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きょうの社説 2010年12月20日
◎土清水塩硝蔵調査 次は遺産の史跡指定に期待
加賀藩の黒色火薬製造施設だった「土清(つっちょう)水(ず)塩硝蔵(えんしょうぐ
ら)」跡の4年間にわたる金沢市の発掘調査で、火薬製造の中枢施設の遺構が確認され、辰巳用水との密接な関係などが明らかになった。軍事機密であったために史料に乏しく、謎に包まれていた藩政期の巨大軍事施設の実態に迫り、文化的価値を高めた意義は大きい。市による発掘調査は今年度最終年を迎え、来年度以降は史跡指定に向けた作業を本格化 させる。藩の火薬製造施設としての塩硝蔵に関する全国に先駆けた調査であり、加賀藩のみならず、わが国の軍事史に新たな光を当てたものといえよう。加賀藩の歴史遺産のなかで金沢城跡、加賀藩主前田家墓所、辰巳用水に続く国史跡指定に期待が高まる。 土清水塩硝蔵は約11万平方メートルに及ぶ全国最大級の火薬製造施設で、今年度の調 査で主要施設の一つである「縮具所(しゅくぐしょ)」の遺構が新たに見つかった。これまでに塩硝を保存する「硝石御土蔵(しょうせきおんどぞう)」や火薬原料を粉末に加工する「搗蔵(つきぐら)」の遺構、塩硝蔵中心部を縦貫する主要道、辰巳用水から水を引き込む水路跡なども確認された。 絵図などの限られた史料を裏付ける形で、主要施設の場所が確認され、水力を利用して いた辰巳用水との関係が浮き彫りになるなど、今後の史跡指定や復元整備の基礎固めとなる成果を挙げた。 一連の調査によって、塩硝生産地の南砺市五箇山と土清水塩硝蔵跡との火薬製造工程の 川上、川下の関係もより鮮明になった。国史跡指定に向けては、これまでに指摘してきたように土清水塩硝蔵跡と五箇山の関連施設との一括指定が考えられないだろうか。野田山と高岡の加賀藩主前田家墓所が一括で指定された先例があるように、塩硝に関しても塩硝蔵跡と五箇山の施設を一体的にとらえることで、藩政期の火薬製造の全容が把握でき、加賀藩の歴史遺産のスケールの大きさも伝わる。 塩硝蔵跡の存在は、「歴史都市」に厚みを加えるものである。その価値を広く発信して 、金沢の魅力を高めるとともに金沢、南砺両市の交流を一層促進し、「塩硝の道」のつながりを深めていきたい。
◎在外邦人の救出計画 韓国政府との協議は当然
菅直人首相が、朝鮮半島有事の際の邦人救出計画を策定するため、自衛隊派遣を念頭に
韓国政府と協議を進めたい意向を示した。これに対して、仙谷由人官房長官が「一切承知していない」と自衛隊派遣の検討や韓国政府との協議入りにブレーキをかけ、首相の意向が尻すぼみになってしまったのは残念である。朝鮮半島情勢は極めて不安定である。約2万8千人といわれる在韓邦人に危機が迫った 時、避難のために自衛隊をどう動かすか、韓国の領土、領海内での自衛隊活動は困難であるから、韓国軍や米軍に頼るほかないということでよいのか。万一に備えた邦人救出計画を策定しておくことは、国民を保護する政府の責務であり、そのために韓国および米国と事前に協議するのは当然であろう。 日韓の間には歴史問題や竹島の領有権問題があるため、韓国政府は自衛隊の乗り入れに 関する協議について「現実性がない」と否定的な見解を示している。菅首相の発言について、韓国内では「日本軍に対する韓国人の感情を度外視した浅はかな発言」といった論評もあり、韓国国民の自衛隊への拒絶反応は強いようだ。しかし、朝鮮半島有事を想定し、韓国在住の日本人の避難方法を日韓両政府で協議することは、まったく別次元の問題ではないか。 一方、日本国内の法整備も速やかに行う必要がある。 現行の自衛隊法では、外国で災害、騒乱その他の緊急事態が発生した場合、自衛隊が邦 人の輸送に当たることができるが、それはあくまで「輸送の安全」が確保されている場合に限られる。「安全が確保された緊急事態」というのは矛盾しており、実際にはほとんどあり得ないから、現行規定では、自衛隊による緊急の邦人救出は事実上できないに等しい。 このため、自民党は今年6月、輸送の安全確保を必ずしも必要条件としない自衛隊法改 正案を衆議院に提出した。しかし、いまだに審議は行われず、改正法案は棚上げ状態にある。政府・与党の対応は危機管理意識に乏しく、無責任のそしりを免れない。
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