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[24865] Fate/Boogeyman   『Fate/stay night』×『装甲悪鬼村正』
Name: 有希◆753cfdc3 ID:8a388b8d
Date: 2010/12/21 17:12
11/21 登場人物ステータスを修正しました


前書き
本作品はFate/stay nightと装甲悪鬼村正のクロス作品です。

物語の進行上、原作設定の改変やキャラの性格、考え方が変わったりします。

その他にも原作ファンの方々には少し納得できない描写が多々出ると思われますので、それらが許せない方々は戻るボタンで戻ってください。

以上に納得できる方々は↓へどうぞ。






これは英雄の物語ではない。


英雄を志す者は無用である。






英雄の時代は終わった。
高速徹甲弾は劔冑の甲鉄を容易く貫き、発振砲は中身を灼。
隠形竜騎兵は寝首を掻く。
力は要らぬ。技も要らぬ。魂さえ不要。
剣戟舞踏は廃れ、戦場から姿を消した。

――だが、それでも 武 はここにある。

傭兵帝国。聖堂騎士団。軍隊派遣会社

通称 武帝

真打劔冑を纏う古い武者を主戦力とし、最新の竜騎兵で組織された軍隊にも後れを取らない戦闘力。

彼らは、契約条件を満たすのならば、何者にでも力を貸す。

国家、民族、宗教、主義主張も一切問わない。
侵略、防衛、耕作、粛清――作戦目的も問わない。
故に頼る者も多く――
そのたびに彼らは武侯を高めてゆく。
それと同量……あるいは倍の、悪名と共に。



第一話 村正



「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師シュバインオーグ。
 降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する」

   セット
 

「―――――Anfang」

「――――――告げる」

「――――告げる。
 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

「誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、
 
我は常世総ての悪を敷く者。


汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

途端目が焼けると思うぐらいの光が魔方陣から発せられる。

来た。

間違いなく私は『最強』を引いた。

私は心の中でそう確信し、光に目を歪ませながらサーヴァントが現れるのを待つ。

光が掻き消え、そこに立っていたのは、
一人の……そう、体中から重苦しい、いや、話しかけづらい空気を出している男であった。

「……サーヴァント、アヴェンジャー。召喚に応じ参上した」

良く通り、低く、好きなものが聞くと心地よく聞こえる声色で召喚者、遠坂凛に告げる。

「ん、アヴェンジャー? 聞かないクラスね、イレギュラーかしら?」

………………。

私の問いに対し帰ってきたのは無言
何の反応もなく、私の事を見つめている。

(あのサーヴァントは私の事を試しているのだろうか?)

いく刻か無言が続き、少しこの空気に耐えられなくなってきた所でサーヴァントの口が開きどんでもない事を言った。

「初めに言っておくが、俺はマスターなどと慣れ合うつもりは毛頭ない、戦いの経験が無いマスターなど足手まといでしかない。」

「……………
 それは一体どういうことかしら?」

「素人に余計な口出しをされてはたまらん。マスターはおとなしくここに隠れている事を推薦する。」

≪ちょっと御堂、言いすぎよ、別にあなたの言う事が間違っているという訳ではないけれど、もう少しオブラートに包んで言いなさい、マスターにだって体面は有るのだもの、
こんな直球的に言えば素直に聞く訳がないわ≫

途端、空間から赤い大蜘蛛が、どこからともなく現れ男に文句を言っている。

「む、俺はただたんに回りくどく言えばマスターに逆に不快な気分にさせてしまうと思い直球的に言ったのだが、、
何か間違っているのか?」

≪その考え方には賛否両論があるけれども、この場合だと間違いね、見てあなたのマスター、顔を真っ赤にして今にも爆発しそうよ。≫

……確かにそうだ、茹で卵みたいになっている。

「先のは無しだ、言いなおす。」

そろそろだめみたいです父さん。

わたしもう、臨界点を突破します。

「気を悪くしたんだったら謝ります。勿論、マスターの目的は遂行する、
戦いで手に入れたものは君に渡すし、ちゃんと報告もする。
どうせマスターは令呪を利用できないだろうし、工房に隠れて入れくれませんか?」

「……ああ。 ―――あったまきたぁーーーー!!
 いいわ。そんなに言うんなら使ってやろうじゃない!
            
 ―――――Anfang……!(セット)」

 もう、容赦無しだ。こんな輩相手にかけてやる情けなどあるものか!!

「!?、何故だああああああああああああああ」

「Vertrag……! Ein neuer Nagel(令呪に告げる 聖杯の規律に従い)
   
Ein neues Gesetzl Ein neues Verbrechen―――!(この者、我がサーヴァントに 戒めの法を重ね給え)」

「ま、待て!早まるな、正気か!? こんなことで令呪を使う奴なんて――」

「うるさーーいっ!
 良い? 貴方は私のサーヴァント。 だったら、私の言い分には絶対服従ってもんでしょ!?」


「―――なっ」

 ――右手に刻まれた文様が淡く光そして消えた。

数秒と呆然とし、少々戸惑いつつ自分の劔冑に問いかける。

「……………。
 村正、現在の俺の状態を報告しろ。」

主の問いに少しの時間の間を置き、戸惑いを隠せないという空気を醸し出しつつ答える。

≪りょ、諒解、武装は野太刀、太刀、脇差。
 善悪相殺の呪いも機能しているわ、身体能力も私たちの全盛期そのもの、現在の状態は最高よ、ただ一つを除いては…だけど。≫

「そうか、大体把握した。」
 
『「最低だな」≪最低ね≫』

自分のサーヴァントと大蜘蛛に駄目だしされた。

「う、うるわいわね!!
あんたのせいなんだから!」


次回予告

次は士郎がサーヴァントを召喚してちょこっと戦闘。
ですね、残念ですが士郎が召喚するのはFateのセイバーではありません。
もうここで凄い原作崩壊ってLvを越える気がするんですが、
やっぱり士郎にはこれしかないってサーヴァントが村正にいるので登場させます。

いったい誰が召喚されるのか?
予想してみてください^^



[24865] コメント返し どんどん更新していきます~
Name: 有希◆753cfdc3 ID:8a388b8d
Date: 2010/12/21 17:08
キジムナーさんへ

《しかし何で景明の性格で初見のマスター相手に開口一番無礼な口たたくかな。》

これですが、善悪相殺の呪いがあるからというのも理由の一つです。
おそらく、まず最初に仲が良くなり関係が深くなるのはマスターからなので、敵のサーヴァントを殺してしまうと自分のマスターを殺してしまう事になりますから。


