韓国・延坪島(ヨンピョンド)への砲撃事件によって自らの首を絞めた北朝鮮が、いつもの硬軟織り交ぜた揺さぶりで苦境脱出を図り始めた。日米韓をはじめ国際社会は、この戦術に幻惑されてはならない。北朝鮮の逃げ道をふさぎ、暴挙の責任をきちんと取らせることが重要である。
先月23日の砲撃事件から1カ月近く経過したところで、三つの出来事が相次いだ。偶然とは思えない。
まずニューヨークで、国連安全保障理事会がロシアの要請により開かれた。ロシアが提案した声明案は北朝鮮への名指し非難を含まず、緊張を高めないよう韓国と北朝鮮に「最大限の抑制」を求める内容だった。韓国軍による射撃訓練を意識したのだろう。これに日米などが反発し、北朝鮮非難の声明を求めたが、中国の強い反対で実現しなかった。
中国はまたしても北朝鮮をかばう姿勢を鮮明にしたわけだ。協議が続いても合意は難しいだろう。
韓国軍は結局、延坪島南西海域での射撃訓練を実施した。砲撃事件で中断された恒例の訓練を完了させたという位置付けだ。
これを非難することはできまい。従来の北朝鮮の行動様式から見て、この海域で韓国軍が訓練しないまま推移すれば「南が態度を変えた。自らの非を認めた」と宣伝し、さらに韓国への圧迫を強めるのは必至だ。北朝鮮は韓国哨戒艦沈没事件で安保理の直接非難を免れた時、「外交的勝利だ」と勝ち誇った経緯がある。
北朝鮮は韓国が訓練を強行すれば最初の砲撃の際より「深刻な状況」を再現させると宣言していた。だが訓練直後の軍事挑発はなく、むしろ「ほほ笑み外交」に出た。
訪朝していた米民主党のリチャードソン・ニューメキシコ州知事に対し北朝鮮側が、寧辺(ニョンビョン)の核施設への国際原子力機関(IAEA)の監視要員復帰や核燃料棒の国外搬出に同意すると伝えたという。知事に同行した米CNNテレビの報道である。
これが核放棄につながる誠実な提案なら、緊張緩和のきっかけになりうる。しかし楽観は禁物だ。北朝鮮は強硬、柔軟の姿勢を巧みに使い分ける。6カ国協議で核問題解決の兆しが見えかけたこともあるが、結局は状況悪化の一途だった。
今も、安保理などでの中露の動向を計算に入れつつ、韓国との摩擦をカードに使い、米国と直接交渉を狙っていると見る方が無難だろう。
日米韓はあわてる必要がない。北朝鮮は砲撃の「激しすぎた加害」に戸惑っているふしもある。北朝鮮の真意をじっくり見極め、脅威にはしっかり対処する。同時に、中国、ロシアの協力を引き出すための努力も重ねる。そんな姿勢で臨みたい。
毎日新聞 2010年12月21日 2時30分