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命を削る:海外を知る/番外編 費用対効果、続く模索

 薬の高額化などを受け、国内でも治療の経済的負担をめぐる議論が活発化している。東京都内で先月開かれたがん治療をテーマにしたイベント「オンコロジー(腫瘍(しゅよう)学)・ジャパン2010」(アイフォーファーマ主催)では、患者と製薬企業、医薬経済の専門家がともに医療費や患者負担について考える場が設けられた。海外の医療事情に詳しく、イベントの講師を務めた専門家に今後の打開策を聞いた。

 ◇情報の翻訳と開示、国が仕組みを--鎌江伊三夫・慶応大教授(医薬経済学)

 医療に関して国がやるべきことは、一人でも多くの国民に、優れた医療技術をできるだけ早く、支払い可能な費用で提供する仕組みを作ることだ。欧州やアジアの一部の国は、公的医療保険でカバーする薬の範囲や自己負担率を決めるときに、薬の費用と効果のバランスを数値化する手法を導入し、医療費の高騰、がんなどの薬の高額化に対処しようとしている。だが最善の仕組みを確立した国はまだなく、模索が続いている。

 日本では、国全体の医療費や患者の自己負担など、費用にのみ焦点が当たってきた。費用の問題だけを突き詰めると、薬の適応範囲を狭くして、使える患者を少なくするなど、国民に不利益が生じかねない。

 なぜ費用と効果のバランスの議論が進まないのか。それは、患者と医療の専門家の間の知識の差を埋める、橋渡し的な情報がなく、国民全体で話し合える土台が整っていないからだ。

 専門家は治療の効果について「A薬を使うと生存期間はB薬より○カ月延びる」「この治療法の5年生存率は△%」などと説明するが、その正確な意味や、必要な費用との関係を理解できる人は多くない。よく理解できないと、患者個人としては「いくらかかるか」という費用の観点だけで判断せざるを得なくなる。国全体でも、あるべき医療を選択するための共通認識を作るのは難しい。

 高額な分子標的薬などの登場もあり、医療経済の問題が深刻化している。薬や治療法の効果や、費用との関係について、国民が理解できる情報を的確に得るためには、国による専門的な情報を翻訳できる人材育成や情報開示の仕組みが必要となる。国はそのような制度を早急に構築すべきだ。【構成・大場あい】

 ◇米では企業寄付で患者支援活動--安達進、日本イーライリリー・オンコロジー事業本部長、医師

 患者が治療を続けられないケースが出ている。日本では医療機関の窓口で、患者が医療費の3割は自己負担しなければならず、他の国に比べて窓口負担が重い場合があるからだ。一方日本は医療費が十分でない。経済協力開発機構(OECD)によれば、国内総生産(GDP)に占める総医療費の割合は8・1%(07年)で、先進国中最下位だ。

 薬価がもっと安くならないかという意見もある。しかし、臨床試験に必要な患者数が増え、開発の成功率も落ちている。製造費用も高くなり、次の新薬開発にも費用がかかる。こうした事情から、新薬開発のための費用は格段に高くなっている。最近、費用対効果など薬剤の経済評価の手法を各国が取り入れているが、日本もそうなるだろう。

 患者の負担を軽減できるよう製薬企業も支援に乗り出している。例えば、日本には患者の医療費自己負担に一定の上限額を設ける国の高額療養費制度があるが内容が複雑なため、製薬企業はそれぞれ分かりやすく解説したパンフレットを制作し、患者らに配布している。費用を計算できる製薬企業のホームページもある。

 米国では、患者支援のため製薬企業などが民間の基金に寄付もしている。例えば全米がん経験者連合(NCCS)は、企業や国から多くの寄付を集め、がん患者の生活上の悩みの解消などに取り組んでいる。日本では、患者が知りたい経済負担について医師からの説明が十分でない。製薬企業が単独ではなく、多くの企業で協力して、患者のこうした問題の悩みに応じるコールセンターを設置するのもいいのではないか。【構成・河内敏康】

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 オンコロジー・ジャパンは来秋も東京都内で開催予定。問い合わせは主催者(oncologyjapan@eyeforpharma.com)。

毎日新聞 2010年12月12日 東京朝刊

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