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きょうの社説 2010年12月23日
◎滞納整理機構 納税意識の向上にも期待
石川県は2011年度からの行財政改革大綱の中間案に、市町と共同で地方税の「滞納
整理機構」を設立する方針を盛り込んだ。滞納状態の地方税の取り扱いについては自治体によって温度差があり、多くの市町の参加を得て同機構を作るには相応の時間と労力を要するが、自治体の仕事の要である徴税業務を行う上で多くのメリットがあり、設立作業を円滑に進めてもらいたい。滞納整理機構の設置は、悪質、理不尽な税の滞納に自治体が毅然と対応し、税負担の不 公平をなくすという強い意思を示すものであり、機構設置により納税意識向上の効果も期待できる。 滞納整理機構の徴収対象は、県市町の個人住民税が予定されている。09年度の県税滞 納額は前年度比6%増の44億7400万円で、そのうち市町が徴収に当たっている個人県民税が28億5600万円と6割以上を占めている。このため県は05年度から市町に代わり直接徴収に乗り出しているが、こうした状況が今後も続くとなれば、県市町一体の組織で滞納整理を行う方が効率的である。 少ない職員で徴税業務を行う市町の共通課題として、定期的な人事異動で税務の専門的 な知識、ノウハウの蓄積が困難であり、身近な住民だけに厳しい取り立てもしにくいことなどが挙げられる。しかも、滞納者の財産の強制調査や公売のための権利関係の調査は手間暇がかかり、小規模な自治体の人員ではなかなか難しい。 滞納整理の専門機構は、こうした問題に効果的に対応でき、市町の税務職員のレベルア ップを図ることもできる。機構の存在そのものが自主納税を促すという心理的な効果も小さくない。 滞納整理機構には、地方自治法に基づく広域連合と一部事務組合のほか、任意団体とし て組織されるケースもある。総務省のまとめでは、一部事務組合型が多い。滞納整理の専門機関ができることで、「血も涙もない取り立てが増える」などと心配する声も聞かれるが、納税者の生活の困窮度に応じて適切な対応が求められるのは当然であり、整理機構による「弱者いじめ」は論外である。
◎海上保安官送検 「流出事件」に矮小化せず
中国漁船衝突の映像流出事件は、海上保安官が国家公務員法(守秘義務)違反容疑で書
類送検され、懲戒処分も決まったが、だからといって事件は幕引きへ向かうわけではない。事の発端は海保が撮影した映像を政府が秘密にしようとしたことにある。保安官は東京地検が年明けに起訴猶予にするとの公算が強まっているが、あらためて問われているのは政府の一連の対応である。海上保安官を逮捕するか否かをめぐり、あれだけ騒然としたことを思えば、停職1年と いう処分は評価が分かれるかもしれない。問題の映像は海保内の広範囲で閲覧可能だったとされ、秘密性が高いとは言えない以上、刑事罰は問えないとの判断に傾いたのだろう。 海保が組織として決めた方針に従わず、保安官が個人の判断で内部映像をネット上に流 出させた行為は、明らかに公務員の職務を逸脱している。決して称賛されるものでなく、懲戒処分は当然である。 政府は映像を非公開にした理由について今なお合理的な説明をしていない。漁船船長の 釈放にしても「那覇地検の判断」との強弁を繰り返してきた。国民がいらだちを募らせたのも、外交上の失態を流出事件に矮小(わいしょう)化するかのような政府の姿勢にある。本来なら、政治介入や判断の誤りを率直に認めたうえで、その教訓を今後の外交判断や情報管理策に生かすのが筋ではなかったか。 自民党などは問責決議の理由などで、仙谷由人官房長官が船長釈放を主導し、衝突映像 を長期間非公開にして貴重な外交カードを失ったにもかかわらず、那覇地検や海保長官に責任をなすり付けていると批判している。 映像がネット上で公開されると、官房長官は「大阪地検特捜部の証拠捏造(ねつぞう) 事件にも匹敵する」と重大犯罪との認識を示した。官邸への配慮から、海保も十分な内部調査もせず刑事告発した。迷走した一連の流れを振り返れば、衝突事件の判断ミスを正当化するために、映像流出事件の犯罪性をことさら強調してきたようにも映る。事件の解明は保安官の処分だけで済ますわけにはいかない。
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