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大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.5

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大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.5

2010年11月02日

◎「大奥」、描いたとおりの20億円突破はりっぱである

 松竹とアスミック・エースが共同配給した「大奥」が、10月31日に興収20億円を突破した(動員は168万7千人)。最終的には、21~22億円前後が見込まれる。この秋、何本かの時代劇が公開されているなか、この「大奥」は今のところ、もっとも好成績の作品となる。よく、健闘したと思う。ちなみに、20億円が確実だと見られた「十三人の刺客」は、10月31日現在で14億7千万円。“20億円の壁”の前で、足踏みしている。他の2本、「桜田門外ノ変」「雷桜」とも、10億円突破は難しい。

 で、「大奥」だが、数ヶ月前にアスミック・エースがプレゼンテ―ション用に作った冊子が、今私の手元にある。「目標興収20億円」とあり、想定する客層は「メイン1が20代後半から40代女性」、さらに「メイン2は、10代半ばから20代女性」とあった。この「メイン1・2」のターゲットである14歳から43歳までの女性の人口は、約2274万人。だから、女性15人に1人が鑑賞すると146万人という計算になる。ただ、こうも記されていた。この「メイン1・2」だけの想定では、20億円に届かない可能性もある。この他に、「20代から40代男性と50歳以上の男女の獲得も視野に入れる」と。つまり、結果的には「大奥」の興行は、先の「メイン1・メイン2」の観客数に、この「20代から40代男性と50歳以上の男女」の観客数が加わり、それを興収計算することで、20億円前後となったわけである。

 全く、見事にプレゼンどおりの興行になったと言っていいだろう。興収目標とは、この想定された客層の動員が可能になれば達成されるのだが、これがなかなか思いどおりにはいかない。年に数本の大作、人気シリーズものなどは、ある程度の成績が見込まれることもあるのだが、それ以外の大多数の作品は、想定する客層が狂ったり、狙った層が集客できたにもかかわらず、その絶対数が少なかったりして、目標数字に届かないのである。

 「大奥」が、目標数字を達成できたのは、人気コミックを土台にしたユニークな題材の選定、俳優の斬新な起用、さらにその作品の輪郭をよく伝えた宣伝展開など、製作、配給側の周到な戦略がうまくはまったからだと思う。この周到な戦略というものは、どの邦画にも当てはまる。しかし、それがなかなかできない。だから、多くの邦画関係者に、この場で言いたい。「大奥」に、ヒットの一つの秘密が隠されている。 その分析を、私が書いたこの文章をきっかけに、各々がしっかりとするべきであると。結論は、それである。     
                  
(大高宏雄)

※記事は取材時の情報に基づいて執筆したもので、現在では異なる場合があります。


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