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[24667] 【ネタ】一般人のモンハン生活(MHP3rd発売記念SS)
Name: ねりきち◆6ef99ad3 ID:9b1a9775
Date: 2010/12/04 15:10
はじめに

「現実→モンハン」のオリ主です。

MHP2ndGとMHFの設定が多いです。
オリ設定が山のように出てきます。
原作シリーズのストーリなど欠片も存在しません。

当MH世界では、人々の生活の中に狩猟がありその延長線上にモンスター狩猟が存在します。そのため、竜種が居る所に人里は作りません。故に、ベテランハンターといえど戦闘経験は低いです。そんな、素朴に生きている彼らの中で現代人が生活する話です。
上記のようなオリ設定や嘘設定が山のようにでてきます。大事なことなので(ry

あと、レウスvs一般人を書きたかっただけです。

MHP3rd発売おめでとー!!



(初稿:2010.12.01)



[24667] プロローグ
Name: ねりきち◆6ef99ad3 ID:9b1a9775
Date: 2010/12/01 23:40

奇妙な服を着た女がいる。血を流し、今にも倒れそうだ。

重たい体を引きずりながらも前へすすむ。一歩でも。

ブーツはまるで雨の日のように水を吸っている音をさせる。
血が止まらない。

何故こうなった、と思う。油断はなかった。

今頃になって痛みが増してきた。左腕の関節が増えている。

仲間がどうなったのか判らない。

――轟音とともに一人が燃え上がった。

――呆けてる間にまた一人押し潰され吹き飛ばされた。

――私は木に叩き付けられた。動ける。逃げた。必死に。

右手は毒で感覚がない。応急手当もできない。

たすけて。しにたくない。







プロローグ







俺はもうすぐ発売される新作ソフトに向けて前作を復習してる最中だった。

俺はPSPやりながら歩いていたらトラックに引かれた…はずだ。

あの時、体力が残り少なかった。画面の中の蒼レウスが突っ込んできて焦った。

同時にトラックも突っ込んできた。焦ったがもう遅い。

――俺はトラックに轢かれ、たぶん同時にゲームでも蒼レウスに轢かれた。

「誰かいませんかー」

怪我はない。返事もないな。

(ここはどこだろう?)
死後の世界。もしくは夢かもしれないと馬鹿な考えが浮かぶ。たぶんただの森林公園だ。

PSPはスリープ状態にしてポケットへ入れておく。画面を見たらベースキャンプにいた。報酬のゼニーは3分の2に減っていた。

約6年間も大事に使い続けたのだ。ケースに入れたかったが見つからなかった。マフラーもリュックも腕に掛けていたコートも見つからなかった。

空を見ると巨大なナニカが目に映った。

(と、鳥なのか!?ってか恐竜みたいだ!)
地面は平坦ではなく歩きづらいこと甚だしかったが追いかけた。

追いかけるとは、その時の俺はどうかしてたんだと思う。もし見つかれば死んでいたかもしれなかった。

(…ホントどこだどこ?)
当然、すぐに見失って途方にくれた。

怖くなってきた。不安になってきた。

周りを見回すが結構移動したはずなのにあまり景色は変わっていない…広い森林公園だ。

(…遭難したのか俺?えっと移動せず救助を待たなきゃいけないんだっけ?漫画とかの受け売りだけどホントかね?)

空に目を向けても、ヘリや飛行機は見えない。それどころか車のエンジン音も聴こえない。

とりあえず持っていたPSPの電源をオン。スループ状態から復帰させる。レウス討伐クエストの途中だったはずだ。

報酬の三分の一がなかった。時間も進まないようだ。壊れてしまったんだろうか。ヘコむ。

クエリタしても良かったが迷った。すでに部位破壊はしていたから。

ため息をついた拍子、ふと鼻につく臭いを捉えた。

その瞬間にはPSPはポケットへ、そして歩き出す。人に会いたい。

焦げ臭い。人がいるのかと期待が大きくなる。

木と草が焦げていた。そして人が寝てる。その人は鎖帷子のような鎧をまとったおっさん。近くには剣や盾やら薬やらが散らばっている。

(こんな山でコスプレかよ。それともなんかの撮影か?)

動く気配がない。さらに不安になってきた。

「って大丈夫ですか!」

日本人離れした顔つき。
近づいて判った。鎖帷子には無数のキズ。使い込まれた装備類。見慣れたコスプレではない。

だからすぐ判った。


(ハリウッドすっげー!)

ここはアメリカらしい。そう思うことにしよう、いやそうしよう。

(ハリウッドって何州だったけ?カメラどこだろ?)

岩の陰にもう一人いるようだ

「あのー、ちょっといいですか?」

声をかけてみたが返事がない。シカトですか。イラッときたが耐えた。

「え、えくすきゅーずみぃー?」

…首が変な方向を向いてる。

(うわあ、キモチワルイ)

つついてみた。頑張って脈を取ってみた。

(――っ!?これってやばいだろ!)

動かないはずだった。ハリウッドではないらしい。ホントは判ってたけど。いくらなんでもアメリカはないし。
…さらに不安が大きくなった。

とっさに周りを見回すが誰もいない。

(さ、殺人犯がいるかもしれない!)

そばにあった剣と盾を手に取った。

やっぱりこれも使い込まれた感じがする。

(なんだろ?なんだか見覚えがあるようなきがするんだけどな…)

死人から奪うなんて気が引けるが、自分の命の方が惜しいのは誰もが一緒だ。

思えば、これが俺の初めての『剥ぎ取り』だった…のだろうか。





(初稿:2010.12.01)



[24667] 01
Name: ねりきち◆6ef99ad3 ID:9b1a9775
Date: 2010/12/02 22:06
俺は死体に遭遇し剣や盾を見つけたんだが、途方にくれていた。

現在地も状況も不明。食料もなく。ケータイも財布もない。それらを入れたバック自体持ってなかった。

大体、トラックに衝突したはずなのだ。それまでやっていたモンハンのせいで気づいた時には手遅れだった。ぶつかったような気がする。

その次の瞬間には大自然の中にいた。唯一の持ち物はPSP。

ディスクが飛んでくギミックが付いている初期型モデルだ。使い初めて6年間ぐらいだろう。

大学に通いつつ授業中でも友人とモンハンをやる決して真面目な学生ではなかった俺。

モンハンは俺のキャンパスライフそのものかもしれない…メッチャ悲しいが。

(ライブでピンチだ…ってやつか…はぁ)

溜め息をつきながらも足を前へ動かす。

おっさんの死体の近くで見つけた何者かの痕跡。血の付いた足跡を俺は辿っている。

右手には剣を持ち肩にかけた袋を左手で支え歩く…怖い。この先には殺人犯がいるかもしれないのだから。そいつは既に『二人』も殺している。

殺人現場は謎ばかりだった。そこから離れた今も現状を把握できていない。





思い出すのはおっさんを目撃した現場。

剣と盾を持ち慎重に周りを確認した。幾つか血痕と血の付いた足跡を発見。しかし誰もいなかった。代わりに青年の死体がさらに一つ。おっさんは首の骨が折れたことが死因だろうが、青年の死因がわからなかった。血痕の元になった傷痕程度では死にはしないだろう。

(火傷らしきあとがあるようだけどこれだけで死ぬのだろうか?炎を吸い込んだ?肺を焼かれて死んだのか?)

奇妙な二体の死体の持ち物も調べてみた…気が引けるが。

地図、コンパス、食料(肉や米など)、小型ナイフ、布、縄、紐、かご(中には草があった)、糸と針、包帯、炭。他にも皮袋の水筒らしきもの。
大小の容器や薬のようなものが幾つかあるがよくわからない。さらに用途不明の小物が幾つか。
そして二人とも見たこともない文字列が彫られたドッグタグらしきものを首に架かけていた。
塗料らしきものをつめた玉も発見した。若い人は弓を持っていたが壊れていた。おっさんの鎖帷子も少し壊れていた。

この中で、俺が一番気になったものは地図だ。
地図に書いてある文字。日本語だ。一部は見たこともない記号のような文字列があるがほぼ日本語で書かれている。地図の内容はお粗末だ。まず手書き。道や川や山そしていくつかの目印などが書いてある。そして道や印が集中してる場所が一つ。
ポット村と書かれている。

(地図の所有者はこのポット村に住んでいたのだろうか?)

結局、地図を見ても現在地はわからなかった。

この状況でまさかと思うが、この人たちはレンジャー部隊で作戦行動中だったのだろうか。そうすると地図は暗号や符丁のようなもので書かれているのだろうか。
だが無線機など通信機がない。狼煙でも上げるのか。

テレビや本でしか兵士のことしらない俺にでも判ることがある。迷彩服の代わりに鎖帷子を着る兵士はいない。

見つけた地図で気になる点が一つ。大きく赤い×印があり下にはキケンの文字。そして

「…怪鳥発見報告地点。」そう書いてあった。


俺は死体の見えない場所へ移動し、彼らが持っていた食料を食べることにする。
硬い肉だった。保存食。燻製肉ってやつだろうか。死体の状態が良くてよかった。食欲はある。

(もぐもぐ。考えるべきことはたくさんある。)

まず二人の死体。殺されたのだろう。一人は多分炎を吸って。もう一人は凄い勢いで何かに叩きつけられた。
まだ死後硬直ってものも起きていないように思う。回りの焦げ跡もできたばかりだから死んでから時間だ。たぶん。

ふと頭に浮かんだものは馬鹿らしい中でもさらに馬鹿らしい。
(…飛んでいたデカ鳥。まさかレウスだったりとかね)

次に足元に転がる剣。装飾剣のような形状だが使い込まれている。そして良く切れる。太い枝などもスパッと。

この硬い肉も簡単に切れた。けれど明らかに包丁ではない。反りのある刃は刀のようだが重心を刃先へおくことで遠心力で叩き切る鉈のように使うのだろうか。
この鉈モドキは片手で振り回すようにできてるのか俺にも使えそうだったし持ち運びもたやすい。

ここでも馬鹿らしい考えがよぎる。
(…なんかハンターカリンガ系に似てる。初期武器はよく覚えてないけど装飾が控えめな気がする)
もしくはハンターナイフかな。初代MHP懐かしい。

さらに地図。このキケンと怪鳥の文字。
「はは…イャンクックのことだったりしてな…。」

結局、現在地も状況も不明だ。

選択肢は二つ。
一つ目は、ここで待機。彼らが持っていた食料を食べてれば4日は持つだろう。彼らの捜索隊が来るのを待つ。
二つ目は、血の足跡を追跡。足跡の主が殺人犯である可能性もある。危険だ。

(…どうすっかなー)

結論からいうと俺は追跡を選択した。しばらく進んでみて様子をみることにした。
死体から使えそうなものを取る。死体がいきなり起き上がりそうで怖い。
一般人である俺は死体など見る機会などない。じいちゃんが死んだときちょっと見ただけだ。それも化粧をされていた。
あまり見ないようにして作業を進める。

迷ったが盾は持っていくことは止めた。重いし。





歩く。汗が止まらない。やっと気が付いたが季節が日本とは違う。いまは冬だ。歩くだけで汗を掻くなんてあるわけない。
(…アメリカの南って亜熱帯だっけか?そんな気がする)
地理の勉強など高1以来やっていない。

俺は、地図のことを思い出しながらも歩き続きていたのだが、足場が悪い所でぼおっとしていることは危険に決まっている。
案の定、足をもつれさせ倒れた。

「うわっ!」ビタンッ!

「いてーよ。うぅ」

両手が塞がっていた俺は思いっきり顔から行った。ここまで来る間に汚れた服や顔は更に草やら土やらで酷いことになっていることだろう。

起き上がるのも面倒臭くなって仰向けになってみる。

(やばい、涙出てきた。ココはどこだよホント。)

360°周りを見回せば木、木、木。木しかない。完全な森にしか見えない。ここは朝から相変わらず虫やら鳥やらの音が聴こえる。







第1話







(…私は…ここはどこだろう?)

「おはよう。といってももう日が沈むがな。目は覚めたか?」

その声に顔を向ける。

「…キール!?状況は?」

彼にそう問いかけ起き上がろうとした

「…ッ!?」

その瞬間に激痛が走った。しかし顔をしかめることも眉を動かすこともない。

「無理に動かないで。傷が開くと大変だから。」

そう言って彼は私の傍に座った。木が生い茂り空は見えない。ここならヤツにも発見されづらいだろう。
彼の説明を聴きながら傷を確認してゆく。ゆっくりと。

左腕には添え木と包帯。肋骨にも包帯が。多分罅が入ってる。左大腿部には裂けたような傷。キールが縫ったそうだ。いまは出血は止まっていた。
関節も含め体中が痛い。頭も痛いし、熱もある。けれどどうやら内臓にダメージはないのは幸い。

ランポスの鱗を混ぜて作った鎧は役にたったようだ。彼の用意した粥も食べることができた。

ガーティとビックスは戦死した。

「状況は最悪ね。私は歩けない。怪我がなくても一番近いポット村まで丸一日かかるわ。」

大きく息を吐く。それだけで体が軋んだ。しかし苦しみを顔に出すことはない。

半日私は寝ていたらしい。キールが私をヤツから見つからないようにここへ背負ってきてくれたそうだ。

(この場合ショック死しなかったことを喜ぶべきなのかしら?)

