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【野口裕之の安全保障読本】半世紀前…池田勇人氏の「予言」的中
「日本人が、自分を守るのは自分しかないことに気づくには相当の時間がかかるだろう…」
後に首相となる池田勇人氏は昭和28(1953)年、ロバートソン米国務次官補を前にこう予言した。尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件で天下に披瀝(ひれき)した中国政府の「砲艦外交」に屈した日本政府の見苦しき「幇間(ほうかん)外交」は、残念ながら池田氏の端倪(たんげい)を証明してしまった。
「自らの安全を自らの力によって守る意志を持たない場合、いかなる国家といえども独立と平和を期待することはできない」(塩野七生著「マキアヴェッリ語録」)。この歴史的必然をこの国は忘れている。
◆米の日本離れ加速も
安全保障について思考停止している「相当な時間」が続けば同盟国・米国の日本離れも加速する。現時点で加速していないのは、太平洋を挟み海洋権益が激突しつつある中国に対する戦略に、日本の利用価値が残っているからに他ならない。ソ連牽制(けんせい)のため、米中国交樹立が成ったごとく、米中が「手打ち」をすれば、オバマ政権発足時のように日本離れは再開する。
その兆候は過去いくつも散見された。9月にも米海兵隊総司令官に指名されたアモス将軍が上院軍事委員会公聴会で、在沖縄海兵隊のグアム移転に関し司令部要員中心の計画を修正し、戦闘部隊を含める可能性に言及している。
空軍にしても、沖縄の第18航空団は単一としては米空軍最大で世界トップ級の戦闘航空集団だが、朝鮮半島有事に備えるには最前線に近すぎるため、もっと後方に下げる案が随分前から検討対象となっている。
◆豪に誘致論も浮上
こうした米国の底意を看破し、同盟国の専門家間でも米軍誘致が活発化している。中国を脅威と見なしている証左でもある。
例えば、豪紙論説委員で米国のシンクタンク、ウッドロー・ウィルソン国際学術センターの客員研究員シェリダン氏は8月の紙面で、中国をにらんだ大規模な米軍基地が東南アジアと接する豪北部ダーウィンに建設されることが“必然的”とさえ予見している。
その理由として「アジア諸国は米軍のプレゼンスを望むが、それを公に支持する指導者はほとんどいない。中国からにらまれることと国内の反米感情を助長する、そのどちらも恐れているからだ」と指摘。その上でこう分析する。
「豪戦略にとり、安全保障と通商の双方で米国をアジアに全面的に関与させることが不可欠だ。米国はアジアで日本・韓国・タイ・フィリピン、それに豪州と安全保障条約を締結している。ベトナムとも強力な戦略関係を発展させ、インドネシアやマレーシアとの関係も強化する。すべて東・東南アジアにおける中国に向けたヘッジ政策であり、米国のプレゼンスを全面的に刷新せんとするオバマ政権の決意表明でもある」
さらにシェリダン氏は、6月にシンガポールで開かれたアジア安全保障会議=シャングリラ対話=におけるゲーツ国防長官の発言に注目した。
「米国のコミットメントと抑止力の強さは(東・東南アジア)域内に相当規模の米軍プレゼンスを維持することで明らかになる。米国のこの域内における防衛態勢は、今以上に地理的に分散され、より弾力的で政治的に持続可能な形に移行しつつある。グアムへの戦力増強はその一環だ」
こうした諸点から導き出したシェリダン氏の結論は大胆で衝撃的だ。すなわち「東南アジアとその周辺で、米国のプレゼンスが地理的に分散され、より弾力的に運用でき、政治的に持続可能な場所こそダーウィンである」。そして「(ダーウィンに)相当規模の米海空軍と海兵隊を駐留させ、一定の装備・資材を事前集積しておくことは米国の対中戦略に大きな意味を持つ」と断じる。これは暗に、「沖縄は政治的に持続不可能な場所」と言っているに等しい。
◆大口たたく必要は…
こうした「脱日本」の潮流も学習せず、鳩山由紀夫氏は首相当時、普天間基地は「基本的には県外、できれば国外」「今まで米国に依存し過ぎていた」などと米国と距離を置く姿勢を次々に打ち出した。そんな大口をたたかなくとも、米民主党重鎮で安全保障に大きな権限を持つ日系のイノウエ上院歳出委員長は「米軍が東アジアに永久に駐留するわけではない。米国はそこまで忍耐強くはない」と民主党政権の安全保障への取り組みに警告している。
ただ、委員長にはこう申しあげたい。
「鳩山発言に戦略的背景や外交的牽制の意味合いはありません。単なる思い付き、パフォーマンスです」