【ソウル大澤文護、ワシントン草野和彦、北京・浦松丈二】韓国の海洋警察当局は24日、北朝鮮に砲撃された延坪島(ヨンピョンド)で、海兵隊基地建設工事に従事していたとみられる民間人男性2人(60歳と61歳)の遺体が見つかったと発表した。砲撃による民間人の死者は初めて。韓国政府は砲撃事件の国連安全保障理事会への提起に向け検討に入る一方、李明博(イミョンバク)大統領がオバマ米大統領と電話で協議し、合同軍事演習などを通じて北朝鮮への軍事圧力を強化することで一致した。
砲撃事件での死者は韓国軍兵士2人を含めて4人となった。南北の軍事衝突により民間人の死者が出たのは、96年に韓国・江陵市沖で座礁した北朝鮮潜水艦の乗組員が上陸、銃撃戦に巻き込まれて以来。民間人の死者が出たことで北朝鮮に対する国際社会の批判が一層強まるのは必至だ。
だが、米韓の軍事圧力強化や国連安保理での対北朝鮮制裁には、北朝鮮の後ろ盾となってきた中国の動向が焦点となり、実効性のある北朝鮮包囲網が形成されるかどうかは流動的だ。
ホワイトハウスの発表によると、オバマ大統領は米東部時間23日夜(日本時間24日午前)の李大統領との電話協議で、北朝鮮が一層の孤立につながる挑発行為をやめ、朝鮮戦争休戦協定や国際法に基づく義務を順守する必要があると主張した。その上で「米国は言語道断の行為を強く非難するため国際社会と協力する」と述べ、北朝鮮に対する新たな国連安保理制裁決議を求める可能性を示唆した。
米韓両大統領の協議を受け、在韓米軍司令部は24日、砲撃事件が発生した黄海で、新たに28日~12月1日に米韓合同軍事演習を実施すると発表。李大統領は24日午前、首席秘書官会議で、延坪島など北朝鮮に近い黄海の5島の兵力を増強し、新たな挑発に備えるよう指示した。
在韓米軍司令部は「(次回)演習は北朝鮮砲撃事件がきっかけになった」と北朝鮮への軍事的圧力を強める姿勢を鮮明にしており、米原子力空母ジョージ・ワシントンや米原子力潜水艦、韓国海軍の駆逐艦(4500トン級)2隻などが参加する予定だ。
3月の北朝鮮潜水艇の攻撃によるとみられる韓国哨戒艦沈没事件の後にも、米韓両軍は黄海で合同演習を実施したが、米国は、中国の「安全保障上の利益に影響する」との反発に配慮して原子力空母の参加を見送った。米国は今回、砲撃事件発生でジョージ・ワシントンを黄海に派遣する大義名分を手に入れた格好となり、中国政府が今後、米韓合同軍事演習に反発する可能性がある。
北朝鮮砲撃事件について、中国政府は「遺憾」を表明し、「中国は朝鮮半島の平和と安定を損なういかなる行為にも反対する」(外務省報道官)と述べ、北朝鮮に自制を呼びかけた。
だが、先の哨戒艦沈没事件を協議した国連安保理では、中国が北朝鮮を擁護して制裁決議が見送られ、議長声明に北朝鮮の名指し非難が盛り込めなかった経緯がある。韓国政府が日米などと連携して国連安保理に砲撃事件の協議を提起しても、中国が再び消極姿勢を示す可能性もある。
毎日新聞 2010年11月25日 東京朝刊