彼を見る。所々包帯を巻いている。私に比べればマシだが満身創痍には違いない。

「…とりあえずゆっくり休め。」

そう言うと彼も布に包まり横になった。

しばらくすると彼の寝息が聞こえてきた。

私の状況はまさに最悪だ。足手まといだし、今の私では誰も抱く気にもならないだろう。利用価値ゼロ。キールは私を見捨てるだろう。私でもそうする。

考える。そもそも今の私には思考することしかできない。

今回のクエストはケチが付きっぱなしだった。当初のメンバーに欠員が出て土壇場でメンバーが変更、顔見知りなのはキールだけとなった。
ガーティはセクハラ親父だったし。でもここまではよくある話ね。
辺境でもないポット村でギルドからの支給品が遅れていた。こんなことは初めてだ。

極めつけが最後のアレだ。アレはイャンクックではない。そもそもクックの目撃地点は迂回した。私は空を飛んでいたクックを見たことがある。あれは鳥竜種ではなく飛竜種だろう。しかし蒼色の飛竜とは聞いたこともない。

あの絶望は簡単に思い出すことができる。





私たちは油断なくけれども適度に余裕を持って進んでいた。

空から滑空してくる蒼い飛竜に私が気づいたのと飛竜が火を噴いたのは同時だった。

ガーティは剣を抜く暇も回避する余裕もなく炎に包まれた。爆風に煽られキールは吹き飛ばされた。
ビックスは飛流の翼の放つ風圧で動くこともできない。セクハラ親父ガーティがしつこいので私は彼から一番離れたところを歩いていた。

だから私だけこの時、行動を起こすことができた。
けれど私は動くこともできず呆けていた。瞬きもせずただ見ていた。青いそして巨体、クックなどよりはるかに大きい。

ただ見ていたのだ。
飛竜ではなくその強靭な龍鱗に走る無数の傷を、斬り飛ばされた尾を、折られた翼の爪を。
脚も翼も体もキズつき頭は特にズタズタだった。その飛竜は間違いなく瀕死だった。そして怒り狂っていた。
その鱗に付いた傷は大剣より斬ることを重視した武器、例えば太刀かそれに類する武器で斬られた傷なのか。
名刀の中の名刀だろう刀によって強靭な鱗は弾く事も出来ず綺麗に斬り裂かれている。

この太刀を振るったハンターは間違いなく凄腕中の凄腕。唯ひたすらに攻めては回避しそしてまた斬りつけ、それを繰り返した。
ただただ冷静に作業のように繰り返したのだ、この凶暴な飛竜に対して、ありえないほど正確に頭部への斬撃を。

私は戦慄しそして理解する。そのハンターは敗れたのだろう。討伐目標につける目印のペイントはほとんど剥がれていた。ペイントボールを投げてから2日は経っている。

私たちにとっては一撃で必殺レベルの攻撃。最高の防具で固めていても何回も防げるものではない。全て回避したのだろう。
薄氷の上を歩くような状態で戦いそして力尽きた。あと少しで飛竜は討伐されただろうほどに弱っている。

その戦いを想い、目に見えぬハンターを幻視した。だから私は呆けていた。

その間にビックスが岩に叩きつけられた。風圧のせいで回避も出来なかったのだろう。首が背中を向いている。

飛竜は私に体を向けたが一瞬脚をひきづり、だから私は抜刀する余裕があった。それでも速い。

剣を右手にそして左手に持った盾を構えた瞬間に衝撃。

「…ッ!!」

防御など意味を成さないとばかりに私は吹き飛ばされ後ろの木にぶつかった。私の左腕の骨折はこの時のものだ。

(冷静になれ!それでもハンターか!)

亡き父の口癖を思い出しすぐに頭を切り替える。まだ剣も握れぬ子供のころから言われ続けた。今は違う。いまの私もまたハンターなのだから。

身体状況を確認。左腕は無理だろう。出血もひどい。枝が脚に刺さったがまだ動ける。

前転しつつ片手剣を納刀し、毒の塗ってあるナイフを飛竜の頭部に投擲する。鱗に当たるが浅い。
すでに構えていた二投目を放つ。傷つきすぎて肉が見えている頭部へ吸い込まれるように飛んでいき、命中。

たいした効果はない。しかし十分。ナイフへと意識を割いている飛竜に背を向け走る。走るたびに左脚が痛むが気にせず走る。

逃げた。逃げきった。そして私は気を失った。





(ホントに…よく生きていたものね私も。)

最初の一撃で意識を失わなかったのも、あの状況で投げたナイフが頭に当たったのも偶然。もしヤツが五体満足なら死んでたのは私だ。

ヤツもあの傷では遠くまで飛べないはず。まだ近くにいる筈だ。ヤツは怒り狂ってる。人間を発見すれば見境なく殺すだろう。

急いで村に知らせる必要がある。すぐに避難勧告と討伐隊の要請をしなくてはならない。青い飛竜が村に現れれば誰も助からない。
恐らくポット村を防衛拠点としている多数のハンターが派遣されてくる緊急クエストになる。もしかしたらドンドルマからも応援がくるかもしれない。
並みのハンターが何人いても被害が増えていくだけだろう。中央から凄腕ハンターが派遣されてくることもあるかも。ぜひ会ってみたかった。

キールもそれは考えているはずだし。明日の朝になれば彼は発つ。歩いて1日の距離でも今の彼では2日もしかしたら3日かかるかも。夜の番が出来ないほど疲弊しているのだから私を背負って行ける訳がない。

さらに村で私のことを伝えても救助にくるハンターなどいない。未知の飛竜がいるエリアに友人でもない小娘一人助けには来ないだろう。

私はここで死ぬ。歩くことすら満足にできない私は死ぬ。あたりまえだ。

(…死ぬのか私は)

ハンターなんてやっているのだから覚悟はできている。
それでも泣いた。

(…しにたくない)

私は隣のキールを起こさないように声を殺しながら涙を流し眠りに落ちた。





(初稿:2010.12.02)
(修正:2010.12.02)


モンハン日記

12月2日 晴れ
プレイ時間 6:37
ずっとソロ。友達買えなかったんだorz



[24667] 02
Name: ねりきち◆6ef99ad3 ID:9b1a9775
Date: 2010/12/04 03:00

死体の傍のから続いていた血痕を追いかけてみてから数時間が経った。
もはや血痕も血の付いた足跡もない。

今俺は少しでも歩き易いだろう道らしきものに沿って歩いている。

(どこに続いてんだこれ?獣道ってやつか?クマとか出たらどうすっかなあ)

左肩からは剣をひもで吊っている。鞘はボロボロで使い物にならなかった。
右肩には死体から盗んだ…もとい借りた装備が袋につまっている。


しばらく血痕を追いかけて歩いていたがある地点から先には血の跡を発見できなかった。
多分治療をしたのだろう。その最後の血の跡には布や幾つか薬の容器らしきものなどが落ちている。

自動車のタイヤの跡はないし、ヘリが着陸できるほど広い場所は近くにはない。予備の靴を持っていて取り替えるなんて有り得なさそう。

(ここで怪我人を治療し、担架か背負って連れて行った人間がいる。殺人犯じゃなさそうだな。)

それが俺の出した結論だった。誰にでも出せそうな結論だったが。


日がそろそろ沈むので燻製肉(何の肉かは不明)を少し食べて、毛布みたいなでもただの布切れを体に巻きつけその辺の草の上で寝る事にした。

状況もわからない状態で歩き続けたせいかすぐ眠れそうだ。

日の入り前に眠りにつき、日の出に起きる。昔はそんな生活が当たり前の時代があったらしい。

(でもさあ、24時間営業のコンビニを常識としてる文明人には不可能じゃね?)

寝るのは中断。

ポケットからPSPを出し即座にスリープを解除。残り時間やアイテムの残数をチェック。報酬金は残り3分の2。
やばい…電池があと1目盛りしかない。すぐに液晶のバックライトの出力を抑える。

そしてやっぱり残り時間が減らない。討伐達成してないにも関わらずだ。

「バグかなー。そんな情報聞いたことなかったけどな。」

不安になって声に出してみる。バグなんて一々確認してないので判らないが友達からも聞いたこともない。

クエリタしてみた。できない。再起動してみた。できない。ただ休止状態になるだけだ。ディスクを抜いても変わらず次のエリアをロードした。
山菜じじいからゲットした千里眼の薬を飲んでみたが飛竜がマップに表示されない。
全エリアを歩き回ったがやはり討伐対象も見つからなかった。

空が暗い。街頭もない今PSPの画面を切ると真っ暗だ…なんだか怖くなってきた。

(こ、怖い…木の上とかで寝た方がいいかな?)

PSPの光を頼りに太い木の上によじ登った。

(どこまでも行っても森の中。もうヘリしかない。明日こそは、救助ヘリが飛んでいますように。)





翌朝、
顔も洗わず、皮袋に入った不味い水を飲みながら血が途絶えた地点から歩き始めた。

病人を背負っても歩き易いだろう道を、または背の高い草が生えていない道を、もしくは空が良く見える場所を選んで歩き始めた。

そう、彼らを救援にくるだろうヘリが飛んでいれば俺を発見できるような道を歩き始めた。

血痕の人達が移動するなら歩き易い場所を通る。遠くへは行っていないだろう。ヘリが着陸可能な場所を探すはずだ。その付近に彼等はいる。

他の可能性は勝手に棄却した。ヘリコプターが助けに来てくれない可能性も棄却した。

それが俺の出した結論だった。そして見当違いだった。

しばらく歩いた後、死体のあった場所が一番ヘリが着陸しやすそうなことに気づいた。

慌てて引き返す。

ちなみに、昨日は結局草の上で寝た。危険だってことは判ってたけどしょうがない。

(…マジで木の枝の上で寝るとかないわ。それって猿じゃね?)








第二話







空が白み始めたころ、誰かが近くで動く音で目が覚めた。

「…」

キールと目が会った。

「…すまない。」

長い沈黙の後彼が言った。眉間に皺を寄せ、申し訳なさそうに目を伏せ、しかし声はしっかりしたものだった。彼はハンターだから。
「ええ、急いだ方がいい。ポット村も危ないから。」
なぜとは言わない。助けてとも言わない。私もハンターだから…問題ない。問題ないけれど、思わず首に掛けたギルドカードをぎゅっと握る。


首から下げた二つのギルドカード。正式名称:ハンターズギルド認識票。しかし、ハンターの間では認識票をギルドカード・ギルドタグと呼ぶのが一般的。
ハンターネーム(ネーム)・ハンターランク(ランク)・所属するギルド駐屯所(ホーム)の印が刻まれている。ギルド創立時代にもいまだ一部で使われていた古典文字で刻まれている。
戦死したとき、仲間がそのカード一つを持って遺族に届ける。もう一つは死体に残し後の身元確認のためのタグとなる。
本当の意味でのギルドカードは駐屯所に保管してある。
それにはネーム、ランク、ホームの3つ以外にも、達成クエスト履歴、装備品傾向、授章した勲章、討伐モンスター数などの詳細なデータが記入されたカードである。
本人の申請でギルドカードの写しが発行される。ギルド認識票を身分証明書として使うことが多いので、写しを使う機会は少ない。


「すまない。」

彼はもう一度同じ言葉を口にして、振向かず歩いていった。

私は彼にギルドカードを渡さなかった。なぜならまだ私は死んでいないから。

彼はずいぶん食料を置いていったようだった。この分なら10日以上は持つかも。
飲み水が足りないから川へ下りなくてはならないけど。

不味い頑固パンを水でふやかす間に適当な木を探し即席の杖とした。

(どうせ後10日の命なんだから!)

痛む足、左手は動かず、右手は動く。逃走時の腕の痺れは投げナイフの毒だったのだろう。傷口からごく少量進入したのだ。
頑固パンは問題なく食べられたし杖も持てる。傷口には故郷の秘薬を塗ったので、杖を使えば歩けるだろう。


歩ける。二人の所へ行こう。

(二人とも獣やモンスター達に食い散らかされてなければいいけど。できるかわかんないけど埋葬してあげよう)

ガ-ティもビックスも今回のクエストで初めて会ったけどハンターズギルド所属のハンターならばいつものこと。
大きな街のギルドの集会所ではクエストメンバーの募集でごったかえしているのだから。

私の父も母もハンターだった。母さんは私を妊娠した時にハンター業を引退した。

父は私が母の片手剣を片手で振り回せるようになるころには戦死していた。口癖は「それでもハンターか!」
「泣くな!それでもハンターか!」とよく叱られたこと。私がハンターでない幼児であることは承知の上での叱咤は懐かしい。
私はそれほど泣き虫だったのだ…いや昨晩を思い出す。今も泣き虫かも。

父はそれほど腕のいいハンターではなかったが、幼い私は父が敗れることなど信じられなかった。

(さいきょー = おとうさん)

幼い私はそんな戯言をホンキで信じていたのだ。その父さんも死んだ。

その後、母さんに師事して数年間、厳しい訓練も耐え抜いた。

けれど母さんが病に倒れた。私は訓練を続けながらも母の看病をする毎日を送っていたが、母は快復することなく息を引きとる。
泣いた。父の言いつけも守らずに泣いた。悲しかったが落ち込んでいる余裕はなかった。

私は母の死を期に同時にハンターズギルドの門を叩いたのだ。

その時、私は13歳。近年若年化すギルド。所属を希望する若年ハンターの仲でもでも若すぎる。普通は体が成長しきるまでは危険なハンター業に就く者はあまりいない。
その普通ではない人間が私だった。ハンターをやる以外には、体を売るぐらいしか生きるすべをしらない子供だった。

ギルドへの入門は一定以上の身体能力と戦闘能力があればいいのだ。言い換えれば走り回るスタミナと剣を振る体力。
走る。剣を振る。それだけのスタミナと体力があればいい。つまり健康ならば誰だってなれる。

私は幼い頃から両親から英才教育を受けていたから優秀だった。とにかく私はギルド所属のモンスターハンターとなった。

実践こそ未経験だが剣士・ガンナーからタル爆弾の調合・起爆までこなすオールラウンダー。けれども若すぎる私は信用もなくソロ狩りが基本だった。
時々は今回のような遠征もする。その際には、採集、調合、後方支援、近接戦闘と自分の力を見せ人脈を広げるように努力した。

ハンターランク(HR)はまだ低いが、父を超える日も近いだろう。そうなるだろうと思っていた。そうあるよう努力した。

私は努力をしたし実力も将来もあった。



私はもうすぐ死ぬ…また泣きそうだ。
この体中に走る痛みと発熱が私を弱気にさせる。

「だけど…はあ……なッ!?」

とっさに杖を構える。意識が散漫になっている。

(馬鹿か私は!それでもハンターか!)

