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きょうの社説 2010年12月22日
◎福井延伸先送りへ 現政権に望むのは無理なのか
北陸など整備新幹線の沿線自治体が延伸財源への活用を求めていた鉄道建設・運輸施設
整備支援機構の利益剰余金は、国庫返納のうえ、大半が年金財源に充てられることになった。並行在来線支援や将来の機構の収入を鉄道支援に充てる仕組みなど評価できる部分もあるが、延伸の条件である財源問題を打開するチャンスであっただけに、国庫に返納されるのは納得しがたい。来年度予算編成で財源確保のめどが立たないなかで、機構の剰余金は財務省などに押し 切られる形で使い道が決着した。馬淵澄夫国土交通相は、北陸新幹線など未着工3区間の新規着工について、年内の判断は見送る考えを示した。延伸に関しては、現政権にこれ以上望んでも虚しくなるような再度の先送り判断である。福井駅はすでに完成し、延伸が遅れるほど投資した税金が生かされなくなる。いつまでも棚上げせず、着工判断の期限を区切るなど政治の意思を早く示してほしい。 民主党政権が一から手掛けた来年度予算編成は、財源をかき集めるのに必死で、機構の 剰余金は格好のターゲットにされた印象を受ける。司令塔不在で迷走気味の編成作業を目の当たりにすれば、今後、新幹線の延伸財源を捻出できるのか、はなはだ疑問である。 今回の予算編成であらためて感じるのは、政府、与党内で整備新幹線の意義や必要性が 明確に位置づけられていない点である。今夏の参院選では整備新幹線がマニフェストに盛り込まれず、菅直人首相は臨時国会の予算委員会で「高速道路がある部分に並行して新幹線が必要なのか」と慎重な物言いに終始した。民主党の沿線国会議員も頼りになる存在とは言い難い。剰余金活用策などで一歩前進の部分があったとしても、今後の展開を考えれば不安材料は尽きない。 今月上旬に東北新幹線が全線開業し、来年3月には九州新幹線鹿児島ルートも開業する 。本州の北端から九州の南端まで太平洋側を中心に新幹線のレールがつながるなかで、1960年代に北回り新幹線として構想が浮上した北陸新幹線の遅れは一層際立つ状況となっている。
◎年金引き下げ 現役世代にツケ回さずに
2011年度の公的年金支給額を5年ぶりに0・3%程度引き下げる方針が決まった。
年金支給額の物価スライド方式は法律で規定されており、実際に消費者物価が下がっているのだからルールに従って減額するのはやむを得ない。菅直人首相は先に、細川律夫厚生労働相に対し、減額を行わず据え置きを検討するよう 指示していた。来春の統一地方選を見据え、引き下げは高齢者の反発を招くとの警戒感があったからだろう。 だが、年金を据え置くには新たな財源を確保する必要があり、追加的支給分の700億 円は、現役世代の負担となる。ルールを変えてまで投票率の高い高齢者層におもねり、現役世代にツケを回すようなまねをしてはいけない。 物価スライド方式は04年の年金制度改革で導入された。生鮮食料品を含む全国消費者 物価指数の平均を100とし、翌年度の年金額を調整する仕組みである。10年は1月から10月の平均指数が99・6となり、通年でも100を下回るのが確実となった。 今回の場合、国民年金で満額の月6万6008円を受給している人の場合、月約200 円、年約2400円減る。夫が厚生年金に加入した標準的な夫婦2人の世帯では月約700円、年約8400円下がる計算である。 これを据え置くとしたら、新たな財源と法整備の必要があった。ネックとなったのは財 源確保の問題より、引き下げのための関連法案を「ねじれ国会」で成立させる必要があった点だろう。成立のメドが立たないというのが据え置き断念の理由ではないのか。 行政のトップはよほどのことがない限り、特例措置の適用などといったルール変更には 慎重であるべきだ。選挙対策での変更などもってのほかだ。引き下げが必要だった06年度の場合も、当時の小泉純一郎首相は0・3%減額を受け入れ、年金を引き下げている。 内閣や政党の支持率が下がると、政府・与党は大衆迎合的な人気取りの政策に走りがち になる。その場しのぎや問題先送りでごまかせるほど国民の目は甘くない。
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