コラム

2010年12月21日号

【鷲見一雄の視点】
石川議員(元小沢氏秘書)と小沢氏の供述を信じたのは小沢氏の再度の不起訴(5月21日)を決めた検察首脳部だけ「私は50年余に亘って検事総長を見てきたが、こんな政治に弱い時代は見たことがなかった」


●鷲見一雄の視線
 政治腐敗の捜査は東京地検特捜部が行う、これが国民との暗黙の合意だった。
国民は特捜部が政治権力から独立を基調としていると評価していたからだ。ところが、平成22年5月21日、東京地検特捜部が「検察第五審査会の『小沢氏起訴相当』の議決に対し、わずか3週間余の形式的な再捜査をしただけで再度不起訴」の結論を出した。「初めに小沢氏の不起訴ありき」、「不起訴理由はこじつけと私には写る。特捜部の政治権力から独立している「厳正公平、不偏不党」という伝統はもろくも幕となったのである。それが検察第五審査会の2回目の「起訴相当(強制起訴)」となり、東京地裁の「指定弁護士」選任、強制起訴する方向となった背景である。

●読売新聞配信記事
 読売新聞は20日、《「4億円の不記載」も起訴事実に…陸山会事件》という見出しで次の記事を配信した。
 小沢一郎・元民主党代表(68)の資金管理団体「陸山会」の政治資金規正法違反事件で、検察官役として小沢氏を強制起訴する指定弁護士が、告発の容疑事実には含まれていなかった小沢氏からの借入金4億円の不記載についても、起訴事実に盛り込む方針を固めたことが、関係者への取材でわかった。

 小沢氏を「起訴すべきだ」とした9月の東京第5検察審査会の起訴議決は、小沢氏が元秘書らと共謀し、同会が2004年10月に土地代金として支払った約3億5000万円の支出を同年分の政治資金収支報告書に記載せず、05年分に記載した事実に加え、土地購入の原資とした小沢氏からの借入金4億円を04年分の収支報告書に記載しなかったことも「犯罪事実」とした。

●おかしいものはおかしい
 指定弁護士の「小沢氏からの借入金4億円の不記載についても、起訴事実に盛り込む方針を固めた」ことは評価する。4億円の入りと3億5000万円の出は不可分であるからだ。
私は昨日のこの欄で「土地の所有権は登記によって移動するわけではない。小沢氏側が土地代金を全額支払い、権利書の引き渡しを受け、土地の売り主との間で不動産引き渡し完了確認書(04年10月29日完了)に署名押印した時から所有権は売り主の「東洋アレックス」から「水沢市の小沢一郎氏」に移転しているのである。従って陸山会の04年度の政治資金収支報告書に「入り小沢氏からの借入金4億円」、(検察側は水谷建設からの献金も4億円の中に入っていると立証するという。)「出、東洋アレックからの土地購入代金3億5000万円」と記載しなければ政治資金規正法違反に問われる可能性のあることを知らなかったというのは不自然、不合理である。04年度の政治資金収支報告書に記載しなければ政治資金規正法違反は成立する。」と書いた。ごちゃごちゃ言っている人もいるようだが、私の主張は常識論だが、立論は正当と確信している。おかしいものはおかしいからだ。

●鷲見一雄の視点
 小沢氏は土地購入代金に充てる目的で陸山会に4億円を貸した。その金を原資として平成16年10月29日、土地代金3億5000万円が売主、東洋アレックスに小沢氏側(小沢氏の石川元秘書)から支払われた。土地代金が全額支払われれば所有権は完全に東洋アレックスから小沢氏に移転としているとみるのが常識というものだ。ところが、小沢氏側は「10月5日売買予約 所有権移転登記請求権仮登記」と権利保全的登記にとどめた。本登記をしたのでは16年度分の政治資金収支報告書に4億円の入りと3億5000万円の出を記載しなければならなかったからだ。
 これは小沢氏が司法書士に委任状を出しているのだから、小沢・石川主従は共通の認識だった、と推察する。
 小沢氏は検察官に対し、「いずれの年(筆者注・平成16、17年)の報告書についても提出前に確認せず、担当者が真実ありのまま記載していると信じて了承した」と供述した。小沢氏は「出所不明の4億円を陸山会が小沢氏から借り、3億5000万円の土地購入資金に支払った」と記載できると信じたのであろうか。4億円の出所を隠そうとするのが「秘書の行動原理ではないか」、検察審査会が「不合理、不自然で信用ではない」と議決したのは当然で、これを認めた検察首脳部がおかしかったのである。この検察首脳のおかしな判断が東京地検特捜部60年の働きと地道な積み重ねを一瞬にしてフイにさせた。赤レンガ派の総長、東京高検検事長でなければ絶対にやらない決断であった。私は50年余に亘って検事総長を見てきたが、こんな政治に弱い検察首脳は見たことがなかった。検察首脳人事と絡んでいたとしか考えようがない。

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