驚きの表情は一瞬で消えて、目を細め目の前にいる珍妙な格好をした男を睨みつける。

男は両手に白い光るプレートを持っていた。彼はそのプレートから目を離すとこちらに目を向ける。

「え、えきゅすきゅーじゅみー」

彼は良くわからない言葉を投げかけてきた。





(初稿:2010.12.04)





モンハン日記

12月3日 晴れ
プレイ時間 8:56
使用武器:ボーンアックス改

スラッシュアックスは謎です。変形とか有ってダメージ効率が判らないです。どの攻撃を繰り出せばいいんだろ。適当に振ってます。カッコイイし。
クマを狩りましたよ。誰もいないのにブンブン爪を振り回すクマかわええ。SEがゴツイだけに空回りっぷりが萌えです。
あと弟が購入!試験前なのに大丈夫か弟よ。



みなさん、ちゃんと買いましたか?しっかり狩ってますか?




[24667] 03
Name: ねりきち◆6ef99ad3 ID:9b1a9775
Date: 2010/12/05 18:31

俺はなにかトンデモナイことに巻き込まれている。
交通事故、奇妙な死体、文明の気配がない森。
けれども、きっと助けが来る。もうすぐ家に帰れる。

そんなことを根拠もなく信じたい。だから見たくないものから目を背ける。しかし、目を背けた先にも現実は依然として存在する。







第三話







川があればそこに沿って救助隊が来る可能性もあるが、近くに川がある気配を感じることはない。死体の場所は回りには高い木もなくほどよく開けている。ヘリで来れば死体も回収できる。

救助隊がくることを俺は信じたかった。来るとしたら確実に徒歩かヘリコプターだろう。車が走れるような舗装された道はない。
2日外にいて飛行機が飛んでいるところさえ一度も見ていないが、俺はきっと東京とは少し違うんだろうと思うことにした。

ケータイはリュックと同じくここに来た時には持っておらず、腕時計はバイトの時ぐらいしかつけない俺はPSPで確認するしかない。

PSPに表示される時刻はトラックに衝突した時刻から変わっていない。再起動もできないので設定変更もできない。

(なんだか怖いなあ…ディスク抜いてもエリアロードできるってどうゆうことさ?)

死体の傍にいるなんてゾッとする。少し離れた草の上に座っていろいろ弄ってみる。が結果は同じ。蒼レウスはどこにもいない。


「だけど…はあ……なッ!?」

女性の驚いた声がすぐ俺のすぐ傍で聴こえた。

ゲームをやっているとトラックが突っ込んできても気づかない俺だ。目の前に女の子がいても気がつくはずがない。

画面から目を離し、女の子に目を向ける。

彼女の年は高校生程度か、化粧もせず手入れもしてないだろう顔つきは幼く綺麗な肌もあって中学生にも見えるかもしれない。
だがそれも街で見かける時に限る。
目を細め放たれる眼光は俺を威圧し、立ち上がることすら許さない。そんな形相の彼女の年齢は俺よりずっと年上にもみえた。

彼女の服装のこともあり年齢はよくわからない。

黒い髪の毛は適当に後ろで結われているだけだ。少し野暮ったい。首から下はさらにヘンテコ。きている服はボロボロの毛皮。
腰にはポーチがあり、色々な見たこともない物がぎっしり入っている。左手は簡易ギブスをつけているのか包帯でグルグル巻き。
左足の包帯の下に出血の後が見える。

そんな彼女は俺を睨みつけると右手で棒を振り上げこちらを威圧している。

(さ、殺気ってやつですか!?マジ怖っ!)

「え、えきゅすきゅーじゅみー……っじゃなくて、ここどこか判りますか?あなたは?」

救助隊の方が現れたら言おうと思って練習していた言葉をとっさに言ってしまい、慌てて言い直す。

「…貴様、ハンターか?ネーム、ランク、ホームを述べなさい!ギルドカードの確認を!」

勇気を出した俺の言葉を無視して、彼女は日本語でこちらに問いかけた…いや命令した。

(この女が殺人犯か?この傷ならあの足跡もこいつが?日本人なのか?コスプレ?ってか、お穣さん、こん棒振り回しちゃ危ないですよ?)

いくつもの疑問が溢れるが保留。中腰になり、彼女と目線を合わせ、ニコニコ愛想笑いして答えた。

「えっと、ハンターってなんのこと。ま、まさか念能力者とかですか?」

彼女がさらにイラついたことを理解した。

(子供扱いしすぎたか?馬鹿にしすぎた?)

「モンスターハンターに決まってるでしょ!ネームは?ハンターランクは?答えなさい!」
彼女は威圧しながら怒鳴りつけた。


ところで、ギルド所属者は例外なく『職業:ハンター』と公式書類に記入可能だ。
しかし、一般に『ハンター』と使う場合、モンスター討伐を扱うハンター『モンスターハンター』のことを指す。(彼女ももちろんモンスターハンターとしてハンターと言ったのだ)
他にも、山菜収集や魚釣りもギルドがクエストとして扱っており、こちらを専門にするハンターをモンスターハンターに対して、山菜ハンター・川釣りハンターと言うこと稀にある。(相手を見下す言い回しとして使われることが多いのだが…)


(モンスターハンターってモンハン的な意味で…そんな馬鹿な!?)

どうやら俺が考えないようにしていた馬鹿なことが、現実味を帯びてきたようで怖い。不安が大きくなった。

「俺は東京出身の矢薙リョウ。ランクは…えと、君は?」

ランクGの3と答えるか迷った。★3ってどう言えばいいか判らなかったから。

(ここは電波娘に合わせよう。ああ、本名は隠せばよかった。)

「私はスーザン=マールブルグ。所属はマールブルグ村。ランクは3。今は一時的にポット村に籍を置いてる。」

彼女は器用に棍棒を持ちながら、首に下げた二つのドッグタグらしきものを取り出し、リョウに見せた。
俺の念能力発言はスルーしたようだ。俺も彼女の名前はスルーする…スーザンにマールブルグってやっぱ怖い女だ。

「貴様もギルドカード出せ。ギルドカード交換。」


ハンター人口は多い。寒冷期のみハンターとして活動する農家もいれば、身分証代わりのギルドカードを作るために所属するものもいる。
ハンターズギルドに登録されたハンターは200万人を越えるとも言われているが、正確な人数を把握している者はいない。
ギルドの歴史はモンスターの脅威から身を守るために、付近の町村が共同で設立した自治組織がはじまりとされている。
昔から各村の自治組織は組織の垣根を越え協力して討伐に当たることが多く、横の統合が進み、自治組織の集合としてハンターズギルドという巨大な組織が誕生した。
現在、この膨大な員数を管理することは不可能であることもあり、ギルドは村や街にあるギルドの駐屯所にハンターの管理を移譲している。周辺の村々を大きな街が管理し、
その街を中央のドンドルマが管理することで、緩やかなピラミッド構造の中央集権組織、事実上の地方分権組織となっている。

話を戻すが、ハンター人口は多い。ハンターは受注クエストによって、所属する駐屯地(ホーム)から出向することもしばしばあり、活動範囲は広い。同じクエストを知らない者同士で受注することもある。以前は、ホームで発行するギルドカードの写しを大量に持ち歩き、名刺交換よろしく『ギルドカードの交換』を行っていた。最近では手間がかかるので、実際に交換することはなくなり、タグを見せ合うだけだが、いまだにこの作業をカード交換と言うことが多い。


「いや、持ってないんだ。すまん。」

スーザンはタグを元に戻して、棍棒だと思っていた木杖に体重を掛け言った。

「どうゆうことだ?貴様はハンターではないのか?」

「ハンターって名乗った覚えはないよ。」

「…そう。」

どうやらこのエボラ女は威嚇行為を謝るつもりはないらしい。

「俺からも質問してもいいかな?ここって日本?アメリカ?」

…違うらしい。

(マールブルグ村ってどこだっけ?エボラだからアフリカか?ドイツっぽい名前だけど)

互いを怪しみながらも彼女から情報収集。


この女の言うことが本当ならば、トラックに衝突して死亡または重傷のはずの俺は第二魔法体現者やら伝説の使い魔やら天の御使いやら次元漂流者やらそんな感じ。

(ああ、本当なんだろうなあ。空に飛んでいたデカイ鳥は竜だっただろうし。大きな蟲を見かけても気のせいだからって考えないようにしてたけど、サイズが明らかに異常だったし。)


つまり、助けは来ない。俺は帰れない。





(初稿:2010.12.04)





モンハン日記
12月5日 晴れ
プレイ時間 11:09
作成装備 鉄刀【神楽】 ・ アロイ防具一式

鉄刀作成。新モーション、気派大回転斬りがカッコイイ。
モンスターの外観もおもしろいですね。
ボルボロさん : 怒ると頭から湯気だすのは笑いました。
クルペコさん : 嘴が変だよ。唇?あとクマを召喚するのはもうやめて。
ロアルさん  : このバナナ、動くぞ。


メディアインストールの猫とサウンドがかわいすぎる。
「きゅっきゅっきゅっにゃあ♪」




[24667] 04
Name: ねりきち◆6ef99ad3 ID:9b1a9775
Date: 2010/12/08 00:40
久しぶりに生きている人間に会った俺は、傷や包帯だらけ満身創痍の体ながらも常に周囲の警戒を怠らない彼女――スーダン=マールブルグにいくつもの質問した。
彼女の話によると、ポット村周辺で目撃された群れランポスの討伐クエストをギルドから受注したスーザン達4名は、ポット村をベースキャンプにして辺りを捜索中に、突然モンスターに襲撃されたそうだ。
その際にメンバーの2人は死亡したそうだ。
スーダンもその戦いで重症を負った。残りの1人は村に報告に向かったらしい。
真っ先に質問した現在地についてだが、ここはアメリカ、日本、ドイツ、アフリカではないらしい。ポット村まで歩いて1日だとか言われてもわからん。

「矢薙リョウはなぜここにいた?」

「……」

「おい、聞いてるのか?」

「あのさー、その本名で呼ぶのやめてくれ。あと貴様ってのもやめれ。」

できれば、尋問でもしてるようなしゃべり方もな。

「理由を言え。それが貴様の名なのだろう。変な名前だが気にすることはない。」

「なんか肩が凝るだろ?矢薙でいいよ。」

「では、ヤナギと。」

「……(呼び捨てかよ。俺は一応年上だぞ。)ああよろしく、マールブルグさん。」

彼女とは良好な関係を築くべきだ。年下のくせに偉そうだが、村とやらに着くまでガマン、ガマン。

ひょっとしたら、違うと思うがマールブルグは殺人犯の可能性もあるのだ。慎重に行動せねば。

しゃべりながらスコップを使い、死体に土をかける。目の前では地面が不自然に盛り上がっている。隣にも同じような膨らみ。
俺が装備をパクった死体はマールブルグさんの仲間だったようだ。彼女は埋めた二人の前に太い枝を刺しドッグタグを結ぶ。短く黙祷し埋葬を終える。

状況はいまだ不明。彼女と共に最寄の村までいけば何か判るはずだ。急いだ方がいい。

ポット村まで普通に歩いても1日以上かかるとのことだ。食事だってするし寝むりもする。持っていく荷物の量もかなりの量。
怪我人と舗装された道しか歩いたことがない俺では数日かかるだろう。

