2010年12月02日発行 第0626号 特別
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 ■■■    日本国の研究           
 ■■■    不安との訣別/再生のカルテ
 ■■■                       編集長 猪瀬直樹
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                 http://www.inose.gr.jp/mailmaga.html

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    ■□■ 『東京からはじめよう』(MXテレビ) ■□■  

    12月4日(土)21:00−21:55(毎月第1土曜日)
    ゲスト:わたせせいぞう(漫画家・イラストレーター)

 都市の恋人たちや日本の美を描いたわたせさんの作品を、誰もが一度は目に
したことがあるでしょう。せわしない師走がはじまりましたが、色彩の旅人・
わたせせいぞうの世界観を楽しむひとときをぜひどうぞ。


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 猪瀬直樹のツイッターは12月2日現在、フォロワー約6万3千人。
 http://twitter.com/inosenaoki 

 最近のつぶやきを紹介します。

「作家はジャーナリストだが、ジャーナリストは作家ではない。射程距離が違
 う。近代の時間と空間のなかで現在を物語ることが大切だと思います。我わ
 れは依然として大きな物語のなかで生きている。ではお休みなさい」

「スケジュール表は無印良品を自分流に使っている。日付はサインペンで記入。
 週アタマが日曜のカレンダーが多いのはおかしい。僕は月曜にして作成。数
 年前、無印良品で販売をやめた。アウトレットで20冊ぐらい買った。スタッ
 フが、あと20年も仕事? http://bit.ly/fCnyst 」 

「『鏡子の家』を評価したのは没後25年目の僕が初、批評家はあてになりませ
 ん。三島と較ぶべくもないが『昭和16年夏の敗戦』も『天皇の影法師』も30
 年近く前に出たときには売れませんでした。時代を先取りしたものほど同時
 代には理解されない、それが栄光」

「『昭和16年夏の敗戦』を読まれた方には『ジミーの誕生日』を奨めたい。負
 けるときにも、意思決定できずどうどうめぐりをしていた。占領政策はいま
 の日本を拘束しているのに、日本人はその出発点すら記憶していない」

 猪瀬直樹Blog(http://www.inosenaoki.com/ )と共に、ぜひチェックしてく
ださい。

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 今週のメールマガジンは『中央公論』10月号に掲載された石破茂・自民党政
調会長との対談「『昭和16年夏の敗戦』の教訓 リーダーは戦前より劣化した
か」をお届けします。

 来週12月8日水曜日は太平洋戦争で日米が開戦してからちょうど69年にあた
ります。69年前の夏に日本政府で一体どんな議論が交わされていたか。

 二人の白熱した対談をお楽しみください。

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『昭和16年夏の敗戦』の教訓 リーダーは戦前より劣化したか

 石破 茂
  ×
 猪瀬直樹

■的中した「敗戦のシナリオ」

●石破○ 私が猪瀬さんの『昭和16年夏の敗戦』を初めて知ったのは、第一次
     小泉内閣で防衛庁長官をやっていた2003年でした。こんな本がある
と偶然耳にして、慌てて本屋に走ったのですが、読み進めるうちに、恐怖心に
かられたことをよく覚えています。「自分はこんな事実も知らずに長官をやっ
ていたのか」と。

●猪瀬○ 昭和16(1941)年、すなわち太平洋戦争開戦の年の4月に、当時の
     帝国政府が「総力戦研究所」という機関を立ち上げて、30代前半の
精鋭が集められた。大蔵省、商工省といった省庁のエリート官僚、陸軍省の大
尉、海軍省の少佐、さらには日本製鐵(後の新日鐵)、日本郵船、日銀、同盟
通信(後の共同通信)の記者まで。総勢30人が、もしアメリカと戦争をしたら、
日本は勝てるのか、そのシミュレーションをした。

●石破○ 軍国主義一色の時代に、ある意味、泥縄のようにつくられた組織な
     のだから、どうせ予定調和的に開戦を「支持」する結果が導かれた
のだろうと思いきや、さにあらず。

