北朝鮮による韓国・延坪島砲撃事件に対抗する、韓国軍による黄海での海上射撃訓練が20日に終了した。当初、2日前にも実施されるとみられていたが「気象条件がよくない」として延期されていたものだ。同日、国連安全保障理事会での北朝鮮に対する非難声明の発表も見送られた。こうした背景に「北朝鮮が、生物・化学兵器によるテロなどを画策している」という衝撃情報がある。大宅賞ジャーナリスト、加藤昭氏の緊急リポート。
19日午前(日本時間20日未明)、ロシアの要請で緊急の国連安保理が開催された。冒頭、同国のチュルキン国連大使が「(北朝鮮と韓国の)双方に最大限の自制を求める」との声明案を配布した。
これに対し、日米英仏などは「まず北朝鮮に対する非難が必要だ」などと猛反発。双方の溝は埋まらず、同日中の声明発表は見送られた。これまで、拒否権発動で済ましてきたロシアの積極姿勢の裏に何があるのか。私(加藤昭)は旧知のロシア連邦保安庁(FSB=旧KGB)幹部を直撃した。
――ロシアの反応は異例だ
「実は、わが国は、北朝鮮がすでに『特殊部隊』を組織し終えたとの極秘情報をキャッチしている。現在、北も韓国も頭に血が上っており、いつ軍事衝突が起きてもおかしくない。米韓両国が軍事的圧力を加え続けた場合、北は無差別報復テロなどを仕掛ける可能性が高い。それを回避したいのだ」
――それほど危険な状況なのか
「北を追い詰め、テロ攻撃を模索させている要因は2つある。1つは、米空母艦隊を中心とした圧倒的な軍事力の差だ。金正日総書記は米韓と正面切って事を構える気はない。もう1つは、韓国の李明博大統領が『北の政権転覆を画策している』と妄信していること。おそらく、青瓦台(韓国大統領府)に仕掛けた盗聴器などからの分析だろう」
――具体的なテロ攻撃とは
「サリンやVXガスなどの化学兵器や、炭疽(たんそ)菌などの生物兵器の使用が懸念される。生物・化学兵器の危険性は、オウム真理教による地下鉄サリン事件を体験した日本人ならば理解できるはずだ。ターゲットは韓国国内が最も危険だが、米国や日本などにある韓国関連施設も油断できない」
この話を裏付けるように、この日の射撃訓練では、延坪島の島民などに防毒マスクが配られた。万が一の場合への備えだ。
《昨年10月、韓国国防省が提出した資料では、北朝鮮は金日成主席時代の1960年代から生物・化学兵器の開発を進めてきた。当時、2500トンから5000トンもの化学兵器剤を保有しており、炭疽菌やペスト、コレラ、ボツリヌス毒素など約13種類の生物兵器用の菌体も保有しているという》
――北が核を使う可能性は
「核兵器の使用に踏み切ることはないだろう。北は正攻法では米韓に勝てない。このため、犯人を特定しづらいテロ攻撃やゲリラ戦が中心となる。北は金正日総書記が表舞台に登場した1980年代後半、大韓航空機爆破事件やラングーン事件などの無差別テロを引き起こした。現在、金正恩氏への権力継承が進んでおり、状況は似ている。われわれの情報では、北の特殊部隊はすでに韓国内に潜入した可能性がある」
――金正恩氏への権力継承と無差別テロはどう関連するのか
「テロをもいとわない瀬戸際外交を、金正日総書記が身をもって教えているのではないか。いわば『帝王学の実践講義』というわけだ」
FSB幹部の指摘に対し、日本の情報当局者は「聞いていない。初耳だ」と返答した。大韓航空機爆破事件では28人の日本人が犠牲となっている。菅直人首相率いる民主党政権は、小沢一郎元代表の国会招致をめぐり混乱しているが、これで国民の安全が守れるのか。
■加藤昭(かとう・あきら) 1944年、静岡県生まれ。大宅マスコミ塾で学び、「瀬島龍三・シベリアの真実」「『中川一郎怪死事件』18年目の真実」などのスクープを連発。「闇の男 野坂参三の百年」で94年、第25回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した。