国際情勢の緊迫は危機に直面する国民の結束を強める方向に作用します。世界の歴史をみると、政治リーダーが他国との緊張を政権浮揚に利用した例も珍しくありません。中国や北朝鮮の存在が日本の現実の脅威として再認識される中で、菅政権が外交的な対応のまずさから支持率をここまで急落させる展開は与野党双方にとって想定外だったと言えます。
安保論議より政権攻撃に力点
「未熟にもほどがある。有権者も『民主党政権に国のかじ取りは任せられない』とようやく気づいたのではないか」。自民党幹部はこう語り、尖閣諸島沖での中国漁船の衝突事件や北朝鮮による韓国・延坪島(ヨンピョンド)砲撃事件をめぐる政府の一連の対応をやり玉にあげています。今国会で仙谷由人官房長官や馬淵澄夫国土交通相への問責決議が可決されたのも、現政権の外交手腕への批判的な空気が野党内で一気に強まったことが背景にあります。ただ、これまでの国会審議を聞いていると、野党が追及する主な論点は外交や安全保障政策そのものより「危機管理のプロセス」に軸足がある印象です。
尖閣沖の衝突事件は首相官邸の「政治判断」で中国漁船の船長の逮捕、起訴にゴーサインを出しておきながら、日中関係が緊張すると「那覇地検の判断」で船長を突如として釈放して幕引きを図りました。野党は「中国の圧力に屈した弱腰外交、責任を現場に押しつける逃げ腰官邸だ」と批判のボルテージを高めましたが、国会終盤では衝突時のビデオ映像を公開するか否かで政府と綱引きを続けました。日本の領土や海洋権益を守るために海上保安庁や自衛隊の警戒態勢をどう見直し、領海侵犯を厳しく取り締まる根拠法がないという現状をどう変えていくのかといった本質的な議論は深まっていません。
北朝鮮による砲撃事件では、野党各党は首相や関係閣僚が官邸や省庁に入った時刻や非難声明の発表の遅れを問題視しています。危機管理で政府の初動が極めて重要なのは当然でしょう。一方、自民党の中堅議員は党の外交・安保関係の会議への出席後、「政府の初動対応の問題点を探す話ばかり。野党らしくなったと言えばその通りだけど、日本の安全をどう守るかを訴えていくべきだ」と違和感を口にしています。
問題のすり替えや矮小化
国にとって重要な出来事が生じた場合に、国会審議で論点のすり替えや問題の矮小(わいしょう)化と思えるような議論が目立つのは今に始まったことではありません。政策転換にカジを切るのは与党も野党もリスクを伴い、調整に手間取る可能性があるためです。しかし中国の急激な軍備拡大や北朝鮮のどう喝的な外交に直面している現状を考えれば、政府・民主党が外交・安保政策への苦手意識を引きずり、野党がかさにかかって政権与党の未熟さをあげつらうだけでは国の安全は守れません。そうした厳しい時代にすでに入っているように思えます。
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今回のクイックVoteの投票結果を見ると、朝鮮半島情勢の緊張などを受けた菅政権の取り組みについて「信頼できない」という意見が9割を超えました。回答者からは「危機の定義もなければシナリオも描けていないことに驚いた。政治主導どころか責任放棄している」「国防に関する法整備が不十分なことが分かっていながら、迅速に行動しない政権はまったく信頼できない」といった厳しい意見が目立っています。一方、「信頼できる」とした回答者からは「初動が遅いという批判は、いつまでにどのような対応をすればよいのかという基準が不明確な批判に感じる」「野党やマスメディアは政府をこぞって批判し、必要以上に危機意識を高めて国益を失わせている」との声が寄せられました。
菅内閣の支持率は9.4%となり、前回の11.8%をさらに下回りました。今年3月に開始したクイックVoteで、内閣支持率が1ケタになるのは鳩山前政権を含めて初めてです。政策実行の遅れに加えて外交や安全保障面での不安が顕在化し、支持率を押し下げたとみられます。
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