けた龍騎の技の一つなのだ。
 かわす事は出来る。だが、トーレにかわすという選択肢はない。何故ならば……。

(かわせば、次はアレが来るっ!)

 そう、それは彼女の速度を持っても逃げ切れなかった龍騎の最大の技。それを出されれば、彼女に勝ち目はない。
 だからこそ、この攻撃を凌ぎ、カウンターを仕掛ける以外に道はない。真司は、何だかんだで負けず嫌いで、熱くなりやすい。
 故に、この一撃を避ける事は最後の手段へ移行させる事に繋がるのだ。

「はぁ!!」

「おぉぉぉぉっ!」

 迫り来る火球を紙一重でかわしながら、龍騎へ肉迫するトーレ。完全に硬直している龍騎を見て、トーレは確信した。

(勝った!)

 残されたブレードを龍騎の首元に突きつけるトーレ。だが、その顔に浮かぶのは、どこか満足そうで悔しさを滲ませた笑み。

「……やるな」

「トーレこそ」

 龍騎の首元に突きつけられたブレード。そして、トーレの後方で唸りを上げるドラグレッダー。
 そう、龍騎は攻撃を繰り出す前の溜めの時点で、こっそりとアドベントを手にしていた。そして、放った瞬間にそれを読み込ませ、火球と共にドラグレッダーがトーレの後ろに回るようにしたのだ。

 相打ち。だが、もしこれが実戦ならばトーレの敗北だ。なにしろ、突きつけたブレードは先が折れている。
 そして、龍騎はまだ奥の手を出していないのだ。更なる姿。更なる力。それをまだ隠していると。
 それを聞いた時、トーレ達は揃って驚愕したのだ。龍騎の可能性と強さに。だからこそ、トーレも真司を認めている。
 戦士ではないのにも関わらず、ここまでの強さを身に付けた心を。だからこそ、戦って楽しいと思えるのだ。

「とりあえずさ……これ、降ろしてくれよ」

「……いいだろう」

 静かにブレードを降ろすトーレ。それに応じるように龍騎も変身を解除する。
 大きく息を吐き、トーレへ笑みを見せる真司。それに顔を背け、トーレは歩き出す。

「おい、何だよ。どうしたんだって」

「別に何でもない。私は洗浄に行く」

「あ、ズル~! 俺も風呂入りたい!」

 並ぶように歩きながら、二人は言葉を交わす。素っ気無く返すトーレにどこか蓮を思い出す真司。
 初めて戦闘してから、この二人はいいコンビとして、後のナンバーズの先生役をする事になるのだが、それはまだ先の話……。




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続き。クウガとアギトの会話がやりたかっただけ。

でも、本当にこれ、原作の展開とは違う方向へ行きそう……。

後、トーレは蓮だと思うんだ。



[22476] 【一発ネタ】Masked Rider in Nanoha 4 (クウガ・アギト・龍騎)
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/10/20 15:58
 クウガに教えられた場所に向かったアギト。その視界に確かに仮面の男が見えていた。あちらもアギトの接近に気付いたのか、まるで待ち構えるようにアギトを見つめていた。
 それを見て、アギトは余計に警戒心を強くする。何故かその視線に敵意を感じていたのだ。
 まるでその視線は、かつて戦った”黒い服の男”に近い何かがあった。だからこそ、アギトは警戒心と同時に不気味さも抱いた。

(一体、あの人は何者なんだ?)

 そんな思いを抱きながら、アギトは男の前に降り立った。男はアギトを見つめ、何か戸惑うように告げた。

「貴様、何者だ」

「……何者、か」

 アギトの脳裏に甦るのは、この世界に来る前に経験した発電所での戦い。その場所は、異常な空間になっていて、アギトはそこで過去のアギト達と出会ったのだ。
 そして、彼らが名乗っていた名前を思い出したのだ。あの時、ついつられるように名乗ったその名を。

「俺はアギト! 仮面ライダーアギト!!」

「仮面ライダー……だと?」

「そうだ! 闇を打ち砕く正義の光だ!」

 脳裏に甦る緑のアギトの言葉。悪魔と呼ぶべき”邪眼”に対し、彼が叫んだその言葉。その時の力強さを借りるように、アギトは言い切った。
 その叫びに、男は何か可笑しいものがあったのか、低く笑い出す。

「ハハハ……闇を打ち砕く、だと? ならば、何故貴様は蒐集行為を見逃した」

「!? どうしてそれを」

「ふん……まぁいい。とんだ邪魔が入ったが、それもここまでだ」

 その瞬間、アギトの体を光の輪が拘束した。バインドと呼ばれる拘束魔法だ。それを何とか打ち破ろうとアギトはもがくが、バインドはビクともしない。そして、そんなアギトへ男はゆっくりと手を向け、告げる。

「さらばだ。仮面ライダー……」

「くっ!」

 男の手に恐ろしい程の魔力が集束していく。その攻撃は確実にアギトを捉え、大ダメージを与えるだろう。何とか拘束を外そうと足掻くアギト。だが、無常にも男の手から魔法が放たれようとした瞬間。

「何っ?!」

「! ……今だっ!」

 アギトを捕らえていたバインドが破壊されたのだ。目には見えない何かによって。しかも、その攻撃は今度は男へと襲い掛かる。何とかシールドを展開し、男は謎の攻撃を防ぐものの、その間にアギトが体勢を立て直し、片手でベルトの側面を叩く。

 それにアギトの体が赤くなる。フレイムフォーム。剣を使うアギトの姿。腕力に優れ、攻撃力が高いその姿で、アギトはベルトの前へ手をまわす。それに呼応し、ベルトから一振りの剣が出現する。
 フレイムセイバー。フレイムフォームと、とある姿しか使えない専用装備である。

「はあっ!」

「ぬっ!」

 謎の見えない攻撃を凌ぎ切った男へ、アギトが斬りかかる。それも先程と同じようにシールドで防ぐ男だったが……。

「ば、馬鹿な……っ!」

「はあぁぁぁぁ!」

 アギトのフレイムセイバーがシールドにひびを入れていく。男の驚きを他所に、アギトはそのままフレイムセイバーを振り下ろす。

「……はっ!」

「ぐあぁぁぁっ!」

 その剣先が男の腕に掠り、押さえるように男はアギトから距離を取る。そして、アギトを睨むように見つめて吼えた。

「覚えていろ! 今度は……こうはいかんぞっ!」

 その言葉をキッカケに、男は姿を消した。アギトは追い駆けようとするが、流石に魔法陣の中へ消えたものを追い駆ける事は出来ない。
 周囲にもう怪しい気配がないのを確認し、アギトは後ろへと視線を戻す。先程の自分を助けた攻撃。あれはきっと……。

「クウガさん……」



 アギトが男を見失った頃、クウガはビルから降り、手にしたペガサスボウガンをなのはへと返した。それを恐々受け取るなのは。そう、クウガが変化させたのはレイジングハート。
 射撃という言葉に、なのはがレイジングハートを渡したのだ。損傷を受けているのでクウガも不安ではあったが、見事にレイジングハートはペガサスボウガンへと変化した。
 クウガの物質変換能力は、原子レベルでおこなうもの。つまり、手にしたものがどんな状態でも関係なく、その姿に適したものであれば、応じた武器へと変化させるのだ。

「……本当に戻った」

”驚き……ました”

 自分の手に乗った途端、普段の姿へ戻るレイジングハートを見て、なのはは手品を見たように呟く。
 それに同調するように喋るレイジングハートだったが、損傷のため途切れ途切れだった。クウガはそれを見ながら、再び姿を赤へ戻す。それに今度は全員が驚いた。

「ありがとう、なのはちゃん。おかげでアギトさんを助けられたよ」

「えっと、その事で聞きたい事があるんだけど」

 なのはへ改めて御礼を述べるクウガへ、ユーノが恐る恐る問いかける。なのはから人間と言われても、先程からのクウガを見ているとどうしても人間とは思えないのだ。
 それをクウガも感じ取ったのだろう。頷いてユーノへ視線を向ける。だが、その姿が一瞬にして青年へと変わったのだ。

 全員がそれに驚く中、五代だけはどこか気まずそうに表情を変え、周囲の面々に告げる。

「すいません。何か、驚かせてばっかりで……」

 そこへアギトも戻ってきて同じような事をし、五代と翔一は揃って苦笑いを浮かべる事になるのだった……。



「嘘だ……」

「チンク、気持ちは分かるがこれは現実だ」

 どこか憮然とするトーレと、唖然としているチンク。その二人の視線の先にいるのは……。

「っとと……あぶね~」

 巨大なとかげの化物を相手に孤軍奮闘する龍騎の姿だった。ここは管理外にあるとある世界。三人はドラグレッダーの餌を確保するため、ここに来ていた。
 本来ならば、三人で協力して倒すはずだったターゲット。それを龍騎は「俺だけでいけるって。二人は女の子なんだし、さ。任せてくれよ」と言ってこの状況だ。
 二人が何故龍騎の戦いを見つめ、どこかやるせない気持ちになっているのには理由がある。それは、龍騎が相手をしているターゲットの強さ。管理外で原生生物なので、個体差があり絶対とはいえないが、魔導師ランクに換算すればAAは堅い。だが、それを龍騎は一人で相手をし、尚且つまだ余裕さえあるのだ。

「今度はこいつだ!」

”ストライクベント”

 龍騎の右手に龍の顔をした手甲が装着される。そして、腕を引いてパンチの構えを取る。それを好機と見たのか巨大とかげは龍騎へ向かって突っ込んだ。
 だが、それは悪手でしかなかった。龍騎はギリギリまで引き付けて、その拳を打ち出した。ドラゴンストライク。龍騎の技の一つが巨大とかげの巨体を吹き飛ばす。

「……私は、あれを喰らった事があるのだが……?」

「おそらく、加減してるんだろう……どこか信じられんがな」

 その光景に背筋が凍る二人。既にドラゴンストライクを受けた事のある二人にとって、眼前の光景は恐怖でしかなかった。底が見えてきたと思っていた龍騎。その底が再び見えなくなったのだから。

(真司はどこまで力を隠しているのだ? ……もしや、全力を出せばSランクさえ凌駕するとでもいうのか!?)

(……真司の奴、まだ力を隠していたのか。まったく、私には全力を出せと言っているのに! ……帰ったら説教だ)

 二人が思い思いに龍騎を見つめる中、勝負は決着の時を迎えようとしていた。先程の攻撃で巨大とかげは横たわっている。それを確認し、龍騎はおもむろに一枚のカードを手にする。そこに描かれているのは、龍騎のマーク。それを見て、二人は息を呑む。
 そして、それをドラグバイザーへ読み込ませる龍騎。それが意味する事を知る二人に、緊張が走る。

”ファイナルベント”

「はあぁぁぁぁぁ……」

 龍騎の周囲をドラグレッダーが巻き付くように動いていく。そして、それと呼応するように龍騎も腰を深く落とし……。

「はっ!」

 ドラグレッダーと共に空へ跳んだ。空高く舞い上がり、その体をドラグレッダーが一瞬隠す。その瞬間龍騎は一回転捻りをし、蹴りの体勢へ入った。
 それは、未だにトーレもチンクも破れない無敵の必殺技。今の龍騎の最大にして最強の攻撃。その名も……。

「うおぉぉぉぉぉっ!!」

―――ドラゴンライダーキック。ドラグレッダーの火球を受け、その勢いを加えて突撃する荒業。だが、その破壊力と速度は凄まじく、トーレのライドインパルスさえ逃れる事は出来なかったのだ。

 龍騎の蹴りが巨大とかげを完全に沈黙させる。そして、それを確認して龍騎をドラグレッダーを見上げた。
 ドラグレッダーは龍騎の視線から何かを感じ取ったのか、巨大とかげへと近付き、それを食べ始めた。
 それに安堵の息を吐く龍騎とトーレ達。もしこれで無理なら、やむを得ずジェイルの創る人工生命体を食べさせるしかなかったからだ。

「腹一杯食えよ。でも、確かにこんな奴が暴れたら大変だよな。いやぁ~、ジェイルさんってやっぱ良い人だよ。
 人を襲いかねない凶暴な生き物を退治して、それを餌に出来ないか? な~んてさ。ホント良い人だな」

「……ああ」

「そうだな……」

 ジェイルの言った言葉を本気で信じている龍騎。その実情を知っている二人としては、その言葉に何も言えなくなった。
 こうして、懸念されたドラグレッダーの餌は解決した。だが、ここでジェイルの予想外の出来事が起こってしまう。それは……。

「データ、もう取れないよ」

 龍騎が強すぎるため、現状の姿で十分相手出来てしまったのだ。本来期待していた龍騎のもう一つの姿。それをジェイルは期待していたのだが、それは結局出さずじまいとなったのだ。


龍騎が更なる力。”サバイブ”の力を使う事になるのは、これより遥か先の『レリック事件』まで待たねばならなかった……。




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続き。アギトとクウガの変則的共闘?

クウガは最終回後。アギトはゲーム「正義の系譜」後。龍騎はTVの終盤近くからです。具体的には決めてないです。

今回やりたかったのはアギトの名乗りです。ゲーム内で仮面ライダーと名乗るシーンがあり、それに当時感激したため、絶対やってやると思って書きました。

……さて、クウガはペガサスで援護しました。アギトが名乗るのも、もしかすると聞いていたかも知れませんね。



[22476] 【一発ネタ】Masked Rider in Nanoha 5 (クウガ・アギト・龍騎)
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/11/22 09:22
「次元漂流者か……」

「あ、それシャマルさん達も言ってました」

 あの後、五代と翔一が同じ世界から来たと分かり、シグナム達もクウガの力を見た以上、それからは逃げられないと悟ったのか、大人しくなのは達に事情を話す事になった。
 というのも、翔一が言ったはやてちゃんという言葉を五代が覚えていたからだ。そして、運の悪い事に五代が世話になっているのは月村家。
 そこの住人である月村すずかとはやては最近知り合った知人だったのだ。その話をすずかから聞いていた五代が、その事を翔一に尋ね、はやてが主である事が発覚したのだ。
 そうなったのは、シグナム達が翔一に管理局の存在を知らせず、それに対しての対応を指示しておかなかったのも原因の一つだったのだ。

「それで……その子を助けるために……」

「はい。でも、はやてちゃんは何も知らないんです! 俺達だけが内緒で……」

 五代の声に翔一はそう答えた。シグナム達も何も言わないが、否定しないという事はそういう事なのだろう。そう誰もが考え、悲痛な表情を浮かべた。
 何の罪もない少女が死ななければならない。だが、それを避けるためには誰かを犠牲にしなければならない。それを聞いて、五代は心が痛かった。

 それは、形や状況さえ違えども、自分が未確認を倒してきたのと同じだったからだ。みんなの笑顔のために。そう思い拳を振るい続けた五代。でも、それは裏を返せば自分達のために未確認を犠牲にしていたとも言える。
 無論、彼らは殺戮を目的としていたので、厳密に言えば生きるためではなく、楽しむためにしていたのだと五代も知っている。でも、した事だけを見れば自分も大差ないのではないか。そんな思いが五代に生まれる。

 一方、翔一も改めて蒐集行為について考えていた。具体的には聞いていなかったが、リンカーコアと呼ばれるある意味での心臓を狙う行為。
 しかも、下手をすれば蒐集対象は死んでしまうとの事。それを聞き、翔一は自責の念に駆られていた。何故もっとちゃんと聞かなかったのか。どうしてはやてが禁止した理由を考えなかったのか。
 はやてのためにとした事が、かえってはやてを苦しめるのではないか。そんな事を思い、翔一は告げた。

「何とか……何とか誰にも迷惑を掛けずに蒐集する事は出来ないんですか!?」

「そんな方法が……「あります」……何?」

 翔一の言葉に反応したシグナム。それに反論したのはユーノだった。ユーノは語る。手分けしてリンカーコアを持つ生物から蒐集すれば、おそらく時間は掛かるが、誰にも迷惑を掛ける事無く蒐集出来ると。そして、ユーノは最後にこう言った。

「それに、死なない程度に加減出来るなら……僕からも蒐集してください」

 その言葉に全員が驚いた。そして、それを理解したなのはが意を決して告げる。

「私も……構わないです」

「本気で言っているのか?!」

 流石にシグナムも、なのはまで言い出した事に驚きを隠せない。そして、その流れは止まらずに……。

「私も協力します」

「フェイトっ?!」

 フェイトまでが言い出し、アルフが驚く。三人は口々に告げる。確かに蒐集行為はいけないだろう。でも、それでしか助けられない命があるなら助けたいと。
 嘘を言っている顔にも見えないし、何よりもなのはを襲ったヴィータの目を見た五代も言い切ったのだ。したくない事をしている目だった、と。
 それを聞き、余計に困惑したのはシグナム達だ。先程まで戦っていた相手。しかも管理局に関わっているフェイトさえ、蒐集してもいいと言い出すのは想像出来ない事だったからだ。

(本気でこの三人は蒐集を? ……主のため、か。私達がしていた事を……許すと、言うのか……)

(こいつら……本当にはやてのために? 死んじまうかも知れないって、分かってて言ってるんだよな……)

 シグナムとヴィータが、なのは達が見も知らないはやてのために見せた決意に感じ入っていれば……。

(まさか、長い間蒐集行為をしてきたけど、こんな事は初めてよ。そう、か……私達はとんでもない勘違いをしていたのかもね)

(蒐集を禁止する主に出会ったかと思えば、主のために蒐集してくれという者と出会う、か。今回は本当に変わった事ばかりだ)

 シャマルとザフィーラがその言葉に心を揺さぶられていた。そして、翔一と五代もまたそんななのは達に心打たれていた。
 見知らずの相手のために、危険を承知で自分の命を賭ける。危険性は低いと分かっていても、中々出来る事ではない。だからこそ、二人は思うのだ。自分達に出来る事はなにかないのかと。子供達だけでなく、自分達も何かしなければと。

「「あの……何か出来る事はないですか?」」

 だが、その言葉がキレイに重なる。それに全員が一瞬ポカンとなり、そして揃って笑い出す。そこに先程まであった緊迫感や焦燥感がすっかり消えてしまったのだ。
 そんな笑い合うなのは達を見て、五代と翔一は互いに顔を見合わせ笑い合う。そう、分かり合えるのだ、と。話が出来るのなら、必ず分かり合える。そう改めて感じ、二人は笑う。
 その笑い声が夜空に響く。敵も味方もない。ただ同じ思いを共有する者として、全員が笑い合う光景がそこにあった……。



 ジェイルラボ 温水洗浄室。そこに、ウーノからチンクまでのナンバーズが揃っていた。そう、揃っているのだ。五人全員が。

「それで……どう? 感想は」

「う~ん、悪くはないわね。でも、あれが本当に強いとは思えないけど」

 ウーノの言葉に反応したのは、ナンバー2ドゥーエだ。聖王教会への潜入任務を終え、彼女は一旦帰還したのだ。それもつい先程。
 そして、真司と初対面をし、その感想がそれ。だが、それには他の四人も異論はないようだが……。

「真司は、見た目からは分からないが確かに強い。それはこれまでのデータが証明している」

「それにぃ、シンちゃんってば、チンクちゃんやトーレ姉様を相手に加減までしてるみたいなんですぅ」

「……悔しいがクアットロの言う通りだ。私達は、未だにあいつの底が見えん」

 トーレ、クアットロ、チンクとその意見を受け入れつつ、反論を述べる。それを聞き、ドゥーエはおかしそうに笑って言った。

「貴方達、随分とあの男に肩入れするのね?」

「ち、違う! 私は素直に思った事をだな……」

「……そうだぞ。真司の力は底知れん。ドクターすら、まだ解析出来た事は少ないのだ」

 慌てるように答えるチンクと、冷静だがどこか顔が赤いトーレ。クアットロはそんな二人を見てニヤニヤと笑みを浮かべ、ウーノは微笑むようにそれを見る。
 そして、ドゥーエは満足そうに頷き湯船から上がって断言した。

「なら、私があの男の力を出させてあげるわ」



 その頃、真司はジェイルと共に、残りのナンバーズが入っている調整ポッドの前にいた。だが、その様子は落ち着かない。
 それもそのはず。ナンバーズは全員女性で、ポッドの中には裸で入っている。
 そのため、先程から真司はどこを見ていればいいのか分からず、挙動不審なのだ。

 そんな真司とは対照的に、ジェイルは何の躊躇いもなく調整を行なっていた。現在集中的に行なっているのは、ナンバー6セインとナンバー10ディエチだ。
 真司との模擬戦を繰り返し、トーレとチンクが提案したのは、遠距離戦での龍騎の能力を測ろうというものだった。近距離や中距離では、未だに龍騎に勝てない二人。だからこそ、遠距離主体に戦える姉妹なら新しいデータが取れるかもしれないと言われ、現在ジェイルはその二人の調整に余念がない。

 ちなみにセインは真司の「いや、姉妹ならちゃんと順番に出してあげようよ」の言葉から調整している。

「……で、ドゥーエの印象はどうかね?」

「へ? っ?! ……ああ、やっぱ美人だよな。ウーノさんやトーレもそうだけど、ドゥーエさんも綺麗だよ。モデルとか出来るな、あの人」

 視線を床に向け、思考を裸から脱却させようとしていた真司だったが、ジェイルの声に視線を上げる。そして、再び目に入った裸体に視線を逸らし、天井へとそれを向ける。
 ジェイルはそんな真司に気付かず、その答えに可笑しそうに笑う。真司は知らない。ウーノからクワットロまではジェイルの遺伝子を基にして創られた存在だと。

 真司は、ナンバーズの事をジェイルからこう聞いている。複雑な事情から止むを得ず創る事になった人工生命体だと。そして、その開発責任者がジェイルであり、スポンサーはこの世界の治安維持組織だと教えられていた。
 最初は人工生命体に否定的だった真司だったが、生まれてくる命に罪はないとジェイルに言われ、その考えを改めた。だからこそ、ナンバーズを人間として彼は認識している。
 まぁ、それを聞く前から既に人間としか思っていなかったので、今更ではあったが。

「モデル、ね。まぁ、ドゥーエのISを使えば確かにそれは一番簡単かもしれないねぇ」

「ISかぁ。ドゥーエさんのISって何なんだ?」

「ライアーズ・マスク。ま、簡単に言えば変装だよ。誰にも何にも分からない完璧な……ね」

 その言葉を聞いて、真司は素直に感心した。まるでスパイ映画みたいだと言って笑ったぐらいだ。その言葉に、ジェイルは面白そうに「本当にスパイをしてるんだ」と言った。
 その言葉に真司は驚き、その表情を不思議そうにした。その顔が何を聞きたいかを理解し、ジェイルは言い切る。

「何、偉そうな事ばかり言って、何も世界を変えようとしない連中だよ。宗教絡みだから余計にね」

「へぇ。こっちにも宗教とかあるんだ。どんな神様祭ってんの?」

「神様? ……ああ、君の世界では架空の神を祭ってるのか。こちらでは『聖王』と呼ばれた実在の人物を祭ってるのさ」

 ジェイルの話を聞いて、真司は驚きながらも納得していた。キリスト教はまさにそれだったからだ。古に実在した人物を崇める宗教。
 本当は、キリスト教も神が存在し、それを崇めているのだが、真司にとって大切なのは自分の知るものと共通点があった事。

 そして、その聖王がどんな存在かを聞き、真司は素直に感心していた。争いが絶えなかった時代を平和にしようと尽力した王。それは、真司がライダーバトルに参加したのと似ていたからだ。
 誰かを殺す事を肯定したくない。でも、それをしなければ多くの人が死んでしまうという矛盾。それを感じながらも戦ったであろう聖王に、真司は共感を覚えた。
 そんな真司の反応に、ジェイルは内心呆れながらも嘘偽り無く聖王伝説を語る。その間も手は調整を続けているところが、実に彼らしい。

「……で、古代ベルカは戦乱から解放されたのさ」

「……凄いな、聖王って。もしかして、今も子孫とか「残念ながら初代聖王の子孫はいないよ。ま、その遺物が教会には残されているがね」

 どこか興奮したような真司の言葉を遮って、ジェイルがピシャリと言い切った。それに真司はどこか肩を落とし「な~んだ……」と呟いた。
 その姿がどこか滑稽だったからか、ジェイルはついこう言ってしまう。

「でも、いつか会えるかもしれないよ」

「うっそ?! どうして!?」

「あ、いや……! 教えて欲しかったら、龍騎のもう一つの姿を見せてくれ」

「え~、でもなぁ……会えるかも、だしな……」

 真司がサバイブを見せるのに躊躇う理由は一つ。直感的に感じ取っているのだ。それは見せてはいけないと。仮面ライダーの力がどれ程危険で恐ろしいものかを理解しているのもある。
 それに、ジェイルは確かに悪人ではないが、何より龍騎の力は”守るための力”と思っているからこそ、真司はおいそれと使う訳にはいかないのだ。
 トーレ達との手合わせは、本人達が希望し、真司も元の世界に帰った時に勘が鈍っていないようにするのも兼ねてしているだけ。

 そして、そんな真司の渋る声にジェイルは計画を話してしまおうかとも考えていた。だが、それをした場合、下手をすれば真司を敵に回しかねないと思い、口を噤む事にした。
 龍騎のもう一つの姿。それにも興味は尽きないが、それよりも計画の障害は出来る限り少ない方がいい。そう思い、ジェイルは真司と友好的な関係を築こうとしていたのだ。そう、まだこの頃は。
 後に彼は知る。いつしかそれが計算ではなく、本心からの思いになっていた事を。

「……そうか。さて、もう少ししたらディエチとセインもロール……目覚める事が出来るよ」

 ロールアウト。その言葉を言おうとした瞬間、真司の鋭い視線がジェイルを刺し、それにジェイルが軽く笑みさえ浮かべて言い直した。

「ディエチって……十番目って意味だっけ? で、セインが……」

「六番目よ、真司君」

「おや? どうしたんだいドゥーエ。ウーノ達と久しぶりに会って、会話を楽しんでると思ったんだが?」

 真司の言葉に答えたのは、ジェイルではなくドゥーエだった。そして、どこか不思議そうなジェイルから視線を外し、真司へと視線を向ける。
 その視線がどこかからかう時のクワットロに似ていて、真司は若干嫌そうな表情を浮かべた。
 そして、その予感は現実のものとなる。何故なら……。

「お願いがあるのよ、真司君。私と戦ってくれないかしら?」

 ドゥーエはまるで、お出かけしましょ、とでも言うように笑顔でそう告げてきたのだった……。




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地味に進展しないクウガ&アギト達。そして、ノンビリ&ほんわかの龍騎達。

今回は一応の決着をつけた感じです。今後は、いきなり話がある程度飛ぶかもです。

あ、龍騎はこの続きですよ。クウガ達はいきなり数日飛んでる可能性もありますので……ご容赦を。



[22476] 【一発ネタ】Masked Rider in Nanoha 6 (クウガ・アギト・龍騎)
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/10/23 17:25
「……いいでしょう。ですが、闇の書は大変危険なロストロギアです。蒐集を完了した際、起きる事については……」

「承知している。その時は我々も手を貸し。事態の収拾に努める」

「それに、四百ページを超えれば管制人格も覚醒します」

「なら、その人にも手伝ってもらえば、暴走も何とか出来るかも!」

「みんなで頑張りましょう! ですね!」

 リンディの結論にシグナムがはっきりと断言し、シャマルが補足するように告げる。それを聞き、翔一が希望が見えたというように続き、最後に五代がサムズアップで締め括った。

 あの後、リンディ達管理局所属のアースラクルーにも、五代を始めなのは達による事情説明があり、大体の事情を把握したリンディは全員に対し、驚愕の事実を話した。
 それは、蒐集を終えた闇の書が恐ろしい災害を引き起こすという事実。それを聞き、シグナム達は驚愕しながらも、どこかで納得していた。どうして自分達が蒐集を終えた時の事を覚えていなかったのかを理解したからだ。
 そして、その事をリンディに告げると、リンディ達に微かに動揺が生まれた。闇の書の一部であるシグナム達が忘れていたという事実。それが持つ意味を考えたのだ。

 そして、蒐集行為をなのは達から行うという事にも、リンディは難色を示したが、なのは達の強い意志とシグナム達の決して死なせはしないとの言葉と眼差しに折れ、まずはなのはが蒐集される事となった。
 安全を考慮し、家族には「フェイトが海鳴にやって来たので、今夜は泊まる」となのはが心苦しく思いながらも嘘を吐き、万全を喫した。

 それと同時に、リンディ達は闇の書自体を詳しく調べる必要があると思い、無限書庫での調査を決断。それを聞いたユーノが、それなら自分が役に立てるかもと言い出し、クロノと共にその日の内に無限書庫へと向かった。
 フェイトとアルフは五代達が撃退した仮面の男に備えるのと並行し、ヴィータ達と魔法生物からの蒐集活動の手助けをする事となり、五代と翔一もそれに同行する事で話は纏まった。



 アースラ内、医務室。

「じゃあやるわね、なのはちゃん」

「はい」

 シャマルが静かに闇の書へなのはのリンカーコアを蒐集させる。その行為の痛みに耐えるなのは。それを悲痛な表情で見つめるシャマル。そして、ページが十五程埋まったところで、蒐集を中止する。

「……もう、終わりですか?」

「当たり前よ。これ以上は……今の私には出来ない……」

(そうよ! はやてちゃんと同い年の子から蒐集するだけでも心が痛いのに、ギリギリまでなんて出来る訳ないっ!)

 シャマルの表情になのはは何かを察し、シャマルの手に自分の手を重ねた。それに驚くように顔を上げるシャマル。そんなシャマルになのはは微笑みを浮かべて告げた。

「シャマルさんの気持ち、伝わりましたから。だから、そんな顔しないでください。私まで……悲しくなっちゃうから」

「あっ……ああ……」

「シャマルさん……?」

「ごめんね! ごめんね、なのはちゃん! ……ありがとうっ!」

「シャマルさん……だから……私も泣いちゃうから……っ!」

 零れる涙を拭う事もせず、シャマルは泣いた。それになのはもつられるように涙を流す。しばらく医務室に、二人のすすり泣く声が響くのだった……。



 その頃、フェイト達は今度の事を食堂で話し合っていた。フェイトの隣にアルフが座り、向かいにはシグナムにヴィータ、そしてザフィーラがいた。
 その視線は険しいものの、敵意や怒りではなく、困難が予想される今後にそれぞれが思いを抱いての事である。

「まず、私とヴィータさんとアルフでAチーム」

「別に呼び捨てでいいし、敬語もなくていい」

「あ、うん。分かりま……分かった」

 ヴィータのどこか呆れるような声に、フェイトは意外そうな表情を浮かべて頷いた。それを同じような表情でシグナムとアルフが見つめている。

「んだよ?」

「いや……意外だなぁ~って」

「私もだ。認めたという事か……?」

 シグナムの言葉にヴィータは顔を背けて「悪いかよ……」と告げた。その仕草にフェイトは一瞬驚くも、すぐに笑みを浮かべて頷いた。

「ありがとう、ヴィータ」

「礼はいいから、さっさと決める事だけ決めようぜ。はやてが寝てる間が一番動き易いんだ」

「そうだな。では、私とザフィーラがBチームか」

「後、翔一って奴もだよ。雄介は、シャマルと二人で行動」

 アルフの言葉にフェイト以外の三人が疑問を感じたのか、怪訝な顔を見せる。それにフェイトが笑みを浮かべて答えた。
 雄介の力。クウガはアギトよりも汎用性が高いので、戦闘能力的には問題ないとの事。それに、なのはが回復すればなのはがそこに合流するので、心配はいらないとも。

 その説明を聞き、三人も納得していた。よくよく考えてみれば、どのチームもバランス良く配置されている。おそらく、リンディの指示だろうが、その人選も流石だと三人は思った。

(高町を襲撃したヴィータをテスタロッサ達に組ませるのは、当然として……)

(翔一をシグナムとザフィーラに組ませるのは、翔一があたしらの中で一番信頼出来るから……)

(そして、シャマルは現在なのはと共に過ごしている。その干渉役にはあの男が適任、か……)

 それぞれがリンディ采配の意図を考え、感心する中、フェイトはただ友人であるなのはの心配をしていた。
 死ぬ事はないが、それでもしばらく魔法は使えない。その間、自分が頑張らないといけない。そう思い、フェイトは誓う。

(なのは、ゆっくり休んでて。その間、私が頑張るから)



 一方、五代と翔一はアースラの休憩所で自分達の話をし合う内に、ある事に気付いていた。

「「えっ?」」

「翔一君、今何年って……?」

「えっと、2004年ですけど」

 自分達のいた時間が違う。それを知り、二人はどこか分かりかけていた共通点に疑問を感じた。

「五代さんは何年って……?」

「俺、2001年だけど……」

 その言葉に翔一も驚く。そして、二人して頭を悩ませる。どうしてこうなったのか。その理由を考えるために。
 五代はアマダムのせいだと思っていた。だが、アマダムを持たない翔一は自分よりも先にこの世界へ来ている。では、一体どうして自分がここに来てしまったのだろう。そんな風に考えていた。

(桜子さんがいれば何か分かったかな?)

 思い出すのは、未確認との戦いを知識面で支えてくれた女性。彼女の知恵があれば、現状も少しは変わったかもと五代は考える。

 そんな五代と同じように翔一もある人物を思い出していた。

(先生なら何かいいアドバイスくれるかな?)

 美杉教授。彼が長い間世話になった恩人である。彼も翔一にとっては自分を支えてくれた者の一人。その人生論や何気ない一言は、翔一の大きな助けになっていた事もある。

「「う~ん……」」

 二人して思うのは同じ。そして、揃ったように唸りを上げ、それに気付いて笑い出す。
 そして、翔一に五代は右手を向けてサムズアップ。それに翔一はどこか不思議そうに視線を送った。

「大丈夫! きっと何とかなるよ。リンディさん達も協力してくれるし、シグナムさん達もいるし」

「そうですね。で、五代さん……気になってたんですけど、それ何です?」

「これ? サムズアップって言って、古代ローマで納得出来る、満足出来る事をした人に送られる仕草。俺、これが似合う人になりたくってさ」

「そうなんですか……」

「ま、色々大変だと思うし、辛い事もあるだろうけど……さ」

 五代はそう言って、もう一度翔一に対してサムズアップする。それを見て、翔一も同じように五代へ返す。

「でも大丈夫! だってアギトがいるんだし」

「はい! 絶対大丈夫です! クウガがいますから」

 互いに笑顔を見せあい、断言する二人。そして、その視線に宿る希望を感じ取り、更に笑みを深くする。二人の仮面ライダー。その優しき心が完全に繋がり合った瞬間だった。



 ジェイルラボ 訓練場。

「さ、行くわよ真司君」

「……へ~い」

 準備万端といった感じのドゥーエに対し、龍騎はやる気の欠片もなく声を返す。それをトーレが聞いていれば怒鳴っただろう。チンクなら呆れながら注意しただろう。
 だが、ドゥーエは何も言わず、無言で走り出した。その手にしたピアッシングネイルを光らせ、龍騎へと突き立てようとするが……。

”ガードベント”

 龍騎の手に現れた盾を見て、その狙いを龍騎の体ではなく、顔へと変えた。それに若干龍騎も慌てるものの、即座にかわし、距離を取る。
 だが、そうはさせじとドゥーエが走る。その爪先を突き立てんと龍騎へと迫る。正直早く終わらせたい龍騎は、いっそわざと負けるかとも考え出していた。

 そんな龍騎の思考を読んだのか、ドゥーエがこう告げた。

「もし、わざと負けたりしたら、トーレが煩いわよ?」

「げっ!」

 脳裏に浮かぶトーレの怒り顔。そして、そのまま説教までされる自分を想像し、龍騎は一瞬身体を震えさせる。
 その瞬間を狙い、ドゥーエは爪を龍騎に突き出し―――。

「よっと」

 龍騎の手にした盾に弾き飛ばされた。防具である盾を、攻撃に使った事に一瞬思考が止まるドゥーエだったが、すぐに気を取り直し、龍騎から離れた。
 だが、飛ばされたピアッシングネイルを取りに行くような事はしない。それに龍騎が軽く驚いた。

「……取りに行かないのかよ」

「あら、行ったら何かする気だったでしょ?」

「……バレてるか」

 龍騎の手にしているのはストライクベント。そう、ドゥーエがピアッシングネイルを回収しに行ったところに、ドラゴンストライクを決めようと考えていたのだ。
 その龍騎の行動をドゥーエは内心で誉めていた。単なるお人好しではなく、戦い慣れをしていると感じたからだ。先程の盾を使った攻撃もそう。
 どこかで防御にしか使わないと思っているものを、攻撃に転用し、相手の思考を乱す。その僅かな隙を突ければ完璧なのだろうが、龍騎はそこまで戦闘の達人という訳ではない。

(でも、厄介だわ。確かにこれはトーレでも手を焼くはずよ)

 ドゥーエは知らない。先程の盾を使った攻撃の後、龍騎が敢えて何もしなかったのを。その気になれば、そこでドゥーエを倒せた事を。だが、それを龍騎がしなかったのには、理由がある。それは……。

(トーレもチンクちゃんも気の済むまでやらないと納得しないんだよな~。ドゥーエさんが同じとは思えないけど、不意打ちで倒してもう一回!
 とか言われても嫌だし……)

 というもの。意外と考えてないようで考え、それが裏目に出る龍騎だった。



 勝負は龍騎の勝利で終わりを告げた。武器を失ったドゥーエに勝ち目があるはずもなく、元々戦闘用ではないドゥーエでは限界があったのだ。
 そして、決着が着いた時、どこか清々していたドゥーエに真司はこう言った。

「ドゥーエさんさ、戦いに向いてないから、これから気をつけてよ」

「……どういう事?」

「いや、スパイとかってさ。時々襲われる事もあるし、ドゥーエさん女性だから。もし戦いになりそうだったら、何がなんでも逃げて」

 真司はそう心から心配して言った。それをドゥーエは笑い飛ばし、そんな事はないから大丈夫と告げた。そして、ドゥーエはそのまま真司に背を向け、歩き出す。
 その背中を見つめ、真司はもう一度大声で告げる。

「絶対に戦ったりしたらダメだからな~!!」

 その言葉を内心鬱陶しく思いながら、ドゥーエは手を振った。何故かその真司の言葉を記憶の片隅に留めて。そして、翌日彼女は管理局への潜入任務へと向かった。


彼女が、この時の真司の言葉を思い出し、窮地を逃れる事になるのは先の話……。




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続き。前回あんな事言いながら、結局普通に続きが書けました。

これでクウガ&アギト組は動き出します。龍騎はしばらくこんな雰囲気が続く……?

……俺、A's終わらせられたら……これを板移動させるんだ……。



[22476] 【一発ネタ】Masked Rider in Nanoha 7 (クウガ・アギト・龍騎)
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/11/22 09:23
 時空管理局内 無限書庫

「どうだ。何とかなりそうか?」

「……検索魔法があるからね。ただ、色々と整理されてないせいで、時間はかかりそうだよ」

 無重力空間の書庫内で、クロノとユーノは闇の書に関する情報を得ようとしていた。ただ、無限書庫は長年放置されてきたにも等しい状態だったため、ユーノから言わせてもらえば「宝の持ち腐れ」状態。
 有益な情報があるにも関わらず、碌に整理もしないせいで必要な情報が見つからないのだ。

「出来るだけ早目に頼む。なのはが復帰する頃には、フェイトが動けなくなるからな」

「……先に僕って考えてたけど、ここの進行具合じゃその方がいいかもね」

「ああ。だが……まったく三人揃って何を考えているんだ」

「人助け、かな」

「……それで蒐集させるのか。君達は本当にお人好しだな」

 呆れるようなクロノの言葉に、ユーノは静かに穏やかに告げる。

「……五代さんが、あの人が言ったんだ。みんなが出来るだけの無理をすれば、きっと何とかなるって」

 ユーノのどこか憧れるような声にクロノは黙る。それは、クロノもその言葉に込められた想いを感じたから。きっと、五代はそれがどういう事か知っている。
 でも、だからこそ言ったのだろう。それが現状を解決する一番の方法なのだと。それはクロノの口癖にもなりつつある言葉に、どこか反論しているようだった。

―――いつも世界は、こんなはずじゃなかった事ばかりだ。

 それを五代が聞けば「そうだね。でも……だからって悪い事ばかりでもないよ」と笑顔で言っただろう。こんなはずじゃない事は、良くない予想にも適応出来るのだから。
 だが、ここに五代はいない。クロノの抱く想いを変える笑顔は、ここにはない。だが、ユーノの口を通じて言われた五代の言葉は、確実にクロノの心に届いていた。

(……五代雄介、か。冒険家と言っていたが、彼は彼なりに多くの不条理を見てきたんだろうか……)

「クロ助~」

 そんな風に思考を止めていたクロノだったが、突然聞こえた声に戦慄する。そして、声のした方へ視線を向け、それが間違いではなかった事を確認した。
 そこにいたのは、猫型の使い魔。そして、彼にとっては忘れる事の出来ない相手の一人。主に戦闘術を教えてもらった師匠の一人。

「……ロッテか。一体どうしてここに?」

「ん~、まぁ、お父様に言われてお手伝い。リンディ艦長の方にはアリアが行ってるよ。闇の書絡み、なんだろ?」

「……ああ。そうか、グレアム提督が……」

 最後のロッテの囁きに、クロノは神妙に頷く。そして、ある人物の協力を聞かされ、クロノに驚きと喜びが浮かぶ。自分の恩人でもあり、父親の最後を看取った人物。それが、ギル・グレアムだ。
 クロノにとっては、もう一人の父と呼んでもいいぐらいの関係でもある。

「クロノ、その人は?」

「お、何か獲物っぽいの発見……」

 そんな二人が気になったのか、ユーノが近付き、ロッテにロックオンされる。それを感じ取り、クロノがすかさず止めに入った。

「それで、何を手伝ってくれるんだ」

「ちぇっ……何って検索だよ。人手がいるだろ?」

「そうか。なら頼む。僕は一度アースラに戻って話し合う事があるから」

 クロノの言葉にユーノは疑問を感じたのか、不思議そうに問いかけた。そして、その答えにユーノではなくロッテが反応するのだが。

「何を話し合うって言うんだ」

「仮面の男への対応だ。奴の目的がはっきりしない。それを探る事もしなきゃならない」

 クロノの言葉にロッテはどこか驚き、訝しむような表情を浮かべた。それを見て、クロノが何かを思い出したように告げた。
 仮面の男とは、守護騎士達を監視していた存在で、何故か蒐集活動を見逃していた魔導師の事だと。民間協力者によって撃退されたが、その行動目的が不明なので、要警戒の相手である。
 そのクロノの説明を聞いて、ロッテは納得し「気をつけなよ」とクロノに軽く笑いながら言った。それを同じように笑みを浮かべてクロノも応じる。

 そして、クロノが去った後、ユーノとロッテは闇の書についての文献を探し出す。

(クロ助の奴、いつの間にかクライドに似てきたね。でも……)

 どこか不敵に笑うロッテ。それに気付かず、ユーノは検索魔法を使って文献をどんどん分別していく。それと並行し、闇の書関連の文献を探す。その表情は、まさしく真剣な男の顔だった……。



「よく来てくれたわね。本当に助かるわ」

「いえ、私はお父様に言われただけですから」

 アースラ 艦長室。そこには、リンディと猫型の使い魔で、クロノの魔法の師匠であったリーゼアリアがいた。二人は、久方ぶりの再会を喜んだのも束の間、早速本題である闇の書事件へと話を進める。
 だが、その前にリンディは気になっている事があった。それは、アリアの腕の包帯である。その事をリンディが指摘すると、アリアはどこか苦笑いを浮かべた。

「実は……ロッテとの模擬戦で少し」

「あら、相変わらずね」

「どうにも接近戦はロッテに勝てなくて」

 そこから話は事件の今後の動きへと変わっていく。リンディから告げられた守護騎士達の投降と協力に、アリアは驚きを隠せなかったようだが、すぐにそれも切り替えたか、リンディからの説明を聞き、納得はしたようだった。
 話は更に進み、完成した闇の書に対する対応へと及んだところで……。

「艦長、今戻りました」

「ご苦労さまです」

「クロノ、久しぶり」

 敬礼し合う二人。それが終わるのを待って、アリアがクロノへ微笑みかける。それにクロノも笑みを浮かべて応える。
 そして、無限書庫で会ったロッテの話をし、リンディはグレアムの配慮に感謝していた。グレアム自身も優秀な人物だが、傍にいる二人の使い魔リーゼアリアとリーゼロッテもかなり優秀な人材だったからだ。
 その二人を惜しげもなく協力させてくれる事に、リンディはグレアムの闇の書への強いこだわりを感じていた。

(グレアム提督も、やはりまだあの人の事を引きずっているのね……)

 十一年前、闇の書を輸送していた次元航行艦の艦長をしていたのが、リンディの夫であるクライド・ハラオウンであった。その時、艦隊の指揮を執っていたのがグレアム。
 その輸送の最中、闇の書が謎の暴走を始め、クライドは艦のクルーを全て脱出させた後、自分ごと艦を撃たせたのだ。闇の書の暴走によって、艦の制御を乗っ取られ、それによる攻撃からグレアム達を助けるために。

 その事を、自分と同じようにまだどこかでグレアムも引きずっている。そうリンディは思った。

「それで艦長、お話があります」

「何でしょう?」

「仮面の男についてです」

 その言葉にアリアが若干表情を曇らせる。それにクロノもリンディも気付かぬように会話を進める。目的がはっきりしない事や守護騎士達を監視していたらしい事などから、敵かもしくは何かの犯罪組織の手の者かもしれないと、クロノは告げた。
 それにリンディも同意し、情報を得ると共にその出方も警戒したほうがいいと改めて考え、その旨をフェイト達に告げると言った。

(そうか、クロノ達は闇の書を完成させて破壊するつもりか。それならそれで……)

 クロノ達の話を聞きながら、アリアは密かに笑う。彼女達の目的。それを果たす意味でも、クロノ達の行動は歓迎すべき事だった。
 だが、そこにある人物が現れた事で、アリアの表情が一変する。

「すいません。そろそろ俺達、はやてちゃん家に戻りたいんですけど」

「っ?!」

「あら、翔一さん。もうそんな時間?」

 部屋に現れたのは、どこか疲れた翔一だった。と言うのも、五代と話していたらついつい話し込んでしまい、そこにやってきたエイミィから現時刻を聞いて、食堂へ行き、そこからここへ走って来たからだ。
 ヴィータ達は蒐集へ向かうと言っていたが、それを今日は色々あったから休もうと説得し、なのはへの謝罪は寝てしまったため、後日すると五代に伝えてもらう事にしたのだ。
 そして、リンディに転送ポートの使用と許可、それと帰りの挨拶をしにきたのだった。

「ええ。俺達も早く動きたいんですけど……今日は色々あって疲れましたし」

「そうだな。確かに貴方達は一度帰ってくれて構わない。ただ……」

「はい、蒐集をする時は必ず皆さんに連絡します。それと勝手にはしません。また明日も来ます」

 クロノの言いたい事を察し、翔一はそう強く言い切った。その声と視線にリンディもクロノも安堵の表情で頷いた。

(やはり、彼なら信頼出来るな)

(まだどこか信用出来ない騎士達も、彼がいれば大丈夫そうね)

 そんな二人とは違い、アリアだけはどこか翔一を睨むように見つめていた。その視線を感じ、翔一はアリアへ視線を移す。
 初めて見る人物から睨まれる事に戸惑う翔一だったが、その理由を思い当たったのか、申し訳なさそうに頭を下げた。

「ごめんなさい! 初めまして。俺、津上翔一って言います」

「え? あ、私こそ初めまして。リーゼアリアよ」

 その翔一の態度にどこか驚くアリア。翔一は初対面にも関わらず、自己紹介をしなかった事にアリアが怒っていると考えたのだ。
 一方のアリアは、そんな翔一の態度に戸惑うも、毒気を抜かれたのか比較的優しく言葉を返した。

 その後、簡単に事情を聞き、翔一はアリア達の協力に感謝を述べ、アリアに苦笑された。そして、翔一は三人に礼と挨拶をし、そのまま部屋を後にした。

(でも、アリアさん腕に怪我してたけど……あれ、何かひっかかるなぁ……)

 転送ポートへ向かう途中、翔一は何故かアリアの腕の包帯が気になっていた。彼は知らない。その答えが、この事件に大きく関わる事だとは。



 一方、翔一がリンディ達と会話している頃、五代はと言えば……。

「そうですか。なのはちゃん、そんな事を……」

「本当に……私達、取り返しのつかない事をしようとしてたんだって……気付きました」

 医務室の前でシャマルと話していた。なのはから言われた一言で、完全に目が覚めたと。誰かを不幸にしてはやてを助けても、はやてが喜ぶはずはなかった。その事に気付かせてもらったのだと、シャマルは真っ赤な目で語った。
 それに五代は優しく笑顔を見せる。何をするにも、何に気付くのも、遅いって事はない。そう言ってシャマルを慰めた。

「だって、シャマルさん達はこれで気付いたじゃないですか。はやてちゃんを笑顔にするには、誰にも迷惑を掛けないで蒐集するしかないって。
 そして、その方法はあって、リンディさん達管理局の人も手伝ってくれる。闇の書の暴走も、みんなでやればきっと何とか出来ます」

「五代さん……」

「大丈夫! 必ずみんな笑顔になれます!」

 サムズアップ。それと共に見せる五代の笑顔。それにシャマルも笑顔を返す。心からそう思える。そんな不思議な力が五代の笑顔にはある。
 そんな事を考え、シャマルは告げた。自分と数日は二人で蒐集に当たる事になるが、自分は戦闘向きではない。だから五代の負担が大きくなると。
 そんなシャマルの言葉に、五代は少し考えて答えた。

「う~ん……その魔法生物っていうのがどんなのか分からないですけど……多分いけます」

「本当に……大丈夫ですか?」

「はい。だって俺、クウガですから」

 その言葉とサムズアップ。それだけでシャマルは安心した。そう、きっと大丈夫、と。だからシャマルも笑顔を返す。そして、こう言い切る。

「分かりました。なら、サポートは任せてください。私、湖の騎士ですから」

 サムズアップ。それに五代は少し驚くも、その顔は笑みを浮かべている。向け合う親指。それは、互いの気持ちを向け合うようだった。



こうして、この日は終わる。静かに穏やかに”本来の流れ”を変えて……。





「で、相談なんだけど……」

「……何です?」

「ドクターに仕事するよう言ってくれないかしら?」

 ここはラボ内にある真司の部屋。そこのベッドに腰掛け、ウーノはどこか疲れたようにそう切り出した。
 その発言に真司はやや驚きを見せるも、そのまま考え込む。ウーノから相談があると聞いた時、真司は何事かと思った。ナンバー1、ウーノはジェイルの秘書であり、姉妹の頂点に立っている。
 更に、真司の面倒もさり気無く見てくれる優しい美人。それが真司の印象。だからこそ、そんなウーノが弱くなっているのが、真司には驚きだった。

(ウーノさんって、完璧人間だと思ったんだけど……あ、玲子さんと同じか)

 元いた世界での上司に当たる関係だった女性。その彼女も自分からは欠点がないように見えたが、その内実は繊細で複雑だった事を真司は思い出した。
 出来る女性程、ストレスを溜め易いのかもしれない。そう考え、真司はウーノを少しでも楽にさせようと立ち上がって断言した。

「分かった! 俺がジェイルさんを仕事するようにしてみせる」

「……よろしく頼むわ」

 そう答えるウーノは、どこか投げやりな声だった……。



「……で、君がいるのか」

「そうだ! ジェイルさんさ、ちゃんと仕事してくれよ。ウーノさんだけじゃなく、クアットロにまで頼まれるなんてよっぽどだぞ」

 ジェイルの研究室。そこには、ややうんざり顔のジェイルと、やる気満々の真司がいた。ウーノに頼まれ、研究室へ向かっている途中、クアットロに遭遇した真司だったが、ウーノから頼まれた事を話すといつもの間延び口調ではなく、割かし本気で言われたのだ。
 ジェイルに真面目に仕事させてくれたら、前々から言っていた調理器具を何とかしてやると。真司の現状での不満は料理。何せ、栄養さえ取れればいいとジェイル達が考えているため、美味しくないのだ。
 故に真司は得意の料理を作り、全員に美味しいものを食べる喜びを教えたいと常々思っているのだ。そのために、まずは道具が欲しいとウーノやクアットロに言っていて、それを叶えてくれるとの発言に、真司は凄まじいやる気を出していたのだ。

「私はちゃんと仕事しているよ。ま、残りの娘達と君のシステム解析に時間は取られているけど」

「それが問題なんだって! せめてライダーの方は中止してさ、元からの仕事してくれよ」

「嫌だ。私は私のやりたい事をやる。いくら君でも、それだけは譲らないよ」

 どこか勝ち誇ったように笑みを浮かべるジェイル。それに真司は頭を抱えそうになるが、ふと良い事を思いついたといった顔でジェイルにこう言った。

「仕事片付けてくれたら、サバイブ見せてもいいよ」

「本当かいっ?!」

 真司の発言にジェイルは子供のように身を乗り出した。それにどこか驚くも、真司は首を振ってそれを肯定する。
 そして、ジェイルに対してこう言い切った。ただし、完全に仕事を片付けたとならないと見せてやらない、と。
 それを聞き、ジェイルはそれまでののんびりが嘘だったかのように、凄まじい速度でコンソールに向かって指を動かし出した。もう、真司が目に入っていないかのように。
 それを確認し、真司は満足そうに頷いて部屋を出た。そこに何故か立っていたウーノ達四人にVサインを見せる真司。それをそれぞれが安堵の表情を浮かべた。

 こうしてジェイルの仕事が滞る事はなくなったのだが……。

「なぁウーノ。もう仕事は片付いたと思うんだけど……」

「ええ。こちらの分は、ですね。まだ追加分がありますのでこちらも」

 そう、ジェイルの仕事が完全に片付く事などないのだ。真司が、それを理由にサバイブを見せなかったのも当然。全ては、ジェイルに仕事をさせるための作戦。
 ジェイルが真司の目論見に気付いた時には、もう遅かった。ウーノやクアットロから入れ知恵された真司は「仕事をサボったら二度と見せない」と告げて、ジェイルの逃げ道を塞いだのだ。
 だけど、そう言われた後もジェイルはどこか上機嫌だった。

(真司に一杯食わされるとは……ね。中々強かだね、彼も)

 そう思い、ジェイルは楽しそうに笑う。それは、軽い悪戯をされた事に気付いた者が、どこか憎めずにする表情にも見えた。




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続き。やりたかったのは”だって俺、クウガだし”です。

これがあっての五代。そして、静かに広がるサムズアップ。いつか、これをアギトと一緒にやるかなぁ……。

現在、A'sの最後までを構想中。リインフォース生存への方法を模索中……。



[22476] 【一発ネタ】Masked Rider in Nanoha 8 (クウガ・アギト・龍騎)
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/11/22 09:24
 あの日から五代達の蒐集活動は始まった。それぞれが分担し、毎日蒐集を行なう事で少ないページ数でありながらも、着実に蒐集は進んでいった。それと並行する形で、なのはとフェイトのはやてとの交流も始まり、ヴィータとシャマルが仲介役となり、はやてにとっても新しい友人を得た事は喜ばしい事だった。
 そして、なのは達がすずかとも友人と分かり、はやては一気に友人との輪が広がった事に心からの笑顔を見せた。

「ほんなら、これからよろしくな。なのはちゃん、フェイトちゃん」

「うん。また遊ぼうね、はやてちゃん」

「またね、はやて」

 少女達の繋がり。結ばれる笑顔と笑顔。だが、その裏側では……。

「五代さん、気をつけて!」

「来んぞ!」

「はいっ!」

 シャマルの援護を受け、ヴィータと共に雄介が……。

「来るぞ、翔一!」

「気をつけろ!」

「分かりましたっ!」

 シグナムとザフィーラと共に翔一が……。

「「変身っ!」」

 そんな少女達の笑顔のために戦っていた。その身に宿した”力”と”想い”を振るって……。



 五代達が蒐集活動を始めて、既に一ヶ月以上が経過した。なのはとフェイトの蒐集も終わり、二人も完全に現場に復帰していた。ユーノも無限書庫での検索を一区切りつけ、やっと蒐集を受ける事となり、三人だけで約四十ページも稼いだ。
 残りのページも半分を過ぎ、管制人格の覚醒まで後五十ページを切った。そして、現在持ち上がった難題は、はやてへの事情説明と、闇の書の暴走をどう対処するかであった。

 管制人格の起動には、主の承認が不可欠。そのため、そろそろはやてへ蒐集している事を説明しなければならない。それと現在、闇の書が完成する事で分かっているのは、恐ろしい災害を招き、下手をすれば地球だけでなく、他の次元世界まで消滅させてしまうだろうとの事。
 それをどうにかする術はないのか。それをリンディ達は守護騎士達に聞いているのだが、記憶からその暴走自体が抜け落ちていたため、シグナム達にも有効な手立てが見つからないとの事。
 しかも、ユーノが見つけた文献によれば、闇の書は元々『夜天の魔導書』と呼ばれ、その目的もあらゆる魔法を記録する図鑑に近いものだった事が判明した。そして、それと同時にシグナム達も思い出した事があった。

「転生か……」

「ああ。だから単に破壊するのではダメだ」

 転生機能。それを聞き、リンディ達も思い出したのだ。十一年前にアルカンシェルにて破壊された闇の書が、何故元通りに再生していたのか。
 そう、その機能を根本から破壊するか、もしくは修正するしかないというのがユーノが出した結論だった。
 というのも、闇の書とよばれるキッカケは、何代目かの主が改竄した結果によるバグだったのだ。それを聞き、リンディ達も守護騎士達が蒐集完了後の事を記憶していなかったのも、バグによる影響と結論付けた。

「はやてちゃんを助けて、夜天の書を元に戻す手段があればいいんですけど……」

「そうだね。それが……一番だね」

 翔一の言葉に五代も頷く。そしてそれは、その場にいる全員の総意でもあった。だが、その方法が思いつかない。リンディ達もシグナム達も何も言わない。
 何が原因で闇の書と呼ばれるようになったのかは分かった。しかし、それに対しての有効的な手段が見つからないのだ。現在、アースラの艦長室で行なわれている会議に参加しているのは、守護騎士達と翔一、リンディとクロノ、エイミィ、そして五代という面々。
 なのは達はアリアとロッテの二人に頼み込んで、現在訓練中なのだ。

「……そういえば、少し思いついた事があるんですけど……」

 五代が呟いた言葉に全員の視線が向く。それに五代は、どこか自分でもまだ分からないという風に告げた。

「封印って事なら……クウガの力で何とかなるかもしれない」

「どういう意味か教えてくれますか?」

 不思議そうなリンディの言葉に、五代は記憶を呼び覚ましながら話し出した。

「クウガの敵……っていうか戦った相手を倒す時、必ず浮かび上がる文字があって」

「文字?」

 クロノの言葉に五代は頷き、昔桜子に尋ねた事を話し出す。クウガが未確認を倒す時、相手に必ず浮かび上がる文字の意味を。
 それは、鎮めるという意味だそうで、おそらく古代のクウガが未確認を長きに渡り封じ込めていた事からも、クウガには邪悪を封印する力があるかもしれないと五代は語った。
 それがもし闇の書にも効果があれば、封印を出来るかもしれない。そんな話を五代はしながら言った。可能性が少しでもあるなら、これに賭けさせてほしいと。

 それを聞き、真っ先にそれに賛成したのは翔一だった。彼は語る。自分がいた世界で猛威を振るった未確認生命体を、たった一人で戦い抜いたクウガ。その力は、絶対にどんな闇ですら封じ込めると。
 そして……。

「それに、今は俺が……仮面ライダーアギトがいます!」

「仮面……ライダー……?」

「あ、それ初めて会った時、仮面の男に言ってたやつだよね!」

 翔一の発言に全員が首を傾げる中、五代だけが思い出したように答えた。それに翔一も頷き、簡単にそう名乗る事になった経緯を話す。
 その内容に驚き、そして誰もが言葉を失う。人知れず、平和のために怪物と戦い続けた男達。それが仮面ライダー。
 翔一は、その名を過去のアギト達が名乗るのを聞き、自分も彼らのように”心強くありたい”と思って名乗る事にしたのだと。

(そうか……翔一の世界には、そんな生き方をした者達がいたのか……)

(あたしらよりもある意味過酷だったろうに……すげぇな)

(私達も修羅場と呼べる戦場を経験してきたけど……たった一人でなんて)

(騎士……いや、戦士と呼ぶに相応しい”漢”達なのだろうな。願わくば、一度会って話を聞いてみたかったものだ……)

 シグナムを始めとする守護騎士達は、長きに渡る戦乱を生きてきたが故に、その生き様に敬意を払い……。

(人外の力……姿……その哀しみを噛み締めて、たった独り、人々のために戦う。私達管理局も見習いたいわね、その強い心を……)

(強大な力に溺れず、それを誰かを守るために使う、か。本当にヒーローそのものじゃないか……)

(何も知らない人が聞いたら笑うんだろうな。でも、あたしは笑わない。五代さんや津上さんがいるんだから……ね)

 平和を守る事に携わるリンディ達にとって、その選択がどれ程厳しいかを想い、密かに尊敬の念を抱き……。

(他にも未確認みたいなのがいたんだ。そして、それを倒していたクウガみたいな人達がいた。戦う事を決意したのは、きっと……)

(アンノウンも、もしかしたらあいつらの生き残りだったのかもしれない。そして、あの人達が戦っていた理由は……そう……)

 二人の仮面ライダーは、その自分達に近い存在に親近感と同時にある事を想う。

((みんなの笑顔のために……))

 その戦う理由。それは、おそらくそのためだと。誰にも知られず、戦い続けられる理由。その根底にあるものは、その原動力はきっと自分達と同じだったはず。
 そう想い、五代も翔一も改めて誓う。この力を”笑顔”のために使う事を。自分達を人知れず守っていた存在に応えるために。

―――”仮面ライダー”として。




 いつものように食堂に集まるジェイル達。だが、そこに並んでいるのは、いつもの栄養食ではない。半透明の皮で包まれた餃子。それがスープに入ったものと、焼いたもの。そして、蒸したものが並んでいる。それとウーノに無理を言って手に入れてもらった白米。それを大盛りに盛った白いご飯。そして、卵を使った簡単な中華スープ。
 スープ以外初めて見るもの料理に、全員がどう反応するべきか迷っていたが、それを急かすように真司が言った。

「ほら、早く食べてみなって! 本気で旨い………って思うから!」

 その真司の言葉に真っ先に動いたのはチンク。手にしたフォークを焼き餃子へ突き刺し、真司特製のタレをつけて口へ入れた。それをどこか固唾を飲んで見守るジェイル達。真司はそんな反応にどこか心外だという表情。
 やがて、焼き餃子を飲み込んだチンクが、静かにフォークを置き、立ち上がって真司に向けて頭を下げた。

「すまん……私が悪かった。一瞬でもこれを、不味いかもしれんと疑った私を許してくれ」

「チンク……?」

「旨いだろ?」

「ああ。これが”美味”という事なのだな」

「っよし!」

 笑顔で告げたチンクの言葉に真司がガッツポーズ。それを聞いて、トーレもフォークを焼き餃子に突き刺し……。

「う、旨い……」

「驚いた……本当に真司さんって料理が得意なんですね」

「信じられないけど……美味しいわぁ」

「真司は凄いね。どうやってこれほどの腕を?」

 次々と食べては称賛していくジェイル達。真司一番の自信作。それが餃子だった。その美味しさに、ジェイル達が驚愕と感激を表しながら、次々に餃子を食べていく。それを見つめて、真司は笑顔で告げた。

「さ、どんどん食べてくれよ! まだ追加あるからさ」

 こうして、真司の料理係が確定し、ジェイルを始めとした全員は、決まった時間に食事をする事にされ、箸を使う事も基本となる。
 そして、その食事作法もいつしか真司に厳しく言われる事になる。
 具体的には食べる前には「いただきます」と言い、食べ終わったら「ご馳走様」を言う事。それにジェイル達は段々と染まっていき、セインやディエチが加わる頃には、それは当たり前になっていたりする。

 そして、餃子はかなり大目に作ったにも関わらず、全て完食された。それに真司が満足そうに頷いて、残った食器を片付けようとして……。

「真司、片付けは私がやろう」

 チンクにそう声を掛けられた。それに真司は少し驚きながらも振り返り、不思議そうに尋ねた。

「いや、それは嬉しいけど……何で?」

「何、美味しい物を作ってもらった礼だ」

「そっか。なら、手伝ってくれよ。俺一人でやるより、その方が早く終わるしさ」

「だから……はぁ、まぁいいか。そうだな、二人でやろう」

 真司の言葉にチンクは一瞬何か反論しかけるが、それを思い留まり、やや呆れた表情を浮かべて頷いた。

「うし。じゃあ、俺が洗うから、チンクちゃんが拭いてくれ」

「ああ、了解だ」

 そう言いながら、真司は食器を手にして歩き出す。それに笑みを浮かべて、同じように食器を手にしてついて行くチンク。それを眺め、クアットロが呟いた。

「なんか……あれじゃ兄妹ねぇ……」

「否定は出来ん。チンクは真司を慕っているからな」

「あら? トーレは違うの?」

「……私は慕ってなどいない」

 そう言い切って、トーレはそのまま歩き出す。そして、やや歩いたところで、ウーノ達に背を向けたままで告げる。

「……まぁ、認めてはいるがな」

 そう言って、トーレは再び歩き出す。その去り行く背中を見ながら、ウーノとクアットロは笑みを浮かべる。その言葉がトーレの照れ隠しである事を理解しているからだ。
 だからウーノの笑みはどこか微笑ましく、クアットロはどこかからかうように、それぞれ笑っている。だが、そんな風に笑う二人をジェイルは楽しそうに見ていた。

(やれやれ……いつの間にかウーノやクアットロまでこんな顔をするようになるとはね。真司の影響かな……? 困ったものだ。
 確かに生命の揺らぎは見ていて興味深いが、このままだと問題になるかも……ね)

 そんな事を考えるジェイルだったが、その彼の表情もどこか嬉しくて堪らないという顔をしているのだった……。



「……これでラスト」

「そうか」

 真司から手渡される皿をチンクは軽く背伸びをして受け取った。最初、真司は少し屈んでそれをしようとしたのだが、チンクが背丈の事を気にしている事を思い出し、皿をやや下に出す事で、チンクに配慮する事にした。それをチンクも分かっていたが、それでも僅かに届かず、背伸びをして受け取っていた。

 拭き終わった皿を棚にしまうのは真司の役目。チンクは流石に届かないので、そこは真司に委ねた。だが、その顔はどこか悔しそうだったが。

「……真司、少しいいか?」

「ん? どうしたの、チンクちゃん」

「だからちゃん付けは……いや、もういい。聞きたい事があるのだ」

 真司の呼び方に異議を申し立てようとして、チンクは首を振った。それを言い出すと長くなり、尚且つ無駄に終わるからだ。
 チンクはそう思い出し、真司へ本来の目的を話すべく、そう切り出した。それに真司は、不思議そうな顔をして頷いた。

「……いいけど……何?」

「どうしてお前は、仮面ライダーになったのだ?」

「どうしてって……」

 チンクの疑問に真司は困ったような表情を浮かべる。それは、真司にとって答え難い質問だった。彼が仮面ライダーになったキッカケは、モンスターに襲われる人達を守るためだった。だが、戦いを続けていく内に真司は知ったのだ。仮面ライダーに課せられた悲しい宿命を。
 それは、他の仮面ライダーを倒す事。それは、その見返りとして得る権利を求めているからだった。
 何でも願いが叶う。それを理由に多くの者がライダーの力を手に入れた。真司は、最初それを止めようとしていた。だが、自分が初めて出会ったライダー、ナイトである蓮は、それを「無駄だ」と切って捨てた。誰かに言われて止めるようなら、最初から戦う事など選ばない、と。

(蓮だけじゃない。みんながみんな、戦う理由があった。ライダーになって、叶えたい願いが……)

 それは愛する者を目覚めさせる事であったり、不治の病への対抗策であったり、あるいは終わらない戦いであったりする。真司も全てのライダー達の願いを知る訳でない。だが、己が命を賭けても叶えたい願いがある事は知っている。
 だからこそ、チンクの質問に答え難いのだ。真司には、他のライダーを倒してでも叶えたい願いがなかったのだ。

(俺は……仮面ライダーになった気でいるだけで、ホントはまだなってないんじゃないか……?)

