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読書日和:注目です 水嶋ヒロという新ジャンル

 俳優、水嶋ヒロさんが所属事務所を退社したと思ったら、第5回ポプラ社小説大賞を受賞して注目された。その受賞作がファンタジー小説「KAGEROU」(ポプラ社・1470円)。本名の齋藤智裕名義で出し、20日までに刷り部数は76万部に達した。不況の出版界にもたらされた明るいニュースだ。

 借金苦で自殺しようとした40歳の男が主人公。自殺する代わりに臓器提供しないかという誘いに乗るのだが、徐々に命の尊さに気付く物語。平易な文章、わかりやすいメッセージ、ありえない設定も納得させてしまう雰囲気。この小説をどう位置付けるか考えた。

 若者が読むファンタジーやミステリーを総称するライトノベルか。それにしては小説の練度が足りない。だったらケータイ小説か。いや、それよりは小説を強く志向している。いずれにしても、小説を一本完結させた力は認めていい。今まであまり小説を手にしなかった人でも読みやすい。とすると、「水嶋ヒロ」というジャンルを開拓したと言えるかもしれない。

 次回作では、いかに「水嶋ヒロ」の枠を破れるか。作家、齋藤智裕の誕生は、その時を待ちたい。【内藤麻里子】

毎日新聞 2010年12月21日 東京夕刊

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