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(22.11.10) NHKスペシャル 「862兆円 借金はこうして膨らんだ」 その2

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 なぜ大蔵官僚が消費税の導入に熱心だったかは、大蔵官僚出身で元自民党衆議院議員だった柳澤氏の証言がある。
消費税は悪魔のようなずる賢い財源で、誰にでも平等に負荷することができ、この税制からは逃れることができない

 税を徴収する側から見ると、確実に税収を補足できかつ適宜に税率を変えることができるので(景気対策として税率を下げ、緊縮財政になれば税率を上げる)、これほど便利な税体系はないのだそうだ。

 だから大蔵官僚がおりあらば政府の尻をたたいて(政府はほとんどの場合は国民に人気のないこの税制に乗り気でない)消費税の導入とその税率アップに邁進していった経緯は分かる。
しかし内部文書で大蔵官僚が「福祉予算の増大に対処するために消費税の導入が必要だった」と一貫して証言しているのは、私にはマユツバに聞こえた。

 これでは政府予算は福祉予算だけで成り立っているようで、今問題になっている不要な組織の物件費や人件費はどうなのかと疑問に思うし、防衛費だって相応に必要ではないかと思ってしまう。

 それに何よりこの番組を見て奇異に思えたのは建設国債についての言及がないことで、実際国債の残高の約半分は建設国債であり、建設国債を分析の対象にしなければ片手落ちに思えたからである

注)建設国債は道路やダムや飛行場のように物が残り、一方赤字国債は年金のように支払われて後に物が残らないという違いがある。
そのため財政法の考え方は建設国債はよい国債で赤字国債は悪い国債と認識している。
しかし 八ツ場ダムを見ても分かるように日本の公共工事は不必要なものを仕事を確保するだけのために行っており、不況対策以上の意味を持っていない。


公債の残高推移(特例公債というのが赤字国債)
http://www.mof.go.jp/zaisei/con_03_g01.html

公債の新規発行額
http://www.mof.go.jp/zaisei/con_03_g02.html

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 大蔵官僚の悲願だった消費税がようやく導入されたのは竹下内閣昭和62年から平成元年)の時で、日本中がバブルに浮かれていた平成元年1989年)のことである。

 今から思うとこの時期(バブルが弾けた前後数年間)は日本財政史上もっとも財政が安定していた時期で、赤字国債の発行はなく、かつ建設国債も最低限に抑えられていたことが分かる。

注)平成2年(1990年)から5年(1993年)まで赤字国債は発行されていない。

 そうした国民が浮かれていた間隙をぬって竹下内閣は大蔵官僚の要請をいれ消費税の導入に成功したが、野党と世論からは総すかんを食ってしまい、退陣に追い込まれた。
大蔵官僚は竹下内閣を犠牲にして消費税の導入に成功したと言える。

 しかし日本経済は1990年、突然襲ってきたバブル崩壊により瀕死の重傷を負うようになり、失われた10年に突入した
再び税収不足に悩まされ始めたため、一時的に発行をやめていた赤字国債の復活や、公共工事による景気対策として建設国債が増額されたため、1990年代を通じて財政状況は急激に悪化していった。

注)平成3年度(1991年)を底として公債依存度が急上昇する。

 しかもこの時期アメリカのクリントン政権から貿易赤字の解消のため国内需要を喚起し内需中心の経済に転換するように強い要請が有った。
8兆円規模の減税を行い、アメリカへの輸出を減らせ

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 景気の悪化、アメリカからの減税要請、国債の増発、財政の国債依存等大蔵官僚を悩ます状況下で、大蔵官僚は(政治センスがまったくなかった)細川首相1993年から94年)を脅しあげて1994年2月国民福祉税7%を突然公表させた。

 この時の事は私も覚えているが、突然深夜のテレビで国民福祉税を言ったのには驚いた。
消費税を廃止して国民福祉税に変更して税率を上げると言う
それはないだろう」と思ったが、翌日にはこの案をあっさりと撤回してしまった。

 細川元首相はこのときの事情を「大蔵官僚が細川内閣に無理心中を迫った」のだと述懐している。
この増税のシナリオは10年に一度の大物次官と言われた斎藤氏と新生党の小沢氏の間で取り進め、細川氏は単に神輿に乗ったのに過ぎないというのが実情だったようだ。

注)このとき細川政権の最大与党社会党は国民福祉税のことを知らなかった

 こうして最後の大物官僚による消費税UPのクーデタは失敗し、エリート(大蔵官僚)による改革は失敗したという。
その後大蔵官僚が黒子に徹しながら最後のかけに出たのが橋本内閣(1996年から98年)による財政再建だったという。
黒子になったのは大蔵省が前面に出ると国民が反発すると分かったからである。

 橋本内閣は大蔵官僚の要望を入れて1997年消費税を3%から5%にアップし、財政再建に取り組んだ。
しかし実際はようやく回復基調にあった景気が悪化して、法人税等の収入が激減したため消費税をアップした理由が分からなくなってしまった。
だれだ、消費税をアップすれば財政再建になるといったのは・・・」橋本首相は悔やんだが後の祭りだ。

 翌年の参議院選挙で自民党は敗北し橋本首相は退陣し、消費税に手をつけた政権政党は敗北すると言うトラウマをここでも実証した

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  その後は日本は未曾有の金融危機に突入し、1998年、長銀や日債銀がばたばたと倒産したため財政再建どころではなく、日本そのものの存在が問われるようになった。
赤字国債であろうが建設国債で有ろうが目一杯の借金をしろ
財政再建の季節は終わっていたのである。

 この金融危機を契機に大蔵官僚は財政再建の舞台から消え去ったのだと言う。
金融危機を防ぎきれなかった大蔵官僚は無能だ。大蔵官僚の言うことを聞いていたら国がつぶれる

 かつて大蔵官僚は職務として財政再建に取り組み、時に政府を犠牲にしてまでも消費税を導入したが、21世紀に入ってからはもはやなすすべがなくなった。
役所も分割され財務省(2001年)としてその他の役所の中の一つとして埋没している。

 以来連立政権による予算の増大に直面しても誰も止め立てする組織はなく、今赤字国債は止めどもなく拡大し続けているという。

 

 

 

 

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評論 日本の政治・経済 国債」カテゴリの記事

コメント

 1昨日の記事でしたが、日本の民間融資は200兆円を割ってしまいましたね。
要するに、お金が回っていないのでしょう。

 今、財政再建のために消費税や所得税を上げれば、ただでさえ細っているフローから、政府がさらに上前をはねるわけですから、ますますフローが細り、デフレ進行が進むので、財政問題は片付かないでしょう。

 金融緩和のみを進めれば、単純に、株や不動産、資源を買い向かうだけです。
 福祉や社会保障をけづれば、ますます不安を煽り、少子高齢化は勢いを増すでしょう。
(そもそも福祉政策は、ころころ変わっており、それが、国民の信用を失っています)

結局は、成長戦略と出生率増のみが解としか言いようがありません。
(難しい時代なのは理解できますが、政治家でこれを諦めるのは失格では)

人口分布を見ると面白いです。つりがね型の中でも、
団塊の世代が来て、その団塊ジュニアが来て・・・。 しかし、団塊ジュニアジュニアはぜんぜん増えない。 なぜでしょう?
ここからまじめに考えないと、いけないと思います。
 

投稿: たか | 2010年11月10日 (水) 20時55分

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