●猪瀬○ 大蔵官僚は大蔵大臣、日銀出身者は日銀総裁、記者は情報局総裁と
     いうように、それぞれが役職に就いて「模擬内閣」をつくったんで
す。出身の省庁や会社から、できうる限りの資料、データを持ち寄って検討し
ていった。侃々諤々の議論を経て出た結論は、「諸戦は優勢ながら、徐々に米
国との産業力、物量の差が顕在化し、やがてソ連が参戦して、開戦から3〜4
年で日本が敗れる」というものでした。

●石破○ 原爆投下以外は、ほぼ正確に「予言」したわけですね。

●猪瀬○ 日米戦争継続のポイントが、「インドネシアの石油」でした。石油
     がほとんど出ない日本が戦艦などを動かすためには、ここを押さえ
て、かつ燃料を本国まで運んでこられることが絶対条件。研究所は、「石油を
運ぶ商船隊が、ほどなく米軍の潜水艦の攻撃を受けるようになり、補給路は断
たれる」とシミュレートしました。実際、2年後には輸送船が壊滅的な打撃を
被り、翌年には全滅。研究所の「言ったとおり」になりました。

●石破○ 歴史を言い当てたということは、それだけ緻密で、説得力のある中
     身だったはず。にもかかわらず、時の政府はそれを「無視」した。

●猪瀬○ 8月下旬に、時の近衛文磨内閣にこの結果が報告されました。しか
     し、陸軍大臣だった東條英機が、「君たちの言うことも分かるが、
“日露”がそうだったように、戦争はやってみないと分からない」と発言、結
局葬り去られてしまいました。「模擬内閣」も、あえなく「解散」。

●石破○ 「軍の論理」が、正当な判断をねじ曲げた。もっと言えば、国の指
     導者たちは「この戦争は負ける」と分かっていて、開戦の決断を下
したのですね。「文民統制」がきかなくなると、こんな悲劇が起こるのだとい
うことを、「総力戦研究所」の挫折は身をもって私たちに教えてくれています。

■なぜ止められなかったか

●猪瀬○ 「模擬内閣」が使命を終えた後、その年の10月には、東條内閣が誕
     生し、直後に最高意思決定機関としての「大本営・政府連絡会議」
がもたれました。その場で、今度は軍と政府が「開戦是か非か」を判断するた
めのシミュレーションを行うのです。結論を言えば、「開戦しても、なんとか
戦いを維持できるだろう」ということになる。

●石破○ 本の中では、11月5日の御前会議での、鈴木貞一企画院総裁の発言
     がカギだったと書かれていますね。「開戦しても、石油はギリギリ
確保できる」というデータが、堂々めぐりの議論を結果的に決着させた。

 82年に、すでに93歳になっていた鈴木さんの自宅を訪ねインタビューするく
だりは、圧巻でした。

●猪瀬○ 耳が遠いので、質問は紙に書きました。答えは肉声です。40年も前
     の記憶が極めて鮮明なことに、まず驚いた。ついつい厳しくなるこ
ちらの質問にも、誠実に答えてくれました。

「御前会議に出したデータに、問題はなかったのか?」という問いに彼は「問
題だった」と答えました。「すでに戦争をやることに決まっていた」「企画院
としては、とにかくデータを出すしかなかった」というのが、その「弁明」で
す。

●石破○ 問題は、なぜ「やることに決まっていた」か、ですね。軍部、特に
     海軍には、今さら「アメリカとは戦えない」とは言えない事情があ
りました。当時の国家予算のおよそ半分が軍事費、その半分以上が海軍に渡っ
ていたのです。「戦争をしないなら」と、これが大幅に削られたら、軍隊には
失業者があふれる。

●猪瀬○ そういう「軍の論理」を、「国是」にすりかえて押し通そうとした
     わけですね。「統帥権干犯問題」では、敵対政党を追い落とそうと
する政友会を引きずり込んで、本来政治が司るべき「軍政」を、丸ごと手中に
収めようとさえした。