簡単な食事、大豆のような木の実をいくつか食べた後はひたすら歩く。それがもはや不可能だと知るのは歩き始めて30分もかからなかった。

スーザンが倒れた。


太ももの傷が開いているのか包帯が血の色に変わっている。

俺にできることは布を重ねて羽織らせるだけ。スーザンは明け方まで目を覚まさなかった。

不思議体験2日目の夜はこうして更けていく。未だ帰還のめども立たないことを嘆くべきか。重症とはいえ地元民との遭遇を喜ぶべきか。







第四話







翌朝。

私はゆっくりと体を起こす。一晩以上休んだ体はそれでも好調とは言いがたい。熱は引いたようだが、無理をすればまた上がるだろう。

皮袋に入った残り少ない水を一口。不味い。美味い水が欲しければ怪鳥の鳴き袋を利用したものを使うしかない。私のは安物の皮製だから仕方ない。

隣では、変な服を着た男が寝ている。矢薙リョウという呼び名も嫌いらしくヤナギと呼ぶことにした男だ。

ヤナギもぐっすりと眠っていて、夜の晩をしていた様子はない。

「おい起きろ」

ユサユサと揺すると矢薙リョウ目を覚ます。

「ああ、(やっぱこれは現実なんだな。)調子はどうだ?」

そんな質問に答える気はない。体調は最悪に決まっている。

「夜の番はどうした?モンスター共に襲われたらどうするつもりなのだ。」

「えと、ごめん。」

昨日、この男はトーキョから来たとか言っていた。確かポット村よりずっと東にある村だ。

以前、トーキョ村は街のギルドでハンターを募集していた。それ自体は小さな村では良くあることだが、ファンゴ一体の討伐クエストすら街ギルドに依頼を出すほどとは珍しい。トーキョ村は周辺の村にも依頼を断られたということだろう。理由は知らない。街で見るには珍しいクエストだったので覚えていた。

私は矢薙リョウへと視線を移す。
装備はガーティとビックスのものを拝借しているだけ。服装だって戦闘を想定してないない。挙句、ハンターですらないと言う。
この年でハンター登録すらしていない男が、村の外にいるとは珍しい。所属ギルドが刻まれているギルドカードは身分証としても役立つので、村を出る際には持ち歩くことが常識だ。

警戒すべきだ。山賊の類かもしれない。私に語った名前矢薙リョウも当然偽名だろうし、少なくとも真っ当な人種ではない。

私もヤツのことを詳しくはヤナギには話していない。蒼い飛竜のことなど話しても信じてくれるとは思わない。話さない方が良いだろう。
彼等の死んでいた場所の周囲の木々や草が焦げて一部は爆発した痕を見ても、ヤナギは疑問を口にはしなかった。上手く誤魔化されたか。

不審者なのは私も一緒だ。お互い信用などない。共にいるのは必要だから。彼は道案内が、私は介護者が。
彼とは良好な関係を築くべきだ。私は死にたくない。

「足手まといの私が言うことじゃないわね。けど気をつけて。」

問い詰めることはやめよう。彼が私のために寝ずの番をする必要はないのだ。

これ以上ギスギスした雰囲気では彼が私を見捨てるかもしれない。私はまだ死にたくない。

ヤナギが荷物をすべて持ち、私はゆっくり歩きながら進む。やはりペースが遅い。村に到着する前に水と食料を補給しなくてはもたない。

「ねえ、マールブルグさん?近くに川とかないかな?もう水がなくなりそうなんだけど。」

私の考えを読んだようなタイミングで彼が言う。

私はルートの変更を指示した。







川へ向かう。

スーザン=マールブルグは俺に対して偉そうな態度を取ることを多少やめた。どうやら仲良くしましょってことだろう…表面上は。

異論はない。森、傷、死体、帯刀等々、この不可思議な事態。物騒な電波女しか俺には頼れる人間はいない。

「なあ、地球って知ってる?」

「なんだそれは?」

(学校行けよサルかお前は。)

って言いたいけど心の中にとどめる俺は偉い。しかし顔に出ていたようだ。マールブルグさんは不満顔だ。

(はいはい、判ってるって。モンスターハンターごっこだろ。)

「じゃあ、鳥竜種と飛竜種の違いって知ってる。」

俺がそう聞いたら、体験談とか王立書士隊がどうのこうのとか得意気に話し始めやがった。

ドン引きだわ。

「聞いてるのか?」

「モチロンダヨ。スゴイベンキョウニナリマス。」

ああ、めんどくさいヤツだ。

「ふふん、そうだろう。さらにおもしろいのはだな、魚竜種とは~~」

(魚竜種とか聞いてねえっつの。てかガノトトス見たこともねえのかよ。俺は百匹は狩ったぜ。)
もちろん口には出さないけどな。


チグハグな問答をする俺たちは川へ向け進む。俺はおしゃべりで不安を紛らわせ、彼女は会話を続けながらも警戒を怠らず。

お互い信用はないが上手くやっていけそうだ。





数時間後―――

俺は圧倒的な存在と出遭うことになる。





(初稿:2010.12.08)





モンハン日記
プレイ時間 12:20
作成装備 レッドウィング(を明日には作ろう)
全然プレイする暇がない。
ところで、巷で話題の「端材バグ」。
逆鱗集めを気が遠くなるほど経験するころには金なんて関係なくなるのでしょうが、ゲームバランスが売りの1つなだけに残念ですね。
まあ、いっぱい端材集めてアイルーで着せ替えして存分に愛でろということなのでしょう(笑)




[24667] 05
Name: ねりきち◆6ef99ad3 ID:9b1a9775
Date: 2010/12/15 21:54
ここはどこ?知っている場所かもしれないし。何処ともしれない場所かもしれない。







第五話







矢薙リョウは一般人だ。

地元の公立小学校に通い、多くの同級生と同じく地元の公立中学校に入学した。親にテストの点数を聞かれれば毎回「普通。」と答えるようなヤツだ。そのまま学力に見合った公立高校に問題なく合格。大学受験は流石に勉強した。勉強した理由は周りが勉強していたから。

良く言えば適応能力が高い、悪く言えば周りに影響を受けやすい子だった。
大学生になったリョウは当然のごとく友人の影響を受けまくった。中でも友人達に進められて始めたMHPにハマりにハマった。

さて、リョウは主体性のない子供と思われがちであったし、普段の優柔不断な態度からもそれは事実であるように思われた。

小学生の時である。彼はイジメられていた。
当時のリョウは一般的な子供らしく即断即決即行動が信条だった。だがその場の気分で行動するリョウは仲良しグループ内での集団行動を軽視しており、帰属意識は少なかったためリョウは煙たがられるようになる。そのことも原因の一つだろうが今となっては憶測にすぎない。結論として、リョウはハブられたのである。
当然彼は落ち込むはずだった。イジメル側も当然そんな反応を期待した。しかしリョウは違った。ただ切り捨てた。リョウは他クラスの友人達とつるむ様になり、イジメた側との交友チャンネルを切断した。話しかければ最低限の応答をアウトプットするがそれだけだ。
もちろんリョウはそんな難しいことを考えて行動したわけではないのだが。
 
彼らは暴力を行使することはなかったが、極めて奔放に過ごしてきたリョウに取って今回の事件は彼の日頃の振る舞いに大きな影響を与えた。親や友人達が思う以上にリョウは傷付いていた。
何故苛められた?どうすればよかった?誰が悪かった?もっと仲良くすればよかったのか?彼は懸命考えたが結局答えは出せなかった。
選んだ選択肢は「判断保留」。

苛められたらどう相手にどう反応を返すべきか?判断を保留。リアクションは取り敢えずしないでおこう。
結果として、この場合、態度保留は正解だった。リョウは新しい友人に囲まれ平穏が戻ってきた。

 この時以降、彼が物事を判断をするとき「保留」を選ぶようになる。それは彼に考える余裕と落ち着きを与えた。

なぜ数学を勉強しなくてはならないのか?受験で必要だからか将来使うのか。なんでかは判断保留。役立つか役立たないかは置いておいて取りあえずほどほどに勉強しておこう。
物事の正邪を保留し、必要か否かを問わない姿勢に彼は慣れていく。

MHPをやれよと友人に言われた。買うべきかやるべきかは保留…いや、面白そうだ。やってみよう。

そんな彼は滅多なことでは白か黒かを性急に判断せずに率先して保留を選びたがるようになった。
モンハンに「保留」を適用しなかったのはまたハブられることをリョウが無意識に回避しようとした結果かもしれない。

判断を保留することが大好きな矢薙リョウだが、今回の異世界転移は彼に決断を迫っている。どうあるべきか?どう行動すべきなのか?そもそもなにが起こったのか?

「未だ情報は不完全だ。判断は保留する。」
彼は平時の通りそう判断する。多少無理があっても彼の判断保留はもはや条件反射になっている。彼は判断保留――つまり、悪く言えば優柔不断であることを彼の知る限り誰よりも自発的に選択していた。

ここはどこだ?判断保留。地球かもしれないし、どことも知れない場所かもしれない。
この女は信用できる?保留。できるかもしれないしできないかもしれない。信用する必要もないかもしれない。
家に帰れる?保留。帰れるかもしれないし帰れないかもしれない。

彼は「保留」が大好きだが、何も「保留」しか選ばなかった訳ではない。
生来の性質として即断即決即実行の自由奔放さも持っている。その顕著な例がモンハンだ。
モンハンをやるまではそうではなかったが、MHPをプレイし始めてからは貪欲にプレイ時間を捻出した。MHFが開始された当時には廃人になるほどのスケジュールでプレイしていたのだから。Wiiを購入してMH3にも手を出している。やりたいからやるの精神である。

断片的な情報だけではリョウは判断できない。いや、したくない。

彼が火竜を目の前にした時、未だに昼行灯とした「保留」を選択するのだろうか。彼の中にある即断即決即行動の側面が出てくるのではないだろうか。





そう今、リョウの目には映っている。上空で羽ばたく蒼色の翼竜が一頭。

恐怖を感じながらも、彼は今までのもやもやした感覚がすっと無くなっていくように感じた。

彼は一気に判断を付けていく。と同時にすべき行動も遅滞なく選択実行する。

ここはどこ?
とりあえずモンスターハンターの世界だ!!

ヤツはなんだ?
リオレウス亜種!!

何故こんなことに?
知らんわ!!

もはや、モンハン世界かどうかというの話ではないのである。圧倒的な生命の危機である。


しかしどれだけ矢薙リョウが即断の人であろうとも、どれだけ覚醒しようとも、リオレウスは空の王とも呼ばれる「モンスター」であった。







(初稿:2010.12.08)
(初稿:2010.12.15)







ここで一旦、主人公を演出してみました。

モンハン日記
本日の戦果:ドスフロギィ1体討伐
村クエをほぼ終わらせてMHP3ネタを仕込もうと計画していたのに、全然プレイ時間が取れないです。
タイトルに偽りがアリアリですよ。
ところで、モンハンには風属性なるものがあるのですが知っていましたか。




[24667] 06
Name: ねりきち◆6ef99ad3 ID:9b1a9775
Date: 2010/12/15 22:00
遭遇戦より少し時間を巻き戻す。


リョウ達は昼すぎには問題もなく水場に到着した。

マールブルグは右手だけで器用に荷物を明けゴソゴソやっている。治療でもするのか。
昨晩彼女の持ちものを漁ったことを気付かれたのだろうか?用途不明の粉末や薬液の容器が沢山入っていた。ケータイや無線機等はなかった。

素人が手伝っても邪魔だろう。そんなことより水を飲む。美味い。頑張れば飛び越せるほど細い沢が流れている。その水を好きなだけ飲む。生き返る。
一息ついて周りを見回す。木々が生い茂っていて空が狭い。彼女と初めて会った場所はそうでもなかったがここは完全な森だ。
かなり深いところまできた。彼女は常に上空に気を配り、空から視認されないようなルートを選択していたようだった。

パンを沢の水でふやかして食べた。

彼女は皮を剥いだナマ蛇を食べていた。俺にもくれたが不味かった。

豆やパンや干し肉など携帯食料はあと7日持つように分配済みだ。分配をしたスーザンは警戒を俺に任せ軽く仮眠をとっている。

深い森に流れる穏やかな沢、少女が木の幹に背を預け静かに瞼を閉じて座っている。傍らにある剣も違和感なく、まるで一枚の絵のようだ。
絵の中に居るような俺はここが本当に現実なのかと不安になる。俺は帰れないのか?