《しかし剣冑って空飛べるんだし、わざわざ同じ土俵で戦う必要もない気も》

これについてですが、空を飛んで戦った場合、マスターである士郎が狙われてしまう可能性があるので地上で戦いました。

《ついでに喰らったのは死棘なのになんで死翔になってるんだか辺りも不思議》

これについてですが、
投げたんだし死翔になるんじゃね?と自分で勝手に解釈しました。


指摘された件を修正しました。


rinさんへ

《>>善悪相殺の呪いも機能しているわ
ちょっと、まて、それは安心しちゃいけない、絶対に停止していけなきゃいけない機能だろ!》

このツッコミですが、
本作品の景明は武帝時代に夢半ば自分とは別の選択をした景明に殺されて半英雄になった。
という設定です。
なので当然望みは受肉し、善悪相殺をモットーにして世界から争いをなくす事です。
なのでこの場合呪いが有ろうと無かろうと、景明には関係が無いのでこうなりました。


なばばさんへ

《アヴェンチャー
約 239 件 (0.10 秒)
検索結果
もしかして: アヴェンジャー 上位 2 件の検索結果

なんかいろいろ惜しい。》

についてですが
修正しますたwww


クワガタ仮面さんへ

一条と士郎の正義を頑張って絡めて行こうと思ってまする。


一条さんへ

自分に惚れ直した!?w


蓬莱NEETさんへ

タイトルの所に分かりやすく書いてみようと思います!

それとタイトルの「Boogeyman」ってどういう意味ですか?
との質問に関してですが「悪鬼」という意味です。
分かりにくくてすいません><



[24865] 第二話 正宗
Name: 有希◆753cfdc3 ID:8a388b8d
Date: 2010/12/11 22:24
「─────── 」
嫌な気分のまま目が覚めた。
胸の中に鉛がつまっているような感覚。
額に触れると、冬だというのにひどく汗をかいていた。
「‥‥‥ああ、もうこんな時間か」
時計に目をやり、士郎はぼんやりと呟く。
時刻は六時を過ぎていた。
耳を澄ませば、台所からはトントンと包丁の音が聞こえてくる。これは、毎朝欠かさずこの屋敷に通ってきてくれる後輩のものだ。
「桜(さくら)、今朝も早いな」
感心して呟いてみるものの、そんな場合じゃないと思い直し、急ぎ着替えを済ませて居間へと向かう。 何故か今朝は、不可解なくらい体が重かった。
日課の鍛錬は、いつも通りはかばかしい成果は上げられなかったものの、かといってさしたるトラブルも起こらなかった筈だ。
「夢見が悪かったせいかな」
一人首を傾げるも、心当たりは思い浮かばず。
こっちもさっさと支度して、朝食の手伝いをしなければ。
居間で待つ人達に心配させぬよう、気力を奮い起こし、いつも通りの表情で障子に手をかけた。

皆で朝食を食べ、藤ねえが家を出た後、俺と桜も戸締りを確認して家をでた。

「先輩。今日の夜から月曜日までお手伝いに来れませんがよろしいですか?」

「? 別にいいよ、だって土日だろ、桜だって付き合いがあるんだから、気にすることないぞ」

「え───── そんな、違います……! そういうんじゃないんです、本当に個人的な用事で、あのっその・・・。

別に土日だから遊びにいくとかじゃないですから、だから、あの・・・変な勘違いはしないでもらえると助かります。」

「???」
なんか桜の様子がおかしいがとりあえず土日は来られないという事だろう。

「先輩、手───── 」

士郎の左手から、ポタリと血が流れている。

「あれ?」

桜の視線に気が付いたか、士郎もキョトンと自分の腕を見つめた。どうやら痛みは感じていないらしい。
学生服の袖(そで)をたくし上げる。
そこには確かに血が滲んでいた。

「なんだこれ。昨日の夜、ガラクタいじってて切ったかな」

切り傷というよりはその傷跡に近い。
血は滲んでいるものの、それはミミズ腫れのような、痣というほうが相応しいもので、制服を脱いで確認してみると、痣は肩から手の甲まで一直線に伸びていて、小さな蛇が、肩口から掌を目指して突き進んでいるようにも見えた。
「ま、痛みもないしすぐ引くだろ。大丈夫、気にするほどじゃない」

「そうですか、良かったです。」
ほう、と胸をなでおろす桜、安心したのか桜はうつむいたまま黙ってしまった


そろそろ校舎についたみたいだ、部活がある桜と別れて校舎に向かう。
校庭には走りこみをしている運動部の部員たちがいて、朝から活気が溢れている。

「…………」
にも関わらず、酷い違和感があった。
学校はいつも通りだ。
朝連に励む生徒たちは生気に溢れ、真新しい校舎には汚れ一つない。
気のせいかなと目を閉じると、一変する雰囲気。
校舎には粘膜のような汚れが張り付き、校庭を走り回る生徒たちは虚ろな人形みたいだ。
「たぶん疲れているのかな、俺」
悩んでいても仕方がないと軽く頭を振って、思考をクリアにする。
そうして、どことなく元気がないように感じられる校舎へと足を向けた。

土曜日、学校の授業は早く終わる。
午前中で本来なら帰宅できるのだが一成の手伝いをし終えた頃には、日は地平線に没しかけていた。
「さて、そろそろ帰るか」
荷物をまとめて教室を後にする。

と。
「なんだ、まだ学校にいたんだ、衛宮」
ばったりと慎二と顔を合わせた。
慎二の後ろには何人かの女生徒がいて、なにやら騒がしい、というかうるさい。
「やる事もないのにまだ残ってたの? ああそうかまた生徒会にごますってたワケね。いいねえ衛宮は、部活なんてやんなくても内申稼げるんだからさ」
「生徒会の手伝いじゃないぞ。学校の備品を直すのは生徒として当たり前だろ。使っているのは俺達なんだから」
「よし、なら頼まれてくれよ、うちの弓道場さ、今わりと散らかってるんだよね。弦もまいてないのが溜まってるし、安土の掃除もできてない。
暇ならさ、そっちの方もよろしくやってくれないかな。
元弓道部員だろ?生徒会になんか尻尾ふってないでたまには僕たちの役に立ってくれ」
「ああ、かまわないよ、どうせ暇だったから、たまにはこういうのも悪くない」
「はは、サンキュ! それじゃあ行こうぜみんな、つまんない雑用はあいつがやっといてくれるってさ!」


道場の掃除が終わり外に出る。
風が出ていた。
あまりの冷たさに頬が痛む。
冬でもそう寒くない冬木の夜は、今日に限って冷え込んでいた。
「─────」
はあ、とこぼした吐息が白く残留している。
指先まで凍るような大気の冷たさに、体を縮めて耐える。
「……なんだ。暗いと思ったら月が隠れているのか」
「――ん?」
ふと、金属音のような微かな音が俺の耳に届いた。あれは……運動場の方からか? こんな夜中に、俺みたいな物好き以外に誰が学校なんかにいるんだろう。
校庭にまわる。