「どうした? な、何か言い辛いのなら別に……」

 真司が珍しく複雑な表情で考え込んだのを見て、チンクは慌てるようにそう言い出した。だが、それすら真司は聞いていなかった。

(俺の願い……俺の叶えたい事……それは…………あっ!)

「俺がライダーになったのは、戦いを止めるためだ!」

「答えなくても……何?」

「誰も殺されない。誰も泣かない。そんな夢みたいな世界。そうだ……そうなんだよ! 俺の願いは、ライダー同士の戦いを止める事!」

「ど、どうしたんだ真司。何を言って「ありがとうチンクちゃん! おかげで俺、分かったよ!」

 突然興奮したように言い出した真司。その内容は、チンクにはあまり理解出来なかったが、それでも自分の問いかけが、真司の役に立ったらしい事は分かった。
 喜び、自分の手を握る真司にどこか呆れながらも、チンクは、真司の言った仮面ライダーになった理由をきちんと聞いていた。

(戦いを止めるため、か。真司、それは……いつか私達と……いや、そうと決まった訳ではない! そんな事あってなるものかっ!)

 チンクの脳裏に龍騎と対峙する自分達の姿が浮かぶ。その想像を振り払うようにチンクは首を振った。それを見て、真司がやっと落ち着いたのか、不思議そうにチンクを見つめた。

「どうしたチンクちゃん。俺、何か嫌な事でもした?」

「いや、違う。それよりも、まだ聞きたい事がある。長くなるだろうから、ここでは何だし、私の部屋へ行こう」

「それはいいけど……チンクちゃんは女の子だし、部屋に男入れるのは不味いっしょ。だからさ、俺の部屋にしよう。
 あ、コーヒーとか淹れるよ。それと何かお菓子でも持ってさ」

 子供のように笑う真司。それにチンクはやや苦笑するも、頷いて歩き出す。その後を追うように真司も歩き出し、慌てて元の場所へ戻り、棚から二人分のカップを取り出す。
 それを見て、チンクは笑みを浮かべつつ「菓子はクッキーで頼む」と告げて、スタスタと行ってしまう。それを見て真司は「ちょっと! 俺、今両手塞がってるんだけど?」と言うが、チンクは「片手で二つ持てばいい」と告げて離れていく。そんな態度にも関わらず、真司はブツブツ文句を言いながら、棚から皿を出してクッキーを並べる。
 そして、カップにコーヒーを淹れながら、横目で離れたチンクを見て呟いた。

「……クッキー、か。チンクちゃんも、やっぱ女の子だよなぁ」



ちなみに、チンクが真司に聞いた事は住んでいた世界の事だった。
懐かしそうに話す真司を見て、チンクは微かに悲しみを滲ませながらも、微笑みを浮かべて聞いていた。




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続き。やりたかった事は”仮面ライダー”の持つ意味。そして、何故そう翔一が名乗るように思ったかを俺なりに考えました。

基本として、歴代ライダーは五代や翔一、真司と同じく戦いを止めるために、戦いへ身を投じたと思います。

その根底にあるものは、若干違うかもしれませんが、簡単に言えば”みんなの笑顔”のためと言えると思うので。

人によって、感じ方や考え方は違うかと思いますが、少なくとも昭和ライダー達は全員にそこへ行き着くかと、俺は考えてます。



[22476] 【一発ネタ】Masked Rider in Nanoha 9 (クウガ・アギト・龍騎)
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/11/03 15:20
 八神家 リビング。そこでは、シグナム達と翔一がはやてに現在の状況を説明していた。はやての体を闇の書―――夜天の書が浸食している事。それを止めるために管理局やなのは達が協力し、蒐集を行なっている事。そして、その夜天の書のバグを直せるかもしれない管制人格の起動を許可してほしい事。
 それを全て話し終え、シグナム達ははやてを見つめた。はやては何も言わず、俯き黙って話を聞いていた。そして、小さく何か呟き顔を上げた。

「まず、何でわたしに教えてくれんかった」

「そ、それは……」

「それは何や? わたしが禁止って言ったのを意識してやな? わたしに気ぃつこうてそうしたんやろ。違うか?」

 はやての言葉に誰も何も言わない。その通りだったからだ。その沈黙が答えと理解したのだろう。はやては瞳一杯に涙を浮かべ、大きな声でこう叫んだ。

「何でや! どうして相談してくれんかった!? わたしを大事に思っとるなら余計や! わたしら、家族やなかったんかっ!!」

「はやてちゃん……」

 その痛々しいはやての叫びに翔一は心が痛かった。誰よりも家族に憧れていた少女。翔一は思い出す。自分がはやてと出会った日の事を。それは今から半年以上も前の事……



「本当に色々凄い戦いだったな……」

 邪眼との戦いを終え、バイクで帰路を行く翔一。途中まではギルス―――葦原涼もいたのだが、また旅を続けると言って先程別れた。一度、店の方にも顔を出すと言っていたので、また会えるだろうと翔一は思い、スピードを上げようとして―――突然視界が真っ白になった。

(何だっ?! この光は?!)

 そして、光が収まった時、翔一の目の前には先程の景色ではなく、見も知らない景色が広がっていた。何しろ、先程までは無人の道路を走っていたのだ。それがいきなりどこかの街中だ。流石に翔一もこれは参ったようで、ヘルメットを取り、周囲を見渡す。
 文字は日本語だし、周囲を歩いている人も日本人ばかりなので日本なのは間違いない。そう判断し、翔一はとりあえずバイクを置いておける場所を探して走り出した。

 しばらく走り、ここが海鳴という町である事。そして、どうやら自分がいた世界とは違うという事が分かった。何しろ翔一が店へ電話をかけても繋がらないどころか、使われていないと返ってきたのだ。
 次に翔一が訪れたのは図書館。そこで新聞を見て翔一は自分の予想が正しい事を知る。何しろアギトの事どころかアンノウンや未確認の事さえ記事には載っていなかったのだ。

(……これは……邪眼の仕業なんだろうか……?)

 時空を歪ませ、現在と過去を繋いだ邪眼。もしや邪眼がまだ生きていて、自分を異世界に送り込んだのでは。そんな考えが翔一の中に生まれるが、そんな事はないと思い直し、翔一は思考を切り替えようとする。すると、視線の先に車椅子の少女がいた。少女は棚の上の方を見つめて動かない。

「あ……届かないんだ」

 そう呟くや否や、翔一は少女が見つめる棚から本を取って少女に手渡した。それに驚く少女。翔一は笑顔でそれを見つめるが、何故か少女は中々本を取ろうとしない。
 どうしてだろうと翔一が首を傾げると、少女が申し訳なさそうに「あの……私が取りたかったのはそれちゃうんです」と言った。それに翔一はしまったという顔をし、その本を戻す。

「……ごめん。どれか教えてくれる?」

「あ、ええっと……その右です。あ、それやなくてその……そう、それです」

「えっと……はい、これ。でも、図書館に来るなんて偉いね。お母さんと一緒に来たの?」

 その何気ない翔一の一言に少女の顔が微かに曇る。それを感じ取り、翔一は少女が何か言う前に慌てて頭を下げる。

「ゴメン! 辛い事聞いたみたいだね」

「ええんです。それにしても……お兄さんは良く来るんですか? 何や昔の新聞とか探しとったみたいやけど」

「あれ? 何で分かったの?」

「やって、来るなり係員の人に、ここ二、三年の新聞ありませんか言うてたから」

 そう言って笑う少女。それに翔一も安堵し、笑みを浮かべる。

「あ、そや。ここで会ったのも何か縁や。わたし、八神はやて言います。お兄さんの名前は?」

「え、俺? 俺は津上翔一。よろしくはやてちゃん」

 これが、翔一とはやての出会い。そして、はやては翔一が行く宛のない人間と知り、その話を詳しく聞いて決断する。翔一を自分の家に住まわせる事を。翔一はその申し出を有難がったが、流石にそれは色々と問題があると遠慮した。はやてはそんな翔一に、せめて一晩だけでもと言って中々退かなかった。
 翔一は、それがはやての寂しさから来るものだと思い、なら一晩だけと受ける事にしたのだ。

 そこからは、はやての孤独感を知った翔一の優しさが炸裂した。はやてに泊めてもらう礼と言って作った料理に、はやてが驚き、翔一が店で働いていたコックだと分かると、レストランの味やと嬉しそうに言って翔一を喜ばせた。
 そして、はやてがたった一人で暮らしている事を知り、翔一は悩んだ。はやては、出来れば元の世界に戻るまでいて欲しいと懇願したからだ。
 翔一にとってそれはとても有難い事だった。でも、はやてと何の関係もない自分が一緒に住む事が許される訳がない。そう思った時、翔一はかつての自分を思い出した。
 記憶を失った自分を暖かく迎え入れてくれた真魚達。それとはやてが同じに思えたのだ。

(記憶を無くした時は、先生達。帰る道を無くした時は、はやてちゃんか。俺、本当に人に恵まれてるんだ)

 こうして、翔一ははやての申し出を受ける事にした。その時はやてが言った言葉。それが―――。

「なら、これで翔一さんはわたしの家族。そうやな……翔一さんやと他人過ぎるから、翔にぃでどうやろ?」

 こうして翔一ははやての家族となった。それから少ししてシグナム達が現れ、八神家は一気に賑やかになったのだ。



 そんな事を思い出す翔一。はやてにとって、自分達がどんな存在だったかを改めて感じ、心からの想いを込めて翔一は告げた。

「本当にごめん! はやてちゃんに黙ってた事は確かにいけない事だった。でも、これだけは信じて欲しい。
 シグナムさん達は、はやてちゃんを家族だと思ってるからこそ、内緒にしたかったんだ。出来るならはやてちゃんが知らないまま終わらせたかったから」

「それでも、わたしは……わたしは……」

「ごめんね。俺達、はやてちゃんを助ける事ばかり考えて、肝心のはやてちゃんの気持ちを考えてなかった。本当に……ごめん」

「主、お許しを。我々が、間違っていました……っ!」

「はやてちゃんに、寂しい想いをさせてるって知ってたのに! 私達、それを……それを……っ!」

「はやて……ホントごめん。ごめんよぉ~!」

「主のためにと思ってした事が、苦しめる事になっていた事に気付けず……我らは家族失格です」

「翔にぃ……シグナム……シャマル……ヴィータ……ザフィーラ……ええよ、もうええ……もう、ええから」

 そう言ってはやては翔一達へ手を伸ばす。それを翔一はしっかりと掴み、優しくはやてを抱き寄せた。それにはやては涙を流し、抱きしめる。それにヴィータも涙を流し、はやてにしがみついた。シャマルやシグナムも涙を流し、ザフィーラも静かに涙を流す。
 黙っていた方がいいと判断した自分達の浅はかさを感じ、優しいはやてに辛い想いをさせていた事を痛感したのだ。

 こうして、はやてへのシグナム達の隠し事は消えた。そして、それと同時に八神家に新しい家族が増える事になる……



 翔一達がはやてに事情を説明している頃、五代はと言うと……

「それで明日も出かけるのか?」

「そう。ごめんねイレイン。中々ストンプ見せてやれなくて」

「べ、別にいいって言ってんだろ。それを楽しみにしてんのはファリン達だからな!」

 そう言って顔を赤めるイレイン。彼女は、自動人形と呼ばれる存在。そして、そもそもは、ここ月村家を襲撃に来た刺客でもある。
 五代が月村家で世話を受ける事になったのは、良くも悪くもイレインが原因なのだ。

 簡単に言えば、偶々五代はイレイン達が月村家を襲撃していた時に近くを歩いていた。そして、それを止めるべくイレイン達と戦った。それだけ。そして、それがキッカケでイレインは月村家でメイドとして雇われ、五代は月村家に居候する事になった。
 その際、五代とイレインが因縁めいた関係なのを面白がった忍が、五代専属メイドとして任命し、現在に至る。

 確かに自動人形であるイレインの力は強かった。だが、五代はクウガである。そう、月村家の者達は、五代が普通の人間ではないと知っているのだ。
 何せ、燃え盛る炎の中、クウガとイレインが戦うところを忍達は見ていたのだから。

「そっか~、でもイレインも見たいって思ってくれてるよね」

「ま……まぁな」

「そっか。よし、じゃぁ、早くこのお手伝い終わらせて、ストンプ見せるから」

 サムズアップ。それを見て、イレインはそっぽを向くが、その右手は同じようにサムズアップをしている。
 それを五代は嬉しそうに見つめ、笑顔を深くするのだった……



「仮面ライダー……か」

「そう、異世界で怪物と戦ってた異形の存在……になった人間達だって」

 アースラ艦内にある休憩所。そこに二人の使い魔がいた。リーゼアリアとリーゼロッテである。彼女達もリンディ達から翔一の話を聞き、感じる物があったのだ。聞けば、五代も翔一も望んでその力を手にした訳ではない。恐ろしい怪物を相手するため、仕方なくその力を手にしたと、そう二人は考えていた。

「……その人達からしたら……私達、何て言われるのかな……?」

「犠牲を出そうとしてる事を……かぁ。きっと、止めようとするんだろうね」

「でもそれじゃあ……」

「大丈夫」

 ロッテの言葉に何か言いかけたアリアだったが、それを遮るようにロッテが言った言葉と仕草に、それが止まった。
 ロッテのしたのはサムズアップ。その表情は笑顔。だが、それをロッテは自嘲気味に笑ってやめた。

「……って、あの五代って奴なら言うんだろうね。そして、きっと何とかしようとするんだ」

「何とかって……相手は闇の書よ」

「それでも……だよ。あいつら、仮面ライダーはそういう存在なんだろ、きっと」

「……闇を打ち砕く、正義の光……」

 そう呟いてアリアとロッテは天井を見上げる。出会って一月と少し。五代達とも、蒐集活動やその手伝いで何度となく顔を合わせ、交流を深めた。そして知ったのは、五代達の想いと守護騎士達の想い。かつての自分達を悔いながら、罰を受けるのは自分達だけでいいと、はやてを助けようと必死に足掻く四人。それを支え、何とかはやてを助けようとする五代達。
 それを間近で見て、感じ、二人は主人であるグレアムに伝える事を悩んでいた。このまま、五代達の計画を支援したいと思ってきている事を。

 管制人格が起動すれば、否応無く蒐集完成後の話になる。完全封印を考えるグレアム達にとって、その完成の瞬間こそ一番狙う機会なのだ。
 だが、もし五代の、クウガの力が本当に闇の書に効果があるのなら、それに賭けたい。誰も犠牲にせずにすむのなら、それが一番いいのを二人も理解しているのだ。

(お父様……私は……私は……)

(お父様、あたしどうすればいいの。あいつらといると、覚悟がどんどん鈍ってくよ……)

 そんな二人に答える者はいない。まるでその答えは、自分達の中から見つけ出せと言われたように……





 ジェイルラボ 訓練室。そこに何故かやや元気のない龍騎と巨大な砲身を構えた少女がいた。その少女の前には、緑髪の活発そうな少女もいる。

「セイン、ディエチ、真司は見かけによらず手強い。心してかかれ」

「うぃ~す」

「了解」

 トーレの声にナンバー6、セインはどこか楽しそうに。ナンバー10、ディエチは無感情に近い声で答えた。活発な少女がセイン。砲身を構えているのがディエチである。
 対する龍騎だったが、そんな二人とは対照的にやる気のやの字もなかった。

「真司、始めるぞ」

「……何で戦うのさ。俺、今日はトーレ達とやったからいいって言ったのに」

 チンクの声に龍騎はそう不貞腐れるように返した。そう、龍騎はつい先程、トーレとの模擬戦を終えたばかりなのだ。しかも、チンクを交えての激しいものを。それが終わり、ゆっくり休みながら風呂にでも入ろうとしていた矢先、ジェイルが二人を連れてきた事に、今回は端を発する……



「じゃ、自己紹介をしなさい」

「は~い。あたし、セイン。ISはディープダイバー。ま、簡単に言えばどこでも潜れますよ~ってとこ。よろしく真司兄」

「し、真司兄?」

「そ。だって、ウー姉達がさんとかちゃんで呼んでるみたいだし」

 そうからからと笑うセイン。その明るさが今までいなかった性格だからか、真司も嬉しくなり笑顔を浮かべる。それに一人っ子だったため、真司は密かに兄弟に憧れていたのもあり、セインの呼び方も受け入れる事にした。
 そのやり取りが落ち着くまで、もう一人の少女は大人しく待っていた。そんな少女に真司は意外な印象を受けた。何せ、ナンバーズは皆個性豊かで、自我が強い者達ばかりだったからだ。

「えっと……初めまして。あたし、ディエチです。ISはヘビィバレル。簡単に言えば……砲撃、かな。よろしく真司兄さん」

「よろしく、セイン、ディエチ」

「……何故私はちゃん付けで、二人は呼び捨てなのだ」

 笑顔で答える真司を見つめ、こっそりとチンクがそう呟いていた。その周囲からは負のオーラが出始めているが、生憎それに真司は気付かない。それを横目にしながら、トーレはジェイルへ問いかけた。用件はこれだけですか、と。それにジェイルがとても良い笑顔で告げたのだ。

「今から真司と二人に戦ってもらいたいんだ」



 こうして、冒頭へと戻る。トーレとチンクの二人を相手に戦った真司は、それはもう疲れていた。そのため、本来なら余裕で戦えるはずのセインとディエチ相手に苦戦していた。
 動きは散漫、注意は怠る。挙句にストライクベントを奪われる始末。だが、全員が目を見張ったのはディエチが全力で放ったヘビィバレルの攻撃を、龍騎が耐え凌いだ事。

 ガードベントで呼び出した盾を二つ、隙間なく地面に突き立て、それをしっかりと手と体で支えたのだ。さしものドラグシールドも壊れはしなかったものの、あちこちが溶けており、ディエチの攻撃力の高さを龍騎は思い知った。
 だがそれでも、龍騎はあまり衝撃は受けなかった。何故なら……

(ま、北岡さんのファイナルベントよりマシだな)

 龍騎の脳裏に甦るゾルダのファイナルベント”エンドオブワールド”。あの攻撃に比べれば、ディエチの攻撃は可愛いものだと龍騎は思い、一人頷く。
 一方で衝撃を隠しきれないのはジェイル達だった。単純な攻撃力でいえば、今の一撃は現在のナンバーズでトップクラス。それを龍騎は防ぎ切ってしまったのだ。それが意味するものは、龍騎はSランク級の砲撃を単身で防ぎ切れるという事。

(いやぁ~、良い物を見せてもらった。でも……今でこれなら、一体サバイブはどれ程の力を持ってるんだろうねぇ……)

(これが真司の底力か……? いや、まだ分からん。それにしても……あれ程戦闘中に気を抜くなと言っているのに!)

(あれを耐え切るか。真司の奴、流石だな。私のISが通じないはずだ)

 ジェイル達はこれまでの事も含め、色々と考えを抱き……

(嘘でしょ? あれ喰らって無傷なんて……真司兄、カッコイイよ!)

(あたしの最大出力だったのに……でも、真司兄さんが無事で良かった……)

 直接対峙した者達は、初めて見た龍騎の力を前に感動と安堵を覚えていた。

「……もうこれでいいだろ? 俺、風呂入りたいんだけど……」

 そんな中、さっさと変身を解いて真司は告げた。その表情はかなり疲れていた……



おまけ

「は~……良い湯だな」

「おっ邪魔しま~す!」

「へ?」

「真司兄! 背中流したげるよ~」

「な、何でセインがここにっ?!」

「だ、だから止めようって言ったのに……」

「ディエチまで?! てか、少しは隠せ!」

「あ、真司兄ってばスケベ。あたしの体そんなに見ないでよ~」

「だから……あたしは……」

「だ、誰かセインを止めてくれ~!!」



セインはその後やってきたチンクとトーレに鎮圧され、ディエチは軽いお叱りだけですみました。
真司? ……顔を真っ赤にしたトーレとチンクに何故か成敗されました。




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やりたかった事は、翔一とはやての出会いと五代が何故月村家で世話になっているかです。

え? 真司の風呂だろって? ……ソンナハズナイデスヨ?

しかし、さり気無く原作よりも早くセインとディエチが起動した事がどんな影響を与えるのか。



[22476] 【一発ネタ】Masked Rider in Nanoha 10 (クウガ・アギト・龍騎)
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/11/22 09:36
「えっと……夜天の書やと呼び辛いから……リインフォースはどうや?」

「……管理者権限により、名称変更確認しました。はい、私はリインフォースですね、主」

「祝福の風、ね。良い名前だと思うわ、はやてさん」

「いや、そんなんでも……リンディさん達も呼び辛いやろ思て」

 アースラ艦内 艦長室。はやてを加えた今回の関係者全員が見守る中、管制人格が起動し、はやての提案により名前が付けられる事となった。
 そして、その命名により、リインフォースから夜天の書のバグについての説明がなされた。闇の書と呼ばれる事になった原因である防御プログラムは、リインフォースがはやての指示で少しではあるが手を出せるとの事。だが、はやての体の事等の根本的な解決には至らないので、一度完成させてから防御プログラムを完全破壊してほしいとの事。
 万が一に備え、守護騎士システム等は切り離し、はやての元に残るようにするともリインフォースは言った。

 それを聞いて、ユーノが疑問を浮かべた。それは、先程のリインフォースの話で触れられなかった部分。そう、管制人格であるリインフォースは、厳密には守護騎士ではない。ならば、防御プログラムを破壊した後、リインフォースはそうなるのかと。

「大丈夫だ。私なら何とでもなる」

「でも……貴方の存在を考えると何かまだある気がするんだ」

「何かって……何なの、ユーノ君」

 どこか不安そうな表情のユーノに、なのはも言いようのない不安を感じてそう尋ねた。それにユーノは、あくまで予想だけどと前置いて言った。

「そんな簡単に事が終わるなら、とっくに闇の書なんて物は消えているはずなんだ。でも、何度も闇の書は現れては、恐ろしい災いを起こしている。
 つまり、バグは簡単にどうにか出来るものじゃない。違いますか?」

 ユーノの声にリインフォースは何も言わない。だが、そのどこか諦めたような表情が何よりの証拠だった。
 それを見て、はやてが信じられないというように呟いた。

「……リインフォース」

「賢いな、少年。そうだ……おそらく私がいる限り、防御プログラムは再生する」

「?! じゃあ……っ!」

「私を最終的には消滅さ「大丈夫!」……何?」

 息を呑んだフェイトの言葉に、リインフォースが答えようとしたのを遮る声がした。その声の主に全員の視線が集まる。それは五代だった。いつものようにサムズアップを見せ、その表情は笑顔。だが、それに面食らっているのは、初対面のリインフォースとはやてのみ。
 他の者達は、それにやはりといった顔をし、一部等は呆れつつ笑みを浮かべ、なのは達や翔一は同調するかのように笑みを見せる。

「リインさんは死にたくないですよね?」

「……それは……」

「死にたくないなら、死なせない。殺される理由なんてない。絶対、助けますから……俺達みんなで!」

「そうです。俺達が力を合わせれば、必ず何とかなります!」

「「だから大丈夫っ!」」

 五代と翔一の二人が見せるサムズアップ。それに言葉を失うリインフォース。はやても同じように言葉を無くしたが、何かに驚いて周囲を見渡した。そう、二人以外にも……。

「な、なのはちゃん達まで……」

「にゃはは、これ五代さんといるとクセになっちゃって……」

「うん。でも、不思議とそう思えるんだ。大丈夫って……」

「きっと、五代さんがやるからだよ。大丈夫。その想いがこれに込められているんだ……」

 なのは達三人の言葉にはやてが何故か納得している横では、リインフォースが同じ仕草をしているシグナム達に驚いていた。

「私達も同じだ。五代や翔一が、仮面ライダーがいる。それだけで……そう思えるのだ」

「ええ。決して何事にも負けない。そんな気持ちにね」

「あたし達もなのは達もいる。それに仮面ライダーが二人もいんだ。怖いもんなんかね~よ!」

「……ガラではないが、そういう事だ」

「お前達……そこまで……」

 そう言いながらリインフォースも何故かそれを見ていると、心が不思議と穏やかになっていく印象を覚えていた。絶対の安心感。必ず、絶対上手くいく。そんな想いがそれから伝わってくるような感じを。

 そんな二人と違った意味で驚いている者がいた。クロノである。彼はサムズアップをしていなかったが、エイミィやリンディはやっていた。それは彼も予想していた。そう、彼が驚いたのはそこではなく、ある二人までがそれをしていたからだ。

「まさか君達まで……」

「その……えっと……」

「ま、まぁ意思表明ってやつかな?」

 アリアとロッテの二人は、何か戸惑いながらもその行為を止めようとはしない。ロッテの言葉を聞き、クロノ達はリインを助ける事と取ったが、実際は違う。二人は決意したのだ。犠牲を出さずにこの事件を終わらせる。そのために、グレアムが思い描いた計画とは違うものを支える事を。
 サムズアップと笑顔で戦う男と、家族として全力ではやて達を助けようとする男。その二人の心に惹かれた故に……

(お父様……この罰は必ず受けます。だから……許してください。初めての我侭を!)

(信じてお父様。必ずこいつらなら……仮面ライダーならやってくれるよ!)

この瞬間、アースラにいる者達の想いは一つになった。本来ならば有り得ない流れ。
それがもたらすのは、果たして希望か絶望か……




 その日、真司は困っていた。というのも、いつものように訓練をしてほしいとチンクにせがまれたのだが、同じようにセインが遊んで欲しいと言ってきたからだ。
 真司としては、チンクの日課である訓練に付き合ってやりたいが、妹分の頼みを聞いてやりたいとも思い、悩んでいたのだ。

(チンクちゃんとの訓練に付き合ってあげるべきだよなぁ……いや、でも、セインは妹みたいなもんだし……)

 そんな風に悩む真司を見て、チンクはセインへ視線を送る。それはどこか非難めいたもの。だが、それを受けてもセインは、どこ吹く風とばかりに視線を送り返す。
 その視線は、別に何も悪い事していないと言わんばかり。そんな二人に気付かず、真司は未だに悩んでいた。だが、ふとその悩みに答えが出る。

「そうだ! じゃ、訓練の方法を変えよう。模擬戦じゃなくて俺の世界の遊びにしてさ」

「遊びだと……?」

「真司兄、どんな遊び?」

「あのな……」

 これが、ジェイルラボ始まって以来の大騒ぎとなるとは、この時誰も想像しなかった……



「何? 新しい訓練法?」

「そうだ。だが真司が言うには、人数が多くなければ訓練にならんらしくてな。トーレにも声を掛けてくれと」

 トレーニングルームで軽く汗を流していたトーレ。そこへチンクが現れて告げた内容に、その表情が訝しむようなものへと変わる。真司の性格を知るトーレにしてみれば、何かあるとすぐに模擬戦をサボりたがる真司が、自ら訓練をするなど考えられなかったのだ。
 だが、それをチンクも良く知るはずと思い直し、まずは詳しく聞く必要があると尋ねるのだが……

「……どんなものだ?」

「詳しくはまだ知らん。だが、普段の模擬戦とは違う内容だ。セインはディエチを誘いに行った」

「……何か嫌な予感はするが……いいだろう。訓練場に行けばいいのか?」

「ああ。そこで待っていてほしい」

 返ってきた言葉に一抹の不安を覚えるものの、チンクの言葉に頷き、トーレは訓練場へ向かって歩き出した。その背中を見送ってチンクは小さく呟いた。私は嘘は言ってないぞ、と……



「真司兄さんが?」

「そうなんだよ。楽しくて訓練にもなるんだってさ。ね、やろうよディエチ」

 真司の洗濯物を干していたディエチだったが、セインの言葉にその手を止める。真司は、あまり訓練が好きではないとディエチは知っているのだ。そんな真司が、本当に訓練になるようなものをしたがるだろうか。そう考えたのだ。
 それをセインも理解しているからか、どこか楽しそうに笑みを浮かべて告げた。

「何かさ、ウー姉達も誘ってやるんだって。みんなでやるなんて面白そうじゃない?」

「……確かにそうだけど……」

「ね! やろ~よ、ディエチ。きっと楽しいって!!」

 ディエチの手を掴んで力説するセイン。それが何かおかしくてディエチは苦笑しながら頷いた。

「じゃ、洗濯終わったら訓練場ね。待ってるから」

「うん、分かった」

 元気良く去って行くセインを見送り、ディエチは首を傾げる。一体大勢でやる訓練みたいな遊びって、何なんだろうと考えて……



「私達も?」

「参加ぁ?」

「そ! どうせならみんなでやろうって。だってさ、姉妹だろ? たまにはみんなで何かしないと」

 書類整理等の事務仕事を片付けていた二人の前に現れた真司は、新しい訓練法を検証してほしいと言って二人の参加を求めた。無論、二人は戦闘用に作られてはいないので、訓練などする必要はない。だが、真司の姉妹全員で何かという言葉には、確かに思う事もあるもので……

(真司さんの言う通り、今後の計画のためにも、妹達とは色々と意思疎通をする必要があるわね……でも……)

(シンちゃんの考案した訓練法ねぇ~……みんなでするってところにも興味はあるけど……どうしたものかしら……)

(やばいな。もう一押ししないと、この二人は動かせないぞ……うしっ!)

 何かを悩んでいるように見える二人を動かすため、真司は奥の手を出す事にした。それは何かと言うと……

「訓練の勝者には、今日の晩飯注文権が!」

「「やるわ」」

 即答だった。その二人の声に真司は隠れてガッツポーズ。そう、既にジェイル達は栄養食には満足出来ず、真司の料理を密かな楽しみにしているのだ。
 しかも、その注文権などは、未だに食べた事のない料理を頼む絶好の機会。ま、ここのところの二人の密かな悩みは、体重増加だったりするのだが……

(最近運動不足だったし……丁度いいわね。そう、これは体のためよ。決して食事目当てではないわ……何頼もうかしら?)

(まぁ、私がやるからには勝利確実。少しは体も動かさないとねぇ。体調管理も重要だし……何食べるか決めておかないと)

 こうしてウーノとクアットロも参加が決定して、真司は心から笑顔を見せる。そして、その視線をジェイルのいる部屋へ移し呟く。

―――後はジェイルさんだけだ……



 それから五分後、訓練場にラボにいる全員が揃っていた。何故かやる気十分のジェイル、ウーノ、クアットロ。待ちきれないといった表情のセイン。どこか不安や疑問が晴れない感じのトーレとディエチ。そして、どこか嬉しそうな雰囲気のチンク。
 ちなみに、ジェイルは言うまでもなく、サバイブを条件に参加しました。それと、こっそり注文権も。
 そんな七人を前に、真司は嬉しそうな笑顔を浮かべて頷いた。

「じゃ、これからみんなでやるのは、鬼ごっこです」

「「「「「「「鬼ごっこ?」」」」」」」

 真司の口から告げられた言葉に、七人の声が重なる。それに真司はやはりという顔をして、鬼ごっこの説明をした。誰か一人が鬼となり、残りの者は隠れたりして鬼から逃げるもの。鬼に体を触られたらその場で終わり。制限時間内に鬼は全員捕まえたら勝利。逃げる方は、時間内逃げ切れれば勝利となり、もし勝者が複数いれば、日にちを分けて注文に応じると真司は告げた。

 そして、決めたルールは変身とIS禁止。後、攻撃もなしで、隠れていいのはラボの一部限定。制限時間は一時間。その間、ただ知恵と体力のみで勝利を目指す事となった。もし反則行為をした場合は、一週間栄養食と真司が告げると、七人それぞれに大小の戦慄が走った。

「じゃ、鬼はじゃんけんで決めよう」

「「「「「「「じゃんけん?」」」」」」」

「あ~、これもか……」

 真司、じゃんけん説明中。全員が石が紙に負けるのは理解出来ないと言い出し、真司が説明に困り一時中断。結局、真司の世界では、それでみんな納得してるとごり押し、説明終了。
 そしてじゃんけんの結果、鬼は真司となり、ジェイル達はそれぞれ隠れるために去って行く。律儀に目を閉じ、三十数える真司。そして、目を開け走り出す。

「絶対、見つけてやっからな」



 それからはもう騒々しいにも程がある程だった。真司が最初に見つけたのはトーレ。隠れるのは性に合わんと真司を待っていたらしい。それを聞き、真司は肩透かしを食らった気分になったが、急いで追い駆ける。それを余裕を見せて逃げるトーレ。その逃走劇を遠目で眺め、チンクはどこか寂しい気持ちになり、真司の後ろから声を掛けた。
 それに気付き、目標をチンクへ変更する真司。だがチンクも素早く、中々追いつけない真司。そのままチンクは逃げ切り、真司は地面に大の字で転がった。

 そうして数分後、真司はおもむろに起き上がると、狙いをトーレやチンクのような運動系から、ウーノやクワットロの事務系へと変更し、動き出す。
 それを離れて見つめる人影二つ。

「これで終わりか。ったく、情けない……」

「……もう、私を追ってはこんか……」

 そうどこか寂しげに呟くトーレとチンクであった……。



「こないね……真司兄」

「そうだね……」

 一方セインとディエチは二人揃って入浴中。それというのも、セインの考えた作戦が原因。それは、真司に触られないようにすればいい。ならばどうするか。簡単だ。真司が体を直視出来ないようにしよう。
 そして、入浴と相成った。ディエチが同伴しているのは、真司に見つかった際、セインを取り押さえるため。前回の騒ぎで真司がとばっちりを喰らったのを、ディエチは繰り返さぬようにと。どこまでも兄想いのディエチだった。

「ね、ディエチはさ、真司兄をどう思う?」

「え? どうって……」

「あたしさ、真司兄に言われたんだよね。戦闘機人って言葉、あまり使わないでほしいって」

「セインもそうなんだ。あたしも言われた。戦うために生まれたんじゃない。みんな、幸せになるために生まれたんだからって」

 セインもディエチもその言葉を言われた時、何かが自分の中で動いたのだ。それは、ある意味で自分の存在を否定する言葉。でも、それに込められたものは、紛れも無い真心。戦うために生きるのではなく、幸せになるために生きて欲しい。その言葉の意味を考えるたび、二人は何故か心が苦しくなるのだ。
 自分達が生まれた訳、その理由。それらを理解しているからこそ、真司の言葉は痛い。創造主であるジェイルの目的。それを果たすための存在が自分達なのだ。

(真司兄に、計画の事は話すなってドクター達は言ってるけど……隠し事するのって何か嫌なんだよね)

(真司兄さんは何も知らずにドクターに手を貸してる。もし、あたし達がしようとしてる事を知ったら……嫌われるかな)

 元々ナンバーズには血の繋がりはない。故にその絆は歪だったのだ、本来は。だが、真司がそれを補うようにいた。血の繋がりどころか何の繋がりもない存在。それが何故か、いつの間にかこのラボの中心にいた。
 ジェイルやクアットロ等の気難しい者達とは、裏表ない言動や素直な性格で信頼を得て、トーレやチンクは、模擬戦や日常の他愛ない事で繋がりを作り、セインやディエチは兄と呼ばれたためか、熱心に世話を焼いてくれる。
 そして、その真司がそれらの出来事を他の者達へ話す事で、それを話題に食事時は盛り上がる。本当の家族のような構図が出来上がっていたのだ。

「……ディエチ、あたし決めた事があるんだけど……聞いてくれる?」

「何?」

「……もし、真司兄がドクターと敵対するなら……あたし、真司兄の味方する」

「っ?! それって……」

「だってさ! 真司兄は言ったんだ! 仮面ライダーになったのは、戦いを止めるためだって……あたし……真司兄と戦いたくないよぉ」

 立ち上がり、セインは涙を浮かべながらそう言った。まだ起動してたった五日。それでも、セインは元来の性格故か真司に強く影響されていた。積極的に関わったせいもあるかもしれないが、それ以上にセインが少女だったのも関係している。そう……

(あたし、誰が何て言っても真司兄を助ける。お兄ちゃんだもんね、真司兄は)

 それは兄妹愛なのだろう。だが、その裏には本人も知らない恋慕がある。今はまだ影すら見せぬ想いなれど、それは確かにセインの中に息づいている。
 そんなセインをディエチは見つめ、驚愕と同時に羨望の眼差しを送っていた。

(セインは自分の道を決めたんだ。あたしは……そんな事出来ないよ……)

 ジェイル達を裏切る事は出来ない。でも、真司と戦いたくないのはディエチも同じ。訓練では誰よりも強く、家事を共にしたり、色々な話をしてくれる優しく頼れる存在。それがディエチにとっての真司。
 故に分かる。セインの気持ちは。だが、ディエチはそれと同じ決断は出来ない。姉妹を敵にする事など出来ないのだ。それをセインも分かっているのか、目元を拭いながらディエチへ言った。

「大丈夫だよ。時間は掛かるだろうけど、あたし達で、何とか真司兄とドクター達を敵対させないようにしよう」

「……出来るかな?」

「う~ん……まぁ確かにかなり厳しいとは思うけどさ……やるしかないでしょ」

「そうだ、ね。やるしかないね」

「あ、それとさっきの話は」

「分かってる。誰にも言わないから」

「えへへ、よろしく~」

 そう言ってセインは浴槽へ入り直す。やや冷えた体に温水が心地良い。そう感じてセインは笑みを浮かべる。そんなセインにディエチも笑みを見せ、目を閉じて静かに思う。
 いつか来るかもしれない最悪の事態。それを防ぐために、自分も出来る限りの事をしようと。

そんな風にゆったりする二人だったが、この後、衣服が脱衣所にあるのを真司に見つかり、呆気なく失格となった……



 ジェイルの研究室。そこに真司はいた。彼は思いついたのだ。ここなら、ラボのどこに誰がいるか良く分かるのではと。

「えっと……確かこれで……お、出た出た」

 モニターが複数表示され、その一つ一つに目を向ける真司。すると、その内の一つに、話し合うウーノとクアットロの姿があった。何を話しているのか気になった真司は、そのモニターをメインへ変更しようとして、コンソールを操作しようとしたのだが……

「あれ? どれだっけ……?」

 操作が分からない。いつもウーノやクアットロが手軽にやっていたので、自分にも簡単に出来るだろうと踏んでいたのだが、そこは素人の考え。適当にやれば出来るだろうと、真司が何かのボタンを押そうとした瞬間―――何かがその手を止めた。

「それはダメだよ!」

「おわっ!? ジェイルさんかぁ……びっくりした」

 物陰に隠れていたジェイルが飛び出し、真司の手を押さえたのだ。それに驚く真司だが、相手がジェイルだと分かると安心し、自分が押そうとしていたボタンについて尋ねた。それにジェイルが答えたのは、それは万が一の時用の証拠隠滅システム。つまり自爆装置の起動スイッチだと言った。

「そ、そんなもん本当にあるんだ……」

「そりゃあそうさ。ここのデータを……悪用されたら不味いしね」

「なるほど」

 どこか皮肉っぽく笑うジェイルに真司は何も疑わずに頷いた。そして、その瞬間何か思い出したようにジェイルの手を掴んで言った。

「ジェイルさん、失格だから」

「……今のは無しに……「無理」……だろうねぇ……」

 容赦ない真司の言葉に、どこかがっかりしながらジェイルは肩を落とした。この後、ジェイルはウーノ達を捕まえに行った真司を見送り、トボトボと訓練場へと歩いていくのだった……



「……じゃ、私が勝ったらクアットロの料理も注文するわ」

「はい。なら、私はウーノお姉様のものを……」

 そう、二人が話していたのは勝利後の取引。どちらが残れば互いの注文を頼める。そのため、いざという時にはより逃げられる可能性の高い方を逃がそうと。そんな話し合いをしていたのだ。
 そして、取引成立と二人が不敵に笑う。この時、二人が安全を考慮して物陰に隠れていなければ、結末は変わっただろう。しかし、残念ながら今回はそれが裏目に出た。

 二人の肩が同時に叩かれた。それに二人は何かと思い振り向いて―――固まった。

「ウーノさんとクアットロ、失格」

「どうしてここが……」

「分かったの……」

 信じられないとばかりに呟く二人。それに真司は先程の出来事を告げ、二人を驚かせた。確かにラボの施設の使用は禁止されていなかった。それを真司は思いつき、行動に移したのだ。その機転と発想に二人は改めて真司の凄さを知った。

(まさかそんな発想へ行き着くなんて……真司さんってたまに恐ろしいのよね……)

(まさかシンちゃんに知略面で負けるなんて……でもぉ、これで次回は私のか・ち……)

 どこか感心したような二人に、真司は笑みを浮かべ「俺も中々やるだろ?」と尋ねた。それに二人は少し笑みを浮かべて頷いた。その反応に笑顔でガッツポーズを取る真司。そんな真司を二人は微笑ましいものを感じ、微かに笑う。
 こうして、残りはトーレとチンクだけとなったのだが……



「え~、それでは結果を発表しま~す」

 訓練場に響き渡る真司の疲れた声。その場にいる者達は、そんな真司にそれぞれ苦笑。結局真司はトーレとチンクに逃げ切られ、最後の最後までくたくたになるまで走り続けていたのだ。
 その光景を五人は眺め、微笑んでいたりしたのだが。

「勝者、トーレとチンクちゃん。で、勝者のご褒美として、今日の晩飯注文権が与えられま~す」

「注文、か……何かあるか、お前達」

「ドクター、私は特にありませんので、どうぞご自由に」

 チンクはセイン達へ、トーレはジェイルへとそう振ったが、そこにいた全員が揃って首を振った。それは二人の権利だから、二人が決めるべきだと真司も続けた。
 それに二人は困り顔。だが、このままでは埒が明かないと思ったトーレが言った。

「なら、以前チンクが手伝ったアレだ」

「アレか。確かにアレならいいな」

 どこか嬉しそうに頷くチンクを見て、不思議そうなセインとディエチ。そんな二人にウーノが笑みを浮かべて告げた。二人が起動する少し前、真司を手伝ってチンクが一緒になって作った料理の名を。

「実はね……」



その日、ジェイルラボに食欲をそそる香りが立ち込めた。香辛料をふんだんに使った本格的インドカレーと、家庭的な日本カレーの香りが。
そして、この日食べたカレーの美味しさに感激したセインが、一週間に一度はカレーがいいと言い出し、カレーのレギュラー化が決まる。
その後、カレーは後のナンバーズ達にも好まれ、セインは真司のお手伝いからカレーだけは任されるまでになるのだった……



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やりたかった事は、それぞれの影響力の大きさ。知らず知らずで影響を与えるのが仮面ライダー達。

そして、それは必ず良い方向へと世界を動かす力と変わる。そんな感じの話。

次回でクウガ・アギト組は大きな動きがあります。龍騎はいつもと同じかな?



[22476] 【一発ネタ】Masked Rider in Nanoha 11 (クウガ・アギト・龍騎)
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/11/22 09:38
「レイジングハート・エクセリオン」

「バルディッシュ・アサルト」

「「セットアップ!!」」

””セットアップ””

 その声に応え、待機状態から姿を変える二人のデバイス。そう、シグナム達のデバイスのように『カートリッジシステム』を搭載し、生まれ変わった愛機。それがレイジングハート・エクセリオンとバルディッシュ・アサルトである。
 それを展開し終えたのを見て、はやてがリインフォースへ視線を送る。それに頷き、周囲に向かってリインフォースが告げる。

「では、そろそろ始めるぞ」

 その声に全員が頷く。そして、シャマルが旅の扉と呼ばれる魔法を展開する。その相手はエイミィだ。
 既に蒐集も終わりに近付き、残すは二頁と半分。それを埋めるため、エイミィが自分を蒐集させる事を申し出たのだ。それなら完成の時期を自分達で決められるからと。
 それにクロノが猛反対した。いくら危険が少ないとは言え、何が起こるかわからない。それに、残りが少しなら魔法生物でも十分だとも。

 そのクロノに全員が驚いていた。常に沈着冷静を心掛けるクロノ。それがまるで感情をむき出しにして、エイミィに反論したのだ。それにエイミィも驚くも、何故か嬉しそうに笑みを浮かべて言い返した。
 誰かが疲弊する事無く、蒐集する事が出来ないのは、防御プログラムと戦う際、致命傷になるかもしれない。だからこそ、大した魔法も使えない自分が適任なのだと。
 それに尚も反論しようとするクロノへエイミィは念話で告げた。

【もういいよ。クロノ君の気持ちは伝わったからさ……ありがとう】

【……そんなんじゃない。僕達には君の管制が必要だからだ】

 どこか照れるような拗ねるような答え。それを聞き、エイミィは心から笑みを浮かべるも、それを隠すように全員に告げた。

「あたしもみんなと一緒に戦うよ。隣じゃなく、このアースラからだけど。みんなの笑顔のために、ね!」

 それに全員が頷き、笑顔とサムズアップを返す。クロノもやや憮然としながらも、同じようにサムズアップを返す。こうして、現在に至るのだ。
 現在アースラはとある無人世界の衛星軌道にいる。そして、五代達はその無人世界で待機。作戦はこうだ。まず、エイミィから蒐集し、完成した闇の書をはやてがアクセスし、リインフォースと共に守護騎士プログラムなどを切り離す。そして、それと並行してなのは達により、防御プログラムへの攻撃を開始。はやてとリインフォースが闇の書から解放されるために、魔力ダメージで大ダメージを与える。
 そして、解放されたはやてとリインフォースを加え、おそらく独立するであろう防御プログラムを撃破し、そして、とどめは防御プログラムのコアをクウガが封印する。

 その際、起きる可能性の高い大爆発を考慮し、五代が無人世界を希望したのだ。誰にも何にも被害を出さずに済む場所として。
 それに応え、リンディ達が見つけ出したかつて資源採掘に使われた世界。今や住む者もなく、ただ荒れ地が広がるのみ。それを見て、五代は真剣な表情で頷いたのだ。
 ここなら、思いっ切り戦える、と。

「そういえば、どうして翔一君はバイクを?」

「あ、これですか。きっと空中戦になると思って持ってきたんです。リンディさん達も同じような事聞いてきましたけど」

 五代は隣にいる翔一にそう尋ねた。翔一の傍には、一台のバイクがある。この世界に来た時、乗っていたものだ。五代は翔一の答えに疑問を感じるものの、それを尋ねる事は出来なかった。
 感じたのだ。何かが地の底から這い出るような悪寒を。

「これで……完成だ」

 そうリインフォースが呟いた瞬間、闇の書が鈍く輝き出す。そして、リインフォースとはやてを包み込み、その足元にはベルカ式の魔法陣が浮かび上がる。
 それを見て、五代と翔一は揃って構える。それは、彼らが戦う意志を表す動作。

「「変身っ!」」

 二人の想いに呼応し、ベルトが光る。そして、二人の体を変えていく。それが終わった時、二人を見ていた全員が感じた。絶対に勝てると。その悲劇をここで終わらせるんだと。
 そんな想いを与えた二人のヒーローは、リインフォースと同じ姿をした闇の書の闇とも呼ぶべき存在を見つめていた。

「いいか! まずは相手に大ダメージを与える。サポート組は支援に徹し、前線組は攻撃に集中しろ!」

 クロノが先陣を切るように手にしたデバイスを構える。そのデバイスの名は”デュランダル”。アリアとロッテがグレアムから与った、対闇の書用のデバイスだ。
 グレアムはリーゼ姉妹から心変わりとその理由を聞かされ、何も言わずにデュランダルを渡した。その顔は何か憑き物が落ちたように清々しく、二人はそれを見て、改めて思ったのだ。
 誰よりも犠牲を出す事を嫌っていたのは、グレアムだったのだと。

「ロッテ、頼んだわよ!」

「任せろって! 行くよ、翔一!」

「はいっ!」

 ロッテに続けとアギトもバイクに跨る。それにバイクが姿を変え、マシントルネイダーと呼ばれるものへと変わった。それに周囲が驚き、防御プログラムさえ僅かに動揺していた。
 更にそこからマシントルネイダーは形を変え、アギトが飛び上がると同時にスライダーモードと呼ばれる飛行形態へと変わる。

「嘘っ?!」

「空飛ぶバイクかよ!?」

 目の前で見ていたリーゼ姉妹が声を上げる。アギトはそんな二人に構わず、視線をクウガへ向けた。それだけでクウガは何かを悟った。

「そうか!」

 そう言ってアギトの後ろへ飛び乗るクウガ。それに頷き、アギトはマシントルネイダーを上昇させる。その速度は周囲が想像していたよりも早く、クウガだけでなく、その場にいる誰もが驚きと希望を抱いた。

「よし、超変身っ!」

 クウガは今の姿のままでは戦いにくいと判断し、青いクウガへと変わった。

 ドラゴンフォーム。跳躍力に優れ、俊敏さは全フォームの中でも断トツ。その反面、筋力は落ちるため、専用武器『ドラゴンロッド』を使い戦う。
 長き物を手に、邪悪をなぎ払う水の心の戦士である。

「五代雄介っ! これを使え!」

「っと、ありがとうクロノ君。これ、使わせてもらうよ」

 そして、クウガにクロノが渡したのは、クロノの本来のデバイス”S2U”。それを待機状態から変化させると、その形状が青い棒へと変わる。
 そして、その上下が伸びたのを見て、クウガは頷く。これで準備は整ったと。

 視線を戻せば、シグナムとフェイトを中心になのはとヴィータが的確にダメージを与えている。

「五代さんっ!」

「分かったっ!」

 だが、それでもまだ大きな一撃は加えられない。そこへクウガが虚を突いて飛び掛った。

「おりゃあ!!」

「ぐっ……」

 スプラッシュドラゴンと呼ばれる一撃。突き当てられたロッド。それを離し、クウガは落下していくものの、即座にアギトがそれを助けに回る。だが、その間クウガの視線は防御プログラムへ注がれていた。
 腹部を押さえている防御プログラム。そして、その手がゆっくり離される。そこには―――。

「……よし」

 封印の文字が浮かび上がっていた。それを確認し、クウガは小さく頷く。更に防御プログラムはその文字に苦しんでいた。まるで何かに抗おうとするように。
 それを見たユーノが叫ぶ。やはり防御プログラムは闇の存在になったため、クウガの封印エネルギーに弱いのだろうと。それを聞き、全員に希望の光が灯る。本来ならば、きっと苦戦した相手。それが天敵とも呼べる存在がいる事で、絶望どころか希望さえ持てる。

「五代さん! 効いてますよ!」

「うん。なら、もう一度行くよ!」

「分かりました! 俺が必ず着地地点に回ります」

「お願い!」

 そんな周囲の空気を感じながら、二人のライダーは互いのやるべき事を確認し合い、再び行動開始。それに負けるなとなのは達にも気合が入る。

「ディバイン……」

「サンダー……」

”バスター”

”スマッシャー”

 桃色と黄色の輝きが防御プログラムの動きを止める。その隙を見逃す程、ベルカの騎士は甘くない。

「レヴァンテイン!」

”シュランゲフォーム”

「アイゼンっ!」

”了解”

 連結刃と呼ばれる鞭のような形態へ変わるレヴァンテイン。それを駆使し、防御プログラムを拘束するシグナム。そこへ小さな鉄球を魔力でコーティングしたものを浴びせるヴィータ。
 それを喰らい、ややよろめく防御プログラム。そこへ青い光のバインドと緑の光のバインドが現れ、その体を再び拘束した。

「逃がさん!」

「五代さん、今です!」

 ザフィーラとユーノのバインドを何とか破壊しようとするも、異なる術式のバインドを同時に破壊するのは困難。だが、それも瞬く間に破壊した防御プログラムだったが、その僅かな時間さえ―――。

「おりゃあぁぁ!」

「かはっ……」

 クウガにとっては好機。三十メートルを一気に飛び上がる跳躍力を活かし、視界の下から突き上げるようにドラゴンロッドを突き立てる。
 そして、そのまま勢いを殺さず、クウガは防御プログラムと共に上空へ。そして、そこに待っていたのはクロノ。

「喰らえ!」

”ブレイズカノン”

 得意の砲撃魔法を叩き込むクロノ。器用にクウガが離れた瞬間を逃さずに放つところに、彼の優秀さが光る。
 それのダメージと封印エネルギーが防御プログラムを襲う。先程よりも文字が消えるのも遅い、その痛みに苦しむ防御プログラム。それを見て、誰もが内心で苦しんでいた。何せ外見はリインフォースなのだ。頭では割り切っていても、優しい彼女を苦しめているように見える光景に、クウガ達は心を痛めていた。

【なのはちゃん達、聞こえとるか! こっちは終わった。早くこの子を止めたって!】

 はやてからの作業完了の声。それに気持ちを入れ替えるなのは達。それを見て、クウガ達も状況を把握し、頷き合う。

『魔導師組はとどめに備えて準備! 騎士達と翔一さんで、雄介さんと共に彼女へ攻撃を続けて、もう一度だけ封印攻撃を仕掛けて!』

 エイミィの指示でそれに全員が了解の意志を示す。なのはを始めとした魔導師達は、この後戦う事になるだろう防御プログラムへの対策のため、簡易的な打ち合わせ。クロノのデュランダルの氷結魔法で動きを止め、その間になのはとフェイトがそれぞれでダメージを与えつつ、大威力魔法の準備。ロッテは二人の護衛を務め、ユーノとアルフ、アリアの三人はシャマルと共に、クウガのとどめと手助けするための転送魔法を担当。
 実はこれが今回の一番の要。というのは、クウガの目の前に転送するのではなく、クウガが放つ一撃へ当たるように転送するのだ。そのタイミングはシビアだが、再生能力が高いと思われるコアを叩くには、刹那の間さえ惜しいのだ。

「いいな? 君達に掛かっているようなものだからな」

「分かってるよ。僕らだって、やる時はやる!」

「そうだよ、少しは信じな!」

「私達が絶対五代さんを、仮面ライダーを手助けします!」

 三人の言葉に頷くクロノ。なのはとフェイトもそれを聞き、笑みを浮かべた。その視線の先では、クウガがもう一度スプラッシュドラゴンを炸裂させていた……



「どうだ?」

「やったか?」

 ヴィータとシグナムが揃って防御プログラムへ視線を向ける。その途端、はやてが弾かれるように現れた。それに驚くシグナム達だったが、即座にアギトがそれを受け止め、安堵した。そして、ザフィーラが何かを見て叫んだ。

「見ろ! 奴の体を!!」

 その声に全員の視線が防御プログラムへ向く。見れば、その周囲から紫のような色の暗いオーラが滲み出している。その原因がクウガの付けた文字である事は、誰も疑っていない。そう、防御プログラムの腹部にはその文字がはっきりと浮かんでいたのだから。
 だが、その光景に一番最初に違和感を抱いたのはクウガだった。

(何でリインさんのままなんだ……?)

 本来であれば、未確認達は文字をきっかけに一様にひびを生じ、爆発していった。だが、今回はそれがない。それは彼らにあった装飾品がないからだと、クウガは知っている。
 だが、リインフォースが解放されないのは不自然なのだ。文字は鮮明に浮かんでいる。でも、その後に続く事が起こる気配がない事に、クウガは一人言い知れぬ不安を抱いていた。
 一方で、アギトもまた不安を抱いていた。それは、防御プログラムから滲み出しているオーラにある。そのオーラを、彼は見た事があったのだ。

(あれは……”邪眼”と同じものだ……)

 そう、彼がこの世界に来る前に戦った邪眼。それが復活した際、全身から滲ませていたのがそれだった。

「おかしいんや! リインが中に何かおるって言って、そいつがどうも切り離しを邪魔しとるんよ!」

 そのはやての言葉に全員が戦慄する。視線の先では、依然防御プログラムが苦しんでいる。だが、その雰囲気からクウガとアギトは何かを感じ取っていた。

((何かが……出ようとしてる……))

その予想は二人の想像を超える形で当たる。それは、本当の”闇”との戦いへの幕開け……



ついに始まった闇の書の闇との決戦。
なのは達の協力やクウガの力により、防御プログラムを追い詰めたに見えたのだが、はやての言葉に不安を抱く二人の仮面ライダー。
果たして、闇の書の闇に潜むモノとは? 本当にリインフォースを助ける事が出来るのか?



 いつものように流れる時間。穏やかな日々。それが永遠に続くと誰もが、いや彼だけはそう思っていた。これは、そんな頃の話……

「次に目覚めるのは、セッテだっけ?」

「そうだよ。七番目だからね。でも、どうもドクターがセッテとオットー、ディードはクア姉に任すんだって」

 真司の言葉に笑って答えるセイン。だが、後半はどこか残念そうだった。それを聞いて、真司も同じように残念そうな表情を浮かべる。
 きっと、クアットロが調整を行なう事になった以上、セッテ達の起動はおそらく遅くなるだろうと思ったからだ。クアットロは完璧主義者。自分の納得いくまで三人を起動させないだろう。

「……俺、少しクアットロに言ってみる」

「真司兄……」

「だってさ、やっぱ家族は多い方がいいって。楽しいし、賑やかだし。俺もセインやディエチみたいな妹が出来て嬉しかったしさ」

 だから、早めに起こしてくれるよう頼んでみる。笑顔でそう言って、真司はセインへ手を振って走り出す。行き先は、ナンバーズの調整室。この時間なら、ジェイルかクアットロがいるはず。そう思って真司は走る。
 その背中を見送って、セインは嬉しそうに小さく呟く。

―――やっぱりあたし、真司兄のそういうとこ好きだよ。



「セッテちゃんを早めに出して欲しい?」

「そう。何をするのか知らないけどさ、基本的な事はみんな同じなんだろ? だったら―――」

「シンちゃ~ん……セッテちゃん達は、私がドクターに任されたの。つまりぃ~、私の好きにして、い・い・の」

「ふざけるなよ! 妹だろ!? 早く起こしてやりたいって思わないのかよ!」

 そんなクアットロの言い方に、いつもなら真司は怒る事無く何か返すのだが、今回はその発言に珍しく怒りを見せた。声を荒げ、視線は確かな怒りを宿し、クアットロを睨みつけている。
 その鋭い視線には、さしものクアットロも気圧され、一歩後ずさる。

 その後も真司は叫んだ。確かにクアットロ達は普通の人間とは違う体だけど、それでも心があるのだから、早く起こしてやって世界を見せてやりたいと。楽しい事や嬉しい事、辛い事や泣きたい事も全部ひっくるめて、感じさせて、教えてやりたいんだ。そう真司は言い切って、クアットロに告げた。

「……少し言い過ぎたかもしれないけど、俺、この話に関しては絶対譲らないから」

 そう告げて、真司は部屋を出ようと扉へと向かう。その後姿を黙って見つめるクアットロ。きっと、昔の自分ならば真司の言葉に反論していたか、認めた振りをして流していただろう。
 だが、今彼女が考えているのは、そのどちらでもない。

(”人らしさ”なんて戦闘機人には不要。感情を削ぎ落とし、機械に近い存在にする……それが私のプラン。でも……)

 視線は扉の前で何故か止まっている真司へと向けられている。

「だけど……クアットロがジェイルさんに任されたのも事実だし……俺、納得してもらうまでまた来るからな」

 そう告げ、真司は部屋を出て行った。その言葉を理解し、クアットロはやや沈黙したものの、すぐに笑い出した。それは嘲笑うでも馬鹿にするのでもなく、本当に心から可笑しくてしょうがないというように。

(”心”……か。それが一番不要って思ってたのに、私が笑ってるのもその”心”のおかげなのよね。もう、シンちゃんのせいよ、私が狂ったの)

 そんな事を考え、クアットロは目元を拭う。どうやら笑い過ぎて涙が出てきたようだ。そう思い、クアットロは扉へ向かって告げる。

「いいわ。シンちゃんがそう言うなら、セッテちゃん達は心を大切にしてあげる。その代わり、貴方が責任持って教育してね? シンちゃん……」

 そう告げて、クアットロは調整へ手を加える。先程まで組み上げていたプランを白紙にし、出来うる限り手を加えず”妹”達をありのまま目覚めるようにと。
 彼女は知らない。先程の涙が笑いから流れたものではなく、嬉しさから流れたものだと。妹達だけでなく、自分達全員を心から想った真司の気持ちに触れた事。それが彼女に流させた涙なのだという事を。
 ナンバー4、クアットロ。本来一番狡猾であったはずの彼女が変わった。そう、それはまさしく彼女の言った通り、真司が狂わせたのだ。戦闘機人ではなく、人として機能するように……



 この日から、クアットロは心無しか物腰が柔らかくなったと、セインとディエチは感じるようになる。それはチンクや真司も同じで、一体何があったのだろうと全員が首を傾げたが、クアットロはそれに悪戯っぽく笑うのみ。
 後に、ナンバーズ後発組(7以降)の中で姉の評判が言われるようになり、トップはチンクだったが、なんと二位はクアットロとなる。理由は一つ。からかいなどをしてくるが、自分達をきちんと見ており、的確なアドバイスやさり気無くフォロー等をしてくれる事だとか。

また一つ、運命が変わる。誰にも知られず、誰も知らず、世界の平和のために動く者がいる。
彼は知らない。自分がやがて来たる危機を未然に防いでいる事を。それを知る時、彼に待つのは別れか、それとも……


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続き。そして、ここから完全なライダー的展開となります。

クウガ・アギト組はまさかの敵の出現&A's終了まで突っ走る予定。龍騎は、いつもと同じですが、そろそろ動きも……

そして、予想を超えるような出来事が彼らを待ち受ける! ……予定。



[22476] 【一発ネタ】Masked Rider in Nanoha 12 (クウガ・アギト・龍騎)
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/11/22 09:40
 周囲を覆う重苦しい空気。それは比喩ではない。本当に空気が重くなったのだ。いや、正確には重くなったのではなく、息苦しさを覚えるようになったと言うべきだろう。
 その原因は、その場にいる全員の視線が注がれている相手にある。防御プログラム。またの名を闇の書の闇だ。それを見つめながら、アギトは腕の中の少女へ問いかけた。

「はやてちゃん、一体何が……」

「良く分かれへんけど、リインがわたしだけは言うて出してくれたんや! このままやと乗っ取られるって」

「主、それは―――っ!?」

 はやての言葉を詳しく聞きだそうとしたシグナムだったが、それは出来なかった。突如、恐ろしい程の魔力と威圧感が周囲に溢れたからだ。
 それに視線を戻すと、防御プログラムは動きを止めていた。先程まで苦しんでいたにも関わらず、今は身動き一つしない。完全な無防備。しかし、誰も何もしようとはしなかった。クウガやアギトさえその異様さに黙って見つめるしか出来ない。

 そして、ついに防御プログラムに動きがあった。一度痙攣したかのような動きを見せたと思った瞬間、リインが叫んだ。

「主! 皆! 逃げろっ!!」

 その声をキッカケにリインから”何か”が出て行った。黒い塊のようなものが。それは地面へ落下し、轟音を立てる。舞い上がる土煙。それに視界が塞がれた瞬間、何か嫌な予感がしたクウガは叫んだ。

「超変身っ!」

 ペガサスフォームへ変わり、その超感覚で誰もが見えない煙の向こうを見る。その時、クウガは有り得ない感覚を受ける。

(っ?! これ……あの時と……っ!?)

