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大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.9

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大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.9

2010年12月07日

◎「武士の家計簿」に見る時代劇の現在位置とは

 時代劇が多かった今年。「武士の家計簿」が12月4日から公開され、チェーン公開の規模の大きな作品としては、12月18日公開の「最後の忠臣蔵」を残すのみとなった。さて、その興行成果は、どうであったか。

 ざっと成績を上げてみるなら、「大奥」(23億円)、「十三人の刺客」(15億円)、「桜田門外ノ変」(6億7千万円)、「雷桜」(4億5千万円)といったところとなる(数字はすべて最終興収、一部推定)。
 
 「武士の家計簿」は、4、5日の2日間で1億4783万円。まずまずではあるが、年配者が多いので、どうしても昼間中心の興行になっている。最終的には、10億円台は射程に入るが、そこからどこまで伸びるかは、不確定要素が大きい。12月中旬から末にかけて続々と正月作品が登場するため、「武士の家計簿」の上映回数が少なくなると、興収の伸びにも影響が出てくる。
 
 ところで私は、当社紙媒体の“映画業界最前線”(10月25日付)で、“まっとうな時代劇からの逸脱“と称し、「時代劇の中身は、これまでのようなまっとうな形から、大きく揺り動かす必要がある」と指摘した。これは、「時代劇であったとしても、人々はそこに何らかの新しさを求めている」。だから、「まっとうな、これまでの延長線上で時代劇の製作を行うと、足をすくわれるかもしれない」ということだった。
 
 具体的に言うなら、「大奥」は男女逆転の劇のなかに、「十三人の刺客」はオリジナルをさえしのぐ派手な殺陣のシーンに、それぞれ新しさがあった。それがヒットにつながり、それはまっとうさを揺り動かした結果であったと思ったのである。
 
 逆に、「桜田門外ノ変」はこれまでの正当的な時代劇=歴史劇からはみ出せず、「雷桜」は男女の恋愛劇がまっとうさのベールに包まれた。いずれも、観客の視座にある新しさという点からすると、そごをきたした印象が強かった。
 
 「武士の家計簿」は、今延べた論点からすると、両者のちょうど中間ぐらいに位置するとでも言おうか。殺陣のない、今で言う会計係の職務をまっとうする侍の話という全くユニークな視点の作品ということでは、従来の時代劇の枠をはみ出している。しかし、その描写の展開においてはそつがなく、それが少しインパクトにかけた点もある。新しさと古さが、渾然一体となっていることが、スタート成績に反映されていると言えようか。
 
 時代劇といえども、これまでのまっとうな形を揺り動かす必要があると、再度言っておこう。これは、もちろん時代劇に限らない。古さを反復する場合は、よほどの覚悟が必要だということだ。さて、「最後の忠臣蔵」はどちらに転ぶのか。
                                                          (大高宏雄)

※記事は取材時の情報に基づいて執筆したもので、現在では異なる場合があります。


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