2010年12月20日 (月)時論公論 「国会招致問題 民主党内対立は?」
【前説】民主党小沢元代表の国会招致問題で、きょう菅総理大臣と小沢元代表が会談しましたが、物別れに終わりました。今夜は、来年度予算案の編成が大詰めを迎えた時期に、なぜ民主党内で対立が深刻化しているのか、今後、この対立はどうなっていくか考えます。
【なぜ引けない 菅総理の事情~政権の命運~】
一時間半にわたった、二人だけの会談が物別れに終わった背景には、菅総理大臣、小沢元代表、それぞれに、引くに引けない事情がありました。
まず、菅総理大臣の側です。菅内閣と民主党の支持率は、このところ低下傾向が続いています。また、民主党は、先の茨城県議会議員選挙など、与野党が対決した地方選挙で、厳しい結果が続いています。菅総理大臣としては、来年の通常国会で、来年度の予算案や予算関連法案などを可決・成立させることに、「政権の命運」がかかっています。そのためには、野党側の協力が必要で、強い批判を受けている「政治とカネの問題」に、あらかじめ決着をつけることが不可欠だと考えています。また、来年春の統一地方選挙への影響や、各種世論調査で、「小沢氏の国会での説明が必要だ」という意見が強いことも踏まえ、年明けの政局に向かう環境整備の出発点を、小沢氏の国会招致と考えている訳です。
会談が、予算編成の時期であるきょうになったことについて、岡田幹事長は、「先の臨時国会から、党内で、丁寧に議論を重ねてきたうえでのものだ」などとして、唐突だという見方を否定しています。
【なぜ引けない 小沢元代表の事情~政治生命~】
一方、小沢氏は、裁判で潔白を証明することに、まさに「政治生命」をかけています。
小沢氏にとって、刑事裁判の手続きは、事実上、始まっているという認識です。裁判で争われる問題を、国会で取り上げるのは慎重であるべきで、法廷での戦いを前にしたこの時期に、国会で、手の内を明らかにするのは、避けたいという考え方です。
また、菅総理大臣らが、野党側との関係を理由にするなら、自らが政治倫理審査会で出席することで、野党側が納得するのかと問いかけています。野党側から、予算案などの審議に協力するというような約束を取り付けられていないのならば、とても出席を検討できる環境にないという立場です。さらに、国民生活に重要な予算編成に、政府・与党が一致して取り組む時期に、なぜ、この問題を決着させようとするのか分からないという思いが強いようです。
このように、来年の通常国会に「政権の命運」をかける菅総理大臣、裁判に「政治生命」をかける小沢氏、両者の立場の違いは、簡単には、埋まらないものでした。
【民主 対応は先送り】
菅総理大臣や岡田幹事長は、政治倫理審査会で議決してでも、小沢氏の出席の実現を目指す方針を示していました。会談が、物別れに終わったことで、政治倫理審査会での議決に向けて、事態は進むのでしょうか?
かならずしも、そうとは言えません。菅・小沢会談の後に開かれた、民主党の役員会では、今後の対応について、結論は出ず、引き続き調整を行うことになりました。
党内で、輿石参議院議員会長らは、小沢氏の国会招致そのものが必要なく、政治倫理審査会の議決にも意味がないと主張しています。その一方で、きょうの役員会では、小沢氏が、議決があっても政治倫理審査会に出席しないという考えを明確に示したことから、野党側が求めている証人喚問を検討する必要があるという意見も出されました。政治倫理審査会の議決に自民党が応じないとしていることもあって、どのように、小沢氏の国会招致を実現するか、十分な詰めができていないという事情があります。
【党内情勢は複雑に】
また、小沢氏が、国会で説明をしない場合、民主党として、離党勧告などの処分を行うかどうかという点についても、方針が定まっていないという問題もあります。
党内には、党代表の総理大臣や幹事長の意見に従わないのであれば、党の方針に反するとして、離党勧告などの処分をすべきだという意見があります。
これに対して、小沢氏を支持する議員は、小沢氏が出席しないと分かっているのに、議決に踏み切り、これに従わないといって処分するならば、菅総理大臣らは、「最初から、小沢氏を離党に追い込むことが狙いだった」と、強く反発するのは必至です。
小沢氏を支持する議員たちは、来年度予算案の編成作業が行われている重要な時期に、党内対立を招くような事態は避けるべきだと主張する一方で、両院議員総会の開催を要求し、来年の通常国会を乗り切るためには、参議院で問責決議を受けた、仙谷官房長官や馬淵国土交通大臣の進退問題に決着をつけるのが、先だと主張する構えを見せるなど、執行部をけん制する動きも出ています。
岡田幹事長が、なお党内調整が必要だと判断した背景には、こうした党内事情もあるものと見られます。
【通常国会に向けて描けぬ戦略】
さらに、菅総理大臣や民主党執行部にとっては、来年の通常国会に向けた展望を描くことが、より難しい状況になっています。
野党側は、来年の通常国会に向けて、政治倫理審査会で決着できないのだから、証人喚問を実現すべきだという主張を強めてくることは確実です。この問題で、民主党内の混乱が続くことは、政権への攻勢を強める上で、むしろ好都合だという読みもありそうです。
岡田幹事長は、証人喚問には慎重な姿勢で、あくまでも小沢氏が政治倫理審査会に出席して説明することが望ましいという立場です。しかし、小沢氏の国会での説明が行われない状況が続けば、菅総理大臣を含め党執行部の指導力が問われることになりかねません。
ねじれ国会で、野党側の協力を求めたいとする民主党執行部にとっては、通常国会に向けて、野党側からの、参議院で問責決議を受けた、仙谷官房長官と馬淵国土交通大臣の辞任要求に加えて、証人喚問要求への対応という難しい判断を迫られることになりそうです。
【今後の展望】
では、この問題は、今後、どのように推移していくのでしょうか。
小沢氏は、一連の対応で、政治的に厳しい状況に追い詰められつつあります。強制起訴による裁判を控えているという状況に加えて、党内では、菅総理大臣らとの対立が再び鮮明になり、国会で説明すべきだという世論には、今後の裁判の中で、明らかにするという形で対応することになります。今後、小沢氏を支持する議員たちの間に動揺が広がることになれば、党内での影響力の一層の低下は避けられません。
【民主党と政権の責任】
小沢氏の国会招致問題の行方は、まだ予断を許しませんが、菅総理大臣らの、これまでの対応を見てきますと、小沢氏に国会で説明を求めることに、世論の支持がある以上、党内で、多少の混乱はあっても、政治とカネの問題で、小沢氏に対して強い姿勢で臨むことも、やむを得ないという判断に傾いているように見えます。民主党が、党の分裂や政界再編につながるような党内対立を避けられる見通しは立っていません。
民主党にとって、来年度予算案の編成作業、政権を支える党の態勢の立て直し、それに来年の通常国会の乗り切りは、どれも重要な課題です。
政権に責任を持つ与党として、民主党が、国民に納得してもらえる戦略を確立できるかどうかが、問われています。
投稿者:伊藤 雅之 | 投稿時間:23:58