今回の判決では、「政府は過去の事実関係を真摯に検証し、国民に説明する責務を果たすべきだ」として、国民の知る権利の実現を国に強く求めている。では、それだけでいいのだろうか。
そうした国にしていくためには、私たちメディアも含めて、国民1人1人が、常に国に対して情報の共有を問い続けること。国民が知るべきことをきちんと知り、歴史から学べる社会にすることは次の世代への私たちの責任でもある。密約問題は、そのために私たち自身が何をすべきかを問いかけている。
(文:番組取材班 小口拓朗)
取材を振り返って
【鎌田靖のキャスター日記】
1972年、沖縄返還協定をめぐって、沖縄の現状回復のための費用400万ドルを日本がアメリカの肩代わりをしていた問題。日米のいわゆる密約問題のひとつですが、この問題をめぐって4月9日裁判所が画期的な判決を言い渡しました。
文書の公開を国に求めていたジャーナリストや研究者の訴えを裁判所が全面的に認めたのです。当日は、私も裁判所で取材しました。私は記者時代、司法担当が長かったのですが、率直に言ってこの判決は予想していませんでした。各社の現役の担当記者も同じだったようで、法廷から飛び出してきた記者たちは、興奮しうわずった声で判決内容をデスクに報告していました。
判決をわかりやすくいうと、こういうことです。
日米の間で密約があったことは間違いない。秘密にしなければいけないものだから外務省は文書を保管しているはずだ。あるいは秘密のものだから、廃棄した可能性もある。破棄されたとすれば幹部も知っていて組織的におこなったはずだ。にもかかわらず、外務省は通り一遍の調査しかおこなっていない。改めてちゃんと調査しなさい。
ということです。極めて常識的な判決といえるでしょう。
特筆すべきことは、裁判所が外務省に対して「国民の知る権利をないがしろにしている」と厳しく批判したことです。外交上の問題については秘密にしなければならないこともあるでしょう。しかし、裁判所は民主主義の基本である「情報の公開」を国に強く求めているのです。
判決後の記者会見は、会場に入りきれないくらいの報道関係者が集まりました。
弁護団が用意したコメントの表題は「Embracing Win」。「勝利を抱きしめて」という意味です。ピュリッツアー賞を受賞したアメリカの歴史家、ジョン・ダワーさんの著作「Embracing Defeat」(敗北を抱きしめて)を意識されたのではないでしょうか。敗戦後の日本人を描いた名著が、敗戦後から続く密約問題と呼応しているのでしょう。
さて番組では、情報公開法の第一人者で一橋大学名誉教授の堀部政男さんと、元外務省条約局長の東郷和彦さんをゲストに迎えました。このうち東郷さんは、密約問題について、自分が作成した資料が廃棄された疑いがあると国会で重大な証言をした人です。印象的だったのは、東郷さんの次の発言です。