「…………人?」

初め、遠くから見た時はそうとしか見えなかった。
暗い夜、明りのない闇の中だ。
それ以上の事を知りたければ、とにかく校庭に近づくしかない。

音は大きくより勢いを増して聞こえてきた。
これは鉄と鉄がぶつかりあう音だ。
となれば、あそこでは何者かが刃物で斬りあっているという事だろう。

「馬鹿馬鹿しい。何考えているんだ、俺……」

頭の中に浮かんだイメージを苦笑で否定し、さらに足を進める。
「……」
息を一つ飲んで、俺はその音がしている方角を校舎の影からそっと伺ってみる。金属同士が激しくぶつかり合う音が、運動場全体に響き渡っていた。そして。
――なんだ、あれは。
真っ黒な色な男と青い軽装鎧を纏った男が、それぞれ長い太刀?と真紅の長槍を振るい合っていた。さっきから鳴っていた音は、互いの得物がぶつかり合う音だったんだ。


理解できない。
視覚で追えない。
あまりの現実感のない動きに、脳が正常に働かない。
ただ、凶器のはじけ合う音だけが、あの二人は殺し合っているのだと、知らせてくる。

あれは人間ではない、おそらく人間に似た別の何かだ、自分が魔術を習ってるから分かったんじゃない。
誰だってあんなものを見たらすぐ分かる。

だからあれは、関わってはいけないモノだ。

「──────────」
離れていても伝わってくる殺気。
……死ぬ。
ここにいては間違いなく生きていられないと心よりさきな体のほうが理解していた。

「───────────────」

音が止まった。
二つのソレは、距離をとって向かいあったまま立ち止まる。
それで殺し合いが終わったのかと安堵した瞬間、いっそう強い殺気が伝わってきた。
「うそだ─────なんだ、アイツ─────!?」
青い方の槍に、吐き気がするほどの魔力が流れていく。
周囲から魔力を吸い上げる、という行為は見せてもらったことがある。
それは半人前の俺が見ても感心させられる、一種美しさをもった魔術だった。
だがアレは違う。
奴がしていることは、魔力をもつものなら嫌悪を覚えるほど暴食で、絶大だった。
「-------------------------」
殺される。
あの黒いヤツは殺される。
あれだけの魔力を使って放たれる一撃だ。それが防げるはずがない。
死ぬ。
人ではないけれど人を形をしたものが死ぬ。
それは。
それは見過ごして良いものなのか?
その迷いのおかげで、意識がソレから外れてくれた。金縛りが解け、はあ、と大きく呼吸した瞬間。


「誰だ─────────!」

青い男が、じろりと俺が隠れている所を凝視した。


終わった、それからの事は覚えていない、ただ我武者羅に逃げて槍で心臓を一突きされて死んだ。
それだけ。


「う……っ」
目が覚めると廊下だった。
のど元には吐き気。体はところどころ痛むし、心臓は鼓動する度に、刺すような頭痛がする。
長いこと廊下で眠っていたせいか、震えがくるほど体は冷え切っている。
唯一確かな事は、胸の部分が破れた制服と、べったりと廊下に染みついた自分の血だけ。

「これは、さすがにまずいよな……」

自分が倒れていた場所は、殺人現場のように酷い有様だ。
廊下の染みついた血を何とか拭き取る。

「胸を、貫かれたのか――?」

ハッキリとは分からない。
徐々に記憶は戻ってきてるが、自分の死んだ瞬間なんて思い出したくもない。
大体、とんでもないモノに出会って、いきなり殺されたっていうんだ。
なんだってこんな時まで、後片づけをしなくちゃいけないなんて思ってるんだ、馬鹿。

何とか片づけを終えて、朦朧としながらも帰路につく。
家に帰る頃には日付が変わっていた。
屋敷には誰もいない。
桜はもとより、藤ねえもとっくに帰った後だ。

「……あ…………はあ、はあ、は――――あ」
どすん、と床に腰をおろしそのまま転がって気持ちが落ち着くのをまった。

「……………………」


大きく胸をふくらますと、罅が入るかのように心臓が痛んだ。
いや、それは逆だ。
実際は心臓に穴があいていたのだ、完全にふさがれたとはいえ、治ったばかり、膨張させると傷が開きかけるのだ。

「殺されかけたのは・・・本当か」
いや、違う
殺されかけたのではない、殺された。
それなのに俺がこうして生きていられているのは、誰かが俺を助けてくれたのだろう。
「いったい誰だったんだ、アレ。礼ぐらいは言わせてほしい。」
あの場に居合わせたんだ、もしかしたらあいつらの関係者かもしれない。
だけど命を助けてくれた事には変わりはない。いつか、ちゃんと礼を言わないと。
気を抜いた瞬間、痛みと共に嘔吐感が襲った。
わかっている。 助けられたとはいえ殺されたのだ。
今だって、胸に何かが突き刺さっているような錯覚が生じている。
苦笑。
しばらく、これは忘れられそうに無いな」

深呼吸。
「よし……落ちついてきた」
毎晩の鍛錬の賜物だろう。
魔術の工程は精神を落ちつけるのが何よりも重要だ。
幾回か深呼吸するだけで、頭もクリアになり、身体の熱も嘔吐感も下がっていく。

さて、さっきの人達は何だったのだろう、と自問する。


―――と、不意に。


からんという音と共に電気が消えた。

ここは腐っても魔術師の家。
敷地に見知らぬ人間が入ってくれば、警笛が鳴るくらいの結界は張ってある。

泥棒なわけがない。
のタイミング。あの異常な後の侵入だ。
間違いなく、命を取りに来た暗殺者――!

そう、あの男は言っていた.
『見られたからには殺すだけだ』
……と。


屋敷は静まり返っている。
物音一つしない闇の中、確かに先刻感じたような殺意が近づいてくる。

背中には針のような悪寒。

幻でもなんでもなく、この部屋から出たら即座に串刺しにされる。
 
心臓が鼓動を刻む。
今にも漏れ出しそうな悲鳴を懸命に抑える。
歯を噛み合わせ、貫かれた胸を押さえてつまらない自分を押さえつける。

これで二度目。いい加減慣れるべきだ。
さっきのような無様は二度と見せられない。何より、衛宮士郎は魔術師だ。
だったら、こんな時に自分を守れなくて、この8年、何をやってきたんだ――!

