2010年12月22日
核施設査察同意/警戒すべき北の常套手段
北朝鮮は訪朝したリチャードソン米ニューメキシコ州知事との間で、寧平の核施設への国際原子力機関(IAEA)監視団の受け入れに同意した。しかし、硬軟織り交ぜた外交姿勢は北朝鮮の常套手段だ。国際社会は今後の展開を警戒すべきだ。
放棄の約束を守らず
北朝鮮はこのほか、国外への核燃料棒移送の交渉開始や黄海での衝突防止のための南北朝鮮と米国による軍事委員会の設置協議などに同意した。リチャードソン知事は「北朝鮮の姿勢は前向きだ」と評価した。
しかし、これまで北朝鮮は何度も国際社会を欺いてきた。2005年9月の6カ国協議では北朝鮮が核放棄を約束する共同声明が採択されている。しかし北朝鮮は06年10月、最初の核実験を強行した。ブッシュ前米政権は08年10月、北朝鮮のテロ国家指定を解除したが、09年5月には2度目の核実験が行われ、結局核開発を止めることはできなかった。
先月は米科学者にウラン濃縮施設を公開し、その後韓国・延坪島を砲撃するなど北朝鮮の挑発姿勢はエスカレートするばかりだ。今回の同意にクローリー米国務次官補は懐疑的な見解を示し、「問題は決定を実行するかどうかだ」と強調した。
今回北朝鮮が緊張緩和の同意に応じたのは、日米韓の連携を分断するためとの見方もある。北朝鮮は韓国への1万2000本分の核燃料棒売却に同意したとの報道もあり、各国との個別交渉に持ち込む狙いとされる。
北朝鮮では金正日総書記の健康不安のため、三男の正恩氏を中心とする後継体制強化が急がれている。延坪島砲撃は正恩氏の「実績づくり」との見方が有力だ。自国の独裁的な世襲体制を維持するため、周辺国を危険にさらす北朝鮮の蛮行は許し難い。今回の姿勢軟化に対しても国際社会は惑わされず、核廃棄が完全に証明されない限りは北朝鮮の包囲網を強化する必要がある。
その意味で、国連安全保障理事会の緊急会合で延坪島砲撃に対する北朝鮮非難声明が中国の反対で見送られたのは残念だ。先月末はウラン濃縮施設建設の非難声明も、やはり中国が反対して採択できなかった。
菅直人首相は、安保理から北朝鮮を名指し非難するメッセージが出される必要性を指摘するとともに「中国は国際的に責任ある立場で行動してほしい」と求めた。日本は米韓両国と連携し、中国に北朝鮮への影響力行使を強く働きかける必要がある。そのためには尖閣諸島沖の中国漁船領海侵犯事件で示した弱腰の対応を改め、中国に対して毅然とした外交姿勢が求められよう。
中国は地域安定に努めよ
中国は東シナ海や南シナ海で強引な権益拡大を目指し、民主活動家・劉暁波氏のノーベル平和賞授賞式に参加しないよう各国に働きかけるなど、自国中心の態度が目立つ。北朝鮮に甘い姿勢を示すのも自国の国益を優先しているためだ。しかし、このままでは国際社会との対立が深まるばかりだろう。中国は地域の安定のため、軍事力と経済力に見合った役割を果たさなければならない。