もう少し寝かせてあげよう。年下の少女への当然の気遣いだ…当然?ただの少女だったならばな。
戦闘技術、食料の分配、進行ルートの選定、治療法、そして対空警戒。そのどれもが手馴れていた。訓練を受け、さらに経験も付与されている。
16歳程度の年齢の少女でしかないはずの彼女は普通のそれではない。顔色は悪く杖を突きながらも視線を空や周辺に向ける。
不自然な音や様子を捉えれば、とっさに杖を棄てナイフを1投、さらに腰の剣を抜剣する。折れてない右手一本で行われる一連の動作に淀みはない。すでに道中、蛇をナイフで貫いている。リョウが食べた蛇もこれである。

そして彼女は空への警戒も忘れない。
仲間を殺し、マールブルグに重症に与えた犯人を聞いたところ「アレをやったのは飛竜だ」だそうだ。彼女の道すがら話していたことを信じるならばだが。


『飛竜』――ハンターと言えど、凶悪な飛竜と遭遇する機会は滅多になく、一生に一度も飛竜を討伐しないモンスターハンターも多い。イャンクックでさえ遭遇機会は少なく飛竜の定義はあいまいだ。
通常、ハンターは『対空戦闘の有無』でモンスターを飛竜かそれ以外かを区別する。剣の届かぬ上空からの攻撃の脅威の恐ろしさを知る、ハンターらしい分類法だ。
広義の意味ではその解釈も間違いではない。

飛竜研究の権威である王立古生物書士隊では、飛竜について度々議論されてきた。広義の意味での飛竜は、鳥竜種や飛竜種の二つの種別に大別される。
鳥竜種を鳥類の竜種、飛竜種は爬虫類の竜種となる。
ここで言う竜種とは、体内に鳴き袋(火炎袋や毒袋としても使う竜種もいる)を臓器としてもつ生物のことである。
この袋の最もポピュラーな使い方は咆哮。至近でその大音量を耳にすれば、最悪で気絶、鼓膜は破れ、立つこともできなくなる。
王立古生物書士隊の連中に言わせれば、飛竜の定義は何時間かかっても語りつくせないとか。
鎖骨、羽毛、鳥類と爬虫類の違いから始まり、袋、恐竜、進化論、彼らの専攻である古竜の存在、などと1時間どころか1日中かかってもまるで足りない。
先に述べた定説もあくまで有力な仮説にすぎず、日々終わりない議論が書士隊では展開されている。

「さて、君の目の前のから揚げはナンだと思う。ドラゴンのから揚げ?恐竜のから揚げ?空飛ぶ爬虫類のご先祖様かな?それともモグラのから揚げかい?」
これは、書士隊の人間が良く使うジョークである。フライフィッシュとフライドラゴなど多くのバージョンがある。
砂竜と魚竜種についての議論もまた飛竜以上に熱いのだが、キリがないので割愛する。







第六話







「疲れた。」

仰向けに横になり空を眺める。いま空には、マールブルグが警戒していた相手はいないようだ。

しばらく木々の隙間から空を眺める。以前いた東京の空を探す。太陽が一つ、雲がゆっくり流れてゆく。今は見えない星も夜には良く見える。
探しても21世紀の人工物の痕跡は目に映らない。ひたすらに大自然。

ここはどこだろう?ギルドがあってハンターがモンスターと戦う。あの少女が言っていることはまるでファンタジーだ。モンハンだ。

それでも全部彼女の妄想ですでは、説明できないことが多すぎる。二人死んでいる事実も覆らない。

ポケットの中のPSPの感触だけが俺を安心させる。電池のゲージがさらに減っていまは1つしかない。おいそれと電源をつけるわけにもいかない。

ふと、見ると彼女が涙を流していた。閉じた右瞼から糸筋。彼女は木の幹に寄りかかり眠ったままだ。悲しい夢でも見ているのだろうか。

眠っていれば、かわいい女の子なのにと思う。

とたんに、不審者スーザン=マールブルグが普通の少女に見えた。よくない兆候だ。ただ女の子が本当の名前を名乗っているのかが知りたくなった。


「…ッ!!」
彼女が飛び起きる。目が開く。マールブルグと俺の目が合った。頬には涙の後。そんなに驚く夢なのか。

瞬間、目を顔を逸らされた。逸らした顔が少し赤い。怪我の熱のせいだけではないだろう。

(ラブコメしてる場合ではないんだがなあ。)


それに気がつくことができたのは幸運だった。仰向けに寝転がった俺はスーザンに顔を向けながら、自然と空をも視界に入れていた。

滑空してくる鳥?。それは見る間に大きくなる。体を起こす。視線をマールブルグに向ける…気がついていない!

「スーザンッ!」

叫ぶと同時に駆け出す。彼女もすぐ正気になり立ち上がったが、動きが鈍い。舌打ち一つ。

見る間に近づいてくる。助けに行く余裕はない。迷わず唯一のくぼ地、沢に飛び込む。
息を止める。ただただ怖い。

水に入っても膝下までしか浸からない川とも呼べない浅い沢だが、それでも敵の初撃をやり越すことができた。損傷は滑り込みのスリ傷のみ。

顔を上げる。スーザンが寄りかかっていた木が爆発して炎上してる。さらにその隣の木は真っ二つだ。

一瞬で、雄大な自然は地獄へと様変わりした。そこかしこで火が付いた草木が燃えている。

青い翼竜が上空でボバリング。時折口からは溜息のように火が飛び出ている。激しく翼が上下し、突風が巻き起こる。風の力で炎が次々と燃える対象を移していく。

圧倒的な姿に恐怖を感じながらも、リョウは今までのもやもやした感覚がすっと無くなっていくように感じた。

モンハンならば青い飛竜は青クックとか蒼レウスとかだが姿はリオレウス。

逃げなくては、と思った。すぐに、どうやってと、考える。

「手伝え!逃げるぞ!」

マールブルグだ。彼女も沢に飛び込んだようだ。前髪が水を吸っているのか、顔にかかり煩わしそうに髪をかきあげる。彼女も無事だったようだ。

火の中を進む。全身ずぶ濡れの俺は多少の動き辛くても、彼女の隠れている木の陰に向かって進む。

「どうする?」
「けむり玉だ。全部使う。私たちの姿が隠れている間に逃げるぞ!」

皮製のズタ袋の中に箱がある。彼女はそこから白い印のついた楕円状の容器をいくつも出していく。小石で補強した出来の悪い泥団子のようだ。
彼女は突然の状況にも自分の荷物もしっかり守ったようだ。俺のは剣も含めどこにあるか判らない。


「レウスは既に俺たちを『発見』している。それにこの強風だ。できるのか?」
「リオレウスだと!?(本当か…いや私は飛竜を討伐したことがないが。)しかしやるしかない!」
「けむり玉じゃ無理だ!他にはないのか?音爆弾は?閃光玉はどうだ?光蟲は?」

ケムリは期待できない。俺にはけむり玉はただの視界を塞いで遊ぶだけのネタアイテムの印象が強すぎた。

「光蟲から取ったエキスがあるけど時間が足りない。」
「俺が時間を稼ぐ。一応けむり玉を貸せ。投げればいいのか?」

リョウは3つのソフトボール大の玉、けむり玉を受け取る。

「一回ヒビを入れてからの方がいいけど、地面に叩きつければ大丈夫…1分間おねがい。」
「了解した。完成したら蒼レウスの眼前で弾けさせろ。それで墜落すると思う。あるなら音爆弾も同時にな。」

それだけ言うと、リョウはけむり玉を持って駆ける。そしてすぐに足元に投げる。


走りながらも改めて観察する。やはり蒼レウスか?翼には一部穴が開き、尻尾は斬り飛ばされ、体も脚も傷だらけ、頭は一番酷い。白いのは骨が見えているのかもしれない。出血は止まっているようだが、間違いなく重傷。
あの青い飛竜を剣や弓で瀕死に追い込んだスーザン達は優秀なハンターなのだろう。

レウスが巻き起こす風はむしろ俺たちに有利に働いた。風に運ばれ煙が攪拌する。

安堵は一瞬だった。

レウスは飛び出したリョウに向け火炎弾を発射。吹き荒れる風と炎の上昇気流で上へと昇ってゆく煙にレウスは俺の姿を見失ったのか、火炎弾は外れた。
熱風が俺に叩きつけられる。炎を吸って死んだ人間を見てなければ、リョウも彼と同じ結末になっていたはずだ。呼吸を止めて爆風に身を任せ、身を投げ出した。

肘と手のひらに擦過傷を作ったが走れる。爆風で煙は早くも晴れはじめているので、2つ目を地面に叩きつける。再度、沢に飛び込んだ。直後に爆音。

すぐ傍に3発目の火炎弾が着弾。ゲームMH2Gの内容通りなら空中ブレス3発で着地のはず。
レウスは駄目押しの4発目を発射しようとしているのを横目で確認した。

予想はしていた。最後のケムリ玉を叩きつける―――不発!

「クソッ!」

水を吸ったのが悪かったのか煙が僅かしか出てこない。レウスと目が合った以上、此方の位置は気付かれている。



レウスは体内の火炎袋(業炎袋)に空気を取り込み圧縮。火を付けると爆発し、生成した可燃弾に着火し射出。まっすぐ狙った獲物に突き進む。

(無理だ。避けきれない。)

俺は高速で接近する火炎弾を見つめた――――直撃!

(熱い熱い熱い痛い痛い痛い熱い痛いアツイイタイイタイイタイイタイ)
喉は焼け皮膚も焼け転げまわる。そして間もなく動かなくなった。

矢薙リョウは力尽きた。







煙は手元を隠すまでには至っていない。私はテキパキと作業を進める。光蟲のエキスと薬液を玉に入れる。

このとき玉には空気が入らないようにしなければ上手く光が生まれない。混ぜ合わせたエキスと薬液は玉の中で交わる。
辺りで爆発が続く。彼は独りで逃げるのかとも少し思ったが、どうやら本当に時間稼ぎをしているようだ。

音爆弾はクックの鳴き袋を使用するため高価だ。私には手が出せない。音爆弾には劣るが爆薬を少し詰めておく。

片手での作業に予想以上に手間取る。

「…よし、完成!」

1分以上掛かってしまった。完成したと同時に、4発目の火炎弾が降り注いだ。

ヤナギは無事だろうか。陰から飛竜を伺う。どうやら私たちを見失っているようだ。5発目はない。

私と彼が見つかるのも時間の問題だ。痛む体に鞭を打ちを起き上がる。飛竜が此方に頭を向けるが大丈夫間に合う。

私は手の中で素材玉を少し潰し、思いっきり投げる。

「目を瞑れっ!」
どこかにいるだろう彼に聴こえるように叫ぶ。

即座に反転、全力で離脱する。体が軋むが耐えるしかない。目を瞑る。背後で破裂音が聴こえた。
飛竜の墜落した音がした。ヤナギが言ったことは真実だったようだ。

(…彼は何者だろう。アオレウスとは何?)

再び傷が開いた足を庇いつつ全力で逃げながらも考えることは彼のこと。

そして私は、彼はアオレウスではなく蒼レウスと言ったのだと気付く。赤以外のリオレウスの存在は聞いたことがない。


未知の飛竜に対する知識、適切な戦術オプションの選択、どれも並みのハンターに成せることではない。
彼は狩りに生きる者には見えない。ハンターではないだろう。書士隊が持つアノ独特の雰囲気とも違う。

飛竜発見までは偶然かもしれない。発見後の判断・行動は適切すぎた…ハンターである私よりも。

飛竜発見が遅れれば、私は死んでいた。
彼が水に身を伏せる所を見ていなければ、私は死んでいた。
彼がけむり玉での撤退を否定しなければ、私は死んでいた。
彼が閃光玉を使うことを指示しなければ、私は死んでいた。

彼のことを考えながらも彼の身の安否には気を割いていなかった。
私は自分が助かったことに安堵し、絶対絶命を切り抜く彼への賞賛とでそこまで気が回らなかった。
私が逃げ切れたのだから、彼が逃げ遅れたとは考えもしなかった…彼はハンターではないと思っているにも関わらずに。


彼が火炎弾の直撃を受けて死亡したことなど知らずに私は逃げ続けた。







(初稿:2010.12.09)
(誤字修正:2010.12.15)





モンハン日記
未だ村☆4の作者です。
カタラクトソードを振り回す日々。しかしこの大剣すごくダサいです。
あと下級武器防具を強化するべきか激しく迷みます。




[24667] 07
Name: ねりきち◆6ef99ad3 ID:9b1a9775
Date: 2010/12/12 02:57
けむり玉の不発は俺の死を意味していた。

混乱することなく、次の行動に移すことができたのは僥倖だ。だがそこまでだった。

完全にレウスに補足された俺は回避動作の先に炎弾を叩き込まれた。弾速・タイミング・威力どれもが必殺。

「ッ!」

声にならない悲鳴を上げて、とっさに両手で顔を守る。直撃。

俺は地面にうつ伏せに倒れていた。熱い、痛い。前後の状況から直撃を受けたことを理解する。

体が燃えている。呼吸ができない。涙が出てきた。熱い。痛い。

体を動かすことができない。耳もやられた。

「くる…じい…」

苦しい。つらい。だが頭は多少冷静だった。混乱しつつも、動かない体を分析する。呼吸ができないのはなぜだ。

痛さで混乱しつつも一番最初に考えたことはどうやって助かるか。瞬間には不可能と判断。マールブルグへ救援を求めることも無駄だ。死んだら東京に帰れるだろうか。

もうすぐ死ぬ。何かできることはないか。考えることしかできない。既に生還することは諦めた。無駄な期待も行動もしない。

激しい苦痛と恐怖で涙を流しながらも、思考のみ続く。

マールブルグも逃げ切れまい。次にレウスに遭遇したらマールブルグは生き残れないだろう。

蒼レウスが俺たちを発見できた理由が判った。
彼女の流している血を吸った包帯と服だ。竜だろうと肥やし玉1つで広いエリアから完全に追い出されるのだ。嗅覚だって優れているはずだ。彼女の血の臭いを嗅ぎ付けられた。
でなければ、草木に隠れた俺たちを発見できただろうか。

強烈な光が瞳を焼く。閃光玉か?

