2010年12月18日11時39分
政治でも外交でも経済でも浮かない話の続く2010年だった。そんな中、文化の領域では、どのような営みが積み重ねられたのだろう。分野ごとに、今年を振り返ってみる。
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「アバター」が封切られた昨年を3D元年とすれば今年は「3D2年」。映画界は特需に沸いた。「アリス・イン・ワンダーランド」「トイ・ストーリー3」が興行収入100億円超え。割高な料金設定もあって、今年の映画収入は過去最高になる見通しだ。
ハレの場という機能を失って久しい映画館が3Dによってワクワク感を取り戻し、新たな観客層を生んだ。各劇場は3Dへの対応に追われ、デジタル化を加速させている。今年が映画史上の結節点になるのは間違いないだろう。
3Dほど派手ではないが、日本映画に“新しい波”と言うべき挑戦があった。東宝が自ら企画した李相日監督「悪人」と中島哲也監督「告白」だ。主にテレビ局と組んで大作を配給し、興行面で独走してきた東宝だが、これらはテレビ局の出資がない。強烈すぎる「悪」を主題にしたせいだ。
「悪人」は一つの殺人事件の関係者が織りなす群像劇。硬質な描写で悪とは何かを問いかけた。モントリオール世界映画祭で深津絵里が女優賞。ベルリンの寺島しのぶ(「キャタピラー」)に次ぐ、今年2人目の主要国際映画祭受賞者になった。「悪人」以上に衝撃的な悪を出現させたのが「告白」だった。教え子に娘を殺された中学教師の復讐(ふくしゅう)の物語。中島監督は救いを用意することなく、「悪」を描く覚悟を示した。
年末年始の映画賞はこの2本を中心に争われることになろう。特筆すべきは「告白」が38億、「悪人」が19億円の収入を上げ、興行面でも成功した点だ。テレビ局は放送権を得るために出資する。しかし、人が映画館に足を運ぶのは、テレビでは見られないものを見たいからだ。テレビ局が尻込みをする過激さをまとったこの2本は、3Dとは別種の新たな観客を生み出す“新しい波”となった。