社説

新防衛大綱/議論深める好機だったのに

 政権交代は昨年、急激な景気後退のさなかに起きた。貧困と雇用への不安が広がる中で、私たち有権者の目はどうしても国の内側に向きがちだった。
 米軍普天間飛行場移設問題の迷走に加え、中国漁船衝突事件、北朝鮮の韓国砲撃が相次ぎ、目を外に向けて、国の安全保障の方向付けに深い関心を寄せざるを得なくなった。
 これからの防衛の基本方針をどうするか、針路を変更すべきだとすれば、国際社会、とりわけアジアの国々にどう理解を求めていくか。議論を深めるいい機会だったはずだ。
 政府の新たな防衛計画大綱が決まった。好機は生かされなかったと思う。
 新大綱は従来の「基盤的防衛力」から「動的防衛力」への転換をうたう。武器輸出禁止の三原則見直しにつながりかねない文言も見える。
 針路を変えようとする割には、政府・与党内の議論の中身さえ十分伝わらないまま新大綱は閣議決定された。菅直人首相が掲げる「国民全体で考える主体的で能動的な外交」とは程遠い進め方である。
 米国の影響力が相対的に変化する中で、中国の軍事力増強や北朝鮮の挑発行動により周辺地域の情勢は不透明で不確実だ。国際テロ、海賊行為への対応も差し迫った課題だ。新大綱が示すそんな現状認識については、あまり異論は出ないだろう。
 前の大綱(2004年改定)までの基本概念だった基盤的防衛力は、上陸侵攻を想定した部隊配置を重視していた。即応性、機動性を生かす効率的な部隊運用を強調するのが、動的防衛力という考え方のようだ。
 厳しい財政事情も背景にある。「人件費の抑制・効率化とともに真に必要な機能に選択的に集中して、防衛力の構造的な変革を図る」と説明している。
 大綱の改定は昨年行う予定だった。鳩山政権は先送りを決めて有識者懇談会を設置。その報告書を基に民主党の外交・安全保障調査会が提言をまとめた。提言は武器輸出三原則の一部見直しを容認し、「構造変革」の色合いがより濃い内容だった。
 武器輸出管理について新大綱は、国際共同開発への参加を検討するという趣旨にとどめ、党提言よりは弱い表現を選択している。社民党との連携に配慮してのことだ。
 仙谷由人官房長官は「政権交代した以上、安全保障環境に対応した予算、施策でなければならない」と独自色を強調した。一方、社民党の福島瑞穂党首は「自民党時代より踏み込みすぎている」と批判している。
 民主党調査会の提言に対して党内からも、福島党首と同様の声が上がった経緯がある。しかしその後、政府・与党内でどんな議論が交わされ、どの程度の深まりがあったのかは伝わってこなかった。
 安全保障環境が変化したという現状認識を共有できたのだとすれば、その先の針路をどう見定めるべきかを政治は有権者に提示し、語り掛けなければならない。その議論を先導するのが政権党の責務ではないか。

2010年12月19日日曜日

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