何も見えない…これが死か。トラックに轢かれた時と似ている。くだらない人生だったな。父さん母さん、ごめんなさい。







第七話







何も感じなくなった途端に、体が軽くなった。直立していた俺は、尻餅をつく。

「…おいおい、今度はなんだあ?ははは」

傷はない。服には焦げた後が目立つ。ボロボロだ。けれど無傷。笑うしかない。

死んでも東京に帰る訳ではないらしい。いや東京の俺は死んだのだ。二回目の死を感じたから判る。アレが死なのだろう。

東京ではトラックに轢かれた時に、森では蒼レウスに殺された。次はどこだろうか。

木々が生い茂る傾斜ゆるやかな山中。ここ数日歩き回った光景そのままだ。

トンデモ体験を立て続けに経験しながらも、冷静な思考。いつも淡白だった俺だが、死の危険の只中でさえも取り乱すこともなかったのには少し感心する。

俺の家族ならば「ああ、やっぱりね」と言うのだろうか?俺からすれば、取り乱し、過度に感情的な人間の方が不思議だ。

喜怒哀楽を表現することが苦手であった性格は、緊急時には重宝するものらしい。

温い人生を歩んでいる時にあまり必要のないスキルは、今の俺の唯一の武器だ。先の一戦でそれを認識できた。

今もそしてこれからも考えることは幾らでもある。

ポケットから出てきたPSP、ここ数日ですっかりボロボロになってしまった。溶けた後もある。

電地メータはゼロ。辛うじて電源が入った。スリープから復帰させる。

知りたいことがあった。瀕死の蒼レウスの正体。二回死んでいるにも関わらず俺が何事もないのはなぜか?

クエスト進行状況を見る。報酬金額がさらに三分の一減っている。残り三分の一。覚えのないゲーム内の2死目。

討伐対象はG級蒼レウスが1頭。頭部、翼、尻尾は部位破壊済みで、さらに瀕死だったはず。

プレイヤーとキャラクターが同時に死亡した1死目。これが現在の状況へのなんらかの原因になったのだろうか?オカルトの分野だ。検証方法も保留。

非科学的だが、ホントに異世界らしいし。

突然の状況から三日目になって、やっと俺は認めることができた。

「あぁ、そゆことなんだろうな。」

上を見ても天井などない。ただ青空が広がっている。この三日間見上げ続けた空だ。

いつもと同じようだが、飛行機1機も目に付かず、代わりにドラゴンが飛ぶ空は確かに俺の知らない空だった。







ちょうどその頃。

木組みの家々が並び畑が広がるポット村。温暖期は冷たく寒冷期でも凍らない豊富な湧き水を自慢とする小さく長閑な村だ。クワを振る農民と猫?もいる。
皆素朴で大らかな人柄にみえる。

その日もポット村ではゆったりとした時間が流れていた。

しかし、この村のハンターズギルド出張所に、傷付いたハンターが駆け込んでくることで平穏が終わりを迎える。

彼の名前はキール。ボロボロの身なりを整えればヒゲの似合う美青年と呼べただろう。
彼は危険を伝えるために怪我に耐えて全速で駆けつけた。


(さては、群れランポスを相手に逃げ帰って来たのではないか?)
ギルドで働く者達は考えた。別に馬鹿にしている訳ではない。

これは何も珍しいことではない。竜種では弱い部類であるランポスとは言え、たった4名ではランポスが何十頭といれば勝ち目はない。
撤退することを恥じる必要はない。

敵戦力に対応できる人員と装備を整え、火力と人数で押し切ればいいだけの話だ。たった独りでモンスター相手に立ち回る者こそを馬鹿にすべきなのである。

「キールさん、そんなに慌てて何事ですか?」
村の小さな出張所のギルド長でもあるポット村の村長が騒ぎを聞きつけて現れた。

「報告します。群れランポス捜索中に飛竜に襲われました。2名が死亡。1名が重傷です。すぐに警戒態勢を取るべきです。」

「飛竜?発見報告がされておったイャンクックかのう。」
ギルド長は落ち着いている。ハンターが死ぬことなど日常茶飯事であるため驚嘆することではない。周りもそうだ。

それより飛竜の方が問題となる。

「クックとはまったく違います。クックよりかなり大きな見たこともない蒼い飛竜でした。」

キールは飛竜の火炎弾の恐ろしさ、尻尾を失うなど負傷していたことなどを詳しく説明した。怒りで人を襲っていることも伝えた。

「怒り人を襲う飛竜とは危険すぎますのう。火竜のリオレウスやリオレイアのような気がしますが色が違いますのう。」

地方よって生息するモンスターの種類はガラリと変わる。今回は遠くから飛んできたのかもしれないと村長は考えた。

しばし考え村長は決定を下す。

「狼煙を上げて周辺の村にも飛竜発見を伝えなさい。リーベェル駐屯地に伝令を出しなさい。」
今までののんびりした村長はギルド長としてハキハキと命令を出す。

「伝令は何を。」
「最低でもリオレウス級の正体不明の化け物を発見。損害3。緊急討伐クエストを出し、腕っこきをありったけ送れとな。」


ポット村は戦闘態勢を取り始める。

畑を耕す農民が腰に剣を刺し、赤子を抱いた若い母親が槍を背負う。
杖を突いていた老婆がタルやボールに薬等を入れる。
布団が干してあった屋根の上ではボーガンやら軽バリスタを若い娘が組み立て始める。
高台の上には弓を持った父親がまだ若い息子にボーガンの点検をさせている。そこへ子供達が鞄一杯の弾やら矢を持っていく。

長閑な村の素朴な村人に見えた彼らは皆ハンターだ。

辺境の村では日々モンスターの脅威にさらされている。一歩村を出れば、いつ命を落としてもおかしくない。
彼らは地球の忍びの里の民もびっくりの戦闘集団である。辺境の村々は対モンスター戦線の前線基地と同義なのだ。

「村の保有戦力ならば先に発見報告を受けていた怪鳥イャンクック程度、容易く殲滅できる。瀕死の飛竜一匹、追い返す程度ならば容易い。」
イャンクックを討伐したこともないベテランハンター達はしたり顔で言い合う。

村長達一部の怪鳥討伐経験者は素直に賛成できないが士気を下げる必要もないので黙っている。
村民一同、リオリウスを討伐どころか遭遇さえしたことがない。初見の敵ほど危険なものはいない。


ところで、この程度の戦力はこの世界の常識であり当然スーザンもキールも知っている。
あの一瞬の戦闘で二人は飛竜を脅威に感じた。そこまでは同じだった。

村がとるべき飛竜への対応策は?
キールは戦闘態勢を。スーザンは即時撤退を。

この場合どちらが正しいのだろうか。


しかし、戦闘態勢を整えつつある今それを言っても仕方がない。
狼煙を見て村外に出ていたハンター達が続々と戻ってきた。


戻ってきたハンター達の中にも蒼火竜なるモンスターの存在を知る者はいなかった。

「オイ、その火竜は光らねぇのか?」
帰還したハンターの中で一人が声を発した。

「火竜は光ったりしないでしょう。」
「そうか…まあいい。オレは火竜の偵察に出るぜ。ついでに瀕死の女の捜索ためにもな。」
彼の名前はガッツバルト。群れランポスの索敵を担当していた一人だ。

ギルド長とキールは危険を理由に反対したが、人命救助となると強く言えない。
この偵察小隊長のわがままによってクエストが成立してしまった。

臨時に組まれた捜索小隊は狼煙を見て帰還したもう一つの群れランポス捜索パーティである。

小隊長はもちろんガッツバルト。通称、ガッツ。
鷹の団と呼ばれる精鋭揃いの猟団に所属していた過去を持つ隻腕の大剣使い。ガンランスを改造した義手型竜撃砲を持つ。

キールは最後まで反対した。
(ヤツに遭遇すれば死ぬことはほぼ決定している。むざむざ死にに行くようなものだ。)


翌朝。

「ちょっと様子見がてら行ってくるだけだ。それよりホントにその火竜は光らねえんだな?」
「火竜は光ったりしません。それに危険です。街から援軍が来るまで守りに徹するべきです。」

「何度も言わせんな!そこを退けェ!オレはその火竜に用があるんだ!」

偵察小隊が村を出発する。


クエスト内容:仮称蒼火竜に対する威力偵察及びスーザンの救出。







(初稿:2010.12.12)







モンハン日記
ジンオウガ討伐。回復薬Gを現地調合してギリギリ。
強い。
そして楽しいスタッフロールでした。




[24667] 08
Name: ねりきち◆6ef99ad3 ID:9b1a9775
Date: 2010/12/15 22:04
ようこそ異世界へ、ってか?

ここはモンハン世界に似た世界観を持つようだが、遭遇したマールブルグの話だけでは判断を付けることは危険だ。もしかしたら、彼女達とレウス以外はモンハンとは関係ないのかもしれない。

けれども、モンハン世界だと思えば周りの見え方も変わってくる。

例えば、目の前の蟲。形が変だ。ヤケに丸くて変な匂いを出してやがる。カクバッタか?

マールブルグに聞ければいいのだが、行動を共にしてきた重傷の少女は、別行動中だ。彼女への殺人容疑は外していいだろう。

当初の予定通り、最寄りの村を目指すことがベター。そのためにも合流せねば。

足を進めつつも思考は続く。

ベストは日本に帰ること。これは、あまり期待できない。三死、蒼レウス討伐のどちらかが条件かもしれないが、どちらにしても実行難易度は高い。
仮説の検証のために死ぬつもりはないし、蒼レウスを討つには火力不足。

三死すれば今度こそそのまま死体になるような気がする。
討伐した際には、どこかポッケ村に相当する場所に転送されるかもしれないし、東京への帰還もあり得る。
今の俺が所属しているギルド出張所はあるのだろうか。死ねば戻れるのか。
考えればキリがない。

「遠いなぁ。」
木々の切れ間から、遠くに煙が上がっていることが確認できる。今日中に到着はまず無理だ。

食料もない。水もない。現状のままでは餓死して三死目を体験するかもしれない。

日が沈む頃に、適当な場所に横たわる。

靴を脱げば足にできた血マメから出血。口に何も入れずに半日。一日中PSPで遊んでいる時とは、比べ物にならない疲労を心身に蓄積した。寝よう。

狼や熊は火竜に怯えて巣穴で震えていることだろうと楽観的に思い込まなければ、今晩はとてもじゃないが眠れない状況だ。

(恐怖体験は今日で打ち止めにしてくれ。)

三日目の夜はこうして過ぎていった。幸いにも、深夜に焼けただれた自分の死体を発見する悪夢に飛び起きた以外には異常もなかった。







第八話







翌朝。異世界4日目。(村では偵察隊が出発)


「み、みず…。」
日が昇るとただジッとしていても汗ばむほど熱く喉が渇く。森と丘より密林に近いのかもしれない。冬の東京とは気候が違いすぎる。
燃えたり焦げたりとボロボロの長袖Tシャツは、脱いでしまった。ボロキレとなった服を肩に引っ掛ける。

山火事にはならなかったのか煙が見えない。焦げた臭いがするから近いはずだ。
高校まで水泳をやっていて自信があった体力も、大学受験からはインドア派に転向した現在、衰えを感じる。

腹は減ったし、頭は痛いし、意識が朦朧としてきた。俺は不幸だ。

ノロノロと移動。沢はどこだろう。地形に見覚えがあるから、もう少し下ったところだろうか?



結論から言うと襲撃跡に捨てた食料を回収し、餓死という危機は当面去った。

食事を摂ると疲労が一気になくなった。


「ふぅ。」
今俺は真っ裸で水に浸かっている。

意味もなくバシャバシャと水を飛ばして遊ぶ俺は珍しくテンション上昇中。

(全く需要もない描写だろうとは思うが、これを逃すと矢薙の身体情報を記述する機会が永遠に失われそうだから、読者諸君は我慢してくれ。)


矢薙リョウ。都内の某大学に通う学生だ。彼は池のような場所にプカプカと仰向けで浮いている。

夏休みにはプール監視員のバイトをしていた彼はオフシーズンの今でも日焼けの後が消えていない。
だがコチラの世界では日焼けは常識だ。狩猟採集民族ばかりの場所ではモヤシカラーであることの方が問題となる。どこの牢屋から抜け出してきたのかと思われるだろう。
監視員をしようと思うだけあって肥満体系からは程遠いが、逆に神経質そうな細身。背丈は、スーザンよりも10cm以上高く、175cm前後。
水の上でプカプカと浮かぶ体に傷はない。焼かれた傷もなく、綺麗な肌をした手足を晒している。
連日のサバイバルで少しやつれていて、下がった目尻はさらに落ちている。
凡庸な容姿、裸で水に浮き、口を半開きにしている姿は酷く間抜けだ。
髭は元から薄いけれど、四日も剃ってないとさすがに延びてきて気になるところ。

講義とバイト、それ以外はネットにゲーム、漫画にアニメにラノベとで暇を潰しているだけの怠惰の毎日。独りでいる時間は思考遊びに耽ることが多い彼は、内向的な性格だ。
そんな独りを好む彼でも大学のモンハンプレイヤーとグダグダとしている時間は多かった。プレイ時間が700時間を越えたころ、やることも少なくなってきていて、最小最大金冠を求めた。それも終わったころにはMHFを始めた。

事故の日、MHP3発売前に前作を復習していた。早めに大学に行って、一狩りするつもりだった彼が、後1時間遅く家を出ていれば今もまったりと過ごしていたはずだ。



裸の身を起こし、Tシャツだったボロ布で水気を拭き取りトランクスとジーパンを身に着ける。

これからの行動方針は決定済みだ。待機、これのみ。

火竜に襲われ投げ出した食料を含む装備も回収した。
マールブルグと合流するにしても位置がわからない。彼女が生きていれば現れるだろう。介護者なしで村まで辿り着けまい。それまで精々体力温存に努めよう。

蒼レウスも多少は痛い目に会ったはずだ。痛んだ体を癒すために巣に帰って欲しいものだ。

巣?俺はヤツがPSPで討伐中のG級リオリウスと同じ可能性を感じていた。はなはだ、科学的ではないが。
マールブルグ達が優秀でもヤツほどの火竜相手にランポス戦を想定した装備で瀕死まで追い込むことは不可能だ。


…ん?誰か来た。

「やあ、無事で良かった。お互いにね。」
「…ヤナギ、死体が見つからなかったから生きているとは思っていたが心配したぞ。」

タイミングが良すぎる登場の仕方だな、スーザンよ。覗きでもしていたか?出てくるのが服を着替えた瞬間すぎるだろうに。

未だに包帯だらけ、具合が悪そうな彼女。
さっさと村へのルートを聞き出し彼女とは別行動を取ろう。彼女の血に反応して火竜は襲ってくるという仮説がある以上、見捨てるべきだ。

「ヤツはあれからどこへ?マールブルグさん達があのレウスを瀕死にしたのか?」

「いや、私たちは一瞬で二名を失ったし、私も離脱することが精一杯だった。」
その時点で蒼レウスは瀕死だった。そう零す表情には悔恨も恐怖も見えない。レウスは墜落した時、翼を傷めたのかフラフラと南へと飛んでいったらしい。

「私からも聞きたいことがある。蒼レウスとは一体なんだ?ヤツに心当たりがあるのか?」

この女はハンターとか言っていたくせに蒼レウスも知らんのか?いや、HR3とか名乗っていたし、それはない。レウスに遭遇することは稀なのか?

