漁師から水産加工会社経営へ
石崎忠幸(いしざき・ただゆき)さん(66)


 「半端な決断ではなかったよ。まさに、人生の一大転機だった」。豪快な笑いとともに、そう話した。
 親の代からの根っからの漁師。その転機は、1977年の200海里漁業水域設定だった。それまでのサケマス流し網から、沿岸のカレイ刺し網、タコばこ漁に転換せざるを得なかった。
 「食えなくなると不安だったが、その時、前向きに生きていかねば、と心底思った」と語る。
 しばらくは手探りの日々が続いたが、加工を専門とする水産技術指導員との出会いがあった。「一緒に薫製加工場などを見て歩いた。これだと思った」という。
 ただし、漁は玄人だが加工は素人。「試行錯誤が2年ぐらい続いたかな。満足な製品が出来るようになって、これで食べていけると思った」と振り返る。
 問題は販路。これも一つの出会いだった。18年前、札幌競馬場で日高の特産品を販売するイベントがあり、石崎さんの店に多くの人が集まった。「多くのお客さんが来てくれる競馬場で移動販売を行えば、会社も製品も知ってもらえる」と実感した。
 思い立ったら行動は早い。早速、道の許可を取って出店した。競馬場関係者を中心におなじみが増え、その口コミで販売が軌道に乗った。全国各地の物産展やイベントにも呼ばれるようになり、タコの解体実演はいつも評判となった。
 販売が順調に伸びても店舗は持たない。今でも、道営競馬開催中は軽トラックに製品を山積みして駆け回っている。
 「店舗を持って自分の目の届かない商売をするつもりはない。基本は安心、安全の対面販売」と言い切る。製品はすべて地元産を使った手作りで、「おれのイクラは、全道一高いかもしれないが全道一うまい」。
 研究心も旺盛。「いろいろ考えているけど、雑魚と呼ばれている魚を見直していきたい」と目を輝かせた。
 活力は、育ててくれた地元への思い。「多くの仲間に助けられてきた。みんなで知恵を出し合えば日高に活気は戻せる」。同時に、「どんなに忙しくても海に出ることはやめない」と語った。何といっても現役の漁師なのだ。

(文・写真 先田次雄)


メモ  水産加工会社「石崎水産」経営。日高町厚賀58の1。製品は主力のゆでダコ、イクラ製品、ホッケの開きのほか、カレイ、イカ、ツブなど。すべて予約販売。電話01456(2)2229。
(土曜日に隔週掲載します)
 

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