<sui-setsu>
テレビ東京系の「空から日本を見てみよう」という番組のファンである。「くもじい」と「くもみ」の掛け合いが面白いし、雲に乗った感覚で列島各地を見下ろすのは気分がいい。それに勉強になる。
先日の番組では神戸製鋼がでてきて「この製鉄所が止まると世界の自動車の半分が造れなくなる」と言っていた。知らなかったなあ。
調べてみると、自動車のシリンダー上部に取り付ける弁ばね用の線材で、神戸製鋼製が世界シェアの約半分を占めている。おそらく、そのことを言っているのだろう。
このばねは激しい伸縮運動を強いられる。そして自動車が10万キロ走ろうとも、へたらず変わらぬ品質を維持しなければならない。日本の神戸製鋼製がベスト。高品質で世界市場を席巻している。日本衰退論が目立つ昨今、非常にうれしい話だった。
日本は自動車や液晶テレビなど完成品の大輸出国だが、世界シェアをどれだけとっているかという観点では、神戸製鋼の例のように、むしろ素材や部品が強い。消費者にはなじみの薄い企業が多いが、そういう企業が日本経済を支えている。
米ウォールストリート・ジャーナルが先日、この点に着目し「実際は中国製とは言えない」という記事を掲載していた。iPhone(アイフォーン)はいうまでもなく米アップル社の開発した世界的ヒット商品だが、組み立て工場は中国。だから「中国製」として米国に輸入される。その結果、アイフォーンは昨年、米国の対中赤字に19億ドルを追加することになった。しかし、19億ドル全部を中国一人の責めに帰するわけにいくまいというのだ。
非常に興味深い数字が出ている。対米輸出価格は178・96ドル(約1万5000円)だが、中国は組み立てるだけなので中国に落ちるカネはその3・6%だけ。部品等の供給国の分け前の方が大きい。日本34%、ドイツ17%、韓国13%、米国6%の順だ。
私が注目したのは34%という数字である。同じアップルが以前に出したアイポッドでは部品のほとんどが日本製だった。ところが、アイフォーンでは韓国と中国に駆逐され見る影もないと聞いていたので、まだ34%も占めていたかとホッとしたのである。
しかし、この記事は誤解を生みかねない。中国はもはや「組み立て基地」ではない。日本型の「素材・部品の供給基地」に急速に変容しつつある。東南アジア諸国は中国の経済覇権の完成間近と見て、戦々恐々としている。日本も「34%」にホッとしている場合でない。(専門編集委員)
毎日新聞 2010年12月22日 東京朝刊
12月22日 | アイフォーンの34%=潮田道夫 |
12月15日 | 不況の「石油の指紋」=潮田道夫 |
12月8日 | 中国異質論とTPP=潮田道夫 |
12月1日 | 日銀法改正は下策だ=潮田道夫 |
11月24日 | スウェーデンの逆説=潮田道夫 |