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メダルの背後にiPadあり 世界バレーで眞鍋監督が使っていたアプリの正体

バレーの全日本女子チームを32年ぶりの銅メダルに導いた眞鍋監督。試合中、常に持っていたiPadには、何が表示されていたのか。
2010年12月22日 07時00分 更新
画像 世界バレーの試合中、iPadを持つ眞鍋監督 JVA承認2010-12-02

 今秋に開かれた、2010女子バレーボール世界選手権(2010世界バレー)。全日本チームは3位という成績を残し、32年ぶりにメダルを獲得した。

 チームを指揮した眞鍋政義監督は試合中、常にiPadを持っていた。画面に表示されていたのは、世界バレーのために特別に開発されたアプリ「Volley Pad」。「iPadのおかげで素早い判断ができた」――眞鍋監督は振り返る。

“データ戦”の現代バレー

 現代バレーボールはデータ戦だ。ナショナルチーム同士の試合ではほとんどのチームがPCを持ち込み、事前に対戦相手のデータを蓄積・分析した上で作戦を立てる。各チームはデータ入力担当者や、データを分析するアナリストを抱え、試合中にもリアルタイムにデータを分析、作戦を修正していく。

 データ収集や分析に欠かせないのが、「データバレー」というWindows用ソフトだ。世界で多くのチームが利用するイタリア製ソフト。ボールのコンタクトごとにデータを入力し、選手別・ポジション別のアタック決定率や、サーブ、ブロックのパターン、レシーブの成功率などを瞬時に数値化・グラフ化できる(2004年の取材記事:メダル狙う全日本女子、“データバレー”の裏をかけ!)。

 今回の世界バレーで全日本女子チームは、アナリストを1人、コーチを3人配置。コートエンドで担当者が入力したデータを、ベンチにいるコーチのPCと監督のiPadに、リアルタイムに共有していた。

「即断即決できたのは、iPadのおかげ」

画像 「Volley Pad」の「画面共有」機能で、データバレーの画面を表示したところ。選手別のアタック本数や決定率など細かな数字がリアルタイムに更新される

 監督のiPadには、選手別のアタック本数や決定率、レシーブ本数、レシーブがセッターにきれいに返った率、サーブ、ブロック数などの数字が試合中にリアルタイムに更新され、目標数値とのかい離が一発で分かるようになっていた。PCの「データバレー」で解析した選手別の当日データを、世界バレーのために開発された専用アプリ「Volley Pad」の「画面共有」機能で共有していたのだ。


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 iPad導入以前の眞鍋監督は、選手の状態を数字で知りたい場合、ベンチでPCをチェックしているコーチに、「あの選手調子いい? 悪い?」などと口頭でデータを見てもらったり、セット間の休憩時間にデータバレーの画面をプリントアウトしたものを取り寄せ、データを確認していたという。PC画面を直接見るにも、細かい文字が苦手で、口頭や紙に頼っていたそうだ。

 だが、試合中にコートからベンチまで数メートル歩くだけでも数秒のロスになる上、口頭でデータを確認するにも、会場は応援などの声で伝わりにくく、何度も聞き返すなど無駄が多かった。セット間に紙で確認するにもプリントアウトに時間がかかり、監督のもとに紙が届くころには休憩も終盤になるなど、ゆっくり見る暇がなかったという。

 これらの問題を解消したのがiPadとVolley Padだ。iPadなら試合中ずっと持ち歩いても苦にならない大きさ・重さな上、Volley Padの表示はピンチアウトで拡大でき、細かいデータも読みやすい。監督はコートすぐ脇にとどまり、選手に指示を送りながら、データをリアルタイムにチェックできるようになったのだ。

 「これまでだと試合の様子を主観で見たり、ベンチのコーチに聞いていたのを、自分の目で確かめられるようになり、選手交代が即断即決できた」と眞鍋監督。「メンバーチェンジが良かったと言われるが、決断をいち早くできたのはiPadのおかげ」という。データを見てサーブやブロックの狙い目を修正するケースもあったという。

画像 PDFファイルの例。ブラジルチームの分析データ

 Volly PadにはPDFファイル閲覧機能もある。事前に分析した相手チームの選手ごとのデータや、ローテーション別の攻撃パターン、試合直前に眞鍋監督が手書きで書き入れたデータなどを収録。作戦を確認したり、相手チームにメンバーチェンジがあったり場合に攻撃パターンを確認する――といったことも可能になっている。

 試合中にさまざまなデータを確認できるようになった一方、バレーは「ムードとリズムのスポーツ」(眞鍋監督)で、数字だけで采配できるわけではない。「例えば、スパイクの調子が悪い選手でも、コートにいると全体のリズムが良くなるとか、周りの動きが良くなるというのであれば、数字も気にせず使う」(眞鍋監督)。銅メダルという結果は、データと監督の采配、選手の活躍がうまくバランスされた結果と言えそうだ。

3カ月で開発 課題は「いかに簡単にするか」

画像 アナリストの渡辺啓太さん

 バレーの試合でのiPadの利用は世界的にも珍しい。それを可能にしたのは、アナリストのアイデアと、眞鍋監督のニーズに迅速に応えた加賀ソルネットの開発チームだ。

 「iPadを使ってみればいいのではないか」――全日本女子チームの渡辺啓太アナリストは、iPadが日本で発売された5月末ごろからこう考えていたという。iPadなら軽いため、試合中でも監督が常に携帯でき、データ伝達のスピードアップを図れるとひらめいた。

 加賀ソルネットが開発依頼を受けたのは、世界バレー開幕3カ月前の7月末ごろ。開発チームはバレーは素人で、「現場で必要な機能は分からない」(加賀ソルネットの上村倫一さん)ため、渡辺アナリストや眞鍋監督に何度もヒアリングし、ニーズをくみとって開発していった。

 最大の課題は「いかに操作を簡単にするか」(上村さん)だ。眞鍋監督はiPadを触ったことがない上、試合中は緊張し、興奮しており細かい操作は不可能。機能を絞り込み、ワンアクションで必要なデータにたどりつけ、直感的に操作できるユーザーインタフェースを工夫した。

 PCとリアルタイムにデータ共有しながら、ピンチアウトによる画面の拡大もスムーズに行える必要がある。試合中にアプリが落ちると元も子もない。レスポンスの改善や、安定性の向上も課題だったという。

画像 開発チームのメンバーは、加賀ソルネットの上村倫一さん(後列右)、パオックスの松田周さん(同左)、加賀ソルネットの石田博之さん(前列右)、Climb Appの河瀬和真さん(同左)

 世界バレー直前。開発陣は練習中の体育館にも足を運び、眞鍋監督や渡辺アナリストに試作版を使ってもらいながらニーズをヒアリング。細かいチューニングを重ねていったという。最後のヒアリングは世界バレー開幕の3日前、10月26日。開幕直前に完成にこぎ着けた。

 iPadを使い慣れない状態で試合に臨んだ眞鍋監督だが、操作に迷うこともなく「本当に便利だった」と大絶賛。「ITは難しいけどiPadは簡単だから、iPadをPC代わりに普段の生活でも使っていきたい」と話す。

 バレー専用iPadアプリへの注目は高く、渡辺アナリストのもとには、Vリーグのチームの監督などから問い合わせが寄せられているという。加賀ソルネットの上村さんは、「商品として販売はしていないが、採用してもらえるなら、提供できるようにしたい」と話している。

※日本バレーボール協会からの要請により、この記事は2011年3月に掲載を終了します。

[岡田有花,ITmedia]

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