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【G2最新刊の記事を公開!】「ネット右翼」とは何者か 「在特会(在日特権を許さない市民の会)」の正体(第2回・上)

G2 12月20日(月)12時58分配信

安田浩一(ジャーナリスト)


■リアル社会に躍り出たネット右翼

私が桜井と初めて言葉を交わしたのは、今年9月のことだった。

その日、大分市内で在特会主催の「(公費による)朝鮮学校(授業料)無償化反対」を訴える街頭宣伝活動がおこなわれたのだ。街宣が始まる前、私は桜井に名刺を手渡し、取材したい旨を伝えた。桜井はその申し出に特段の興味を見せることもなく、「ああ、そうですか」と無愛想に短く答えただけだった。

しばらくすると桜井はマイクを手にし、買い物客でにぎわうデパート前で、声を張り上げた。

「いいですか、皆さん。朝鮮学校というのは、まともな学校じゃないんですよ。我々の同胞を何百人と拉致した国家につながっているんです。そんな学校にいま、政府は税金を投入しようとしているんですよ。冗談じゃない。こんなこと許してはならない! 何が朝鮮人の人権だ!」

路上に置かれた2台の無線式大型拡声器から、意識的に抑揚をつけた独特の「桜井節」が響き渡る。即座に「そうだあ!」と唱和するのは、同会大分支部のメンバー十数人だ。その大半が20代から30代の若者で、それぞれ在特会の幟や日の丸、「在日特権」「横田めぐみさんを返せ」などと書かれたプラカードを手にしている。

桜井は周囲の反応を見ながら、攻撃の矛先を中国にも向けた。

「いま、大分県には大勢のシナ人が入り込んでいるんです。特に、お隣の別府! シナ人が入り込み、土地を買い漁っているんです。他人の財産を侵しても、屁とも思わないのがシナ人。恐ろしい連中だ。こんな状態を大分の皆さんは黙って見ているのか!」

ご当地ネタを織り込みながら、ときおり聴衆をも挑発する。これも桜井にとっては手馴れた話法である。人だかりができるというほどでもない。通行人の多くは「朝鮮人!」だの「シナ人!」といった言葉に一瞬ぎょっとした表情を浮かべ、あとはなにごとも聞かなかったような素振りで足早に通り過ぎるだけだ。

桜井にとっては、年寄りばかりが目立つ、地方都市での反応などどうでもよいのだろう。重要なのは、この「桜井節」が、リアルタイムでネット中継されていることなのである。後に詳述するが、若者たちが在特会へ入会するきっかけとなるのは、ネット上で「桜井動画」とも呼ばれる、これらの映像を観たからというケースが圧倒的に多いのだ。つまり桜井の視線の先には、振り上げる拳の向こう側には、パソコンに向かって快哉を叫ぶ多くの若者の姿がある。

初めて間近で目にした桜井は、前にせり出した腹を除けば、ぷっくりと膨らんだ頬も、短い手足も、実年齢を下回る印象を私に与えた。しかも、けっこう童顔なのである。だが、サスペンダーに蝶ネクタイという出で立ちのせいか、妙なアンバランスさを醸し出している。それは単なる演出というよりも、本来の自分を隠すための痛々しい変装にしか私には見えなかった。

(第2回・下につづく)

【関連記事】
G2 Vol.6「在特会」の正体(第1回)

最終更新:12月20日(月)12時58分

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