鹿児島市の高齢夫婦殺害事件で、鹿児島地検は22日、強盗殺人などの罪に問われた同市三和町、無職白浜政広被告(71)に無罪を言い渡した鹿児島地裁の裁判員裁判判決を不服とし、福岡高裁宮崎支部に控訴した。一審は死刑求刑の裁判員裁判で初の無罪判決だった。鹿児島地検の江藤靖典次席検事は控訴理由について「判決の事実認定には誤りがある」と述べた。裁判員裁判で検察が控訴するのは5例目。
地検は判決後、殺害現場で補充捜査し、福岡高検とも協議。判決が白浜被告の「被害者宅に行ったことがない」という供述は「うそ」と断じながら、殺害行為と分離して判断したのは事実誤認で、控訴審で逆転可能と判断したとみられる。
ただ、検察幹部にも、市民裁判員も加わった判決への控訴は「裁判員制度にかかわる問題」との慎重意見があり、24日の控訴期限直前まで検討を重ねた。江藤次席検事は「裁判員裁判で示された国民の視点、感覚は尊重するのが基本方針」とした上で「本件は公益の代表者として看過しえない誤りがある」と述べた。
地裁の平島正道裁判長は10日の一審判決で「本件程度の状況証拠で犯人と認定することは『疑わしきは被告人の利益に』という刑事裁判原則に照らして許されない」と述べた。
現場に残された指紋やDNA型の鑑定結果については「過去に触った事実を認定できるにすぎない」と指摘。凶器のスコップから被告の指紋が見つからず、たんすに現金が残っていたのは疑問とし、夫婦をめった打ちにした点も強盗ではなく「怨恨(えんこん)目的を疑わせる」とした。
白浜被告は昨年6月18日夕-翌19日朝、同市下福元町、蔵ノ下忠さん=当時(91)=宅に侵入、忠さんと妻ハツエさん=同(87)=をスコップで殴って殺害したとして強盗殺人と住居侵入の罪で起訴された。
=2010/12/23付 西日本新聞朝刊=