実践ビジネススクール
2010年 12月 20日

人も国も劣化!無能政権による「最小不幸社会」

大前研一の日本のカラクリ

日本社会の構造変化はさまざまあるものの、先行きが本当に懸念されるのは若い世代の覇気の低下、気合のなさである。

なぜ日本人は、かくも覇気がなくなったのか

日本社会の構造変化はさまざまあるものの、先行きが本当に懸念されるのは若い世代の覇気の低下、気合のなさである。“草食化”などと茶化されているが、これは相当に深刻だ。

日米中韓の4カ国の高校生を対象にしたあるアンケート調査(2007年、日本青少年研究所)では、日本の若者の“意欲”の低さが浮き彫りになった。たとえば「生活意識」について。日本「暮らしていける収入があればのんびりと暮らしていきたい」米国「一生に何回かはデカイことに挑戦してみたい」中国「やりたいことにいくら困難があっても挑戦してみたい」韓国「大きい組織の中で自分の力を発揮したい」「偉くなることについて」は、日本「責任が重くなる」「自分の時間がなくなる」米国「自分の能力をより発揮できる」「周りに尊敬される」中国「自分の能力をより発揮できる」「責任が重くなる」韓国「周りに尊敬される」「自分の能力をより発揮できる」

そして「偉くなりたいか」という質問に「偉くなりたいと思う」「強くそう思う」と答えたのは米国22.3%、中国34.4%、韓国22.9%に対して、日本の高校生は8.0%。「将来就きたい職業」でも日本の高校生の上昇志向のなさが際立つ。

米国が「医師」「デザイナー」「スポーツ選手や歌手」、中国は「会社・企業の経営、管理職」「公務員」「法律家」、韓国が「小中高校の教師」「会社・企業の経営、管理職」「デザイナー」に対して、日本は「営業・販売・サービス職」である。

こうした意識調査はほかにも行われているが、判で押したように同じ結果が出てくる。たとえば今春に入社した新入社員に対する調査では、どこまで偉くなりたいかという質問に「社長」と答えた人はほとんどいない。「取締役」も少なく、役職に就くと責任が重くなるから嫌という声が多数派を占めた。今春、取締役になったビジネスマンに対する意識調査でも、やはり責任ばかり重いのに給料はあまり変わらないという理由で、ほぼ全員が社長になりたくないと答えている。

要するに今の日本人はどの層を切り取っても、坂の上の雲を目指した明治期や1960~70年代の高度成長期のような目線の高さ、アンビションや野心がないのである。それは企業のIPO(新規株式公開)の数にも反映されていて、09年の新規上場企業数はわずか19社。ピークが00年の180社だから10分の1に落ち込んでいる。09年に上場廃止になった企業が60社あるから、差し引きで上場企業の数は減っているのだ。

1981年、わずか24歳で志を立てて起業したソフトバンクの孫正義社長。(Bloomberg/Getty Images、PANA=写真)
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1981年、わずか24歳で志を立てて起業したソフトバンクの孫正義社長。(Bloomberg/Getty Images、PANA=写真)

これに対して、09年の上場数約200社、上場予備軍が6万社といわれる中国はもとより、韓国、台湾、香港にも日本はIPOで追い抜かれている。私は「アタッカーズ・ビジネススクール」という起業家養成学校を15年続けているからよくわかるのだが、新しく会社を興して上場しようという意欲はすっかり減退して、最近は熾烈な競争とは無縁なNPOやNGOを立ち上げたいという人が大幅に増えている。全員が全員、クリーンでグリーンな“目付き”でやってくる。人を押しのけてまで成功してやろうというギラギラしたタイプは皆無だ。この10年間で人種、染色体までが変わってしまった観がある。

若者をけしかけて起業、上場させることにかけては人後に落ちない起業塾の元祖の私が嘆息するほど、日本人の起業精神は萎えてしまった。今から10年ほど前、孫(正義)さんがナスダック・ジャパンを立ち上げたとき、渋谷でビットバレーの若手起業家を集めて大パーティーをやったが、有象無象3000人が集まった。今やったら30人と集まらないだろう。

当時の若手起業家も今や30代半ばを過ぎているが、どこへ行ったやらである。その世代より20歳若い高校生の意識が前述の通りだから、彼らが大きな夢を持って日本経済を牽引するような大きな会社をつくり上げたり、アンビションを持って海外に雄飛することを期待できる雰囲気ではない。

日本の凋落とは対照的に、この10年で状況が激変したのが韓国だ。

98年の通貨危機でIMF(国際通貨基金)の管理下に入る屈辱を味わった韓国は、当時の金大中大統領が大胆な規制緩和で景気を刺激する一方、世界の舞台で活躍できる人材育成に国を挙げて取り組んだ。特に力を注いだのがIT化と英語教育。今や韓国のインターネット普及率は世界一で、中高年世代もネットを使いこなしている。英語に関しても、私は高麗大学と梨花女子大学で教鞭を取っているが、学生の入学時のTOEICのスコアは800点。サムスンに入社するレベルは900点だし、同社で課長になるには920点が必要だ。

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プロフィール

大前 研一

ビジネス・ブレークスルー大学院大学学長

1943年、北九州生まれ。早稲田大学理工学部卒。東京工業大学大学院で修士号、マサチューセッツ工科大学大学院で、博士号取得。日立製作所を経て、72年、マッキンゼー&カンパニー入社。同社本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、94年退社。現在、自ら立ち上げたビジネス・ブレークスルー大学院大学学長。近著に『ロシア・ショック』『サラリーマン「再起動」マニュアル』『大前流 心理経済学』などがある。 >>大前経営塾

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