「いいぜ。やってやろうじゃないか」

難しいことは後回し。 とにかく、武器を何とかしなくては。

魔術師といっても俺に出来ることといえば、武器になりそうなものを強化するだけ。
土蔵に行けば武器はあるが、ここから出て襲われるとすると、丸腰で出ればさっきの繰り返しになる。

武器はここで調達する。長物である事が望ましい。ナイフや包丁では話にならない。

木刀があれば言うコトは無いのだが、そんなものは当然無い。


ふと、目線が、一点を捉える。
藤ねえが戯れで書いていったと思われるサインが見える。


「うわ……藤ねぇが置いていったぽすたーしかねぇ」

あまりのことに力が抜けたが、肝も据わった。これ以下に落ちることは無い。
一応、喜ばしいと言っていいかは疑問だけど金属製だし。
強化すれば使えないことは無いのだし。

        
「―――同調、開始(トレース  オン)」

自己を変革する呪文と共に、長さ60センチくらいのポスターに魔力を送る。

「構成材質解明」
意識を細かく、ポスターに自らの魔力を浸透させる。
「構成材質補強」
こん、と底に当たる感触。 隅々まで魔力が行き渡り、溢れる直前、

「全工程、終了(トレース   オフ)」

ポスターと自身の接触を断ち、成功の感触に身震いした。

硬度は鉄並で、軽さは元と変わらず。使い勝手がいいことこの上ない。
強化の魔術が成功したのは何年ぶりか。
そんなことを思い、、、、、さぁ、いつでもきやがれと身構えた瞬間!
不意にぞくりと悪寒が襲った。

「――――!」
ひゅんと槍が突き出される。
頭上がら串刺しにせんと降下する銀光。

「こ……のぉ!」
ただ夢中で前方へと転がり、難を逃れる。


男は気だるそうに槍を構えている。
どういう事情か、男にはあの時のような覇気が無い。だったら、何とかやり過ごして……

「余計な手間を……見えていれば痛かろうと俺なりの配慮だったのだがな。
……ったく、一日に同じ人間を二度も殺すことになろうとは。
何時になろうと人の世は血なまぐさいというわけか」


じり…と、後ろへ下がる。窓まで後もう少し、土蔵に出れば20メートルあるかないか。
そうすれば――

「じゃあな、今度こそ迷うなよ、坊主」

溜息をついて、無造作に槍が突き出されていた。
じくんと右腕に痛み。
あまりに無造作だったために反応できなかった。
それを阻んだのは急造の剣。 それが、男の槍を跳ね返し、右腕を掠めるだけにとどめたのだろう。

「ほう。変わった芸風だな、おい」

男の気配が変わる。先程の油断など何処にも無い。
しくじった。
本当に死に物狂いだったのなら、あの頭上から降りてきた一撃を避けた後、
脇目もふらず窓へと走っていくべきだった。
 
「いいぜ、少しは愉しめそうじゃないか」

男の身体が沈み、
刹那、正面からではなく横殴りに槍が振るわれた。

顔の側面に来た槍を条件反射だけで受け止める。

「いい子だ、ほら、次行くぞ」
ブンと、今度は逆側からフルスイングで胴を払いに来る――!

止めに入った急造の剣が折れ曲がる。
化け物――あいつが持ってんのはハンマーか!

反射的に剣を振るう。
こちらを舐めているのだろう。 未だ戻しに入ってない槍の柄を剣で弾き上げる。

叩きに言った両腕が痺れる。
 
「使えなぇな。 機会をくれてやったのに無駄なマネをしやがって。
まぁ、魔術師相手に斬りあいを望んでも仕方が無いんだろうが。
……拍子抜けだ。やはりすぐに死ねよ、坊主」

男が槍を構え直す。

「勝手に」

そのあるかないかの隙に、

「言ってろ、まぬけーっ!!」

後ろも見ずに窓をぶち破って庭へと転がり出た。


数回転がりきった後、立ち上がりざま、

何の確証も無く身体を捻って後ろに一撃!
 
「―――ぬ!?」
結果はどんぴしゃ! 突き出された槍を見事に弾き返した。
 

男がひるむ。
後は、この隙に土蔵へと――

「飛べ」

槍を弾かれたはずの男は何も持たず、空手のまま俺の元へ接近し、
くるりと背中を向けて、回し蹴りを放ってきた。


景色が流れていく。
呼吸ができない。驚くことに、自分は空を飛んでいる――!


どん、と壁に当たり、背中から落ちた。
本当に20メートルも吹き飛ばされたらしい。

呼吸が出来ない。
視界が歪む。
目的地だった土蔵の壁に手を着いて、何とか起き上がる。


槍を持って、男が突進してくる。
立ち上がって反撃をしなければ死ぬ。

だが、身体はがたがたで振り返ることも出来ず、崩れ落ちた。

「ちぃっ――男だったらしゃんと立ってろ!」」

槍が頭上を過ぎ去り、そのまま土蔵の重い扉をこじ開ける。


最後のチャンス。
土蔵に転がり込む。

そうすれば、何か武器が……

「そら、これで終いだ」
避けようの無い槍が、後方から振るわれる。

それを、

「このぉぉぉぉっ!」

ポスターを広げ、一度きりの盾にする。

ゴンという衝撃。
広げきったポスターでは強度もままらなかったのか、
槍が突き破ったと同時、途端に元の強度へと戻っていく。


突き出された槍の衝撃で、壁まで弾き飛ばされる。

尻餅をついて、止まりそうな心臓に喝を入れる。
そうして、武器になりそうなものを掴もうとした瞬間、

「詰めだ。今のは割と驚かせられたぜ、坊主」

見れば、目前には突き出された槍の穂先。
男の槍は、ぴったりと心臓に向けられている。
それは知ってる。
つい数時間前に味わった死の匂い……!

「しかしわからねぇな。 機転は利く癖に、魔術はからっきしと来た。
何にせよ、筋はいいが若すぎるか」

 
男の声は聞こえない。
意識は完全にあの槍の穂先へと集中している。
あれが突き出されれば自分は死ぬ。

男が何事かつぶやく。
腕が動く。

色彩が反転する。
走る銀光。
疾すぎて見えなかった槍の穂先が、克明に、スローモーションで迫ってくる。
一秒後には血が出るだろう。
それはさっき知った。
胸に埋まる鉄の感触も、喉にせり上がってくる血の味も、世界が消えていく感覚も。

右手に紙のような感触。
 
理解できない。何でそんな目に合わなくちゃならない。
認めるものか。こんなところで、意味もなく死んでいくなど―――
それに、助けてもらったのだ。なら、助けてもらったからには簡単に死ぬわけには行かない。
俺は義務を果たさなければならない。死んだら、その義務は果たせない。

だが、すぐに槍は胸へと接触し、心臓を穿つだろう。

馬鹿にしてる。
そんなに簡単に人を殺すなんてふざけてる。
そんなに簡単に俺を殺すなんてふざけてる。
一日に二度も殺される状況だって、ふざけてる。
頭にきた。あまりにも人を馬鹿にしすぎている。

 
「――ふざけるな!俺は――」
こんなところで、意味もなく、お前なんかに殺されてやるものか――!



ギィンと、金属音。
「―――え?」
「――何!?」

それは、本当に魔法のように現れた。

眩い光の中、それは俺の背後から現れた。
槍を弾き、庇う様に俺の前へと立つ。

女性であるということだけは何となくわかった。
持っている太刀が、強い印象を受ける。

「本気か!? 七人目のサーヴァントだと?」

弾かれた槍を構える男と、踏み込んで剣を振るう女性。
まるで、疾風のような一閃!

