小さな手が、ギュッと母親の小指を握った。
小林市の保険代理業、小川真さん(33)の次女は先月生まれたばかり。妻(30)が都城市の産科で出産した際、低酸素状態だった。すぐに提携先の総合病院に救急搬送され、一命を取り留めたが、経過観察中だという。
出産前、妻の体調が思わしくなく「生まれた時、もし何かあったらと不安だった」と小川さん。妻の勤務先でもあり、小林市と比べ医療が充実していると判断し、都城市での出産を選んだ。
最近、2歳の長女が39度の熱を出した時も慌てた。小林市立病院に電話すると、車で約1時間の都城市で受診するよう告げられた。小児科は医師が退職し、11月から休診状態だった。
「緊急なのに地元で診てもらえない。これでは安心して子供を育てられない」と小川さん。妻も「夜中に熱を出した子供にとって、車の移動は負担が重い」とため息をつく。
医師不足の背景にあるのが04年導入の新しい臨床研修制度。新人医師が研修先を自由に選べる半面、高度・専門医療が充実した都市部が好まれ、地方が敬遠される傾向にある。
08年現在の県内の医師数は2602人で、98年比で259人増加した。しかし、過半数の1373人が宮崎東諸県医療圏に集中し、小林市を含む西諸県医療圏は144人。小児科系医師数も66人に対し、5人と地域、診療科に偏在がある。
小林市立病院では、内科医3人が派遣元の鹿児島大学に引き揚げ現在1人。症状の軽重を問わずに患者を受け入れて医師が過重労働を強いられた過去があり、市民も動き始めた。
今年5月に発足した「地域医療を考える会」。地域で座談会を開き、まず民間のかかりつけ医を受診し、必要に応じて市立病院を受診するよう勧めている。医師の負担を減らし、働きたくなるような勤務環境の改善が目標だ。啓発DVDには坪内斉志院長が出演し「危機的状況に理解を」と語り掛ける。市立病院を、救急など地域医療支援病院と位置づけ、民間との役割分担を目指す。西諸医師会の開業医も輪番制で市立病院の夜間診療を支援するなど意識は変わりつつある。
県は、へき地や小児科勤務を前提に、現在49人が利用する医師修学資金貸与制度や、宮崎大学で始まった地域医療を担う「総合医」育成を支援している。高橋博・福祉保健部長は「地方勤務の義務化制度を国に働き掛けることも必要。大学や医師会と連携したい」と話す。【石田宗久】
毎日新聞 2010年12月18日 地方版