(22.11.9) NHKスペシャル 「862兆円 借金はこうして膨らんだ」 その1
7日に放送されたNHKスペシャル、「862兆円 借金はこうして膨らんだ」と言う番組は理解するのがかなり難しい番組だ。
この番組を録画して内容をチェックしてみたが、実際に赤字国債が発行された昭和40年から現在までの約半世紀の財政史を大蔵官僚の証言で追うのは並大抵のことではない。
財政史そのものがかなり専門的なことと、大蔵次官はほぼ2年で交代してしまうし、官僚の証言が当時のものか後で行ったものかよく分からず、かなり頭が混乱した。
862兆円という数字は本年度末時点での国と地方を合わせた借入金の総額見込みだが、これは日本の1年間のGDPのほぼ2倍の金額だ。
なぜこれほどまでに借金が膨れ上がったのか、日本の借金体質がどの時点で発生し、そしてそれがなぜ現在も続いているのかを検証しようとしたのがこの番組である。
NHKが総力をあげた憂国のキャンペーン番組だが、登場人物の多さに閉口した。
注)862兆円は赤字国債と建設国債の合計金額
この番組は本来赤字国債の発行が許されていない日本の財政法の中で、なぜ赤字国債が増加し続け、それを止めることができなかったかを旧大蔵省の内部文書から見ている。
注)日本の財政法の建前は赤字国債の発行を禁止し、建設国債だけを許容する仕組みになっている。財政法が赤字国債を禁止したのは戦前・戦時の財政がこの赤字国債でまかなわれ、最終的には異常なインフレーションをもたらしたため。
したって赤字国債を発行するためには特例法を制定して実施することになる。
旧大蔵省には大蔵省の幹部だけが見ることのできる財政史口述資料と称する内部文書があり、次官や主計・主税局長といった最高幹部約100人が後輩のために書き残した歴史的文書が保管されている。
それをNHKが見つけ出し、この番組を製作した。
この文書を読んでみると時の事務次官や主計・主税局長が国内政治や国際政治に翻弄され、已む無く赤字国債の発行に同意していった経緯と、何とかして赤字国債を解消するために消費税の増税による財政赤字の解消を図ろうとしていたかが分かる。
注)大蔵省は健全財政の立場から常に赤字国債の増発には反対の立場で、歳入欠陥は増税によって対応すべきだとの立場を一貫して取っていた。
初めて赤字国債が発生したのは昭和40年で、東京オリンピック後の不況で約2000億円の歳入欠陥が発生した時である。
このときは一時的な止む終えない措置として赤字国債を発行し、確かにその後10年間は赤字国債の発行はなされていない。
注)赤字国債は「麻薬」と同じだと言うのが当時の次官の認識だった。
この番組を見て私には一番意外だったのは、赤字国債と福祉予算の関係で、福祉予算の拡大こそがその後赤字国債発行がやめられなくなった最大の要因だと大蔵官僚が証言していたことである。
福祉関連予算が急激に伸びたのは田中内閣(昭和47年から49年)の時で、年金の物価スライドと老人医療費の無料化を行ったために福祉予算が一挙に30%も増額になった時だったと言う。
私の記憶では田中内閣は列島改造論を掲げて日本中で土木建設をしようとした内閣だと思っていたが、意外にも福祉予算も大幅に増額していた。
当時の言葉で「福祉元年」という。
注)昭和40年代の高度成長で財源が十分にあったため、土木建設も福祉も両立できると思われていた。
しかし世の中は甘くない。昭和48年にオイルショックが発生すると税収が一気に落ち込み昭和50年の予算では再び赤字国債の発行が必須となってしまった。
注)オイルショックこそは日本の高度成長を終了させたエポックになっている。その後の日本はいわゆる安定成長時代に入る。
公共事業の新規取り組みは中止できても、田中内閣が始めた年金の物価スライドや老人医療費の増額が年に1兆円規模で増えて、結果的に2兆円の赤字国債を発行することになった。
当時の大蔵事務次官の反省の弁は「財源の裏付けのないまま、高成長が続くものと想定して福祉制度を導入したのが失敗だった」と言うものである。
