インタビュー掲載/2010年3月号
「危険な政治家小沢一郎の終着駅」
元「週刊現代」「FRIDAY」編集長 元木昌彦に聞く

元木昌彦
民主党幹事長・小沢一郎をめぐる「政治とカネの問題」が世上をにぎわせ続けている。2月4日、小沢は政治資金規正法の虚偽記載では不起訴となった。だが、それで終わりだろうか。編集者・元木昌彦に聞いた。 (敬称略)
 

将来を託すにふさわしい政治家か

 ――小沢一郎という政治家に対して、どのような印象をもっていますか。
  元木 私は小沢一郎の研究者ではありませんが、1989年、彼が史上最年少で自民党幹事長になったとき、「月刊現代」で政治評論家の菊池久に「小沢一郎幹事長のとんでもない素顔」という記事を書いてもらいました。そのころちょうど、業界紙の記者をやっていた松田賢弥と出会い、彼に永田町、特に小沢一郎を追っかけてみないか、と持ちかけたのです。そこから彼はずっと小沢を追及し続けていく。その成果が昨年7月、「小沢一郎 虚構の支配者」(講談社)という本になったわけです。
 彼とは二人三脚で「月刊現代」「FRIDAY」「週刊現代」などを舞台に小沢批判をやってきました。彼は今も小沢批判を続けていますし、彼の事務所もこの場所(東京・早稲田の「オフィス元木」)になっていますので、しょっちゅう小沢の話をしています。
 私に反省点があるとすれば、小沢をずっと批判をしてきて、「豪腕だ」などと言ってきたことが、逆に小沢の虚像を大きくしてしまったことです。これは私たち2人の責任かもしれません(笑い)。
 小沢そのものは希有な政治家だと思います。しかし、彼の持っているある種の危険なにおいは、見過ごすわけにはいきません。彼は田中角栄の寵愛を受け、その後も竹下登、金丸信に師事し、旧田中派、経世会の金権体質を、いまも持ち続けています。
 また、小沢は93年、著書「日本改造計画」を講談社から出し、これが60万部を超えるベストセラーになった。このとき、私は「週刊現代」の編集長で小沢批判を毎週やっていた。会社からは怒られましたよ。しかし、小沢一郎という政治家は非常に注目度が高いわけだし、われわれが批判することによって注目度はより高まって、著書がベストセラーになったという側面もあった。私は、「われわれは売り上げに貢献しているんだ」という“奇妙”な論理を振りかざし、批判をやめなかった。
 私が一番危険だと思ったのは、この本の中にも書かれている「日本を普通の国にする」という点です。いろいろな解釈はあるのでしょうが、私からみると「戦争のできる“普通の国”」を小沢は目指していると思います。この中ではっきりとは言ってませんが、本音の中にはそれがあると思います。
  彼の父親で衆院議員だった小沢佐重喜(さえき)は、小選挙区導入を目指したができなかった。それを小沢はやり遂げるわけですが、もうひとつ言うと、父親は日米安保改正を実行しています。「日本の国を守るための軍隊をきちっと持つべきだ」というのが、小沢の心の中にある本音ですが、ある意味で父親・佐重喜の考えていたものを実現してやるんだ、という気持ちがあるのではないでしょうか。
 小沢と永田町にあった料亭「満ん賀ん」の若女将が付き合っていたことは有名でしたが、私が編集長時代、「週刊現代」は彼女との間に子どもがいるのではないかと書いた。でも、小沢側から抗議は来なかった。もしそれが事実だとすれば、子どもはもう20歳近くになっているはずです。このように小沢一郎の全体像を浮かび上がらせるのは、週刊誌の役割です。人間というのは頭から下半身まであって、そういうものの全部を総合して、小沢一郎という政治家が「日本の将来を託すにふさわしい政治家か」ということを問いかけるのが、小沢批判の趣旨でした。
 ただ、いまのように、自民党にいる間は、そんなにおカネに執着していたとは思えなかった。角栄に象徴されるように、数は力、力の源泉はカネだというやり方を見てきていたが、自民党、しかも田中派という大派閥にいたときは、そんなに自分でおカネを持たなくても、派閥の力によって権力を持つことができたからだと思います。