続けざま三つ。

重なるかのように連続した金属音が響く!

「くっ」
不利を悟ったのか、男は土蔵を飛び出していった。


退避する男を威嚇し、こほんと咳払いを一つして、こちらへと振り返る。

「――――。」
声が出なかった
突然命を狙われ殺されかけたのだ、動揺していて当たり前であろう。。
でも違う、声が出なかったのは突然の出来事に混乱していたわけではない。
ただ、目の前の少女があまりにも綺麗すぎて言葉を失っていたのだ。
少女は宝石のような瞳で、なんの感情もなく俺を見据えた後、凛とした声でこういった


「では問おう、お前が私のマスターか」

「え……マス…ター…?」
問われた言葉を口にするだけ。
彼女が何を言っているのか、何者なのかも分からない。
今自分に分かる事と言えば――この小さな体をした少女に俺は恐怖している事だ。
自分だけ時間が止まったのかのよう。
先ほどまで体を占めていた死の恐怖はどこぞに消え、今はただ、目の前の少女だけが視界にある――

≪っは、御堂のマスターここまで情けない奴だとわな、みろ、今にも気絶しそうだ≫

「言うな正宗、言わずとも判ってるさ、とりあえず形だけでも契約を済ませて外の奴を相手するぞ。」

≪応よ!≫

「サーヴァントセイバー、召喚に従い参上した。」
三度目の声。そのマスターという言葉と、セイバーという響きを耳にした瞬間、「――っ」
左手に激痛が走った、無理やり異物を混入させられたような、そんな痛み。
思わず左手の甲を押さえつける。それが合図だったのか、少女は静かに、可憐な顔をうなずかせた。
「――これより我が剣はお前とと共にある、お前の運命は私と共にある。
――ここに、契約は完了した」
「な、契約って、なんの!?」
少女はうなずいた時と同じ優雅さで顔を背けた。
「っ!」
向いた先は外への扉。
その奥には槍を構えた男の姿があった。

「――――――」

「正宗!」

≪応!≫

手を前に掲げる。

《さあ御堂、この戦争に勝利し、この世に受肉し正義を現そうぞ! 悪への報いを、人々への救いを、この世に平和を――!》

 
「世に鬼があれば鬼を断つ。

正宗の体が分裂し、私の体の周りを舞う。 

世に悪があれば悪を断つ」

「ツルギの理ここに在り!!」

全身を全て鋼鉄で覆われた、なじみ深い、久しぶりの装甲。

なんか体中鎧っぽいモノを付けたの少女は、ためらう事なくここから外へと身を躍らせる。
「!」
少女へ抱いていた恐怖も忘れ、立ち上がって少女の後を追った。あんな恐ろしい奴の前にあの少女をいかせるわけにはいかない。いくらあんな物騒な格好をしていようと、女の子なんだ。
「いく――――――!」
ギンッ ガンッ ガキンッ
な、と叫ぼうとした声は、その音で封じられた。
我が目を疑う。
今度こそ、なにも考えられないくらい頭の中が空っぽになる。
「なんだ、あいつ---」
響く剣劇。月は雲に隠れ、庭はもとの闇に戻っている。その中で花火を散らす鋼と鋼。
飛び出した少女に、槍の男は無言で襲いかかった。少女は槍を一撃で払いのけ、更に繰り出される槍をはじき、その度、男は後退を余儀なくされる。
「――――――」
信じ、られない
セイバーと名乗った少女は、間違いなくあの男を圧倒していた。

「正宗七機功が一……朧──焦屍剣!!」

彼女の叫び声と共に、構えた太刀が炎に包まれる。

その熱量は...生半可な鎧などプリンのように斬り溶かすほど強力である。
たとえサーヴァントの持ち物である鎧だとしても並みの鎧では接触する前に溶ける。

―――戦いが、始まった。
男の槍は、さらに勢いを増して少女へと繰り出される。
それを、手にした太刀で確実にはじきそらし、間髪いれずに間合いへと踏みこむ少女。
「チィ―――!」
憎々しげに舌打ちし、男はわずかに後退する。
手にした槍を横に構え、狙われたであろう脇腹を防ぎにはいる―――!
「ぐっ・・・・・」
一瞬、男の槍に光がともった。
爆薬を叩きつけるような一撃は、真実その通りなのだろう。
少女が振るう何かを受けた瞬間、男の槍は歓談したかのように光を帯びる。
それがなんであるか、俺にだって見て取れた。
その少女の何気ない一撃一撃には、強力な魔力が籠っている。

「チッ――!」

セイバーと名乗った少女は、間違いなく槍の男を圧倒していた。
剛剣でありながらも、舞い踊るかのように繰り出される燃えた剣閃の雨。
その中、相手の体捌きと足運びだけを頼りに守りに入った男に対して、それを好機と取ったのか、少女は渾身の一撃を叩き込んだ!
「調子に乗るな、たわけ――!」

大振りとなった少女の一撃を、男は神速の疾さで後ろに跳んで躱し、着地と同時に少女へと疾走する。
勝負を決めに行った一撃を躱されたのだ。それが、取り返しの付かない程の大きな隙だということくらい、俺にだってわかる。
まるで、映像を巻き戻したかのように、少女へと舞い戻ってくる赤い槍。
それを、小さな竜巻のようにぐるんと体を反転させ、横一閃に薙払う少女。

一際高い剣戟音が暗闇に響き渡る。
必殺の一撃を、必殺の一撃で返した刹那の交錯。
直後、両者の間合いは大きく離れた。

≪ハアーーーーッハッハッハ!!どおしたよ、ランサー!!止まっていては槍兵の名が泣くであろう。貴様から来ないのならば、こちらから行くぞ!≫

「勝手な事を言うな正宗。」


≪む、むう。≫


「……は、わざわざ死にに来るか。それは構わんが、その前に一つだけ訊かせろ。貴様の宝具――それはその鎧か?」

槍の男の射抜くような双眸が、少女が装着している鎧を射抜く。

「しゃべる鎧とは、また酔狂なもんだぜ、戦闘中に助言での頼むのか?」

「――さあ、どうかな。私はまだ宝具すら見せていないのかもしれないぞ、ランサー?」

「く、ぬかせ!!」

嘯く少女の言い様に悪態をつきながら、男は槍の穂先を僅かに下げる。
あの構えは……数時間前、俺が垣間見た戦いの最後で、放たれる筈だった奴の必殺の一撃。
あれはマズイ。いくらあの少女が桁外れに強いと言っても、あの一撃はダメだ。

