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大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.7

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大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.7

2010年11月16日

◎「悪人」の企画・製作の重要性を、今改めて指摘したい

 東宝配給「悪人」が、11月14日現在で、全国動員159万1269人・興収19億3213万0400円を記録した。今後少しは上乗せになるとは言え、この成績が同作品のほぼ最終興収に近いと見ていいだろう。大健闘である。

 スタート当初は、最終38億円を記録した「告白」と競り合い、30億円突破が見込まれていたが、そんなに甘くはなかった。「告白」は、公開後に尻上りの興行となる特異な展開で、ちょっと驚くような成績にたどりついた。「悪人」は、他の作品と同じように、“順調に”落ちたのである。

 「悪人」の興行の重要性に触れる。よく言われるように、テレビ局製作ではない作品のヒットであることが、まずもって重要である。企画、製作のイニシアティブを握ったのは東宝で、これは「告白」と同じだった。

 さらに、題材が簡単に一般受けするようなものではなかったことも、その重要性のなかに入れていい。昨今の邦画の作られ方は、極端にマーケッティング主導になっている。その際、テレビ局主導の人気テレビドラマの映画化が、一番手っとり早いものとして企画、製作の土俵に登る。もちろん、こうした製作のあり方に、私は文句をつけることはない。

 ただ、それが主流になり、他の斬新でユニークな企画が立てられづらくなるのが、映画界にとって非常にマイナスになるのである、事実、最近ではそうした傾向が随所で見られている。これが、良くない。ある種の作品が作られづらい今の“風潮”のなかに、「悪人」の企画を投げ込んでみると、それがいかにマーケティング主導の製作志向に挑戦的な中身であったか、今は意外にそうは見られていないようだが、企画、製作段階ではそうした判断ができたのだった。

 今回のヒットは、カナダの映画祭での効果が大きいのは事実だったろう。その効果は、数字でいえば、10億円前後はあったのではないかと思う。それくらい、映画祭は威力があった。しかし、それを引き出したのは、中身そのものだったことを忘れてはならない。映画の達成感が、海外の人の注目を集め、それが国内の関心に跳ね返った。運も、味方した。

 映画の企画、製作は、マーケティング主導で作られるのは、当然のことである。それは、否定しようのない事実だろう。しかし、映画はまた、そうしたシビアな市場性とは別に、人々のなかに眠っているかのようなあらゆる欲望、あるいは欲望とさえ呼べないような未知の精神のコア部分に、火をつけていくことも重要となる。それこそが、映画の醍醐味と言っていい。その試みを、堂々と「悪人」がしたと言えようか。私が、今回の興行を高く評価する所以である。
                                                     (大高宏雄)

※記事は取材時の情報に基づいて執筆したもので、現在では異なる場合があります。


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