●石破○ 軍部は潤沢な資金を使って、政治家のスキャンダルを握り、あるい
     は「接待攻勢」で丸め込んだわけです。

 そうやって、軍の上層部も政治家も、「負けるのが分かっている戦をやる」
方向に、どんどん傾いていった。そこには、本当の意味での「国策」はなかっ
たのです。欧米では当たり前の、「どう始めて、どのようにやめるか」という、
「戦争設計」さえなかった。

●猪瀬○ 逆に、数年で劣勢を跳ね返せると踏んでいたアメリカは、戦争中か
     ら日本の占領計画を温めていました。

●石破○ 例えばですが、石油を確保したいのならば、オランダだけを攻めて
     インドネシアを落とせばいい。何も初めから米国相手に勝負を挑む
必要はないわけです。

 日本の植民地からの撤退を求めた「ハル・ノート」が、開戦への引き金にな
ったと言われるのですが、要するにあれは、「資源はやるから植民地を手放せ」
ということでしょう。世論を説得して乗る余地もあったはずです。

●猪瀬○ 日本にしっかりした契約の概念があれば、事情は違ったかもしれま
     せんね。南満洲鉄道の権益を残すだとかの個別交渉ができれば、戦
争などする必要はなかった。

 まったくの余談ながら、実は今、旧満洲地区の大都市から、戦前に敷設され
た水道インフラを、東京水道で更新してくれないかという依頼があります(笑)。
戦争に関係なく、日本の技術は頼りにされているわけ。もっとうまいやり方が
できたと感じますね。

●石破○ 実際には、うまくはいかなかった。ただ、当時はそれでもいろいろ
     なことを「知って」いたわけですよね。

●猪瀬○ 最終的に国の進路を誤らせた人たちだけど、「総力戦研究所」のよ
     うなものを急ごしらえにせよつくって、正しい「結論」を引き出す
ところまではいった。

●石破○ 知っていて滅びたわけです。でも、今の政治家は「知ってさえいな
     い」ように思えて仕方がない。知っていてもダメだった日本は、知
らずに事が起きたら、いったいどうなるのか。

■首相に安保・外交戦略はあるか

●猪瀬○ 8月2日の衆議院予算委員会で、石破さんはこの『昭和16年夏の敗
     戦』を紹介しながら、菅直人首相に「文民統制」に対する見解を迫
りました。質問は党派を超えた反響を呼び、インターネットの動画にも、けっ
こう若い世代からのアクセスが集中したようです。

●石破○ 実は3年前に、やはり予算委員会で、当時の安倍晋三首相にまった
     く同じパターンで質問しているのです。安倍さんにもぜひ読んでい
ただきたいと思ったので、「この本について聞きますよ」と、事前通告もした。

●猪瀬○ あえて同じ自民党の安倍さんをこの問題で質したのは、当時の空気
     に危機感みたいなものを抱いていたからですか?

●石破○ 危機感というか、微妙なズレ、違和感というのが正解ですね。「戦
     後レジームからの脱却」も「集団的自衛権の事例研究」も「美しい
国」も、主張自体はいい。ただ、安倍さんの発言を聞いていると、果たしてど
れだけの裏打ちがあっておっしゃっているのだろうと、ふと疑問を抱くことが
ありました。例えば、あの戦争がなぜ起こったのかを理解したうえで、「集団
的自衛権」を口にしているのか?

 安倍さんの答弁は、残念ながら私には通り一遍のものにしか聞こえませんで
した。ご自身の中で、戦前から戦後に至るまでの過程をきちんと検証され、そ
のうえでいろいろな発言をなさっておられるのか、どうにも確証が得られなか
ったのです。
 安倍さんの主張の多くに賛同しながらも、今一つ心が揺さぶられなかったの
はそのせいだったかもしれません。

●猪瀬○ 問題意識は共有しているのではないですか。今回の菅さんは基本的
     な認識すらあやふやでした。

●石破○ 菅さんとは在職期間もほぼ重なるのですが、外交、安全保障問題に
     ついて正面から語るのを聞いたことがなかった。ただ、02年に「救
国的自立外交私案」という論文を書いていて、中で沖縄の海兵隊は新兵の訓練
場なので、サイパンやハワイに行ってもアジアの軍事バランスには影響がない
などと書いていらっしゃる。そこで、海兵隊の抑止力についての認識をうかが
いました。

