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警視庁:テロ捜査資料流出 「内部資料、認め謝罪を」 実名記載で被害、警視庁に要求

 警視庁などの国際テロに関する内部資料とみられる114の文書がインターネット上に流出した事件で、個人情報が実名で記載された人たちから文書を警察の内部資料と認め公式に謝罪するよう求める声が上がっている。今後の捜査などへの協力については否定的で、発覚から間もなく2カ月を迎えるにもかかわらず「内部資料かどうかは調査中」としている警視庁に対応見直しを迫っている。【まとめ・村上尊一】

 捜査対象や協力者として、名前や住所、聴取内容を個人ファイルに記されたイスラム教徒21人を18~21日に取材した。ネット上に個人情報が流れたことによる生活上の影響や警察への意見を聞いた。連絡が取れた11人のうち6人が取材に応じ、他の5人は「もうかかわりたくない」などと拒否した。回答した6人のうち5人が「私が警察に話したことがそのまま載っている」「なぜ認めないのか」と、警視庁に内部資料だと認めることを求めた。ネットでの情報流出が止まらないうえ、文書を収録した書籍まで販売されたことへの不満が背景にあり、40代男性は「警察が認めないからそのまま(情報が)出るのではないか」と疑問を呈した。

 公式な謝罪がないことにも不満が集中。30代の男性は「謝ったうえできちんとした情報を流し、被害の70%か50%だけでも回復してほしい」と話した。具体的な影響はないものの、漠然とした不安を訴える人も多かった。

 警視庁は9日、身の危険を感じた人への相談に積極的に応じるよう全102署に通達した。しかし40代男性は「1週間くらい前に警視庁から連絡があったが、『もう遅いよ』と答えた」という。

 警視庁は3日、偽計業務妨害容疑で強制捜査に踏み切ったが、流出経路は判明していない。16日には、警察庁に情報保全に関するプロジェクトチームが発足。都道府県警の警備公安部門の情報管理の実態を調べ、再発防止策に乗り出している。

 ◇「より危険にさらす」警視庁懸念

 専門性が高い国際テロに関する資料にもかかわらず、警視庁はなぜ内部資料と判断できないのか。警視庁幹部は「内部資料と照合ができていないものがある」と理由の一端を話す。関係者によると、内部資料に手を加えた疑いもあり、厳密さを求める調査・捜査の壁になっているという。

 内部資料と認めれば▽掲載された人をより危険にさらす▽捜査協力者の存在を認め、今後の協力が得にくくなる▽国際的信用を失う--といった懸念もあるという。また、ある幹部は「個人情報を出された人の一部には認めないでほしいという要望もある」と話す。

 だが当事者であるイスラム教徒らからは、警視庁が説明責任を果たしていないといういらだちが強く伝わってくる。郵便不正事件で最高検の「検証アドバイザー」を務める山下幸夫弁護士も「警視庁は内部資料と率直に認め、謝罪すべきだ」と主張。削除要請や出版差し止めなどの観点からも「警察が(流出した)情報の管理者となれば、公益性という点で対策に重みが出る」と話す。

 一方、危機管理専門会社「リスク・ヘッジ」の田中辰巳社長は「積極的に情報開示するとさまざまなリスクが想定されるケース」と対応の難しさに理解を示す。記載された個人が善意の捜査協力者からテロリストとの関係が疑われる人物まで幅広いからだ。

 それでも、警視庁の説明は自己保身や訴訟リスク回避を狙っているとの印象を与えているという。田中社長は「内部資料と認める認めないにかかわらず、警察のポリシー(方針)が問われている。それを示したうえで、個人情報がさらされた人の身辺保護や誤った情報を正す対症療法が必要だ」と指摘する。

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 □文書に実名が記載された外国出身者の主な反応□

 ◆30代男性

 <影響>問題が長引けば店の売り上げは7、8割減だ。ストレスでいっぱい。外国にも行けない。

 <意見>今の状態を解消してもらいたい。お金は要求しないが、警察のものだと認めて名誉回復をしてほしい。警察にはもうかかわりたくない。

 ◆60代男性

 <影響>不安を感じた知人から相談を受けている。同胞たちと損害賠償訴訟も検討している。

 <意見>正しい情報を公表し、謝罪してほしい。日本に住んでいるので今後も捜査に協力したい。

 ◆40代男性

 <影響>同僚は「心配しないで」と言ってくれ、子供にも影響はないようだ。

 <意見>なぜ警察は内部から漏れたと認めないのか。日本へのリスペクト(敬意)がなくなった。

 ◆40代男性

 <影響>子供も今のところ大丈夫。損害賠償は求めず、仕事と家族を守ることだけ考えている。

 <意見>出版を止められないのは警察が認めないからだと思うが、ばかばかしい。責任もって止めろと言いたい。本が出版される日本はおかしい。

 ◆50代男性

 <影響>私は悪いことは何もしていない。ここは私の国ではないから、嫌になったら帰るだけ。

 <意見>犯人が捕まってないから流出の目的も、警察のミスかも分からない。私が会った警察官は優しかったが、もう来ないでほしい。

 ◆40代男性

 <影響>子供まで周囲を気にしている。個人情報が偽造品作成などに悪用されないか心配だ。

 <意見>警察は謝罪すべきだ。我々から見たら警察は犯人。二度と捜査に協力するつもりはない。

毎日新聞 2010年12月22日 東京朝刊

 

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