鹿児島地裁判決は、検察側が被告の犯人性を示す決め手の証拠と主張した現場の指紋や掌紋、DNA鑑定について、いずれも犯人であることを断定するには至らないと判断した。裁判員は「疑わしきは被告の利益に」との刑事裁判の原則に忠実に従って判断した形だ。一方で判決は、鑑識活動など捜査の不備にまで言及しており、捜査側に立証の高いハードルを課したとも言える。
事件では、白浜被告が「現場に行っていない」と否認し、目撃証言もなく、被害品も確認されなかった。現場の被害者方で採取された446点の指紋・掌紋のうち29点が特定され、その中の11点が白浜被告と一致した。また、侵入口とみられる掃き出し窓の網戸からは細胞片が採取され、DNA型が白浜被告のものと同一と鑑定された。
検察側は、白浜被告の指紋・掌紋などが侵入口やたんすの引き出しなどから見つかったことを有罪の根拠と主張したが、判決は「被告が被害者方に立ち入ったことを示すにとどまり、殺害を証明するものではない」と指摘した。弁護側の「第三者による捏造(ねつぞう)」との主張は退けたが、凶器のスコップから指紋などが出ていないことも重視した。
そのうえで判決は、他の状況証拠についても検討。検察側が動機と主張した経済的困窮による金目当ての事件という点に疑問を示し、殺害状況から怨恨(えんこん)目的の可能性も指摘。最高裁の判例を踏まえ、「状況証拠での立証には、犯人でなければ合理的に説明できない事実関係が含まれていなければならず、有罪認定には合理的な疑いが残る」と指摘した。
これまでの裁判員裁判は8割超が5日以内に終了。今回は最長の40日間で現場検証も行うなど異例ずくめだった。心身両面の負担やプロでも判断が割れることもある事実認定の難しさなど、制度に耐えられる裁判だったのか検証が不可欠だ。【黒澤敬太郎、北村和巳】
毎日新聞 2010年12月10日 12時10分(最終更新 12月10日 14時28分)