●猪瀬○ 以前は時代時代でいろんなことは言いましたけど、沖縄海兵隊の抑
     止力は認めていますというような答弁でしたね。

●石破○ 本のことは、菅さんには事前通告しませんでした。なぜなら、安倍
     さんに質問した予算委員会に、彼は民主党の筆頭理事として出席し
ていたはずだからです。
 与党であった私が「身内」に対して「この本を読まずして、平和を語るべき
ではない」というようなことまで言ったわけですから、感じるものがあったら
読むはずですよ。

●猪瀬○ しかし、やっぱり読んだ形跡はない。「文民統制」に関する答弁も、
     通り一遍のもので、あれではまともな論争には発展しようがありま
せん。

●石破○ 評価するとすれば、私は「自衛隊の最高指揮官として、統合幕僚長
     をはじめとする四幕僚長と会うべきだ」とお話ししました。8月19
日でしたが、初めての会談を持った。一度も会おうとしなかった鳩山前首相に
比べれば、ずっと誠実です。ただし、冒頭で「予習してみたら、防衛大臣って
自衛官じゃないんだね」と発言され、周囲を絶句させたという。

●猪瀬○ すごいですね。結局「シビリアン・コントロール」はまるで理解さ
     れていなかったんじゃないの。

■日本は国家戦略なき夢の国

●石破○ 私は、世間から「制服組にウケのいい防衛大臣」と映っていたよう
     ですが、実態はまったく逆。間違いなく、「この野郎」と思われて
いました。

●猪瀬○ 本当ですか?(笑)

●石破○ 例えば、「北海道に、あんなに大きな戦車部隊が必要なの?」と問
     題提起するわけです。「ロシアが攻めてくるのか?」「あの原野で、
戦車戦が展開されるのか?」と。

 今は「テロの時代」。時速70キロの戦車が到着した時には、すべてが終わっ
てますよ。それよりは、120キロの装輪装甲車のほうがいいのではないか。
費用は5分の1以下です。

●猪瀬○ その点は、戦前の軍部とまったく変わらない。「軍隊」は必ず「自
     律運動」を始めるんですね。北海道の戦車部隊には、そこでの「生
活」がある。

●石破○ 私がそういう話をすると、彼らはすぐに山のような資料を抱えてや
     ってきます。それでも納得しない。すると次に何が起こるかといえ
ば、週刊誌に「石破は、北朝鮮で”喜び組”とウンヌン」などという記事が載
る(笑)。

●猪瀬○ おそらく「国策」よりも、戦車を残すことのほうが大事なんだろう
     な。

●石破○ 戦車に携わる自衛官たちは、使命感に燃える精鋭たちです。しかし
     全体の抑止力を考えた防衛構想の観点からは、もっと装輪装甲車の
比率を上げるべきなのであり、それを決断するのは、すぐれて政治の責任でし
ょう。

●猪瀬○ 道路公団もそうでしたが、政府の抱える「現業部門」の無駄を排し、
     効率化を図ろうとしたら、現場の自助努力に任せても絶対に無理で
す。自衛隊の場合は、効率よく抑止力を発揮するための最適な装備や年齢構成
といった「ビジネスモデル」をまずつくる。改革を断行するのはやっぱり「ホ
ールディングス」、つまり政府ですよ。

 ただし、それをやるためには現場のシステムから、石破さんが指摘されたよ
うな装備の意味まで、きちんと把握しておく必要があります。でないと、抵抗
に抗いきれません。

●石破○ まったくそのとおりです。私は「軍事オタク」とか「プラモデルオ
     タク」とか言われましたが、何が問題なのでしょう? 税金を5兆
円近くも使っている組織を相手にするのだから、その現場を少しでも知ろうと
するのは当然のことです。