最終目的は憲法改正だ

 ――確かに自民党時代には、個人としてそんなにカネを集めていたという印象はないですね。
  元木 夫人は新潟のゼネコン福田組会長の長女ですし、カネに困ったところは見うけられない。最近の不動産を次々と買い漁っていく姿を見ると、どこでどう変わっていったのだろうかと思いますね。これは推測ですが、陸山会名義で不動産を買い漁る、妻・和子の名義で不動産を買うというのは、個人の資産形成のためだとは思えません。自分の資産をつくって子孫に美田を残すという考えは、彼の中にはないでしょう。
 あの中のおカネを辿れば、政党交付金が政党支部から迂回をして陸山会へ流れたという構図が浮かび上がってきます。何かあれば取り崩し現金に換え、最高権力を握るために使うという気持ちが小沢の中にはあるのでしょう。
 しかし、それは総理になるためではあり
ません。総理になるチャンスはいままでに2回ありました。宇野宗佑が退陣したときと、海部俊樹が辞めたときです。宇野のときは若すぎるという理由で断りました。海部のときは病気をしてしまいました。心臓病ですね。夫人にも止められたということです。基本的に小沢は、総理という名誉には興味がなく、実質の権力を握り、そこで何をやっていくか。
 私はやはり、最終的に小沢の頭には憲法改正があると思っています。そのためには国会で最大多数を集めなければならないと彼は考えており、今度の参院選に焦点を合わせているのでしょう。
 みんなが「小沢はこれだけのカネを握って何をしたいのかまったくわからない」と言いますが、私は昔から「小沢がやりたいのは憲法改正で、それが最終目標だ」と考えています。
そうでなければ、なぜ自民党をぶっつぶしてまで一党独裁政権を樹立しようとしているのか、わからない。
 そして、その裏にあるのは、もしかしたらアメリカからの要請かもしれませんね。彼はいま、アメリカと距離を取っているように見えるが、もともとはアメリカとベッタリの政治家です。アメリカの要請として、憲法改正は十分考え得ることだと思います。
 ――集めた資金が半端な額じゃないようですね。
  元木 小沢は古いタイプの政治家です。岩手だけではなく東北一円で、これほどの規模でゼネコンを支配し、おカネを吸い上げ続けるというのは、昨今の政治家では考えられません。自分が細川政権時代に改正した政治資金規正法の裏を見事にかいくぐって、裏金づくりをしてきたと言ってもいいのではないでしょうか。ただ、それがどん詰まりにきている。検察は、田中角栄、金丸信を倒したように、小沢一郎をターゲットにしている。それが「最終戦争」と言われるようなところまできていると思います。
 ――検察とあれほど激しく戦って小沢にメリットがあるのでしょうか。
  元木 このままでは小沢は、何らかの形で追い詰められると思います。検察は多分、逮捕できなくても、最終的には議員辞職に持っていきたいのだと思います。政界から身を引いてくれれば、というところではないでしょうか。
 そういう意味では、金丸のときとよく似ていますね。あのときも最後は脱税ということで国税が動いた。この事件も、土地を購入したのが陸山会でも、名義が小沢だというのならば、固定資産税なども含めて陸山会が払っていたら問題です。金丸のときは自宅に金の延べ棒があったけれど、小沢も自宅で現金をタンス預金していたというのですからね。今度も検察は、国税を動かすことを考えているのかもしれません。そうすると依然として“小沢危うし”という局面は変わらない。
 94年、時事通信社の田崎史郎が「文藝春秋」10月号に発表した「小沢一郎との訣別」で小沢一郎のオフレコ発言をすっぱ抜いた。それによると、小沢は《政治が検察に握られている状況はおかしい。変えなければならない。ちゃんとした法務大臣を選んでコントロールしなければならない》という意味のことを言って、検察批判をしています。  小沢は以前から、オレが天下を取ったら政治が主導権を握るんだ、つまり政治家主導でやるんだという強い意志を持っています。それに対して検察は、小沢の金権政治を何とかしようと狙っていた節がある。ロッキードからいえば、30年以上も小沢と検察の戦いが続いています。
 その小沢が与党になった。これは検察にとってターニングポイントになった。ここでやらなければ、逆に自分たちがやられると検察も思った。そこが今回の事件の底流にあると思いますね。
 

小沢は意外と女性的な政治家

選挙制度改正も政治資金規正法改正も、彼が主要な役割を果たしています。自分でつくって自分で裏を考える。にもかかわらず、彼にはブレーンがいません。「秘書さえもほとんど信用しない。カネの出入りも含めてほとんど一人でやっている」と言われています。「それは小沢の人間性に由来する」と親しい人間は語っています。「人を信用しない」「寄せ付けない」と。
 彼に秘書として25年仕えた高橋嘉信(マンガ「票田のトラクター」のモデル)という人間がいますが、最後は離反してしまう。彼が言っています。「小沢にとっては、敵か下かの2種類しかない」と。
 小沢を20年くらいウオッチしていて思うのは、彼に人が寄りつかないということです。彼クラスの政治家になれば普通、誰かしらブレーンはあいつだというのがいるはずなのに、なぜか聞いたことがありません。
 親しい人間に言わせると、小沢は気が小さく、猜疑心の強い男だという。基本的には母親に育てられた“マザコン”政治家です。父親と離れて暮らし、中学生で上京するまで、母親に育てられた。確か初当選したときも、国会に母親と一緒に行ったはずですよ。これ以来、選挙でも母親にものすごく世話になっています。彼はあまり父親的なものにあこがれることがないのではないでしょうか。彼はどちらかといえば“女性的”なところがあると思います。  普通はこの手の政治家はどこかでつまずいたりするものです。田中角栄には小佐野賢治という刎頸(ふんけい)の友がいたが、そういうところから破たんが起きてくる。ところが、小沢がここまで破たんしなかったのは、人を頼りにしていない、自分一人で考え、自分の力だけでのし上がってきたからでしょう。ある意味では男らしいというより、女性的だったから、かもしれません。
 小沢という政治家も秘書にはほとんどカネを触らせないタイプだと聞いています。いまの4億円のカネの問題も、自分はまったく知らなかった、秘書がやったことだと言っていますが、彼をよく知る人間に言わせれば「とんでもない」ということです。
 ――検察は虚偽記載による小沢の起訴を断念しましたが、小沢とカネの問題はこれで終結しますか。
  元木 元自民党幹事長の野中広務はこう言っています。「小沢のような政治家は見たことがない。土地やマンションなどの巨額な資産をつくるのに使ったカネは、政治資金やろ。その政治資金には国民の税金(政党交付金)が入っている。あいつは自分名義の資産形成のために税金を使った」。
角栄より悪質かもしれません。西松建設事件以来、さまざまな形で小沢ゼネコン支配の実態が明らかになってきました。参院選前に、小沢とカネをめぐる検察の最終戦争、第2ラウンドがあると思います。
ききて/酒井雅広
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