「……ついでにもう一つ訊くがな。お互い初見だしよ、ここらで分けって気はないか?」

「――断る。貴様はここで倒れろ、ランサー」

即断即決に戦いの決着を望んだ少女は、腰だめに剣を構えるような姿勢を取る。
 
「そうかよ。ったく、こっちは元々様子見が目的だったんだぜ? サーヴァントが出たとあっちゃ長居する気は無かったんだが――」

聞こえてきた半ば投げやりな言葉に視線をやると、ランサーを中心に周囲の大気が凍り付いていく。
それは、姿勢を低くしたランサーの持つ槍が、辺りの大源を貪欲に貪りつくしているからなのか。
目前の敵の纏う雰囲気があからさまに変化した事に、少女は一層の警戒を見せる。

≪御堂、敵が宝具を使うようだぞ、やる事は分かっているな?≫

「ああ、こっちも陰義で対抗する。」

≪恐ろしくないのか?もしかしたら死ぬやもしれんぞ≫

「大丈夫だ、一度死んだんだし二回目も平気だろ。」

その少女の楽観的な返事に相棒は声をあげて笑いだす。

≪ハ――ッハッハッハッハ!!それでこそ御堂よ!
 っむ、そろそろ来るぞ、構えろ≫

「ああ」

「……じゃあな。その心臓、貰い受ける――!」

 言い放った言葉と同時に、目にも留まらぬ程、ではなく、目にも映らぬ程の疾さで、ランサーは少女の目前に突如現れた。
 

「"刺し穿つ死刺の槍(ゲイ・ボルグ)"――!」

それ自体が強力な神秘を含んだ言葉に乗せて、朱の魔槍を繰り出した。
あり得べかざる軌跡を描いた穂先は、少女の心臓めがけて迸る。

「ッ――?!」

≪むうっ!?≫

咄嗟に急制動を掛け、反転させようとしていた体を槍に突き飛ばされ、放物線を描いて着地した少女は、その胸を貫かれ、血に濡れていた。


≪呪詛……いや、今のは因果の逆転か――!≫

心臓の僅か皮一枚右上を槍で貫かれ、しゃべれない少女の代わりに正宗が驚嘆の声を漏らす。
因果律の逆転――それは、先に結果を確定してしまい、そこに至る過程は事実を立証するためだけの後付に過ぎなくなるという事。
そんな出鱈目な攻撃を、紙一重とは言え、あの少女は躱した。

「――躱したなセイバー。我が必殺の一撃(ゲイ・ボルグ)を」

凄まじい形相で少女を睨みながら呪詛の如く吐かれた声。

「っ……?! ゲイ・ボルグ……なんか学校の授業で聞いたような気が。」

≪御堂は重傷を負ったがそれだけだ、御堂は死んでいない、故にここに勝負は決した!今だ御堂!!
痛くない!!苦しくない!肺が一つ潰れているが、せっかく二つあるのだもう片方で息をしろ!≫

「っく」

≪行くぞ!≫

「あ、ああ!!」

後ろに飛び太刀を投合する姿勢をとり構える。

≪善因には善果あるべし!
 悪因には悪果あるべし!
 害なす者は害されるべし!
 災いなす者は呪われるべし!≫

≪因果応報!!
 天罰覿面!!≫

「――なあ、んだそれは!?」

そう、その構えはまさに、自分が必殺の槍を投合する時の姿勢と瓜二つ!!


「……じゃあな。その心臓、貰い受ける――!」


「"突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)"――!」

真名解放と共に太刀が分裂し、そのすべてがランサーの心臓めがけて飛んでいく!
無論、多少のランクダウンはしているが心臓を必ず貫くという因果の逆転は健在、これが決まればランサーとて命は無い。


が、結果は惨敗。
ランサーには矢除けの加護がある、それと多少のランクダウン、自分の技

この三つの要因が重なり、重傷は負わせるもののランサーの命まで奪うことはなかった。


「ちぃ、人の宝具の能力を奪う、それがテメエの宝具か、屈辱だぜ。」

≪ぬうううう、仕留め損ねたか!!≫

「己の正体を知られた以上、どちらかが消えるまでやりあうのがサーヴァントのセオリーだが……あいにくうちの雇い主は臆病者でな。槍が躱されたのなら帰ってこい、なんてぬかしやがる。今回は俺から引いてやる」

手にした槍をひゅんと背にまわし、ランサーはあっさりと背中を見せ、庭の隅へと移動した。

「己の技を見せたんだ!
 逃がしはしない!!」

≪正宗七機巧が一!
 割腹――投擲腸管! !≫

「ぎぃぃうぅぁぁぁあああああああああああッ!!」

「なっ、自分の腸を飛ばすだと!?気でも狂ったか!?」

おそらくただの内臓ではないだろう、甲鉄化している。
それが今、強固な力を持って、ランサーを拘束している!

「ちい、振りほどけねえ。」

もう数秒ほどでほどけるであろうがそれで十分時間は稼げる。

「喰え、正宗!」

「応!」

「クゥウッ、ガァッ……アァアァァァァァァァ!」


≪正宗、七機巧が一。飛蛾鉄炮・弧炎錫!!
 DAAARAAAAAHHHHHHHHHHH!≫

自らの骨と肉とを弾丸とし、その激痛から唸り声を上げる。
最速の英霊であるランサーに砲撃は無謀だが、今は完全に拘束されているためよけることは困難。


これで終わったと思った刹那、ランサーの姿が突然空間から消滅した。



後書き


なんかもう一条さん序盤から全力全開だなw




[24865] 登場人物 ステータス
Name: 有希◆753cfdc3 ID:8a388b8d
Date: 2010/12/21 14:31
■CLAAS セイバー

マスター 衛宮士郎

真名 綾弥一条

性別 女性

属性 秩序・善

筋力 C 魔力 C

耐久 B 幸運 B

敏捷 B 宝具 A+


冑劔装甲時

筋力 B 魔力 C

耐久 A 幸運 B

敏捷 A 宝具 A+


クラス別保有能力

対魔力:C
第二節以下のの詠唱による魔術を無効化する。大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:B
騎乗の才能。冑劔を人並み以上に乗りこなせる、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

■保有スキル

戦闘続行 A 
生還能力。瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

カリスマ B
軍団を指揮する天性の才能。カリスマは稀有な才能で、彼女の生前の偉業を見ると十分の評価と言える。




因果応報・天罰覿面

ランクA++ 種別 対人宝具 レンジ1~2 最大補足 不明



正宗

相州五郎入道正宗
ランクA 種別 対人宝具 レンジ1~100
装甲時には魔力と幸運を除く全てのパラメータがランクアップする。



[24865] 第三話 束の間の休息
Name: 有希◆753cfdc3 ID:8a388b8d
Date: 2010/12/22 18:58
「ちい、逃げられた、令呪か!?」