 それは未確認と戦っていた頃の事。五代は何故か誰かに見られているような感じを受け、クウガへと変身し、ビルの上から周囲を探った事があった。そして、その時も同じようにペガサスフォームへと変わり、超感覚でそれを察知しようとして、同じような強烈な威圧感と恐怖心を受けたのだ。
 後にそれは、未確認の首領であり、究極の闇と呼ばれるダグバであったと五代は知った。今、クウガが受けている感覚は、それと同じものだった。

「っ! 超変身っ!」

 急いで体を赤に戻す。あの時は慣れていなかった事もあり、気絶して二時間の変身不能まで陥ってしまったが、ダグバと戦い、それを克服した今のクウガはそれに打ち勝つ事が出来た。

 マイティフォーム。格闘戦に優れたこの姿が、クウガの従来の姿となっている。
 邪悪な者あらば、希望の霊石と共に、炎の如くそれを倒す戦士である。

(見えなかったけど、アレは……不味い!)

「みんな、気をつけて! アイツは……多分クウガと同じぐらいか、それ以上に強い!」

 クウガの告げた言葉に全員の顔色が変わる。アギトでさえ、その発言には驚いていた。だが、彼もその理由に心当たりがあるのか、なのは達に比べればまだ軽いものだった。
 そう、クウガがダクバと同じ感覚を感知していた時、アギトもまたある感覚を感知していたのだ。

(アンノウン……いや、あれは発電所で感じたものと同じだ)

 それは忘れもしないあの邪眼との戦いの際、何度も感じたものと同じだったのだ。そして、クウガさえ予想出来ない相手の正体に、アギトは薄々だが検討をつけていた。だが、それは出来る事なら外れていて欲しいと思っている。
 だからこそ、アギトは口に出さない。言えば、それが本当になりそうだったから。しかし、世界は残酷だった。

 晴れていく土煙。そこに出来た巨大なクレーター。その中心に”奴”はいた。不気味な異形。だが、それはなのは達にもどこで見た事があるものだった。そう、それはまるで……

「仮面……ライダー……?」

 誰ともなく呟く。確かに細部は違うが、その容姿は仮面ライダーに似ていなくもない。しかし、そんな感想が間違いだったと、奴が顔を上げた瞬間誰もが思った。
 触覚にも見えるアンテナをつけた奴は、目のようなものが一つだったのだ。その邪悪さと醜悪さになのは達が息を呑む中、やはりと言った声でアギトが叫んだ。

「どうして……どうしてお前が生きているんだ、邪眼っ!!」

「あの時の虫けらか。ふんっ、どうしてだと? 貴様ら虫けら共に追い詰められたあの瞬間、我は願った。死にたくないと。
 その心の声が届いたのだろう……爆発する瞬間、次元の歪みが僅かにだが生じたのだ。それに何とか細胞を送る事が出来た。
 だが、そこからが長かった。寄生した生物の中で我は復活の時を待った。そして、ついに来たのだ。その時がな!」

 邪眼がリインフォースを指差し、嘲笑うように告げた。いつか分からぬ頃に蒐集した魔法生物の内の一匹。それが自分が寄生していた物だったのだと。そして、夜天の書の中でゆっくりと様々なモノを取り込み、その力や能力を自らの物へとした。そして、いつか復讐しようと誓ったのだ。
 自らを滅ぼそうとした憎き仮面ライダーに。故に、それを模したこの姿へと変えたのだ。

 邪眼は、そう忌々しげに吐き捨てるように告げると、視線をその後ろのクウガへ向ける。それに気付き、身構えるクウガ。

「貴様か……キングストーンを持っている者は」

「えっ……キングストーン?」

「それにしては、おかしな力を使うようだが……まぁいい。今度こそ我が創世王になるために、貴様のキングストーンを頂く!」

 そう言い放ち、邪眼はそこから跳び上がった。その跳躍力は青のクウガに迫る勢いがあった。そして、迫り来る邪眼に対してクウガ達は―――。

「翔一君っ!」

「はいっ!」

「何だとっ!?」

 マシントルネイダーを上昇させた。対抗するのではなく、距離を取る事を、いや相手が来れない空高くへと逃れた。これは相手を恐れてではない。クウガもアギトも理解していたのだ。あれを倒せるのは、自分達しかいないと。
 故に体勢を整えるため、相手の出鼻を挫いたのだ。邪眼は届くと思った瞬間、急にクウガ達が離れたため、そのまま落下していく。それを追うようにクウガもマシントルネイダーから飛び降りた。

「クロノ君、これ一先ず返すね」

 その途中、手にしたS2Uをクロノへ投げ返し、クウガは眼下を見つめた。着地する邪眼。その目の前にクウガも降り立つ。それを見つめ、邪眼が構える。クウガも構えるが、そこへアギトも降り立ち、共に構えて邪眼と対峙する。はやてはどうやらザフィーラに預けたようで、腕に抱かれながら、二人を見守っている。
 降り立ち、構えるアギトとクウガを見て、クウガのベルトに視線をやり、邪眼が何かを感じ取ったかのように吐き捨てた。

「またも邪魔するか光の力め。そうか、貴様のキングストーンの変化もそれが原因か……どこまでも邪魔しよって!」

「光の……力……?」

「キングストーンって何だ!? 貴様は何を知っている!」

「貴様らは知らんだろうな。まぁいい。冥土の土産に教えてやる……」

 クウガは邪眼の言った言葉に何か引っかかるものを感じ、アギトは聞き覚えのない言葉に対して問い掛ける。それを聞いて、邪眼は見下すように語り出す。
 キングストーンは、古来地球外から齎された神秘の輝石。それに秘められた力は、万物の創造さえ可能とする大いなる力を秘めているのだと。そして、その力を完全に制御出来る存在こそ、創世王と呼ばれ、名が示す通り、世界を自分の意のままに創る事さえ可能になるのだと。

 その話を聞いていたクウガが微かに動揺した。邪眼の言った言葉に思い当たる事があったからだ。それは、いつだったかクウガの力を研究していた科学警察研究所の榎田が、五代達に言った言葉。
 アマダムはおそらく地球上の物質ではない。そう言っていたのだ。それだけではない。アマダムは、持ち主の意志に応じて力を発現させる。更に持ち主を仮死状態にし、そこから蘇生させる事さえやってのけるのだ。それは、邪眼の言う大いなる力に近いものがある。
 そして、もう一つ。実は大いなる力という言葉で五代が真っ先に思い出した事がある。それは―――

(凄まじき戦士……)

 なってはならないと言われていたクウガの最後の姿。それこそ、邪眼の言った大いなる力に相当すると思ったのだ。後は、クウガの対になる存在ともいえるダグバ。彼はグロンギの王とも呼べる存在だったらしい。では、それと同じ存在へ変化させるアマダムは、王の石とも言えるような気が五代はしたのだ。

「……これはアマダムって言って、キングストーンじゃない」

「アマダムゥ? ……人間共はキングストーンをそう呼んだのか。だが、我には分かる。貴様が先程まで放っていた力!
 あれは間違いなくキングストーンのものだ」

「まさかっ!? じゃあ、あの時BLACKさんを襲ってたのは……」

「そうよ。奴のキングストーンを奪うためだ。だが、貴様らのせいで失敗に終わったがな!」

 忌々しいという感情を剥き出しに叫ぶ邪眼。そんな邪眼相手になのは達が動いた。先程のクウガへの強襲で、飛行能力がないのは分かった。だからこそ、空戦が可能ななのは達にとって、邪眼は強敵かもしれないが、絶望するような相手ではないと踏んだのだ。

「レイジングハート!」

”分かりました”

「バルディッシュ!」

”心得ています”

 二人の声に呼応するデバイス達。そして、二人は同時にその矛先を邪眼へ向けた。邪眼はクウガとアギトへ視線を向けており、二人には気付いていなかった。
 それを確認し、二人は叫ぶ。必殺とまではいかないまでも、ダメージを与える事は出来るだろうと。

「ディバイィィィン……バスターっ!!」

「サンダー……スマッシャーっ!!」

 二色の閃光が邪眼へ襲い掛かる。それにクウガ達も気付き、その攻撃の隙を突くべく構え直す。だが邪眼は、迫り来る閃光に対して片手をゆっくりと突き出しただけだった。
 その行動に全員が疑問を感じる中、回復して体を動かせるようになったリインが叫ぶ。

「止めろ! お前達の魔法は通じんっ!」

「「えっ!?」」

「遅いっ!」

 その声と同時に邪眼の手に当たった二色の閃光は、急速に輝きを失い、漆黒に変わるとそのままなのは達へ向かって反射された。
 それに驚く二人だったが、即座に防御魔法を展開するなのはと回避するフェイト。それを見ていたユーノは、リインの言葉から邪眼が何をしたかを予想し、愕然となった。

「ま、まさか……あいつは……」

「そうだ。奴は私から蒐集対象の魔法知識全てを持っていった。そして、おそらく防御プログラムを始めとする私の機能のほとんどもだ」

「どういう事や。それが一体何の―――」

「ここにいる者ほとんどの魔法が通用しない。あるいは先程のように利用されてしまうという事です、主」

 リインの答えに愕然となるはやて。いや、それだけではない。シグナム達を始めとした前線メンバー全員でさえ、その表情は暗い。
 蒐集されたのは、なのは、フェイト、ユーノの三人。それに騎士達はそもそもが夜天の書から生まれた存在。そして、主であるはやても同様にリンカーコアを夜天の書に内包されていた。ここにいる者で魔法が通用するのは、クロノとロッテ、アリア、アルフのみ。
 それに気付いたからこそ、なのは達の絶望は深い。この中で攻撃力の高い者達が軒並み無力化された。この事実は、それだけ重い。

(このままじゃ……負けちゃうよ……)

 なのはの不屈の心にも、絶望という名の闇が押し寄せる。だが、それを吹き飛ばすように大きな声がした。

「大丈夫っ! 俺達がいるから!」

「五代さん……」

「そうだよ! 俺達が頑張るから! だから、援護をお願いしますっ!」

「翔にぃ……」

 消えかけていた希望の灯。それが再び輝き出す。圧倒的に不利となっても、決して諦めない存在。例え相手が何であろうと、必ず最後には勝利すると信じさせる”何か”がある。
 それを全員が感じ取り、その表情に生気が戻った。その反応に、邪眼が驚く。信じられないと言わんばかりに。

「ば、馬鹿な……何故だ。何故貴様らは抗える!? 何故絶望しないっ?!」

「俺達は、お前のような奴のために、誰かの涙は見たくない!」

 胸に宿るは、あの日の誓い……

「そうだ! 全ての人達のため、全てのアギトのため、そしてみんなの笑顔のために……俺達は戦うと決めた!」

 求めたモノは、平和な世界……

「ぬ……ぬぅぅぅぅ! 貴様らは……一体、何だと言うのだっ?!」

 そんな二人の目に見えぬ”何か”に気圧されるように、じりじりと後ずさる邪眼。
 その声に二人は互いを見やり―――頷いてそれぞれの構えを取って叫ぶ。

「仮面ライダークウガっ!」

「仮面ライダーアギトっ!」

「「闇を打ち砕く! 正義の光だっ!!」」

 その声に邪眼は恐れを抱き、なのは達は安心感を抱き、そして勝利を確信した。仮面ライダーの意味、その本質。それを間接的とは言え、知っているから。それを、五代と翔一が名乗った事がどういう事かを知っているから。
 故に心に勇気と希望が甦る。不屈の想いが全員に宿る。みんなの笑顔のために。自分達も戦うのだと。

”仮面ライダー”と共に―――。




 いつものように流れる時間。穏やかな日々。それが永遠に続くと誰もが、いや彼だけはそう思っていた。これは、そんな頃の話……

「本気ですか?」

 ウーノは告げられたジェイルの言葉に、どこか意外そうな声でそう言った。

「本気さ。ドゥーエは無理だけど、君達は可能だからね」

「……それはそうですが」

 ジェイルがウーノに指示したのは、自分のコピー達の廃棄。正確には、ジェイルの受精卵の廃棄だった。
 彼は万が一に備え、自分が死んだり計画を実行出来なくなった際の保険として、Project F.A.T.Eの技術を使った自身のコピーをナンバーズ全員に仕込んでいたのだ。
 だが、それをジェイルは稼働中のナンバーズだけでなく、調整中のナンバーズからも廃棄しろとウーノへ告げたのだ。

「くくっ……何、真司に言われたのではないよ。ただ、私は私しかいないと思ってね」

「?」

 不思議そうな反応を返すウーノに、ジェイルは嬉しそうに語り出した。真司と関わるようになってから、強く思うようになった事があると。
 それは、今を感謝して生きなければならないと。何のために生まれ、自分が何者なのか。それを知るために今まで生きてきたようなものだった。しかし、真司はそんな事を考えてさえいない。でも、いつも楽しそうに生きている。だから尋ねた。どうしていつも楽しそうなのかと。

 それに真司はこう答えた。生きてるってだけで幸せだろ、と。それに、と続けてこう言い切った。

―――今はジェイルさん達もいるし。

 そうあっけらかんと言って、真司は笑った。いつ元の世界に帰れるか分からないけど、それまではここが自分のいる場所だから。そう屈託のない笑顔で告げられ、ジェイルは思ったのだ。
 自分が何者だとか、何のために生きるのか。そんな事を考えるよりも、今を楽しむ事から始めなければ。今を呪う者に未来などないのだ。

「……そう思った。そして、それは”今の私”しかない感情。これは紛れも無く、私が私だったからこその想い。故にだよ、ウーノ」

「……はぁ~……分かりました。では、そのように……」

「頼むよ」

 ため息混じりのウーノ。そんな彼女にそう言ってジェイルは仕事を再開する。ウーノはジェイルを少し見つめて、軽く一礼して研究室を後にした。
 ジェイルの答え。それを聞いて彼女も思う事があったのだ。それは、ジェイルの計画が既に変質しているという事。そして、その事が意味するものは……

(あの子達の心配事は無くなりそうね)

 下の妹達。セインとディエチの懸案事項だった真司との対立は、どうやらせずにすみそうだと。それにウーノも安堵の表情を浮かべ、誰にでもなく呟いた。

―――本当に……良かった。

 ここに誰かいれば、きっとウーノに指摘したに違いない。瞳が潤んでいる事を。今にも涙が流れそうなぐらいになっていると。
 だが、ここには誰もいない。それをウーノに伝える者はない。だからこそ、ウーノは自分の状況をこう判断した。

 妹達を思うあまり、感情が昂ってしまったと。これも真司のせいだと呟いて、ウーノは目元を拭う。そして、そこにはいつものウーノがいた。彼女はしっかりとした足取りで、まずは調整室で作業しているだろうクアットロへジェイルの指示を伝えるべく、歩き出した。
 それを終えたら、次はトーレ達を呼び出し、受精卵の摘出をしなければならない。きっと、それを聞いてセインは確実に喜ぶだろうとウーノは考え、小さく笑う。本当なら、それは怒らなければならない事。だが、不思議と今のウーノには、そんなセインの反応が微笑ましいものに思えたからだ。

(ドクターは私達の創造主。真司さん風に言えば父親。その子を産む事をしなくて済むとなれば、それは嬉しい事でしょうね)

 そう考え、ウーノは思う。なら、自分達は誰の子を産むのだろうと。戦闘機人である自分達を愛し、女性として扱ってくれる男などいるのだろうか。そう考えた時、ウーノの脳裏に真っ先に浮かんだのは―――

(っ?! 何で真司さんなのよ! もう……)

 赤面しつつ、軽く俯きながらウーノは行く。すると、前から歩いて来る存在がいた。真司だ。真司はどうやらウーノに気付いたらしく、一度立ち止まって軽く手を挙げた。だが、下を向いているウーノは、それに気付かず早足で歩いている。
 それに真司は妙な印象を受けるも、ならばと思って……

「ウーノさん」

「ひゃい!」

 声を掛けた。それに驚き、背筋をピンっとさせるウーノ。それに真司もやや驚いたように体を反らせるが、気を取り直してウーノへ問いかける。一体どうしたのかと。普段のウーノらしくない。そう感じたからこその言葉だった。
 それにウーノはどこか調子を狂わせながら答えた。ジェイルに頼まれた事があり、それについて考えていたら、つい思考に没頭してしまったと。それを聞いて真司も納得。どうせまた困った事を言い出したんだろうと言って、真司はしょうがないなと呟き、こう告げた。

「何なら、俺がまたジェイルさんに言ってきますよ」

「えっ……あ、いいのよ。今回は無理難題とかではないの。ただ、今までのドクターからは想像出来ない事だったものだから」

「そうなんだ。で、一体ど「あ~! そろそろ調整室に行かないと! ごめんなさいね、真司さん。急いでるから」

 真司の問いかけを遮って、ウーノは捲くし立てるように言い放ち、早足で真司から離れていく。それを見送り、真司は疑問を浮かべた。

「ウーノさん……どうしちゃったんだ?」

 そんな真司の呟きに答える者はいない。ただ、静寂だけがそこにあった……



ウーノの予想通り、セインはこの話を聞いて嬉しそうに笑った。意外だったのは、トーレもどこか喜んでいた事。
本人はセインが嬉しそうだったからだと言い張ったが、その場にいた全員がそれを内心で否定していた。
真司だけは何も知らされず、ただウーノ達が以前にも増して明るくなったように感じ、嬉しそうに笑顔を見せるだけだった。




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続き。ついに名乗りが出来ました。もう、そこだけです。次でいよいよA's編は終戦です。

そして、それと共に龍騎組にもついに……

次回を待て! ……くれると嬉しいです。



[22476] 【一発ネタ】Masked Rider in Nanoha 13 (クウガ・アギト・龍騎)
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/11/22 09:41
 邪眼相手に戦うクウガとアギト。初めこそ、二人の気迫に押されていた邪眼だったが、次第に立ち直り、今は二人を圧倒していた。
 なのは達も援護を試みたのだが、下手な魔法は邪眼に利用され、クウガ達を苦しめてしまうため、大した魔法が使えなかった。一方のクロノ達は決め手に欠けていた。そもそも、クロノ以外はサポート役が多かったためか、強力な魔法がほとんどなく、更には邪眼自身も魔法を使える事が分かり、専らクウガ達の支援に回っていた。
 そして、騎士達はシグナムやヴィータが直接攻撃に出ようとしたのだが、クウガ達の攻撃を軽々と受け止める邪眼相手では、それも厳しいと感じたため、中々手を出せずにいた。

「くうぅぅぅ……」

「くそっ、このままじゃ……」

「不味い、よね」

 邪眼の一撃に吹き飛ばされるクウガ。それを見たアギトの言葉にクウガがそう続けた。格闘戦だけなら二人は人並み外れた経験がある。だがそこに、魔法を組み込まれると調子が狂うのだ。それだけではない。邪眼は電撃を手から放ち、それに魔法を加えて使ってくるのだ。
 特にフェイトの魔法は相性がいいので、紫の電撃を纏ったフォトンランサー・ファランクスシフトなどは、アリアやアルフの援護がなければ、流石のクウガやアギトといえど大ダメージは必死だった。

 だが、そろそろアルフ達にも疲労の色が出始めていた。魔力もそうだが、何より精神的な疲労が大きい。仮面ライダー二人を相手にしながら、邪眼は優位に立てる程の力を持っている。それと対峙するだけでも、精神が削られていくのだ。
 それをクウガとアギトも理解している。故に焦っていたのだ。このままでは押し切られる。そう感じていたがために。

「こうなったら……俺が盾になるから、翔一君は攻撃に専念して」

「えっ……盾って、五代さん?!」

「超変身っ!」

 動揺するアギトに構わず、クウガはその体を変化させる。赤い体は紫の鎧に変わり、目の色も同じ紫へ変わった。
 タイタンフォーム。防御力に優れ、力は全フォーム一を誇る。邪悪なる者あらば、鋼の鎧を身に付け、地割れの如く邪悪を斬り裂く戦士である。

 それを見て、アギトはクウガの意図を理解した。そして、内心で申し訳なく思いながら、彼もまた姿を変える。金色の体は青くなり、左腕が変化を遂げる。
 ストームフォーム。俊敏性に優れ、風を司る姿である。そして、アギトはその手をベルトへ回すと、そこから一振りの武器―――ストームハルバートと呼ばれる薙刀が出現した。
 この姿と、とある姿でしか使えない専用武器である。

「ふんっ! 姿を変えただけで我を倒せるものか!」

 クウガとアギトが姿を変えた事にやや驚く邪眼だったが、それもほんの一瞬で立ち直る。そして、すぐさま駆け寄り、その腕をクウガへ振り下ろした。それをクウガは避けもせず、受け止めた。先程まで成す術なく吹き飛ばされていた相手が、急に自分の攻撃を受け止めた事に邪眼は流石に動揺を隠せなかった。

「はぁ!」

 そこを見逃すアギトではない。素早い動きで邪眼の横に回りこむと、手にしたストームハルバートで邪眼に斬りかかる。その一撃は確かに僅かな反撃だった。だが、これが初めて邪眼に与えたダメージ。しかも……

「ぐあっ!」

((効いたっ!!))

 邪眼の口から初めて苦痛に呻く声が出た。それを聞き、二人のライダーも手応えを感じた。勝てる、と。決して無敵などではない。そう思ったクウガは受け止めていた腕を払い除け、呻く邪眼に渾身のパンチを叩き込む。

「おおりゃ!」

「ぐう!」

 力自慢のタイタンフォームの一撃に邪眼も堪らず後ろへ下がる。そこへ更にアギトが追い打ちをかける。それを何とか防ぐ邪眼。そして、それに続けと動き出そうとしていたクウガへ電撃を放ち、後退させる。
 しかし、クウガは後退すると同時にある事を思いつき、アギトへ声を掛けた。

「翔一君! それ貸してくれない!」

「分かりました!」

 クウガの提案を疑う事も尋ねる事もせず、アギトは手にしていたストームハルバートを手渡した。それをクウガが手にした途端、それが姿を変え、タイタンソードへと変化した。その刃先が伸びたのを確認し、クウガは立ち上がる。
 薙刀は刀。つまり切り裂くものである。それ故に変化を起こし、タイタンソードへとなったのだ。そして、それを見たアギトもそれならばと再び姿を変える。

 青い体が赤い体に。変化が左腕から右腕に変わり、先程と同じくベルトから一振りの武器が出現する。フレイムセイバーだ。
 互いに武器を構えるクウガとアギト。だが、クウガはそれを静かに下ろし、一言。

「行くよ」

「はいっ!」

 そして悠然と歩き出すクウガ。それと合わせるようにアギトもフレイムセイバーを下げ、歩き出す。それを見ていたなのは達は、正直不安で仕方ない。でも、どこかで信じている部分もある。仮面ライダーが負けるはずないと。
 見れば、なのはだけでなく、全員が黙って見守っている。その目は諦めた目ではない。何か方法はないかと探る目だ。目の前で戦う二人のヒーロー。その勇姿に応えようと。
 だからこそ、全員が見守っているのだ。僅かでも見逃さないようにと。

(頑張って! 仮面ライダー!)

 そう心で叫んで、なのははレイジングハートを握り締める。先程までの無力感。それを吹き飛ばしてくれた二人の仮面ライダーに、自分も出来る事を探すのだと。
 そう想いを新たにするなのはの視線の先では、邪眼が二人に向かって電撃を放つところだった……



 目の前に迫る電撃。それをクウガは鎧に受け、僅かに後ずさるも、すぐに歩みを再開する。アギトは電撃をフレイムセイバーで切り払いながら歩き続ける。フレイムフォームは感覚が鋭くなっているため、アギトは電撃を落ち着いて対処する事が出来ていた。
 だが、その要因にゆっくり歩いている事も影響している。走っていたのなら、さしものフレイムフォームもこの電撃に完全に対処する事は難しい。しかし、クウガに合わせてゆっくり歩いているため、それが可能となっていた。
 勿論、クウガはこれを狙った訳ではない。しかし、奇しくもクウガの戦法がアギトのフレイムフォームにも良い効果をもたらしていたのだ。

 これに驚いたのは邪眼である。通用していた攻撃が効果を無くし、しかも相手は悠然と近付いてくるのだ。どれだけ電撃を放っても、クウガは怯まず歩みを止めないし、アギトは全てを見事に切り払いながら進んでくる。
 さながら邪眼の死刑執行人にも思えるような光景だ。最初は二十メートルはあった距離が、気付けば十メートル、五メートルと縮まっていき……

「ば、馬鹿な……」

 気付けば眼前に二人のライダーがいた。それに電撃を放とうとする邪眼だったが、その電撃をアギトが切り払う。それに邪眼が怯んだ瞬間、クウガが手にしたタイタンソードを構えた。
 そして、同時にアギトもその手にしたフレイムセイバーを構える。すると、その鍔が展開した。

「おりゃ!」

「はっ!」

 クウガが右袈裟に、アギトが左袈裟に斬りつける。

「ぬがっ!」

「うおりゃあ!!」

「はあぁぁぁ!!」

そして、とどめとばかりにクウガがその切っ先を邪眼の体へ突き立てる。カラミティタイタンと呼ばれる一撃だ。
 それを受け、邪眼は後ずさる。そこにアギトが真っ向に斬りつけた。セイバースラッシュと呼ばれる必殺の一撃。その二つの攻撃を受け、さしもの邪眼もこれまでかと思われたのだが……

「図に乗るなぁ!!」

 両手から放たれた強力な電撃を浴び、二人は大きく吹き飛ばされた。そして、それを見ていたなのは達にも動揺が走る。邪眼が両手を掲げて何かの魔法を使おうとしていたからだ。
 そして、それが何かを一番最初に理解したのはなのは。

「!? レイジングハートっ!」

”ロード、カートリッジ”

 なのはの声に合わせ、レイジングハートがカートリッジを排出する。その数、三つ。それを見ていたフェイトも、なのはの動きから邪眼の使おうとしている魔法の検討をつけ、その表情を変えた。
 そして、自身も即座にバルディッシュへ同じ事を頼む。それを受け、カートリッジを排出するバルディッシュ。すると、その姿を鎌から巨大な剣に変えた。
 そんな二人に周囲はまだ理解出来ないようだったが、ユーノは邪眼の周囲に魔力が集束していくのを見て確信した。

「スターライトを使うつもりだ!」

 その言葉にクロノとアルフだけが驚愕する。他の者達はその魔法を知らない故に、いま一つユーノ達の焦りが分からないようだったが、少なくとも碌な事にはならないと感じたのだろう。
 即座にそれぞれが動く。リインははやてを抱きしめ、ザフィーラとシャマルがその前に立ち、絶対死守の姿勢。シグナムとヴィータはアリアとロッテを下がらせ、自分達が防ぐと言わんばかりにデバイスを構え、アルフはクロノと共にユーノと三人で広範囲の防御魔法を展開する。
 そして、なのはとフェイトはクウガとアギトの前に立ち、デバイスを邪眼へ向けた。

「なのはちゃん……」

「五代さん達はそこで休んでて。あれは私達が防ぐから!」

「フェイトちゃんも……」

「翔一さん達が私達の最後の希望。絶対に守ってみせる!」

 そんな二人の驚くライダー達へ、なのはとフェイトが見せる仕草はサムズアップ。大丈夫。それを無言で告げ、二人の魔法少女は邪眼を睨む。

「ふんっ! 小娘如きに何が出来る! 喰らえっ! ダークネス・ブレイカー!!」

「スターライトっ!」

「ジェットっ!」

 迫り来る漆黒の砲撃。それがユーノ達の展開した防御魔法を突き破っていく。だが、それに僅かに勢いを落としたのを、なのは達は見逃さなかった。だからこそ、それに対して二人は怯まない。背中にいる二人のヒーロー。それがくれた勇気と希望を胸に、不屈の想いで叫んだ。

「ブレイカー!!」

「ザンバー!!」

 二色の閃光が巨大な漆黒と衝突する。微かに、でも確実に二つの閃光が押されている。それでも二人は諦めない。顔を衝撃に歪ませながら、しっかりと大地に足をつけ、漆黒の砲撃を……その先にいるであろう邪眼を見据えていた。

 それを上空で見ていたはやてが堪らなくなったのか、リインへ叫ぶ。

「リインっ! わたしも……わたしも戦いたい!」

「主……」

「お願いや! 友達が家族のために頑張ってくれとるのに、わたしだけ見とるだけなんて嫌や!」

 涙を浮かべ、リインへ告げるはやて。その切なる想いを受け、リインは―――頷いた。
 そして、はやてに優しく笑いかけ、告げる。どこまでも私は貴方と共にあります、と。それに頷き、はやては決意の眼差しをリインへ向けた。それにリインも頷き返し、二人は声を合わせた。

「「ユニゾン・イン」」

 はやての体にリインが入り、はやてに騎士甲冑と杖が出現する。それと同時に堕天使を思わせる羽が出現した。それを確認し、はやては押されつつあるなのは達の元へと向かう。
 それをシャマルもザフィーラも止める事はしない。はやての決意や覚悟を知るからこそ、臣下ではなく、家族として取るべき行動は決まっていた。

「行くわよ、ザフィーラ」

「心得えている」

 はやての後を追うように二人もなのは達の傍へ。それを見て、アリアとロッテがシグナムとヴィータに目配せで追うように告げた、それに二人も頷き合い、アリア達に目礼を返し、なのは達の元へ。
 それをユーノは眺めながら、攻撃魔法を使えない自分を悔しく思っていた。だが、それを気付いたのかクロノが一言呟いた。

「そんな顔をするな。僕らだって十分役に立っている」

「そうさ。現になのは達が拮抗出来たのは、アタシらの魔法を突き破ったからだよ」

 二人の言葉にユーノも頷き、視線をなのは達に向けた。そこでは、はやてが魔法を展開しようとしているところだった……



「「来よ、白銀の風! 天よりそそぐ矢羽となれ!」」

 はやての姿に驚いたなのは達だったが、はやての一緒に戦うとの言葉に笑顔を浮かべ、クウガ達はその言葉にはやてもまた強い心の持ち主だと改めて感じていた。
 そして、そのはやてが力強く紡ぐ言葉は闇を貫く光へ変わる。

「「フレース・ヴェルグ!!」」

 はやてから放たれた魔法の輝きが加わり、三色の閃光となる。それが押され始めていた状況を五分にまで押し戻した、

「な、何ぃ!」

 邪眼の声に微かに驚きが混ざる。だが、そこから状況は再び膠着状態に陥る。それに邪眼が余裕を取り戻そうとした瞬間、そこにシャマルが降り立ち、クウガとアギトを癒し始めた。
 そして、ザフィーラも同じ様に降り立つと、邪眼の足を狙ってバインドを放つ。だが、それは何故か妨害も無力化もされない。それにユーノ達が驚くが、どこか邪眼はしまったというような雰囲気を感じさせた。

「やはりか。貴様が魔法を無効化ないし利用する際、必ず手を使っていた。
 ならば、両手が塞がっている今は魔法を防ぐ事は出来んと踏んだが……どうやら当たりらしいな!」

「さすが盾の守護獣だ」

「良く見てるじゃねぇか!」

 更にそこへシグナムとヴィータも到着し、そのデバイスを構えた。それと同時に排出されるカートリッジ。シグナムはレヴァンテインを鞘と繋げ、弓のようにし、ヴィータはグラーフアイゼンを空高く掲げた。
 それは、彼らの最後の切り札。烈火の将と鉄槌の騎士のとっておき。

「翔けよ! 隼っ!!」

”シュツルムファルケン”

「轟天! 爆砕っ!!」

”ギガントクラーク”

 互角だった衝突に、シグナムの一撃が加わり、ダメ押しとばかりにヴィータの一撃があろう事かその巨大な閃光を後ろから叩いた。それを受け、漆黒を飲み込むように進む巨大な閃光。それはそのまま勢いを止める事なく邪眼へ向かい……

「そ、そんな馬鹿なぁぁぁぁぁ!!」

 その体を飲み込んだ。光が闇を消し去るが如く。そして、その輝きが消えた後には……

「終わった……?」

 邪眼の姿はなかった。そこには、最初から何もいなかったように荒野が広がっている。ただ、残った大きなクレーターだけが、確かにここで激しい戦いがあった事を物語っていた。
 しかし、誰も勝利したという想いを抱いていなかった。むしろ、これで終わりではない。そんな感じさえ受けた。そして、クウガとアギトはそんな空気を感じ取り、静かに立ち上がるとクウガは変身時の構えを取った。

「超変身っ!」

「どうして赤くなるの?」

 クウガの行動に不思議がるなのはだったが、その横ではアギトがベルトの両側を叩いていた。

「よしっ!」

「翔にぃまで……」

 アギトが取った姿はグランドフォーム。アギトの基本の姿だ。

「まだ終わってないよ……」

「うん。だから……」

 そう言って二人の仮面ライダーは視線をさっきまで邪眼がいた位置へ向けた。それにつられるように全員の視線がそこへ向く。
 そこにはもう何もない。だが、それでもクウガもアギトもそこから目を逸らさない。

「「出て来いっ!」」

 構えるダブルライダー。それに呼応するようにその周囲の空気が蠢き出す。それを感じ、なのは達も身構える。そして、空間が歪み、そこから邪眼が再び姿を現した。それを見て、誰もが息を呑んだ。無傷だったのだ。あれだけの攻撃を受けたにも関わらず、その体には傷跡一つ残っていなかった。

 それを見て、リインだけが気付いた。邪眼が無傷な理由を。そして、それが意味する事を悟り、リインは絶望にも似た想いを抱いてはやてに伝えた。

奴は、転生機能を備えてしまっている、と……





 いつものように流れる時間。穏やかな日々。それが永遠に続くと誰もが、いや彼だけはそう思っていた。これは、そんな頃の話……

「これで良しっと」

「何かさ……変な気分だね」

 持って来たケースを置き、セインは笑みを浮かべる。だが、ディエチはそのケースを見つめ、浮かない表情。二人が持ってきたのは、ジェイルのコピーの受精卵。全部で十一。ナンバー2であるドゥーエ以外全員のものが入っている。
 それをラボの奥深くにある廃棄所へ捨てにきたのだ。本来なら焼却処分などをするのだろうが、それは何となく気がひけたのだ。曲がりなりにも命だと考えてしまったせいもある。
 よって、こうしてラボの奥深くで永遠に眠ってもらおうという結論に達したのだ。

「う~……ま、仕方ないよ。あれもドクターと同じって考えると……ねぇ」

「そうだけど……何か嫌な予感がするんだ」

「え? まさかあれが独りでに成長して襲ってくるとか?」

「そんなんじゃないけど……」

 セインの言った内容にディエチは苦笑する。どこかのB級ホラーのようだったからだ。そんな事を考えたからだろう。先程までの浮かない気分は少しましになっていた。
 セインが気を遣ってくれたんだと思い、ディエチは小さく笑う。それを見て、馬鹿にされたと思ったのか、セインはディエチに対してむくれた顔をする。

 そんなセインにディエチはやや慌てながら弁解する。セインはそれを聞きながら、拗ねた顔を見せて歩き出す。姉としてちゃんと敬ってと言うセインに、ディエチは軽く困りながら姉として敬われるようになってと返した。
 それにセインがショックだと叫んで走り出す。それにディエチも慌てて追い駆ける。そんな風に賑やかな二人だった。

この時、ディエチが抱いた不安。その予感が正しかったと二人が気付くには、ここから十年近い時間が必要だった……



「真司」

「ん? 何だよ、トーレか。訓練ならやんないぞ。もうチンクちゃんとしたからな」

 トレーニングルームの掃除をしていた真司だったが、そこに現れたトーレに手を止める事無く、掃除を続けていた。そんな真司の反応にトーレは内心苦笑するも、それを真司に見せないようにいつもの顔で告げた。
 訓練ではなく、相談があるのだと。それに真司は手を止めて顔を上げた。その反応の違いにトーレは呆れたように笑うと、大した事ではないと前置いてこう言った。

「妹達の事だ」



 それから十分後、真司とトーレは二人でトーレの部屋にいた。本当は真司の部屋にする予定だったのだが、真司の部屋は良くセインやディエチが訪ねてくるため、トーレの意見によってトーレの部屋となった。
 真司はそれでも女の子の部屋だからと別の場所を提案したのだが、トーレの他に都合の良い場所などないとの言葉に切り捨てられ、この有様である。

「で、妹達の話って……セイン達?」

「違う。いや、厳密に言えばあの二人もか。まぁ、つまりセイン以降のセッテ達についてだ」

 トーレは、残りのナンバースは戦闘用に特化した者が多くなるため、その訓練を自分やチンクだけでなく真司にも担当してほしいのだと告げた。
 それを聞いた真司は微妙そうな表情を浮かべた。真司にとってはセイン達は妹分であり、可愛い女の子達なのだ。いくら戦闘用に作られたからといって、はいそうですねと扱える訳ではない。
 だから彼はトーレの言い分に素直に頷く事が出来なかったのだ。それをトーレも理解しているので、こう真司に告げた。妹達が起動したら、まず本人達に真司が尋ねて欲しいと。それは、戦闘機人として生きるのか、それとも別の生き方を選ぶのかを。

「それって……」

「私の独断ではない。ドクターもお許しになった」

「そっか。ジェイルさんもね……ん? ドク「あ~、それともう一つあってな。 セッテとオットー、ディードの三人はお前が教育しろと言っていた」

 真司の言葉を遮り、トーレは早口でそう告げた。それを聞いて、真司は首を傾げた。何故自分が教育するのだと。それを聞いて、トーレはやや呆れながら、クアットロがお前にそう伝えて欲しいと言っていたと教えた。
 それを聞いて真司はやや考えたが、その意味を理解し、ガッツポーズ。それは、クアットロが担当になった妹達を真司に委ねると決めたと分かったからだ。つまり、三人をちゃんと妹として扱うと断言してくれたのだと。

 良かった良かったと頷く真司。それを眺め、笑みを浮かべるトーレ。気が付けば、真司が来てから様々な事が変わった。まず変化したのは、チンク。食生活にジェイルの考え方。クアットロの物腰にウーノの接し方も変わった。
 そして何より……

(私自身、か……)

 戦う事だけが生き甲斐であり、生まれた意味。そう思っていた。だが、それを真司は柔らかくゆっくりと否定していった。ほとんど笑う事などなかった自分。それを見て、真司は笑った方がいいと事ある毎に言っていた。
 それを最初はうっとおしいとしか感じてなかったのが、うるさい奴に変わり……相変わらずだなに変わり……今ではたまに笑みを見せ合うようになっていた。
 訓練終わりにする他愛ない会話。洗浄と表現する自分に対し、風呂って言えよと繰り返す真司。そんなやり取りなどを思い返し、トーレは思う。このまま妹達や真司と静かに暮らすのも悪くないと。

(もうドクターも計画に興味を無くし始めているしな……)

 つい先日、ウーノが姉妹を集めて話した事が事実なら、ジェイルは計画を変更して、管理局を相手にした反乱ではなく、最高評議会を利用してのんびりライダーシステムの研究やその発展系を考えていきたいと考えているらしい。
 そのため、もうジェイルは”ゆりかご”をただの研究施設に改造し、今後に備えようとも考えているらしいとの事。

 そんな事を思い出し、トーレは真司を見つめる。真司は、どうやったら三人をちゃんとした女性に出来るかを必死に考えているようだ。表情を険しいものにして、あ~でもないこ~でもないと言っている。
 そんな真司を見て、トーレは小さく呟く。

―――このバカめ。

その声には、紛れも無い嬉しさと愛おしさが込められていた……




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続き。やはり終わらなかった……。次こそクウガ達を決着させてみせます。

そして、龍騎はいよいよ次回でクウガ達とある意味連動する事に……?

次回、A's編最終決戦終了!



[22476] 【一発ネタ】Masked Rider in Nanoha 14 (クウガ・アギト・龍騎)
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/11/15 16:28
 はやての口から語られた事実。それを聞き、なのは達に愕然となった。転生機能。それを邪眼が得ている。それはもう邪眼を倒す事は出来ないと告げられたようなものだったからだ。
 しかし、もうそれで絶望するなのは達ではない。そう、いるのだ。不可能を可能に変える存在が。その証拠に、彼らはそれを聞いても諦めたようには欠片も見えない。

「倒せないのなら、倒せるまでやるだけだ!」

「そう。みんなで力を合わせれば、絶対に大丈夫!」

 アギトの言葉にクウガが続いて断言する。両者共、邪眼から視線を外さず、サムズアップをなのは達へ向ける。それに全員がそれを返す。その表情は皆凛々しい。
 その雰囲気に邪眼は苛立ちを隠せない。誰も不安や恐れを抱かない。自分が再生したのにも関わらず、それを意にも介さないクウガ達。絶望を叩きつけても尚、希望の灯を消さない仮面ライダーという存在へ。

「おのれおのれおのれぇぇぇぇ!!」

 有らん限りの声で周囲を威嚇する邪眼。それに対し、全員が構える。恐れはしないと。全員の姿勢が、瞳が物語る。決して闇に屈したりしない。その想いをありったけ込めた心が、その全身から希望という名の光を放つ。

「転生するのなら、封印すればいい!」

「そうよ。ロッテが言う通りだわ。クウガの力なら……絶対に!」

「そうだな。仮面ライダー、援護する。必ず邪眼を封じてくれ!」

 ロッテ、アリア、クロノの三人が邪眼に啖呵を切るように声を掛ければ……

「翔一、お前の援護は我らに任せろ」

「おう! しっかり助けてやっからな!」

「安心して戦って」

「ヴォルケンリッターの名に賭け、勝利への道を切り開く!」

 シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラがアギトを励まし……

「アタシらがついてるから、しっかりやんなよ、雄介!」

「僕らも全力で支えます!」

 アルフ、ユーノがクウガへと言葉を掛け……

「翔にぃ……五代さん……絶対、絶対勝つって信じとるから!」

「うん。私達も出来る限りの無理をします!」

「だから、頑張って! 仮面ライダーっ!!」

 はやて、フェイト、なのはが二人に向かって想いを託す。

 そして、それを受け取り、クウガとアギトは力強く頷いた。その手に見せるはサムズアップ。絶対の安心感と信頼を与える仕草。それを見て、全員が動き出す。邪眼への対応は、既に分かった。だが、うかつに手を出せない事には変わりない。
 だから、なのは達がやや慎重に邪眼の周囲に展開した。電撃を考慮し、いつでも避けたり逃げたり出来る距離。それをそれぞれが測っていた。

 そんななのは達と違い、クウガとアギトは邪眼に対し、攻撃を開始した。格闘戦を挑むものの、地力ではやはり邪眼にやや分があるようだが、それを二人も分かっている。
 だからこそ、邪眼を挟み込むようにして対峙していた。クウガが正面に、アギトが背面に回り、邪眼に攻撃を仕掛けていたのだ。

 クウガの蹴りを受け止める邪眼。だが、その直後にアギトが足払いをかける。それに邪眼が体勢を崩しかけたところで、クウガが残った左足で蹴りを放つ。その衝撃で邪眼がややよろめいたのを見て、アギトが跳び上がり、右足で蹴りを叩き込む。
 それでクウガが更に攻撃を仕掛けようとしたところで、邪眼が手を突き出し電撃を放った。それをまともに喰らい飛ばされるクウガ。

「五代さんっ!」

「貴様もだ!」

 そんなクウガへアギトが一瞬意識を向けたのを見逃さず、邪眼がアギトへも電撃を放つ。それを同じようにまともに受け、アギトも大きく飛ばされる。更に追撃をかけようとする邪眼だったが、そこへ青い閃光が走る。
 それを受け、僅かに体を揺らす邪眼。そして、その攻撃が来た方へ視線を向けると、クロノがデュランダルを手にしていた。ブレイズキャノンを使ったようで、その顔には険しさが見える。

「大丈夫か、津上翔一っ!」

「助かったよ、クロノ君!」

 邪眼がクロノへ注意を向けた隙を突いて、アギトは体勢を立て直し、邪眼と距離を取っていた。それに邪眼が気付いた瞬間、クウガが再び立ち向かった。飛び掛りながらのパンチが邪眼に当たり、そこから更に左、右と腹部へ拳と打ちつける。
 そんな中、ユーノはずっとある事を考えていた。邪眼が使った魔法である。邪眼は、何故かプラズマランサーではなく、フォトンランサーを使っていた。今のフェイトはプラズマランサーを使っているにも関わらずだ。

(何故だ? どうして威力の低い魔法を………待てよ? そうか! そういう事かっ!)

 ユーノが気付いたのは、思考の死角。勝手に思い込んでいた発想。それに気付き、ユーノは叫んだ。それが現状の打破に繋がると信じて。

「なのは! フェイト! 邪眼は蒐集以後の魔法は使えないっ!」

「え?」

「どういう事、ユーノ君」

「つまり、蒐集された後から使えるようになった魔法には、対応していないんだ!
 プラズマランサーやアクセルシューターを使ってこなかったのがその証拠だよ!」

 それを聞いて、なのはとフェイトに変化が現れた。先程までは牽制や支援ばかりを考えて動いていたのが、途端に攻撃に移ったのだ。
 言われた通り、アクセルシューターやプラズマランサーを主体に、邪眼を攻撃する二人。それを邪眼は受け止めもせず、電撃で相殺したり、かわしたりするだけだった。

(本当だ!)

(これなら……やれる!)

 それと同時になのはは思い出す。それは、まだフレームが完璧ではないから使ってはいけないと言われたもの。その名は、エクセリオンモード。最大出力を出す事が出来るが、制御に失敗すれば、現状ではレイジングハートが壊れてしまうというもの。
 だが、そんななのはの心を読み取ったのか、レイジングハートはこう言い放つ。

”マスター”

「どうしたの」

”エクセリオンモードを使ってください”

 驚くなのはにレイジングハートは告げる。確かに制御は難しいが、なのはならやれると。そして、自分を信じて欲しいとも。そう言われても、まだ決意を決められないなのはだったが、そこにレイジングハートがこう断言した。

”信じてください、マスター。私を、そして貴方自身を!”

「レイジングハート……うんっ!」

 なのははその言葉に感謝し、力強く告げた。

「エクセリオンモード、ドライブ!」

 それに呼応し、形を変えるレイジングハート。そして、更になのはは続けて告げる。

「エクセリオンモードACS、ドライブっ!!」

”ドライブ・イグニッション”

 ストライクフレームが展開し、その先端になのはの魔力光が刃を成す。そして、周囲に光の羽を展開し、なのはは邪眼目掛けて突撃する。
 それを見て、フェイトもザンバーを振り上げ、それに続く。そして、その途中でバリアジャケットを薄くしていく。元々高くない防御力。それを極力下げる事で速度を求めたフェイトの決戦用の姿。その名も―――。

「ソニックフォームでなら……バルディッシュ!」

”ソニックムーブ”

 音速の名を冠する姿。それは確かにフェイトに従来以上の速度を与える。更に高速移動魔法を使い、突撃するなのはへ追いつき、一瞬だけ互いを見やり―――頷いた。

「ぬ?」

 そんな二人に気付いた邪眼だったが、既になのはもフェイトもその懐に入り込んでおり、そのままなのはは……

「エクセリオォォォン……」

「な、何ぃ?!」

 ストライクフレームを邪眼に突き刺すなのは。フェイトはそんななのはの上に行き、ザンバーを両手で振り上げた。自分の知らない攻撃に動揺する邪眼。そこへフェイトの声も響く。

「プラズマ!」

 それに邪眼が視線を上げれば、ザンバーを大上段に構えたフェイトの姿がある。それを迎撃しようとする邪眼だったが、その体が動かない。見れば、全身隈なくバインドで拘束されていた。その色は二色の異なる緑。シャマルとユーノの魔力光だった。

「させません!」

「二人共、今だ!」

 その言葉に頷くように二人の声が大きく響く。

「バスタァァァァ!!」

「ザンバァァァァ!!」

 二つの魔法が重なり合い、邪眼を襲う。その間に、クウガとアギトはそれぞれ邪眼を封印すべく動いていた。アギトが必殺の蹴りを放つので、そこへクウガが封印エネルギーを込めた一撃を叩き込む事を決め、二人はそれぞれ散開する。
 なのは達の攻撃で邪眼が弱ったのを確認したからだ。そして、まずアギトが動く。角が展開し、その足元にアギトの紋章が浮かび上がる。そこから前段階の構えを取り、その紋章がアギトの足へ集束されていく。それを感じ取り、アギトはその場から高く跳び上がり―――。

「はぁっ!!」

 ライダーキックを放つ。幾多の悪を倒してきた必殺技だ。それが二人の魔法で大ダメージを負った邪眼へ追い打ちをかける。堪らず大きく後退し、膝をつく邪眼と着地するアギト。それを見て、クウガが構えて走り出す。地面を踏み締める度に、その右足が熱を増す。一心不乱に邪眼目指して走る。走る。走る。

「っ!」

 そして、その勢いを持ったまま両足で大地を力強く蹴り跳び上がる。空中で一回転し、そのまま―――。

「おりゃあぁぁぁっ!!」

 マイティキックを放つ。しかも、ズ・ザイン・ダを倒した際の強化型。それが片膝をついていた邪眼を更に蹴り飛ばし、その体を大地に横たわらせる。地面に着地するクウガ。その右足から煙を出しながら、視線は邪眼へと注がれる。何とか立ち上がる邪眼。その体に浮かび上がる封印の文字。
 それに全員の期待が注がれる。苦しむ邪眼。クウガもアギトもそれを見守りながら、まだ気を抜いていない。

「ふぬっ!!」

「「「「「「「「「「「「「「っ?!」」」」」」」」」」」」」」

 だが邪眼が気合を入れた瞬間、文字が完全に消えた。全員がそれに驚愕し動きを止める中、それに即座に反応した者がいた。クウガだ。再び構え、走り出す。それを見ていたアギトだったが、何かを思いついたようにマシントルネイダーへと走る。
 それと同時にクウガが跳び上がり、邪眼へ蹴りを放った。それを邪眼は叩き落した。その光景を見て全員に戦慄が走る。クウガの全力の蹴りを受けて尚、邪眼が封印されなかった事に。そして、あれだけのダメージを受けても邪眼がクウガを相手出来る事にも驚きを隠せなかった。

 しかし、その時クロノがデュランダルを掲げて告げる。

「悠久なる凍土、凍てつく棺のうちにて、永遠の眠りを与えよ……凍てつけ!」

”エターナルコフィン”

 その唱えられた魔法は、邪眼だけを完全に氷の中に閉じ込めた。それを見てクウガはクロノへ視線を送る。そこには疲れた表情のクロノがいた。魔力のほとんどを今ので消費したためだ。だが、それを知らないクウガでさえ、そんな様子に申し訳なく思うも、クロノが見せたサムズアップにやや驚きながらもそれを返した。

「だが、これもおそらく長くは持たない。何か手はないのか」

「……フェイトちゃん、俺に魔法を当ててくれないかな」

「え?」

「電気が……いるんだ」

 実は先程の一撃でクウガは金の力を使うつもりだった。だが、何故か金の力が発動しなかったのだ。クウガは知らない。それは、無意識で自身がそれをどこかで迷っていたためだと。邪眼が弱っていたため、もしかしたら恐ろしい金の力を使わずとも勝てるのでは。そう思った事が原因だったのだ。
 それを知らず、クウガはフェイトからプラズマランサーを受ける。その魔法の電撃は確かにクウガの中へ吸収された。それを見て全員が驚いたが、クウガは構わず氷付けになった邪眼を見据えた。

「五代さん!」

「翔一君? どうしたの」

 声に反応して振り向けば、そこにはスライダーモードのマシントルネイダーに乗ったアギトがいた。アギトは言った。これに乗って加速をつけ、その勢いのまま蹴りつければ、更に威力が出ると。
 更にクウガと同時に自分も蹴りを放つ事で、今度こそ封印出来るはすだ。そうアギトは語った。

「……そうだね。それでいこう!」

「はいっ!」

「でも、氷が少し壁になるかもしれない」

 二人の立てた作戦を聞いて、ユーノは誰に言うでもなくそう呟いた。それを聞いてアギトがこう告げた。

「俺に任せてください!」

 そう言ってアギトは普段とは違う構えを取る。それは、右手を前に出してそこに左手をバツを作るように重ねるもの。

「変身っ!」

 その声でアギトの体が真っ赤に変わる。マイティフォームにも負けない程の赤。角も赤くなり、その体は先程よりも盛り上がっている。
 バーニングフォーム。アギトの更なる力を秘めた姿だ。その名の通り、体は炎を纏っていて、力は全フォームの中で一番だ。

「俺もこれで蹴ります! なら、きっと氷があっても……」

「貫ける……だね!」

 その声に全員が頷いた。ここまで来た以上、頼れるのは二人の仮面ライダーしかいない。その想いを込めて、全員がクウガとアギトを見つめる。希望と信頼、そして期待。その輝きを確かに感じ、二人は頷いた。そして、マシントルネイダーへ飛び乗るクウガ。それを確認し、アギトが上昇を開始させる。どんどん高く上がり、そしてある程度離れたところで、一気に加速をつけ、急降下させた。

 その時、邪眼を閉じ込めていた氷が震動し始めた。それになのは達が振り向き、念話である事を伝え合う。そして、氷が砕けて邪眼が動き出そうとした。だが―――。

「くっ! 何だと?! 体が……動かんっ!」

「残念でした!」

「いくら貴方でも!」

「これだけのバインドは破れまい!」

 リーゼ姉妹とクロノが胴体を……

「観念しろ!」

「もう終わりだっ!」

「闇の書の悲劇も!」

「その過ちも全て!」

 守護騎士達が両腕を……

「お前みたいなのがいるから!」

「こんな事件が起きるんだ!」

 アルフとユーノが両足を……

「でも、今日ここで!」

「私達が終わらせる!」

「だから勝って!」

 三人の魔法少女達が頭部を……
 それぞれが邪眼の体を完全に封じる。そして、そんな邪眼の視線の先には、凄まじい勢いで向かってくる二人の仮面ライダーの姿が……

「「「仮面ライダーっ!!」」」

 なのは達三人の少女の声が、二人に届く。それを受け、二人は眼下に見える邪眼を見据え―――。

「行くよ、翔一君っ!」

「はい、五代さんっ!」

 同時に跳び上がる二人。クウガはその最中、全身に電流を走らせ、体を変化させる。ライジングフォームと呼ばれるクウガの強化された姿。
 金の力ともいい、これは全フォームを飛躍的に強化するものだ。そして、その中でも一番強い力を誇るのが、赤の金のクウガ―――ライジングマイティなのだ。

 空中で一回転するクウガとアギト。そして、その姿勢を同じくし、邪眼へ向かって突撃していく。その姿はまさしく、闇を焼き尽くす炎。

「うおりゃあっ!!」

「はあっ!!」

 二人はそのまま邪眼を蹴り飛ばし、反動で空高く舞い上がり、大地に降り立つ。その先で邪眼は轟音を立て、地面に激突した。舞い上がる砂煙。静まり返る空間。そして、ややあってからその砂煙が晴れていくと、邪眼が立っていた。その胸を手で押さえ、ゆっくりとクウガ達へ向かって歩いてくる。
 それを驚愕の表情で見つめるなのは達。そして、邪眼はゆっくりと残った手を構えた。電撃を放つつもりなのだ。

「残念だったが、我は不滅よ。これで……ぐぬっ?!」

 だが、その時邪眼に変化が起きる。何か後ずさると、恐る恐る押さえていた手を離していく。するとそこには―――。

「文字が……浮かんでる」

 呆然とユーノが呟いた。そう、封印を意味する文字がくっきりと浮かんでいた。しかも、それに何故かアギトのマークも重なっている。

「ば、馬鹿な……こんな、こんな事が……」

 信じられないと言ったような邪眼の声。それは明らかに今までとは違うものだ。それに誰もが確信した。これで勝ったと。転生機能があるとしても、もうおそらく再生出来ないだろうとも。
 そう、文字を中心に邪眼の体にひびが生じていたからだ。それを見て、クウガは小さく心から呟いた。

「これで……クウガがいらなくなるといいけど」

「え……?」

「死なん! 我は死なんぞぉぉぉぉ!!」

 それを聞いたのは、アギトだけ。すると、その呟きがキッカケのように邪眼が爆発していく。それになのは達は残った魔力を使い、防御魔法を展開する。そのまま爆発は周囲に広がり、灼熱の炎で包み込んだのだった……



 やがて炎が消え、周囲に落ち着きが戻る。そこへアースラから通信が入った。どうも邪眼が現れてから今まで、一切の連絡が出来なかったらしく、エイミィが全員の無事を聞いて涙を流した。

「リイン、どうや? あいつ、まだ生きとるか」

「……いえ、完全に消滅したようです。あの文字は奴の機能全てを封印、もしくは破壊したのでしょう」

「本当に……終わったんだ」

 リインフォースの言葉にアリアがそう言ってその場に座り込む。それをキッカケになのはやフェイトも地面に座り込んだ。全員、疲労困憊という状態だった。だが、その顔は揃って笑顔。その視線も同じ者達へ注がれている。

「つっ……かれた~」

「ですね~」

 その相手、五代と翔一は地面に寝転がっていた。その顔は疲れは見えるものの、どこか嬉しそうだった。そんな二人を見て、全員が笑う。先程までとは大違いの雰囲気だったからだ。だが、それこそ二人らしいと思い、なのは達は笑う。
 そんな笑い声に二人も笑みを浮かべ、体を起こして無言のサムズアップ。それに全員がサムズアップを返す。こうして、後に闇の書事件と呼ばれる戦いは幕を閉じた。だが、それは新たなる戦いの幕開けでもある。

そう……この戦いを、後に関係者はこう呼んだ。『第一次邪眼大戦』と……

ジェイルラボ 廃棄所。そこに置かれた一つのケース。その中に僅かに時空の歪みが生じて”何か”が入り込んだ。
それは、そのケースの中身を取り込み、いくつもあった中身は最初からそうだったかのように一つになった。
そして、それはそのまま静かに眠るように沈黙するのだった……





 ジェイルラボ 研究室。そこに真司はいた。理由は一つ。今後目覚めるナンバースの事を相談するためだ。トーレに言われてから色々考えてはいるのだが、中々良い案が浮かばない。そのため、天才と自称するジェイルの意見を聞こうと思ったのだ。

「で、考えてきたんだけどさ」

 そう言って真司が見せたのは『セッテ、オットー、ディード淑女計画』と日本語で書かれた紙。さり気無く淑女の淑が訂正されている痕跡がある。
 ジェイルは既に日本語をある程度読めるようになっていた。というのも、真司が一向にミッド文字を覚えず、情報疎通に難があったためである。それにジェイルは目を通し、呟いた。

「……ふむ。淑女、ねぇ……」

「今、家にいるので近いのは、ウーノさんとディエチかな。チンクちゃんはそう言えない事もないけど、結構過激な部分もあるしさ」

 真司は訓練の時に受けたチンクのIS―――ランブルデトネイターの事を思い出しながら言った。あの爆発を自在に操り、真司に勝とうと躍起になるチンクに、真司が内心人は見た目によらないと改めて感じたのは、ここだけの秘密。
 ジェイルは真司の書いた内容を見つめ、やや何か考えてから一言呟く。

「無理だね」

「そうそう、無理……って、おい」

「いや、何せセッテ達も戦闘型だよ? 元々から支援を考えて生まれたウーノやディエチとは異なるんだ」

 ジェイルは真司にも分かるように丁寧且つ簡単に説明していく。それは、三人のコンセプトと製作背景。更に、残りの九番や十一番に関しても話した。そう、残った少女達は皆戦闘機人の名に相応しい存在なのだと。
 それを聞きながら、真司は余計彼女達を人として生きさせてやりたいと思っていた。戦うために創られた命。だが、その使い方や生き方を決めるのはその本人だ。だからこそ、真司は思う。様々な選択肢を教える事。それこそが自分がセッテ達にしてやれる唯一の事じゃないかと。

 そんな風に真司が決意を新たにしている時、ジェイルはジェイルで思う事があった。自分は今まで誰かのために動かされてきた。だから自分のために世界を変えようと考えたのだ。しかし、真司と出会い、それが間違いだと気付いたのだ。
 本当に変えるべきは世界ではなく、自分。自分が変われば世界が変わる。そう気付くとどうだ。嫌々していた仕事は、自分が好きな事をするための必要事項と思えるようになり、ただ体のためにと考えていた食事が、今では三度の楽しみに変わり、研究しかする事がなかった生活に、真司が持ち込んだ将棋(考えとルールのみで、実際はチェスで代用)を真司と指す事が加わり、趣味と呼べるものが出来た。

(世界を変革する力っていうものは、案外誰もが持っているんだろうね)

 今を懸命に生き、楽しもうとする。その生きる事の原点ともいえる考え。それに気付く者こそ、世界を変えていくのではないか。そんな事を思いながら、ジェイルは笑う。それを真司は不思議そうに見つめる。今の話で笑うようなところはなかったからだ。
 そんな真司の視線にジェイルは何でもないと言って、話を続ける。

「だから、三人を淑女には出来ないと思うよ。ま、不可能とは言わないけどね」

「そっか……じゃ、俺とりあえず頑張ってみるよ」

「……そう言うと思ったよ」

「ん? 何か言った?」

「いや、気のせいさ」

 いつもの表情でジェイルが言うと、真司はどこか釈然としないものを感じているようだったが、頷いて部屋を後にした。その閉まったドアを眺め、ジェイルは呟く。

―――真司は、本当に見てて飽きないね……と。

そう呟くジェイルの顔には、心からの屈託のない笑みが浮かんでいた。




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A's編最終決戦終了。だが、闇は消えず。ただ今は、静かに眠るのみ……

クウガとアギトは、このまま海鳴には残りません。どうなるかは、次回で……



[22476] 【一発ネタ】Masked Rider in Nanoha A's編完 (クウガ・アギト・龍騎)
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/11/22 09:45
 アースラによる探査にも邪眼の反応がなかった事で、一同に安堵が訪れた。そして、喜びはそれだけではなく……

「何だと?! それは本当か!?」

「……私自身信じられんが、どうも邪眼が私のユニソン機能以外を奪っていったせいか、防御プログラムの再生は起きる気配がない」

 シグナムの声に頷くリインフォース。そう、リインフォースの中にあったバグ。それが完全に消え去っていたのだ。だが、今はユニゾン出来るものの、それもいずれ出来なくなりそうだとリインフォースは語った。どうもユニゾン機能自体が破損しているらしく、それを修復すると防御プログラムも復元してしまう可能性があるとの事。
 なのでリインフォースは、自分の代わりとなるユニゾンデバイスの製作を考えなければならないとはやてに告げた。

「それで、リインはずっとおるんやな?」

「はい。存在する事自体には影響はありません。その……これからもよろしくお願いします、主」

「リイン……うん、うん……これからもよろしくや」

 涙ぐむはやてとリイン。それを見てなのは達にも笑顔と涙が。それを五代と翔一は微笑ましく見守っていた。そして、五代は何か思い出したような顔をして、なのはへ近付いた。

「なのはちゃん」

「ふぇ? 何、五代さん」

「あのさ、ちょっとお願いがあるんだ」

 五代が話したのは、すずかの事。魔法の事を教えて上げてほしい。そう五代は言った。それに戸惑うなのは。どうしてそれを教えないといけないのだろうと思うなのはだったが、五代が告げた一言に驚くと同時に納得してしまう。
 すずか達月村家の人々は五代がクウガである事を知っているのだと。だから、魔法を隠す必要ないよと。それを聞いてなのはもフェイトも、そしてはやても安心した。

「あ、それと……」

「まだ何かあるの?」

「俺、クウガだけどさ。その……怪物かな?」

 五代の突然の言葉に驚くなのは達だったが、三人してそれを否定した。例えどんな姿になっても五代は五代だから、と。それを聞いて五代は何か嬉しそうに頷くと、サムズアップ。
 ありがとう。その気持ち、絶対無くさないようにね。そう五代は笑顔で告げた。その言い方に不思議そうな表情のなのは達。三人は、この後知る。何故五代がこの時そんな事を言ったのか。何故、自分を例えに出しておきながら、どこか誰かを思いやるような言葉だったかを。

 そのやり取りが終わったのを見計らって、アリアとロッテが周囲に話があると言った。それに誰もが不思議そうにする中、アリアが魔法を使った。そして、その姿を仮面の男へと変える。
 それを見て言葉を失うなのは達。だが、翔一はそれで納得した。あの日、アリアの腕の怪我は自分が負わせたものだったのだと。

「ごめんなさい! まさかアリアさんなんて……」

「えっ?! いえ、謝るのは私の方だから!」

「でも、女の人を傷付けるなんて……」

 心から謝る翔一に、アリアはむしろ逆に申し訳ない気持ちになっていく。そんな二人を他所に、ロッテは今回の事で自分達が考えていた事を全て話した。グレアム達が考えていた完全封印。だが、それも完全ではなく、穴がある。しかもはやてを犠牲にする事が前提の話。
 それを計画したのが、足長おじさんと思って慕っていたグレアムだと分かったはやてだったが、その優しい気持ちは偽りではなく、本物だったと信じているからと告げた。
 そして、こう言ったのだ。

「それに、アリアさんもロッテさんもこうやって協力してくれた。なら、それでええ。
 おじさんもデュランダル渡してくれたいう事は、二人と同じ気持ちなんやろし……わたしは許すよ、おじさんもアリアさんもロッテさんも」

―――ほんまにおおきに。

 笑顔でそう言ったはやて。それを聞き、涙を流すアリアとロッテ。シグナム達はそんな二人に対し、複雑な心境だったが、最後の戦いで二人がいなければどうなっていたか分からないと思ってもいた。
 だからこそ、四人も何も言わない事にした。自分達が太古に犯した罪。その大きさを考えれば、二人の決断に口を出す事等出来なかったからだ。

 そうして、色々と落ち着き、みんなでアースラに戻ろうとなった時だった。突然、五代の脳裏に声が聞こえたのだ。

”若者よ……”

「え……?」

 突然起きたあまりの事に五代は足を止めた。それに気付き、翔一が振り返る。五代が何か不思議そうな顔をしていたからだ。

「どうしたんです?」

「いや、今さ、声聞こえなかった?」

「声、ですか? いや、何も……」

「だよねぇ……」

 気のせいかな。そう言いながら再び歩き出す五代。それに翔一はこれ以上気にしないように、疲れたからですよ、と告げた。それに五代も苦笑し、そうだねと頷いた。だが、その瞬間、また同じ声が聞こえた。しかも、先程よりもはっきりと。

”若者よ、まだ闇は消えていない”

(誰……?)

