【コラム】ロシアの「クレムリン式外交」

 ここ1週間のロシアの外交姿勢を見ていると、間違いなく「クレムリン式」といえる。ロシア語で「要塞」を意味する「クレムリン」は、外交の舞台では不可解なロシア人の胸の内を指す用語となっている。

 北朝鮮による延坪島砲撃事件が起こった当初、ロシアは同事件について問題視し、連日のように北朝鮮を非難してきたが、韓国が数十年間にわたって行ってきた延坪島周辺での射撃訓練の実施を決めるや、突然態度を変え、今月18日に国連安全保障理事会(安保理)の緊急会議を招集した。セルゲイ・ラブロフ外相が、ロシアを訪問した北朝鮮の朴宜春(パク・ウィチュン)外相の面前で延坪島砲撃事件について非難し、さらにプーチン首相も北朝鮮によるウラン濃縮を非難したが、それからわずか数日で、このように態度を変えたのだ。こうしたロシアの態度に対し、「やはり、ロシア(の外交姿勢)はクレムリン(式)だ」という反応が出ている。

 韓国政府の一部では、ロシアのまれに見る対北朝鮮批判に対し、味方を得たかのような錯覚に陥った。ある外交関係者は、「ロシアが外交の舞台で、北朝鮮をかばうことはもうないだろう」と受け止めた。延坪島砲撃事件が、100%北朝鮮による挑発だったことが分かり、ロシアは北朝鮮に対し、黙っていることができない状況に陥り、北朝鮮に対する友好的な態度を覆した、と韓国政府は説明した。ところが、ロシアが韓国軍の訓練を問題視したことで、こうした説明は説得力を失った。

 ロシアが国連安保理の緊急会議を招集したのは、北朝鮮と事前に示し合わせた行動だった可能性がある。北朝鮮が国際社会で、「韓国軍による延坪島での射撃訓練が問題だ」と主張できるからだ。北朝鮮の外相がロシア訪問を終えた後、「成果があった」と述べたというが、これは、当たり前のことのようには受け止められない。対ロ関係の専門家たちは、こうした動きを見て、「マトリョーシカ(人形の中に小さい人形がいくつも入っている、ロシア伝統の木製人形)外交とは、まさにこういうものだ」と指摘した。

 だが、ロシアの韓半島(朝鮮半島)政策を見ると、一貫していることが一つだけある。それは、自分たちが疎外されるのではないか、と心配になり、存在感を誇示しようとすることだ。かつて、6カ国協議をめぐる内部事情はほとんど、ロシア側がメディアに流した。ロシアは当時、こうすること以外に存在感を示すのが難しいほど、立場が弱かったからだ。そして最近、中国が急速に台頭してきたことで、北東アジアでの地位が再び低下する可能性が高まったロシアが、新たな方法で自国の存在感を誇示している、という見方が出ている。

 ロシアの国力では、北東アジアで米国や中国のように影響力を行使するのは不可能だ。このため、ロシアは韓国と北朝鮮のどちらにも偏らない態度を取ることが、現在の影響力を維持できる方法だ、と判断している。1990年に韓国とソ連(当時)が国交を正常化して以降、ロシアの韓国と北朝鮮に対する外交の基本概念は「等距離外交」だった。北朝鮮の核問題を解決するため、周辺諸国が過去十数年にわたって続けてきた取り組みでも、ロシアの態度は一貫していた。そして、哨戒艦「天安」撃沈事件以降、現在に至るまで北朝鮮を非難していないのも、こうした背景がある。

 ロシアも中国と同じく、北朝鮮に対しては手を焼いている。北朝鮮の崩壊は避けたいが、核武装も容認するわけにはいかない。このため、時間がたてばたつほど、ロシアのいら立ちも深まることだろう。しかし、今はまだ、その時期ではない。

チョン・ビョンソン記者(国際部次長待遇)

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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