「公共事業なら止めることもできるが、福祉については一旦始めるとやめることができない。毎年確実に10%程度の伸び率で増大し、一方それに対する予算措置はない」のだそうだ。
この増え続ける福祉予算の財源措置として、当初考えられたのは「再び高度成長を取り戻し、税収を上げること」だった。
福田内閣(昭和51年から53年)が53年度に11兆円予算を増額して超大型予算を組んで高度成長を目指したのがそれだ。
福田内閣としてはこれで再び高度成長の波に乗れると思ったが、しかし日本経済は二度と高度成長に戻ることはなかった。
注)日本経済の成長率は石油ショックまでは年率約10%程度だったがそれ以降は平均でバブル崩壊まで4%程度だった。
福田内閣は成長率4%を一気に7%に引き上げ、それによる税収増加で福祉予算の財源不足を補おうとした。
この頃までの大蔵省の方針は高度成長による税収増で赤字国債を解消しようと言うものだったが、福田内閣の政策が失敗に終わってからは新たな税源確保として消費税の導入に邁進するようになったという。
「高度成長はもはやない。後は増税しか歳入欠陥を埋める手段は残されていない」
福田内閣の後を継いだ大平内閣が成立すると、時の大蔵次官大倉氏と大平首相は消費税の導入に積極的に乗り出し、昭和54年の選挙においても一般消費税の導入を訴えたが自民党は過半数割れを起こし総選挙で敗北してしまった。
次官の大倉氏は予算の増額を20%から13%に抑えることで国民の理解を得ようとしたが、まったく効果がなかったという。
こうして大蔵省のもくろみは国民からNOと言われ増税路線も頓挫してしまった。
その後消費税導入を訴える政権政党は必ず敗北するという、日本財政史上のトラウマがこのときに形成され、高度成長による財源確保も、消費税増税もできないため財政は急激に悪化していったという。
注)消費税については部分的に成功したが現状でも5%であり、西欧の税率20%程度と比較すると十分なものと大蔵官僚は思っていない。
(続く)
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コメント
いつも楽しく拝読させていただいております。
別の見方をすれば、財政健全化キャンペーンは、財務省主導で、もう20年以上延々とやってきたわけですね。
私が物心ついたとき、武村正義さんが、「日本は財政破綻する。」
といっていたのを憶えていますし、中学生の私は、純粋に日本の未来を絶望しました。
ネットが普及するにつれ、そこに疑問を投じる論派の本が、本屋でも売られるようになっております。
http://www.gci-klug.jp/mitsuhashi/
どちらが本当か分かりませんが、NHKや民法各局が、いまだに財務省の論派一色になっているのは、ちょっと奇異な感じがします。
もう少しフェアな報道は無いのだろうかな?と思います。
最近の日本の問題は、民主党を中心とし、「もう成長などない。だから投資も削りましょう。」
となってしまっていることだと思います。
特に、研究分野から投資を引き上げているのは、かなり危険です。
私は仕事がら光ネットワーク技術に関わっておりますが、
現在、アメリカがIT企業を押さえているのは、国主導で(軍事研究ですが)情報研究に邁進して来た結果ですし、日本でも鉄道、建築、発電所、それを支えるシステムが輸出品目になったのは、国主導の投資の存在であり、否定できないと思われます。
無論、道路をほじくり返すのが良いとは思いません。 しかし、たとえば、衛星、環境投資から派生する産業も新たに生まれると思うのですが、どうでしょう。
投稿: たか | 2010年11月10日 (水) 00時31分
大蔵事務次官が短い任期で変わってしまうのも、無責任体質の元でしょうね。
番組からは、もう破綻は避けられないとの印象を受けたのですが、どうでしょうか?
投稿: bogey | 2010年11月 9日 (火) 10時34分
面白いですね。「続く」に期待しております。(^^)v
投稿: yokuya | 2010年11月 9日 (火) 08時07分