蒼レウス―――リオレウス亜種の通称。原種は赤いが、亜種は青い甲殻をしていることから、蒼レウスと呼ぶ。
モンスターハンターではメジャーでな飛竜であり、全火竜種の中で最も飛竜らしい飛竜の1つだ。雌火竜リオレイアとは対を成す火竜リオレウス。
亜種は硬く、切れ味が高くないと弾かれる等、攻略難易度が高い。
基本的には普通のリオレウスと同じく、ブレス、尻尾回転、突進、噛み付き等の攻撃手段を持つ。足の爪には猛毒。
中でも空中からの爪攻撃の攻撃力は脅威。空中に飛ぶことが多く、閃光玉で地面に叩き落して戦わなくては辛い相手だ。

ヤツはMHP2Gから現れたのだろうか。一瞬PSPを壊せばどうなるか?と考える。

「…あとは頭部への攻撃が弱点だな。こんなところか?」

「やけに詳しいな。そんなリオレウスがいるとは聴いたことがないぞ。」
訝しげな表情のスーザンが言う。

「俺も噂を聴いたことがあるだけだ。レウスとの戦闘経験は?」
「今回が初めてだ。HR3と言っただろう。私はクックを狩ったこともない。」

よくそれでハンターを名乗れるものだ…それともこれが普通なのか?

「HR(ハンターランク)とはなんだ?俺はギルドにも属してないんだ。説明してくれないか。」
「…めずらしい奴だな。」
スーザンは疑問が顔にでていたが説明してくれた。


ハンターランク(HR)――ハンターズギルドはハンターの能力・実績に応じてランクを認定している。
危険の伴うクエストは低ランク者の受注が禁止され、逆にギルドマスターから高ランカーへ名指しで緊急クエストを斡旋することもある。
ハンターの安全を配慮したランク制狩猟制限はギルド規則であると同時に、ハンターにとっては大切なステータスである。

数十年ほど前までは地方毎にランク認定が異なっており、ホームが異なるハンター間の連携に問題があった。ある自称皇族にHR150を認定した事件は今でも有名。
(その皇族はランポスすら見たことがなかった。)

改正ギルド法が施行され、国際的にもギルドが国家からの独立を認知されて久しい今、ランクはギルドが定めた駐屯地(大規模=駐屯地。例:リーベェル駐屯地)でなければ認定できない。村など小規模な場所には出張所が置かれる。
現在のハンターランク制度では最高ランクは9、最低は1。さらに、ランク認定を受けてないギルド登録者「ランク外」を合わせ、10段階。HR150などは昔の話となった。

ランク1~3は1年毎に昇段する。1年間でHR1、三年間でHR3。その年に数度のクエスト受注を行い、活動を行っていると認められれば、ホームの推薦状を得る。あとは推薦状とハンターカードの写しを近くの駐屯地に提出するだけでよい。
HR4以上への昇段は難しくなっていく。各種武装の使用に熟達し、調合、採集、採掘、運搬に精通していることが最低条件。これは年一回駐屯地で実地される演習・筆記試験を受験する。
識字率100%の日本と違い、辺境のハンターには筆記試験が意外と難問である場合が多い。
さらにはイャンクック討伐、もしくは、同難易度のクエスト達成が条件に盛り込まれている。クエスト達成が筆記試験の受験資格となる。
怪鳥討伐は有力猟団へ緊急クエストとして斡旋されることが多く、低クラスのハンターが受注するには猟団に籍を置かなければ、HR4は難しい。
クックを野良ハントするリスクを犯す者はおらず実質不可能と言ってもいい。
HR5以降の段位を持つ者はほんの一握り。HR9は引退後その功績を認められた名誉クラスであり、現役中に認定されることはほぼ皆無である。


「…つまり、ハンター暦3年、クック未討伐のマールブルグさんはHR3であると?」
「そうだ。文句でもあるのか。」

いやはやクック討伐未経験とは…よく最初の奇襲で4人中2人も生き残れたものだ。

「いや、君が無事で良かったと思っただけ。で今どこら辺まで進んだか教えてくれないか。」
「…」
「どうした?」

体調が悪そうだし、疲れたのだろう。悪いが俺が村までのルートを把握するまで休ませる気はない。その後は勝手にしてくれ。

「ヤナギは本当にギルド所属ではないのか?」
「違う。」
疑っているような様子がありありとみえた。

その後も会話を続け、彼女から話で大体の現在位置と村の関係は把握できた。


既に夕方、村へ向けて移動するのは明け方になる。

疲れたのか、彼女は草とツルで擬装して木の下で眠っている。

「マーブルグさん?」
起きる気配はない。


(一応離れて寝よう。血の匂いに誘われてくるかもしれないし。)







偵察隊の話。


「これってランポスの群れが通ったあとじゃないッスか?」
ハンターの一人が食い散らかされた草食動物とランポスのフンを見つけた。

小隊長ガッツバルトは追跡を指示。

キールがスーザンと別れた位置とは別方向である。
疑問に思ったハンターがその事を尋ねると、ガッツバルトは無感動に吐き捨てた。

「その女はとっくに死体になって獣の腹の中さ。生きてたとして怪我人抱えて戦えってぇのか。」
誰も助けちゃくれねェよ。自分の事も満足に出来ねぇヤツは死ぬだけだ。







(初稿:2010.12.13)
(誤字修正:2010.12.15)






モンハン日記
レッドウィング完成。
大剣はやはり良い。攻撃を喰らわせている感が良いです。どかばきぐしゃーっ!
しかし、レウスにもジンオウにも毎回殺されます。アロイ防具(防御41)ではそろそろ厳しいかも。一新すべきかなあ。




[24667] 09
Name: ねりきち◆6ef99ad3 ID:9b1a9775
Date: 2010/12/15 23:09


夜中に彼女を起こし、夜の番を代わる。
火を起こしては飛竜に夜襲を受ける可能性があるかもしれないので、真っ暗。空から視認されないように擬装したので、月明かりは手元も照らしてはくれない。


異世界五日目。

明け方、彼女に起こされた。夜には判らなかったが顔色が悪い。携帯食料と野宿では治るものも治らんだろう。

静かに朝食をとっていると彼女が問いかける。その声には深刻な色が見て取れた。

「頼みがある。」
「遺言があるなら言ってみろ。」

俺は即答した。予想していた。彼女の体調は彼女が一番判っているはずだ。

「違う!…しかし遺言かもしれないな。」
マールブルグが顔は上げた。諦めたような半笑い。

「死ぬならヤツと戦って死にたい。手伝えとは言わない。どうすればいいか教えてくれ。」
すぐに表情を引き締めた彼女は瀕死だが結構カッコイイ。


マールブルグが蒼レウスに少しでもダメージを与えれば、村が攻められる可能性が減る。俺の生存率も上がるだろう。
俺は作戦を立てることに同意した。もちろん俺は逃げる。


対飛竜戦には幾つかのセオリーがあるとマールブルグは言った。
まず一つ目は、生肉と落とし穴。巨大な穴を掘り、生肉等で誘き寄せる。罠にかかれば、後は袋叩きにすればいい。
このとき、資金があればタル爆弾で爆殺することが望ましい。部隊に損耗もなく、無傷で作戦を完了できる戦術として最もポピュラーだ。

次に、穴を掘る労働力がない場合、二つ目の戦術をとる。弓とボーガンで武装し攻撃。落ちてきた飛竜を剣士も参加してやっぱり袋叩き。
防具で固め、高い火力で突撃する。この戦術には、攻撃を防ぐだけの防御力と地上に叩き落せるだけの瞬間火力が必要になる。資金力も求められる。

空を飛ばない飛竜には、三つ目の戦術が有効だ。気球に乗って、上空から矢を雨のように降らし、ボーガンで爆撃する。風に影響されるが安全に対象を破壊できる。

味方戦力に自信がある場合、飛竜の巣で待ち伏せる四つ目の戦術。
飛竜の巣は、待ち伏せやトラップを仕掛け易いが、この戦術は選択され難い。なぜなら、奴らは巣が攻められた場合、怒り狂い飛竜はさらに恐ろしい存在となるのだから。
撤退は許されない。ヤツらは二度と攻めてこないように皆殺しにするまで攻撃を緩めない。
凄腕ハンター集団だけが飛竜のこの習性を利用できる。

また、剣一本で立ち向かい飛竜を打倒する物語は数多あるが、現実的ではないことは明らかだ。


「でマールブルグさんはどうしたいの?」
長々と説明しておきながら、セオリー通りの戦術は取りようがないらしい。

「聞いているのは私だ。ヤナギが立てた戦術で私たちは生き残った。他にないのか?」
「ふむ…」

俺は即席で考えた戦術を述べる。







第九話







彼女と別れてから30分経った。彼女が足止めしてくれればいいが、果たしてどうなるか。

まあどうでもいい。
左手に持つ、簡易地図には彼女が書き込んだ線や図が追加されている。地図を凝視する。

「迷った。」

いや、地図が間違っている。いやな予感がして引き返す。


別に気配を消せるわけでもない俺の接近はマールブルグも気がついているはずだ。彼女はこちらを見向きもせず、作業をつづけている。

「おい、地図が間違っているぞ。」

「…」

シカトを続ける彼女の髪を掴み、こちらを向かせる。見上げる彼女は笑みを浮かべる。悪戯が成功したような表情でこうほざいた。

「ふふ、おかえり。」

「…おい、説明しろ」

「一緒に戦ってよ。ヤナギは、それでもハンターか?」

「断る。俺はハンターではない。」

「はいはい。ヤナギはハンターじゃないよね。知ってるよ。」
馬鹿にしたようにひらひらと手を振る彼女はどう見てもいつものマールブルグではない。

俺はハンターではないと前にも言ったはずだ。

「村へのルートを教えろ。」
「嫌だと言ったらどうするの?」
やけに挑戦的だ。彼女は一体どうしたいんだ?

そっちがそのつまりならば考えがある。

頬を叩いた。がすっ!
「ッ!」

「まず、指の爪を剥ぐ。手が終われば、次は足の指だ。指を折り、それでも言わなければ、歯を一本ずつへし折るぞ。」
髪の毛を引っつかみながらゆっくり脅すように。それでも大した凄味はないかもしれないが。


頬を押さえて彼女は言う。
「離して!このままじゃ死ぬだけなんだから、言うわけないでしょ!」

拷問すれば、彼女は喋る。わざと此方を混乱させるような言動を取っているだけだ。
ただ、拷問のやり方を知らない俺には脅すことが精々だ。

「俺がヤツと戦う理由がない!利益はなくリスクばかりだろ!」

「いいえ、あなたが村に着いても誰も相手にしないわよ。」
「何を言ってる?」

どうゆうことだ?

