真央さんは、こう言った。
「自分でも、オリンピック後はモチベーションが下がるかなと思ったんですが、しかしそんなことはありませんでした。オリンピックが終わってすぐ、また滑りたいと思ったし、試合に出たいと思ったんです。そのために、すぐに練習もしたいと思いました」
「私は、試合で滑るのがすごく好きなんです。だから、今はファイナル(※)に出られないことがすごく悔しい。終わった直後は『あーあ』という力が抜けた感じだったけど、今(フリーの翌日)は、徐々に悔しさがこみあげてきているところです。私は、去年もファイナルに出られなかったんですけど、その時はテレビで見ていて『私も出たかったなあ』と、悔しい思いを味わったんです。だから、今年のファイナルも、たぶんテレビで見ると思うんですが、その時に、本当に悔しい思いを味わうと思うんです。それから去年は、その後の日本選手権に出た時に、『ああ、出られて本当に良かった』と、心から思ったんです。そうして、気づいたんです。『ああ、私は、こんなにも試合が好きなんだ』って。それは、もしかしたら生まれて初めての体験だったかも知れない――これまで、そんなふうに思ったことはなかったんです。だから今年も、日本選手権に出られた時に、『出られて良かった』と、思うと思います」
全日本フィギュアスケート選手権での真央さんは
それから、真央さんはこんなふうにつけ加えた。
「私は、試合も好きなのだけれど、練習も好きなんです。練習でしっかりやらないと、試合でも自信を持ってやれないから。私は今、本当に充実して練習しています。だから、今年を捨てるとか、そういうつもりは本当にないんです。やる気も全然失ってないし、一日も無駄にしていないという自信があります。ただ、試合でだけできていないんです。試合でだけ跳べていない。だから(胸を押さえて)ここら辺に、ウーンと詰まってる感じがあるんです」
真央さんは、とても自然な表情で、いっそ明るい口調で、そう話してくれた。そこには、成績が出ないことへのもどかしさや、周りの人々、応援してくれる人々への申し訳ない気持ちもあるのだろうが、一方で、練習をしっかりやれていることの自信から、現状を自然と前向きにとらえているようでもあった。
もうグランプリファイナルは終わったが、真央さんは、それをどこでかは分からないが、きっと観戦したことだろう。そこで、「私が出ていたらどうだっただろう」と想像し、悔しい思いを味わったに違いない。
そうして、その悔しさを胸に秘め、全日本選手権に臨むことになるだろう。そこでの結果がどうなるかは分からないが、確かなのは、彼女がその大会に出ることを、大いなる喜びととらえていることだ。
全日本フィギュアスケート選手権では、そんな、試合に出ることに喜びを感じている真央さんを見ることになるだろう。それが、ぼくには今から楽しみである。
(※)フィギュアスケートの「グランプリファイナル」には、日本、カナダ、中国、アメリカ、ロシア、フランスの世界6カ国を転戦する「グランプリシリーズ」に2大会出場し、その成績上位者6名のみ出場できる。