MSN Japanのニュースサイトへようこそ。ここはニュース記事全文ページです。
[PR]
  • メール
  • メッセ
  • 印刷

【正論】中国軍事専門家・平松茂雄 中国は優位に立つと嵩にかかる

2010.12.1 02:44
このニュースのトピックス正論

 わが国の政治家、マスコミはどうして尖閣諸島で毎回、同じことを飽きもせず繰り返すのか。今回は、7月ごろから中国の漁船数十隻が尖閣諸島の領海に入って、活動していたという。マスコミが報道したのは9月7日で、そのうちの1隻がわが国の海上保安庁の巡視船に衝突したことを機に、初めてニュースとなった。それまで国民はわが国の領海を、中国の漁船が徘徊(はいかい)していたことをあまり認識していなかったのである。

 尖閣諸島は、明治28(1895)年にわが国の領土に編入された。翌29年、石垣島の古賀辰四郎氏が1島を除く4島を政府から借り上げて主島の魚釣島と南小島で鰹(かつお)節工場などを営み、昭和7年の払い下げで私有地とした。太平洋戦争が近づいて古賀氏が引き揚げると無人島になり、現在は埼玉県の日本人が所有している。

 したがって、周辺12カイリの海域はわが国の領海である。国際法上、外国船は軍艦を除いて通過できる(無害通航)ものの、活動したり徘徊したりすることは認められていない。海上保安庁の巡視船は領海を侵犯した外国船に対しては、その旨を通告して立ち退かせているものの、数十隻の漁船を相手に、追い払ってもまたくるというイタチごっこを繰り返すのは、並大抵の苦労ではなかろう。

 こんな事態を招いたのは、わが国政府、マスコミ、評論家らの事なかれ主義である。今回の出来事の責任は専ら、民主党政権の責任に帰されているが、事なかれ姿勢は、民主党の下ではひどすぎるといった程度の差こそあれ、自民党時代にも通底するものだ。

 ≪尖閣の発端は海洋法条約≫

 尖閣問題の発端は、1973年からの国連海洋法条約会議に象徴される「海洋の時代」の到来にある。それまで人類が開発し消費してきた陸上の資源がこのままでは枯渇するので、海の資源、特に海底に埋蔵されている資源が着目されるようになって、それを利用するルールが必要になった。

 条約の討議を前に、世界の沿岸国は自国の海を囲い込んで海洋調査を実施した。南米諸国は何と500カイリを主張、これを受け入れると世界の海の大半が排他的経済水域になり、公海はほとんどなくなってしまう。そこで200カイリで手打ちが行われたのである。

 わが国周辺の東シナ海、黄海でも68年、国連アジア極東経済委員会(ECAFE)の調査が行われ、翌69年に結果が公表された。両海の大陸棚には、「中東に匹敵する石油が埋蔵されている可能性がある。特に尖閣諸島海域が最も有望」と報道されている。

 そうなると、わが国の石油企業4社が「日中中間線」の日本側海域に鉱区を設定し、台湾と韓国も鉱区を設けた。ところが、南北の幅が400カイリに満たない東シナ海の中央で3カ国・地域の設定鉱区が重なり、対立が生じた。

 ≪中国がつぶした日韓台開発≫

 そこで、岸信介元首相の仲介により、領土問題を棚上げし石油資源の開発に限定して、3カ国・地域による共同開発を実施するということで合意が成立した。だが、数カ月後の70年12月、突然、中国が新華社、続いて人民日報の評論員論文の形で、「東シナ海は中国の海であり、東シナ海の石油資源は中国の資源である」と主張し、特に日本に対し、「日本はまた中国の資源を略奪するのか。これは軍国主義ではないか」と激しく非難攻撃した。この恫喝(どうかつ)で共同開発計画は吹っ飛んでしまう。

 脅しは効果十分だった。以後、日本は、東シナ海の日本側海域での中国の活動に対しても、警告するだけで排除できないという状況が生まれている。最近では、中国は奄美大島に近い海域での調査も行い、日本側の中止警告を「ここは中国の海だ」と無視して調査を続けるようになっている。

 ここに至った背景には、さまざまな問題がある。例えば、80年代に入り、トウ小平の「改革開放」が実際に滑り出すや、「トウ小平は毛沢東と違う」と礼賛した人たちや、そうしないまでも、経済成長を遂げれば中国は「普通の国になる」と期待する人たちが現れた。そして、日本政府は気前よく、低利で長期の多額の政府開発援助(ODA)を提供、中国は日本を上回る高度経済成長を遂げた。

 ≪右手でビンタ、左手で要求≫

 筆者は50年前に大学院で中国研究を始めたとき、指導教授から、「中国人は相手より優位に立ったとき、嵩(かさ)にかかってくることがある。気をつけるように」、別の教授から「中国人は右手で人の横面をひっぱたきながら左手を出して金や物を要求することがある。よく覚えておくように」と言われたことがある。その時はまさかと思ったが、今回、拘束した中国船船長を帰国させたところ、中国側が「謝罪と賠償」を要求してきたあたりは、まさに、2人の教授の指摘した通りではないか。

 強大化してきた中国を無視することはもはやできない。何か起きたら慌てふためいて対応するのではなく、中国の過去の動向をよく分析して、対症療法でなく、戦略的に対応する必要がある。(ひらまつ しげお)

このニュースの写真

PR

PR
PR
イザ!SANSPO.COMZAKZAKSankeiBizSANKEI EXPRESS
Copyright 2010 The Sankei Shimbun & Sankei Digital
このページ上に表示されるニュースの見出しおよび記事内容、あるいはリンク先の記事内容は MSN およびマイクロソフトの見解を反映するものではありません。
掲載されている記事・写真などコンテンツの無断転載を禁じます。