 声に出さず、尋ねる五代。それに返ってきた答えに、彼は言葉を無くす。

”我は、アマダムと呼ばれしモノ”

(嘘……)

 アマダムは語る。五代が受けた魔力の雷。それにより、失われていた自我が目覚めたのだと。それに疑問を浮かべる五代だったが、それを察し、アマダムはこう言った。古代戦ったクウガが、何故姿を変えられる事に気付けたかと。それは、自分が教えていたからだと。
 それを聞き、五代は納得した。自分は理解したものは碑文などに書いてあったが、それは古代には無かったのだ。最初のクウガは、アマダム自身からそれを教わっていたと言われ、心から信じる事が出来た。そして、その自我が失われた原因は、長きに渡る封印の影響だった。

”あれにより、我はその力の大半を使う事になった。だが、完全には失ってはいなかったのだ。その証拠に、見ただろう”

(何を?)

”始まりの戦士の姿を”

(あ……)

 九朗ヶ岳で見たイメージ。あれは、アマダム自身が、資質ある者のみに見せるものなのだそうだ。そして、アマダムは告げた。伝える力は弱ったが、後少しで完全復調するはずだったと。それを邪魔したのが、ダグバとの戦いで受けた傷。
 あれのせいで、また機能が弱まったのだと。そして、その弱ったものを魔力が呼び覚ましたそうなのだ。

 それだけ話すと、アマダムは五代にこう告げた。

”今のままでは、闇の力に飲み込まれかねない。もう一人の王の力を求めよ”

(今のままじゃダメ? それに闇の力? ……もう一人の王って、一体誰?)

”それは、これより誘う場所に……”

 そう聞こえた時、五代の体が光に包まれる。それに全員が気付き、振り向いたが―――。

「五代さんっ!」

 間に合ったのは翔一のみ。何とか五代の手を掴もうとするが、掴んだと思った時には、翔一も光に飲み込まれていた。
 そして、光は周囲へ広がり、その輝きに全員が目を閉じた。その光が収まった後には、もう二人の姿はなかった……

 あまりの事に誰もが声を失う中、なのはとはやてが叫んだ。

「五代さぁぁぁぁんっ!!」

「翔にぃぃぃぃぃっ!!」

 その悲痛な叫びに、答える者はいない。その場に残された翔一のバイク。それだけが、二人がいた証のように残されていた……

 この後、アースラやなのは達による懸命な調査が行なわれるものの、二人の居場所どころか痕跡さえ掴めなかった。その一年後、はやては守護騎士達と共に管理局に入る。それは贖罪だけではなく、翔一達を捜すため。家族とそのために戦ってくれた恩人。その二人を見つけ出すために。
 無論、はやてがそんな判断を下したように、なのはとフェイトも何もしなかった訳ではない。まず、はやてと共に月村家に行き、五代が旅に出たと誤魔化した。それを聞いた瞬間、イレインはその場を飛び出した。そして、そのまま五代の部屋へ行き、そこで思いっきり叫んだのだ。

「早く終わらせてストンプ見せんじゃね~のか! この、馬鹿やろぉぉぉぉぉっ!!」

 早く終わらせてストンプを見せる。その約束を覚えているから、イレインはなのは達が嘘をついている事を悟った。故に叫ぶ。どうしてだと。ここにはいない五代に向かって。その目から、光るものを流しながら……



 そしてなのは達は、親友のすずかとアリサに魔法の事を話し、理解を得ようとした。だが、三人は理解を得ると同時に、すずかの秘密も聞かされた。

 『夜の一族』と呼ばれる吸血一族。それを聞いた時、なのは達は五代とのやり取りを思い出した。怪物と尋ねられた際、五代は五代と否定したその言葉。その気持ちを無くさないで。その意味を、想いを思い出して、三人はすずかはすずかだと心から言い切った。それを聞いて涙ぐむすずかに、三人は言った。五代がそう教えてくれたのだと。それを聞き、すずかは声を上げて泣き出した。

 約束していたのだ。五代は、いつかすずかが自分の秘密をなのは達に話せるようになると。そのために、自分の出来る範囲で手を打ってみせると。
 すずかの口から零れる五代を呼ぶ声。それを聞きながら、なのは達は改めて誓う。必ず見つけ出して、すずかと再会させるのだと。その気持ちを胸に、二人もまたはやてと同じく管理局に入る。そして、そこで様々な出会いや力、想いを得ていくのだ。

やがて三人の少女は大人へなっていく。思い出すのは、みんなの笑顔のために戦った二人の事。
そんな中、三人の知らぬ所で青年達は戻ってくる。それもまた、人知れず人を助ける事になる。
物語は、これから数年後、ミッドチルダにて再開する……





 ただ木々が覆い茂る無人の道路。そこを一台のバイクが走って行く。彼は、仲間達に別れを告げ、世界を守るために旅に出たところだった。
 だが、彼が乗るそれは、赤い目のようなライトとアンテナがついた独特のもので、全身は青で染め上げられている。その車体には、おそらく何かの文字なのだろう。それが大きくペイントされている。
 そして何より特徴的なのは、その彼自身。黒いボディに真っ赤な目をした異形の存在。それが彼の姿。彼もまた、世界を救ったヒーローの一人。

「……ん?」

 その赤い目が何かを見つけた。時速にして、おそらく五百以上のスピードは出していたバイクが、実に意外な程あっさり減速して停止する。そこから分かるのは、このバイクが既存の技術で創られてはいない事。そして、バイクから降り立つ異形の存在。その視線が見つめる先にいたのは―――。

「人か……でも、どうしてこんなところに……?」

 それは、気を失い倒れる五代雄介だった……

古代の戦士は、こうしてまた新たな出会いを果たす。それは、甦るだろう邪悪な闇を打ち倒すための出会い。
そして、その戦いに勝利した時、戦士の戦いは終わる。ただ、その雄姿と笑顔を残して……





 ジェイルラボ 廃棄所。龍騎は大きなケースを運んでいた。中身はいらなくなった機械の数々。ジェイル曰く、もう必要ないからだそうで、名前すらないらしい。仕方ないので、真司は勝手にジェイルの作ったオモチャと言う意味で『トイ』と呼ぶ事にした。
 一つ目のロボットで、最初はこれを相手にデータ取りしたなと龍騎が思い出していると、ふと何か目に付くものがあった。それは、龍騎が運んでいたものよりは小さいが、人一人くらいは入る事が出来るようなものだった。

 そこに入っていたのは、何かよく分からないが生物らしきもの。その気味悪さに、龍騎はきっとジェイルの実験生物だろうと思った。

「ったく、こういう事するなら創るなよな……」

 そう文句を言って龍騎は去って行く。龍騎は知らない。それがジェイルのコピー受精卵を入れていたものだと。そして、その気味の悪い生物こそ、自身の嫌う戦いを生み出すものだと。この時の龍騎は知らなかった……



「ね、真司兄。今日の晩御飯、何?」

「そろそろ寒くなってきたからさ。今日は鳥団子鍋だ」

「鍋? どういう事?」

 真司の横で言われるままに野菜を切っていたディエチ。その質問に真司は笑って説明する。鍋というのは、色々な具材を用意して、出汁や鍋汁を張った鍋でことこと煮るものだと。
 野菜や肉、魚を主に使い、他にも色々な食べ方や楽しみ方があるんだと真司は自慢げに語った。それを聞き、目を輝かすセイン。そして真司に早く鍋食べたいとせっつく。それを見て苦笑するディエチ。真司はセインに、なら手伝えと言ってエプロンを渡す。

「へ~い……」

「じゃ、セインはこれを丸めて団子にしてくれ。ディエチはそれ終わったら、今度は大根の方頼む」

「うん」

「さ、今日も美味い飯作るぞ!」

「お~!」

「お~」

 真司の号令にノリノリのセインと少し恥ずかしそうなディエチ。だが、二人共に気持ちは同じ。こんな時間が楽しくて仕方ないのだ。
 セインは団子を上手に作り、真司に誉められ得意顔。ディエチも大根をきちんと面取りし、真司が感心した顔をしてセインが対抗心を燃やす。そんな三人のやり取りを聞きながら、チンクとトーレ、クアットロは微笑んでいた。
 ちなみに、セッテの起動にはまだ時間がかかりそうで、早くても年明けになるのだ。原因は、固定武装の開発の遅れ。龍騎から得たデータを基に材質から改良しているため、時間が掛かっているのだ。

 真司には、ジェイル自身が説明済み。どういう生き方を選ぶにしろ、身を守る術はあった方がいい。そして、出来るなら、それは負ける事のないようにしておくべきだと。
 故に、道具には万全を期したいとジェイルは語った。真司が納得したのは、ジェイルが最後に言った一言。

―――大事な娘達だからね。

 その言葉に真司は頷いた。納得するまでやってくれと。女の子なんだから、身を守る方法はあるにこした事はないと強く言って。それにジェイルも感謝して、現在に至る。

 で、クアットロがしている仕事は、それに関連するもの。本来なら調整室でやった方が色々都合がいいのだが、何故か最近は、こうして食事の時間近くになるとここに来るようになっていたのだ。
 だからこそ、それにチンクが不思議そうに呟いた。

「それにしても、ここでやらなくても良かろうに」

「いいじゃない。私の勝手でしょ」

「……素直に調整室で一人は嫌だと言ったらどうだ?」

 トーレの言葉にクアットロの手が微かに止まるも、それを感じさせない速さで再開し、それを誤魔化す。だが、高速戦闘を得意としているトーレには、それすら見えていた。おそらくクアットロも承知の上だろう。それでも誤魔化すところに、滅多に見れない四女の可愛さを見つけた気がして、トーレは追求を止めた。
 チンクもおそらく気付いているのだろうが、同じ気持ちなのか何も言おうとしない。そうしている間にも、キッチンの方から食欲をそそる出汁の香りが漂うのであった……



 その頃、ウーノはジェイルと共に妹達の調整を手伝っていた。その手元には、ある姉妹の情報がある。ギンガ・ナカジマとスバル・ナカジマの二人の名前が書かれたものだ。
 彼女達は、実はジェイルではない存在が作り出した戦闘機人。そのため、ジェイルは彼女達を『タイプゼロ』と呼んでいた。以前は、この二人を自分の下へ連れてこようとも考えていたジェイル。しかし、現在彼がこの二人の情報を求めるのは―――。

「ふむ、異常はないようだね」

「はい。局にも優秀な人材はいると言う事でしょう」

 二人の状態確認だ。既に二人の事を、ジェイルはこう思っている。ナンバーズの親戚、あるいは腹違いの姉妹と。故にこうして定期的に情報を送ってもらい、その体に異変はないかを調べているのだ。
 まぁ、少しはデータ取りの意味もあるのだが……

 ウーノの答えに頷き、ジェイルは視線を書類からモニターへと移す。そこに表示されているのは、色褪せたような龍騎の姿。そう、ブランク体と呼ばれるものだ。
 真司の話では、ライダーは最初この姿だと聞き、ジェイルは早速とばかりにデータ取りをさせてもらったのだ。そして、その甲斐はあった。現在の龍騎のスペックはとてもではないが再現出来ない。しかし、このブランク体なら、どうにか再現可能なレベルだったのだ。

「……もし、これを量産出来れば、戦闘機人なんていらないねぇ」

「ドクター?」

「いや、少し……ね。真司に嘘を吐いているような気がしてね」

「ドクター……」

 ジェイルはウーノの声に小さく笑って呟いた。全てのナンバーズの起動が終わって、研究が一段落したら、真司に全てを打ち明けると。
 それを聞いて、ウーノは驚きも怒りもしなかった。ただ、静かに笑みを浮かべて頷いて告げた。それがいいと思います。その声は、優しさと喜びに満ちたものだった……



「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」

 全員揃っての食卓。大きな鍋を囲み、それぞれが箸を伸ばす。肉ばかり取ってウーノに注意されるセイン。野菜をあまり取らないジェイルへ無理矢理野菜をよそう真司。チンクは肉団子の熱さに驚きながらも、その肉汁と微かに香る柚子の香りに表情を緩め、トーレは大根を口にし、その染み出す味に頷いている。クアットロとディエチは豆腐をすくい、箸でそれを四等分し、冷ましていた。

 そんな賑やかで楽しい食事。初めての鍋に全員が満足し、最後の締めは、溶き卵を流して少し蒸らした雑炊。全ての旨味が凝縮されたそれは、取り合いになる程の美味しさだった。
 ジャンケンで取り合おうと主張する真司とセイン。年功序列と言うジェイルとウーノ。運動をしている者が優先と言い出すトーレとチンク。そして、そんな六人の目を掠めて、密かに食べようとするクアットロを止めるディエチ。

「だ、ダメだよクア姉」

「もぅ、ディエチちゃんは黙ってなさい。私は頭脳労働してるから権利があるの」

 だが、そんな悪巧みは露見するもので……

「「「「「「あ~っ!!」」」」」」

「ほら! 見つかったじゃない!」

 六人が一斉に声を上げ、クアットロを指差した。それにしまったという表情を浮かべ、クアットロは逃げ出した。それを追う六人。そして、取り残されるディエチ―――だったのだが。

「……冷めたら美味しくないよね?」

 誰に尋ねる訳でもなく、そう言い聞かせるように呟いて、残った雑炊を自分のお椀へ入れるディエチ。そして、それを一口含み、後ろへ視線を向けて一言。

―――幸せ、だな……

その視線の先では、七人がギャイギャイと言い合っているのだった……



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A's編エピローグ。そして、新章までの空白期に入ります。

五代が出会う相手。それが最後のライダーです。一方、翔一の方は次回以降で。

真司は完全ほのぼのです。ちゃっかりディエチは、みんなに許してもらえます。そう、ディエチなら仕方ないって。

次回から板移動します。迷いましたが、その他板に行こうと思います。理由はライダー達がメインだからです。



[22476] Masked Rider in Nanoha 空白期1
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/11/22 09:49
 焚き火を囲み、向き合う二人の青年。片方はご存知五代雄介。今も焚き火に手を当て、暖かさを感じて笑顔を受かべている。問題は、その向かい。
 彼は白い上着を着ており、五代とは違う意味での好青年だった。気を失っていた五代を助けてくれた恩人。彼の名は―――。

「光太郎さんも旅をしてるんですか」

―――南光太郎。黒い太陽の名を与えられた者。またの名を、仮面ライダーBLACK RX。

「ええ。自分の出来る範囲で、自然を守っていこうと思って。もっと、人間が自然と共存して暮らせるようにって」

「……いいですね、それ」

 光太郎の語った言葉は、五代にとっては嬉しい言葉だった。冒険家である自身とは違うが、どこかそれは、亡くなった父に似た感じがしたのだ。
 戦場カメラマンであった五代の父。戦争の悲惨さや凄惨さを伝える事で、みんながいつか争いを止めてくれるようにと。そして、たまに大自然を撮影し、その写真でみんなが心和ませてくれるといいな。そう言っていた事を思い出したのだ。

「それにしても、どうして五代さんはあんな処で?」

「えっと、何て言ったらいいのか……」

「あ、言いにくいなら別に……」

「……すいません」

 それで互いに黙ってしまう。だが、五代としては、ここが海鳴でない事は確認した。そして、どうも自分がいた世界とも違うようだと。
 何せ、光太郎に何年かを聞いて驚いたのだ。まだ平成になったばかり。それを聞いた瞬間、五代はキョトンとした顔をし、光太郎に不思議がられたのだから。
 なので、こうして光太郎から五代はやや不思議がられているのだが、それを向こうが追求してこないのには、ちゃんとした理由がある。
 五代は冒険家なので、久しぶりに日本に帰ってきたと言ったのだ。それに光太郎は納得した。年号が変わった事を知らないのは、そのせいですねと。

 五代はそう思い、安心していた。一方、光太郎はまだ五代をどこか怪しんでいた。不審人物としてではない。何かある気がする。その勘とも言える部分が、そう彼に告げていたのだ。
 だからだろう。光太郎は、ある事を尋ねてみた。それは、おそらく世界中の人々が知っているであろう出来事。

「でも、良かったですね。二年近く前だったら、ゴルゴムに占拠されてましたし」

「え?」

「……知らないんですか?」

 光太郎の視線がやや鋭さを帯びる。それを感じ取り、五代は迷った。自分の事を話すか否か。アマダムは何故か何も言ってこないため、五代はどうすればいいのか判断がつかなかったのだ。
 アマダムが言ったもう一人の王。それがこの世界にいるのは間違いない。でも、一体どんな相手でどういう姿か分からない以上、捜し様がない。それに、光太郎が五代から何か感じ取ったように、五代もまた同じように感じ取っていた。相手にも、何かあると。

「……ゴルゴム、ですか?」

「ええ。怪人を使い、この日本を一時期占拠した悪魔の軍団です」

「怪人……」

「仮面ライダーBLACKがゴルゴムを倒し、今は存在しませんけど」

 光太郎の告げた名前に、五代は表情を変えた。それに光太郎も気付き、五代を見つめた。
 五代は思い出していたのだ。邪眼との会話で、翔一が挙げた名前。そう、BLACKさん。そして、キングストーンを持っていたと邪眼は言っていた事も。
 きっと、もう一人の王はその人だ。そう思い、五代は光太郎へ尋ねた。そのBLACKって人はどんな人ですか、と。その問いかけに光太郎は驚くも、五代の眼差しに込められた輝きに何かを感じ、静かに語り出した。自分も伝え聞いただけだけど、と前置いて。
 それは、思わず五代でさえ聞き入ってしまう程の物語。聞き入りすぎて、疑問を忘れてしまう程の、悲しく、辛く、そして救いのない物語。

 たった一人、強大な悪へ立ち向かったヒーロー。そう言えば、聞こえは良い。しかし、その異形の力と姿は、そのゴルゴムによるものだという。それでも、彼は自分のような犠牲者を出さないため、ゴルゴムへ孤独な戦いを挑んだ。
 多くの怪人を倒し、時に傷付きながらも、最後まで戦い抜いた仮面ライダー。ゴルゴムを倒した彼は、人知れず姿を消した。

「……じゃ、今BLACKさんは……」

「今は、BLACK RXと名乗ってます。つい最近までクライシス帝国と戦ってました。他の先輩ライダー達と共に」

「え? RX? 先輩ライダー?」

「名前の方は、詳しくは知らないですけど、姿が変わったから変えたみたいです。きっと、クライシスのせいだと思います」

 光太郎は疑問符を浮かべる五代に苦笑しつつ、また語り出す。先輩ライダーというのは、人知れず世界を守り、悪と戦い続けていた仮面ライダー達なのだと。
 クライシスは異世界からやってきた侵略集団。一度はBLACKを倒したらしいが、彼がRXとなって復活した後、その強さに勢いを弱められ、最後は町一つを消し飛ばす程の爆弾を内臓した怪人や、幹部を改造した怪人を使ってRXを苦しめたが、先輩ライダー達や仲間達の協力を得たRXはそれらを全て倒し、クライシスを撃破し無事地球を守り抜いた。
 そして、その怪人の爆弾により、首都圏は復興の真っ最中で、RXを始め、仮面ライダー達は、世界の各地で現れるかもしれない悪と戦うために、散り散りになったらしい。

「……て、とこですね」

「そうなんだ……じゃ、翔一君はここの生まれ?」

「翔一君?」

「あ、知り合いです。仮面ライダーやBLACKさんの事を教えてくれたんですよ」

 五代の言葉に引っかかるものを感じ、光太郎は尋ねた。その名前をどうしてその人は知っているのに、何故五代はゴルゴムの事を知らないのかと。それに、五代はやや考えたものの、これはきっと大丈夫だと思って答えた。
 彼は、前にBLACKさんと発電所で会っただけだからと。そう笑顔と一緒に告げた。だが、それを聞いた光太郎が驚愕の表情を浮かべた。

 発電所。そして、彼が知らない名前。それが意味する事は、光太郎の中で一つしかなかったからだ。あの頃は知らない存在だった先輩達や未来の仮面ライダーと出会った戦い。そして、先輩達の名前を知った今、彼の名を知り、発電所で出会った相手は一人しかいない。
 だからこそ、光太郎は五代に尋ねた。その彼は、何故貴方に仮面ライダーの事を教えたのかと。それに五代は困ったような顔をした。しかし、その瞬間、光太郎の脳裏にある声がした。

”光太郎……”

(キングストーン?)

”この者は、お前と似た力を持っている……”

(何っ!?)

 急に黙った光太郎に五代は不思議そうな表情。だが、その五代にもある声が聞こえてきた。しかも、それは予想だにしなかった声。

<五代さん……>

<えっ? 光太郎、さん?>

 光太郎の声。だが、目の前の光太郎は口を開いていない。それから導かれる答えは一つだった。

<まさか、RXって……>

<……俺の事です。でも、教えてください五代さん。何故、貴方にキングストーンがあるのかを>

<……分かりました。俺、アマダムっていう石が体に入ってるんです。それが、どうもそれと同じらしくって>

 五代は邪眼が言っていた事を光太郎へ語った。光太郎は、邪眼という名前に驚いたものの、五代と翔一が倒した事を聞き、安堵した。
 そして、五代からクウガになった時から今までの話を聞き、彼もまた、未来の仮面ライダーだったのだと感じていた。彼の時は、先輩達や自分が現れなかったらしいが、それを五代は、他の国にも同じようなのが出ていたのかもしれないと、光太郎達を擁護した。
 最後に、アギトの名を聞いた時、光太郎はやはりと頷いた。あの異様な空間。そこで共に悪と戦った仲間。あれ以来出会う事はなかったが、自分の事を覚えていてくれた事には、光太郎も嬉しさを感じた。

 全てを話し終え、五代と光太郎はそれぞれ息を吐いた。五代はアマダムからもう一人の王を捜せと言われたらしい。それは、シャドームーンがいない今、自分の事だろうと光太郎は思った。
 キングストーンを邪眼が未だに狙っていた。それだけでも驚きなのに、それを違う形で持つ仮面ライダーがいた事にも驚いた。それに、どうもまだ邪眼は完全に倒せていないらしい。そう光太郎も五代も結論付けた。

 だが、そこで問題になったのは、どうやって邪眼がいる場所まで行くかだ。五代の話では、おそらく邪眼は魔法世界にいる。だが、そこへ五代は偶然移動させられた。つまり、行き方が分からないのだ。
 異なる世界。その考え方を聞いて、光太郎にある可能性が浮かんだ。

「五代さん、行けるかもしれない!」

「えっ?」

「俺の仲間に、怪魔界という場所へ行ける力を持つ奴がいるんだ。それを上手く使えば、もしかしたら……」

 そう告げる光太郎に、五代が力強く頷き、サムズアップ。

「大丈夫です! 必ず行けます!」

 その言葉と仕草。それに込められたものを感じ取り、光太郎は笑みを浮かべる。やはり、彼もまたライダーなのだと。そう、希望を与える何か。それが五代からも感じられるのだ。
 光太郎はそう思い、サムズアップを返す。だが、その顔は笑顔ではなく真剣なもの。それに五代はやや驚くが、次の瞬間、光太郎が笑顔になる。その変化にまた驚く五代だったが、頷いて笑顔を返す。

こうして、五代は光太郎と出会った。そして、それは新たな戦いの幕開けでもあった……



 巨大なクワガタを模したようなオブジェ。それが大きな存在感を出している。そして、それに繋がれた幾多もの配線。それらは全て計測用の機械へと繋がれていた。
 ここは、科学警察研究所。通称科警研である。そして、このオブジェのようなものは、クウガの頼れる仲間の一人である『ゴウラム』と呼ばれる存在なのだ。

 そんなゴウラムを前に、一人の女性が首を傾げていた。榎田ひかり。ここで未確認関連の研究をしていた女性だ。彼女は、何やら呟きながら、ゴウラムを調べている計器へ視線を向ける。そこには、何も変化がない。
 それを改めて確認して、榎田は頷いてまた視線をゴウラムへ戻す。

「……っかしなぁ~。確かに動いたはずなんだけど」

 そう、五代がいなくなってから、まったく動かなかったゴウラム。それが、つい先程微かだが計器に反応があったのだ。それに偶然気付いた榎田は、こうして久方ぶりの徹夜をし、ゴウラムに付きっきりなのだ。
 愛する息子には、ちゃんと許可を貰った。四号に関する事と告げると、息子も納得したように頑張ってと言ってくれたのだ。

「でも、これじゃあねぇ……」

 無駄骨か。そう思って視線を外した瞬間だった。何かが落下する音がした。しかも、ゴウラムの上に。その音に視線を戻す榎田。そこにいたのは―――。

「人? ……しかも、何もない場所から……?」

 ゴウラムの上に寝そべるように、倒れている津上翔一の姿だった……

こうして、人の新たな可能性は、戦士の友と出会う。それは、今は相棒を得ていない戦士を助ける事になる。
そして、彼に託される願いと想い、その全てを戦士に伝える事は、彼にも新しい道を開く……



 ジェイルラボ 調整室。そこに真司はいた。呼ばれたのだ、クアットロに。そう、ナンバー7、セッテが目覚めるとそう言われて。なので、喜び勇んで来てみたのだが、既にセッテは起動を終えていて、全身タイツのようなボディースーツを着ていた。目覚める瞬間に立ち会えなかったと落ち込む真司だったが、それを見てセッテが告げた一言に真司は驚く事になる。

「兄上、そんな落ち込まないでください」

「あ、兄上ぇ?!」

「何か問題が? 真司兄上と呼ぶと堅っ苦しいと思われる。そうクアットロ姉上に言われたので」

 そう言って不思議そうに首を傾げるセッテ。その仕草が真司には、長身でモデル体型のセッテにはどこか不釣合いだったが、それ故に可愛く見えた。言葉遣いはともかく、自分はやはり兄なんだなぁと感じつつ、真司は気を取り直して自己紹介。

「ま、それでいいや。俺は、城戸真司。よろしくな、セッテ」

「はい、兄上。私は、ナンバー7、セッテ。ISはスローターアームズ。簡単に言えば、ブレードを自在に操る事です。よろしくお願いします」

 笑顔の真司に微かな笑みを返すセッテ。それを見て、クアットロはうんうんと頷くと、早速とばかりに真司へ告げた。セッテの初訓練をしてやってほしいと。それに真司はやや躊躇うも、セッテの「私とでは……不服でしょうか?」の一言に慌てて了承し、歩き出した。その後をついて行くセッテ。
 クアットロは、そんな二人を見送り、小さく笑う。真司が教育を担当する相手は、まだ最低でも二人いるのだ。オットーとディードの双子。真司は、オットーとディードが双子と聞き、凄く楽しみだと言った。

(でもぉ……おそらく起動は、オットーよりも先にノーヴェかしらね? ドクターったら、ライダーシステムと並行している割に、仕事速いんだから)

 そう思ってクアットロはため息を吐く。中々順番通りに事が進まないと。だが、その割に彼女はどこか楽しそうだった。

「さてさて、シンちゃんは驚くでしょうね。何せ、セッテちゃんったら……ふふっ」



 訓練場から響く爆音。セッテはトーレと同じく空戦型。しかも高速戦闘にも対応するという、まさに改良型なのだ。それだけでも厄介なのに、更に固有武装である『ブーメランブレード』は、材質が改良され、龍騎の使っている金属に近い強度を持っていた。それを自在に操り、セッテは龍騎を追い詰めていたのだ。

「兄上、私に気を遣って頂かなくても……」

 セッテは、先程から龍騎が回避しかしていないので、そう言ったのだが……

「そんなつもりないから! セッテが凄いだけだからっ!」

 変幻自在に飛び回るブレードをかわし、龍騎はそう大声で返した。実際、セッテは見事だった。トーレ達からのデータ共有を受け、龍騎の動きや武器を把握し、そこから予測した場所へブレードを動かしているのだ。
 龍騎としては、何とか避けるだけで精一杯なのだ。更に、ガードベントを使って防ごうにも、デッキに手を伸ばす隙を与えないように、セッテが強襲してくるのだ。おかげで、現在まで龍騎は何もカードを使っていない。

(このままじゃ……兄貴として情けなさ過ぎるだろ!)

 そう思っている龍騎だったが、セッテはむしろそんな龍騎を尊敬していた。

(さすが兄上。これだけの攻撃を全てかわし切るとは……それに……)

 視線を龍騎の手に向けるセッテ。龍騎はまだ何かするつもりなのか、デッキに手を回し、何かカードを取ろうとしていた。

(まだ諦めていないようだ。なら、私も最後まで気を抜けないっ!)

 ISで龍騎へ襲い掛かるセッテ。そして、自身も速度を上げ、龍騎へ攻撃を仕掛ける。それに対して龍騎が取ったのは、やはりベントカードの使用。だが、その手がデッキに伸びた瞬間、一つのブレードがその手を狙う。それを龍騎は―――読んでいたかのように叩き落した。

「なっ!?」

「今だっ!」

 あまりの光景に驚くセッテに、龍騎はここぞとばかりにカードを引き抜いた。龍騎は、セッテがカードを使わせないようにしている事を逆手に取り、敢えてカードへ自分から手を回す事で、ブレードを誘導したのだ。そして、時間差で残りのブレードが襲いくるも、それも蹴り飛ばし、手にしたカードをドラグバイザーへ差し込む。

”ソードベント”

「っと、まだまだ!」

 上空から現れるドラグソードを手にし、龍騎はそれを左手に持ち替え、更にカードを取り出して差し込む。

”ストライクベント”

 そして、右手に装備されるドラグクロー。セッテは何とかブレードを手元に戻し、龍騎と対峙する。龍騎は空中のセッテ目掛け、ドラグクローを向けて告げた。

「上手く避けろよ!」

 その声と共にドラグクローから勢い良く炎が放射される。ドラグファイヤーと呼ばれる龍騎の攻撃方法の一つ。その超高熱火炎に、セッテは慌てて回避する。だが、上空を逃げ回るセッテの視界を遮るように、炎は執拗に追い駆ける。
 だが、その最中セッテは気付いた。龍騎は炎を自分に向けているが、その速度は遅い。炎でやや視界が悪いだけで、そこまで恐れる攻撃ではないと。そう、反撃に出るなら今だと。
 その手にしたブーメランブレードを、もう一度投げ放ち、龍騎の後ろを取ればいい。そう考え、セッテがブーメランブレードを手にした瞬間、下から何かがセッテの方へ飛んできた。それを反射的に叩き落すセッテ。それは、ドラグクロー。

(そんなっ!?)

 その叩き落した先にいたのは龍騎。ソードを手にし、セッテへ向かって跳び上がる。しかし、炎は未だにセッテを追い駆けている。
 そう思い、セッテは龍騎の攻撃を受け止める。そこへ炎が近付き、セッテは僅かに熱に意識を取られた。そして、見たのだ。ドラグレッダーが炎を自分に向けて吐いているのを。

「アドベント!?」

「あったり!」

 セッテの視界をドラグファイヤーで悪くした龍騎は、ソードを一旦地面に突き立て、アドベントを使い、ドラグレッダーに炎を吐かせ、自分が如何にも炎を放射し続けているように偽装したのだ。
 そして龍騎は、微かに動揺するセッテへ向かって炎を吐くドラグレッダーに視線を送り、カードを手にして差し込んだ。

”ガードベント”

 龍騎の肩に一枚。そして、左手に一枚盾が出現し、龍騎はセッテへ向かってもう一度跳び上がる。その肩についた盾をセッテへ向けて。ショルダータックルのような攻撃に、セッテは回避をしようとするが、それが出来ない。ドラグレッダーが炎を吐いて退路を絶っていたのだ。
 それが先程の目配せによるものだと理解し、セッテは悟る。もう、勝負はついたと。このまま粘ればセッテは勝てるかもしれない。だが、それは本当の勝利ではない。龍騎が空を飛べるなら、セッテは完全に負けているのだ。それに……

 今もセッテが何度も攻撃を防いでも、龍騎はまだソードとシールドだけで戦っている。セッテは知っている。龍騎には、空中にいるトーレさえ倒す攻撃があるのを。
 そして、それを使わないのは、加減が難しくて怪我をさせてしまう事を龍騎が恐れているからだ。

(やはり優しいのだな、兄上は)

 そう思い、セッテは両手を上げる。降参と言って龍騎の前へ降りて行ったのだ。龍騎もそれを受けて首を傾げながらも、変身を解いた。
 そして、真司はセッテへ何故降参したのかを尋ねた。それにセッテはこう答えた。試合に勝って、勝負に負けました、と。そう告げたセッテは、嬉しそうな笑みを浮かべていた……



おまけ

 風呂場へ向かって歩いている真司。先程の訓練で汗も掻いたし、さっぱりしたいと思ったのだ。前回のような事を防ぐため、セッテには先に行ってもらい、一時間経過してから行くという徹底振りだ。

「さてと、脱衣所には……うん。服とかないな」

 確認終了とばかりに頷き、真司は裸になって風呂場へ入る。マナーとして前はタオルで隠している。だが、そこには……

「お待ちしていました、兄上」

「えぇぇぇぇぇっ!?」

 全裸のセッテがいた。タオルは持っているものの、自分の体を隠す事無く、ただ手に持っているだけ。それに真司は慌てて視線を外し、背中を向けた。

「中々来ないので、少々待ちくたびれました」

「い、いやいや……何でいるのさ? ってか、隠せってセッテ」

「妹は背中を流すものだそうです。それと、隠す必要はありません。相手は兄上ですから」

「関係ないから! それとせめて湯船に入れよ!」

「何故です? 背中を流すのに、浴槽では出来ませんが……?」

「あ~! また俺、チンクちゃん達に怒られる~っ!!」

 そして、真司の予想通り、いつまで経ってもセッテが戻ってこないのを不思議に思ったクワットロが、まさかと思い風呂場へ現れ、この事が発覚したのでした。
 真司は、今回はそこまで酷い目には合わなかったものの、それでも結構痛かったとか。

ちなみにセッテですが、服はわざわざ戸棚に隠し、真司が来るまでひたすら待ち続けていたとか。
それと、セッテが真司を待ち伏せたのは、途中で会ったセインの入れ知恵と分かり、セインはウーノに手酷く怒られたのでした……




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続き。五代と光太郎の出会いと理解。今後は、どうやってなのは達の世界に戻るかが鍵。

翔一は、まさかの世界。だって、クウガだけバイクないですから。

真司は、セッテ起床により、色々と大変です。セッテの性格は、真司に敬意を払う感じになりましたが、どうでしょう?

今後、真司はゆっくりナンバーズ起床の流れですね。ほのぼのはここが担当です。



[22476] Masked Rider in Nanoha 空白期2
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/11/22 09:19
 五代は驚いていた。なのは達の世界で魔法を見た時も驚いたが、今はそれ以上に驚いていた。何せ、その仲間を呼ぶ事になった瞬間、光太郎が突然左腕を腰に当て、右腕を高々と上げたと思ったら、ある言葉を発したからだ。

「変身っ!」

 その腕を真下へ下げ、腹辺りで横へ動かす。それを受け、腰の左腕を一度右へ動かしてから、左へ戻す。その瞬間、拳を握って。
 それがキッカケで光太郎の体が変化する。始めに光があり、その後爆発するかのように体を輝きが包む。体は鉄を思わせる鎧に、瞳は太陽の如き真っ赤なものへ。それは、クウガの凄まじき戦士を思い出させるものがあった。
 しかし、五代はそれを見て思った。これは、なってはいけない姿じゃない。これは、クウガと同じく必要とされてはいけない力なのだと。

 変身を終えたRXは、どこか呆然とする五代に一度だけ視線を向けると、左腕を顔の近くへ動かし叫んだ。

「ライドロンっ!」

 それを聞いて何が起きるのだろうと五代は思った。まさか、呼んだだけで来るのだろうかと。そんな事を考えて数秒後、地鳴りのような音と共に地面から赤い車のようなものが姿を見せた。

「おおっ!?」

「来てくれたか、ライドロン」

「嘘……ホントに来た……」

 嬉しそうにライドロンを触るRX。それを見て、五代は自分のゴウラムと似たような存在だろうと推測した。そして、ふと思う。今頃ゴウラムはどうしてるのだろうかと。ゴウラムがいれば、空中戦にも対応出来るだろうに。そんな事を考えたからだ。
 そんな五代へRXが声を掛けた。乗ってくれと。それに頷き、五代は何かに気付いたのか動きを止めた。それを不思議に思うRXだったが、五代の言葉にその理由を悟る。

―――本当にいいんですか?

 それが意味するものを、RXは瞬時に理解した。仮に魔法世界に行けたとしても、またここに帰ってこれるという保障はない。それを五代は心配しているのだ。それを感じ取り、RXは思う。五代は優しい男だと。自分も同じなのにも関わらず、こちらの事を心配してくれるなんて。
 そう思ったからこそ、RXは力強く頷いた。大丈夫と。

「きっと帰れるさ。俺も、君も!」

「……はいっ!」

 RXの言葉に五代が頷き返す。そこに込められたのは、互いの帰還を信じる気持ち。それぞれがそれぞれの世界に帰れる。そう強く希望を信じるからこそ、仮面ライダーは仮面ライダーたりえるのだ。
 五代はそれを理解している訳ではない。だが、RXが自分の気持ちを知り、そう返してくれた事だけは分かった。しかし、乗り込もうとした時、RXが待ったをかけた。

「君も変身した方がいい。どうなるか分からないから」

「そうですね。分かりました」

 その意見ももっともだと思い、五代は両手を腹にかざす。すると、そこにアークルが出現した。それにRXも驚くが、そのベルトがどこか昔の自分のものに近いように思え、懐かしさも感じていた。
 そんなRXの目の前で、五代はゆっくり構えた右腕を横に動かしていく。そして、それがある一定の位置にきた瞬間。

「変身っ!」

 叫んだ。その右手を左手の位置へ動かし、ベルトの側面にあるスイッチのようなものを押した。それをキッカケに五代の体が変わる。RX程速くはないが、それでも常人には速いと感じるものだろう。
 体は赤く、瞳も赤く、炎を思わせるような外見。それを見てRXは頷いた。その外見も、そして五代の在り方もまさしく仮面ライダーだと実感したからだ。

「良しっ! 行こう!」

「はいっ!」

 今度こそ互いにライドロンに乗り込むRXとクウガ。すると、その横に一台のバイクが近付いてくる。アクロバッターと呼ばれるRXの専用バイクだ。生体メカともいえる存在で、幾度となくRXのピンチに駆けつけた心強い味方である。
 そう、彼はBLACKの頃から支え続けたまさしく戦友なのだ。それを見て、RXは気付いた。アクロバッターもついて来たいのだと。その気持ちを感じ、RXは頷き告げた。

「一緒に行こう、アクロバッター!」

「アア。イコウ、ライダー」

「バイクが……喋った?」

(あ、でもゴウラムも何か喋ったもんな。それと同じだ。でも……ゴウラム、来てくれないかなぁ……)

 アクロバッターが喋るのを聞いて、クウガは魔法というならこちらの方じゃないかと思った。だが、考えたらゴウラムも喋るので、似た様なものだと一人納得した。そして、ふと思ったこの事が、もう一人のライダーを呼び戻すキッカケとなるのだ。
 一方、RXはそんなクウガの反応に小さく笑い声を漏らし、ライドロンに告げた。

「行くぞ、ライドロン! 異世界へ!」

「なのはちゃん達がいる世界へ!」

 二人がそう告げると、双方のベルトから眩しい光が発せられた。それが自分をここまで連れてきた光だとクウガは理解すると、戸惑うRXへそう伝えた。その瞬間、ライドロンとアクロバッターが走り出した。
 やや驚く二人だったが、見れば前方に何か穴のようなものが生じている。それがきっと道なのだろうと二台は感じたのだ。そして、その穴へ飛び込むライドロンとアクロバッター。そして、それが完全に穴に入りきると、それは何事もなかったように閉じ、そこには元の静かな空間が広がった。

共に神秘の輝石を持つライダー。それが向かった先は、闇が巣食う魔法世界。
だが、彼らは知らない。闇が想像だにしない力を持って甦る事を……



「五代君の知り合い!?」

「……はい。と言うか、ここどこですか?」

 科警研にある休憩スペース。深夜のため、ここにいる者は少ない。そのため、榎田が上げた大声に文句を言う者もおらず、翔一は少し耳を押さえながらそう尋ねた。
 いきなり目を覚ましたら、白衣を着た女性が立っていて、自分は大きなクワガタの上で寝転んでいたのだ。しかも、目覚めて早々「貴方、誰?」と少々きつめに聞かれ、名前を名乗り、五代はどこだろうと訪ねたらこれなのだ。

「科警研って言えば分かる?」

「科警研……警察の施設って事ですか」

「そ。ちなみに、私はここで研究主任をしている榎田ひかり。よろしく」

 告げられた名前を何度か呟く翔一。その翔一を榎田はやや怪しむように見つめた。そう、ゴウラムが反応していたのだ。翔一が触れている間中、ずっと。それは、五代が触った時とは違い、活性化というよりは、共鳴しているようなものだった。まるで、翔一の何かがゴウラムに作用しているように。

「あの……さっきのおっきなクワガタは?」

「ゴウラム。五代君の頼れる相棒ってとこ。えっと、馬の鎧とも言うんだって」

「馬の鎧?」

「ま、クウガの乗り物の事。古代には馬ぐらいしかなかったんでしょう」

 榎田の適切な表現と説明に、翔一は何度も頷きながら、差し出されたコーヒーを飲む。そして、それを飲み干して周囲を見回し、ふと気付く。
 人がいない。厳密に言えば人の気配がないのだ。明かりも必要最低限しかついていない。そこから翔一はやっと自分がいる場所が深夜なのだと気付いたのだ。

 そんな翔一を見ながら、榎田は奇妙な感覚を覚えていた。まるで、五代に似ているのだ。持っている雰囲気や空気が。そう考えたところで、大事な事を榎田は思い出した。五代の事だ。翔一によれば、五代は光に包まれて、それを掴んで翔一はここに来たのだと言うのだ。

「ね、話してくれる。どうして君が五代君と会ったか。そして、どうやってここまで来たのか」

「いいですけど……信じられないと思います」

「大丈夫よ。私も五代君の仲間なのよ。もう生半可な事じゃ驚かないって」

「はぁ……じゃ……」

 笑顔で言い切った榎田を見て、翔一はどこか心配するものの、ゆっくりと語り出す。五代との出会いやここに来た経緯を。



 全てを話し終えた翔一。そして、榎田は頭を抱える事無く、冷静に状況を分析していた。勿論、アギトや魔法の話を聞いた時はさすがに驚きはしたが、詳しく話を聞く限りでは、彼もクウガに近い存在だし、魔法は進歩した科学のように榎田は感じていた。
 それも、警察がもっとも欲しい相手を殺さず確保出来る攻撃法。それを使って治安維持をしている点から見ても、その世界はファンタジーではなく、むしろSFだと感じたのだ。
 そして、今彼女が考えているのは、翔一をどうやって元の世界へ戻すか。そう、魔法世界に。本人を見れば分かる。翔一も五代と一緒なのだろう。だからこそ、みんなの笑顔のために異世界でも戦ったのだ。

(何とかして五代君の力にならなきゃ……そうだ!)

「翔一君、バイク乗れる?」

「え? はい。乗れますよ」

「良しっ! じゃ、変身して」

「変身、ですか?」

「そう。私の勘が当たれば、どうして五代君じゃなく、翔一君が来たのかを説明出来る」

 戸惑う翔一に、榎田はそう言って歩き出す。ついて来てと言いながら。それに慌ててついて行く翔一。そして、その歩みが一枚のシャッターの前で止まる。それに合わせて翔一もそこで歩みを止めた。
 すると、榎田が何かスイッチを押したのか、シャッターが動き出す。そして、その先にあったのは……

「バイク?」

「そう。ビートチェイサー。正式にはBTCSって言って、クウガ。つまり五代君のために開発された専用マシンよ」

 榎田の説明に頷く翔一。そして、その外観を見て納得したのだ。雰囲気がクウガに合うような気がしたから。
 だが、そんな事を考える翔一に、榎田ははっきりと告げた。

「これを五代君に届けて」

「え?」

「聞けば、魔法で空を飛んだりするんでしょう? じゃ、せめて陸上の速度だけでも確保しなきゃ」

 そう笑いながら言って、榎田は一転してこう告げた。それに、これを使わないと戻る事は出来ないかもしれないから、と。
 それに驚く翔一。その視線は説明を求めるもの。榎田はそれを感じ、ビートチェイサーを運んで欲しいと言った。それに頷き、翔一はそれを動かそうとして、止まった。
 何せ、ハンドルが片方ない。それにエンジンもかけられない。どうすればいいのかと戸惑っていると、榎田がごめ~んと言いながら走ってきた。そしえ、ビートチェイサーの横にあるトランクからハンドルのようなものを取り出し、それを欠けている場所へと差し込んだ。
 そして、何か中央にあるパネルのダイヤルを操作した。すると、途端に色が変わり、黒を基調としたものへとなったのだ。

「凄い……」

「ま、これも機能の一つ。これで動かせるから」

 そう言って榎田はスタスタと歩き出す。それを見つめ、翔一はビートチェイサーに跨ろうとして思い出す。これは、クウガのために作られた専用バイク。つまり、普通の人間じゃちゃんと使いこなせないかもしれないと。
 それに、榎田も変身しろと言っていた。それは、その事を考えてだろうと。そう考え、翔一はいつもの構えを取る。丁度その時、翔一が全然来る気配がなかったので、榎田が振り向いた。

「変身っ!」

 翔一の体がアギトへ変わる。それを見て、榎田は何故か確信する。翔一も五代と同じで、その力を正しい事に使える者だと。その理由は、他でもないアギトの目。クウガと同じ赤い目。そして、外見も似ている。
 それに……

(この安心感……やっぱ彼も、アギトも人の味方ね)

 そんな風に目を細めて笑みを浮かべる榎田の視線の先では、ビートチェイサーにアギトが跨っていた。それが意外にも違和感なく、榎田は感心した。そして告げた。ゴウラムがいる場所まで行ってと。それに頷き、アギトは走り出す。
 クウガが乗る事を前提に作られたマシン。それをアギトは完全に乗りこなしていた。その腕前に惚れ惚れする榎田を置いて、アギトはゴウラムの元へ向かうのであった……



 アギトがついて数分後、榎田が少し慌てて現れた。それを見て、アギトはゆっくりと榎田に近付いた。

「遅かったですね。何かあったんですか?」

「ん。ちょっと連絡してたのよ」

「連絡?」

「そう。五代君への伝言を頼もうと思って、ね」

 榎田はそう言って笑顔を見せると、アギトに絶対に伝えて欲しいと念を押した。それをアギトはしっかりと頷き、約束した。榎田がそれにサムズアップを見せ、アギトも返す。
 こうして、アギトへ榎田は伝言を伝えた。その数、三つ。本当は後一人いるんだけど、時間が時間だし、翌日の仕事もあって電話をかけられなかったと榎田は悔しそうに告げた。
 アギトはその相手が誰かを訪ね、榎田に教えてもらう。その相手を聞き、アギトも確かに残念に思った。きっと、その三人に負けないぐらい想いを伝えたい人だろうと思ったからだ。

「……じゃ、よろしく」

「はい!」

「アギト、だっけ?」

「はい」

「……かっこいいわね、君も」

「ありがとうございます!」

 アギトの声に榎田は笑みを見せる。だが、そんな和やかな雰囲気もそこまで。また科学者の顔に戻るとアギトへこう言った。

「じゃ、ゴウラムに触って」

「触ればいいんですか?」

 言われるまま、アギトはゴウラムに触る。その瞬間、ゴウラムの霊石が反応を示す。それを見て、榎田は自分の考えが間違っていなかった事を実感した。
 何故クウガではなく、アギトがここに来たのか。それは、ゴウラムを使ってクウガの元に行かせるためだ。そう、クウガが来ては世界や次元の壁は超えられない。だが、互いが別にいるのなら、そしてそれを誘発出来る存在ならば。
 アギトはクウガの元にゴウラムを連れて行くための案内役なのだ。故に、榎田はビートチェイサーを託した。未だに第四号への特別措置は生きている。先程連絡した内の一人である彼も、今回の事が上に知られた際、何とか出来るように以前のチームの面々と相談すると言ってくれた。

(突拍子もなかったのに、ホント、息ピッタリなのは変わらないんだから)

 彼は榎田が告げた内容に驚きを見せたが、すぐにこう答えたのだ。

―――五代は、無いなら無いでどうにかするはずです。なので、送れる物は全て送ってください。

 それは、無い事で無理をしないように、との配慮なのだろう。責任は私が取りますとさえ言ってのけたのだから。

「翔一君、願って! 五代君の元に行きたいってっ!」

「分かりましたっ!」

 言われるままに強くアギトは願う。五代の元へ、はやての元へ行きたいと。その瞬間、ゴウラムが急に動き出した。そして、ビートチェイサーへ合体する。その光景を見て一瞬呆然とするアギトだったが、榎田の視線が急げと言っているように思え、ビートチェイサーへ駆け寄る。
 ゴウラムが鎧となって装着されたビートチェイサー、いやビートゴウラムへ跨り、アギトはそのハンドルを掴んだ。その瞬間、周囲に風が起こり、榎田はそれに少し後ずさりながらもアギトにサムズアップを向けた。

「五代君によろしく!」

「はい!」

「それと、君も体に気をつけてっ!」

「はいっ!」

 榎田にサムズアップを返し、アギトがそう力強く返事をすると、強い輝きがアギトを中心に発生する。それに榎田が目を閉じ、開けた時には、アギトもビートゴウラムもいなくなっていた。
 ただ、彼女のずり落ちた眼鏡が、何かあった事だけを証明していた……

戦士の導きにより、彼もまた世界を渡る。だが、それは即ち彼の力も必要という事。仮面ライダー、それに託された想いや祈りは、重い。
こうして、クウガもアギトも共に新たな力を連れて戻ってくる。甦るだろう闇。それを完全に打ち倒すために……





 ジェイルラボ セッテの部屋。そこでセイン、セッテ、ディエチの妹組(セイン決定)が揃っていた。話題は一つ。真司の事だ。
 ジェイルが現在ナンバー9であるノーヴェを、クアットロがナンバー8であるオットーを調整しているのだが、真司はその手伝いをしていて、最近セイン達と遊んでくれないのだ。
 訓練はトーレが煩く言うのでだろうがしてくれるので、完全に相手をしない訳ではないのだが、やはり以前に比べて三人に割く時間が減ったのは事実だった。

「ね、寂しくないの? セッテもディエチも」

「それは……」

「まぁ……」

 実際、セインの思っている事は二人も同様に思っていた。セインは普段の他愛ないからかい合い。セッテは、真司から聞く御伽噺。ディエチは料理などのコツ。それぞれが真司に教えて欲しい事やしたい事などがある。
 そして、何故ここにチンクやクアットロがいないかと言えば……

「大体さ、チンク姉達がいけないんだよ。真司兄が折角作った時間を訓練や相談で潰しちゃうんだから」

 そう、チンクやトーレは訓練相手に、クアットロやウーノは相談相手にと真司を指名するのだ。それが実は彼女達なりの思惑があるとは三人は知らない。だが、それが自分達から真司との時間を奪っている事は理解している。
 故に、決意したのだ。姉達から真司を取り返す事を。未だ目覚めない妹達は許す事にする。何せ、自分達も似た様なものだったのだ。そこは仕方ないと割り切れるセインだった。

「で、何か考えある?」

「セイン姉上、そこはまず姉上から」

「そうだよ。だからセインは、お姉ちゃんに思えないんだって」

「あ~っ! 言ったな、言ったな~。気にしてるのにぃ」

 ディエチの指摘にそうやって喚き出すセイン。それを見つめ、ため息を吐くセッテとやや苦笑するディエチ。結局、話し合いの末、ある考えが導き出される。それを聞いたディエチはやや難色を示したが、セインの真司は喜んでくれるとの力説に、渋々承知した。



「不味いね」

「不味いですね」

 ジェイルとウーノは揃ってある情報を見て悩んでいた。それはミッドの新聞で、大きく見出しには『期待の新人、高町なのは大手柄!』となっている。ある任務を終えた高町なのはは、帰還途中に謎の機械に襲撃されたものの、それを何とか撃退し、回収する事に成功したとの事。
 そう、彼女は本来なら、この相手に撃墜させられるはずだった。それは、無理矢理蒐集行為を受け、その状態でスターライトを撃つという事をした事に端を発する。更に、闇の書事件の際、カートリッジを使い、守護騎士達と戦闘し、闇の書の闇との戦いでも、スターライトやエクセリオンを使用し、その体に無理を強いる―――はずだった。

 だが、思い出して欲しい。まず、最初の戦闘時、彼女はスターライトを撃つ必要がなくなった。そう、クウガとアギトによって。その後も修復されたレイジングハートを使いはしたが、カートリッジを使うような相手は、魔法生物にはそうそうおらず、しかもチームで行動していたため、更に彼女の負担は減っていた。
 後、付け加えるなら、事件の起きる時期もある。まだ早いのだ、本来の流れから考えれば。つまり、本来なら撃墜されるはずが、むしろ完璧に近い動きで謎の相手を撃破したのだ。そして、彼女が撃破した機械というのは……

「あの時、逃げ出したのかなぁ……」

「やはり真司さんが全て掃除したと言った時、確認すべきでしたね」

 それは、ジェイルが研究した”ゆりかご”と呼ばれるロストロギアの内部にあった機械だったのだ。

 以前、龍騎がジェイルに頼まれ、ゆりかごの中にいる『トイ』の原型を全て駆逐した事があった。その際、全部片付けたと龍騎は言ったのだが、その時取った方法はサバイブでのファイナルベント。おそらくその時に撃ち漏らしたのがいたのだろう。
 そうジェイルは考えた。ちなみに、作業を終えた龍騎からサバイブを使ったと聞いて、ジェイルは何故教えてくれなかったのかと本気で激怒した。

 記事によれば、管理局がこの機械を調査し、出所を突き止めようとしているらしい。だからこそ、二人は悩んでいるのだ。もし、万が一それがゆりこごのものだと判明すれば、このラボ周辺に局員が現れるようになる。そうなれば、何の拍子で発見されるか分からない。
 簡単に出所が分かるはずはないが、それでも用心に越した事はないのだ。故に、ジェイルが考え出した方法は。

「良し。代わりの研究所をでっち上げよう」

「は?」

「そこで作ってましたという情報を流して、管理局を騙そう。確かもう使ってない所が何箇所かあったろう?」

「……分かりました。手配しておきます。最高評議会へはどう伝えます?」

「適当に、試作した機械が逃げ出したとでもしておいてくれ。後、データはトイのを改変したので頼むよ」

 その投げやりな言い方に、ウーノもため息を吐いて出て行った。この時、ジェイルが取った行動も本来起きるであろう状況を、未然に防いでしまう事になる。その違法研究施設へ乗り込んだ首都防衛隊、通称ゼスト隊はもぬけの殻の施設と申し訳程度のデータを手に入れ、一人の負傷者も出さずに任務を終える事となるのだった……



「へぇ、この子達はノーヴェの親戚なんだ」

「そ。ちなみにノーヴェちゃんの調整がクセ者なのは、そのタイプセカンド。スバルちゃん、だったかしら? その子の魔法をISにしようとしてるからですって」

 クアットロの話を聞きながら、真司は手元の書類に乗っている二人。ギンガとスバルの写真を見つめた。聞けば、二人は戦闘機人でありながら、心ある人に拾われ、人間として暮らしているらしい。
 それを真司は聞いた時、嬉しそうに頷いたのだ。やはりそう考える人もいるんだと。生まれに拘らず、ちゃんと人として考え、接してくれる人が。

「じゃ、オットーは?」

「この子は、シンちゃんがディードちゃんと一緒に出して欲しいって言ったからよ? まさか、忘れてないわよねぇ」

 そう、双子ならやはり一緒にと真司が言ったので、クアットロはこうして二人分の調整をせざるを得ないのだ。正直、オットーだけならば今年中に終わらせる自信がある。だが、二人一緒となると、事情が変わってくるのだ。ディードは戦闘型で前線タイプ。オットーは戦闘型だが、指揮系なのだ。その異なる仕様の二人を同時に仕上げるのは、中々手間といえた。

 それでも、真司の願い通りにしようとする辺り、クアットロも大分真司に毒されたようだ。今も真司がいるからこそ、この調整室にいるようなもので、既にチンクやトーレを始め、ナンバーズは真司を部屋に入れたりする事に何の問題も抱いていない。
 真司だけは、まだどこか抵抗があるようだが、なし崩し的にそれぞれの部屋へ入ったりさせられている。

「忘れてなんかないって。感謝してるよ、クアットロ」

「……ま、まぁ私も好きでやってるところもあるし。シンちゃんのためだけって訳じゃないからね」

「それでもありがとさん。いやぁ~、ホント最近みんなが優しくなったよな。ウーノさんもどっかあったトゲみたいな感じが消えたし、トーレも訓練じゃない事で俺を呼ぶようになったし、チンクちゃんは良く家事手伝ってくれるようになったし」

「私はからかう事が減ったし」

「そうそう……って、自分で言うなよ」

 真司のノリツッコミに笑みを浮かべるクアットロ。対する真司も笑顔だ。このまま穏やかな時間が過ぎる。そう感じて、クアットロは思った。

(やっぱりシンちゃんがいると進みが違うわ~……。調子が狂うというより、私らしくなくなるのが難点だけど、それもシンちゃんだ・か・ら、よね)

 そんな風に考え、微笑むクアットロ。その笑みに真司は思い当たるものはないものの、その笑顔がとても優しいものだったので、頷いて笑みを見せる。そんな良い雰囲気のところへ……

「真司兄、見つけた!」

 セインが現れたのだ。驚く真司とクアットロを他所に、セインは真司の腕を掴むとそのまま引きずり出した。あまりの事に、それを見送る事しか出来ないクアットロ。真司もそれに反抗する事無く連れ出され、調整室に静寂が戻った。
 だが、我に返ったクアットロは先程までの幸福感の反動か、その静けさがかなり寂しく思え、大きくため息。そして、セインが連れ出した理由に思考を巡らせ、またため息一つ。

 おそらく真司に構ってほしいのだろうと予測したからだ。それに、セイン一人だけでなく、きっとセッテやディエチも参加しているだろうと考えたのだ。更にその目的も察しをつけ、軽く頭を押さえた。

「セインちゃん達ってば、お姉ちゃんの邪魔するなんて良い度胸ねぇ。このお礼はきっちりしてあげなきゃ……ふふっ」

 そこに浮かぶは、狡猾冷酷状態のクアットロスマイル。しかし、その怒りが三人へ降り注ぐのは、まだ先の話。今は、双子の調整に力を注ぐクアットロだった……



 セインに連れ出され、真司は今セインの部屋にいた。そこには、セッテとディエチもいる。一体何が始まるのか。そんな事を真司が考えていると、セインが真司にベッドに横になってほしいと言い出した。その理由が分からず、説明を求める真司。
 だが、それに頑としてセインは答えず、横になれば分かるとしか言わない。仕方ないので、言う通りに横になる真司。その表情は渋々といいたものだ。

「じゃ、マッサージするね」

「へ? マッサージ?」

「はい。兄上は最近お疲れですので」

「……真司兄さんが喜んでくれると嬉しいんだけど」

「もしかして、嫌かな?」

 三人の言葉に真司は感動した。最近あまり構ってやれなくて、兄貴としてどうなんだろうと思う事もあった。だが、そんな自分を三人は怒るどころか労わってくれると言うのだ。これを喜ばずして、何に喜ぼう。そう思って、真司は満面の笑みで答えた。

「嬉しいに決まってんだろ! んじゃ、お言葉に甘えるか」

 そう言って真司は体の力を抜いた。それを見て、セインは頷き真司の上に乗った。そして、背中を押し始める。セッテは足の方へ移動し、そのままマッサージを始める。ディエチは真司の腕を揉み始める。
 その心地良さに真司は疲れもあったのか、簡単に眠りに落ちる。それに気付き、三人は小さく笑うと、真司を起こさないように丁寧に優しくほぐしていく。想いを込めて、懸命に。
 ディエチの「下手したら痛がったりする」という予想に反して、真司は起きる事なくそのままマッサージは終了したのだが……

「な、別に毎日してくれなくても……」

「ダ~メ! 真司兄は頑張りすぎなんだから」

「我々に任せてください」

「し、真司兄さんが嫌なら止めるよ」

 そう、この日から三人が、毎日寝る前にマッサージをしにくるようになったのだ。真司としては有難いのだが、週に一度程度でいいと思っているのだ。それと、こうなってからと言うもの……

「どうせ、セイン達に癒してもらえるだろ」

 そう言ってトーレは訓練の激しさが増したし……

「やはり、お前は大きい方がいいのか!」

 チンクも同じく訓練の過激さが増し……

「シンちゃん、私も疲れるんだけど?」

 クアットロは笑顔なのに、どこか笑っていない目でマッサージを要求し……

「真司さん。私、最近疲れ目で……」

 ウーノはしだれかかるように、そう言ってくるので……

(結局、俺の負担減ってないよなぁ……)

 そう思う真司だったが、三人が一所懸命体の疲れを取ろうとしてくれているのを感じ、小さく呟いた。

―――ま、いっか。

 誰かが自分のためにと想い、動いてくれる幸せを噛み締めつつ、真司は目を閉じる。彼は知らない。それは、ジェイル達が自分にしてもらった事で感じている事なのだとは。
 だが、それに気付かないからこその真司であり、愛すべき”バカ”なのである。




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空白期。短いですが、あくまで繋ぎですので。

なのは達に降り掛かる事件は、大きなものは変化し、無害になりました。起きる時期が早まったのも原因の一つですが。

空港はジェイルが利用するつもりないので、おそらく変化します。起きないのではなく、変化。残る三期で語られる事件が、どちらかの帰還と重なります。



[22476] Masked Rider in Nanoha 空白期3
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/11/28 08:15
 新暦71年 ミッドチルダ北部臨海第八空港。本来なら、大勢の人で賑わうここは、今は見る影もない程人がいない。それもそのはず、灼熱の火炎で一面覆われていたからだ。
 原因は、ここに運び込まれたレリックと呼ばれるロストロギア。最高評議会がジェイルへ研究用として手配したもの。それが、ふとしたキッカケで暴走、爆発したのだ。無論、ジェイルはレリックの輸送を断った。必要ない。そうはっきりと。

 しかし、それを良く思わなかったのか、最高評議会は無理矢理レリックを送りつける事にしたのだ。何だかんだ言っても、ジェイルは『無限の欲望』と名付けられた存在。レリックが手元に来れば、嫌でも研究せずにはいられなくなると踏んで。
 だが、実際に今のジェイルはそんなものに興味は無かった。ライダーシステムの実用化。それにやっとメドがつき出したこの頃、彼はロストロギアなどに一切の興味など感じなかったのだ。

 話を戻そう。空港は無残に焼け落ち、到る場所で火の手が上がっている。そんな中、一人の少女が泣きながら歩いていた。少女の名は、スバル・ナカジマ。彼女は両親が揃って休みになる事を利用し、姉と共にこの空港に来ていた。だが、活発な性格故、姉とはぐれてしまい、その姉を捜していたら、この惨状に巻き込まれたのだ。

「ヒックっ……お姉ちゃん……どこぉ~……」

 煤にまみれた顔や手。転んだのだろう。腕や足には擦り傷もある。だが、一番注意するべきは、この空港内の温度にある。何せ、救助活動を行なっている魔導師達がバリアジャケット無しでは活動出来ないような場所となっているのだ。
 そこを何も無しで動く事が出来る彼女は、戦闘機人と呼ばれる存在。普通の人とは違う体を、望まずに持った者なのだ。

 だが、そんな彼女もそろそろ疲れが出たのか、大きな石像がある広場まで来たところで座り込んだ。こんな事なら、母からちゃんと魔法を教えてもらうんだった。そんな事を考えたからだろうか、少女の脳裏に家族の顔が浮かんできた。
 会いたい。そんな事を思い、少女は上を見上げた。空が見えれば、少しは気が紛れるかもしれない。そんな淡い気持ちの行動だった。

「え……?」

 その目に映ったのは、倒れてくる石像。それが、何故かやたらとゆっくりに見えて―――少女は目を閉じ、心の中で叫んだ。

―――誰か助けてっ!