 これは予算委の質問で菅さんにも申し上げたのですが、海兵隊がなぜ沖縄に
いなければならないのかは、米軍の保有するCH53というヘリコプターの性能
に大きくかかわっているのです。仮に台湾が攻められた場合、これが空中給油
を受けながら到達できる距離を考えると、沖縄本島にならざるを得ない。

●猪瀬○ そのことが、台湾侵攻の抑止力として働いている。

●石破○ 「普天間の国外、県外移転」というのは、「米軍による、台湾攻撃
     の抑止力を弱めろ」と言うに等しい。無知というのは恐ろしいもの
です。

 ちなみに、日米安保条約は「日本の防衛」のみを対象にしたものではありま
せん。「極東の平和と安全」がうたわれているのだから、日本の理屈だけであ
れこれ動かすことはできないのです。

●猪瀬○ そういう話を聞くと、日本のみフィクションの世界にいるように思
     えてきます。われわれの暮らしているのはディズニーランドで、門
番には米兵が立ち、駐車場には米軍がいる。外の世界ではいろんなことが起き
ているのに、日本人はひとり“夢の国”で、あれやこれやと言っているわけだ。

 ただし、ディズニー化していられるのも、アメリカに基地を提供しているか
らこそなんですね。その意識すら、地元住民を除けばなくなっている。

●石破○ 世界広しといえども、領土を「義務」として提供している主権独立
     国家は、日本以外にありません。なのに、尖閣列島や竹島のことを
声高に叫ぶ人はいても、この問題にはみんな目をつぶってしまう。

●猪瀬○ 「米軍に基地を提供しないとしたら、どうすればいいのか」という
     方向に、議論が進まないのですね。

●石破○ 「集団的自衛権を認めるのが、本当の主権回復の道なのだ」と言っ
     ても、みんなポカンとしているだけ。

●猪瀬○ さきほど「自衛隊にはビジネスモデルが必要だ」と言いましたが、
     それをつくるためには、大本の国家戦略がしっかりしていなければ
なりません。今の集団的自衛権の問題もしかりです。ところが、わがディズニ
ーランドには、戦略がない(笑)。

 民主党の国家戦略局は、まったく機能しないまま「開店休業」状態になって
しまいました。「国家戦略とは何か」を考えてもらうだけでもよかったのに。

●石破○ 結局、国家「戦術局」の発想しか持てなかったのが、「失敗」の根
     底にはあるように感じます。

■「失われた20年」は超えられるか

●猪瀬○ 東西冷戦下でつくられた今の日米安保体制は、本当はその終結で役
     割を終えたはずでした。新たな関係の構築が必要だった。ところが、
それをズルズル引き延ばしたまま、20年が経過してしまいました。この間、小
泉さんの5年を除けば、首相の在任期間は平均1年くらいです。

 実は、原敬が1921年に暗殺されてから開戦までの20年間、首相は同じように
平均1年でコロコロ代わっている。不気味に似ているんですよ。

●石破○ その点では、政権を担っていた自民党の責任も痛感しています。た
     だ、今のような状況を放置すれば、必ずツケがくる。予算委員会の
質問では、「残った時間はわずかしかない」と、10回ぐらい連呼しました。

●猪瀬○ われわれが実感する「失われた20年」は、それこそあっという間で
     した。一方、開戦までの20年の年表を眺めると、いろんなことがあ
ってけっこう長い時間に見えます。しかし実際は、案外、感覚的には今と同じ
だったかもしれないと思うのですよ。なんとなく流されているうちに、気づい
たらアメリカと戦争になっていた。このままでは、われわれも後世の人たちに、
「どうして無為な時間を過ごしていたのだ」と言われかねません。

●石破○ 当時と違って軍部はないし、「戦争を仕掛けろ」という空気もない。
     ただし火の粉が降りかかってくる可能性は、明日にでもあるのです。
少なくとも、起こりうる事態をすべて想定して、シミュレーションを行ってお
かなくてはなりません。

 繰り返しになりますが、それは政治の仕事です。日米安保体制のもとで「こ
ういう事態が起こった時にはそれがこう機能する」といったシミュレーション
を、政治家を入れてやらなけらばいけない。ところが、一度もそれをやってい
ないのですよ。

 怖くありませんか? 一朝有事の際に、どうやって「文民統制」をきかせる
のでしょう?

