エンゼルスからフリーエージェント(FA)となった松井秀喜外野手(36)とアスレチックスの移籍交渉が合意に達し、あす14日(同15日)、本拠地オークランドで入団発表記者会見が行われる。指名打者(DH)として1年500万ドル(約4億2000万円)程度で合意したとみられる。地元は「近年最大の会見になるだろう」と早くも大興奮だが、その裏には大リーグ屈指のケチケチ球団として知られるアスレチックスの計算も。ゴジラはジャパンマネー獲得や効率経営のターゲットとなった。
今季チーム総得点がア・リーグ14球団中11位と低迷したアスレチックスが、打線の強化を主眼として進めてきたオフの補強。目玉となったのが安くて最大の打線補強となるうえ、経済効果を生む松井の獲得作戦だった。
オークランドはエンゼルス時代に居住していたロサンゼルスからも比較的近い西海岸にある。松井は以前、アスレチックスファンであったこともあり、交渉は比較的順調に進行。背番号「55」も準備される見込みで、14日午前に身体検査など規定の手続きを行い、契約が成立する。
アスレチックスには過去、岩村明憲内野手(楽天)、藪恵壹投手の2人の日本人選手が在籍したが、球団は松井の入団に際してはこれまでとは違う特別の配慮をしている。わざわざ松井の関係者の都合に合わせて記者会見の期日を設定したのだ。
「チームは全員が揃うまで会見を待つことを選択したようだ。特に松井の取り巻きのことを配慮している。通訳、個人広報担当者、多くの報道陣などがいる。松井のアジアコミュニティーでの人気は、近年の球団としては最大の会見になるだろう」(地元サンフランシスコ・クロニクル紙)
松井が側近と数十人の報道陣を率いて球場を出入りする大名行列は、大リーグでは有名。80年代にカンセコ、マグワイアらの強打者を要して大旋風を巻き起こしたアスレチックスだが、最近では久しぶりのお祭りムードとなりつつある。サンフランシスコ郊外の人里離れた場所にある本拠地球場オークランド・コロシアムはにわかに華やいだ雰囲気になりそうだ。
さらに、効率経営で知られる同球団のもう一つの狙いは、ジャパンマネーにある。集客、集金マシンとして松井に大きな期待をかけているのだ。
大リーグの相場では、主砲として期待する打者に対して、1年契約500万ドルは最低の条件といえる。出費を最少に抑えて最大のコストパフォーマンスを導き、さらに日本人ファンの集客を狙う松井獲得作戦は、同球団のビリー・ビーン・ゼネラルマネジャーの手腕を描いたベストセラー「マネー・ボール」そのものだ。
これまで松井が在籍したヤンキース、エンゼルスもジャパンマネーの恩恵を被ってきた。今季、エンゼルスタジアム内の日系企業の広告は、松井の入団に伴い8社増えて11社にのぼり、1社あたりの広告費が5000万円(推定)だったことから、これだけで松井の年俸は償却されていた。
これで松井に弱体打線を支える柱となってもらえれば一石二鳥。両膝に故障を抱え、成績が下降線に入った松井に、あえてラブコールを送ったアスレチックスの計算がここにある。
■オークランド・アスレチックス フィラデルフィアを本拠に、1901年のア・リーグ創設時に加盟。ワールドシリーズは10年に初制覇し、89年まで計9度優勝。本拠はカンザスシティーを経て68年からオークランド。過去に強打者ジャクソン、盗塁王ヘンダーソンのほか、カンセコ、マグワイアらがプレー。今季は81勝81敗でア・リーグ西地区の2位だった。