時刻は恐らく零時過ぎ、つい先ほどまで戦闘を行っていた少女は憎らしげに周囲を探る。

「正宗、熱源探知。」

《熱源探知に感、方位子、距離10》

「距離10、近いな、新手か。」

傷を負った少女は、新たに現れた敵と対峙しようと走り出す。

「バ、バカかアイツ・・・!」

全力で庭を横断する。
急いで止めなければ少女は飛び出していってしまいそうだったからだ。
が、その必要はなかった。
塀を飛び越えようとした少女は、飛ぼうとした腰を落とした途端、苦しげに胸を押さえて立ち止まった。

「うっく、はあ────正宗、機体情報の確認と傷の回復を‥。」

よく考えれば至極当然の結果である、死ぬ事は無かったにしろ、受けた傷は致命傷である、現に今の今まで動いていられた事自体あり得ないのだ。

《胸部甲鉄および内部の基礎本体に著しい破損、されど戦闘に支障無し!
 傷の回復は既に始めているが回復阻害によって修復は表面を覆ったのみ》

正宗は淡々と主人に問いかけられた質問に答えていく。

《なに安心しろ御堂、これくらいの傷、唾でも付けておけばすぐ直る!!
 今は目の前の敵の事だけ考えろ!》

「ああ、そうだな。」

痛みが引いたのか、少女は胸から手を話して顔を上げる。

やっと俺に気がついたのか、まっすぐにこちらを見据えてくる。

「‥‥‥傷が、なくなっている?」

「─────── 」

とたん頭が切り替わった。
こんな思考している場合ではない、こいつはとりあえず何かとんでもない奴だ、正体がわからないまま気を許していい相手じゃない。

「あ‥‥え、‥‥‥‥お前、何者だ?」

半歩だけ後ろに下がって問う。

「?何物もなにも、セイバーのサーヴァントだよ。
 ったく、これだから素人は。」

まるで汚物を見るかのような目で、少女は言った。

「あ、えとじゃあ君は‥‥」

「はあ、セイバーで良いよ。」

さらりと言う。

「──────────────」

って、俺は何を動揺しているんだ

「そ、そうか。ありがとうな、セイバー」

って、なんで俺は感謝しているんだ。

赤くほてった頬を手で隠し、なにかとんでもなくバカな返答をした、けれどそれ以外になんて言えばいいのか。
そんなの俺に判る筈もないし、そもそも俺が何者かって聞いたんだから名前を言うのは普通だよなってならいつまでも黙ったままなのは失礼なのではないかとか。

「俺は衛宮士郎っていって、えっと高校生だ。」

─────どうかしてる、なんかさらに間抜けな返答していないか俺?

「───────────────」

少女・・・セイバーは眉ひとつ動かさないで、混乱している俺を見つめている。

「いや、違う。今のはナシダだ、聞きたいのはそういう事じゃないくて、つまりだな‥‥」

「判っているよ。あんたはは正規のマスターではないんだろ?」

「え‥‥? マスター?」

「だけどまあ、お前はは私のマスターだ。契約を交わした以上お前をを裏切りはしない、っはそんな露骨に警戒するなよ。」


「う‥‥?」

やばい。
彼女が何を言っているのか聞き取れるくせにちんぷんかんぷんだ。

判っているのは彼女が俺の事を主人(マスター)なんて、とんでもない言葉で呼んでる事ぐらい。

「それは違う。俺はマスターなんて名前じゃないぞ」

「それじゃあマスターの事はシロウと呼ぶことにするよ。」

「っッ!」

彼女にシロウと口にされた瞬間、顔から火が出るかと思った。
だって初対面の相手から名字じゃなくて名前でよばれたんだぞっ、しかもこんな可愛い子から・・・

「ちょ、ちょっと待って、なんで名前」

「痛っ‥‥!」

突然、左手に激痛が走った。

「あ、熱っ‥‥!」

手の甲が熱い。
まるで火の中に手を突っ込んでるような熱さをもった右手には、入れ墨のような、おかしな紋様が刻まれていた。

「─────な なんだこれ?」

「それは令呪だ、シロウ、私たちサーヴァントを律する三つの命令権であって、マスターの命。
無闇な使用は避けろよ。」

「お、おまえ──────────」
一体なんなんだ、と今度は問いつめようとした矢先別の声に遮られた。

《御堂、ここで話しているのも良いが外の敵はどうする、このままだと侵入されるぞ。》

「ああ、はいはい分かったよ正宗、敵はあっちだろ!」

そう言ってセイバーは軽やかに跳躍した。

着地した先にいると思われた敵に向け太刀を構え‥‥‥‥敵の姿が見えない。

「おい正宗、敵なんて何処にもいないぞ、熱源探知が壊れたのか?」

《壊れているのは御堂の方向感覚だ‥‥‥‥》



[24865] 第四話 覚悟
Name: 有希◆753cfdc3 ID:8a388b8d
Date: 2010/12/22 15:30
前書き
今回はずっと遠坂さんです。



人気の無い、深夜の街を駆け抜ける。
目指すは衛宮士郎の家である武家屋敷。

完全に私のミスだ、
ランサーが目撃者である衛宮くんが生きていると知れば、何もしないわけがない。
確実に衛宮君を殺しに来るはず、もう一体どれだけ無駄に時間を消費してしまったか、

冷やりと汗が背中伝う、あそこまで私にさせておいて勝手に死ぬなんて許さないだから───




衛宮邸に到着する。
しかし、そこには既にサーヴァントの気配があった。

遅かったのか。いや、まだそうと決まっていない。

屋敷にいるであろうランサーの気配が眩む様な、莫大な魔力の奔流が起こった。

「……嘘」

ランサーの仕業じゃない。

「────────まさか────
 っく、アヴェンジャー!!屋敷の中はどうなっているか分かる!?」

「熱源探知を行う、村正。」

《諒解!、熱源探知に感、
 敵は2よ、御堂。おそらく交戦中》

「聞いての通りだ、どうするマスター」

まさか、衛宮君が召喚した?

