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経済で戦争は防げるか――『The Costs of Conflict』

提供:リアリズムと防衛を学ぶ

1940年(昭和15年)当時の貿易統計によれば、日本は80%の燃料物資、90%以上のガソリン、66%の工作機械類、75%のくず鉄をアメリカから輸入していました。さらに、石油の年間消費量は約448万キロ・リットルでしたが、その輸入量の78%はアメリカに依存していました。

……産業必需物資の7割もの輸入を依存する相手に対し、日本の方から戦争を仕掛ければ、輸入が止まり、たちまち原材料や石油エネルギーが不足して国内産業は行き詰まり、継戦能力を失うことは明白です。もしここで、本当に経済相互依存が戦争を抑止しえるのなら、対中戦争を中止してアメリカとの関係正常化を模索するはずですが、日本は対米戦争に踏み切りました。

尽忠報国記 : 経済相互依存を根拠に中国脅威論を否定する愚
 上記の引用元では他にも複数の例があげられています。なぜ国家は経済的に大損をしても、戦争に踏み切ることがあるのでしょう?

 お金、経済だけに価値を認めて合理的に行動するなら、戦争をする国家はほとんどいなくなるでしょう。しかし経済、お金だけが価値あるものではないし、国家は営利企業ではありません。人はパンのみに生きるに非ず、国家は経済のみを求めるに非ず、です。

 経済だけでは戦争を無くせない理由をざっくり一言でまとめれば「国家にとって、世の中にはお金よりも大事なものがあるから」です。比喩的に個人の例でいうと、多くの人にとってお金より大事なものは命です。もちろん、命を多少の危険にさらしてでもお金を手に入れたい、という人はいるでしょう。
 
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 でも、そんな人たちも「命を確実に失うとしても、お金が欲しい」とは考えないでしょう。命を失ってしまえば、いくらお金を持っていても、使えないのだから無意味です。(遺族にお金を遺すため、というのはここでは考えないことにします)個人がお金をもとめて合理的に行動するとしても、生死の境にあって名医ブラックジャックを目の前にしたら「金ならありったけ払うから、命を助けてくれ」と言うのは普通な判断ではないでしょうか。

 国家もまた、経済的に大損をすることが分かっていても、よりも大事なものを守るためなら戦争に打って出ることがあります。経済より大事なものはその国によって様々ですが、最も代表的なものは個人と同じで「生き残り」です。

 「このまま待っていたら自国が崩壊してしまう、あるいは確実に敗北する状況に追い込まれてしまう。しかし、もし今、戦争を始めたならば、勝利して生き残れる可能性はある、というケースです。例えば以前にこのブログの記事でとりあげた第一次世界大戦時のドイツ。いま戦争を開始しないと防衛計画が破綻してしまう、という状態になりました。すれば、確実に負ける状況に追い込まれる前に、いま戦争を始めるしかない――と思われました。太平洋戦争にうってでた日本についても、座して死を待つよりは、むしろ一か八か打って出るべきだ――と判断しました。

戦争はなぜ起こるか4 時刻表と第一次世界大戦 - リアリズムと防衛を学ぶ

 そんな時、国家は経済的な損失を甘受しても、生き残りを目指すために戦争に打って出ます。いいかえればお金を失っても命を守ろうとすることがあります。(もっとも、そうやって一か八か開戦した国はだいたいロクな目に遭わないのですが)

 なお生き残り以外にも、時として経済より大事なものは主権、何らかの原則や理念、権力、プライドなど色々あります。また、不合理な判断が行われることもあります。とはいえ、ここでは最も分かりやすいであろう例として、生き残りのために経済的に損をしても開戦するケースをあげました。

台湾無くして中国無し



 本書「紛争の代価」において、ある条件下では、経済的な大損を承知の上で、中国は台湾に侵攻するであろう、と論じられているのも、同じような理屈です。台湾侵攻には、経済的な大損を覚悟してでも手に入れねばならない価値が生じる場合があります。その価値とは中国にとっての「生き残り」、いいかえると「現体制の存続」です。
 著者の一人であるヨッフェは、中国が台湾の独立を認められない背景を、こう論じています。
第一に、そして最も重要なのは、感情的なナショナリズムである。それは台湾統一を中国の主権、国家の名誉、威信を具現するものと位置づけ、統一実現を国際社会において中国が本来の地位を回復するために絶対譲れない条件と見なしている。

The first and most important is an emotional nationalism that posits reunification with Taiwan as the elemental embodiment of China’s sovereignty, national honor, and prestige, and views its achievement as a non-negotiable condition for the restoration of China’s rightful place in the international arena.

「THE COSTS OF CONFLIST」 p115
 軍事的にであれ外交的にであれ、とにかく台湾併合なくして、中国は中国でありえない、というナショナリスティックな認識です。この感覚はちょっと分かりにくいものがあるかもしれませんが、現中国にとって台湾は欠かせないものです。中国はその憲法の序文にまでこう刻んでいます。

台湾は、中華人民共和国の神聖な領土の一部である。祖国統一の大業を完成することは、台湾の同胞を含む、全中国人民の神聖な責務である。
(台湾是中?人民共和国的神〓?土的一部分。完成?一祖国的大?是包括台湾同胞在内的全中国人民的神〓??。)

中?人民共和国?
 台湾が中国から分離独立を許した場合、中国はもはや自らが定義する中国ではいられません。もし中国政府が台湾を併合できないことが明らかになれば、共産党はその正当性を保てず、現体制が崩壊する恐れが大です。よって生き残りのため、中国は戦争をしてでも台湾独立を阻止せねばなりません。
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リアリズムと防衛を学ぶ

防衛ってそういうことだったのかブログ。「ちょっと興味はあるけど、よく知らない」という方向けに、分かり易くてライトな防衛ブログを目指してます。

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