 その声は、普通ならば届かないのだろう。その声にならない叫びは、本当ならば聞こえないのだろう。だが、そんな声を聞き、風よりも速く駆けつける者達がいる事を、我々は知っている。
 そう、彼らの名は―――っ!

「危ないっ!」

 赤い何かが石像を支える。その声に少女は目を見開いた。そこにいたのは、赤い体の怪物。でも、何故か少女には怪物とは思えなかった。だって、その背中が……

(泣いてる……ような気がする……)

 そう感じたのだ。だが、それも束の間。その赤い存在は石像を反対へ押しのけ、スバルへ駆け寄るとしゃがんで頭を優しく撫でた。それが父のようにも、兄のようにも思えて、スバルは思わず微笑みを浮かべた。助かった。そう心から思えたのだ。
 相手もその笑顔に笑顔を返してくれた気が、スバルにはした。だが、そこで思い出したのだ。もう一人、ここにいるであろう存在を。

「お姉ちゃんが、ギンガお姉ちゃんがまだっ!」

「大丈夫!」

「え?」

「きっと、大丈夫。俺の仲間が、先輩がいるから!」

 サムズアップ。生憎スバルはその意味を知らない。だが、それを見てると何故か安心出来るのだ。絶対大丈夫。そんな根拠のない自信が心を満たしてくれる。そんな気が……

「あ、そうだ」

 そこでスバルは気付いた。まだ大事な事を聞いてないと。故に尋ねる。純粋に、素直に。心から知りたいと思ったから。自分を助けてくれた恩人を、自分にとってのヒーローを。

「あたし、スバル。スバル・ナカジマって言います。えっと、貴方の名前は?」

 その問いかけに赤い存在は、躊躇う事無く告げた。

「クウガ。仮面ライダー、クウガ」

「仮面ライダークウガ?」

これが、クウガとスバルとの出会い。それは奇しくも、イレインと同じく炎の中というもの。
後にクウガは知る。この時出会った少女も、イレイン達と同じような存在だと。
そして、これが新たな戦いの序章。クウガはこの後、成長した少女達と再会する。だが、それはある意味で悲しみの再会となる……



 少女は必死で妹を捜していた。こんな炎の中に長時間動いていられる程、妹は鍛えていない。自分は陸士になるため、母から様々な事を教わり、こうして妹を捜しながら逃げ遅れた人達を救助しているが、魔力も体力も無尽蔵ではない。
 現に今も気を抜いたら倒れそうなぐらい消耗している。そんな彼女だったが、その目だけは強い輝きを持っていた。

(待っててスバルっ!)

 たった一人の妹。自分とは色々な意味で姉妹。その妹を見つけ出せずに倒れる訳にはいかない。その思いが彼女を、ギンガ・ナカジマを支えていた。
 そして、その足が爆発の衝撃で脆くなった階段へ乗った瞬間、ギンガは浮遊感を感じた。階段が崩れて落ちている。それを認識した時、ギンガはパニックになった。もし、彼女が飛行魔法を使えればそうはならなかったかもしれない。もしくは、彼女がウイングロードと呼ばれる魔法を行使すれば良かったのだろう。
 だが、まだ陸士としての訓練さえまともに受けていない少女に、突発的な状況で冷静な判断を求めるのは酷である。しかし、ギンガが無意識にこう叫ぶ事が出来たのは、妹と違い、まだ少し彼女の方が強かったのだろう。

「助けてぇぇぇぇ!!」

 その叫びに、何かが動いた。それは、傍目からは動く液体に見えただろう。それが落下するギンガへ猛スピードで近付き、その体を優しく抱き抱え、崩れていなかった場所へ運んだ。

「……え……」

 何が起きたのか分からないと言わんばかりに、ギンガは周囲を見渡した。すると、液体のようなものが人型になり、青い人間のようになった。そんな光景にギンガは不思議と恐怖を感じなかった。むしろ、安心感さえある。
 そんな風にギンガが見つめていると、青い存在が光ったかと思うと、黒い体に変わっていた。それに驚くギンガ。そんな彼女に黒い存在はゆっくり近付き、しゃがみ込んでギンガの頭を撫でた。

「大丈夫かい」

「あ、えっと、ありがとうございます」

「どう致しまして。それで、君はギンガちゃんって名前かな?」

 見も知らない相手に名前を呼ばれ、動揺するギンガだったが、彼の仲間が助けた相手から姉を助けて欲しいと言われた事を伝えると、その事に納得した。同時に妹の無事も確認でき、彼女としては心から安堵出来た。
 そんなギンガを見て、黒い存在は立ち上がる。それを見て、ギンガは慌てて尋ねた。貴方は誰ですかと。

「俺は、太陽の子。仮面ライダーBLACK……RX」

「RXさん……。私は、ギンガ。ギンガ・ナカジマです。この恩は、絶対忘れません」

これが、RXとギンガの出会い。こうして、黒い太陽も哀しい体を持った少女と出会う。
彼女達が秘める哀しみ。それを、彼は払う光となり得るのだろうか……



 新暦71年 ミッドチルダ首都クラナガン。クウガ達が現れた時から三日後。仮面ライダー達が現れた事による影響は、様々なところに現れていた。そして、それは本来起きる事件がなくなったり、事件の内容が変化したりと様々だ。
 そう、ある執務官を目指した青年にも、それは起きていたのだ。彼は、念願の職に就いて働いていたのだが、その運命が今終わろうとしていた……

(くそ……ドジったな……)

 ティーダはそう思いながら、薄れ行く思考の中である事を考えた。それは妹の事。唯一彼に残された肉親だ。

(ティアナ……ごめんな。兄ちゃん、ヘマしちまったよ……)

 簡単な任務のはずだった。近くにいたので、協力した逃走中の犯罪者の逮捕。執務官として名前が売れ出した自分ならば、これぐらいは余裕だと。その気持ちが油断を生んだのかもしれない。後もう一歩まで追い詰めながら、ふとしたミスで相手が隠し持っていた質量兵器―――拳銃で撃たれたのだ。甘かった。相手が何の罪状で追われているのかを、ちゃんと考えて行動するべきだったのだ。質量兵器の違法所持とその密輸。
 咄嗟に全力の防御魔法を展開したが、バリアジャケットも貫通し、デバイスを損傷、おかげで飛行魔法に回す魔力が無くなって、このままでは落下して墜落死は確定だ。男を見てみれば、そのままティーダが落ちるとこを見ていこうとしているのだろう。その場に留まっていた。
 相手も悟っている。もう逃げ切れないと。だからこそ、最後にティーダの死に様だけでも見てやろうというのだ。

(ちくしょう……情けないだろ、これじゃあさ。せめてあいつだけは……)

―――俺の手で捕まえたいっ!

 その想いを聞き届けたのだろうか。気付けばティーダは、落下が止まっていたのだ。そして、それと同時に感じる感触。まるで暖かい金属にでも乗っているかのような感覚。
 それに気付いてティーダは自分の下を見た。そこには、緑色の大き目の石がある昆虫らしきものがいた。そして、それの丁度真下に一台のバイクとそれに跨る金色の存在がいた。

「ゴウラムさん、その人をお願いします!」

 その声に頷くように、ゴウラムと呼ばれたそれは、ティーダを乗せてゆっくり降下していく。それを横目にし、金色の存在はバイクから降り、戸惑う男へ静かに近付いた。その手にした銃で攻撃する男。だが、それを金色の存在は避けもせず、ただゆっくりと近付いていく。
 そして、男の目の前に立ちはだかり、その手にした銃を奪い取る。それを遠くへ投げ、金色の存在は男を捕まえ、ティーダの元へ。

 ティーダは男を突き出し、自分を見ている存在に不思議な感覚を覚えるものの、怯え竦む男にバインドをかけ、息を吐いた。それに応じるように金色の存在も頷いて、ティーダへ尋ねた。

「あの……」

「……何だ?」

 やや戸惑うが、怪しくても命の恩人だと思い、ティーダは務めて落ち着いた声で話しかけた。それに相手は躊躇いがちにこう言ったのだ。

「ここ、どこです? 貴方は魔導師なんですか?」

「はぁ?」

これが、ティーダとアギトの出会い。そして、彼はもう一人出会う者がいる。かつて世話になった少女。それをどこか思わせるような相手に。
三人の仮面ライダーはそれぞれ魔法世界へ辿り着く。しかし、彼らが出会うには、まだ時間が必要だった……



 新暦67年 とある研究所。そこでジェイルはある者達を待っていた。あの日知られてしまったトイの原型。その情報を操作し、もう一年以上になる。それは、戦闘機人を調べ、動いている部隊を相手にしてもうそれだけと言う事だ。
 これで犠牲にした施設は四つ目。最初の施設だけでは満足出来なかったのか、その僅か数ヵ月後、ジェイルの耳に密かに調査している部隊があると情報が入った。それが、ゼスト隊と呼ばれる陸の守護神と評されている精鋭部隊だと分かった時には、ジェイルは思わず顔を覆った。

 ベルカの騎士としてオーバーSの力を持つゼスト・グランガイツ。それを隊長に、幾多もの事件を解決し、治安維持に貢献している部隊だったからだ。早目に見切りをつけて欲しいと思い、二つ目の場所はトイのデータをそのまま残し、相手を満足させたと思ったのだ。
 しかし、また数ヵ月後、同じような情報が入る。どうも、かえって簡単に事が運ぶので怪しんでいるらしい。だから仕方なく、真司が廃棄したトイを数台持って来てもらい、襲撃させたのだが、それを簡単に返り討ちにし、ゼスト隊は何かあると踏んだらしく、今回もまた現れたのだ。しかし、今回は今までと違う点がある。一つは、トイの情報も何もない事。そして、現在稼動しているナンバーズ七人が全員来ている事。最後に……

『お~い、こっちは準備完了だぞ~』

「分かった。なら、そのまま真司はそこで待機してくれ」

 龍騎がいる事だろう。そう、ジェイルは今回ではっきりと終わらせるつもりだったのだ。広域次元犯罪者ジェイル・スカリエッティとしての自分を。きっと管理局は信じないだろうが、それでもだ。
 自分はもう違法行為に手を染める事はしない。その決意を持っていた。真司と出会い、そして知った。自分の気に食わない世界だから変えるのではない。自分が変わり、その不自由さえ楽しめばいいのだと。

「……もし、真司にもっと早く会っていたら……どうなっていたんだろうねぇ」

 感慨深く呟くジェイル。そこへモニターが出現した。相手はウーノ。その表情から、ジェイルは時が来たのだと気付いた。

『ドクター、予定通りゼスト隊が現れました』

「分かった。くれぐれも動かないように頼むよ」

 ジェイルの言葉にやや躊躇いがちではあるが、頷くウーノ。そう、ジェイルがいるのは研究施設の入口。たった一人でそこに立っていたのだ。
 勿論、周囲には龍騎達が控えている。だが、それもジェイルが危険に晒されない限り動かないよう言いつけられている。龍騎は、ジェイルからこう言われているのだ。以前やった事に対するけじめをつけるのだと。
 それがどんな事かは分からないが、ジェイルの真剣な眼差しに龍騎は折れ、こうして他のナンバーズと共にクアットロのISで隠れているのだ。

 クアットロのISはシルバーカーテン。幻影を作り出したり、姿を隠す事も出来る便利なものだ。そして、周囲の状況はウーノのIS、フローレス・セレクタリーと呼ばれる力によって把握され、こうして万全の体勢を整えていた。

 やがて、前方から三人の局員が現れた。先頭に立つのは、ベルカの騎士であるゼスト・グランガイツ。そして、その脇に控えるのは近代べルカの使い手であるクイント・ナカジマと、召喚魔導師であるメガーヌ・アルビーノだ。
 他の隊員達は、どうも三人の後ろで待機しているらしく、いつ動き出してもいいように、ウーノが目を光らせている。

「やぁ。こんばんは」

「……ジェイル・スカリエッティ、だと?」

「そんなっ?!」

「まさか……本人……?」

 想像にしない展開に、三人の表情にも動揺が見える。それもそのはず。確かにこの謎の機械に関わっていると思われていた相手ではあったが、それがわざわざ施設の奥ではなく、入口で待ち構えているなどと誰が考えようか。
 そんな戸惑う三人へ、ジェイルは聞いて欲しい事があると切り出した。それに反応して動こうとしたクイントをゼストが止める。その行為が理解出来ず、疑問を感じるクイントだったが、ゼストの視線を追って気付いた。
 ジェイルの目が澄んでいたのだ。犯罪者特有の濁りのあるものではなく、どこか信じられるようなものだった。

「……私を捕まえたいのは分かるが、せめて話ぐらい聞いてくれないかな?」

「いいだろう。ただし、それの内容によって罪が軽くなる事も重くなる事もある。慎重にな」

「……ご忠告どうも」

 ゼストの言葉にジェイルは苦笑しながら、語り出した。それは、ゼスト達からすれば信じられない事だった。ジェイルはもう二度と違法行為に手を出さないと告げ、そしてこれまでやってきた事の全てを収めたディスクを提示した。
 そこには、自分に戦闘機人を始め、様々な違法行為を指示した者達のデータが入っている。そう言ったのだ。そして、そのディスクを渡す代わりに、一つだけ頼みがあると告げた。その頼みとは……

「見逃せ、と?」

「この場は、でいいよ。何も今後ずっとなんて言わないさ」

 ジェイルの言葉にゼストは少し考え、頷いた。

「隊長?!」

「いいんですか?!」

 まさかのゼストの判断に、クイントとメガーヌが驚愕の表情を浮かべる。それにゼストは頷いて、ジェイルを見つめたまま告げた。
 何か罠を張っているのなら、見逃せなどとは言わないだろうし、もしその気なら周囲に隠れている手勢に襲わせていると。それに龍騎達は少し驚く。気付かれていたとは思っていなかったからだ。
 尚もゼストは続けた。それに、今後もではなく今回はと言っている事からも、相手も本気で交渉している。何故そう考えたかは知らないが、気が変わらない内に情報を得るべきだろうと。

「……だが、最後に聞きたい」

「何かな?」

「どうして広域次元犯罪者の貴様が、こんな真似を……」

 ゼストの言葉に龍騎は驚いた。犯罪者。確かにそう言ったのだ。あの隊長と呼ばれた男は。そして思い出したのだ。初めて会った際、ジェイルが自分に言った事を。自分は犯罪者。それが本当だったと知り、龍騎は悩んだ。
 仮面ライダーの力を、ジェイルはもう少しではあるが形にしている。そう、セッテ達の武器の材質などだ。それを教えたのは自分。もし、ジェイルが犯罪者で、それを悪用したのなら。そこまで考え、龍騎は思い出す。

(でも、ジェイルさんは……イイ人なんだよな。娘想いの、ちょっと変わったとこもあるけど、俺の恩人なんだ)

 見も知らない自分を受け入れ、食事や部屋などを与え、今は妹分までいる。それに、龍騎は知っているのだ。ジェイルが元の世界に戻れる方法も考えてくれている事を。しかも、ただ戻るだけでなく、こちらと行き来出来るように。
 それをウーノから教えてもらった時、龍騎は嬉しかったのだ。ただ帰すのではなく、また会えるようにと。それは、自分と会えなくなるのを避けていると分かったから。自分がジェイル達と会えなくなるのが嫌なように、ジェイルもまたそう思ってくれている。それが、堪らなく嬉しかったのだ。

 そんな事を考えていた龍騎だったが、ふと視線をジェイル達へ戻した。どうも話し合いは終わったらしく、ジェイルが手にしていたディスクをゼストへ投げ渡した。それを受け取り、すぐに確認して真偽を確かめるゼスト。
 メガーヌはディスクが本物だと分かり、やや驚きながらもゼストへ視線を向けた。それにゼストも頷いて、ジェイルに一言告げて去って行く。次は無い。その言葉にジェイルは苦笑しつつ頷いた。分かってる。そのやり取りは、とても敵対する者同士のものには聞こえなかった。

「……ウーノ」

『はい、撤収したようです。しかし、よろしいのですか?』

「こんな事をして、老人達に文句を言われるからかい? 別に関係ないよ。言いたいのなら言わせればいい。私は私のやりたい事をする。それだけさ」

 ジェイルはそうはっきり言い切って周囲へ大声で告げた。

「さ、帰ろうじゃないか! 私達の家に!」

 その言葉をキッカケに、クアットロのISが解除され、全員が頷いた。ただ一人、変身を解いた真司だけは頷かず、ジェイルへ視線を向けて尋ねた。

「本当に……犯罪者だったんだ」

「……ああ。そう言ったはずだよ」

「……だよな。うん、そっか。なら悪いのは……」

 真司の次の言葉に、その場にいた全員が声を失った。それだけ、真司の発言は驚くべき内容だったのだ。

―――ジェイルさんに悪い事を止めろって言う人がいなかったからだ。

 そう笑顔で言って真司は歩き出す。呆然としているジェイル達を見て、真司は大きく宣言した。これからは、自分がジェイルの悪事を止めるからと。もう悪い事はさせないからな。そう告げて真司は歩いて行く。その後ろ姿を見送り、ジェイルは楽しそうに笑い出す。それに感化されたのか、ウーノ達も笑う。
 そう、真司が言った事は、とっくに実現されているのだ。あの日、真司がジェイルと出会った時から、それは始まっていたのだ。ジェイルが本来考えていた計画。それを真司は大きく変化させ、今の形にしたのだ。

 ライダーシステムを実用化し、管理局へ譲渡する。その見返りとして自分達への不干渉とどこかのどかな世界での生活を送る事。それが、今のジェイル達の計画。それに……

(真司のいた世界への帰還方法とその行き来の模索と確立だね)

 次元漂流者だが、どうも話を聞く限りでは真司は更に複雑な事情がある。彼のいた世界自体は、簡単に突き止められた。管理外である地球。そこなのは、もう真司自体にも確認を取ってある。
 しかし、そこには真司の言ったモノがないのだ。それは建物の名前だったり、人の名だったりと様々だが、それが何一つとして存在していなかった。そこから導き出されたのが、真司は地球の並行世界出身ではないか。そういう結論だ。

 そのため、今もジェイルはライダーシステムの実用化と並行し、少しずつではあるがそれを調べている。実は、それがあるために未だにノーヴェの目覚めが遅れているのだ。今起動しているナンバースは、ウーノ、ドゥーエ、トーレ、クアットロ、チンク、セイン、セッテ、ディエチの八人。
 残りの四人が目覚めるのは、おそらく後二年ぐらいかかるだろうとジェイルは予測している。それには、その事以外にも理由があり……

(真司を驚かせてやりたいからね)

 クアットロと話し合い、残る四人を同時に目覚めさせようとしているのだ。そのため、クアットロはジェイルの分も引き受け、現在四人の調整を行なっているのだ。それを文句も言わずにやっているクアットロを見て、真司が感心したぐらいだ。
 ちなみに真司はクアットロが四人分の調整を行なっているのは、ジェイルがライダーシステムへ掛かりきりだからと思っている。

「さぁ、我々も行こう。お腹も空いた事だしね」

「そうですね」

「今日のご飯は何かしら~?」

「オムライスと言っていたが?」

「おおっ! チンク姉の好物だね」

「……わざわざ言わんでいい」

「セッテも好きだよね」

「ええ。ディエチは違うのですか」

 ワイワイ言いながら歩いて行く七人。その視線の先では、真司がジェイル達を眺めて笑っている。そしてセインやセッテに向かってこう告げた。ここから向こうの大きな木まで競争しようと。
 それに意気込んで応えるセイン。静かに、だがしっかりと頷くセッテ。微笑みを浮かべながら参加する意志を見せるチンク。どこか呆れながらも加わるトーレ。ディエチはセインに呼ばれ、少し躊躇いながらも参加し、クアットロとウーノはそんな姉妹達に楽しそうに笑みを浮かべる。

 そんな光景を見つめ、ジェイルは真司へ告げた。自分が合図を出すと。それに真司も頷いて、それぞれが位置につき……

「それじゃ……スタート!」

 その声で一斉に走り出す真司達。必死で走る真司を、トーレが、セッテが、チンクが、セインが、終いにはディエチさえ抜いていく。それに負けるかと頑張る真司だったが、龍騎ならともかく彼女達にそのままで勝てるはずもなく、結局最下位で終わった。
 そんな真司を慰めるディエチとチンク。誇らしげに笑うセインとセッテ。へたり込んだ真司を呆れたように見つめるトーレ。後から歩きながら、真司を讃えるウーノとクアットロ。そして、その光景を嬉しそうに眺めるジェイル。

「あ~! 今度は絶対負けないかんな!」

真司のその言葉に、全員が笑う。体の事を知りながら、それを言い訳にしない。その真司の気持ちが嬉しいのだ。
こうして、本来であれば悲劇となったゼスト隊の運命は、一人の男によって回避された。それもまた、後に起こる戦いを助ける事になるのだ……




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続き。空白期はこんな感じです。真司だけ時間がずれているのは、彼は戻る必要がないため、残り続けています。

次回で、真司がどうして残っているのか。そして、この世界に来たキッカケの一端が明らかになるかも……?



[22476] Masked Rider in Nanoha 空白期4
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/11/28 08:16
 RXがギンガを助けた頃、クウガは言葉を失っていた。呼びかけられただけではない。その声に聞き覚えがあっただけでもない。振り向いた先にいた相手が、自分の知る姿ではなかったからだ。
 白いバリアジャケット。赤い宝石のついた杖。そして二つに纏めた髪。それらはクウガの記憶と完全に一致している。だが、その肝心の相手の見かけがまったく違う。

「な……なのは、ちゃん……?」

「うん。そう、だよ、五代さん……」

 対するなのはは涙目だ。クウガにとってはつい先程の別れでも、彼女にすればもう五年以上前なのだ。

(五代さん……帰ってきたんだ。帰ってきてくれたんだ!)

 喜びを噛み締めるも、なのははクウガの傍にいる少女を見て、表情を引き締める。今は感慨に耽っている場合じゃない。この数年間で成長を遂げたなのはは、局員としての顔に戻ると、クウガへ声を掛ける。

「五代さん、その子は私が連れて行きます」

「……あ、うん。お願い」

 なのはの申し出にクウガは意識を切り替え、スバルを抱き上げるクウガ。それに少し驚くも、スバルはなのはの腕に移され、その温もりに笑みを見せる。それになのはも笑顔を返し、上を見上げて何かに気付く。
 そして、クウガへ済まなさそうにこう言った。道を作るので、もう一度この子を抱いててもらっていいですか、と。そんななのはにクウガは自分の知るなのはの面影を感じ、嬉しそうに頷くとスバルを預かる。

「行くよ、レイジングハート」

”いつでもどうぞ”

「ディバイィィィン……バスターっ!」

 なのはの言葉に呼応し、レイジングハートはカートリッジを排出する。そして、放たれた閃光は天井を貫き、道を作り出す。それを魅入られたように見つめるスバル。クウガは最後に見た頃よりも若干強力になったように感じ、なのはの成長を実感した。
 だが、同時に思うのは自分がほんの半日を過ごした間に、こちらではどれだけの時間が経過したのかという疑問。しかし、今はそれを聞き出す暇はない。クウガはなのはへスバルを渡して、告げた。

「実は、ここに俺の先輩がいるんだ。俺、その人と一緒に脱出するから」

「先輩? 翔一さんじゃないんですか?」

 なのはの言葉にクウガはやや躊躇いながらも頷く。それに思う事があったのだろうが、なのははそれを言わずに、頷き返した。

「……分かりました。五代さん、後で色々聞かせたい事と聞きたい事があります」

「うん。必ず会いに行くから」

 なのはの言いたい事を理解し、クウガはサムズアップを見せる。それになのはも笑顔でそれを返し、スバルと共に炎の中から出て行った。それを見送り、クウガはRXへ連絡をした。アマダムとキングストーンの共鳴を使った通信能力だ。
 先程RXへギンガの事を伝えたのも、これによるもの。クウガはその意識をRXへ向ける。

<先輩、五代です>

<クウガか。こっちは無事救出した>

 RXの話を聞き、クウガは驚いた。何と、RXはフェイトと出会ったそうだ。そして、仮面ライダーだと告げると驚き、クウガの事を話すと更に驚いて涙を見せたらしい。それを聞き、やはりなのはと同じでフェイトも本質は変わっていない事を理解し、クウガは喜んだ。
 RXはギンガをフェイトに預けてこちらを目指しているらしい。残りの救助者もライドロンやアクロバッターが助け出し、もう残っている者はいないそうだ。

<じゃ、俺達も>

<ああ、脱出しよう。彼女が言うには、見られると問題があるからと落ち合う場所を教わった>

<そうか。なら、そこへ行きましょう>

 そう答えてクウガは動き出す。RXから聞いた場所を目指して。同じようにRXもそこへ移動を開始する。だが、RXはある事を考えていた。それは助け出したギンガの事だ。
 そう、RXの目には見えていたのだ。ギンガの体が普通ではない事が。改造人間である自分にどこか似た体をしていた事。機械を組み込まれたその体に、RXは悲しみと怒り、そして喜びといった複雑な想いを抱いたのだ。

(あの体を受け入れ、あんな風に優しく強く生きている。だが、あの技術を使い、いたいけな少女を改造した存在がいる。それは、絶対に許さんっ!)

 そんな決意を抱き、RXは空港を脱出した。見れば、クウガも離れた場所にいる。そこへ向かうRX.。その後ろから二台も姿を見せ、後を追う。
 こうして、空港火災は、本来よりも犠牲者を出さずにその幕を降ろす。その影に、二人のヒーローと二台のマシンの活躍を隠して。



 火災の鎮火を終えたはやては、疲れる体を物ともせず、引継ぎやその他の雑務を指揮官として現れてくれたゲンヤ・ナカジマに任せ、親友二人が教えてくれた場所に向かって急いでいた。
 共にいたユニゾンデバイスであるリインフォースツヴァイが、驚いて置いていかれる程の慌しさで。ちなみにゲンヤは押し付けられたのではなく、はやてが何か落ち着かないのを察し、始めの方を指揮してくれた礼だと言ってくれたのだ。
 それにはやては心から感謝し、現在に至る。

(五代さんが……仮面ライダーが帰ってきてくれた! 翔にぃの事も何か分かるかもしれん!)

 やがて、視線の先に見覚えのある青年の顔と親友二人。それに見知らぬ男が見えてくる。そこに、翔一はいない。はやては湧き上がる不安を押し殺し、徐々に速度を落とした。
 そして、五代達の目の前で止まり、その顔を確認する。五代は、急いできたはやてにどこか驚きながらも、視線を向けると笑顔を浮かべてくれた。それにはやては嬉しさを感じた。あの闇の書事件解決の立役者の一人である五代。その彼は、何も変わっていないと感じたからだ。

 だが、そこではやては違和感に気付く。五代がまったく変わっていないのだ。内面ではなく、外見が。あれから五年以上経過したにも関わらず、五代はあの頃と同じままなのだ。
 それにはやてが戸惑いを感じた時、なのはがやや躊躇いがちに告げた。五代は、あれからたった半日しか経過してないと思っていたらしいと。それにはやては愕然となった。次元世界同士の行き来でも、僅かな時間の誤差は生じる。だが、それはあくまでも僅かでしかない。五年以上も誤差が生まれるなど聞いた事もない。

「ほんまなんですか……?」

「……うん。だから、最初なのはちゃんに会った時は驚いたんだ。俺は半日ぐらいだと思ってたら、五年以上も経ってたなんて……」

 きっと、五代も自分と同じ気持ちなんだろう。再会出来て嬉しいのだが、経過時間に差があり過ぎて、どこか素直に喜べないのだろうと。

「で、そちらの方は?」

「あ、こちらは俺の先輩で……」

「初めまして。南光太郎です」

「こちらこそ初めまして。八神はやて言います」

 互いに挨拶を交わす二人。そして、それを見届けてから五代は、なのは達に話した。光太郎の事、自分に起こった事、そして翔一とはぐれた事を。それを聞いて、はやては崩れ落ちそうになった。だが、それをなのはとフェイトが支える。
 五代は慌ててはやてにこう続けた。翔一とはぐれはしたが、自分が戻ったように、きっと翔一も戻ってくるはずだと。その根拠は―――。

「だって、翔一君も仮面ライダーだから」

 その言葉にはやては顔を上げる。その言葉に込められた想いを気付いたからだ。五代は真剣な声でそう告げた。つまり、まだ世界は仮面ライダーを必要としている。それを感じ取っているからこそ、五代はそう言ったのだろう。そんな気がしたからだ。
 見れば、光太郎も同じように頷いている。彼も五代達と同じく仮面ライダーなのだそうで、しかも翔一が言っていた”仮面ライダー”を名乗っていた存在。それを聞き、はやて達にも五代の言葉を信じる事が出来た。

「それで、これからの事なんだけど……」

 三人が事情を理解し、はやてが立ち直ったのを見て、光太郎がそう切り出した。彼は、三人にライドロンやアクロバッターの置き場所を頼んだのだ。二台は、普通の車やバイクへの偽装能力を持たない。そのため、このままでは色々と問題が起きる。
 そう言って、光太郎がその名を呼ぶと、二台はゆっくりと建物の影から姿を現した。その外観を見て、三人はその言葉に納得し、はやてがどこか貸し倉庫でも借りて対処すると告げると、光太郎は感謝すると共に申し訳なさそうに頭を下げた。

 そして、今度は五代へ三人から質問が浴びせられたのだが、そこへ遅れて来た者がいた。

「はやてちゃ~ん、ヒドイですぅ~」

「え? リインさん……?」

 リインフォースに似ている。そう思った五代だったが、それになのはが説明をした。一方、ツヴァイはそんな五代と光太郎を見て首を傾げた。

「このお二人はどちら様ですか?」

「こっちは光太郎さん。そして、驚くんやないでリイン。そっちがあの五代さんや」

「え~っ!? あのお姉ちゃんを助けてくれた仮面ライダーさんですかっ?!」

 突然の大声に驚く五代と光太郎。なのはとフェイトはやっぱりといった表情だ。ツヴァイは目を輝かせて五代の前へ行き、敬礼をする。自分の肩書きを述べるツヴァイに、五代はどこか微笑ましいものを感じ、笑みを浮かべる。
 そして、ツヴァイへ自分の懐からある物を取り出した。それは名刺。そこに書かれている文字を眺め、ツヴァイが不思議そうに読み上げる。

「夢を追う男……二千の技を持つ男……」

「お、ええなリイン。わたしも欲しいわ」

「あ、じゃあ上げるよ」

 はやての言葉に五代はもう一枚名刺を差し出す。それを見てなのはとフェイトも欲しがり、五代は笑顔でそれを渡す。光太郎はそんな光景を見て、笑みを浮かべる。自分も五代と出会った際、同じように名刺を貰った事を思い出していたのだ。
 そんな風に五代と三人は再会する。その後、二人は行く当てもないため、はやて達三人の判断により、海鳴へ一度行く事となった。それは、三人の誓いの一つでもある事を実現するためでもある。

 こうして、五代と光太郎は翌日フェイトの手を借り、海鳴の地を踏む事になる。そこで待つのは、五代に会いたがっていた少女と女性。そして、光太郎には信じられない事を知るキッカケにもなる。
 自分が助けた少女。それと同じ存在がそこにもいる。そして、彼女達の真実を聞き、RXは思い知る。人間の業の深さとその愚かさ、そして優しさを……



「……そうですか。ここがミッドチルダ……」

「ああ。それで、あんたは一体何者なんだ?」

 あの後、ティーダはアギトにゴウラムと共に隠れてもらい、犯罪者を陸士へ引き渡した後、こうして路地裏で話していた。ちなみにゴウラムはもういない。アギトが言うには、まるで何かに呼ばれるように飛んでいったとの事。
 それを聞いて、ティーダが内心で「あちこちで騒ぎになりませんように」と願ったのは言うまでもない。

「えっと、仮面ライダーアギトっていいます」

「仮面ライダーアギト? 変わった名前だな」

「それと……津上翔一とも言います。好きに呼んで下さい」

 話している途中、アギトの体が光ったかと思うと、そこには人の良さそうな青年がいた。ティーダはあまりの出来事に目を見開いて驚いた。だが、執務官として様々な事件などに関わってきた彼は、すぐに冷静になって考えた。きっと、レアスキルのようなものだ。そう結論付け、ティーダは翔一へ頭を下げた。助けてくれた礼を述べて。
 それに翔一はやや慌てて手を振った。当然の事をしたまでだからと。ティーダはどこかで翔一を恐怖していたのだが、それがその言葉で大分払拭された。そして、もう一度頭を下げた。今度は、翔一を恐怖した事に対して。

「すまない。俺は、あんたをどこかで怖がった。同じ人間だって思えなかった……最低だ」

「えっと、仕方ないですよ。俺だって、逆だったら少し戸惑いますし。ティーダさんの気持ち、分かります」

「……すまない。そう言ってくれると助かる」

 翔一の心からの言葉に、ティーダは噛み締めるように言葉を返す。執務官として、差別などしてはいけない。どんな相手にも平等且つ公正に対処すべし。そう考えていたティーダだったが、翔一にはそれが出来なかった。それを恥じ、彼は心から謝ったのだ。
 それに翔一はどこか困ったような表情を浮かべるも、何か思い出したのかティーダへ尋ねた。

「そうだ。ティーダさんは執務官なんですよね?」

「ああ」

「同じ執務官で、クロノって子知りません?」

 翔一から出たクロノの名前にティーダは首を傾げた。執務官にクロノという者はいなかったのだ。そう、この頃クロノは昇進し、アースラの艦長をしていた。役職も提督になり、執務官を退いていたのだ。
 それを知らず、ティーダは翔一に俺が知る限りはいないと答えた。それに翔一は驚きを見せるが、落胆したように「そうですか……」と呟いた。もし、ここで翔一がはやての名前を出していれば、展開はまた違っただろう。だが、彼ははやてが管理局に入った事を知らない。故に、有名人となっていたはやて達の名前を出す事はなかったのだ。

 一方、ティーダは落ち込む翔一を見て、事情を尋ねた。それに翔一はこう答えたのだ。自分はある人にこのバイクと伝言を伝えなければならないと。その人がどこにいるかは分からないが、必ず捜し出してみせるのだと、そう告げたのだ。
 それを聞いて、ティーダは自分が力になると言った。助けてもらった礼もあるし、何よりも翔一には当てがないだろう。自分ならば、局の情報や伝手を使って色々と分かるだろうからと言って、翔一を見つめた。

 それに翔一は嬉しそうに笑みを見せるが、本当にいいのかと尋ねた。それにティーダが悪戯めいた笑みを浮かべ、寝床などはどうするんだと返すと、翔一は答えに詰まった。
 通貨も文字も違う場所での生活は色々大変だぞとティーダに言われると、翔一は困り顔をし、ティーダを見つめた。それにティーダは笑みを見せて遠慮するなと告げたのだ。命の恩人を放っておけないから。そう言って。

「……分かりました。それじゃ、お世話になります」

「ああ。でも、俺は仕事上家を空ける事が多いんだ」

「そうなんですか。じゃ、俺は留守番してれば?」

「いや、妹がいるんだ。ティアナって言うんだけどな」

 ティーダの話を聞き、翔一は相槌を打ちながら考えた。記憶を失ってから今まで、世話になる所には、必ず年下の女の子がいるなぁと。そんな事を思いながら、翔一はビートチェイサーを押しながら歩き出す。
 ティーダの後をついていき、翔一はその少女―――ティアナの事を考える。思い出すのは、ティアナと歳の近かった真魚の事。

(上手くやっていけるかなぁ? 真魚ちゃんとも色々あったし、女の子って難しいからな……)

 こうして、翔一はミッドチルダに滞在する事となる。そして、彼の存在が本来あるべき未来を変える。寂しがりやで劣等感を持つはずだった少女。その心を大きく変える存在へと。それもまた、人知れず人を助ける事……



 ゼスト隊との交渉から一年以上が経過し、真司は相変わらずの生活を送っていた。訓練や家事をし、妹分のセイン達と遊んだり、ウーノ達とは生活環境向上などを話し合ったりと忙しい。
 そんな真司だったが、このところ変な事が起きるようになったのだ。それは、極稀に見る夢。そこでは、彼は同じミラーモンスターの大群と戦っていて、それをサバイブで片付けるのだが、元の世界に戻った後、何故か力尽きて倒れるのだ。
 車にもたれかかるように眠る自分。それに必死の形相で声を掛ける蓮。そんな光景を見るのだ。そして必ず最後に、連が何かを決意したようにそこから去って行くところで目が覚める。

「……また、か」

 今日もその夢を見た真司は、全身から汗を掻いて目を覚ました。じっとりとした何とも言えない不快感に顔を歪め、真司は着ていたシャツを脱ぐ。その汗に濡れたシャツを床に置き、真司は代わりのシャツを着て立ち上がる。
 そして、部屋を出て洗面所で顔を洗う。水の冷たさが心地良く感じ、真司は顔を拭いて鏡を見る。

「うしっ!」

 気合を入れ直す真司。鏡に映るのは、いつもの自分の顔。”ここに来た頃と変わらぬ顔”がそこにはあった。真司はそれに疑問さえ抱かず、普段通り動き出す。

「今日は朝食どうするかなぁ。昨日はチンクちゃんのリクエストだったし、今日はクアットロにでも聞いてみるか」

 そう言ってキッチンへ向かう真司。こうして今日も一日が始まる。彼の望んだ、平和で穏やかな日々が……



「チンクちゃん、それ取って」

「これだな?」

「セイン、そっちはもういいぞ」

「は~い」

「ディエチ、これ並べてくれるか?」

「分かった」

 賑やかなキッチン。エプロンを着けた真司を司令塔に、チンク、セイン、ディエチが助手として動いている。元々キッチンはそこまで広くなかったため、現在は多少手狭になってきていた。そのため、中々作業が辛い。と言っても、三人は自分から率先してやっているので、不満はない。
 真司は、この状況と今後の人数が増える事を考え、キッチンの厨房化を頼んでいたりする。これはジェイルも納得し、現在真司がウーノと相談し、調理器具の置き場所からコンロの位置まで、入念に話し合っている。

 そんなキッチンの声を聞きながら、トーレはセッテと将棋を指していた。元々はチェスしかなかったのだが、地球へ例の調査をしに行ったクアットロが土産として買ってきたのだ。
 後は、真司が頼んだ煎餅などのお菓子類だったのだが、それは開封僅か十数分で全員の胃の中へ消えた。以来、その味を気に入ったのか、ラボには煎餅やあられなどが常備される事となった。

「……王手」

「むっ……」

 セッテの角がトーレの王将を捉えた。王手銀取り。中々の手だ。それを見てトーレに焦りの色が浮かぶ。対するセッテはどこか嬉しそう。そんな二人を眺め、口元に微笑みを浮かべるクアットロ。だがその手は、止まる事無く動いている。
 彼女がしているのは、残りの姉妹の調整ではない。厳密にはそれに当たるのだろうが、彼女の中ではその感覚は薄いのだ。クアットロがしているのは、チンクやトーレの武装改良案。トーレはブレードの材質強化を完了し、もうする事はないと本人は思っているのだろうが、クアットロから見ればまだ改良するべき点はある。

(トーレ姉様もチンクちゃんも前線に立つだろうし、出来るだけの事はしたいものね)

 そして、チンクはそのコート。高い防御力を持ったそれは『シェルコート』と呼ばれているのだが、クアットロはその強化を考えていた。龍騎のデータを解析し、ジェイルはその一部を実用化した。
 武器の強度を近付け、今はボディースーツの改良に取り掛かっている。龍騎と同じとまではいかないが、それに近付けるようにとしているのだ。

「おはよう、みんな」

「おはよう」

 クアットロがそう考え、視線を画面へ戻そうとした時、食堂にジェイルとウーノが現れた。それを見て、そこにいた三人が時間を確認し、同じ事を思った。もうそんな時間か、と。
 ジェイル達はこのところ決まって同じ時間に現れるようになっていた。それを合図に真司達が料理を並べ始めるぐらいに。今もフレンチトーストを並べていたディエチが、二人に挨拶を返し、やや急いでキッチンへ戻って行った。

「おはようございます、ドクター」

「おはようございます、ウーノ姉上」

「おはようございま~す」

 それぞれ挨拶を返し、二人が席についたところで真司達が料理を持って現れる。今日はクアットロの注文で、どこか優雅さを感じるものになった。まぁ、真司がそれにどこまで応えられるかをクアットロは楽しみにしていたのだが、出てきた料理に真司らしいと全員が頷いた。
 まずトマトサラダ。ほうれん草とベーコンを混ぜて炒め、その上に目玉焼きを乗せたポパイエッグ。そして、人参と玉葱、キャベツを入れた野菜スープ。とどめにハムステーキである。それにフレンチトーストとミルクという洋食式だ。

 並べ終えた真司達も席についたところで、真司がいつも通り手を合わせて―――。

「いただきます」

「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」

 と告げる。それに残り八人も続いて食べ始める。やや甘味を抑え目にしたフレンチトーストの味に、チンクは満足そうに頷いて、セインがスープの美味しさに顔をほころばせれば、同じようにウーノもその味に笑みを浮かべる。
 セッテとトーレがポパイエッグの卵を最初から崩すか崩さないかで少し揉める横で、クアットロはサラダをディエチに取り分けてもらって礼を述べれば、ジェイルは真司の方がハムが大きいと文句を言って真司が反論する。

 そんな賑やかで和やかな時間。そして、食事時の定番といえば雑談。最近の話題は、もっぱらキッチンを含めたラボ全体の改造案。真司が要望したのは、実はキッチンだけではない。
 そう、風呂もそこには含まれていたのだ。ジェイルはそもそも自分以外の男性がここに来る事を想定していなかった。そのため、風呂に関してはあまり考えていなかったのだが、真司としては現在のままでは気兼ねなく風呂に入れないと文句を言っていたのだ。
 その背後には、未だにふざけて入浴しようとするセインの存在があった。しかし、真司はそれを誰にも言っていない。それは、セインがいつも真司に懇願するからだ。姉達に知られたら自分だけでなく真司も怒られるし、何より自分は真司の背中を流したいだけなのだと。

 それ故に真司はセインの事を黙っていた。まぁ、さすがに真司が一度本気で「女の子なんだから、もっと自分の体を大切にしろ!」と怒った後は、水着を着てくるようにはなったが。

「で、どうなんですぅ? シンちゃん用のお風呂」

「それなんだけど……本当にあれでいいのかい?」

「いいの。俺が一人で手足伸ばして入れるぐらいで」

 そう、ジェイルは何度も真司に確認しているのだ。その広さが真司とジェイルが入るだけで一杯一杯なので、もっと広くしたらと何度も言っているのだが、何故か真司は首を縦に振らない。その理由は言うまでもないだろう。
 セインの乱入をさせないためである。しかし、真司は肝心な事に気付いていないのだ。例え浴槽が狭くても、セインには関係ない。そう、むしろ好都合でさえあるのだ。遠慮なく密着出来るのだから。

(まぁ……さすがにあたしでもそこまで出来ないけど、ね)

 セインはジェイルと真司の話を聞く度、そう考えていた。兄と呼んでいる真司だが、この頃からセインは、どこかで別の呼び方にしたいと思い始めていた。そう、兄ではなく男。
 自分の愛する男性。そう呼びたいと。そう意識しだしたのは、やはりあの競争での一言。どうやっても普通の人間じゃ勝てないにも関わらず、真司は次は勝ってみせると言った。あの瞬間、セインは真司の考え方を再確認し、そして思ったのだ。

(あたし達を”普通の女性”として見てくれるのは、真司兄しかいない……)

 そう考え出したら、後はもう坂道を転がるようにセインは急速に真司を意識していった。例の風呂の一件も、真司が怒ったからだけではなく、セイン自身も恥じらいが芽生えたため、水着を着ただけ。
 そう、真司の一言はセインの女性としての自覚を促したのだ。もし、真司がセインをちゃんと女性として普段から見ているのなら、彼女が二人っきりでいる時、少し頬を赤くしているのが分かったはずだ。

「あ、そういえばノーヴェって、起きるのいつ頃になりそうなんだ?」

 セインが気が付けば、話題は妹達の事になっていた。真司の言葉に声を掛けられたクアットロが少し考え、その口に入れていたハムを咀嚼してから答えた。

「……まぁ、来年にはならないわ」

「そっか。つまり今年中か」

「そうよ~。あ、でもでもぉ、もしかすると少し遅れるかもしれないから、確定って訳じゃないわよ?」

 嬉しそうに頷く真司へ、念のために釘を刺すクアットロ。だが、それを聞いて真司以外がどこか笑みを浮かべる。そう、知っているのだ。クアットロが真司を誤魔化し、驚かそうとしている事は。
 だが、真司はそれに少しだけ残念に思いながらも、クアットロへ信じてるからなと告げた。その言葉に少し嬉しそうにするクアットロ。それを見たジェイルが何か思い出したように呟いた。

「……ドゥーエ、呼び戻した方がいいかね?」



「くしゅんっ!」

 クラナガンにある地上本部の廊下。そこで一人の女性がくしゃみをした。幸い、その姿を誰も見ていなかったが、彼女は周囲を見回し、安堵の息を吐く。彼女は、ナンバー2ことドゥーエ。ISで姿を変え、ここに潜伏中なのだ。
 一応、レジアス中将の秘書として働いている彼女は、知的なクールビューティーとして通っている。そのため、先程の姿を見られたのではないかと思ったのだ。

「……ドクターかウーノ辺りでも噂したのかしら……?」

 小さく首を傾げ、彼女は歩き出す。彼女は知らない。自分がいなくなった後、ラボがどんどん明るく賑やかで、そして暖かい雰囲気になっている事を。彼女がそれを知り、少し不貞腐れるのはこれから大分先の話である……




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真司は今回である程度予想出来るでしょうか? でも、これが実際あった事なのかはまだ……

翔一はニアミス。まだ彼だけは再会できず。一方五代はあの二人と再会です。光太郎は、少しシリアスかもしれないです。

翔一のチェイサー関連の描写は、次回以降にでも……あくまで予定です。



[22476] Masked Rider in Nanoha 空白期5
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/12/02 07:39
 久しぶりに踏む海鳴の地。とは言っても、五代にとってはつい二日前ぐらいの感覚なのだが。転送ポートとして使っている月村家の庭。そこに降り立った五代と光太郎は、とりあえず歩き出した。五代に説明をされながら、光太郎は広い庭を持つ月村家にやや圧倒されていた。
 そして、しばらく歩いた先に一人の少女がいた。紫色の綺麗な髪。それを見て、最初五代は忍かと思った。だが、背丈が若干違う事に気付き、思い出す。自分は五年以上後の時代に来てしまったのだと。つまり、目の前の女性は―――。

「すずかちゃんっ!」

 その声に女性は一瞬震え、ゆっくりと五代の方へ振り向いた。そこには、何ら変わらない笑顔の五代がいた。
 それを見つめるのは、もう子供らしさを少ししか感じさせないすずか。光太郎は、すずかの表情と瞳から事情を察し、五代から少し距離を取る。

「……五代さんっ!!」

 走った。叫ぶように名前を呼んで。すずかはその勢いをつけたまま五代へ抱きついた。それを受け止めるも、勢いを殺しきれずに五代はそのまま後ろへと倒れる。
 だが、すずかはそれに構わず五代に抱きついて泣いていた。そのすずかのすすり泣く声に気付き、五代は優しくすずかの頭を撫でた。

「えっと、ごめんね。帰るの、遅くなって」

「……いいんです。こうして……帰ってきてくれたから!」

 五代の声に顔を上げ、すずかは笑顔でそう言い切った。その目からは、涙が流れている。それを見た五代は、慌ててハンカチを取り出し、それを拭く。そんな光景を見ながら、光太郎も微笑みを浮かべる。
 そうしてしばらく、三人は時を過ごすのだった……



「そうなんだ。忍さん、結婚してドイツに……」

「うん。相手はなのはちゃんのお兄さんの恭也さん」

「ノエルさんは二人と?」

「そう。あ、後で電話して。お姉ちゃんもノエルもきっと喜ぶから」

 庭から歩きながら話す二人。光太郎はそんな二人の後ろを歩きながら、庭を見渡していた。だが、その目はどこか鋭い。

(……トラップが仕掛けられている。それだけじゃない。監視カメラや赤外線センサーまで……)

 月村家の庭中に設置された仕掛けに気付いた光太郎だったが、どうしてそんな物を仕掛ける必要があるのかが、理解出来ないでいた。確かに、月村家は裕福なのだろう。だが、これは警備と呼ぶには行き過ぎていると光太郎は思った。
 中には、相手を殺しかねないぐらいの物もある。まだ光太郎は知らない。月村家は吸血一族で、その命や技術を狙ってくる者がいる事を。

 光太郎がそうやってトラップに意識を向けていると、すずかが五代に問いかけた。

「それで、あの人は?」

「南光太郎さんって言って、俺と同じ仮面ライダーの先輩なんだ」

「仮面ライダー?」

 五代の言った聞きなれない言葉に、すずかは小さく首を傾げる。それに五代がクウガと同じような存在と説明すると、すずかは驚いたが、納得はしたようで、意を決したように光太郎の方を向き直って声を掛けた。
 それに光太郎もすずかの方を向き、何か用ですかと笑みを見せた。すずかはそれにどこか言いにくそうではあったが、はっきり告げた。

「実は、私、吸血鬼みたいな存在なんです」

「……そうなんだ。じゃ、ここのトラップはそれに関連して?」

「……分かるんですか?」

 光太郎の言葉に感心したように声を上げるすずか。五代もびっくりしている。何せ、五代も忍やノエルから聞いて初めてその存在を知ったのだから。そんな二人の反応に、光太郎は少し悲しそうな声で「うん」と言うと、手を叩いて明るく告げた。
 すずかが少し人と違うのは分かった。でも、自分は気にしない。すずかはすずかだから。そう光太郎は言い切った。それが五代やなのは達と同じ言葉だったものだから、すずかは嬉しくて涙を流して頷いた。
 その笑顔は、まるで絵画のような美しさがあった……



 屋敷へ案内され、五代はまた再会を果たしていた。相手の名はファリン。月村家で、イレインと共に五代を慕っていた女性である。

「ホント~に、心配したんですからっ!」

「ごめんね。俺もすぐ帰ってくるつもりだったんだけど……」

 まるで妹と兄のように見え、光太郎は笑みを浮かべる。その隣ですずかも同じように笑みを浮かべるが、ふと光太郎へ視線を向けた。光太郎は、笑みを浮かべてはいる。だが、その笑みに影があるのをすずかは感じ取った。
 何かを思い出し、その辛さを堪えているかのような目。そんな風に光太郎の目が見えたのだ。

(杏子ちゃんも、あんな感じだったな。俺達がラグビーで怪我したりすると、よく怒られたっけ……)

 思い出すのは、幼馴染の男とその妹。その二人は、今はもう自分の傍にはいない。五代に詰め寄り、文句を言いながらも嬉しそうなファリンに、光太郎は過ぎし日の思い出を重ねていたのだ。

 その哀しげな瞳に、すずかは言葉を失う。五代とは違う哀しみ。それを光太郎は持っている。そんな風に見えたのだ。その哀しげでどこか懐かしそうな横顔。それに、すずかは見入る。
 先程聞いた話では、光太郎も五代と同じような力を持っているらしい。つまり、変身するという事。それは、人に言えない秘密を抱え、孤独と戦ってきたという証。すずかは、そう考えて静かに光太郎の傍へ行き、その手を握る。

 それに気付いた光太郎に、すずかは小さく、だがはっきりと告げた。

―――貴方は、一人ぼっちじゃないです。

 その言葉に光太郎は黙った。それにすずかは続けて言った。どこかで貴方を待っている人がいます。私にもいたんですから、とそう言って。
 それに光太郎は心から笑顔を見せ、その手を握り返す。その暖かさに感謝して。その優しさに感謝して。ここは自分が守った世界ではない。でも、きっと自分が守った世界にも、すずかのような心の持ち主が沢山いる。

 そう思い、光太郎は誓う。決して哀しまないと。どこかで、自分を愛し、信じてくれる者がいる。求めている者がいる。なら、それに応えて戦い続けようと。仮面ライダーは、その気持ちで今日まで世界を守り続けてきたのだから。
 そう、固く信じて。すずかの手の温もり。これを自分達は守るのだと、光太郎は思った。その時、誰かが玄関を開けて帰ってきた。大きな音がし、何者かがこちらに向かって歩いてくる。

「イレインが帰ってきたんだ」

「イレイン?」

 すずかの言葉に光太郎は聞き返す。それを説明しようとした時、リビングのドアが開いた。そこには、買い物袋を両手に提げたメイド姿の女性がいた。

「今帰った……」

「イレイン、ごめん! 遅くなったけど、もうストンプ見せられるからっ!」

 五代の姿を確認し、硬直するイレイン。そんな彼女に、五代は手を合わせて申し訳なさそうに言葉を掛ける。最後には笑顔でサムズアップを忘れずに。それにイレインは呆然としながら小刻みに震え出す。
 そんなイレインに気付き、五代は不思議そうな顔をした瞬間―――。

「っ!!」

「おわっ!」

 イレインが荷物を放して五代に抱きついた。それに感嘆の声を上げるファリン。光太郎とすずかは揃って驚き、苦笑する。イレインは泣きながら、ただ力無く五代を叩いている。そして五代は、そんなイレインに笑顔を浮かべ、静かにただいまと言った。
 それにイレインもおかえりと返すも、涙混じりの声で遅いんだよと付け加えるのを忘れなかった。

 そんな光景が、たっぷり三分。そして、立ち直ったイレインが照れ隠しに五代を(割と)本気で殴り飛ばして、三人が慌てる事で五代の再会は終わりを向かえるのだった……



 月村家 すずかの部屋。時刻は午後十時を過ぎ、空には月が昇っている。あの後、五代は全員の前でストンプを披露。その見事さに全員が拍手をし、五代は嬉しそうにそれに応えていた。そんな光景を思い出しながら月を見上げ、すずかは視線を月から目の前の相手へと向けた。そこにいるのは、真剣な表情の光太郎。
 ファリンやイレインの力などを知った光太郎は、夕食が終わった後、すずかに尋ねたのだ。二人も同族なのかと。それにすずかは違うと返し、自動人形の説明をした。すると、それを聞いた光太郎は表情を険しくし、すずかに話があると言った。
 そのため、今の状況になっているのだ。その眼光は鋭く、一切の虚偽を許さないと告げているようだ。

「……それで、話って何ですか?」

「自動人形と言ったけど、彼女達は改造されてああなったのかな」

「改造? いえ、ファリン達は元々そういう風に作られたって聞きました」

 すずかは以前姉の忍から聞いた自動人形の話をしていく。彼女達は、機械ではない。生物と呼んでいい存在で、ちゃんと生きている。心もあるし、感情だって見せる。人間を改造してなんかいないと。
 光太郎はそれを聞いて、意を決して尋ねた。誰かがその技術を使って悪用したりしていないか。もしくは、ミッドチルダにその技術を教えていないかと。

「……どういう事ですか?」

「……いたんだ。ファリンちゃん達のような体の少女が」

「ミッドに、ですか?」

 すずかの問いに、光太郎は無言で頷く。その顔は嘘を吐いているものではなかった。それを知り、すずかは愕然となった。夜の一族しか知らないはずの自動人形。その技術を応用したのか、それともたまたまなのか知らないが、それを使った者がいる。
 これを姉が知れば、烈火の如く怒るだろう。それと同時に、きっとこう聞くはずだ。その子達は平和に暮らしているのかと。

(ノエルを連れて行ったのだって、ノエルが希望したからだったし……)

 本来なら、忍はノエルを残していくつもりだった。だが、ノエルが忍と共にいたいと言ったので、忍は仕方なくノエルを連れていったのだ。その表情は、とても嬉しそうだったが。
 すずかがそんな事を思い出していると、光太郎は自動人形の事を詳しく教えて欲しいと告げた。それにすずかは自分が分かる範囲で、と前置いて話し出した。

 元々は夜の一族が長命で、孤独なのを嫌がって作られた存在。しかし、時が進むにつれ、夜の一族を狙う相手が頻繁に現れ、それに対する対抗手段になってしまい、気が付けば、後期型は呼び名も変化してしまったらしい。
 その名も……

「戦闘機人、と呼ばれたそうです」

「……そうか」

 光太郎はその話を聞いて、複雑な想いを抱いていた。自分の周囲に誰もいなくなる。そんな孤独を避けるために作り出された存在。それは、きっと話し相手が欲しかったんだろう。一人ではない。その証明が欲しかった。そのために、自分勝手ではあるが、命を作り出した。
 だが、時代と共にそれが変わり、ただの護衛や戦いの道具のように扱われる事になってしまった。家族として望まれた者達を、自分達の都合で戦闘機械へ変えてしまう。

(どこでも……同じなのか……)

 そう考え、光太郎は首を振る。違う。そうじゃないと。すずか達のように同じ人間として考え、家族として愛している者達もいる。人は愚かで、醜いのかもしれない。だからこそ、賢く、美しくなろうとするのかもしれない。
 そう思い直し、光太郎はすずかを見る。すずかはどこか不安そうな眼差しをしていたが、光太郎が笑みを見せると、その顔に明るさが戻った。

「ファリンちゃん達が、どういう存在かは分かった。でも、すずかちゃんみたいな子なら心配ないね」

「はい。ファリンもイレインも大切な家族です」

「うん。俺は、もう一度ミッドに行って、その子達を捜してみるよ。もしかしたら、すずかちゃんの親戚がいるのかもしれない」

「そうですね。でも、光太郎さん」

「何?」

 話が終わったと思って立ち去ろうとする光太郎だったが、それをすずかが引き止めた。不思議そうに振り向く光太郎へ、すずかはこう言った。もし、親戚だったとしても、何も言わないでください。幸せに暮らしているなら、そのままそっとしておいて欲しいんです。
 そうすずかは告げた。それに光太郎も笑顔で頷き、約束すると答えた。そして、そのまま光太郎は部屋を後にし、割り当てられた部屋へと歩いて行った。

 その遠ざかる足音を聞き、すずかは思う。光太郎が言った言葉。人間を改造してというのは、もしかしたら光太郎の世界で見た事なのかもしれない、と。だからあんなにも怖い顔をしていたんだろう。そう感じたのだ。
 すずかは知らない。それは、光太郎自身の事を指している事を。だが、すずかはどこかで察していた。光太郎の哀しみ。それは、その事が大きく関わっているのだろうと。

翌日、光太郎は単身ミッドへ向かう。すずかが連絡し、来てくれたフェイトと共に。五代へは、すずか達と色々と話をした方がいいと告げて。
そして、光太郎は出会うのだ。あの姉妹と。そして、その体の秘密を知りながらも、我が子として愛情を注ぐ夫婦に……





 ミッドチルダにある、そう大きくはない一軒家。そこの小さな庭で、バイクを磨いている男が一人。翔一だ。彼は、ビートチェイサーを丁寧に磨き上げて、その出来映えを眺めて頷いた。

「よし」

 だが、その視線がハンドルへと移動すると、その表情が少し変わる。

「……あの時は気にしなかったけど、これガードチェイサーと一緒だよな……」

 そう、かつて自分が乗ったG3-Xのバイク。それとビートチェイサーには共通点が多いのだ。名前やハンドル、更には警察が開発した物だという事まで。
 そして、そこまで考えて翔一は思い出す。G3はそもそも第四号、つまりクウガをモチーフにして作られたと聞いた事があったのだ。そう考えると、翔一の中にはある仮説が浮かび上がった。

(榎田さんがクウガを研究してて、小沢さんはそのデータを使ってG3を作ったのかも。だからバイクの名前もチェイサーなのかな)

 本当は違うのだが、生憎翔一はそれを知らない。G3を始めとする一連の開発は、全て小沢だけの発案。榎田は一切関わっていないのだ。考えれば分かるはずだ。榎田はクウガの協力者。つまり、五代がどんな気持ちで戦っていたかを知る人物だ。それが、いくら防衛のためとはいえ、恐ろしい力を生み出す事に賛成するだろうか。神経断裂弾さえ、どこか嫌がっていたというのに。

 翔一がビートチェイサーを前に色々考えていると、後ろから何者かが静かに近付いてくる。そして、考え込んでいる翔一へ声を掛けた。

「何してるの、翔一さん」

「あ、ティアナちゃん。……洗濯物は?」

「もう干し終わったけど?」

 ティアナはそう言って空になった洗濯籠を見せる。それに翔一も頷いて、動き出す。最初、翔一を見た時ティアナはどこか不思議な感じを受けたのだ。優しそうな雰囲気と何故か心穏やかになる空気。
 そして、ティアナがたった一日でここまで翔一を受け入れたのは、やはりティーダの命の恩人だからだろう。聞けば、翔一がいなければ確実に死んでいたそうだ。それを聞いた瞬間、ティアナの中で翔一は兄に次ぐ重要人物になったのは言うまでもない。