「最初に会ったときから思っていたことだけど、あなた近隣の村の住人じゃないでしょ?」

「…」

「身分を証明するギルドカードも持っていない。地図も読めない。食料の管理も杜撰。山歩きに慣れていない。ギルドのシステムも知らない。まだ判らない?」

「だからどうした?」

「私はそんな人間を二種類しか知らない。一つはギルドのホームもない小さな村の田舎者。もう一つは奴隷よ。」
得意げに喋る少女。だが大外れだ。

21世紀、先進国日本の首都東京で、パソコンや携帯電話などの電子機器に囲まれて過ごす、情報系を専攻する学生だ。

「何か企んでいるのかと思ったけど、村に行きたいだけ?それで命が助かるとでも?あなたはご主人様に大事に扱われていたのね。傷一つない体は見事だわ。」

「村に行っても助からないのか?」
覗きを間接的に認めたようなものだが、ここはスルーしておこう。

「ホントに世間知らずなのね。警戒していた私が馬鹿だったわ。身分の証明もできない怪しい余所者を受け入れてくれるほど私達は優しくないのよ。」

「…」
世間知らず。今度は大当たりだ。頭でっかちの世間知らず。まさしく俺のことだ。

彼女はこう言っているのだ。
『手伝え。身元保証人として生活を保障してやる。』

「…はぁ、降参する。殴って悪かった。協力しよう。」
「話が早くて助かる。すぐ始めるから手伝って。」

やれやれ、壊れかけPSPと同じく蒼レウス討伐はクエリタできない仕様らしい。

彼女はいやらしく笑っている。こっちが本当の彼女なのかも。


当然、リョウは知らないことだが、奴隷はコチラでも国際法で禁止されている。
この程度の文明ならば奴隷もいるだろうと漠然と納得していたようだから知れば驚くだろう。
しかし、この奴隷法には抜け道が用意されている。

モンハン世界にいる亜人種。例えば、上位村長クエを斡旋しているネコート、竜人族の山菜ジジイ、使い捨て兵士のアイルー。
爆弾を抱いて飛竜に突っ込まされるオトモアイルー達には人権はない。
亜人種が人並みに暮らすには、努力と幸運が必要なのだ。
逆に、金と権力があれば、人間を亜人種として扱い、奴隷と使役することも可能となる。
街の資産家が「お前は耳が長いな。人間ではないだろう。」と言ったように年頃の娘の人権を剥奪したとする。もちろん言いがかりだ。
けれど、彼女の行き着く先に幸せはない。
つまり権力者が人間を亜人だと言えば亜人になり、奴隷として扱うこともできる。


ところでマールブルグは、俺が奴隷としてどう『大事に扱われて』いたと想像したのだろうか。少し話し合う必要がありそうだな。






(初稿:2010.12.15)






モンハン日記
村☆6行きました。回復薬G大量消費のゴリ押しです。
緊急クエのドボルさんってば、尻尾回転がんばり過ぎ。つま先立ちでぐるぐーる。
さすが、乙い竜(尾槌竜)と呼ばれるだけありますね。

あと、まったく農場開発が進まないので、ユクモポイントのために釣って釣って釣りまくりました。
おかげさまで私の農場でもネコさんが訓練と称して暴れまわっております。




[24667] 10
Name: ねりきち◆6ef99ad3 ID:9b1a9775
Date: 2010/12/18 17:25
『人間としての強さは竜を前にして意味をなさない』





今より何年も昔。
とある少年が小さな猟団に拾われた。

女顔、剣道二段、高校一年生。甚だ不本意な渾名は、剣道少女。

猟団で狩りの基礎を学んでいた充実した日々は、女顔が災いし不幸な夜を経験したことで終わりを迎える。
隣の賢者タイム男を剥ぎ取り用ナイフで滅多刺しにした彼は全力でその場から逃走した。PSPだけを握りしめて。

その夜から時は流れ、彼は名前を変え、猟団を創設する。鷹の団団長、グリフィスの誕生である。
彼の剣術は対獣ではなく対人にこそ力を発揮した。その剣力で若く実力のあるハンター達を束ね、一流の猟団になるまでそう時間は掛からなかった。

こうして鷹の団のグリフィスは、美しい顔立ちと華麗な剣さばきの美少年ハンターとして知られるようになる。
金、女、名声、忠誠と栄華を手にし、この世の春を謳歌していた彼はしかし全く満足していなかった。

金や人脈を使い、金色に光る竜の噂を執拗に追い求めた。
地球帰還。そのために自らを鍛え、装備を整え、仲間を増やしたことを知る者はいない。
個人としてはこれ以上ないほどの戦力を整えた。

しかし、結果として精強なる鷹の団は、一匹の竜の前に壊滅する。

不思議なことに、絶望的な戦いの後でも唯一人だけが無傷であった。その理由も説明されぬまま鷹の団は解散した。







第十話







リョウとスーザンが蒼レウス対策を論じている時。
偵察隊はランポスの群れを発見していた。


「に、21頭!?」
偵察小隊は6名。単純計算で1対3.5。
ランポス、小型のT-レックスとも言うべき相手に対して、人間では1対1でも厳しい。それが21頭。絶望的である。

「お前らはここで援護しろ。オレが行く。」
しかし、臆することをしない者が一人。

その名はガッツバルト。
HR6。隻腕の凄腕ハンター。竜撃砲を装備した義手を身につけ、黒い鋼鉄鎧を着込み、漆黒のマントを纏う黒い剣士。
組み立て式のライトボーガンや投げナイフを装備し、爆薬すら扱う。
数多の竜種討伐を達成している凄腕のモンスターハンター。
そして背負うは身の丈を超える大剣――ドラゴンごろし。

彼は背中の大剣を抜き放つ。両手で持ってはいるが、磁石付きの義手は添える程度の力しかない。

大剣―――
『それは剣というにはあまりにも大きすぎた。大きく、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎた。それはまさに鉄塊だった』

ガッツバルドはドラゴンごろしを手に突撃を開始する。

斬ッ!!

近くにいたランポスの首を飛ばす。返す刃でもう一頭。

一瞬で二頭を殺されたランポス達はガッツバルドに猛攻撃を開始する。

四方八方から飛び掛かられるが鋼鉄の義手とドラゴンごろしで防ぎつつも、ガッツバルドは攻撃の手を緩めない。
叩き斬り、串刺しにし、薙ぎ払う。一頭また一頭とランポス達はその命をドラゴンごろしに奪われていく。

「雑魚が、死にやがれぇ!」
叫びつつドラゴンごろしを縦横無尽に振り回す姿は、人間にしては強い部類と呼ばれるに値した。

しかし、ランポスの噛みつきだけは防げても、全ての攻撃を防げるはずもなく、ツメによる斬り裂きで少なくない裂傷を負っていく。

傷が隙を生んだのか、ランポスが黒い剣士の後ろから飛びかかろうとしていた。
そこで仲間の矢がそのランポスの肩へ突き刺さる。

怯んだ時には、目の前に義手が向けられる。
義手から轟音とともに放たれた竜撃砲は至近距離でランポスに命中し、肩から胸を吹き飛ばした。

「お前ら、遅せぇぞ!」
5人のハンター達は何もぼぉっとしていた訳ではない。皆が経験豊富な優れたハンターであり、ガッツバルドの強さに惹かれて集まった猛者たちだ。
ランポスを逃がさぬように戦域を半円状に囲み、包囲完了と同時に弓で援護を開始した。


そこからは一方的であった。
敵を引きつける剣士は多少の傷は負うが致命傷ない。致死毒や麻痺毒の矢の弾幕によってランポスは満足に戦えない状態のまま斬り殺されていった。

予想を裏切り人間側の圧勝。

それを行った剣士は、剣を地面に突き立て座り込んでいた。
どんな屈強な男も全力で戦えば疲れ、休憩もとる。

他のハンター達も戦闘終了と同時に気が抜け、思い思いの場所に腰をおろしていた。

彼らはガッツバルドに尊敬の視線と称賛の言葉を送る。

その感想は正しい。HR6のハンターと言えば、現役最高のハンターの一角である。
あのまま援護がなくとも独りで皆殺しにしてしまえただろう。彼らにとってそう思えるほどの剣の暴風を目にした。


地面に突き立つ巨大な剣。その柄近く、銘らしき物が彫られている。

その銘は『伊藤信二』と有った。







偵察隊6名。彼らはランポスの大軍を討伐し多少なりとも油断があった。
一瞬、何を偵察しに来たのか忘れていた。いや警戒していても結果は変わらなかったかもしれない。


だから気がついたときには既に手遅れだった。
血の匂いに誘われて、現れる空の王。羽ばたく度に突風が巻き起こる。

空を飛ぶ蒼火竜の足の爪には人間が一人。今の今まで勝利に沸いていたハンターは、鎧を貫通し胸から爪を生やし、血の雨を降らせていた。

まるでおもちゃのように両爪で引きちぎられた彼は、重力に従って地面に激突した。

手や足が本来とは逆向きに折れ曲がり、臓物が飛び出し、もはやどこが顔のパーツだったかも判らない。


生き残った彼らに出来たことは武器を取り、戦闘態勢を取ること。
それはただの刷り込まれた条件反射。実際は虚勢。

一瞬でハンター達の士気は挫けた。

「か、勝てるわけがないよ。」

「う、撃て、撃て、撃てー!」
貫通矢、致死毒、麻痺毒などが即座に放たれるが、風で逸らされ、蒼い甲殻(重殻)の前に弾かれる。

虎の子の徹甲榴弾すら、爆発で多少の傷を与えたに留まった。

このような遭遇戦の場合、一時離脱が常套手段なのだが、空の化け物相手にできるかどうか。

当然彼らも前情報なしに討伐しようと思った訳ではない。
偵察隊6名全員がボーガンと弓で武装し、榴弾など高火力な弾丸も持ち込んでいる。彼らの財布を圧迫しただけあり、最低でも撤退には充分かと思われた。

上空からガッツバルドに放たれる火炎弾。

ドラゴンごろしでガードをすることで、皮膚を焼かれながらも致命傷は避けた。

「お前ら、足手まといだ。行け!!」

そう怒鳴りながらも、ガッツバルドの口元が自然と笑みの形をとる。

(こいつだ!!俺の仲間を、俺の腕を奪った化け物!!あの時は日の光を反射してやがったが、間違いねぇ!!この感じだ!!)

恐怖を、殺意が、ぬりつぶしていく。

(グリフィス。オレがこの剣でヤツを殺す!!)







逃げろと言われてもそう簡単には行かない。

弓の名人ポックル。
彼はガッツバルドに憧れるが、自身も優秀なハンターである。彼の放つ矢は百発百中で標的を射る。
先ほどガッツバルドの後ろから迫るランポスへ牽制の矢を放ったのも彼である。
しかし、そんな技能はなんの役にも立たなかった。

蒼火竜は上空から火炎弾を放ち続け、対処できなくなった者から脱落する。単純なルール。
火炎弾は地面に当たり爆発。爆炎をまき散らす。

最初に、ポックルが飲みこまれた。短剣と弓しか持たない彼に防ぐ術はなかった。

先ほど徹甲榴弾を放った女ハンターは高火力で後方から援護する役目だ。
腰にボーガンの弾薬を大量に持っていた。ランポス戦で使いやすいように安全袋から出していたのが不味かった。
そこへ至近弾が迫り、弾に着火。火達磨となる。動けなくなった後も火薬の火の勢いは止まらず、女はコゲ肉となった。

六名の内半数の三名が死んだ。
轟々と燃え盛り黒煙を上げる森。

片手槍と片手盾に鉄鎧を身に付けた重装備ハンターはその体力を買われ、食料や薬などの運搬を任されていた。
そして、ハンターの切り札の一つ、タル爆弾を背負っていた。リオレウス超級をぶっ飛ばすために大量の爆薬が詰め込まれていた。
彼は荷物全てを投げ捨て離脱を実行する。槍と盾だけを保持し全力で走り去る。逃走は仲間の命を犠牲にして成功した。

残りはポット村で合流したベテランハンター。
彼はベテラン故に、火竜への対処方法を知っていた。急いで投げ捨てられた荷物へ取り付く。

そこに降り注ぐ火炎弾。タル爆弾と誘爆が起こり大爆発。対処方法の実行を待たず彼は巻き込まれ弾け飛んだ。
辺りに轟音が響く。
彼は木の幹などにへばり付く焦げた肉片となった。

火の海と化した戦場では動く者をもはや確認できなかった。

蒼火竜は飛び去った。



届かない大剣に意味はない。怒りで人は強くならない。

残されたのは、倒れ伏し火に巻かれ死を待つ黒い剣士が一人。哀れな復讐者。
いくら強くとも空中から火炎弾を放つ相手に大剣一本で出来ることは少ない。致命傷を避けて防ぐことしか出来はしない。そして防ぐにも限界があった。

剣は届かない。







あの日の戦いの後、グリフィスは特殊な大剣と義手の作製を依頼した。設計図には仕様要求に対する注文がびっしりと書き連ねてあった。
その完成を見ずに、彼は3度目の死を選ぶ。縋りついたのは最後の希望。

(目が覚めればそこはきっと見慣れた街並みのはずだ。)

なかなか姿を現さないグリフィスへ職人が武装の完成を告げに来る。部屋に入り腐った変死体を発見した。

グリフィスこと伊藤信二が再び動くことはなかった。







(初稿:2010.12.18)







モンハン日記
12月18日  プレイ時間:38:31
製作装備 下位ナルガ防具 ・ 海造砲

やっとHR3です。
ヘビィ使いに転向。剣士は廃業。
海造砲は反動が小さく必要素材が鉱石とチケットだけだったところが◎。
下位装備はコレで完成としましょう。所詮は上位までの繋ぎですし。
ナルガの骨髄でさえ物欲センサが発生した私ですが、今作でも逆鱗には苦労させられるのでしょうかねぇ。



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