●猪瀬○ 敵対関係にあったドイツのヒトラーが、いきなりスターリンと独ソ
     不可侵条約を締結した1939年、時の首相平沼騏一郎は、「欧州情勢
は複雑怪奇」という言葉を残して退陣してしまいました。しかし、まともに情
報収集していれば、「怪奇」でもなんでもない出来事だった。そして、1941年
6月ヒトラーがソ連侵攻を開始することも見抜けなかった。

 もし第二次朝鮮戦争が勃発したら、政府は慌てふためくでしょうね。正解な
情勢分析ができていれば、それは「想定内のリスク」でしょうが、菅さんの石
破質問に対する答弁を聞くかぎり……。

●石破○ 軍事的に弱い国ほど、情報が大事です。にもかかわらず、日本では
     なぜか情報収集に携わる人たちが正当に評価されないのです。

 ともあれ、戦前と違って国民の知る権利は保障されているし、猪瀬さんの本
のような、戦争に関する一級のノンフィクションも読むことができます。まず、
政治家が読んで事実を知れ、勉強せよと言いたいですね。

●猪瀬○ ただ、国民もディズニーランドで「モンスター化」していては仕方
     ない。マニフェストに目を通すだけではなく、まさに「模擬内閣」
をつくって自らの頭で国の行く末を考えてみるべきだと、僕は特に若い世代に
提言しているのです。国防にしろ、消費税にしろ、自分が今どういう世界、時
代に生きているのかの意識化くらいはしないと。

 そういう意味では、石破質問が若い世代から関心を集めたということに、可
能性も感じるです。

●石破○ 国を変えるのは、最後は世論ですからね。政治家は、フォロワーで
     はなく、あくまでもリーダーとして、その世論に訴えかけていく必
要がある。ますます、その思いを強くしています。


                      (『中央公論』10月号掲載)


                 *


  メールマガジンの感想をお待ちしております。
  「日本国の研究」事務局 info@inose.gr.jp


猪瀬直樹の新着情報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
■出演情報

・12月4日(土)21:00〜21:55 東京MX「東京からはじめよう」。ゲストは、
 漫画家・イラストレーターの、わたせせいぞうさんです。

■掲載情報

・12月3日(金)発売の『リベラルタイム』1月号に、インタビュー「『東京
 メトロ・都営』一元化は時期尚早ではない」が掲載されます。

・日経BPネットの好評連載「猪瀬直樹の『眼からウロコ』」最新号。「都営
 地下鉄の健全性を財務データで示す 経営統合を拒否する東京メトロ側の根
 拠が崩れた」はこちら。
 http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20101124/252558/
 
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            大増刷出来!

  売り切れが続いていましたが、現在は書店に必ずあるはずです。       

  ◇◆「水道の海外進出」「地下鉄一元化」「空港」「すまい」◇◆
 ◆◇◆       東京はドーンと成長する。       ◆◇◆
            
         『東京の副知事になってみたら』   
                  (小学館101新書)              


      http://www.amazon.co.jp/dp/4098250888 

  2007年6月、石原慎太郎・東京都知事からの「特命」は突然だった。
  東京が国との間に抱えるさまざまな問題を解決すべく、突破口となる
  役割を託された作家は、都庁の中で、何をみてどう感じ、どう動いて
  きたか。作家の想像力が行政に与えた影響とは?

  就任から3年、永田町・霞が関との戦いから都職員との触れ合い、東京発
  の政策提言に到るまで縦横無尽に綴る。

               *

  猪瀬直樹からのメッセージ。
  
「副知事になって初めて都庁の内幕を描きました。結局、東京が成長戦略を描
 けばよいということがわかりました。東京水道の海外進出、メトロと都営地
 下鉄の一元化、羽田空港のハブ化、東京湾の民営化、高齢者のケア付きすま
 い。東京はこれからもドーンと成長する」
  
      http://www.amazon.co.jp/dp/4098250888 

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