 ティーダは今日も仕事で家にはいない。ティアナは翔一と留守番なのだが、今までと違い誰かいるというのは、ティアナにとっては大きな変化だった。まず、家事。翔一は家事を率先してやってくれるのだ。ティアナも出来ない訳ではないが、翔一の方が手馴れているので、内心少しショックを受けた。
 料理もそう。ティーダも言っていたのだが、まるでお店の味なのだ。翔一はそれを聞いて、レストランで働いていたと答え、二人は納得した。

「ね、翔一さん」

「ん? どうしたの」

「アタシ、将来なりたいものが決まったって言ったよね」

「えっと、執務官補だよね?」

 翔一の言葉にティアナは頷く。兄を支える仕事がしたい。そうティアナは言った。それは、昨夜の夕食後の事。翔一の料理に大満足し、ティーダが汗を流しにいった時、ティアナは翔一に言ったのだ。

―――今日みたいな事がないように、アタシがお兄ちゃんを支えたい。

 そう、ティーダは特定の執務官補がいない。それは、ティーダ自身のこだわり。事件毎に適したパートナーを選びたい。それは、暗に自分と合う相手がいないと言っているのだ。
 それを知るからこそ、ティアナは執務官補になり、ティーダを支えたいと思ったのだ。

「来年には、アタシ陸士の訓練校へ行こうと思ってるんだ」

「そうなんだ」

「でね、そうなったら翔一さん一人になっちゃうんだけど」

「どうして?」

 翔一の質問にティアナは答えた。全寮制なのだ、と。訓練校は完全寮生活になり、訓練生は、休みにでもならない限り家には帰れないのだと。だから、来年には翔一一人を残す事になってしまう。
 そうティアナはどこか申し訳なさそうに告げた。自分もこの数年寂しいと感じる事が多かった。でも、翔一は自分以上のはず。そうティアナは思った。翔一は次元漂流者に近いらしく、知り合いがミッドにはいない。
 管理外にはいるらしいのだが、簡単にそこへ送ってやれる程、ティーダも暇がない。それに、翔一は人を捜しているらしく、そのための情報をティーダが得るため、管理外にはいけないのだ。

「……そっか。でも、学校は?」

「勉強もいいけど、やっぱりアタシは……お兄ちゃんの手助けがしたい」

「……うん。なら、ティアナちゃんの好きなようにすればいいよ。俺、応援するから!」

 ティアナの強い眼差しを見て、納得した翔一。浮かべる笑顔とサムズアップ。それにティアナも笑みを返すが、その仕草に引っかかるものを感じ、問いかける。昨日からそれを良くやるけど、一体何の意味があるのかと。
 それに翔一は五代から聞いた事を教える。その意味を聞いて感心するティアナ。そして、笑みを浮かべて言ったのだ。翔一さんには、似合ってるかも、と。それに翔一が嬉しそうに笑い、ティアナも似合うようになれると告げた。

「そういえば、翔一さんが捜してる人って何て名前?」

「えっと、五代雄介さん。あ、それかクウガ」

「クウガ? あだ名か何か?」

「う~ん……そんな感じかな」

 翔一の答えに何か妙なものを感じるティアナだったが、とりあえずその名を覚えておく事にした。自分も出来る限りで翔一の手助けをしたいと思ったから。兄を助けてくれた相手。その恩に応えるために。

 ティアナは、こうして翔一と日々を過ごす。その彼が世話になってきた人達の話を聞き、ティアナは思うのだ。本当の強さとは、誰かの笑顔のためにと思い、行動する事。それを翔一は五代から教えてもらったのだ。
 その事も含めて翔一はティアナへ告げる。ティーダを支えたいと思った優しさを忘れないようにと。そう翔一が言うと、ティアナは笑みを浮かべて、力強く頷いた。

この後、ティアナは宣言通りに陸士の訓練校へ入校する。そこで出会うルームメイトの少女。その少女との日々さえ、本来と違う形に変わる。
そして、そこで彼女は知る。その少女を助けた存在。それこそが翔一が捜している相手なのだと……





 ジェイルラボ 訓練場。そこに四人の少女がいた。その視線は全て目の前の存在へと注がれている。その相手は、先程四人を見せられ大声を出し、今もどこか落ち着かない様子だった。
 そう、彼は……

「えっと、俺は城戸真司。よろしく」

「僕はナンバー8、オットーです。ISはレイストーム。簡単に言えば光線による多連装攻撃です。よろしくお願いします、真司兄様」

「アタシはナンバー9、ノーヴェ。IS、ブレイクライナー。簡単にいやぁ……空中に道が作れるって事。よろしく、兄貴」

「アタシはナンバー11、ウェンディッス。ISはエリアルレイブって言って、この板を浮かす事ッスかね。よろしくお願いするッス、にぃにぃ」

「私はナンバー12、ディードです。ISはツインブレイズと言いまして、双剣使いです。よろしくお願いします、真司お兄様」

 四人は後発組であり、最後のナンバーズである。真司はもう慣れたのか、呼び方への反応はしなかった。ただ、感覚的にウェンディはセインと似た匂いがすると思い、警戒していたが。
 ちなみに、各員の表情は、以下の通り。オットーは穏やかな笑み。ノーヴェはぶっきらぼうではあるが、どこか嬉しそう。ウェンディは楽しそうに笑い、ディードは柔らかな笑顔。

 そして、全員の自己紹介が終わったところで、ジェイルが手を叩いた。それに真司がやや身構える。これまでの経験上、この後の展開が分かっているからだ。そんな真司に目もくれず、ジェイルは四人へ告げた。
 それは、これからトーレ、チンク、セッテの三人を相手に模擬戦をしてもらうというもの。それに頷く四人と肩透かしを喰らい、蹴躓く真司。そんな光景を見て、笑みを浮かべるセインとディエチ。トーレ達三人は、既に戦闘態勢。クアットロとウーノは訓練場の再点検。

「じゃ、準備をしてくれるかい」

「「「「了解(ッス)」」」」

 それぞれ配置につく四人。対するトーレ達は適度に力を抜いているようで、少し緊張気味の四人を見て笑みさえ浮かべている。無理も無い。四人は、データ共有があるとはいえ、まだ目覚めたばかり。対してトーレ達は何度も実戦を経験した者達なのだから。
 そう、ドラグレッダーの餌を得るためだ。龍騎は最初の戦い以降、トーレやチンクに言われ、余程でない限り手を出さないように言われたのだ。そのため、トーレやチンクは原生生物相手ではあるが、実戦を経験している。
 セッテもセインやディエチなどと共に餌取りに参加し、命がけの戦いを経験している。ま、彼女達は揃って一度龍騎の助けを受けているのだが。

 そして始まる模擬戦。それを眺め、真司は唸る。トーレ達に翻弄されながらも、それでも何とか喰らいつこうとする四人に。どうやらそれは、セインも同じようで、拳を握り声を出している。ディエチも四人へ声援を送っている。
 心情的には、やはり姉よりも妹側だからだろう。すると、二人の声援が始まってから四人の動きが良くなった。それにトーレ達も気付き、少しだが動揺した。

 その僅かな隙を四人は見逃さない。即興で見事な連携を組み上げたのだ。

「ディード!」

「ええ!」

「しまったっ!」

 オットーのレイストームがトーレの退路を絶ち、すかさずディードが攻め込めば……

「セッテ姉ぇ!」

「なっ……馬鹿な!?」

 トーレを援護しようとしたブレードを、エアライナーで弾き飛ばすようにしながら、ノーヴェがセッテへ強襲し……

「させないッス!!」

「ちぃ!」

 ライディングボードをウィリーさせ、チンクへ向かっていくウェンディ。その狙いは、チンクの二人への支援妨害。

 そんな光景を見て、クアットロとウーノは軽い驚きを覚えた。三人の中で要になっているトーレ。それを確実に潰すべく、二人で事に当たらせる決断。そして、それをより確実にするため、セッテとチンクの足止めをしに行く行動。
 それらを、四人は一瞬で実行に移したのだ。そして、それを見て感心するジェイル。真司はもうどちらでもなく声を出して応援している。

 結局、四人は敗北した。トーレを追い詰めたのは良かったのだが、ディードだけでは足りず、オットーも援護したのだが、高速機動に持ち込まれては二人でも分が悪かった。更に、オットーという司令塔兼砲撃手がいなくなった事で、拮抗していたノーヴェやウェンディも押し返され、本気になった三人の前に敗北を喫したのだ。

「良く頑張ったよ、四人共さ。俺、途中からトーレ達負けるんじゃないかって思ったし」

 どこか落ち込む四人に、真司はそう声を掛ける。そう、本当に真司は心から思ったのだ。四人が勝つんじゃないかと。大健闘。その言葉に相応しい程のいい勝負だった。だから、真司はオットーの頭を優しく撫でた。次にノーヴェ、ウェンディ、ディードと良く頑張ったと想いを込めて撫でていく。
 それにどこかくすぐったそうにしながら、四人は笑みを見せる。それに真司は頷いて、今日の夕食は久しぶりにアレを作ると宣言した。それに首を傾げる四人だったが、ジェイル達は上機嫌で笑みを見せた。

 そう、真司が言ったアレとは餃子。実は、真司はナンバーズが目覚める度に、餃子を振舞っていたのだ。真司が特別な料理と言っていて、滅多に作らないのだ。なので、久々の餃子にジェイル達は喜びを隠せないのだ。

「じゃ、セインとディエチは餡を作る手伝いをしてくれ。クアットロとウーノさんは皮で包むのをやってもらうから」

 そう言って真司は歩き出す。ジェイルは呆気に取られている四人に、頑張ったね、汗を流しておいでと告げてその後を追う。トーレ達三人がそれに続くように歩き出し、四人にこの調子でなと声を掛けて去って行く。
 ウーノとクアットロも四人に良く頑張ったと誉めて歩いて行く。最後に、セインとディエチが悔しいだろうけど、次勝てるように頑張ろうと励まし、その手を掴んで立ち上がらせる。

「ま、まずお風呂に行って汗とか流してきな」

「トーレ姉達も待ってるだろうし、早めにね」

「……セイン姉様、ディエチ姉様」

 オットーがそう言うと、ディエチはやや照れくさそうにしながら、言った。自分は確かに稼動時間で言ったら姉かもしれないが、呼び捨てでいいと。自分はただ、とある事情があって早く目覚めただけだから。
 それに、とディエチは言ってこう告げた。

「あたしはみんなを名前で呼び捨てにするから。オットーやディードも呼び捨てでいいよ」

「あ~、あたしはお姉ちゃんって呼んで欲しいかな」

 笑顔で告げるディエチと苦笑気味で告げるセイン。それに四人は顔を見合わせ、笑みを浮かべて頷いた。

「分かったよ、ディエチ。それとセイン姉様」

「これからよろしくな、ディエチ。それとセイン姉」

「よろしくッス、ディエチ。それとセイン姉」

「よろしくディエチ。それとセインお姉様」

「あたしはついでみたいに言うな~~っ!!」

 そんな絶叫が訓練場に響き渡るのだった……



おまけ

「いい湯だ~」

 真司は男湯でノンビリしていた。結局広さは希望通りではなく、大人五人ぐらいが入れるものになってしまったが、これぐらいならいいかと真司は納得した。ジェイルとも共に入り、ここで語り合った事も何度かあった。

「真司兄、いる~?」

「? セインか。何だ~?」

 突然外からセインの声が聞こえてきた。それにいつもの背中流しかと思いながら、用件を尋ねる真司。それにセインは背中を流しに来たと答え、真司は納得。少し待てと声を掛けた。
 仕方ないなと思いつつ、湯船から出てタオルを前につけ直し、いいぞと言って呼び入れたのだが……

「お、お邪魔します、真司兄様……」

「あ、兄貴……背中、流すから」

「あっれ~、にぃにぃ、結構貧弱ッスね~」

「あの、お兄様……どうかされたんですか?」

 入って来たのは、オットー達四人。セインはどこにもいない。しかも、四人はタオルで隠してはいるが、ノーヴェやディードなどはある意味隠れきってない。オットーは何とか。ウェンディは隠す気が無いのか、大胆にもタオルを頭に乗せている。
 真司はそんな光景にふるふると震え、拳を握る。それに不思議そうな表情のディード。オットーやノーヴェもその声に気付き、真司を見つめる。ウェンディは何となく察しがついたのか、耳を塞いでいる。

「セイ~~~ンっ!!」

「やっぱそうなるよね!」

 真司の怒声を聞いて、セインは慌てて逃げ出した。それを追おうとする真司だったが、その腕をウェンディとノーヴェが掴む。

「まぁ、いいじゃないッスか」

「背中……流すから」

 四人には、セインがこう言ったのだ。自分を含め、真司が来てから起動した者は、誠意を込めて背中を流すのが通例だと。無論、それは嘘なのだが、念のためにセッテに聞いたところ、確かにセッテも背中を流したらしい。
 よって、四人は大なり小なり恥ずかしがりながら、ここに来たのだ。まぁ、ウェンディ辺りは気付いているようにも見えるが。

「結局こうなるのか……」

 そう呟く真司。その背中をノーヴェが、両腕をオットーとディードが、ウェンディが頭を洗うという事態になったとさ。

最早言うまでもなく、セインは姉妹全員からお仕置きを受ける。肉体的ではなく、精神的なものを。そう、一週間栄養食の刑。
それは、目覚めてからずっと真司の食事を食べていたセインにとって、まさしく地獄だった……




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続き。四人の中で、唯一改造人間の悲哀を持つ光太郎。自動人形は、彼にとっては複雑な存在でしょう。

一方、翔一の癒しに擦れていないティアナも色々と感化され、原作通りの進路を決めます。

真司は、やっと全員お目覚め。今後は、人数多くて大変です。空白期も後少しかな?



[22476] Masked Rider in Nanoha 空白期6
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/12/06 07:21
「ありがとう。後は自分で何とかするから」

「でも……」

「フェイトちゃんにも仕事があるんだろ? 俺の事は気にしなくていいから」

 光太郎の言葉にフェイトは少し申し訳なさそうに頭を下げ、自分の電話番号を書いた紙を渡した。困ったり、何かあった時はここに連絡してほしいと告げて。それに光太郎は嬉しそうに頷いて、それを大事そうに懐にしまう。
 そしてフェイトに別れを告げ、光太郎は一人ミッドの街へと歩いて行く。捜すのは、フェイトから教えてもらって住所。自分が助けた少女の事で確認したい事がある。そう言って調べてもらったのだ。
 そしてそれは比較的簡単に分かった。少女達の親が管理局員で、しかもあの現場の指揮をしてくれた者の娘だったからだ。こうして、光太郎は一路ナカジマ家を目指すのだった。

(もし、本当に彼女達の両親がすずかちゃんと同じ一族なら、色々と話がし易いんだが)

 光太郎はそう考えながらミッドを歩いていく。ミッド西部、エルセア。そこで待つのは、新たな出会いと戦いのキッカケ……



 光太郎がミッドで動き出した頃、五代は翠屋で働いていた。そう、以前から、彼はただ月村家で世話になるのが嫌で、こうしてたまに翠屋を手伝うバイトでもあったのだ。再会した士郎や桃子は、五代が以前とまったく変わらない事にさして驚きもせず、帰ってきた事をただ喜んでくれた。
 それに五代も喜び、美由希にはファリン達をあまり泣かさないようにとからかわれ、五代はそれに苦笑した。

「士郎さん、五番さんにブルマンとキリマンを一つずつです」

「分かった」

「桃子さん、三番さんがショコラ追加です」

「は~い」

 現在、忙しなく働く五代の姿が翠屋にあった。そんな忙しさの中でも、五代に浮かぶのは笑顔。だが、それもたまに何かを思い出すような表情に変わるのだが。

(おやっさんとか奈々ちゃんとか、今どうしてるんだろ? 元気……だよなぁ~)

 オリエンタルな味と香りが自慢のポレポレ。そこのマスターで、飄々としている飾玉三郎の姿と、その姪の朝比奈奈々の二人の笑顔を思い出し、五代は一人納得しながら頷く。
 そして、再び意識を仕事へ戻す。そこへ来店を告げるベルの音が聞こえ、五代は入口の方へ振り向いて大きな声で言った。

「いらっしゃいませ~!」



 道行く人に尋ねながら、光太郎はやっとナカジマ家に到着した。一見すると日本家屋にも近い雰囲気がある建物で、何でもここの主人が管理外である地球出身の子孫らしく、この家もその先祖の故郷の住宅をイメージしているとか。
 この辺じゃ有名だと道を聞いた婦人は笑って教えてくれたのだ。

 光太郎は気を取り直し、呼び鈴を押す。歩いてみて気付いたのだが、ミッドもあまり地球と光景に大差がなかったのだ。技術面ではかなり先を歩いているようだが、生活面などは光太郎が知る範囲のものばかりだった。
 その地球との違いや共通点などを感じながら歩いた事で、光太郎としては少しではあるが、ミッドに親しみを感じていた。

『はい?』

「あ、すみません。俺、南光太郎と言います」

 聞こえてきた声は比較的若い女性の声。それに光太郎はギンガの姉辺りかもしれないと思い、思い切ってこう切り出した。
 自動人形の事で話がある、と。それを聞いた瞬間、声の主が息を呑んだのが分かった。だが、光太郎はこう続けた。

「俺は敵じゃありません。ギンガちゃん達をどうこうしたい訳ではないです」

『……ギンガの名前まで知ってるのね。分かりました、どうぞ』

 声の主は光太郎の言葉に感じるものがあったのか、そう言って切った。光太郎は警戒心を与える事になっても、後悔はしていなかった。自動人形という言葉に反応したという事は、相手はやはり夜の一族である可能性が高いからだ。
 それならば、きっと詳しい話が聞ける。すずか達ではどこか曖昧だった自動人形の成り立ち。その技術を使って何をしようとしているのか。それを確かめなければならない。

(……行くか)

「お邪魔します」

 真剣な表情でナカジマ家の玄関のノブを掴む光太郎。だが、そこで一度深呼吸すると、比較的明るい声で中へ入る。そこには、ギンガと同じ色の髪をした女性が立っていた。その隣には、この家の主人と思わしき男性がいる。女性の名はクイント・ナカジマ。男性の名はゲンヤ・ナカジマ。
 そんな二人の視線はどこか険しい。それを感じ取り、光太郎は小さく頭を下げる。それにゲンヤは光太郎に対する印象を少し変えたのか、やや表情を和らげる。

「……ま、上がってくれや」

「はい。お邪魔します」

「……どうぞ」

 ゲンヤの言葉に光太郎が返事を返し、クイントがそんな光太郎をリビングへ案内する。そこには二人の少女がいた。その一人を見て、光太郎は表情を少しだけ綻ばせる。ギンガが妹であるスバルとお菓子を食べながら話していたからだ。
 そんな光太郎の表情に気付き、夫婦は共に光太郎に対する認識をもう一度改める。そこで二人に光太郎は簡単に自己紹介をした。自分はゲンヤに世話になった者だと言って。それに二人は頷いた。そして、クイントがスバル達にこれから大切な話をするから、そこで大人しく遊んでなさいと告げると、それに揃って返事を返し、二人は三人から離れていく、
 そんな二人の素直さに笑みを見せる三人。そして、ゲンヤが光太郎へ声を掛け、テーブルに着く。

「……で、自動人形って言ったわね」

「はい。実は、俺の知り合いにいるんです。そう呼ばれる人が」

 光太郎の発言に夫婦は揃って驚いた。それを見て、光太郎は月村家の事を話す。無論、吸血一族という辺りの話はせずに。彼らの先祖が自動人形を作り、その残りが今もその家で暮らしている。そこで、彼らは家族として、人として平和に過ごしているのだ。
 そう言って光太郎は視線を少し鋭くし、二人を見つめる。それに微かだが二人に緊張が走る。光太郎は抑え目の声で尋ねた。あの子達の体が普通ではない事を知っているのか。そして、それを知っているとして貴方達はどう思っているのか。それを答えて欲しいと告げた。

 その言葉を聞き、二人は光太郎がどんな思いでここに来たのかを悟った。彼はスバル達の事を心から心配しているのだ。ちゃんと人として扱ってもらっているのか。またそう思ってもらえているのか。
 それは、光太郎がどうギンガ達の事を考えているのかが良く分かる言葉だった。故に二人はまず揃って謝った。気を悪くさせてすまなかったと。
 ギンガ達を利用もしくは奪いに来た犯罪者の一人かと思った。そう二人は言った。それに光太郎は少し慌てた。二人はそんな彼に自分達が管理局員で、二人の親として暮らしている事を告げた。更にクイントもゲンヤも、二人を本当の娘だと思っていると断言したのだ。

「……つまり貴方達は、偶然ギンガちゃん達と知り合ったと」

「ええ。だからあの子達を作った存在は、未だにどこかに」

 そして、話は出会いへと移り、クイントの告げた言葉に光太郎はその拳を握り締める。今もどこかにギンガ達を作り出した存在がいる。もしかしたら、またギンガ達のような苦しみを背負った命を生み出しているかもしれない。そう思ったのだ。

「……分かりました。俺はその存在を追ってみます」

「ちょっと、私達でもまだ……」

 光太郎に反論しようとするクイントをゲンヤが止め、視線を光太郎へ向ける。その目は光太郎に聞きたい事があると告げていた。

「お前さん、どうしてギンガが自動人形だって分かった。それに、いつどこで会ったんだ」

 ゲンヤの問いかけはもっともだった。さっき光太郎と出会った際、ギンガは知っている相手を見た様子ではなかった。とすれば、光太郎がどこでギンガと出会い、またどこでその異常性に気付けたのか。それを知りたかったのだ。
 そのゲンヤの質問に、光太郎は言いよどむ。だが、それでも言わねばならない。そう決意し、光太郎は告げた。

「俺も……実は、少し普通じゃないんです。会ったのは昨日。そこでギンガちゃんがそういう存在だって分かったんです」

 光太郎の答えに不思議そうな表情を浮かべる二人。それを見て、光太郎はこう続けた。仮面ライダーと言う名を聞いて下さい。その名をギンガに尋ねてみれば分かると。その言葉に驚愕の表情を浮かべる二人。
 実は二人は、娘達から仮面ライダーの話を聞かされていた。それぞれを助けてくれた異形の存在。その話を二人は信じる事にしたのだ。娘達が嘘をつく事など滅多にない。故に信じたのだ。そんな二人を置いて、光太郎は逃げ出すようにナカジマ家を後にした。
 光太郎の告げた一言の衝撃。それから脱したクイントが光太郎を追い駆けたが、既に光太郎の姿はどこにも見えなくなっていた。

 一方、ゲンヤはリビングに残ってお茶を飲んでいた。その視線は、未だに仲良く話している二人へ向けられている。光太郎の言った自動人形。それは戦闘機人を追い駆けている最中に出てきた名称だったのだ。
 戦闘機人が過去に呼ばれていた名称。故に二人は光太郎と会う気になったのだ。そして、会ってみて分かった事実。戦闘機人は地球で生まれた可能性があるとの事。それを考えると、その地球出身の子孫である自分が、二人の親をしているこの現状に、奇妙な縁みたいなものをゲンヤは感じていた。

「……まさか俺の先祖がその一族って事はねえよな」

 考えて馬鹿らしいと笑うゲンヤ。そこへギンガとスバルが歩いてきた。どうやら話が終わったのを理解し、こちらに来たようだった。

「ね、お父さん。さっきの人とどんなお話してたの?」

「してたの?」

「うん? そうだなぁ……」

 二人の娘の問いかけにゲンヤは少し考え、小さく笑みを見せてこう言った。

―――あの兄ちゃんは正義のヒーローでな。かなり悪い奴がいるんだって話してたのさ。



ナカジマ夫妻から話を聞いた光太郎は、フェイトへ早速連絡し、アクロバッター達がどこにいるかを聞きだした。
彼はそれからミッドの街を駆け抜ける疾風となる。そしてこの日から、ミッドの裏社会に一つの噂話が囁かれるようになった。
次々と裏組織を潰しながら、とある事を聞いて回る青いバイクの黒い怪物がいると。

その名は、仮面ライダー。





 ティアナは翔一の背にしがみ付きながら、全身に感じる風を心地良く思っていた。そう、今ティアナは、翔一が運転するビートチェイサーに乗せてもらっているのだ。
 キッカケは、ティアナがビートチェイサーを動かしてみたいと言った事。だが、免許のないティアナに動かさせる訳にはいかないと翔一が言って、こうなったのだ。

「どう? ティアナちゃん」

「最高っ! 速いのね、バイクって」

「うん。でも、これはもっとスピード出るだろうなぁ」

 翔一の問いかけに嬉しそうに答えるティアナ。それを聞いて翔一も頷くのだが、彼は感覚でビートチェイサーの全速力は、こんなものではないと思っていた。だが、それを出すためには変身しなければ無理だとも思っている。
 だから翔一は後半は小さな声で言ったのだ。ティアナは何を言ったかは分からなかったが、何か言った事だけは聞こえたのだろう。翔一に大きな声でこう尋ねた。

「何か言った~?」

「何でもない。さ、もう少し飛ばすから、しっかり掴まって!」

「オッケー!」

 翔一の声に反応し、ティアナはより強く翔一の腰に回した腕に力を込める。それを感じ、翔一はアクセルを解き放つ。それに応え、ビートチェイサーは速度を上げる。こうして、二人の初めての遠出は始まった……



「う~ん……初めてだったけど、バイクっていいなぁ」

「気持ちは分かるなぁ。俺も、初めて乗った時の事忘れてないから」

 二人がいるのは、ちょっとした公園。といっても街中ではなく、郊外の人気があまりない場所だ。エルセアの端の方。そんな表現がぴったりくるような所だったから。
 そこで二人は一度休憩を兼ねて飲み物を飲んでいた。自販機で買った物で、ティアナの奢りである。まぁ、翔一がミッドの通貨を持っていないので当然と言えば当然だが。

「決めた。アタシ、バイクの免許取る」

「そっか。じゃ、取れたら教えてよ。一緒にツーリング行こう」

「勿論! あ、じゃそうなったらアタシもそれ乗っていい?」

 ティアナの言葉に翔一は頷きそうになるが、少し考えた。そして、やや申し訳なさそうに告げる。五代が見つかってこれを返したら無理だから、その時は諦めて欲しいと。
 それにティアナは分かってると頷いて、ビートチェイサーを眺める。黒い車体に赤いライト。そして、ヘッド部分に描かれたクウガのマーク。どこからどう見ても、個人の趣味にしては仰々しい気がするのだ。

 翔一はティアナが眺める様子を見て、苦笑した。自分も最初同じようなものだったのだ。出来れば、最初のような色に変えたいのだが、残念ながら翔一はその操作を覚えてなかったのだ。
 故に、今も本来のままのビートチェイサーだったりする。まぁ、これがミッドでも有名なバイクになるのはもっと先の話なので、今はこのままでも大して問題にはならない。
 ちなみに、有名になった後、ミッドのバイクメーカーは三台のバイクに影響を受ける。黒いボディのもの、金と赤を基調としたもの、青いボディのものの三つに。

「にしても……五代さんって凄い人なのね」

「ん?」

「だって、翔一さんだってアタシからすれば十分凄いのに、その翔一さんが凄いって言うんだから」

「俺、凄いかなぁ……?」

 ティアナの言う自分の凄さがあまり実感出来ず、首を傾げる翔一。それにティアナは少し楽しそうに笑って、凄いのは翔一のそういう所だと告げた。いくらミッドとかの知識があるとはいえ、自分がいた世界と違う場所に来て、自然体でいられる。それが凄い事だと。
 それを聞いて、翔一は納得した。言われて確かにそうなのかもしれないと思ったのだ。そして、それはきっと自分のこれまでが関係していると判断していた。

 記憶喪失してから今まで、行く先行く先知らない事だらけだったのだ。そんな環境でも、自分を支えてくれる人達と出会い、こうして生きていける。それがきっと自分がどこでもいつでも自然体でいられる要因。
 そう翔一は思い、ティアナへそう告げた。それを聞き、ティアナは余計笑いながら答えた。そういうところなんだと、心から嬉しそうに。

「ふふっ……あ~、翔一さんって凄いよね。アタシ、翔一さんみたいに考えられるようにしてみるわ」

「別に、ティアナちゃんはティアナちゃんの考え方をしてくれれば」

「だから、アタシが、アタシなりの、翔一さんみたいな考え方を目指すの」

―――分かった?

 そう言ってティアナは笑みを見せる。それに翔一も頷き、手にした空き缶をゴミ箱へ向かって投げる。それが綺麗に入り、ティアナが感心したような声を出す。そして、負けじと残りを飲み干し、ゴミ箱へ空き缶を投げたのだが、少し逸れてしまい、外れてしまった。
 それを悔しそうに見つめ、ティアナは空き缶を取りに行き、もう一度翔一の隣へ戻ってくる。それに首を傾げる翔一だったが、ティアナがもう一度ゴミ箱へそれを投げるのを見て、苦笑した。

 今度は見事に入り、思わずガッツポーズのティアナ。それに微笑みを浮かべ翔一がサムズアップ。それに気付き、やや照れながらも、ティアナもサムズアップを返す。

「じゃあ、そろそろ行こうか」

「そうね」

 二人して笑顔を浮かべ、ヘルメットを被る。そして、翔一の背にもたれかかるようにし、腰にしっかりと腕を回すティアナ。
 それを確認し、翔一はエンジンを始動させるボタンを押す。唸りを上げるエンジン音を聞き、翔一はアクセルを開ける。その独特の駆動音を響かせながら、ビートチェイサーは走り出す。



こうして、二人は日が暮れるまで走り回り、楽しい一日を過ごす。これがキッカケで、ティアナは訓練校卒業と同時にバイクの免許を取るのだ。
ちなみに、この事を後に知った某部隊長が、翔一へ浮気者と怒鳴ったとか怒鳴らなかったとか……



 横たわる蓮。手渡されるナイトのデッキ。それを受け取り、意を決して変身する自分。サバイブを使い、ファイナルベントを発動させ、そのまま戦いの元凶へと向かっていく自分。そして……

「……この夢か……久しぶりだな……」

 真司は誰にもなくそう呟く。極稀に見る夢。その複数ある内の一つ。それがこれだった。残りもあまり良い物ではないが、一つだけ共通しているのは、結末に救いがない事だけだ。
 戦いを止めようとして戦い、結局無事に戦いを止められた事がない。いや、夢の中にあるにはあった。でも、それが真司の望んだ平和かと問われれば違うと真司は言うだろう。

(何でだ? 何でこんな夢見るんだ、俺)

 未だに分からない事がある。そもそも真司には、”どうしてここにいた”のか分からないのだ。そう、何が原因でここに来たのかも。ジェイルに聞かれた際、真司はこう答えたのだ。

―――気がついたらここにいた。

 それは紛れもない事実。だが、と真司は考える。何故自分はここに来たのだろう。そして、ライダーバトルの事を考えると、どうしても頭が痛くなるのだ。ライダー達それぞれを思い出せそうで思い出せない。ナイトやゾルダなどの係わり合いが多かった相手は思い出せる。でも、金色の鳥のような格好のライダーだけどうしてもおぼろげにしか覚えていない。そんな風に記憶が混乱しているのだ。

「駄目だ。顔洗って頭をすっきりさせるか」

 そう呟いて、真司は部屋を後にする。彼が寝ていたベッドの枕には、不思議な事に髪の毛一本として落ちていなかった……



 改装が終わったラボ。そのキッチンで忙しく動き回るのは、チンクとディエチ、それにノーヴェ。それと違ってのんびりとしているのがセインとウェンディだ。そこから離れた場所では、真司がディードに米の研ぎ方のコツを教えている。
 真司が来て五年以上が経ち、ラボも大分様変わりした。まず居住性の向上、次に食生活の変化、最後に規則正しい時間の過ごし方。その全てに真司の影響がある。

 居住性は今回の改装が一番の例だし、食生活の変化も語るまでもない。そして、規則正しい時間の過ごし方は、遅くとも朝七時には起床。三十分までに洗面などを終え、食卓へ。そして、当番制で決まっている割り当てに沿って各自が洗濯や掃除などをする。
 正午になったら食卓に着き、昼食を取る。そして、三時にはおやつを用意して真司が食堂で待っているので、食べたい者はそこへ来る事。夕食は七時に取り、事情があって遅くなったり食べれない場合は、事前に真司へ言うと夜食が差し入れられる。
 そして、就寝は遅くとも日付が変わるまでにする事。仕事などで夜更かしする場合、真司に言えば簡単な差し入れが期待出来るので、お早めに。

 そんな感じなのだ。ちなみに、夜食はおにぎりと味噌汁という定番中の定番。具は梅干かおかかで、ジェイルは梅干派でウーノとクアットロはおかか派だったりする。

「よし……。ノーヴェ、ウェンディ、それを並べてくれ」

「「了解(ッス)」」

「セイン、こっちは終わったよ」

「オッケー!」

 真司から食事を任されるまでになった二人の指示で動くお手伝い三人。全員色違いのエプロンを着けているのが微笑ましい。真司がディードに米を研がせているのは、今日の夕食用の準備だったりする。
 今日は、少々米が多くいるのだ。何せ今日の夕食は、真司が教えたある物を全員で食べるからだ。

「で、水を切って……のの字を書くように……」

「こう……ですか?」

「そうそう。ディードは筋が良いなぁ。ディエチもだけど良いお嫁さんになるよ」

「お嫁さん……私が……」

 真司の言葉に少し驚いたような反応を見せるディードだったが、すぐに微笑みを浮かべる。そしてその視線を真司へ向け、尋ねる。本当になれるでしょうかと。それに真司も力強く頷いて太鼓判を押す。
 この調子で覚えていけば、貰い手が多すぎて困るぐらいになると。それにディードは嬉しそうに笑い、こう言った。

「でも私は、一人から必要とされればいいのです」

「そっか。確かに好きな人は一人だよな」

 真司の言葉にやや照れるように小さく頷くディード。そんなディードの反応に真司は微笑ましいものを感じ、笑顔を見せる。そんなやり取りを遠目から眺め、不満そうな表情をする者が三人。
 セイン、チンク、ディエチだ。まぁ、ディエチはあからさまではなく少しだが、残りの二人は違う。その表情は不機嫌そのもの。料理を並べて帰って来た二人が思わず声を掛けるのを躊躇うぐらいに。

(真司兄、あたしにそう言ってくれた事ないよね? 何でさ!)

(真司、お前は私にはそう言わなかったぞ。どういう事だ!)

(真司兄さん……やっぱり優しいな。でも、最近私には教えてくれなくなったよね……)

 思い思いに考え、真司達に視線を送る三人を見て、ノーヴェとウェンディは互いに顔を見合わせる。

「どうするッス?」

「いや、どうするって言ったって……」

 指示がもらえなくなった二人は、仕方なく残りの料理も運ぶ事にし、キッチンを後にする。その後も真司はディードへ熱心に指導し、三人の心を乱しに乱すのだった……



 楽しい食事。それが四人が目覚めてからは余計に賑やかになった。ウェンディが一番の原因だろうが、ノーヴェがそれに噛み付くから更にだろう。オットーやディードは騒ぎこそしないが、雰囲気的にはディエチに近いのだろうか、そんな二人を諌めたりする事が多い。
 話題を作るもしくは振るのはセイン、ウェンディ、真司。話題を広げるまたは変えるのがウーノ、クアットロ、チンク。相槌を打つ或いは完全に無視するのがトーレ、セッテ、ジェイル。基本静観だが、場合によって口を出すのがオットー、ディエチ、ディード。そして、それら全ての要素を発揮するのがノーヴェである。

 この日の話題は、食事中にも関わらず夕食に関係する事だった。というのも、そのためにこの後買い物へ出かける事になっていたからだ。しかも、全員で。ジェイルは変装するが、おそらく見つからないだろうから必要ないと言っていた。
 理由は固定概念によるもの。広域次元犯罪者である自分が、堂々と昼間のミッドを歩いているなんて思わないだろうし、もし見つかってもジェイルは構わないと言ってのけた。どうせ、自分は捕まったとしても逃がされるだろうからと。
 その意味が分かる者はウーノとクアットロだけ。残りの者はどこか納得出来ない表情を浮かべていた。

「にしても、この機会に服とかを買いたいとはねぇ」

「俺のじゃないぞ。みんなだよ、みんな。女の子なのに洋服も持ってないなんて可哀想だろ」

 そう、買うのは夕食用の食材だけではない。ナンバーズ全員の普段着を買う事も兼ねているのだ。女性でありながら着る物が全身タイツのような物しかない。ウーノはまたスーツのようなものがあるが、それだけだ。
 真司としても、もっとみんなに女性らしい格好をして欲しかった。トーレは嫌がったが、真司が絶対似合うからと力説し、参加させる事に成功したのだから。

「それにアクセサリーとかも見せてやりたいし、そもそも街を知らないんだからさ」

「分かった分かった。で、今更なんだが……」

 ジェイルの口調に疑問符を浮かべる真司。一体何が今更なのか分からないからだ。ジェイルはそんな真司にこう尋ねた。ミッドに行く彼女達の服装はどうするのかと言う事。それに真司はしばらく硬直し、こう叫んだ。

「忘れてたぁぁぁぁっ!!」

 ちなみにその辺りは、ジェイルが前もって用意させていた潜入用(実際は必要ないと考えていたが)のTシャツやジーンズで何とかする事になった。真司はそれを聞いて安堵の息を吐いたが、全員からもう少し考えろと言われ、少し凹んだのはここだけの話。



 こうして、総勢十三名の団体行動となったのだが、ほとんどが初めての大都会に視線をキョロキョロし、お上りさん状態。真司は想像していたよりも、ミッドの規模が大きくやや面食らったが、東京の進化版と思い直し、何とか平静を取り戻した。
 ウーノやジェイルは普段通り。トーレやクアットロはやや人の多さに閉口していたが、チンクが妹達の抑え役として苦戦しているのに気付き、そのフォローへ回った。
 セインはウェンディと二人であれこれを指差し楽しそうだし、セッテはディエチと高層ビルばかりの街並みに感心し、オットーとディードは行き交う人の数に驚き、大都会というものを感じていたし、ノーヴェはチンクにどういう服を買えばいいかを聞いて困らせていた。

 そんな真司達に声を掛ける者がいた。それに全員が視線を向ける。そこにいたのは、管理局の制服を着た女性。だが、その顔に真司は見覚えがあった。

「ドゥーエさん?」

「そう。久しぶりね、真司君。後、ドクター達も元気そうで」

「本当に来れたの?」

 ウーノの驚いたような言葉にドゥーエは頷き、無理矢理に休みを取ったと悪戯めいた笑みを浮かべる。そう、ウーノが連絡しておいたのだ。全員でミッドに出かけると。どうも、それを聞いて、本当に休みを取って会いに来たらしい。
 そんなドゥーエにウーノやクアットロが相変わらずだと言って笑う。トーレやチンクも笑みを見せ、ジェイルは嬉しそうに笑っていた。
 だが、セイン以下の妹達はどこか居場所がなさそうだった。それに気付いた真司が全員に説明した。ドゥーエはナンバー2で、お姉さんに当たる存在だと。それを聞いてやっとセイン達も理解したようで、笑顔を浮かべてドゥーエに近付いた。

「ドゥーエさん、こいつがセインです。で、セッテ、オットー、ノーヴェ、ディエチ、ウェンディ、ディードです」

 真司の紹介に合わせ、それぞれが簡単に頭を下げ笑みを見せる。それを眺め、ドゥーエも嬉しそうに笑顔を見せた。そして、当初の計画と違い、この時点で妹達が全員稼動している事に疑問を浮かべた。
 それに気付き、ジェイルが簡単に事情を話し、ドゥーエはそれに唖然となった。真司と関わり、ジェイルは計画を大幅に変更し、管理局へのクーデター紛いの襲撃を止め、どこかで平和に暮らそうと考えたと。
 ドゥーエの潜入も最早あまり意味がないから、戻って来てくれても構わない。そう言ってのけたのだから。

「……どうしてもっと早く教えてくれなかったんですか」

「いや、ごめんごめん。つい、ね……」

「ついって……は~、もういいです。じゃ、私もラボに戻ろうかしら」

 ジェイルの能天気さに呆れながらも、ドゥーエはどこか楽しそうに言った。それにウーノやクアットロも嬉しそうに頷き、歓迎した。一方、真司達はある程度の人数に分かれて行動するべきと結論を出していた。
 このままでは多すぎて色々と不便だし、何より目立つ。だから精々三人程度で行動する方がいいとの意見が多かったのだ。

「じゃ、ウーノさん、ドゥーエさん、クアットロ、チンクちゃんがそれぞれの纏め役って事で」

「そうだな。私よりもクアットロやチンクの方が適任だろう」

 真司の人選にトーレも納得した。服を選んだり意見を述べたりなどは、自分よりも妹の方が向いていると思ったのだ。
 ジェイルは真司と共に日用品関係を見に行く事になり、こうしてナンバーズは三人ずつで分かれた。ウーノは、トーレ、セッテと。ドゥーエは、オットー、ディードと。クアットロは、セイン、ディエチと。チンクは、ノーヴェ、ウェンディと。

「じゃ、二時間後にここで集合だね」

 ジャイルの言葉に全員が頷き、それぞれ行動を開始する。向かう先はバラバラ。ウーノやドゥーエは大人な雰囲気漂う服が多めの店へ。クアットロはお手軽な感じの雰囲気の店。チンクは、やや可愛い系の店へと。
 真司はそんな四組を眺め、個性が出るなぁと感じながらジェイルと共に調理器具などを見るべく、歩いていくのだった……



 衣服の買い物は、それなりに時間は掛かったが、十二人共それなりに気に入った物を買えた。トーレやチンクといった者達は、似合わないと言って拒否した事もあったが、それも含めて楽しい時間を過ごしていた。
 問題は、その後。そう、下着である。サイズに関して、チンクが妹二人に圧倒的戦力差で敗北すれば、楽しげに試着するクアットロに、妹二人はやや呆れ気味。ドゥーエが選ぶ際どい物を、どこか躊躇いながらも着けるディードと、それを見て、どこか寂しそうに自分の胸を触るオットー。
 ウーノは、トーレとセッテがあまりに色気が無さ過ぎる物を選ぶので、無理矢理派手な物を何点か買わせるといった強権発動するなど、色々な出来事があった。

 女性陣がそんな風に賑やかにしている頃、真司はジェイルと待ち合わせ場所近くの喫茶店でのんびりしていた。色々と欲しい物も買い、真司としては大満足なのだが、まだ買い物は終わっていないのだ。
 そう、最後に夕食用の買い物が残っている。それを終わらせなければ、今日の目的は果たせないのだ。

「ねぇ真司」

「ん?」

 夕食用に買う物を考えていた真司だったが、ジェイルの問いかけに意識を切り替える。ジェイルはそんな真司を見ず、外の景色をただ眺めている。その目は、気のせいかどこか遠くを見ているようにも見えた。

「このまま僕らと一緒に暮らさないかい?」

「……ジェイルさん」

「君のいた世界がどこかはまだ分からない。でも、君がそこに戻ればまた戦う事になる。君の嫌うライダーバトルを……」

 真司はジェイルの言葉に黙った。確かに自分が元居た世界へ戻る事は、そういう事だ。モンスターではなく、ライダー同士の戦い。それは、言うなれば殺し合いだ。たった一人になるまで戦う。
 それがもたらすものは、何でも願いを叶える力。真司にそれは必要ない。欲がない訳ではない。でも、真司は誰かを犠牲にしてでも叶えたい願いなどないのだ。いや、違う。誰かを犠牲にして叶える願いなど間違っていると真司は考えている。

「ありがとう、ジェイルさん。でも俺さ、決めたんだ。ライダー同士の戦いを止めさせるって。そのために、俺は……戦うよ。ライダーとじゃない……そのライダーバトルそのものと」

「真司……君は……」

「分かってる。それがどれだけ無理な事かなんて。でも、決めたんだ。俺は、仮面ライダーとして、ライダーと戦うんじゃない。仮面ライダーとして、ライダーを戦わせる全てと戦うんだ」

 真司の言葉にジェイルは言葉を失った。それは、真司の発言がいつもからは想像もつかない程、穏やかで力強く、そして希望に溢れたものだったからだ。そして真司は呆然となるジェイルに、こう言い切った。

―――ライダー同士で殺し合うなんて悪夢は、俺が終わらせる。

 その言葉に、ジェイルは真司の強さを見た気がした。どう考えても、不可能に近い事。それを真司は躊躇う事無くやってみせると断言した。誰かじゃなく、自分が悪夢いまを変える。それは、ジェイルが気付いた事に通じるものがあった。
 不可能であろうと、躊躇わない勇気。それが真司にはある。絶望しか待っていない道だとしても、きっと真司は望みを捨てないだろうと。そうジェイルは確信した。
 希望は、生命ある者に与えられた力。つまりは、いのちそのものだ。真司は、それを悟らせる人間だ。そうジェイルは思ったのだ。

(私のような名を与えるなら、彼は……アンリミテッド・ライフかな?)

 そんな事を考え、ジェイルは決心する。もう必要ないと放棄していた龍騎のための力。それを完成させようと。戦いに赴く真司に、少しでも役に立ててもらえるように。
 そんな決意を聞かされたジェイルは、これから一層ライダーシステムの解析や開発へと専念する。それが完成した時、龍騎は新たな力を手に入れるのだ……



 ナンバーズと合流し、食料品を買い込んで意気揚々と帰宅した真司達。ドゥーエは色々と手続きなどがあるので、一端別れたが、夕食時には戻ってくると言っていたので、真司としては期せずしてお祝いとなって喜んでいた。
 というのも、今日の夕食は……

「さ、じゃあみんな手伝ってくれよ!」

 真司の号令でそれぞれが動き出す。買ってきた魚や貝などを下拵えする真司。その手伝いをディエチとディードが。厚焼き玉子を任され、チンクとセインは真剣な表情。酢飯作りを任されたのは、クアットロにノーヴェとセッテ、そしてトーレ。酢の匂いに多少むせながらも、二人一組になって、懸命に与えられた仕事をこなそうとする四人。
 残されたウーノ、オットー、ウェンディは場所のセッティング。真司から広い場所にしないと食べ辛いと言われたのだ。ジェイルは一人研究室で仕事をしていた。本当なら皆と同じように手伝いたかったのだが、仕事を片付ける方が先と真司に言われ、仕方なくそうしていた。

 やがて準備も終わりそうなところで、ドゥーエが現れた。管理局を止め、痕跡も綺麗に消してきたそうで、今後はずっとここにいると告げると、妹達から嬉しそうな声が上がった。
 真司も嬉しそうに頷き、今日はドゥーエの帰宅記念のお祝いだからと告げた。それに疑問符を浮かべるドゥーエだったが、それは食堂へ案内されて払拭された。

「今日は、手巻き寿司でパーティーだ。あ、でもあまり多く載せるなよ。零れたり崩れたりするからな」

 そして、真司がお手本と言って海苔に適度な量の酢飯を盛り、そこにきゅうりやマグロといった物を載せて巻く。そして、それに醤油を少量たらし、口に入れた。
 それを見て、セインやウェンディ、ノーヴェなどがマネして作り始める。負けじとチンクやクアットロも動き出し、オットーやディード、ディエチも一緒になって作り始める。トーレとセッテはやや苦笑しつつ、海苔を片手にあれこれ載せるものを物色する。
 そんな光景を見て、ドゥーエは呆然となるが、ウーノとジェイルが近付き微笑みながら告げた。これが今の自分達だと。

「……そうですか。私がいない間に大きく変わったのね」

「気に入らない?」

「どうして? 妹達があんなに楽しそうなのに。私も楽しむ事にするわ」

 そうウインクと共に告げ、ドゥーエは真司の傍へと向かい、何が一番美味しいかを尋ね始める。そんなドゥーエを見て、ジェイルとウーノは小さく笑う。真司に感化されるのに、時間は関係ないのかと思ったからだ。
 現に、ドゥーエも楽しそうに妹達と食事を楽しんでいる。その顔は正真正銘の笑顔。そして、そんな二人も賑やかにしている真司達の輪の中へと入っていく。

「これ、これ美味しいよチンク姉!」

「そうか? なら……」

「いや、こっちッス!」

「おい、チンク姉が困るだろ。セイン姉もウェンディも程々にしろよ」

「シンちゃ~ん、これは何?」

「あ、それは穴子って言うんだって。きゅうりと一緒が美味しいらしいよ」

「そうですか。ならディエチ、これは何ですか?」

「セッテ、お前はどれだけ試す気だ……」

「ドゥーエ姉様、これはいかがです?」

「……うん。美味しいわ、ありがとうオットー」

「ドクター、少し載せ過ぎです……」

「いやいや、まだいけるさ」

「いけるか! ああ、もう。だから載せ過ぎるなって言ったのに……」

「真司お兄様、これを使ってください」



楽しくも騒がしい夕食。ついに全員揃ったナンバーズ。運命はまたも変化した。そして、真司にジェイルが付けたアンリミテッド・ライフと言う名の意味。
”果てなき希望”
それが意味する通り、彼はそうなり得るのか……それとも……




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続き。五代は海鳴に滞在し、光太郎は一人悪を追う影となります。翔一はティアナとバイクでデート?です。ティアナのバイク免許は、こうして取得に至る。

真司は、仮面ライダーとしての決意と覚悟。戦いを止めるために戦う。その意志を表明する事が今回のメインでした。

まさかのドゥーエ帰宅。呼び戻すのではなく、普通に買い物に付き合い、そのまま辞職。……でも、まだジェイルさんは忘れてる事があるんですよねぇ……



[22476] Masked Rider in Nanoha 空白期7
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/12/09 08:19
 翠屋での仕事を終わらせ、五代は士郎達に別れの挨拶をし、四人分のシュークリームを購入して月村家への帰路に着いた。
 海鳴の町を歩きながら、ふと五代はある事を思い出し、寄り道をした。その行き先は八神家。無論、五代ははやて達がもう海鳴にいないのを知っている。しかし、翔一との話で聞いたある事を気にしたのだ。

「……やっぱり、誰も住んでないんだ」

 明かりのない元八神家。五代は来た事がなかったが、翔一やヴィータからの話で、どれだけ賑やかで明るい場所だったかは良く知っている。
 外観を一しきり眺めて、五代は視線を家からある場所に移した。それは……

「……枯れ始めてる……か」

 翔一の作った家庭菜園。そこには、おそらく引っ越す前まで世話をし、処分する事が出来なかったであろう、僅かに残った何かが枯れ始めていた。五代はそれを確認するために小声でお邪魔しますと呟き、庭へと入った。
 ゆっくりと近付き、それを確かめる五代。それは、いちごだった。翔一が約束のために用意した物を、ヴィータが苦労しながら育てた物の名残。そう、ヴィータは翔一がいつ戻ってきてもいいように、家庭菜園の世話をしていたのだ。
 それを五代は知らない。だが、何となくその枯れたいちごが寂しそうに見えたので、五代は誰にもなく告げた。

「ゴメン。抜かせてもらうね」

 そう言うと、五代はその枯れたいちごを抜き、その菜園の土の中へ埋めた。この家の思い出は、もうはやて達が持って行った。なら、これははやて達は知らない物だ。だから、枯れたまま朽ちていくのはさせたくない。
 そう思ったからこそ、五代は土に埋めたのだ。ヴィータもそうだった。翔一との思い出残る家を離れる際、この菜園を処分する事が出来ず、泣く泣く処分したのだが、このいちごは種が零れ勝手にここまで育ったのだ。

「……翔一君、どこにいるかな」

 そう呟く五代。彼のその呟きは、皐月の空へ消えた……



 食事を終え、五代が買ってきたシュークリームをお茶菓子に、食後のティータイムを四人で過ごしていると、ふとすずかがこう言い出した。アリサにも会って欲しいと。もう高校生になり、美人になってますよと付け加えて。
 それに五代は苦笑するが、確かにアリサなら美人になっているだろうと思い、肯定の意味で頷いた。更にファリンが学校で一番人気なんですよと言うと、五代は軽く驚いた。ミス聖祥なんだと五代が言うと、すずかが苦笑しつつ頷いた。

「本人はどうでもいいって言ってますけどね」

「アリサちゃんらしいなぁ」

「で、すずかちゃんが惜しくも二番です」

「ま、性格的には一番人気だろうがな……」

 ファリンとイレインがそう言うと、すずかはやや照れながら紅茶を飲み出した。五代はそんなすずかの反応に笑みを見せる。それに気付き、すずかは益々恥ずかしそうにするのだった。
 そして、その流れで五代がいなかった間の話になり、それを五代は楽しく聞いていたのだが、ふとイレインが思い出したように尋ねたのだ。五代の昔話を聞いてみたいと。それにすずかやファリンも興味があったようで、話してくれるように頼んだ。

「……そうだね。俺、四人家族だったんだけど……」

 そこから始まる五代の話。小学生の楽しい時期に父を亡くした辛い思い出と、恩師との約束やサムズアップの意味などの出来事。そこから中学や高校などの話をし、大学の話へ移り、五代は冒険話になった途端目が一番輝き出した。
 外国での話や訪れた場所に関する知識や思い出。それらを臨場感溢れるように語る五代。それに三人も引き込まれていたのだが、ふと五代の顔が曇った。それは、何度目かの冒険を一休みし、一旦日本へ戻ったと言った瞬間だった。

 まるで、それまで流暢に話していたとは思えない程、五代はぽつりぽつりと話していく。空港で迷子と出会った事や大学に忍び込んで友人の女性に冷たくあしらわれた事などは、まだ幾分か良かった。だが、話が長野の遺跡に行った辺りから、五代はまるで躊躇うかのような表情を見せた。

「……ここからは、クウガの話なんだ」

 五代がそう言うと、三人はそれだけで大体を察した。クウガの話。それは、あの力を使わなければならない状況になったという事。それは、絶対に楽しい事ではない。五代が躊躇う理由はそこにあると、誰もが思った。
 でも、それを止める事はしない。それを決めるのは五代だから。そう三人は考えていた。それを五代も悟ったのだろう。意を決したように話し出す。ただ、残酷な話や聞くに堪えないだろう部分は、意図的にぼかし、一条達を始めとしたクウガになったからこそ出会えた人達との話を中心にして。

 自分に戦う必要はないと告げ、五代が戦う意思を明確に打ち出すようになった後は、全力でそれを支えてくれた一条薫。自分の体を検査し、常に警告と心配をしてくれた五代唯一のかかりつけ医師、椿秀一。クウガや未確認の研究をし、裏で支えてくれた科警研の榎田ひかり。
 自分を未確認として撃った事を謝り、一条に負けない理解者になってくれた杉田守道。同じくクウガを仲間と認め、どこか憧れてさえくれた桜井剛志。中盤からは、誘導や作戦指示などで助けてくれた合同捜査本部の紅一点、笹山望見。

 最後に、ビートチェイサーをクウガへ与える事を上層部に具申し、いつも寛大な配慮と思慮深い決断を下してくれた松倉貞雄。

 それだけではない多くの人達との絆や協力があったから、五代は、クウガは未確認に勝てたと言い切った。自分一人では、守り切れずに死なせてしまったかもしれない人達がいただろうと、そう続けて。

「……俺、良かったと思ってるんだ……クウガになって」

「どうして? だって、五代さんは戦う事は嫌いなんでしょ?」

「……うん。でも、誰かがやらないといけなかった。それに俺が選ばれた。嫌な事もあったし、辛い事もあった。……でもね、だからこそ良かったって、思えるんだ」

―――一条さん達に会えたから。

 五代はそう言って、黙った。それにすずか達も黙る。静寂が訪れる室内。秒針が刻む音だけが響き渡る……。そして、五代ははっきりとすずか達を見つめて告げた。

―――それに、あんな思いをするのが、俺だけで良かったって。

 クウガにもし自分がならなかったら。もし、他の誰かがクウガになっていたのなら。そう考えると、五代は今でも怖くなる。決してうぬぼれではない。自分が一番クウガに相応しいなど考えた事もない。だが、唯一、唯一五代が断言出来る事がある。
 それは、タグバとの決戦。あの時、凄まじき戦士でなければダグバには勝てなかった。自分は、憎しみではなく、みんなの笑顔を守る事だけを考えて変身出来た。それがあの力を制御したんだと、今でも思う。だからこそ、五代は思うのだ。自分で良かったと。
 あんな想いを、感触を、苦しみを、痛みを、哀しみを、空しさを、誰かに押し付ける事なく自分が終わりに出来て。

 得た物は多く、失った物は少ない。でも、五代はクウガの力をもう使いたくはなかった。”変身”。それを二度としないですむようにと、心から願っていたのだから。
 だが、まだ邪眼を倒し切れてない以上、クウガの力は必要とされる。翔一のアギトの力もまた同様に。戦っても、倒しても、どこからか悪は現れる。そう五代の話を聞いた光太郎は悲しそうに言った。それでも、戦い続けるのが仮面ライダーなのだと。

 五代がそれを聞き、尋ねた事がある。それは、光太郎よりも昔から戦っていた先輩ライダーの事。

 終わる事のない戦い。変わらない世界。助けた命が、明日には消えるかもしれない。そんな状況で、自分以外の十一人は諦めずに戦い続けた。戦うためだけの生物兵器。そんな体にされても尚、彼らは人のために戦った。
 五代は光太郎から簡単にではあったが、歴代ライダーの事を聞いた。改造人間。人でありながら、人でなくなった者。それが、仮面ライダーだと言われた瞬間、五代は言葉を失った。

 クウガと同じだと思っていた。何か特殊な力で変身しているのだと。だが、違った。それが本当の彼らの姿なのだ。彼らの多くは望んでいないのに、その力を与えられ、異形の姿に変えられた。理不尽に人を捨てさせられた。
 しかし光太郎は、言葉を失い、悲痛な表情の五代へこう言った。どこまで戦っても変わらないかもしれない。そう思った事もあった。だが、光太郎がある時そんな弱音を漏らすと、最初の仮面ライダー、本郷猛はこう言っていたと。

―――例え未来を変えられなくても、見過ごせない今を救えるのなら……俺は、戦うと決めた。

 それを聞き、光太郎は改めて思ったのだ。仮面ライダーとは、今を救い、未来を守る者だと。例え、未来が変わらないとしても、いつかそれが変わると信じて戦おう。そう心に誓ったのだと。

 五代はそう聞いた時、自分にはそれは無理だと思いかけた。だが、その言葉をよく考えた途端、無理と言えなくなった。
 それは、自分の父が手紙の結びに必ず書いた言葉と、自分の信念に反する事になるからだ。いつか、世界中の人達が笑顔になれますように。それを思い出し、五代は光太郎達がそれを願って戦っている者達だと思い直した。
 そして、自分も仮面ライダーを名乗った以上、簡単に投げ出す事はしたくない。そう、自分は何度も言ってきたのだ。自分はクウガなのだ。なら、必要とされる限り、やってやろう。自分だけが辛い訳じゃない。そう思えるから。どこかで自分と同じように哀しみながらも、拳を振るっている仮面ライダーがいる。そう、今の五代は思えるから。

「……さてと、じゃあそろそろ時間も遅いし、すずかちゃん達もお風呂入って寝た方がいいよ」

「うん。……五代さん」

「何?」

「クウガの五代さんも好きだけど、私はいつもの五代さんが一番好きだから」

 そう言ってすずかははにかむと、少し早足で去って行く。それを呆然と見送る五代とイレイン。ファリンはどこか驚いている。そして、そこから立ち直り五代は小さく呟いた。

「奈々ちゃんと同じ、じゃないよなぁ……」

 それにイレインが反応し、奈々の事を根掘り葉掘り聞かれる事になった五代。ファリンとイレインの二人に詰問されながら、五代は困った顔を浮かべるのだった……



 様々な魔力光が飛び交う空間。それは全て同じ相手へと向かっていく。本来、魔法は全て非殺傷と呼ばれる状態になっていて、それを解除し殺傷設定と呼ばれるものにすると、同じ罪でも途端に罪状が重くなる。
 それ故、余程凶悪な犯罪者でもない限り、設定を変更したりはしないのだが、この魔力弾は全てその殺傷設定であった。数十は軽く超えるそれを、避けもせず、その相手はそれを叩き落し、蹴り飛ばし、それを放つ者達の意識を奪っていく。

「な、何なんだ……一体、お前は何なんだ!?」

 ついに自分一人となった男の問いかけに、眼前の相手は立ち止まり答えた。

「俺は、太陽の子。仮面ライダーBLACKRX」

「か、仮面ライダー? ま、まさか……あの仮面ライダーか!?」

「答えろ。戦闘機人を作り、その技術を知っている者はどこにいる!」

 RXの問いかけに男は首を横に振る。知らない。自分はその技術を欲しがってはいたが、手に入れてはないと。それが嘘の類ではないと判断し、RXは分かったと頷いた。
 そして、近くに落ちているデバイスを拾い上げ、強くある女性の事を思い描きながら告げる。

【フェイトちゃん、ここは完全に制圧した。後の事を頼む】

【分かりました。光太郎さんは一度戻ってください。今後の事も含めて話をしましょう】

 RXは念話を使えない。なので、こうして相手がもっているデバイスを使い、別の場所で待機しているフェイトに連絡するのが常だった。あの後、フェイトに連絡したRXは、アクロバッター達の居場所だけでなく、フェイトの情報も頼りに、戦闘機人に関係ありそうな組織を片っ端から調べていた。
 フェイトでは踏み込む事が出来ない状態でも、RXは関係なく踏み込み、こうして情報を聞き出す。そして、暴れた現場に調査中だったフェイトが気付いたように装い、逮捕する。そんな事を始めて、もう二週間になる。

 フェイト達が来る前に、RXは素早く男を気絶させると、急いで現場を離れる。外に停めてあったアクロバッターに跨り、フェイトが用意してくれている仮住まいに向かう。途中で、貸し倉庫に寄ってアクロバッターを隠し、変身を解くのを忘れずに。
 それは二台を隠してある貸し倉庫からそう離れていない場所にあるデイリーアパート。日雇い労働者用のそこを、フェイトは光太郎のために借りてくれたのだ。

「また情報無しか」

 そう呟いて光太郎は部屋のドアを開けると、そこには一人の女性がいた。眼鏡が特徴の女性で、フェイトの補佐をしているシャリオ・フィニーノだ。

「お帰りなさい光太郎さん。フェイトさんは後十分程で来るそうです」

「そっか。で、シャリオちゃんはそれを伝えるためにわざわざ?」

「そうですよ。本当なら現場に行くはずだったんですけど、フェイトさんがここで念のために待っててって。光太郎さんが、良く念話を途中で切っちゃうからです。でも、意外と物がないですね。驚きました」

 シャーリィはそう言って部屋を見渡す。それに光太郎は苦笑するしかない。何せ、ここには寝に帰るぐらいなのだ。部屋にあるのは、備え付けのベッドと小さな冷蔵庫ぐらい。それも、フェイトがベッドだけじゃ……と言って買ってくれた物。
 しかも、ミッドの通貨を持たない光太郎は、それにいれる物も買えないので、中身の飲み物等もフェイトが用意してくれた物だったりする。光太郎はそこまでしてもらう訳にはと断ったのだが、フェイト達は頑として聞いてくれなかった。
 調査が難航しかねないものを、光太郎は次々と解決に導いてくれているのだからと。そう言われては光太郎も何も言い返せないのだ。

「それで、どうかな。そっちの情報の方は」

「それがあまり。怪しい相手がいるにはいるんですが……」

「ジェイル・スカリエッティ……だね?」

 光太郎の言葉にシャーリィは無言で頷く。広域次元犯罪者で、フェイトが追いかけている相手。おそらく戦闘機人にも関わっている可能性が高いとフェイトは考えていて、光太郎も何度か犯罪者相手に聞いた事があったが、一切情報が入らないのだ。
 無理もないのだ。ジェイルは真司と出会ってからほとんど犯罪行為から手を引いていて、ゼスト隊に情報を渡した後は、最高評議会からの依頼も出来うる限り断っているのだから。

 それを知らない光太郎達は、ジェイルの事を情報隠蔽に長けた相手だと思っていた。そして、少しシャーリィと話していた光太郎だったが、何かフェイトから連絡があったのか、シャーリィが急に立ち上がり、部屋を後にすると言い出した。

「どうしたの?」

「いえ、私は私で色々あるんです。フェイトさん、もう着てるので待っててください」

 じゃあ、また。そう言ってシャーリィは出て行った。それを見送り、光太郎は腑に落ちないものを感じるも、フェイトから今後の事を含めた話を聞かなければと思い、その姿を待った。
 すると、外からフェイトとシャーリィの話し声が聞こえてきた。本人達は聞こえないと思っているのだろうが、改造人間である光太郎の聴覚はそれをはっきりと捉えていたのだ。