武家屋敷の塀の向こうで剣戟の音が響く。
そしてどれだけ時間が過ぎたのか剣戟の音は止み、場は無音に支配される。

召喚されたらしいサーヴァントの気配は未だに残っている。

「アヴェンジャー…どうやら戦闘になりそうよ、準備して。」

「わかりました、しかしマスター、俺に敵を殺させるとなると、判っているな?」

自身のサーヴァントから釘を刺される、忘れるなよと。

私は彼を召喚した時の事を思い返していた。




「マスター、俺と契約したいのならば一つ条件がある。」

一通りの話を終え、さて寝るかと思っていたところアヴェンジャーが話しかけてくる。
いい加減召喚の疲れが出てきたので出来れば明日にしてほしかったのだが、
鬼気迫る表情で私を見つめてくるので仕方なく手前に置いてあった椅子に座り、話を聞く態勢を作る。

「条件……?今更なんなのかしら、こんな話も終盤になってって時に、それは一番最初にする話じゃないの?」

「すまない、黙っておこうと思ったんだが、後で愚痴を言われるのが嫌になり言うことにした。」

「そう、それで条件ってなに?」

「マスター、貴方には大切な人がいますか?
 そう、例えばそれが命の危険に晒された時、その要因になった者を殺してでも守りたい、そのような人はいますか?」

途端、彼は意味不明な質問をしてきた、大切な人…殺してでも守りたい、大切な人はいますか?と

大切な人ならたくさんいる、この町の人達、その枠組みを小さくするならばクラスメイト、友人たち。
しかしそれでも人を殺してでも守ってあげたいか?と問われれば、考えざる負えない。
いくら大切な人間だからってそこまで思うことは余りないはずだ、最後に一番大切なのは自分の保身、
はたして私は自らを危険に晒してまで守ろうとするのだろか、それはその時にならなければ分からないだろう。

けれど私にはいる。
人を殺してでも守ってあげたいと、幸せになってもらいたいと思う人が一人いる、

桜、私のたった一人の妹…私達姉妹がが幼い頃、間桐の家に養子に出されてしまったけど、片時も忘れた事なんて無かった。
桜の為ならば私は容赦無く人を殺すだろう。

「ええ、一人いるは、私の大切な人がね、私はもし彼女が危険に晒されたりでもすれば、どんな手を使ってでも助けるは、たとへ人を殺してでも。」

「そうですか、それはとても素晴らしい事だと思います、その人も貴方のような人に思われていて幸せでしょう。」

「……ありがとう。」

数分の沈黙の中、次に口を開いたのは男だった

「それで条件なんですが、俺に敵のサーヴァント、あるいはマスターを殺させた場合、先ほどあなたが言っていた大切な人を殺させてもらいます。
 この条件が飲めないのならば残念ですが契約は破棄させてもらいます、どうぞ令呪で自害を命じください。」

途端、周囲の空気が固まった

「────────────────っ」

「どういう……事よ、それ?」

「どういう事も何も話の通りです、それで返答は。」

「─────けんじゃ───────わよ。」

「すいません、マスター聞きとれませんでした、もう一度お願いします。」

「ふざけんじゃ───────ないわよ────!!!」

それは否定だった、そんな事は許さないと。

「そうですか、ならばこれまでです。
 短い間でしたが──「待ちなさいよ。」

「?」

生まれた疑問、何故桜が殺されなければならないのか?
まったく関係ないではないか、桜は、それなのに何故。

「どうして、何故桜を殺さなければならないのか説明して頂戴、それによっては考えを改めるかもしれないわ。」

「そうですか、少し長くなるかも知れませんが?」

「構わないわ。」

「もし、その桜さんが何者かに殺されたとします。」

椅子から激しく立ち上がる。

「なんで桜が────「もしもの話です。────。」

「椅子に座ってください。」

「────────。」

遠坂が椅子に座ったのを確認し話を再開する、時刻は彼が召喚されてから一刻を過ぎようとしていた。

「もし、その桜さんが何者かに殺されたとします。」

話を元に戻す。

「そうすればどうしますか?」

「桜を殺した奴を殺すは、もしそれが大勢だとしても死なせた奴を全員殺す。
 一人も許さない。絶対に。」

そうでしょうね、と頷く。

「……それでマスターが人を殺せば、その人の身内が、同じように誓うかもしれない。」

「────っ」

そう、そうだ、アヴェンジャーは正しい、私が復讐として人を殺したのだとしても、きっと何処かで誰かが私を憎悪する。
許せぬ悪と、私を憎む。

「……ッッ」

奥歯を噛み締める。

「しかしマスターはそれでも復讐を成し遂げるだろう、
───それでも戦わなければならない理由があるのだから。」

……………………。

「けれどもそれは、マスター、貴方だけの正義、貴方一人が正義を貫き、
敵を悪と決め付け、殺す。
そして何処かでマスターを誰かが憎む。
その誰かにとっては、マスターが殺した敵は正義なのだから。」

「だからマスター、その場合貴方は悪だ。」

「────はっ。」

その事実に息をのむ、私は今まで生きてきて、このような事を考えた事すらなかった、天邪鬼な奴がこれを聞いても悪は悪なのだから悪なのだろうと、その身内も全て悪だと決めつけるかもしれないが、
私には理解できた、理解できたからこそ悩ましい。
そうだ、たしかにそうだ、私が殺したとする敵の身内からすれば私は立派な悪じゃないか、どちらが先に殺したかじゃない、人を殺している時点でそれは悪だ。


「理解、できてきたようですね。マスター
 正しいと為して悪と成る。
 殺すものは悪であり正義であるから。」


「善悪
 相殺」

そう、例えば……罪人を告発し裁き処刑する、検事/判事/処刑人は──
正義の執行者は、罪と悪は負わないのか?

「悪を殺さば、返す刃で善を断つ。」

「誰かの敵は誰かの味方。
誰かの悪は誰かの善。」

「例外は無い…………」

「敵は殺すが味方は失わないなど卑怯、味方を死なせたくないのなら敵も殺すべきではない。」

…………

彼女は、彼の話に聞き酔っていた。

「敵の死も味方の死も等価値。
差をつけてはいけけない、つけてはいけない、それは利己的な視野狭窄でしかない。」


「敵は悪にして善なのだから。
敵の悪だけ、罪だけ見て殺す事は、殺人を為しながらその醜悪さを覆い隠す、卑劣な欺瞞に他ならない」

「この一刀をもって、善と悪を諸共に断つ。
その覚悟をせねばならないのだ。誰が誰を殺す時も──」

善悪両断。

闘争の真実。

「俺はそれを、この世に知らしめるために召喚に応じ参上した、なのでそれがすでに叶わない事だとすれば俺はここに存在する意味は無い。」

「故にもう一度問う、貴方に大切な人はいますか?
 いるのならば、私に人を殺させたければその者の命を、いないのならばマスターの命を貰おう。」


ここで回想は終わる。
一体彼女はどのような答えを出したのか


「ええ、判っているはアヴェンジャー、その時は、
 
歯を噛み締める

その時は、私を殺してちょうだい……

そう言えたらどんなに良いか、だけどそれは出来ない、私は生きなければいけない、私が殺すであろう人の分まで。
だから覚悟を決める。

その時は、桜を殺して……。
だから、アヴェンチャー、貴方の力を私に貸して。」

「諒解ッ!!
村正!」

≪──諒解!
死を始めましょう、御堂!≫

「鬼に逢うては鬼を斬る。」


「仏に逢うては仏を斬る」

ツルギの理──ここに在り!!」



後書き

遠坂の考えた方が村正サイドに傾いていく回でした。
これからどんどん変わっていくかもです。
どうやって共感させていこうかなと悩んで桜を使いましたb
こんなの遠坂じゃないやいと言う方、すいませんです><


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