「球場が泣いている」。旧広島市民球場(中区)の解体作業が本格化した20日、53年前の起工時に現場監督の一人だった1級建築士、西広一明さん(76)=中区=が、旧球場を訪れた。市民の支えだった球場の歩みを振り返りながら、「悲しい物語が始まった」と語った。【寺岡俊】
西広さんはこの日朝、解体工事の本格着手が報道陣に公開されると知り、最後の姿を見ようと訪れたが、内部には入れなかった。
「市民球場は、みんなの喜びが詰まった球場」。西広さんが言うように、旧球場は原爆からの復興を支えてきた。23歳だった西広さんは、勤務先から現場監督を命じられ、喜び勇んだ。ナイターの照明がともったとき、「夢の光」を見た感があった。「建設当時を生きていた人にとって、球場は特別なもの。今の世代になると、分からなくなるのかな」
球場の解体を巡っては、市民団体が差し止めを求めて広島地裁で係争中だ。西広さんは「同意形成なしの解体は、球場を葬り去るようなもの」と憤り、こう語った。「球場を争いのネタにしてほしくない。解体するのなら、市民から『ありがとう』と見守られて消えていってほしい」
毎日新聞 2010年12月21日 地方版