「じゃ、後はお二人で」

「しゃ、シャーリィ。いつも言ってるけど、私と光太郎さんはそういう関係じゃないって……」

「ええ。だからこそ二人でどうぞ」

「シャーリィ!」

「私は今日の報告書を作成しますから」

 そう笑って言いながら、シャーリィはフェイトに手を振って去っていく。ご丁寧にフェイトが乗って来た車を使って。これで、フェイトは必然的に光太郎に送ってもらうしかなくなると考えて。
 シャーリィに車を降りて、歩いて行けとフェイトが言えるはずもなく、それを止めずにただ困ったようにそれを見送った。そして、ため息を吐いて光太郎のいる部屋を目指した。そこまで聞いて光太郎は苦笑し、冷蔵庫から缶ジュースを二本取り出す。

「お待たせしました」

 そう言って入ってきたフェイトへ、缶ジュースが投げられる。咄嗟にそれを受け取るフェイト。それを見て、ナイスキャッチと笑顔で誉める光太郎。その笑顔をフェイトは少し嬉しく思いながら、光太郎の前に座った。
 そして、部屋を軽く見回し、どこか苦笑するように呟く。相変わらず殺風景ですねと。それに光太郎も同じような表情で同意し、頷いた。

「まず、今回も無事に終わった事に」

「乾杯……ですね」

 カツンと缶同士を合わせ、音を立てる二人。これも最近の決まり事。無事に終わった事を喜び、祝う。そんな二人だけのささやかな祝宴。
 プルタブを開け、互いに口をつけて飲み始める。フェイトはコーヒー。光太郎はスポーツドリンクだ。基本冷蔵庫に補充されるのは、この二種類。光太郎の好みを知らないフェイトは、自分の義理の兄であるクロノを参考にした。
 故のチョイス。クロノは基本コーヒー。スポーツドリンクは訓練などで失った水分を補充するための物で、クロノが好きという訳ではないのだが、光太郎としてはスポーツドリンクは有難かった。手軽に水分が補充出来るのは、変身して戦う自分にとってはうってつけだったからだ。

「……で、どうしようか」

「……他の管理世界にも怪しい組織はあります。でも、さすがに」

「俺は構わないよ」

「駄目です。今だって、光太郎さんに頼ってばかりですし……」

「でも……」

「それに! ……それに、仮面ライダーの力は、本当は人間同士の事に使う物じゃないはずですから」

 フェイトのその言葉に光太郎は何も言えなかった。ただ、フェイトの思いは嬉しかった。簡単に人外の力に頼るのではなく、自分達で何とかしようと考える。それは、とても尊い想い。仮面ライダーに頼るのではなく、自分達で何とかしようとする心。
 それを人が失わない限り、仮面ライダー達も諦める事なく戦えるだろう。人と自然が調和する世界。真の平和、それが訪れる日まで。

 それからフェイトは光太郎にある事を頼んだ。それは、自分が保護する少年の事。自分は仕事であまり会えないので、有力な情報が手に入るまで、光太郎にその子の相手をして欲しいのだと。
 それを光太郎は喜んで引き受けた。こうして、光太郎はミッドにあるハラオウン家へ居候する事になる。
 そこで出会う少年、エリオ・モンディアル。その出生の秘密とフェイトの生まれが密接に関わっている事を彼が知るのは、これから半年後。とある研究施設へ乗り込む事になった時だった……



「なぁ、翔一さん。あんたの言ってたクロノって、クロノ・ハラオウンか?」

 ある昼下がり。完全オフのティーダは、翔一が作ったナスの油炒めを食べながらそう問いかけた。他にもナスの味噌汁に、マーボーナス。ナスのおひたしが並んでいる。
 その言葉に翔一はそれまでしていた掃除の手を止め、ティーダが告げた名前に、目を見開いて頷いた。

「そうそう! そうです! クロノ・ハラオウンです」

「……やっぱりか。あんた、一体いつ頃に知り合ったんだ?」

「どういう事です?」

 ティーダは翔一へ説明した。クロノはもう一年以上も前から提督に昇進している。故に今まで時間が掛かったのだ。ティーダが念のためと過去の執務官まで当たったおかげで、それが判明したのだから。
 そして、こう続けた。そんな事は知り合いならとっくに知ってるはずだと。そう言われ、翔一は驚いた。自分が知る限り、クロノは執務官だったはずだからだ。そして、何か嫌な予感したのだ。
 それは、五代が自分よりも後から海鳴に現れたのに、自分よりも以前の時代からやってきていた事を思い出したから。だから、クロノの年齢を教えて欲しいと翔一は言った。それに妙なものを感じるものの、ティーダは答えた。

「確か……今二十一歳ぐらいだったか」

「そんな……俺が出会った時は十四歳でした」

「どういう事だ?」

「……信じられないですけど、俺、未来に来たみたいです」

 翔一はそれからティーダに自分がクロノ達と出会った時の事を話した。それを聞いて、ティーダは驚愕する。局で知らない者はいない有名人の名前ばかり出てきたからだ。高町なのは、フェイト・テスタロッサ、八神はやて。更に守護騎士達の名前も三人程ではないが、有名だ。
 もしかしたら、自分はとんでもない人間と繋がりを持ったのではないかとティーダは思った。だが、翔一の話を信じれば、彼は異世界に行き、そこから戻った際、五年以上の時を超えた事になる。
 それは次元世界の法則から見ても異常としか言えないものだった。ティーダから今のはやて達の事を教えられ、現に翔一はどこか呆然としている。無理もないとティーダは思った。少女だと思っていた相手が、もう知らぬ間に大人に近くなっていた。そう考えれば、やるせない気持ちにもなる。そうティーダは思っていた。

「……ティーダさん。ホントに、はやてちゃんが、捜査官をしてるんですね?」

「……ああ」

「ホントに局で働いてるんですね?」

「あ、ああ……」

 そこでティーダは気付いた。翔一の声が沈んでいない事に。それどころかむしろ嬉しそうにさえ聞こえる。気のせいか。そうティーダが思った瞬間だった。

「そっかぁ~、はやてちゃん歩けるようになったんだ。良かったぁ~!」

 翔一はそう噛み締めるように言った。その顔はとても良い笑顔。その言葉を聞いて、ティーダは思い出した。八神はやては入局当初、車椅子のため自由に動く事が出来ず、苦労した事があるという話を。
 つまり、翔一ははやてが第一線で活躍していると聞いて、はやてが自由に歩けるようになった事を察したのだろう。だからあそこまで聞いてきたのだ。本当にはやてなのかと。そんな厳しい職場で働いているのが、自分の知る少女なのかと。

(ったく、やっぱ翔一さんはどこかすげぇな)

 現状に苦しむのではなく、現状を受け入れてありのまま動く。それを翔一は自然にやってのける。今だって、普通なら動揺し、困惑してしまうだろう。それを、翔一ははやての現状を想像し、心から喜んでいる。自分が逆の立場ならとてもではないが、真似出来ない。
 そう考え、ティーダは翔一に告げた。伝手を使ってその誰かに連絡をつけるから、再会は近いと。それに喜ぶ翔一だったが、ふとその顔が曇った。その理由がティーダには分からない。

「どうした?」

「いえ……ティアナちゃんの事を考えて」

「……そういう事か」

 翔一がランスター家に居候してから、ティアナは翔一の事をもう一人の兄と呼べる程に慕っている。訓練校へ入校した今も、最初の休みを使って翔一に会いに帰って来たぐらいだ。
 そんな翔一がいなくなる。それを聞けば、ティアナが落ち込む事は確実だ。故に翔一は悩んでいた。自分を受け入れ、純粋に慕ってくれたティアナ。それがこれまで寂しい想いをしてきた事は、それとなく翔一も気付いている。

(ティアナちゃんに寂しい想いはさせたくないし、かと言ってはやてちゃん達にも無事を伝えたいし……どうすればいいんだ)

 そう翔一が悩んでいると、ティーダが気楽に告げた。悩む必要はないと。ティアナには自分から説明しとく。だからあんたは会いに行けと。
 その言葉に翔一は少し考えたが、頷いて感謝を込めて頭を下げた。それに苦笑するティーダ。感謝するのは自分だと。今まで家事やティアナの事なんかを面倒見てもらったんだからと。
 それに、自分が手間取ったせいで、一年近くも時間が掛かったのだから。そう告げて。それに翔一は首を横に振る。自分がちゃんと名前を教えていればもっと早く分かった事だからと。

「たく、あんたも大概だな」

「すみません」

「いいさ。ただ、一つ頼みを聞いてくれないか?」

「何です?」

「たまにでいい。ティアナに会いに行ってやってくれ」

 そうティーダはどこか照れくさそうに告げると、視線を外へ移す。翔一はそんなティーダに笑顔を見せると、頷いてサムズアップを送った。それを横目で見て、ティーダも小さくそれを返す。
 次の日、ティーダに連れられて翔一は管理局本局を訪れる。そこで青年になったクロノと再会し、そこからはやて達と引き合わせられる。はやては涙を溢れさせ、翔一の面倒を見ていてくれたティーダに何度も感謝の言葉を掛けた。

魔法世界帰還から一年弱。やっと出会えた翔一とはやて。こうして翔一は少女達と再会を果たす。
そして、ついに戦士に渡される想いと力。今はただ、その喜びのみを誰もが噛み締める事になる……





 ジェイルラボ 廃棄所。ドゥーエは小さなケースを手にそこを訪れていた。目的は一つ。自分の手にしたケースを捨てるためだ。中身はジェイルの受精卵。他の姉妹達同様に、彼女もそれを廃棄する事になったのだ。
 そして、ケースを安置し、来た道を戻ろうとする。だが、その視線がふと止まる。それはある一つのケースへ注がれている。中にあるのは、不気味な生物。人型だが、どこか醜悪だ。

「ドクターの研究素体のなれの果てかしら? まぁ、いいか。あまり気持ちの良い物でもないし」

 そう言ってドゥーエは興味を無くし、歩き出す。そして、ふとある事を思い出すのだ。ウーノ達の廃棄した受精卵。それを入れたケースはどこにあったのだろうと。だが、それをどうこうしたい訳でもないので、すぐに意識からそれは消えた。

 ドゥーエの足音が遠ざかる。それと同時に先程の生物が微かに動き、その腕らしき物から触手が伸びる。それがドゥーエが置いたケースへ入り込み、中の受精卵を取り込んだ。
 それに呼応するように生物が痙攣する。そして、低く不気味な声が誰もいないはずの空間に響く。

―――これで揃った……

 その声を聞く者はいない。それは、蠢き始めた闇の産声。今しばらく続く平穏。その裏で、静かに悪が目覚めようとしていた……



 ドゥーエが戻り、数日が経過した。この間に、変化した場所であるキッチンや男湯などを見て、ドゥーエが告げた感想は一言。

―――ここ、研究施設でしたよね?

 それに真司は頷いたが、ジェイルがそれを否定した。ここはもう研究施設ではなく、自宅だと。それに真司はやや意外そうにしながらも、嬉しそうな笑みを見せた。ドゥーエはそんなジェイルと真司の反応に苦笑し、改めてジェイルへ告げた。
 何でもっと早くに戻してくれなかったのかと。それにジェイルは本当に申し訳なさそうに謝った。真司も何となく空気を読んで頭を下げた。それにドゥーエは内心微笑みながらも、表面上は渋々といった感じで許した。

 そして、時刻は夜。夕食も終わり、後片付けも終えたナンバーズは姉妹揃って入浴中。総勢十二名の大所帯だが、それを許容出来るぐらいに女湯(温水洗浄室とはもう呼ばない)は広くされていた。
 これも真司の提案。一度に全員が入れて、尚且つ洗い場もそれを考慮してやるべきだと。まぁ、真司の監修が入った時点で、どこか銭湯のような作りと雰囲気になったのは否めない。しかし、それを指摘出来る者は、ここにはいなかった。

「にしても、兄貴ってやっぱ強いんだな」

「そうッスね~。アタシとノーヴェの二人でやっとッスから」

「当たり前だ。真司は私とトーレを相手に引き分けるのだぞ?」

 湯船に浸かりながら言い合うノーウェ(二人は良く一緒にいるのでこう略される)コンビの言葉に、チンクがどこか誇るようにそう言った。そう、今日は真司との訓練を二人が担当したのだ。
 その前日はオットーとディード。真司の強さをデータでしか知らない妹達に、実際の強さを知ってもらおうとジェイルが企画した。結果は当然龍騎の勝利。だが、それは内容的にであって、実際は引き分けている。
 セッテの時と同じで、真司はファイナルベントを封印したままで二人を相手に引き分けているのだ。それは真司が成長しているのもある。トーレやチンク、セッテやディエチとの戦いで真司自身も経験を積み、少しずつではあるが、その思考や技術を磨いていたのだ。

「それに、真司は未だに一度も見せた事のない姿を持っている」

「あ、サバイブだよね。あたしも見た事ないな」

 トーレのどこか悔しそうな言葉に、セインが同じように悔しそうに応じる。その悔しさの質が、二人はまったく違う所が実にそれらしい。

「一度、ゆりかごの中で使ったって聞いたけど?」

「うん。でも、それは誰も見てないんだ。真司兄さん、自分一人で片付けちゃって」

 ドゥーエの声にディエチがそう返した。今でも思い出せるのだ。それを聞いた時のジェイルの必死さを。何せ、真司を冗談抜きに絞め殺しかけていたのだから。もう少しトーレ達が来るのが遅れたら、真司は死んでいたかもしれない。
 そんな事を思い出し、ディエチは苦笑した。

「でもぉ~、シンちゃんが言うには、サバイブは強力すぎてあまり使いたくないそうですよ~」

「それに、真司さんは本当なら変身もあまりしたくないらしいわ。あれは、誰かを守るための力だからって」

 共に体を洗いながら、クアットロとウーノが告げる。彼女達二人は、真司の事情をそれなりに聞き出し、出身世界の特定などをしていた関係から、真司の内面的な事も他の姉妹に比べると詳しいのだ。
 そんな二人の言葉に、どこか感心したように頷いている者がいた。セッテだ。

「さすが兄上。力は誇示するものではなく、他者のために使うものと言っているのですね」

「真司兄様……優しいですからね」

「そう言えば、お兄様が言っていたわ。本当の強さは、誰を傷付けるものじゃないって」

 セッテの言葉に続き、双子がそう告げる。この三人は、真司が教育担当となっているため、接している時間が他の姉妹に比べると多い。そのため、起動して真司の影響を受けるまでが非常に早かった。
 セッテは真司から掃除を、オットーは洗濯を、ディードは炊事をそれぞれ教え込まれていて、良く暇さえ見つけるとラボの家事をしている。最近では真司よりも家事をするようになり、真司は三人のおかげで幾分か楽が出来るようになっていた。

「……ホント、真司君って凄いのね」

 口々に真司を誉めるような事を言っていく姉妹達を見て、ドゥーエはどこか呆れたようにそう呟くのだった……



「っくし!」

「……押さえてくれないかね」

「仕方ないだろ。生理現象なんだから」

 同じ頃、真司達も男湯にいた。中々男二人だけで話す事が出来ないので、風呂は貴重な男だけの空間だった。ここで二人は他愛もない事や割と真剣な事まで色々話していた。
 ちなみに今日は、ナンバーズの今後の事。ジェイルの計画が成功すれば、元から犯罪者であるジェイルはともかく、ナンバーズはほぼ何の罪もなく、世間に出て行けるだろう。その後の事を二人は話し合っていた。

「で、何だっけ?」

「体の事をどうするかだよ。中々理解され辛いだろうしね」

「だよなぁ。でも、男ってさ。俺もそうだけど、美人に弱いから気にしないと思うけど……」

 真司の言葉にジェイルはどこか楽しそうに笑い、頷いた。確かに真司は単純そうだ。そう言って。それに真司は少し憮然とするも、自分で言った手前何も言い返せないまま黙る。
 そして、そんな真司にジェイルは嬉しそうにこう告げた。そんな考えをしてくれる相手が、きっとどこかにいるだろうと。その相手と巡り合い、愛し合う事を祈るのみだ。そうジェイルは笑って言った。

 その父親らしい発言に真司が感動。俺もそれを心から願うと力強く告げる。すると、ジェイルがそんな真司を見つめて一言。

―――意外と近くにいると思うんだけどねぇ……

 その言葉に真司は不思議そうな顔をするが、何か自分の中で納得出来るものがあったのか。真剣な表情で頷いてこう言った。

―――そうだな、近所で出会った人に一目惚れってあるもんな。

 その答えにジェイルは呆然。真司は尚も続ける。社会に出て初めて出会った相手に恋する事は有り得る。意外と自分の運命の人って、近くにいるものかもしれない。そう言った。
 そんな真司の言葉を聞きながら、ジェイルは誰にでもなく小さく呟いた。これは相当手を焼くだろうな、と……



 湯上りのナンバーズ。それぞれが寝間着に着替えるのだが、ここにも個性が出ていた。ドゥーエとクアットロはネグリジェ。ウーノとトーレは無地のパジャマ。チンクは三毛猫がプリントされた可愛らしいパジャマ。セインとウェンディはTシャツにハーフパンツ。ノーヴェはそんな二人をどこか嫌そうに横目で見ながらも同じ格好。
 セッテはデフォルメされた犬の絵のパジャマ。オットーとディードは揃いの絵柄で、星や月がプリントされたパジャマと、それぞれ良く性格や思考が出ていた。

 それに全員着替えると、揃って向かうのは食堂。水分補給をするためだ。そして、目的はそれだけではなく……

「で、ミサイルとかビームが一斉にさ」

「……それで良く無事でいられたね」

 真司とジェイルが共にパジャマで話している。その手元にはスポーツドリンクが握られていた。そう、風呂上りに真司はジェイルと食堂で熱を冷ますためにこうして雑談するのだが、その内容はライダーバトルの事が多いのだ。
 今もどうやらそれを話しているらしく、ジェイルがやや引きつった表情をしていた。ちなみに真司が話していたのは、ゾルダと呼ばれるライダーの話。その重火力を想像し、ジェイルは軽く眩暈を感じていた。

 キッカケは、ディエチのIS強化案。現状、チャージ等で時間が掛かるため、もっと別の方法や強化法はないか。そう聞かれた真司が、砲撃でゾルダを思い出して話していたのだ。まぁ、途中からはディエチの事そっちのけで、ジェイルが色々と質問していたが。

「にぃにぃ、アタシらにも聞かせて欲しいッス」

「おっ、何だ。みんなも熱冷まし?」

「ええ。だから私達にも話を聞かせて頂戴」

 ドゥーエがそう言うと、セインやウェンディが首を縦に振る。セッテやノーヴェなども同じようで、話して欲しそうに真司を見つめていた。それに真司は少し嬉しく思い、咳払いをしてから話し出す。それは、真司が小さい頃読んだマンガの話。

 人に創られた存在のヒーローが、生みの親である博士の娘などと共に、世界征服を企む悪の科学者と戦うストーリー。だが、ヒーローは完全機械だった故に、良心回路と呼ばれる心みたいな物を組み込まれた。しかし、それは未完成で不完全な物だったのだ。
 そのため、ヒーローは幾度となく苦しむ。良心の呵責とでもいうのか。悪い事と善い事。その区別があまりに曖昧で、時には善が悪になり、悪が善となる事もある。そんな人間の世の不思議さに翻弄されながら、ヒーローは成長していく。

 生みの親の博士を非情な相手に利用され、敵の中に人質として使われたり、やっとの思いで倒したはずの悪の科学者が生きていて、それに対抗するようにヒーローの兄が眠りから目覚めるなど。真司は幼い頃の記憶を辿りながら話していく。
 それを聞きながら、ジェイル達はその世界へ引き込まれていく。機械の体。でも、心は人間と同じで、迷い悩み苦しむ。兄弟とも言える相手を、敵として倒さねばならない現実。それは、まるで道を間違えた自分達にも近いものがあるように感じたのだ。

 そして、話はいよいよ終盤。ヒーローが仲間や兄弟を人質に取られ、絶対絶命の危機となった。だが、そこで真司はそれまでの熱が消え失せる事を告げた。

「……でも、この後どうなるか知らないんだよ。俺、何故かそこで読むのやめちゃって」

 それに全員が大ブーイング。続きが気になるとセインが言えば、眠れなくなるッスとウェンディが続く。きっと救出して大団円ですよねとオットーが尋ねれば、誰かまたヒーローの危機を助ける存在が来るんですとディードが告げる。
 ノーヴェは頭を掻き毟るようにしているので、どうもイライラしているようだ。チンクはそんなノーヴェを宥めると共に、必ず報われるからと諭している。セッテはトーレに良心とは具体的に何だと聞いて困らせ、ディエチはクアットロと自分達がそうなったら嫌だと言い合っているし、ウーノはジェイルに、決してもう悪事に手を出さないようにと改めて言い聞かせている。

「……それ、救いがなかったんじゃない?」

 そんな中、ドゥーエが告げた一言に全員が止まった。多くの者がそんな事言うなと言いたそうな視線を向けるが、真司はその言葉にどこか考え、そうかもしれないと肯定した。

「それも一つの結末かも。でも、でもさ」

「何?」

「救いがないとしても、それでもヒーローは戦ったはずだ。だって、何もしないで終わる事が一番嫌だから、さ」

 真司はそう自分の手をじっと見つめて言い切った。その何ともいえない雰囲気にジェイルを除いた全員が見入った。それを知ってか知らずか、更に真司はこう続けた。

―――それに……やらなきゃ、何も変わらないから……

 その自分に言い聞かせるような言葉は、普段の真司にはない力強さがあった。誰もが言葉を失う中、ジェイルだけはそれに頷いて、周囲に告げた。

「さ、そろそろ寝ようか。あまり体が冷えると風邪を引くしね」

 その言葉にもっともだと全員が動き出す。口々に就寝前の挨拶を交わし、それぞれの部屋へ戻っていく。それを見送り、真司も部屋へ戻っていく。ジェイルも真司を見送って、自室へと戻る。そして、ジェイルはベッドに座ると、小さく呟いた。

―――変えられる力、それを必ず君に渡してみせるよ。友人として、ね。



救いがないとしても、変わると信じて戦うと告げる男。それを聞いて、その力を授けると誓う男。
本来ならば交わるはずのない道が交錯する時、龍は炎だけではなく、爪を得る。友と言う名の強き力を……




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空白期も、後僅か。StS編は、ある意味怒涛の展開かと。

StSは、龍騎が活躍予定。RXは言うまでもないです。クウガとアギトは……未定。

機動六課は、かなり凄い事になります。



[22476] Masked Rider in Nanoha 空白期8
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/12/13 08:46
 月村家 中庭。そこに置かれたテーブルに着き、すずかと五代、そしてアリサの三人は紅茶を楽しんでいた。既に五代達が帰還して三日が経った。すずか達の言った通り、アリサは美人になっていて、五代は最初見た時別人かと思ったぐらいだ。
 アリサは五代がクウガである事を知らなかったが、なのは達が魔法を教えた際にすずかからそれを教えられた経緯があり、五代と再会した瞬間こう言ったのだ。

―――何でアタシに隠してたの!

 アリサが五代と出会ったのは、なのはとフェイトが二人で隠し事をしていると思った頃。すずかと話し合うために訪れた月村家で、ジャグリングの練習をしている五代を見つけたのが始まり。
 初対面にも関らずどこか人懐っこい五代に、アリサは好印象を抱き、兄のように慕った。なのは達の事も当然相談した。これがあったおかげで、五代はすずかとアリサに打ち明けて欲しいと言い出す事が出来たのだ。

「ったく、アタシが隠し事嫌いだって知ってて言わないんだから」

「ゴメンね。俺がクウガって事、あまり人に言わない方がいいからさ」

「それもそっか。……にしても、雄介さんが戻って来たなんてね。すずかが上機嫌になる訳だわ」

 アリサは五代を名前で呼ぶ。苗字呼びはあまり好きではないらしく、五代自身も構わなかったためそうなった。ただ、目上である事を考えて”さん”付けではあったが。

「アリサちゃんも喜んでるよ」

 互いに笑みを見せ合っている二人。それに五代も笑顔を浮かべる。五年経った今も変わらず仲が良い二人を見て、嬉しかったのだ。その成長を傍で見る事が出来なかったのは残念だが、それでもこうしてその姿を見る事が出来るだけで、五代は満足していた。
 なのは達は遠く異世界にいるが、連絡は欠かしていないらしい。毎日メールや電話をしているらしく、五代は驚いたものだ。ミッドにも地球製の携帯電話が通じるのかと。それにすずかとアリサも頷いて、最初同じ事を思ったと答えた。

 その後もそうやって話していた三人だったが、ふと五代の脳裏に声が聞こえた気がした。だが、それはアマダムの声ではない。それ以前に聞いた気がするものだ。
 そう考えて、五代は思い出したように立ち上がり、空を見上げた。それに疑問符を浮かべる二人だったが、五代の見つめる先へ視線を動かし、固まった。

 そこにいたのは、大きなクワガタ。それがまっすぐこちら目指して飛んでくるのだ。それに気付いて逃げようとするアリサだったが、五代がそれに嬉しそうな表情をしている事に気付き、思い留まった。

「ゴウラム! ホントに来てくれたのかぁ~」

「「ゴウラム?」」

 五代の言葉に揃ってそう尋ねる二人。その瞬間、ゴウラムは五代の前に降り立った。それに五代は近付き、懐かしがるようにその体を触っていく。その表情は輝くような笑顔。
 そんな五代と違って、二人は何とも微妙な表情。昆虫は嫌いではないが、さすがにゴウラムぐらい大きなものは別だ。怖いとか不気味とかいう以前の問題。そう、どう反応していいのか分からないのだ。

 そんな二人に、五代はゴウラムを撫でながら説明を始めた。自分がクウガとして未確認と戦っていた頃、共に戦ってくれた仲間の一人だと。その一人という表現に頭を傾げる二人。それに五代は苦笑しながら、光太郎のバイクであるアクロバッターを例に出した。喋り、自分の意志を持つ存在。なら、それは人と呼んでもおかしくないと。
 それを聞いてアリサがある事を思った。その光太郎という人の事もだが、ゴウラムは喋るのかと。それに五代は頷くも、自分しか聞こえないし、何を言ってるのかは感覚的にしか分からないと。

「はぁ……何か色々凄いわね、仮面ライダーって」

「そうだね。何でも出来そうな気がするよ」

「う~ん……光太郎さんの話だと、宇宙空間でも活動出来る人や、空を自由に飛べる人もいるらしいよ」

「……その技術って、絶対地球だけのもんじゃないわ」

 アリサのどこか恐れるような言葉に、二人が揃って視線をアリサに向けた。それを理解し、アリサは言った。今のミッドにだってそんな技術はないはずだ。なら、その仮面ライダー達が使う技術は魔法世界よりも先を行っている。
 つまり、その仮面ライダーを作り出した相手は、少なくとも地球外の存在もしくはその技術を知っている。そして、そんな存在が企てるものは決まっている。それに気付いたからこそ、アリサは怖かったのだ。

(でも、仮面ライダーは別の世界の存在で、しかも、もう悪い奴を倒してくれたんだから大丈夫よ。うん、きっと大丈夫!)

 自分を鼓舞するように心の中でそう言い聞かせ、アリサは気を取り直して考える。その横ですずかが五代へある事を確認した。

「ね、クウガは古代の存在なんだよね?」

「う、うん。桜子さんもそう言ってた」

「……もしかしたら、ムー大陸とかアトランティス大陸なんかの話は本当だったのかも」

「すずかも? アタシもそう考えたとこよ」

 二人揃って深刻そうな表情を浮かべていた。それに五代は何か不思議な感じを受けるが、どこかその二人が桜子の碑文を解読している時に似ていて、懐かしさを覚えると同時に嫌な予感もしていた。
 そんな五代へ、二人は推論だけれどと前置いて話し出した。クウガが古代の存在ならば、少なくとも五代がいた世界には、それを実現させる技術があった。それは、もしかしたら超技術を持っていたと言われるインカやマヤにアステカ、更にはアトランティスやムー等の滅んでしまったと思われた者達の技術が関わっていたのかもしれないと。

 更に、仮面ライダーはそれらの技術すら超えた技術で作られた可能性が高いだろうと、二人は言った。そして、それを補足する材料としてすずかが語ったのは、光太郎から聞いた人体改造の話。
 それを聞いた瞬間、五代が明らかに反応した事で、すずかは確信した。仮面ライダーとは、本来人を改造した存在だったのだと。

(つまり……光太郎さんは……)

 光太郎の秘密に気付いてしまったすずか。だが、アリサは生憎光太郎と出会っていないため、そのすずかの変化の理由に気付けない。しかし、五代の表情を見て、それに光太郎と呼ばれる者が関わっていると判断した。

「……ま、信じられない話だけど、侵略者がいたって事よ。少なくとも、仮面ライダーがいた世界には」

「目的は、地球侵略……かな?」

「映画じゃあるまいしって言いたいけど、魔法も十分それだったし。地球侵略を考えるヤツラが来ても、不思議じゃないわ」

 どこか呆然となる五代を置いて、二人はそう結論付けた。そして、そこまで考えて心から安堵し、同時に尊敬した。
 おそらく知られる事無き敵を相手に、たった一人で立ち向かって行ったライダー。その勝利と生き方に。一人の人間として、アリサもすずかも感じ入ったのだ。

(勇敢に戦った人もいた……雄々しく戦った人もいた……。きっと、それは……愛する人や世界を守るために)

 五代を知り、光太郎を知るすずかは、そう他の仮面ライダー達を判断した。どれだけ辛かったのだろう。どれだけ悲しかったのだろう。自らの正体を隠し、一人強大な相手と戦う。物語としてはいいのだろう。だが、それを現実として考えれば、すずかは居た堪れない気持ちになった。
 何か代償を求める事無く、ただ守るために戦う。そんな並の者なら挫けてしまうだろう地獄。それを戦い抜けたのは、きっと彼らが―――。

(仮面ライダー、だったからだよね)

 そう思う。それにこうも思うのだ。彼らも一人ではなかったのではないかと。五代もそうだったのだ。未確認と戦っていた時、それを支える者達がいた。そんな存在が他の仮面ライダー達にもいたはずだと。
 みんな、それがあったから戦い抜けたのだ。勝利したのは、仮面ライダーの力だけではない。五代が言ったように、みんなの力が合わさったからだ。

 すずかがそう考え、静かに涙する横で、アリサもまた仮面ライダーと呼ばれる存在へ思いを馳せていた。

(正義の味方……作り話や空想の中しかいないと思ってた。でも、居たんだ……本当に)

 五代の事を聞いて、ゴウラムを見た今なら心から信じられる。恐ろしい相手と戦い、世界を守り抜いた存在がいる事を。
 誰も知らないその影で、人では倒す事が厳しい者達を相手に、人ならざる姿と力を、とても人間らしい心で振るうヒーローが。それを誰にも知らさないのは、人がそこまで強くないのを知っているからだろう。そして、人を愛するからだろう。
 誰が喜ぶ。自分達の生活が脅かされていると聞いて。それを守るために戦う存在がいる事を聞けば、希望となり得るだろう。だが、それは希望と同時に絶望への光でもある。

(だから、知られないように戦ったんだ。知らないままで終わるなら、それがいいって)

 そこまで思い、アリサは呆れた。正気の沙汰じゃない。どう考えても絶望だ。自分が倒れればそこで終わり。助けも期待出来ない。そんな状況で命を賭けて戦うなんて馬鹿げている。そう考えた。
 でも、それを心から否定出来る程、アリサは捻くれていない。分かるのだ。その気持ちが、その考えが。自分がもしそうなったら、きっと自分はなのは達を頼らない。知られないようにするだろう。巻き込みたくないから。

「……ねぇ、雄介さん」

「何?」

 だから、聞きたくなったのだ。目の前にいる仮面ライダーに。自分達の絆を深め、なのは達を助けてくれたヒーローに。

「雄介さんなら、どうするの?」

 クウガならどうするのか。いや、五代雄介ならばどうするのか。彼の戦いを聞いたすずかは、どこか息を呑んで見守っていた。そんな二人に五代はあっさり答えた。

「話してみる」

「「え?」」

「言葉は通じるし、元は同じ人間だし、それに同じ体になった仲間だからさ」

 五代は知らない。歴代のライダー達が戦った相手のほとんどは、脳改造を施され組織に忠誠を誓わされている事を。しかし、それでも彼はそうしただろう。意思疎通が出来るのなら、分かり合う事は可能だと信じて。
 そう、五代は知らないが、過去にいたのだ。悪の怪人でありながら正義の心に目覚め、ライダーと共に戦った者達が。闇より生まれし存在。だからこそ、彼らは光を目指す。かつて、仮面ライダー―――本郷猛はそう言ったのだから。

「それでも無理な時は……戦う、しかない……かな」

 自分の手をもう一つの手で包むようにしながら、五代はそう言った。まだ拳を振るう事に嫌悪感がない訳ではない。それは、決して恥ずかしい事ではない。むしろ誇る事なのだ。誰かに力を振るう事に、何の疑問を抱かなくなっては、仮面ライダーはライダーではなく、単なる生物兵器に成り下がってしまうのだから。

 五代がそう答えると、すずかもアリサも揃って謝った。五代の気持ちを考えず、そんな事を尋ねた事を。それに五代は気にしなくていいと笑った。別に二人は軽い気持ちで聞いた訳じゃないし、例えそうだったとしても、こうして謝る事の出来る心の持ち主なのだからと。
 そして、ゴウラムはこの日から月村家に生息するようになった。生息というのは、科警研と違うからかゴウラムが庭を動き回っているからだ。ちなみに、餌は何だとイレインに聞かれ、五代が金属と答えると、昆虫図鑑を読んで備えていたファリンがかなり残念がっていた。



「どうだい?」

「凄く高いです! こんなに違うんですね、眺めって」

 光太郎の肩に乗り、エリオは目を輝かせて答えた。ここ、ハラオウン家に光太郎が来てまだ一週間。それでも、光太郎はリンディやアルフの手助け、それにたまに顔を見せるフェイトの助言などもあり、エリオとこうして良好な関係を築く事が出来た。
 それには、光太郎の性格やエリオの素直さ、それに数少ない同性というのも大きく関わっている。ハラオウン家の男性はクロノしかいなかった。だが、彼は次元航行艦の艦長をしているため、長期に渡り、家にいない。つまり、エリオは基本的に遊び相手がアルフしかいなかった。そこに光太郎という兄のような存在が現れ、状況が激変したのだ。

「よ~し、次は少し走ってみるからな」

「えっ? 走るって―――っ!?」

 エリオが問いかけようとした瞬間、光太郎はエリオを肩車したまま庭を走り出す。それに驚き、光太郎にしがみつくエリオだったが、徐々にその速度や状況に慣れたのか、閉じていた目を開けて目の前の光景を見てみた。
 景色が飛ぶように流れていく。それを見てエリオは驚いた。光太郎は魔法が使えないと聞いていた。その証拠に念話さえ出来ない。でも、フェイトは光太郎をこうエリオに紹介した。

―――きっと、ミッドでも五本の指に入るぐらい強い人だよ。

 それを今エリオは実感していた。そして、同時に思う。魔法が使えなくても、こんなに速く動く事が出来る人がいる。なら、自分も頑張れば光太郎ぐらいになれるんじゃ。何せ、自分は魔法が使える。それと一緒に体も鍛えれば光太郎ぐらいにも、それを超える事も出来るかもしれない。
 そんな風にエリオは考えた。そして、光太郎が速度を落として止まったのを確認してから、こう切り出した。

「光太郎さん」

「どうしたの? やっぱり怖かったかな?」

「いえ……あ、確かに最初は怖かったです。でも、光太郎さんがしっかり足を持ってくれたの、分かりましたから」

 エリオがそう言うと、光太郎は嬉しそうに笑みを返す。それにエリオも笑みを返すが、すぐにそれを消してあるお願いを告げた。

「それで、お願いがあるんです」

「お願い?」

 エリオはどこか不思議そうな光太郎に、意を決して言った。自分も光太郎のように強くなりたい。だから、色々と教えて欲しい。そうはっきり告げた。それに光太郎は驚きを見せるも、エリオの顔を見て少し悩んだ。
 自分の身体能力は、改造されたための物。決して努力で身につけたものではない。それを話すべきか否か。そう、このままではいつかエリオの期待を裏切る事になる。かといって教えれば、それはそれでエリオの折角の決意に水を差してしまう。

(どうすればいい。どうすればエリオ君の気持ちを裏切らず、無駄にせずに済む……)

 光太郎がそんな風に思い悩むのを見て、エリオの顔に不安の色が出始める。自分の頼みが光太郎を困らせてしまった。そう思ったからだ。故にエリオはエリオでどうしようか考える。何とか光太郎に頷いて欲しい。でも、あまり無理を言い過ぎて嫌われたくない。
 そんな感じで二人して思い悩んだ結果、先に答えを出したのは光太郎だった。光太郎は一旦エリオを肩から下ろし、しゃがんで視線を合わせた。

「エリオ君は、どうして強くなりたいんだい?」

「……えっと、僕、もう少し大きくなったらフェイトさんのお手伝いがしたいんです」

「それで?」

「だから強くなって……フェイトさんを守りたいんです。アルフやリンディさん達も。大切なみんなを守れるようになりたいっ!」

 エリオはそう言い切った。その眼差しはどこまでも真っ直ぐで、曇りのないものだった。その瞳と想いを聞いて、光太郎は嬉しそうに頷くと、エリオにこう言った。自分が教えられる事は教えるけれど、それで必ず自分のようになれる訳じゃない。それだけは忘れないで欲しいと。
 それにエリオは力強く頷き、光太郎はそれに頷き返した。そして、次の日から光太郎はエリオと簡単なトレーニングを開始した。魔法は知らないし、良く分からないので何も言わなかったが、安易にそれに頼る事はしないようにと言い聞かせた。

 どんな時でも、最後に自分を助けるのは力ではなく、諦めない気持ちだ。そう光太郎はエリオに何度も言った。それにエリオも頷き、トレーニングに励んだ。腕立てや腹筋などを、光太郎は子供でも無理なく出来る程度のレベルでやらせた。
 勿論、そればかりではなく、休憩や休みの日も設け、その際はエリオと疲れてクタクタになるまで遊んだ。そして、色々な話も聞かせた。フェイトを守る事は、必ずしも管理局に入る事だけではない。そう思った光太郎は、自分がやっていたヘリパイロットなどの様々な職業の話も、その一環として聞かせた。

 そして、光太郎にとってこのハラオウン家は、ある事を思い出させるには十分な程暖かかった。

(……おじさん達の家を思い出すな、ここは。茂君やひとみちゃんは元気にしてるかな……)

 ゴルゴムを倒した後、身を寄せた暖かい家庭。そこの記憶が光太郎に楽しかった思い出と、悲しく辛い思い出を同時に思い出させる。
 世話になった佐原夫妻は、クライシスの最後の怪人であるジャークミドラによって殺され、帰らぬ人となった。残された茂とひとみは、光太郎の仲間の一人である的場響子に引き取られ、今もどこか平和に暮らしているだろうと、光太郎は信じている。

 そんな光太郎の目の前では、アルフが美味しそうに肉を食べ、エリオはリンディに今日の事を聞かれ、笑みを浮かべながら答えている。そんな団欒を見て、光太郎は思った。
 これを守るためにエリオは強くなりたいと思ったのだと。それは、とても尊い気持ち。誰かのために強くなりたい。それは、自分達仮面ライダーにも言える事だ。そう思った光太郎は、内心誓う。

(今度は、前回のようにはならないぞ邪眼。必ず俺が倒してみせる。仮面ライダーBLACKRXが!)

 決してこの平和を壊させはしないと。未だ居場所分からぬ邪眼。その復活がいつかは分からないが、必ず倒してみせる。今後こそ二度と復活出来ないように。そう強く誓って。

「光太郎さん、お代わりはどうです?」

「あ、すみません」

「結構食べるよねぇ、光太郎ってさ」

「そういうアルフもだと思うよ?」

 そこから始まるアルフとエリオのじゃれ合い。それを見て、楽しそうに笑う光太郎とリンディ。こうして、今日もハラオウン家の夜は過ぎていくのだった……



 涙を浮かべ、立ち尽くす赤髪の少女。同じように立ち尽くす桃色の髪の女性と金髪の女性。そして、銀髪が美しい女性もまた、同じように呆然と立ち尽くしていた。ツヴァイはそんな四人の様子に驚きを感じていた。ただ一人、屈強な男性だけが目の前の少女と男性に声を掛けた。

「遅かったな、翔一」

「ただいま。ザフィーラさんも元気そうでよかった」

「し、翔一―――っ!!」

 翔一の声を聞いた瞬間、溜めていた涙を流してヴィータが飛びついた。それをびっくりしながらも受け止める翔一。それを契機にシグナムが、シャマルが、そしてリインが動き出す。はやてとツヴァイはそんな四人に笑顔を見せている。
 ティーダによって再会を果たしたはやては、家族全員に何としても今日の夜は家に帰る事と厳命した。それがどういう意味かは分からず、疑問を感じながら帰宅した守護騎士達だったが、リビングに来て見つけた翔一の姿にしばし呆然となったのだ。

 ヴィータは泣きつきながら翔一の胸を叩き続け、シグナムとシャマルは涙を拭いながら、無事で良かったと言った後、軽く文句と共にこついたり抓ったりしている。リインは涙を浮かべて会って礼を言いたかったと告げ、一言助けてくれてありがとうと言って静かにそれを流した。ザフィーラははやての傍へ行き、信じて待った甲斐があったと言っている。
 それに頷き、はやては翔一達を見つめながら思い出す。自分がクロノに呼ばれて、ツヴァイと共にアースラの艦長室を訪れた瞬間を。

(ほんま、頭が真っ白になったんは、翔にぃがいなくなった時以来やったからな……)

 居なくなった時受けた衝撃。それと同じ衝撃を持って翔一は帰ってきたのだ。それを内心思い出し、はやてははっきりともう一度告げた。

「お帰りなさい、翔にぃ!」

「……ただいま、はやてちゃん。それに、ヴィータちゃん、シグナムさん、シャマルさん、ザフィーラさん、アインさん」

「リインもいるですよ!」

 自分だけ呼ばれなかった事に、ツヴァイがそう怒って言うと、翔一は両手を合わせて謝り、ツヴァイの名も呼んた。それに満足そうに頷くのを見て、はやて達は笑い声を上げるのだった……



 少々遅いが、久しぶりの翔一の料理にはやて達は懐かしさを感じていた。唯一ツヴァイだけは初めて味わう事になったが、その美味しさに感激した。それにはやてが、翔一がレストランで働いていた事を教えるとツヴァイは納得した。
 その後も翔一がいない間の話をしながら、はやてが翔一のバイクもちゃんとこの家にあると告げると、翔一は嬉しそうに笑ったが、それである事を思い出した。

「あ、そうだ。クロノ君から聞いたけど五代さんも戻って来てるんだよね」

「そうや。今は海鳴におるよ」

「俺、五代さんに渡す物があるんだ。それ、渡しに行きたいんだけど」

 翔一の言葉に全員が不思議そうな表情を浮かべて、視線を翔一へ向けた。それに翔一は自分がティーダの世話になる前の話、つまり科警研での話をすると、はやて達の表情が変わる。
 それに翔一が戸惑っていると、はやてがこう切り出した。実は、五代もここに帰ってくる前に別の世界へ行っているのだと。しかも、そこで過ごしたのは一日にも満たないのに、こちらでは五年以上が経過していたのだという。

 それを聞いて翔一は自分と同じだと思った。そして共通しているのは、二人共に新たな力を連れて来ている事。それは、五代の言葉を借りるなら闇の力に対抗するため。それを聞き、翔一の表情が険しくなる。

「それって……まさかっ!?」

「……五代さんも光太郎さんも、邪眼の事や言うとった」

「あたしらもそう考えてる」

「闇の書の闇さえ飲み込んだ相手だ。そう簡単には死なんという事らしい」

「私達も、色々と調べてはいるんだけど……」

「手掛かり一つ見つからん」

 はやての言葉をキッカケに、ヴィータが、シグナムが、シャマルが、ザフィーラがそう告げていく。そんなどこか辛気くさい空気を変えるべく、ツヴァイが明るく言った。

「大丈夫です! リイン達には、仮面ライダーが三人もいるですよ!」

「そうだな。ツヴァイの言う通りだ。主も翔一も元気を出して。皆も暗い顔をするな」

 そう言ってリインは笑ってある仕草をする。それに全員が笑顔を浮かべ、それを返す。それは、サムズアップ。希望を与える彼らの合図。どんな状況でも諦めず、必ず勝利をもたらす”魔法”。
 そして、翔一ははやてに尋ねた。仮面ライダーが三人と言っていたが、どういう事かと。それにはやてが嬉しそうに笑みを見せると、こう言った。五代が連れてきた光太郎という男も、仮面ライダーなのだと。しかも、その名は翔一も知っている存在だ。そうはやては告げて笑う。

「その名は……」

「「「「「「仮面ライダーBLACKRX」」」」」」

 はやての区切った意味を理解し、六人はそう続けた。その響きを聞いて、翔一は驚きと同時に喜んだ。自分が出会った仮面ライダー。それが、手助けに来てくれたと、そう思ったからだ。しかも、RXはキングストーンを持った存在。つまり、クウガと同じく邪眼を封印出来る可能性を持っている事も考えられる。

 そこまで考え、翔一は確信した。自分が戻った理由。それは、二人の支援をするためだと。邪眼が狙うキングストーン。それを持つクウガとRX.彼らの支えになる。それがアギトの役目なのだろう。そう感じたからだ。
 それともう一つ。この八神家の者達に会うためだとも思った。突然の別れではなく、今度別れる事があればきちんと言葉を交わして別れるために。

(絶対に、今度こそ邪眼を倒してみせるんだ。仮面ライダーとして、必ず!)



 ジェイルラボ 研究室。そこでジェイルは一心不乱にあるデータを調整していた。しかし、その画面に”Error”と表示される。それにもめげず、ジェイルは再び打ち込みを開始するも、また同じ事が起きる。
 それは、ジェイルが龍騎に渡したい力。そのための作業なのだが、それは一向に進まない。その原因というか、理由は把握している。

「やはり無理なのか……ベントカードの製作は」

 ジェイルが創ろうとしているのは、新しいベントカード。それを決意したのは、真司に聞いたサバイブの力の一端。龍騎だけではなく、ドラグレッダーも強化されて、別の姿に変わるのだと真司は教えた。それを受け、ジェイルは色々と考えた結果、龍騎の強化はその体ではなく、使う力にしようと思ったのだ。
 そして、今ベントカードを新しく作ろうとしているのだが、中々上手くいかないのだ。実際のベントカードのデータを使い、それを変化もしくは強化しようとしているのだが、それが成功しないのだ。

 ちなみに、目指しているのは真司があったらいいなと言った他のライダーの物。トリックやスティール等である。だが、それを真司の抽象的な説明だけで再現するのは難しく、現状で可能だと思うのは現在ある物のコピーが精一杯だとジェイルは考えている。
 それと、ブランク体の再現は未だに実現していないが、既にある程度は終わっている。一番の問題はその装着プロセスをどうするかだ。即ち変身方法である。瞬間的にしようとすれば、バリアジャケットとなり魔力が必要になる。それでは意味が無いのだ。

(元々魔力無しの人間用にと考えているからねぇ)

 未だにどうしても変身だけが壁になっているのだ。現状は完全にバリアジャケット。その強度が従来より二割ほど高いだけ。どうしてもそれが限界なのだ。それ以上を望むと、再現が不可能になる。
 ただ、これを実際に装着する事に変えると解決出来る。ただ、その分重量や持ち運び等で改善点はある。しかし、それならば強度は実現可能な段階にあるのだ。

 そこまでを考え、ジェイルはため息を吐いた。簡単に行くと思っていた事が、中々行かない。だが、それにイラつく事はない。真司が自分の世界に帰る日はまだ遠い。それまでに完成させればいい。そう思っているからだ。
 まぁ、ライダーシステム自体の解析は順調に進んでいるし、最高評議会もジェイルが仕事を選別しているのを知って以降は、興味を持ちそうな物を送ってきている。だが、それも今のジェイルにしてはそこまで興味をそそるものではなかったが。

「前途多難だねぇ……」

 そう呟くジェイルは、どこか楽しそうに笑っていた……



 その日、ラボに珍しく、いや初めて客人がやってきた。その名は、トレディア・グラーゼ。ジェイルの考えていた計画の同志だ。彼がここに来たのは、ある事実を確かめる事だった。

「……では、本当にクーデターは中止と?」

「ええ。もうドクターには、いえ私達にはそんな気持ちはありません」

「それどころかぁ、マリアージュは私達の敵ですねぇ」

「貴方の考えも分からないではありません。しかし、我々は平和に暮らそうと決めたのです」

 信じられないといった表情のトレディアに、ウーノが、クアットロが、トーレが告げる。その後ろには微妙な表情の姉妹達がいる。真司もそこにいたが、彼はトレディアを知らないため、疑問を感じてばかりいた。
 何故ここにジェイル達以外がやってくるのか。そして、クーデターを起こして欲しいと言わんばかりの言い方や、雰囲気が真司にはどこか嫌悪感を感じさせた。真司は、管理局の事を簡単ではあるが教えてもらっている。
 次元世界の治安維持をし、その犯罪者達を逮捕したり、裁いたりする組織。つまりは警察みたいなものだと。そして、ジェイルに戦闘機人を作るように言ってきたのはそこだとも。

 真司はそれを聞いて驚いたものだ。警察が犯罪者に協力を頼み、しかも内容が人体改造のようなものだと。それについて感じた事を真司が告げると、ジェイルは呆れるように言ったのだ。
 どこでもある事だと。完全真っ白な正義なんてない。どこかで汚れていても、それに気付きもしないのが”正義の味方”の正体だ。そう嘲笑うかのようにジェイルは真司へ答えたのだ。

「……そうか。それでどうするんだね?」

「貴方を止めるべきなのかもしれませんが……」

 トレディアにそう言って、ウーノは視線を彼から逸らす。そして、そのまま視線を真司へ向けた。それに真司は少し驚くも、何となくウーノは自分の意見を求めているような気がした。
 そう思い、真司は小さく頷いてみせると、ウーノが微かに笑みを見せる。そして、真司はその場から歩き出し、ウーノの隣へ向かう。トレディアは真司の存在にやや驚いたようだったが、その視線を鋭くしてその顔を見つめた。

「初めまして。俺、城戸真司って言います」

「……トレディア・グラーゼだ」

 やや緊張した面持ちの真司。それに対し、威圧感を放つトレディア。そんな二人を見つめるナンバーズ。

「何でクーデターを起こしたいかは知らないですけど、それで何が起きるか考えた事があるんですか?」

「何?」

「革命って、確かに俺のいた世界でも何度かあった。でも、それで亡くなった人が沢山いる。その頃は、言論の自由とか表現の自由とか無かったから、仕方なかったのかもしれない……。でも、ここは違う」

 真司はそう言ってトレディアを見据える。それにトレディアも強い視線を返す。その眼力に負けないと心で強く思い直し、真司は続けた。
 言葉で変えられる事が出来る。思いをぶつける事で分かり合う事は出来る。犠牲を出さずに、誰かを死なせずに世界を動かす事は出来る。理想論でしかない。でも、真司はそれを心から信じている。
 誰だって死にたくないし、親しい相手が死ぬのも嫌だ。それを考えれば、どうして犠牲を出そうとするのか。そう真司は問いかけた。

「綺麗事で世界は変わらん。現に、今も私がいた世界は内戦の真っ只中だ」

「それでも! それでも俺は殺しあうべきじゃないと……思う。だって……」

 その真司の言葉に全員が視線を向ける。それを受け、真司は何かを決意したように息を軽く吐いて言い切った。

「憎しみは、憎しみと空しさしか生まないから」

 真司は心からそう告げた。何故かは分からないが、記憶のどこかで復讐を誓い戦っていたライダーがいた気がした。その姿と最後をおぼろげに思い出して、真司はそう告げた。
 拳を振り上げる前に、言葉を尽くそう。振り下ろす前に、相手の言葉を聞こう。最後の最後まで分かり合う気持ちを無くさないように。真司はそう思ってトレディアに語った。自分がジャーナリストをしていた事を含めて。
 決して言葉は無力じゃない。力を振るうのなら、それはいつでも誰かではなく、みんなのために。そう真司は告げた。

「……甘い。そして青臭い考えだ」

「……だけど、それが一番良いって誰だって思ってる」

 違いますか。そう真司はトレディアへ言い切った。その目を見て、トレディアは一瞬だがその迫力に気圧された。真司は言った事は正論。しかし、それが現実を知らず、見た事もない者が言っている理想論であったのなら、トレディアは一笑の下に伏しただろう。
 だが、真司の目はそういう物を見て、感じてきた者の目だった。そんな悲劇や苦痛を知りながらも、まだ希望を捨てない者の目。それは、トレディアには眩しく恐れるものだった。

(そうか……スカリエッティが心変わりをしたのは、この男が原因か。希望を、この者が与えてしまった。混乱による改革ではなく、対話による改革という、そんな夢物語を……)

 トレディアは知らない。そもそもジェイルは彼の思想に共感などしていなかった。だが、都合よく利用するために話を合わせただけに過ぎなかったのだ。
 真司の言葉にトレディアはジェイル達の説得を断念。そして、彼は真司へこう言って去って行った。

―――君の考えがどこで変わるか楽しみだ。

 その言葉に真司は反論しなかった。トレディアはそんな真司に逆に違和感を感じたが、何も言わずにそれで去って行った。この後、本来ならトレディアは発見したマリアージュを起動させた時、それに襲われ死ぬ事になる。
 しかし、それを防ぐ者がいた。そう、龍騎とナンバーズである。彼らはジェイルが密かにトレディアに着けていた発信機を使い、位置を特定。マリアージュの危険性を知ったためそれを破壊するべく、後を追っていたのだ。
 自分の危機を救ってくれた龍騎達に、トレディアは呆然となりながらも問いかけた。どうしてここにと。それに、龍騎ははっきり答えた。

―――理不尽から命を守るのが、仮面ライダーだから。

 それは、時に新暦七十三年の出来事だった……




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続き。次回で空白期は終わろうと思います。五代と翔一の再会。光太郎が知るプロジェクトFate。真司は、いつも通りのほのぼの予定。

ゴウラムは、五代達が帰還して三日後にいなくなったので、やっと再会です。時間軸がバラバラのため、混乱させて申し訳なかったです。



[22476] Masked Rider in Nanoha 空白期9
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/12/17 08:01
 五代が海鳴に戻って一年が経った。その間も特に大きな事件もなく、五代達は平和な時間を過ごしていた。なのは達は仕事が忙しいらしく、中々海鳴に戻ってくる事はなかったが、それでも三ヶ月に一度ぐらいは顔を見せに来た。
 そして、この日もそうだった。はやてが会いに来ると聞いて、五代はすずかとアリサと共に出迎えたのだが、そこに予想外の人物が一緒に現れたのだ。

「翔一君っ!?」

「お久しぶりです、五代さん!」

 はやてと共に現れたのは、事もあろうか翔一だった。しかも更に驚いたのは翔一が押して来たバイクだ。そう、それは五代にとってもう見る事はないと思っていた存在。
 それを翔一は笑顔で五代へ見せた。それを確認し、五代は心から驚いたと言った表情を見せ、大声で叫んだ。

「これ、ビートチェイサーだよね?!」

「はい。榎田さんから渡してくれって」

「榎田さん?! ちょ、ちょっと待って翔一君。それ、どういう事?」

 驚きの連続に五代はそう言って翔一を見つめた。それにはやてと翔一は苦笑し、すずかは五代の口から出た名前に記憶を呼び起こす。アリサは一人置いていかれたようにしており、それをはやてが気付いて事情説明。
 それと同じくして翔一は五代へ説明をした。自分があの光で飛ばされた先の話を。そして、そこで託された物を全て。それを聞いて五代は納得し、同時に感謝した。

「そっか……そういう事なんだ」

「はい。あ、それで榎田さんから伝言を預かってるんです」

「伝言?」

「はい。ええと……」

 翔一はそう言って一枚の紙を取り出した。それは、伝言をメモした物だ。そして、それを読みながら榎田から言われたまま、五代へそれを告げていく。

―――何か大変な事になってるらしいけど、負けないでね。あ、それとお土産よろしく。

 それは榎田だと五代はすぐ分かった。簡単だが、あの人らしい。そう思って五代は苦笑した。それに翔一は次の伝言を伝えた。

―――まったく、本当に完治したかどうか分からないのに変身したらしいな。しかし、山か海かと思ったら魔法の国か……ホントに冒険してるじゃないか。帰って来たらまた体診てやるから。……あまり無理すんじゃないぞ。

 それを聞いて、五代は笑みを浮かべる。それが誰かもすぐに分かった。相変わらずの言い方だが、やはり自分の身を案じてくれる所は変わっていない。それが五代には嬉しかった。その笑顔を見て、翔一は次の伝言を告げる。

―――どうも君は寄り道に縁があるらしいな。そちらの戦い、俺は助けてやれないがこちらの事は心配するな。……そちらの冒険が終わったら、ちゃんと椿に体を診てもらえ。

 その言葉も五代には誰からかすぐに分かった。そして、同時に心配するなの意味も。きっと、彼はビートチェイサーやゴウラムの事を言っているであろう事を。故に、五代は先程と同じように笑みを浮かべた。翔一はそれに頷いて最後の伝言を伝える。

「えっと、たった一言なんです」

「えっ?」

「……窓の鍵、開けとくから」

 その翔一の言葉に五代以外の全員が疑問符を浮かべた。今まではどれも五代を励ましたりする内容だったのが、急にまったく関係ないものに変わったからだ。でも、五代だけはその言葉に心から嬉しそうに笑顔を見せる。
 それを見て翔一達は益々疑問を深める。どこが五代を笑顔にさせたのかまったく分からなかったからだ。

「そっ……か。……うん、そうなんだ……」

 五代はその一言だけで嬉しかった。彼は知らない。あの雨の中、彼女がそれを消え入るような声で告げていたのを。あの時伝えられなかったであろう想い。それをそこに込めて彼女は五代へ伝えたのだ。
 それは、自分をクウガとして支えてくれた者達と違い、クウガになる前から支えてくれた存在。その相手からの何にも負けない励ましと信頼。それがその言葉だと五代は知っているから。

 そんな五代に色々と聞きたい気持ちになる翔一達だったが、それを聞ける程彼らは雰囲気を読めない訳ではない。結局五代にその言葉の意味を聞けず終いだった。

「あ、それと……妹さんだけは、時間が深夜だったから電話出来なかったって榎田さんが……」

「そっか。みのりはそうだね」

 妹の伝言が無かった訳にすぐに理解を示し、五代は少し寂びそうに頷いた。でも、五代は次にはもう笑顔を見せてこう言い切った。

―――大丈夫。みのりもきっと榎田さん達と同じ事思ってるから。帰った時、会いに行って安心させるよ。

 その言葉とサムズアップに笑顔の翔一。だが、すずか達はその言葉に素直に笑う事が出来ないのだった……



 その後、五代ははやてと翔一の三人で話があると言われ、月村家の一室にて話をしていた。それは、はやてからの今後の事を踏まえての話。あの空港火災等の大災害が起きても、管理局は陸や海、空と各部署のしがらみやプライドなどが邪魔して中々動きが取れない。
 しかも、横の繋がりは弱い癖に縦の繋がりはきつく、下の者達の意見や要望は中々通らないのが現実だった。陸には陸の、海には海の、空には空の苦労があり、色々と部署や管轄によって不満があるのだ。

「……でも、それを全て知っとる人は少ない。陸の大半は海や空に不満を持っとるし、海や空も不満持ち。互いの苦労や現状。それをちゃんと知って物を言っとる人は、残念ながら上層部どころか全体にもほとんどおらん」

「……つまり、はやてちゃん達はそれをどうにかしたいんだ」

「そうなんよ。せめて下の方だけでも横の繋がりを思てな。都合良くなのはちゃんは空の所属。フェイトちゃんは基本海や。で、わたしが陸を中心に動いとるし」

「で、どうにかしてそれらの問題を解決……とまでいきませんけど、改善出来るようにしたいなって、はやてちゃん達は考えてるんです」

 はやてと翔一の話を聞いて五代は頷いた。どこでも同じような話はある。国だったり、警察だったり、組織と呼ばれるものには付き物の話だ。そしてはやてが五代に頼んだのは、邪眼退治だけではなく、災害などの際に救助活動を手伝ってもらいたいという事だった。
 クウガの力なら、普通なら諦めるしかない状況からでも救える命がある。翔一もアギトの力でそれをしてくれると言ってくれた。その言葉に五代は考えた。クウガの力は確かに守るための力だ。でも、五代はそれをあまり大っぴらに使ってこなかった。
 その理由はクウガの異常性。だが、海鳴はともかくミッドならそれもあまり考えなくて済むらしい。どうも、仮面ライダーはバリアジャケットかそれに準ずる物と考えられているらしく、何より光太郎がRXとして人助けをしていて知名度が徐々に高まっているらしい。

「……光太郎さんはそれを何て言ってるの?」

「苦笑いしながら、ミッドの人達は心が広い言うとる」

「魔法生物とかいますから。少し異形なだけじゃそこまで驚かないみたいですね」

 翔一の言葉に五代も以前戦った魔法生物を思い出し、納得。確かにクウガやアギトの方が姿形なら人間に近いからだ。

「……そうだね。で、もしそうなら俺ははやてちゃんと?」

「あ、それなんやけどな、どうしようか迷っとるんよ。どっちかって言うと、フェイトちゃんの方がええかなとも思うし」

 はやてはそれからこう告げた。現在、フェイトは光太郎と協力し、戦闘機人と呼ばれる存在を作り出した相手とその技術を持つ者を捜していて、人手が欲しいらしい。はやての方は翔一だけでも十分な程人手もいる。
 それにフェイトの方は相手が相手だけに仮面ライダーの方が都合がいいだろうと。それを聞いて五代は頷いた。いざという時、魔法ではなく肉弾戦で戦えるライダーなら、状況などに左右されない。そう判断したからだ。

「それに、災害時はフェイトちゃんの傍の方が色々融通利くんよ」

「えっと、執務官だから?」

「そう。わたしは結局どこかの部隊付きになるからな。自由には動けないんや」

 はやてはそう苦笑し、小さくため息を吐く。そして、静かに語り出す。おそらく五代は、どちらともつかない状態になる可能性が高い。住居はこのまま月村家で構わない。ここの転送ポートから、フェイトからの情報や光太郎の勘、自分の頼みなどで動いて欲しいと。転送魔法は、完全フリーとなっているリインがやる事になった。リインは現在八神家の家事を担当していて、局員にはなっていない。

 その理由は、リインの現状にある。はやてのユニゾンデバイスはツヴァイであり、リイン自身は魔法使用自体は問題ないが、邪眼のせいか魔力量が低くなったため、満足に前線で戦う事が出来ないからだった。そのため、はやてがリインに家事を仕込み、仕事を与えたのだった。
 ちなみに光太郎は恐ろしい程の勘で、事故などを未然に防いだり被害を食い止めたりしていた。それを聞いて、五代達は揃って驚き、光太郎の勘は良く当たるとフェイト達は頼りにしている程だった。

 こうして五代は再びミッドを訪れる事にする。それは、光太郎にその話をするためであった。そこで再会した光太郎やフェイト、アルフに笑顔を見せると同時に、アルフの子供化に驚いた。エリオにもすぐに懐かれ、結婚式以来となるクロノとエイミィには微笑ましいものを感じ、リンディの変わりのない姿に驚いたりもした。
 そして、何かあればリインが来てくれ、光太郎と共にバイクでミッドを駆ける。それは今までと違い、誰かを助けるためだけの戦い。暴力を振るうのではなく、困っている人達を守り、助けるだけの変身。
 日常ではすずか達の荷物持ちとして働いたり、イレイン達と屋敷の掃除をしたり、更に翠屋の手伝いも継続して行なうという頑張りを見せていた。

 一方、翔一ははやて達と共に様々な場所へ行き、聖王教会のカリム・グラシアや修道騎士でその秘書をしているシャッハ・ヌエラ、更にはカリムの義弟で査察官のヴェロッサ・アコースとも面識を得て、その交友関係を広げていく。それと、ティーダと同じく翔一の面倒を見ていたティアナにも、はやてが礼を言いたいと言って共に会いに行き、それが縁ではやてとティアナは面識を得る事となる。
 更にその頃、ティアナはスバルからクウガの話を聞き、それを翔一に教えて意外な所で縁が生まれていた事に驚いたりと、こちらもこちらで変化が生まれていた。
 そして、彼もまた時にバイクで街を駆ける。人に知られる事無い事件から、大きく知られる事件まで関わりながら。

こうして、クウガとアギトも魔法世界に顔が売れ始める。出会う者達との絆や思い出。
そして思いもよらない縁などを経験しながら、五代と翔一は更に時を過ごす。
 そして、運命の時は来る。新暦七十五年 四月 機動六課設立。その日、ついに事態が動き出す……



 フェイトから来た久々の情報。それを頼りに光太郎は、一人ミッドの郊外にある寂れた廃屋へとやって来た。フェイトが言うには、この廃屋は偽装で、その地下には秘密裏に何かの研究が行なわれているらしい。
 だが、その証拠が掴めず、フェイトは仕方なく光太郎へ連絡したのだ。それを聞いて、光太郎は嫌な予感を感じ、RXに変身してアクロバッターを駆り現場へ急行した。

(……何だここは……。何か不穏な気配がする)

 廃墟となった工場跡地。そこを一人歩きながら、RXはそう思った。かつてゴルゴムと戦っていた頃、嫌と言う程感じた嫌悪感。それがここから感じられたのだ。
 工場内のトラップを掻い潜り、地下への通路を発見したRXは階段を下りて地下へ向かう。そして、そこでRXが目にする物は、信じられない光景だった。

「これは……っ!」

 薄暗い通路を歩き、時に出会う研究員や警備員を避け、時に気絶させ進んだ先。その大きな空間にあったのは、人が入ったいくつものケース。それも、中に入っている者は全員同じ顔をしていたのだ。

「培養されて……いるのか」

 RXがそう呟いてケースに触れた瞬間、突如警報が鳴り響く。それと共に現れる大勢の魔導師と武装した警備員。それを見て、RXは理解した。ここで行なわれている事は、命の尊厳を踏み躙る行為だと。そして、この者達はそれを知りながら加担する者達なのだと。
 RXはこみ上げる怒りを拳に宿す。同じ命ある者でありながら、どうしてそれを道具のように扱えるのか。そう思う気持ちが、RXの拳を揺らす。それに誰かが気付いたのか、RXへ攻撃を開始した。飛び交う魔力弾。そして、実弾の数々。だが、それをRXは全て受けながらゆっくりと歩き出す。

「お前達は何も感じないのか。命は全て平等なんだ。それを弄ぶ権利は、誰にもないっ!」

 そう言ってRXは地を蹴り跳び上がる。それを撃ち落とそうとするが、RXはその攻撃をものともせず、地面に降り立つと同時にそこにいた魔導師達を蹴散らす。意識を刈り取り、怯えて逃げる者達は追わず、抵抗する者だけを気絶させていく。
 その間、たった一分。それで三十名程いた者達は全員沈黙或いは逃走した。しかし、逃げた者も今頃はフェイトによって捕まえられているだろうと思い、RXは視線を動かす。その先に見えるのはここの制御をしているだろうコントロールパネル。

「何か役立つデータがあればいいが……」

 そう言ってRXはその体を変化させる。機械の体。高熱に強いロボライダーだ。ロボライダーは、その能力の一つであるハイパーリンクを使い、ここのデータを全て洗い出す。
 その中に、ロボライダーは気になる物を見つけた。それは、プロジェクトF.A.T.Eと銘打たれた物。自分の世話をしてくれている少女の名前と同じ響きに、何か感じるものがあったロボライダーは、それを詳しく調べた。そして、愕然となった。

(そんな……ここにいる者達は完全なコピーだと言うのか?! そして、これを完成させた人物の名に、どうして……どうしてフェイトちゃんと同じ苗字が入っているんだ!?)

 その内容。それは、記憶や外見などをそっくりそのまま写した存在を作り出す事が出来るというものだった。そして、その理論を完成させた者の名も、そこには記載されていた。
 その名も、プレシア・テスタロッサ。ここまで来て偶然と言える程、ロボライダーは鈍感ではない。フェイトの名前の由来。それがこれだとしたら、フェイトは……

「彼女も……誰かのコピーだと言うのか……」

 そう呟き、ロボライダーは残りのデータに何か他にも気になる物がないか調べ、全て調べ終わったのを確認して体をRXに戻した。RXは自分が見てしまった内容に、強い衝撃を覚えていた。
 改造人間とは違う哀しみ。それをフェイトも背負っている。そして、それだけに留まらない事もここのデータには残っていた。それは、ここの研究内容。そう、ここでは秘密裏に死んだ者の蘇生を謳い、多額の金と引き換えで死者のコピーを作っていたのだ。その中には、RXが良く知る者の名があった。

(エリオ君も……そうだったのか……)

 エリオと仲良くなったある時、光太郎は彼の昔話を聞いた事があったのだ。エリオが、とても荒れていた頃があった事を。エリオはそれを話してどこか悲しそうに笑っていた。そんな自分をフェイトが助けてくれたのだと。
 その意味、そしてフェイトがエリオを引き取った理由。それをRXは完全に理解していた。フェイトもエリオの真実を知っていたのだろうと。それ故にその哀しみを理解し、救ってやりたかったのだ。

 そこまで考え、RXは拳を握り締める。戦闘機人だけではなかった。この魔法世界には、命の尊厳を踏み躙る物が沢山ある。それは、ゴルゴムやクライシスとは違い、完全に人間が自らの手でやっている事だ。

(どこまでも……人間は愚かにしか生きて行けないのか……)

 そんな時、誰かが近付いて来る気配を感じ、RXは意識をそちらへ向けた。そして、現れたのは……

「良かった。無事だったんですね」

「……フェイトちゃん」

 やや慌てた表情のフェイトだった。しかし、RXの姿を見て安堵したように息を吐いた。それを見てRXは思い出した。いつものようにデバイスで連絡するのを忘れていたと。
 あまりにも時間が掛かったため、フェイトが心配してやってきたのだ。そう理解し、RXは謝った。少し考え事をしていたら連絡するのを忘れてしまったと。それにフェイトは軽く笑った。

「だと思いました。でも、心配したんですよ?」

「ゴメン。……逃げて行った人達は?」

「全員確保しました。研究員も同様です」

「……そうか」

 そう答えるRXだったが、どこかいつもと違う事にフェイトは気付いた。そして、どこかそれは悲しんでいるように感じ、フェイトはその理由を考えようとして、周囲に気付いて言葉を失った。
 それをRXは見ても何も言わない。フェイトは周囲のケースを見て何か小さく呟くと、RXへ問いかけた。知られたんですね、と。それにRXは確かに頷いた。

「……そうですか。もしかして、エリオの事も?」

「ここに……名前が残っていたよ」

「そう、ですか。私の……本当の母さんが、プロジェクトを完成させたんです」

 そこからフェイトはぽつりぽつりと語り出す。自身の出生の理由や生い立ち。なのは達との出会いまでとエリオとの出会い。それら全てを語り、フェイトは告げた。その基礎を築いた存在がジェイル・スカリエッティなのだと。
 それを聞いてRXは納得していた。何故フェイトがジェイルを追い駆けるのか。その原動力は自身の存在にあったのだ。自分のような創られた命。それを生み出す技術を世に広めようとしたジェイル。それを捕らえ、罪を償わせるのがフェイトの生き甲斐の一つなのかもしれない。そう考えたのだ。

 だが、同時にRXはフェイトへ伝える事があった。それは、自身の事。そう、自分もまた普通の人ではない。その事を告げなければと思ったのだ。フェイトの出生を聞かされた今、自分だけ黙っている訳にはいかないと。
 自分の辛い過去を話してくれた事に対する応えとして、自身の事を話そうと。それが少しでもフェイトの励みになれば。改造人間の哀しみを乗り越え、強く生きている先輩ライダー達の事を思い出し、RXはフェイトへ語りかけた。

「フェイトちゃん。聞いて欲しい事がある」

 RXは静かに語った。確かにフェイトの生まれた理由は辛いものがある。だが、それでもフェイトはフェイトとして生きていけばいい。仮面ライダー達も、自分の体を本来とは違う物に変えられても尚、そう強く思って生きているのだと。
 改造人間。生まれ持った体を切り刻まれ、作り変えられた存在。自分はそういう存在だとRXは告げた。フェイトはそれに言葉を失った。五代や翔一を知る彼女は、RXも同じように人が不思議な力で変身した者だと考えていたのだ。
 そして、同時にRXの優しさと強さに心打たれた。そんな哀しく苦しい事を教えてくれたのは、自分に対する励ましと気付いたからだ。それと同時に、そこに含まれたものは同情や哀れみではないと気付いた。

(私を私と言ってくれた。なのはと同じだ……)

 自分の最初の友人であり、親友である少女。それが自分が打ちのめされた時言ってくれた言葉。それをRXも、光太郎も言ってくれた。コピーではない。フェイトはフェイトなのだと断言してくれた存在。
 自分とは違う自身の秘密に苦しみ、悩み、哀しみながらも強く生きようとする存在。それが同じ事を言ってくれたのは嬉しかった。自分も強く生きていける。そう言ってもらえた気がしたのだ。

「……とりあえず、ここを出よう」

「……そうですね。あ、その前にデータを手に入れて行きます」

「なら、少し待ってくれ。俺がそれをやろう」

 そう言ってRXは再びロボライダーへと姿を変える。それに驚くフェイト。だが、それに構わずロボライダーはフェイトから渡されたディスクを手にし、それを差し込むとハイパーリンクでデータを瞬時にコピーする。
 そして、そのディスクを取り出し、フェイトへ手渡す。それと同時にRXへと戻るロボライダー。それを眺め、フェイトはやや呆気に取られていたが、小さく苦笑して歩き出す。

「どうかした?」

「いえ、凄いなぁって」

「そうかな?」

「ええ。でも、それだって望んだ力じゃない。便利とかそんな風に考えちゃいけないんですよね……」

「そうだね。……ありがとう、フェイトちゃん」

(そうだ。そうやって考えてくれる人がいるのなら、俺は人間のために戦い続けられる)

 自身が抱き掛けた人への絶望。それをフェイトの言葉が払い除けてくれた。それを込めて、RXは心から礼を述べた。それにフェイトはやや照れたように笑みを浮かべた。
 静かに歩く二人。黒い仮面の勇者と黒い魔法少女。その背はまるで寄り添うように並んでいた。共に、人に言えぬ悲哀を湛えて……

これをキッカケに、二人は益々連携を強めて絆を深めていく。仕事では情報提供役と戦闘役として。家庭では助言役や仲介役として。
エリオの事を相談するフェイトには男の立場で助言を与え、エリオの事を相談する光太郎には魔導師として助言を与え合う。
更には、フェイトが新たに保護したキャロ・ル・ルシエとエリオの出会い。それらを見て、光太郎は益々ハラオウン家に佐原家の面影を見る事になる。

そして、彼もまた機動六課へエリオとキャロと共に参加する事となる……



 ジェイルラボ 女湯。そこを掃除する真司の姿があった。トレディアの計画は、彼がマリアージュの危険性を自身の身を持って経験した事により破棄された。残ったマリアージュは龍騎とナンバーズによって一体残らず倒された。
 一番強いと思われた軍団長も、龍騎を苦しめたが、ファイナルベントの前には無力だったのか、何も出来ないまま散った。そのデータだけは、ジェイルが何かに利用出来るかもと分析していたが。

―――君のような存在がいつか世界を変えるかもしれないな……

 トレディアはそう告げて真司達の前から去った。簡単に武力に頼るのではなく、もう一度だけ誠心誠意心をぶつけて行動してみよう。そう言い残して。それを真司は嬉しく思い、自分も出来る限りの事をすると誓ったのだ。
 それから既に一年以上。真司は合間を見てこの魔法世界が抱える問題を洗い出し、記事を書き始めていた。決してどこかに媚びるのでも、否定するでもなく、今をもっと良くするにはどうするべきか。それを自分なりに持てるだけの力でやってみせようと。

「これ終わったら、また続き書かなきゃ」

 唯一問題点があるとすれば、既にそれは記事ではなく本のレベルになり始めているぐらいだろうか。真司は問題を書いていくだけでは飽き足らず、それに対する自分の考えや感想。更にはこのジェイル達との日々さえ書き綴っていたのだ。
 それを知る者はいない。ただ真司は何か自室で書いている事だけは、ぼんやりと知っている程度である。

 そうして真司が鼻歌交じりで掃除をしていると、そこへ誰かが走る音が聞こえてきた。それに顔を上げて視線を向ける真司。すると、現れたのはウェンディだった。

「にぃにぃ、手伝うッス!」

「お、そうか。じゃ……」

 笑顔で手伝いを申し出るウェンディに、真司は嬉しそうに仕事を言いつけようとするが、そこへもう一人走り込んでくる者がいた。

「兄貴っ! その……アタシも、手伝う……」

「ノーヴェもか! でも……もう粗方終わりだしなぁ……」

 真司がそう考え出した瞬間、ウェンディとノーヴェが互いに囁き合うように会話を始めた。そう、二人は純粋に真司の手伝いに来たのではなく、トーレの訓練から逃げてきたのだ。というのも、二人はセイン達三人が毎晩真司にマッサージをしていると知り、自分達もと思って昨日のお昼にしたのだ。だがそれをトーレに見られていて、今日の訓練はその憂さ晴らしの意味合いが強い事を察知し、こうして逃げてきたという訳だ。

「……今頃、代わりに双子がやられてるのか」

「そッス。後でオットーやディードに謝った方がいいッスね……」

 そしてここに逃げてくる途中、二人は洗濯を終えた双子を見つけ、訓練場へ行って急用が出来たとトーレに伝えて欲しいと頼んできたのだ。素直な二人はそれに頷き、仲良く訓練場へ向かって行ったのだ。
 それを思い出し、揃って手を合わせるノーヴェとウェンディ。それを気付かず、真司はやっと良い事を思いついたと言わんばかりに二人へ告げた。

「じゃ、二人は男湯の掃除を頼む。俺、やる事あるから」

「りょ~かいッス」

「分かった」

「頼んだぞ~」

 真司の指示に従い、二人は隣の男湯へ向かう。そして、まずノーヴェが脱衣所を、ウェンディが浴室を掃除する事にして動き出したのだった……



 ジェイルラボ 訓練場。トーレはオットーとディードが倒れ伏しているのを眺めて、少し申し訳ないように思い、その傍へ近寄った。そう、二人はついさっきまで、トーレに無理矢理訓練に付き合わされていたのだ。ノーヴェとウェンディに頼まれたためトーレに伝言を伝えると、何故かそのまま訓練へなだれ込んだのだ。
 二人はする事もなかったので構わなかったのだが、いつも以上にトーレが厳しい訓練を強いてきたのでへばってしまったのだ。さすがにトーレも悪い事をしてしまったと思い、二人へ謝りを入れた。

「すまんな、オットー、ディード。私とした事がついやりすぎてしまった」

「いえ……僕らがまだ未熟なだけです……」

「はい。トーレお姉様が気にする必要はありません」

 横たわりながら二人はそう答えた。その表情はそれが本心からの言葉だと物語っている。それに余計トーレは心苦しいものを感じ、少し待っていろと告げてISを使ってその場から去った。それに疑問を浮かべる二人だったが、言われた通りそこで待っていた。
 すると、トーレが手にタオルとドリンクを二人分持って戻ってきた。そしてタオルを手渡し、汗を拭かせてタオルを回収するのと引き換えにドリンクを手渡した。

「……ありがとうございます、姉様」

「わざわざこんな事までしてもらって……」

「いや、これは私なりの詫びだ。だから気にするな」

 そう言ってトーレは苦笑した。そして、お前達は少し真司みたいに肩の力を抜いた方がいいなと続けた。その言葉に二人は互いに見つめ合い、その言葉を理解して苦笑した。
 真司は肩の力を抜いた状態というより、常に力を抜いたようにしか見えないのだ。だからこそ、苦笑い。あれは真司だからこそ出来る事だろうと思ったからだ。その二人の考えを察したのか、トーレも笑う。

「ま、適度に脱力しろという事だ。いつも全力というのもいいが、時と場合を考えて力を入れるようにな」

「「はい、分かりました」」

「……意外とお前達はそのままの方がいいかもしれんな」

 笑みを浮かべて返事をする二人を見て、トーレはやや力を抜いた姿を想像し、そう微笑んで呟いた……



 そして時間は夕食時になり、最早厨房となったキッチンでリーダーシップを発揮しているのは、チンクでもディエチでも、ましてや真司でもなかった。

「チンクはシチューの仕上げをお願いね。ディエチ、パンは焼けたら適度な大きさに切って頂戴。セイン、セッティングは終わった?」

「終わったよ、ドゥーエ姉」

 そう、次女であるドゥーエが一手に取り仕切るようになっていた。真司はドゥーエが戻ってきてからというもの、男子厨房に入らずとばかりに料理から遠ざけられていた。まぁ、真司はレシピ自体をドゥーエやディエチに伝え、とっておきの餃子さえ既にチンクへ伝授していた。
 そして、それ以来キッチンはドゥーエを中心にチンク、ディエチ、ディードが料理番をしていて、セインやノーヴェにウェンディがお手伝いとなっていたのだ。

 そんなキッチンの喧騒を聞きながら、真司は真剣な表情でキーボードを叩いていた。それを横から眺めるウーノやクアットロ。セッテは後ろに立って見つめ、更にオットーやジェイルがその横から見つめる。唯一トーレだけは、興味はないとばかりに無視していたが、その視線がチラチラと真司を見ている。
 そんな視線を気にも留めず、真司は文章を綴っていく。今真司が書いているのは、ジェイル・スカリエッティの悲劇とその原因と銘打たれた章だ。如何にしてジェイルが犯罪者となってしまったのか。何故そうなる事になったのかを真司なりに考え、実際の触れ合いを通じて思った事や感じた事などを書き記していた。

「……だ~! 駄目だ! これじゃ……ちゃんと書き出せてない」

 突然上げる大声に視線を向けていたジェイル達が一斉に驚いた。丁度それを合図にしたかの如く、料理を持ったノーヴェ達が現れる。その匂いに真司は意識をそちらへ向け、嬉しそうに笑った。

「お~、今日はシチューか」

「そうッス。きのこと野菜のクリームシチューッスよ~」

「あ、後ディエチとディードが焼いたパンもあるから。よければシチューをつけてどうぞってさ」

 テーブルにシチューが入った皿とパンを置きながら二人がそう言うと、それをキッカケにジェイル達も席に着く。そして残りの皿を持ってドゥーエ達が現れ、いよいよ待ちに待った食事の時間となった。
 全員が席に着いたのを確認し、真司は手を合わせる。それに全員が続いて……

「「「「「「「「「「「「「「いただきます(ッス)」」」」」」」」」」」」」」

 そして始まる楽しく賑やかな食事。ノーヴェがかっ込むように食べれば、セインとウェンディはそれを見て女の子らしくないとからかい、それと対照的に淑女のようなディードとドゥーエ、ウーノは静かにシチューを口に運ぶ。
 クアットロはジェイルと今後の活動について話し合いながら、香ばしいパンを手に取り、ディエチはオットーからパンの味を誉められ照れ笑い。トーレは魚か肉が欲しいと呟き、チンクが同じ事をセインが言っていたぞと苦笑混じりに告げる。セッテはシチューにパンをつけて食べ、その熱さに軽く息を吐きながらも笑みを見せる。
 そんな平和な光景。だが、それに真司のふとした言葉が波紋を起こす。

「旨いな、今日の飯も。もう、俺がいなくても大丈夫だな」

 その瞬間、一切の音が消えた。先程まで聞こえていた会話などが全て止まり、全員の視線が真司へ向いていたのだ。

「え……何? どうしたんだよ」

「真司兄……どっかいっちゃうの?」

 突然の状況に訳が分からずうろたえる真司だったが、涙目で告げたセインの言葉にようやく理解した。周囲が自分の言った考え無しの一言を気にしている事を。自分はただ冗談のつもりに近い気持ちで言った言葉。それをジェイル達は真剣に受け取ってしまったと。
 そして、その意味を悟り真司は嬉しく思うと同時に申し訳ない気持ちになった。安易に言っていい言葉じゃなかった。自分がどういうキッカケでここへ現れたかを考えれば、迂闊な事は言わない方がいいと、そう思った。

「ゴメンっ! 俺、そういうつもりじゃなかったんだ! ホントにゴメン!!」

「……いや、いいんだ真司。私達も少し過剰に反応し過ぎたね」

「ジェイルさん……」

「みんな分かっているよ。君がここからいなくなろうとなんて考えていないと」

 そう言ってジェイルは周囲を見回す。それに反応し、全員が力強く頷いた。その光景に真司はこみ上げるものを覚えた。それは感動。たった一言で呼んでしまうと、あまりにも簡単な印象を受けるが、激しく強く真司の心を揺らす感情の波。
 感謝と感激、そして歓喜。自分をそこまで思い、慕ってくれる事。それを思い、真司は不覚にも涙を見せてしまった。それに全員が気付き、小さく驚く。

「真司さん……」

「まったく、意外と涙もろいのね、真司君は」

「……男だろう。そんな簡単に泣く奴があるか」

「あらあら……シンちゃんってば、弱虫ぃ~」

「だが、それもまた真司らしさだ」

 上の姉五人は真司に対し、どこか微笑みさえ浮かべてそう告げて……

「真司兄、泣かないでよ。あたしまで泣きたくなるからさ」

「兄上、気になさらず。私は兄上を信じています」

「兄様、これを使ってください」

「な、泣くなよ、兄貴。ほ、ほらアタシらも気にしてないから……そんな顔、すんなよ」

「兄さん……兄さんが泣くとみんな悲しくなっちゃうから……」

「照れるなんて、ノーヴェも可愛いとこあるッスね。あ、アタシも同じッスよ、だからいつものにぃにぃでいて欲しいッス」

「そうです。みんなお兄様の笑顔が好きなんですから」

 妹達は真司を励ますように声を掛ける。

「やれやれ……これじゃ、私は完全蚊帳の外だね」

 そしてそんな光景を見つめ、ジェイルはどこか嬉しそうに呟いた。

 こうして、この日の夕食はちょっとした騒動を起こしたが、それによって余計真司はジェイル達の暖かさに触れ、ジェイル達は真司の一面に触れる結果となった。時に、新暦七十五年二月の事であった……



おまけ

「あ~、情けないとこ見せたな~」

 風呂に浸かり、真司は一人そう呟いていた。ジェイルは先程上がっていった。今日も実験をするそうで、真司に夜食の注文をしていった。
 ちなみに希望は梅入り焼きおにぎりとただの澄まし汁。おにぎりを一つは普通に食べ、残りを澄まし汁に入れて突き崩して食べるのが、最近のジェイルのお気に入りなのだ。

「……俺、愛されてるんだな」

 改めてそう感じる事が出来た今日の出来事。あの後、真司は涙を拭っていつも以上に笑って見せた。それに全員が嬉しそうな雰囲気に戻り、それを感じ取って真司も嬉しくなったのだから。

「……今日はジェイルさんの夜食を作らなきゃなんないし、早めに出ようかな?」

「あら? もう少しぐらいいいじゃない」

 突然、真司の後ろから声がした。その声に真司は一瞬硬直し、静かに視線を声のした方へ動かそうとした所で、嫌な予感がけたたましい音を立てて鳴り響き、真司は思い止まった。
 そう、ここは風呂場。ならば、下手をすればこれまでの結末を辿る事になると。そう判断した真司に、声の主はどこか楽しそうに笑う。

「……何の用ですか、ドゥーエさん」

「釣れないわね。何ってお風呂に入りに来たのよ」

「ここ、男湯です」

「あら? でもセインは何度か入ったでしょ?」

 その言葉にギクリという音が聞こえそうなぐらい真司は動揺した。その顔には、何故知っているのかという疑問がありありと浮かんでいた。それを見ずともドゥーエは真司へこう告げた。セインは良くて自分はどうして駄目なのかと。
 それに真司が答えようとするが、それを遮る声がした。そしてその声が一つではなかった事に、真司は驚愕を通り越し呆然となった。何故なら……

「ドゥーエ姉様、抜け駆け禁止です」

「そうよドゥーエ。大体真司さんを励まそうと提案したのは私でしょ」

「な、なぁ、別に風呂でなくても良いのではないか……?」

「チンク、もう無理だ。こうなれば覚悟を決めるしかあるまい」

 クアットロを先頭に、ウーノ、チンク、トーレが現れたのだ。真司は幸か不幸か背を向けているため確認出来ないが、声からおそらく裸であろう事は理解した。チンクとトーレの声にかなり恥じらいを感じる事が出来たし、ウーノやクアットロもどこか恥ずかしがっているようだったからだ。
 しかし、真司はウーノの言った励ましの部分に疑問を感じ、それを尋ねた。すると、それにウーノ達がこう答えた。妹達は真司を直接励ましたが、自分達はそうしてやれなかったと。姉として妹さえした事をしない訳にはいかないと。

「い、いやいや! 気持ちは嬉しいし、分からないでもないけど、別に風呂じゃなくても……」

「……だって、妹達とは入ったじゃないですか」

 真司の答えにウーノは小さく呟く。それを聞き、ドゥーエは微笑み、クアットロは頷き、チンクとトーレは微かにだが頷いた。無論、真司がその反応を見る事が出来るはずもなく、ただどうして何も言わないのかと聞き返すだけだった。
 この後、真司は強制的に五人によって具体的に励まされる事はなく、ただからかわれたり悪戯されたりとむしろいじめられる。そして、最後には……

「じゃ、私が頭を」

「なら、私は右腕」

「……左腕だ」

「じゃあ……背中?」

「わ、私の担当がないぞ!」

「あら、チンクは前でいいじゃない」

「「っ?!」」

「も~、シンちゃんも期待し・な・い・の」

 と言ったように前回以上の精神的拷問を受けるのでした。ちなみに、チンクはクアットロと共に背中を洗いましたとさ。



ジェイルラボ 廃棄所。そこに置いてあるトイが入ったケースへ、あの謎の生物の触手が伸びる。それは次々にトイへ刺さっては、また別のトイへと刺さっていく。そして、それらを全てのトイへ指し終えた生物は、触手を自分の手に戻した。

―――当面の駒は得た……。後は……

誰も近寄らない空間。そこに響く不気味な声。静かに育まれる闇の胎動。その覚醒は近い……




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空白期最後。次回からStS編開始。これまでと違い、最初はメインが龍騎となります。一話での他のライダーの出番はまだ未定。

……真司はこれでオマケ最後。……終わりったら終わり。



[22476] Masked Rider in Nanoha 空白期最終回&StS編序章
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/12/22 08:00
 入念に準備運動をしている二人の少女。一人はオレンジ髪のツーテール。もう一人は青い髪のショートカット。ティアナ・ランスターとスバル・ナカジマの二人だ。共に自身のデバイスを点検し、体もほぐしたとばかりに互いに見つめ頷き合う。

「ティア、頑張ろうね」

「当然。ま、でも気張り過ぎずに行きましょ。これが駄目でも次があるから」

「分かってるよ。でもさ、出来る事なら……」

「「一発合格」」

 そう言い合って笑みを見せ合う二人。訓練校で出会ったルームメイト。自分の力が上手く使えず、困っていたスバルだったが、それをティアナは少し苦笑しながら矯正していった。ないよりもあった方がいいし、いつか調節出来るようになるでしょ。
 そう言って、じっくりゆっくりスバルの力を導いたティアナ。苦労は絶えなかったが、不思議と嫌ではなかった。スバルの飲み込みは早く、少し気を付けるだけでどんどん成長していった事も関係していただろう。

 対するティアナもスバルから色々と得たものもある。使いこなせない力は危険でしかない。自分の出来る事を正しく理解し、適切に使う。それこそが強さだと。そして、スバルの人懐っこい性格もティアナには好ましかった。
 翔一のように自然体でと心掛けるティアナ。命を助けてくれたクウガとなのはへ憧れを抱き、それを追い駆けるスバル。そんな二人が強く結びついたキッカケは、ある一つの仕草。

「どんな苦労も必ず実る」

「だから、絶対諦めない」

「「それを忘れないなら、大丈夫!」」

 サムズアップ。これを二人が共通の仕草と知ったのは、スバルが進路希望を書いていた時。スバルがそれにティアナとのコンビを希望すると書いていたのを見て、叶わなかったらどうするのかと尋ねた際に返した事がキッカケ。
 笑顔でサムズアップと共に大丈夫と告げるスバルに、ティアナはどこか翔一を重ね合わせ、尋ねたのだ。それは、癖かと。それにスバルは少し照れながら答えたのだ。

 自分を助けてくれた人が励ましでやってくれて以来、ついやってしまうのだと。それに翔一からの話を思い出し、ティアナが「その人って、五代雄介って名前?」と聞いたのだが、スバルは違うと答えてこう返した。

―――仮面ライダークウガだよ。

 それを聞いたティアナはしばし呆然。それに不思議そうな顔したスバルだったが、どこで会ったのかを聞かれ、空港火災の話をした。それにティアナは納得したものの、結局その後の消息は分からず、手掛かりは『エース・オブ・エース』の高町なのはがその五代と呼んでいたという事だけ。
 スバルはなのはに抱えられて見た夜空とその暖かさにも憧れ、いつか自分も、災害で困ったり苦しんでいる人を助ける仕事に就くと決めたのだ。

 そして、その後はティアナが翔一から聞いた話をし、スバルと二人で意外な所で縁があったのかと笑い合ったのだ。それ以来、二人は互いの励ましとしてこれをやるようになった。大丈夫や絶対出来ると意味を込めて。
 勿論、成功した際の納得出来るや満足出来るといった本来の意味でも使っていたが。そして、訓練校を卒業した後も、二人は共に同じ部隊に配属され、今に至るのだ。

「Bランク、かぁ。早かったよね、ここまで」

「そうね。でも、いつも実力的には当然って言われてたでしょ?」

「そうだけど……ティアがいるからここまでこれた気がする」

「はいはい。なら、アタシはあんたがいなきゃ来れなかったわ」

「ティア~」

 少し苦笑するようにティアナが言うと、スバルが嬉しそうに抱きついた。それに照れくさいものは感じるが、スキンシップが好きな性格だと知っているのか、ティアナは苦笑い。だが、何かに気付いたのかスバルをやや強く引き離す。
 それに不満顔のスバルだが、ティアナがため息と共に指を指した方向を見て、軽く顔に焦りの色が出る。

「仲が良いのは結構ですが、試験会場だという事を忘れちゃ駄目です」

「す、すみません!」

「すみません!」

 そこには空間モニターが出現していて、銀髪の可愛らしい少女が映っていた。ツヴァイはスバルへそう注意すると、言われた彼女は慌てて頭を下げた。ちゃんとティアナも謝り、ツヴァイは名乗りと共に二人の確認をする。それにはっきりとした声で答える二人に、ツヴァイは笑みと共に頷いて試験の説明を開始する。

 そんな様子を上空のヘリから見つめる者達がいた。八神はやて、フェイト・T・ハラオウン、そして……

「ティアナちゃん、合格するかな?」

 津上翔一。その視線を眼下でツヴァイの説明を聞いている少女へ向けている。それにはやてとフェイトは少し苦笑する。実力的に申し分ないと二人は知っているからだ。

「大丈夫や翔にぃ。ティアナはここまで試験一発で合格しとるし」

「それに、スバルとのコンビはもう十分前線で通用するレベル。きっと合格しますよ」

 フェイトはスバルと顔見知りである。というのも、光太郎がスバルとギンガが戦闘機人だと教えたのだ。フェイトも人に言えぬ苦しみと悲しみを知っている。だから、決して二人に変な事を思わないと理解したから。
 そして、それを聞いたフェイトはナカジマ夫妻に接触した。戦闘機人事件を追い駆けている最中に名前を報告書で見たからと、そう言って。それから情報を共有し、何度かギンガやスバルとも顔を合わせた。
 特にギンガとはあの時の救助の関係もあり、慕われていたりした。RXについて聞かれる事があったものの、自分もどこにいるかは知らないとかわしたりしながら。

「心配はいらないっすよ、翔一さん。大丈夫、て奴ですよ」

 二人の言葉に翔一が頷いたものの、どこかまだ不安そうなのを見て、操縦席から声がした。ヴァイス・グランセニック。彼はヘリパイロットとしてこれから発足される機動六課に配属される者だ。
 今回も本当なら光太郎が担当するはずだったのだが、フェイトの希望とエリオとキャロの方へ行き、その意志を最終確認してきてほしいと頼まれたため、ヴァイスに操縦席を譲ったのだ。

「……そうですね!」

「ちょ、わたしらには不安が残ったのに……」

「サムズアップは、絶対です」

 翔一の反応を見て軽く拗ねるはやて。それにフェイトは苦笑しながらそう答えた。そんな二人の視線の先では、説明が終わってティアナとスバルが動き出した所だった……



 かなりの好スタートを切った二人を見つめるサイドポニーの女性。その首元には紅い宝石が光っている。視線はずっと空間モニターの二人へと向けられていた。

「……あの時の子が、こんなに成長したんだね」

”もう四年近くになりますから”

「そうだね」

 感慨深く呟いた一言に対する、大切な相棒の味気ない答えに、女性は苦笑して答えた。そして、視線をモニターから外して周囲を見回す。すると、やっと通路の奥側から見慣れた顔が姿を見せた。それに笑顔を見せて、女性は手招きする。

「始まってますよ、五代さん」

「ゴメン。ちょっと迷っちゃって」

 そう五代はなのはへ手を合わせて謝った。それになのはは小さく笑い、視線をモニターへ戻す。丁度、スバルがティアナと合流した所だった。
 その動きを眺め、五代もなのはも感嘆の声を上げる。見るからに分かる。気張っていないのだ。緊張し過ぎでも、抜き過ぎでもない。適度な緊張。それをしていると、二人には見えたからだ。

 その後も危なげなく次々に進んでいく二人。それを見て、なのはは五代へ尋ねた。どうですかと。五代もそれにやや考えて、頷いた。聞いてた通り、元気でいいねと笑顔とサムズアップ。
 それになのはも笑って返す。もうすぐ動き出す機動六課。その前線メンバーとして、ティアナとスバルは選ばれているのだ。そこには、確かにはやて達隊長陣の考えや、光太郎と翔一の希望もある。だが、それを抜いても二人には可能性と才能があると、教導官として名を馳せているなのはは断言出来る。

(でも、ホントに凄い部隊だよね……)

 遺失物管理の部署として設立される機動六課だが、その戦力は正直異常なのだ。部隊長に総合とはいえSSランクのはやて。スターズとライトニングという小隊の隊長に、オーバーSランクのなのはとフェイト。更にそこの補佐にヴィータとシグナム。
 これだけでも、かなりの陣容だ。そこに、民間協力者として五代、翔一、光太郎の三人が加わる。そう、隊長陣しか知らないが仮面ライダーが三人もいるのだ。しかも、なのは達は魔力保有制限の兼ね合いで、本来の力を出す事が出来ないが、三人は魔力を持たないし使う必要もないため、その力は制限されないのだ。

(でも、あの邪眼を相手にするならそれぐらいしないと……)

 なのはの脳裏に甦る不気味な姿。あの当時の自分達にクウガとアギトを揃えてやっと勝てたのだ。それを思い出せば、この戦力でも不安は残る。だが、あの時よりも希望も大きい。それは、RXの存在。
 五代曰くクウガよりも強い存在であるRX。それが協力してくれれば、ユーノやクロノ、アルフにリーゼ姉妹がいなくても、戦力的には負けてない。そう思い直し、なのはは視線をモニターへ戻した。

 それを待っていたかのように、五代がしみじみと告げる。

「もう、あれから四年も経つんだね」

「はい。五代さんも翔一さんもあまり変わらなかったですね」

「そうなんだよ。だからさ、同じ事、ずっとすずかちゃんやアリサちゃんにも言われて……」

 まいっちゃうよ。そう言って五代は苦笑する。翔一や光太郎もそうなのにと、どこか腑に落ちないとばかりに呟いて。そんな五代になのはは内心同情するも、親友二人の意見も良く分かるので、敢えて告げた。
 外見が変わらないって、この年頃になると色々羨ましくなるんですよと。それに五代は納得した―――ような顔してからやはり納得出来ないと腕を組んだ。

”マスター、そろそろです”

「あ、そうだね。……行きますよ、五代さん」

 レイジングハートの声にモニターへ視線を一度向け、なのはは頷いた。そろそろ試験も終わりが見えてきたからだ。なので、未だにぶつぶつ言っている五代へ声を掛け、その腕を掴んで歩き出す。
 それに軽く引っ張られるように五代も動き出す。この後、二人をはやて達が正式に六課へ誘いを掛けるのだが、その前にスバルへ、サプライズをしようとはやては考えていたのだ。

 そう、憧れのなのはとの再会と、スバルは知らないだろうがもう一人の憧れであるクウガにも会わせようと。だが、なのはも五代もそれを知らない。ただ、軽い顔合わせに近いとだけ言われていたのだ。
 しかし、はやてとの付き合いが長いなのはと五代がそれに気付かないはずもなく……

―――とりあえず、クウガは秘密かな?

―――そうですね。いずれ機会を見てという事で。

 しっかりとはやての狙いは見抜かれている。だが、二人は知らない。翔一のせいで、その二人はクウガの正体を知っているなどと……



「時間も少し残して、ゴールか。いい感じだったわね」

「うんっ! 最後の大型だけ厄介だったけど」

 ゴール地点で笑顔を見せあう二人。途中さして危ない所もなく、無事に試験を合格出来たと思える内容で、心から喜びに浸る二人だったが、そこへ空間モニターが出現し、ツヴァイがそんな二人へ声を掛けた。

「これで試験終了。お疲れ様でした」

「「お疲れ様です!」」

「結果は、言うまでもないですね。正式にはまだですが、合格ですよ~!」

 ツヴァイの言葉に二人は密かに喜び手を叩き合う。だが、それを勿論ツヴァイも気付いている。しかし、それを注意するような彼女ではない。むしろそんな二人に笑顔さえ向け、こう告げた。
 試験合格のお祝いに、ちょっとしたご褒美があると。それに疑問符を浮かべる二人だったが、その次の瞬間、上空から耳に響くヘリの駆動音が聞こえてきた。

 そして、その巻き起こす風に煽られながら、二人はそこから降りてきた人物に揃って驚いた表情を見せた。

「フェイトさん!?」

「翔一さんにはやてさん!?」

「久しぶりだね、スバル。凄かったよ」

「ティアナちゃん、合格おめでとう!」

「いや、中々ええ動きしとったよ」

 予想しない人物達と言葉に、二人は嬉しいやら照れくさいやら。そんな二人を他所にヘリがそこから離れていく。そして、それと入れ替わりに空から現れる人影が二つ。といっても、一つはちゃんと空を飛び、もう一つはそれに掴まってる状態だったが。
 それに気付き、ティアナとスバルは視線を上げて言葉を失った。そこにいたのは、二人が良く知る人物だったからだ。しかし、それは内の一人であって、もう一人は初めて会う相手。

「っと、着きましたよ五代さん」

「ありがと、なのはちゃん。不思議な感じだね、空を飛ぶって」

 その名前に、二人は驚愕。なのはの名前は良く知っている。局員で知らない者はいない程の有名人だ。だが、今二人に強烈な衝撃を与えたのは、そのなのはに掴まって降りてきた男性が原因だった。
 五代は、そんな自分を見て硬直している二人に気付き、不思議そうな顔を向ける。しかし、何かに気付いたのか笑顔に変わって大声で言った。

「合格おめでとう! 頑張ったね!」

 サムズアップ。それを見て完全に二人は理解した。目の前にいる者が、自分達が会いたいと思っていた五代雄介なのだと。そして、同時にスバルを炎の中から助け出したクウガなのだと。
 それを悟った途端、スバルは涙を流して頭を下げた。それに戸惑う五代となのはだったが、すぐにその理由が分かる。

―――あの時は、本当にありがとうございましたっ!

 それがあの時の空港火災を言っていると二人は理解し、同時に五代達はスバルがクウガ=五代を知っている事も理解した。でも、どうしてと五代達が戸惑う中、ティアナが翔一さえ戸惑っているのを見て、ため息を大きく吐いて告げた。

―――翔一さんが言ったんでしょ。五代さんがクウガって……

 それに五代が驚き、翔一へ視線を向けた。翔一はティアナの言葉に一瞬不思議そうな顔をして、それに彼女が最初の朝にサムズアップの意味とかの話と言うと、やっと翔一は思いだしたようだ。
 だが、同時にすまなさそうに手を合わせて五代に謝った。それに五代だけでなく、はやて達も苦笑した。一人スバルだけは、そんな事お構いなく五代となのはへ涙で輝く視線を向けていた。

(やっと、やっと会えた……やっと言えた……)

 なのはもクウガもスバルに取っては命の恩人。燃え盛る炎の中、自分を助けてくれた赤いヒーロー、クウガ。その中から安全な場所まで一直線で連れ出してくれた、なのは。
 その二人にもう一度会ってちゃんとお礼が言いたい。それがスバルの一つの目標だったのだ。それがまさか一気に二人と再会でき、叶えられるとは思わなかったのだ。

「ま、翔一君らしくていいんじゃないかな? じゃ、軽く自己紹介」

 スバルが感動している間に、五代達は翔一のうっかり話を終えたようで、五代がスバルとティアナへ懐から名刺を取り出し、手渡した。
 それを反射的に受け取る二人。そこに書かれている日本語が読めず首を傾げる二人を見て、なのはが苦笑して読み上げた。夢を追う男、二千の技を持つ男。

「で、ここに五代雄介って書いてあるんだよ」

「夢を追う男……」

「二千の技を持つ男……」

 スバルとティアナはその大袈裟な文句を感心して聞いていた。五代の話を翔一やはやてから聞いていたティアナは、それが嘘ではないと知っているし、スバルはクウガそのものを見た故に、それを聞いてどこか納得したぐらいだ。
 その後、五代やなのはに何度もお礼を言うスバルを、ティアナが呆れながら突っ込んだ所で試験は完全終了となった……



 第六十一管理世界 スプールス。自然が多いこの世界は、それを保っていくための自然保護隊がある。主に、密猟者対策と生態系の把握と保持を目的としている。他の陸士隊に比べれば、平和な時間が多い場所である。
 そこに、桃色の髪をした少女と赤髪の少年がいた。キャロ・ル・ルシエとエリオ・モンディアルである。彼らはここ自然保護隊の所属でとして働いていたのだが、近々異動する事になっていて、今日はその最後の打ち合わせがあった。

「それで、二人はフェイトちゃんの小隊員になるみたいなんだ」

「そうですか……」

「じゃ、光太郎さんも?」

 キャロの言葉に光太郎は苦笑して首を横に振った。光太郎は予備ヘリパイロットとして、基本整備員達と同じような仕事をするのだ。それを聞いて二人はどこか残念そう。光太郎が一緒なら心強かったと揃って呟き、光太郎を困らせた。
 二人がここまで仲が良くなるのは、本来なら六課発足した後なのだが、光太郎という存在がいた事がそれを早めた。

 本来彼ら二人を会わせる事を、フェイトとしては時期を見てと考えるのだが、光太郎に相談した際、同年代と早めに繋がりを持たせてやった方がいいと言われたので、出会いが早まったのだ。

―――は、初めまして……キャロ・ル・ルシエです。こっちは、大切な家族のフリードリヒ。

 そして、初めてキャロと出会った時、光太郎はその雰囲気から寂しさを感じた。目はどこか怯えを隠していて、更に表情は相手のものを窺っているもの。どうも、それをエリオも感じ取ったらしく、その紹介を受けて声を少し抑え、明るさをやや強めて告げた。

―――初めまして。僕はエリオ・モンディアルって言うんだ。よろしく、キャロ。そして、フリードリヒ。

 どうも、そのフリードにまで挨拶したのが、キャロには予想外だったのか軽く驚きを見せた。しかし、エリオにフリードが軽く懐いたのを見て、嬉しそうに笑みを見せて自分はフリードと呼んでいると告げ、笑顔を見せた。
 それに光太郎もエリオも喜びを抱き、笑顔で頷いたのだ。それからエリオとキャロ、フリードが仲良く三人で話を始めたのを見て、光太郎は嬉しそうに頷いた。

 それから三ヶ月の間、キャロは驚きの連続だった。同い年の自分と似た境遇のエリオ。そして、人見知りする彼女の友達であるドラゴンのフリードがすぐに懐いた光太郎。その二人に加え、自分を助けてくれたフェイトの優しさに。
 初めはどこか遠慮があったキャロだったが、光太郎やエリオの性格に触れ、暖かみを感じる事で徐々にそれも無くなっていった。特にエリオとは互いの境遇を話し、共に涙を見せ合った事で強い繋がりを得たのだから。

 そして、キャロが局員になっているのを聞いて、エリオは自分も局員になると言い出してフェイトと光太郎は困った。しかし、説得しようとしたフェイトにエリオはこう言った。キャロとフリードが大人の中に入り、孤立してしまう可能性がある。自分は、そんな事にさせたくない。だからキャロ達と共に居たいのだと。

―――僕だけ光太郎さん達と一緒にいて、キャロ達は孤独なんてさせたくない。

 その言葉にフェイトが感動して涙。光太郎はそんなフェイトを宥めながら、エリオへ生半可な気持ちじゃただの同情だと告げた。それにエリオは頷いて、自分はキャロと支え合うためにいくのだと答えた。
 その眼差しが、鍛えて欲しいと頼んできた時と同じ輝きを宿しているのを感じ、光太郎は小さく頷き、フェイトへさせてやってほしいと頼んだ。フェイトはそれにやや迷ったが、エリオと光太郎の二人に頼まれ苦渋の決断で許可を出した。

 それからエリオは、その魔力変換能力や資質の高さから訓練を一部免除され、光太郎とのトレーニングで身に付けた力を発揮。同年代以上の身体能力を見せる事で、キャロの異動に遅れる事半年で自然保護隊に配属となった。
 それから、ずっと二人はコンビとして支え合っていた。エリオは前線として、未熟ながらも光太郎との訓練やフェイトの助言で成長し、キャロはそんなエリオの姿を見て、自分も少しでも力になれるようにと自身の能力を少しずつ高めようと、頑張ってフリードの制御を出来るように努力した。

「で、本当にいいんだね?」

「はい。エリオ君と話し合って……」

「もう決めましたから」

 そう二人は笑みを浮かべて互いを見つめる。その様子に、確認をした光太郎は少し苦笑して頷いた。ハラオウン家で二人の面倒を光太郎が見たのは、たった三ヶ月。と言うのも、キャロは既に局員となっていて、次の配属先が決まるまでの期間しか入れなかったからだ。

「……よし! じゃ、フェイトちゃんには俺から言っておくよ。二人は、ミッドに行く準備をしておいてくれ」

「「はいっ!」」

 光太郎の言葉に二人は笑顔で頷いた。それに光太郎も笑顔を返す。そして、二人は定期巡回の時間だからとその場から離れていく。それを見送り、気をつけてと声を掛ける光太郎。その後ろから、二人分の気配が近付いてくるのを感じ、光太郎は振り向いた。

「相変わらず元気ですね、光太郎さんが来ると」

「話は終わりました?」

「はい。すみませんが、もう少しだけ二人をよろしくお願いします」

 自然保護隊で二人の面倒を見てくれているタントとミラだ。優しい印象の男性のタント。面倒見の良さそうな女性のミラ。この二人と光太郎は何度か顔を合わせている。
 忙しいフェイトと違い、光太郎は基本時間が自由に使える。そのため、よく二人の様子を見に行かせられたのだ。対するエリオとキャロも、光太郎が会いに来る度に喜んでいたので、本人としても不満はなかったのだが。

 その後、二人と今後の事を少しだけ話し合い、六課が解散した後の事はエリオ達に一任する事で決まっていると告げると、二人はどこか嬉しそうに笑った。エリオもキャロも優秀な魔導師。今はまだ経験や年齢のためそこまでではないが、それを埋めれば凄い人材になる。
 だが、タント達はそれだけではない。二人の性格と、何より弟と妹のように思ってくれているからだと、光太郎は知っている。だから、こう告げたのだ。

「きっと、二人はまたここへ戻ってきますよ。この仕事が好きみたいだし、何より、お二人がいますから」

「光太郎さん……」

「そうですか。なら、僕達はそれを願って送り出します」

 光太郎の言葉に少し目を潤ませるミラ。タントはそんな彼女を見て、優しく肩に手を置いた。そして、自分達に言い聞かせるように、力強く言い切った。その言葉に光太郎はもう一度二人の事を頼み、その場を後にする。
 その背中を見送りながら、二人は思い出す。初めて光太郎が来た時、偶然密猟者達がやって来たのだ。しかし、そこへタント達が到着する前に彼らは沈黙させられた。光太郎一人によって。

 その時の事を思い出し、タントとミラは不思議に思うのだ。何故、そんな力を持つ光太郎を局員にフェイトはしないのだろうと。自然保護隊に誘った事もあるのだが、振られてしまった。
 だが、そんな光太郎を六課は加えた。その理由と、光太郎が協力を決めた原因。それがどうしても二人には分からなかった。

 その頃、二人はフリードと共に歩きながら六課の事を話し合っていた。フェイトや光太郎の事だけではなく、二人が久しぶりに会いたい者がいるため、今はその相手の話をしていた。

「五代さんも来るんだね」

「楽しみだね。フリード、またジャグリング見せてもらえるよ」

「キュク~」

 キャロが五代に会ったのは六回だけ。その内三回も五代がジャグリングを見せたため、フリードと共にキャロのお気に入りとなっていた。ちなみにストンプも披露した時、キャロは楽しんだ。だが、フリードは音が色々と鳴る事に少しだけ嫌がる素振りを見せたので、以来ストンプをする事を五代は躊躇いを見せ、一度だけの技となっている。

「キャロ、遊びに行く訳じゃないよ」

「分かってるけど、お休みとかならいいかなって」

「キュクキュク」

 キャロの答えに賛同するように声を出すフリード。それにエリオとキャロは笑みを見せる。実は、フリードの本当の姿は巨大な翼竜。しかし、キャロが制御しないと恐ろしい力になってしまうため、普段は力を抑えた小さい姿をしている。

「そうだ。六課に行く前にフリードの制御、もう一度だけ練習しておこうか」

「そうだね。せめて興奮する事がない時ぐらいは、制御出来るようになりたいな」

「キュク?」

 楽しげに話す二人。それに首を傾げるフリード。自然に囲まれた中で、幼い男女は優しさと強さを磨いていく……



 ジェイルラボ 研究室。そこでジェイルはある物の最終調整を行なっていた。

「……これで……どうかな?」

 慎重に押されるEnterキー。そして、画面に映った文字は”Complete”。それは、実験の成功を意味していた。ジェイルはそれに満足そうな表情を浮かべ、小さく頷いた。
 彼が行なっていたのは、ベントカードの製作。従来考えていた現状にはない物を作り出すのではなく、現状の物を複製する事に力を注いだ結果、ついにソードベントを作り出す事に成功したのだ。

 そして、それが意味するのは、龍騎の持っているガードベントやストライクベントも同じように作り出せるという事。だが、肝心のファイナルベントだけは、その威力のためなのか、それともモンスターの力を使うからなのか知らないが、未だに再現出来ないのだ。
 ジェイルの手元に現れるベントカード。そこには、確かに剣の絵が描かれている。ただ、ドラグソードではなく、ただの剣だった。ブランク体が使う物である。しかし、それでもジェイルに取っては大きな進歩。

(これで、やっと先へ進めるね……)

 真司に渡したい力。それへの道がまた一歩進んだ事に喜びを感じつつ、ジェイルは時計へ目をやった。時刻はそろそろ夕食開始の午後七時近く。それにジェイルは慌てて、今完成したばかりのデータを保存して部屋を出て行く。

 誰もいなくなる研究室。そこに不気味に現れる巨大な目玉。それは、ジェイルの操作していたコンソールへ近付き、消えた。それと同時に先程のデータが表示され、更に多くのデータが次々と表示されていく。
 そして、それら全てが一瞬で消える。消去ではない。複製されたのだ。そう、邪眼によって。闇の書の機能のほとんどを取り込んだ事による蒐集。それを、魔法ではなくデータへと切り替えて。

―――これで力も得た。残るは……

 徐々に力を取り戻し、そして増しつつある闇。その目覚め、それが訪れる時はもうそこまで迫っていた……



「へぇ、姉妹で局員か」

「ああ。まぁ、私は会う事は難しいが、あの子達なら何ら問題ないからね。いつか、会わせてみたいものだよ」

 夕食も終わって風呂に浸かり、ジェイルと話す真司。今の話題はナンバーズの親戚であるナカジマ姉妹。ジェイルは、彼女達に近々ナンバーズを接触させようと考えていた。それは、姉妹の存在を知った後発組が会ってみたいと言い出したため。
 特にノーヴェは、自分と双子と呼んでもいいスバルの存在に親近感を抱き、是非会ってみたいと強く言っているのだ。他の者達も質こそ違え、二人に会いたいと思っている。
 そのため、ジェイルとしてはそのタイミングを計るために姉妹の色々を把握しているのだ。出来れば、局員としてではなく個人として行動している時がいいと考えて。

「今、どこで働いてんの?」

「姉のギンガは陸士隊の108という所だ。父親が部隊長をしている。妹のスバルは今は陸士隊の386だが、近々異動する話が出ているね」

「異動? どこへ?」

 ジェイルが何故そんな情報をと思う真司だったが、彼が管理局と独自の繋がりを持っている事を思い出し、それを聞く事はしなかった。
 そんな真司にジェイルは思い出すように告げた。そのスバルが異動する予定の部隊名を。それが、後に自分と深い関わりを持つとは知らずに。

―――試験運用のための部隊でねぇ。名前は……機動六課だよ。



 恒例の熱冷まし雑談タイム。全員で真司が色々と話を聞かせる憩いの時間。それぞれ寝間着に着替え、その手にはカップを持っている。中身は、ディードが淹れたハーブティー。
 寝る前にこれを飲むのが、ここ二ヶ月前から定番になっていた。だが、最近は真司が話を聞かせるというより、話を聞いているという方が正しいかもしれない。

「で、最高評議会が依頼してきたんだよな」

「そうそう。でも、発案者はレジアス・ゲイズだよ。戦闘機人を欲しがったのは、ね」

 真司が執筆中の本。それに関する確認となっていた。後は、それぞれにインタビューまでしていて、自分の生まれに関する意見。そして、感想などを答えてもらい、真司はそれをメモして最後に載せるつもりでいるのだ。
 今日は、戦闘機人を生み出す事になった経緯。それをジェイルの口から聞いていた。無論、それを知っているウーノやドゥーエでも良いのだが、やはり当事者で開発者であるジェイルが話すのが一番だと、誰もが思っていた。

 そして、そんな話をセイン達も聞き、改めて色々と考えたりするのだ。自分達の生まれた表向きの理由。それが意味する事や問題点などについて。一方、ウーノ達も知らなかった情報が時々ジェイルから告げられ、考える事もあった。
 そんな感心と驚きに満ちた時間も終わりを告げ、後は寝るだけとなったのだが、ジェイルが全員へある事を提案した。それは、研究が一段落したのでみんなでどこかに出かけようというもの。それを聞いて喜びに沸く真司達。

「どこに行くッスか?」

「あ、あたし旅行がいいな! 泊りとかしてさ!」

 ウェンディとセインが真っ先に反応を示せば……

「山にハイキングとかかな?」

「海辺でリゾートと言うのもいいかもしれません」

 ディエチの言葉にディードが笑みと共にそう返す。

「行楽地で遊ぶのがいいのでは?」

「遊園地ねぇ……私はあまり気乗りしないわぁ」

「でもクア姉、行ったら結構楽しみそうな気がする……」

 オットーの提案にクアットロがそう言えば、それを聞いてノーヴェがぼそりと呟いて……

「映画とかどうだ?」

「あら、いいわね」

「なら、その後はショッピングかしら?」

 チンクの意見にドゥーエが賛成し、ウーノが笑顔でその後の予定を告げる。

「……ラボでのんびり」

「お前はたまに真司のような事を言うな……」

「どういう意味だっ!」

 セッテが肩身が狭そうに告げた言葉に、トーレがそう呆れつつ返す。それに真司がやや怒り気味に突っ込んだ。

「まぁ、とにかく近い内に……」

 そんな風にそれぞれで騒ぎ出す真司達を見て、ジェイルは苦笑気味に止めようとした。だが、その次の瞬間、ラボ全体に警報が鳴り響いた。
 それを聞いて、ジェイルだけが驚愕の表情を浮かべる。そう、それは有り得ない事なのだ。鳴り響く警報の意味。それは、ラボのシステムにハッキングを掛けられているという事。

 即座にジェイルはウーノへISを使い、システムチェックを指示。更に、万が一に備え全員に戦闘態勢を告げた。ハッキングを仕掛けた相手が、それだけで終わるとは思えない。
 そう判断したジェイルは、急いで自室へと戻る。もしものための緊急手段。それを使わなければならないと。そして、真司のために研究しているデータだけでも守るために。

 そんなジェイルを見て、真司はトーレとチンクへジェイルを追うように告げた。何があるか分からない以上、誰かが傍にいた方がいいと。それに二人も頷き、更にセッテとウェンディもトーレとチンクに呼ばれてついて行った。
 残った真司達は、セインがISを使い全員のボディースーツを取りに行き、トーレ達へ届けてから戻ってくる事になった。クアットロとオットーはウーノの補佐を。ノーヴェとディエチ、ディードはいつ何が起きてもいいように周囲へ警戒をし始め、ドゥーエは念のために真司へ変身するように告げてコンパクトを取り出した。

「この中で一番強いのは真司君なんだから」

「……分かった!」

 距離を取り、全身が映るようにして真司はデッキをかざす。そして―――。

「変身っ!」

 掛け声と共にそれを出現したベルトへ装着させる。瞬時に変わる真司の姿。

「っしゃあ!」

 変身完了し、周囲へ視線を向ける龍騎。だが、怪しい気配はしない。それでも警戒は怠る訳にはいかないと、龍騎は真剣な雰囲気のままその場に立ち尽くす。
 すると、ウーノが信じられないという声で驚愕の事実を告げた。既に謎の存在によってラボのシステムはほぼ掌握されていて、ウーノがそれに対抗しようとしているのだが、相手の方がその速度よりも早くプロテクトを破ってくるのだ。

 クアットロとオットーも、その速度には驚くしかないと悔しげに言いながら、その手を止めようとはしない。そこへセインが大慌てで戻ってきた。その手にしたボディースーツを手渡し、セインは告げた。

「おかしいよ! トイが何でか動いてて、あたし達を攻撃してきてる!」

「何ですって!?」

「ドクター達はもう対応を始めてる。トーレ姉達がドクターの作業が終わるまで退路を確保してるよ!」

 着替えをしようとしていたドゥーエだったが、その発言にさすがに動揺を隠せない。既に起動する事のないようにされたトイ。それが、勝手に動くだけでも変なのに、こちらに攻撃をしてきたとくれば、それはもう異常を通り越して非常事態だ。
 戸惑う妹達へドゥーエは鋭い声で早く着替えるように指示を出す。ウーノも今は着替えた方がいいと告げて、着替えを手渡す。丁度、ジェイルの方でも動き出したようで、その僅かな隙にウーノ達も着替えるべく動く。

 龍騎はそれを見ないようにし、ただ耳を澄ませた。すると、どこからか何かが近付いてくる音が聞こえ、龍騎はデッキへ手を伸ばしてソードベントを取り出した。

”ソードベント”

「ノーヴェ、ディエチ、ディード。こっちは俺が戦うから、お前達は別方向を頼む」

 手にしたドラグソードを振り払い、龍騎は見えてきたトイ三体へ向かって走る。だが、三人は龍騎の事が心配なのか、そちらしか見ていない。それを見て、クアットロが叫んだ。

「何ボサっとしてるの! あっちはシンちゃんに任せて、貴方達は別方向に備えなさいっ!」

「「「り、了解!」」」

 初めて聞くクアットロの大声に、驚きながらも三人は返事を返して視線を龍騎から外す。それに笑みを見せるクアットロ。ウーノとドゥーエは三人とは違う意味で驚き、オットーとセインは三人と同じ意味で驚いていた。
 その間も謎の存在によるハッキングは続いた。それに対しウーノ達が抵抗する中、龍騎達は襲い来るトイ達を相手にしながら、その異常性を実感していた。それは……

「こいつら……硬いっ!」

「嘘だろ!? アタシの全力でようやくかよ!」

 簡易砲撃を受けても止まらないトイにディエチがそう言えば、ノーヴェは自身の全力で動きを止めたトイに驚きを隠せない。ディードも、手にしたツインブレイズで軽く切り裂けるはずの相手の変化に戸惑っていた。
 龍騎もそれは感じていた。以前に戦った時よりも強度が増している。しかも、攻撃速度も上がり、厄介さが格段に上昇していたのだ。

 それでも、龍騎達は戦い続けた。しかし、おかしな事に倒しても倒してもトイが減らない。襲ってくる数自体は少ないため大した事ないのだが、切れ目なく襲ってくるため、気の休まる暇がないのだ。
 ウーノ達もおかしな雰囲気を感じていた。システムを掌握出来るはずなのに、何故かそれが目前まで来ると不気味なぐらい動きが止まるのだ。まるで何かを待っているようなその反応に、ウーノもクアットロもオットーさえも嫌な感覚しか覚えない。

『ウーノ、チンクだ』

「どうしたの?」

 突然現れた空間モニターに驚きつつ、ウーノは勤めて冷静に問いかけた。チンクはやや焦りながらではあるが、ジェイルが今緊急時の自爆装置を起動させた事を伝えた。止められるのは、ジェイルのみなので後十分で脱出しなければならない。
 現在、ジェイル達は龍騎達の方へ向かっていて、合流次第ラボから脱出し放棄すると告げた。それに一瞬だが、全員が息を呑む。見れば、チンクも悔しそうに表情を歪めていた。

「それって……」

「あたし達の家……捨てるの?」

「チンク姉、冗談だよな?」

『……事実だ。ドクターさえ手を付けられんらしい』

 チンクの告げた内容に、ディエチは信じられないといった表情をモニターへ向けた。それに続くように告げられた二人の言葉。その声に込められた嘘だと言って欲しいという思いに、チンクは苦しそうに答えた。

「嘘……ドクターでも手を付けられないって……」

「ラボを放棄……そんな……」

「……分かりました。では、お待ちしていますチンク姉様……」

「どうかご無事で……」

 ドゥーエとウーノさえその事実に言葉がない。天才であるジェイル。それが構築したシステムやプロテクトを簡単に掌握出来、ジェイルよりも一歩先んじるような芸当が出来る相手など、いるはずがないと思っていたからだ。
 そんな暗くなる二人と違い、オットーとディードは比較的冷静に考えてそれに同意した。だが、その声には明らかに悲しみと悔しさが混ざっている。このラボで家事を積極的にしていた二人にとって、まさしく我が家を失う事は耐え難い。
 それでも、姉達も同じ気持ちであると思う事で、それを必死に飲み込んだのだ。既にウーノの補佐を離れ、オットーとディードは二人で龍騎の援護していたのもある。

 何故なら、チンクの言葉を聞いた時から龍騎は無言で戦い続けているのだ。疑問も怒りも悲しみも。一切の感情を見せず、ひたすらトイを倒し続けている。それを見ていた二人には、自分達が怒り等を出す訳にはいかないと思ったのだ。
 誰よりも悔しく、辛いのは、自分達の目の前にいる人物だと、そう思っているから。故に抑え込む。湧き上がる思いを必死になって。

「……っ」

 龍騎の一撃がまた一機トイを倒す。それを見下ろし、龍騎は拳を強く握り締める。痛感する無力感。ライダーでありながら、ジェイル達の暮らしを守る事さえ出来ない。そう感じ、龍騎は手にしたドラグソードを振り払う。
 それが接近していたトイのレーザー部分を破壊し、そのまま沈黙させる。それを蹴り飛ばし、龍騎は大きく息を吸って吐いた。

「……っ!」

 また向かってくるトイ達へ、龍騎は挑む。それを支援するべく動くオットーとディード。それを眺め、クアットロは思う。それは、先程ウーノの補佐をしていた時に見た光景について。
 一瞬しか見えなかったが、とても忘れる事の出来ない光景。それは、廃棄所に映っていたある物。それを思い出して、クアットロは呟いた。

「あれ、何だったのかしら……」

―――不気味な大きい目玉が浮んでいるように見えたのだけど……




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空白期最終回。そして、StS編序章。

ついに動き出した機動六課。原作とは違う関係を築き、良い方向へと向かっている六課の面々。

それとは逆に、動き始めた邪眼。悪い方向へ向かっている真司達。最初からクライマックスな展開です。


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