3日に会期末を迎える臨時国会は30日、論戦のハイライトとなる党首討論が開催されない見通しとなった。焦点だった「政治とカネ」を巡る民主党の小沢一郎元代表の招致も見送られる。深刻な雇用問題や政治不信を巡る真剣な議論が求められたはずが、与野党とも党利党略の駆け引きに終始し、終盤国会には無力感が漂う。菅直人首相が10月の国会冒頭で呼びかけた「熟議」は不発に終わった。【中田卓二、横田愛】
会期が2週間以上の国会で党首討論が行われないのは00年の制度導入以来初めて。
党首討論見送りは、30日の衆参の国家基本政策委員長の協議で決まった。菅首相は同夜、首相官邸で記者団に対し「私としてはやりたかった」と語った。しかし、与野党の溝は深い。
党首討論を担当する樽床伸二衆院国家基本政策委員長(民主)は30日午前、公明党の漆原良夫国対委員長と会談し「党首討論は政府と各党首のやりとりだから官房長官を欠席させるわけにはいかない」と説明した。
党首討論は全閣僚が出席する慣例。野党側は参院で問責決議を受けた仙谷由人官房長官と馬淵澄夫国土交通相を欠席させるよう要求。しかし仙谷氏らが欠席すれば「国会に仙谷氏らが出席できない」という前例になる。来年の通常国会を控え政権は譲れない。一方、野党は出席を認めれば、問責決議の意味を薄めることになる。
見送りを決めた樽床氏と参院の鴻池祥肇国家基本政策委員長(自民)の協議はわずか10分。樽床氏は仙谷氏について「衆院では不信任案が否決された」と出席を主張。一方、鴻池氏は「問責決議が軽く受け止められている」と野党の反発を代弁。国会での議論を深めるはずの党首討論が問責決議を巡る駆け引きに巻き込まれた。
党首討論はこれまで50回開催された。自民党政権下では、臨時国会では2回開くことが通例化。07年参院選で「ねじれ国会」となり頻度が落ちたが、福田、麻生政権下でも最低1回は開かれた。
今国会では、ビデオ映像流出事件などで、与党は野党の要求に応じてたびたび予算委の集中審議を開いてきた。党首討論の定例日は水曜日。今国会中には8日(祝日を除く)あるが、菅首相はうち4日間、予算委など国会に出席している。
自民党幹部も「党首討論はやったほうが良かった。(仙谷氏も含め)全閣僚出席でやって『なぜいるんだ』と攻めればいい」と語る。内閣支持率が急落する菅政権は攻めどころに事欠かないはずだ。論戦見送りは政権側への助け舟にもなっている。
一方、この国会を通じて与野党のテーマだった小沢氏の国会招致も進まなかった。小沢氏の問題を巡って30日、国会内で開かれた与野党幹事長・書記局長会談でも民主党の岡田克也幹事長は「幹事長として、今真摯(しんし)に努力している」と繰り返しただけだった。岡田氏は29日の党役員会で衆院政治倫理審査会(政倫審)での議決に言及していただけに、野党側は「ゼロ回答だ」と反発。会談は荒れ模様になり、何の合意もできなかった。
会談後、みんなの党の江田憲司幹事長は記者団に「なんのための会談だったのか」と批判。民主党幹部も「エネルギーの浪費だからもうしないほうがいい」とさじを投げた。
30日の与野党幹事長・書記局長会談。民主党の岡田幹事長は衆院を通過し参院で採決に至っていない12法案を列挙した資料を示しながら、「国民に責任を果たしたと言えるのか」と野党に訴えた。終了後、野党側は「国会の停滞はすべて野党の責任だと言わんばかりだった」と異口同音に反発。国会は「熟議」どころか、与野党の相互不信が両者の溝を広げる悪循環に陥っている。
植民地時代の朝鮮半島由来の図書を韓国政府に引き渡す「日韓図書協定」を巡っても30日、菅首相から不用意な発言が飛び出した。超党派の日韓・韓日議連のメンバーと会談した菅首相は、協定の国会承認の遅れを「野党は与党の邪魔をするのが国会の常なので、少し足踏みを続けている」と説明。付帯決議で妥協する雰囲気の出てきた自民党を逆に挑発する結果になった。
今国会で当初、政策協議に前向きだった自民、公明両党は、小沢元代表の国会招致が一向に実現しないことに加え、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件を巡る政府の対応や、柳田稔前法相の失言問題などを受けて菅政権への対決姿勢を強めた。結局、自公両党は10年度補正予算に反対し、仙谷官房長官らの問責決議でも足並みをそろえた。
こうした中、自民党は30日、衆院本会議で趣旨説明する予定だった財政健全化責任法案を事前に取り下げた。同法案は社会保障制度改革の安定財源を確保するための消費税を含む税制抜本改革を明記し、今国会で菅政権に財政再建論議を挑む構えだったが、審議入りしないままたなざらしになっていた。石原伸晃幹事長は会見で「このような国会状況で趣旨説明しても採決に至らない」と述べた。
民主党で菅直人首相=似顔絵=を支持するグループが30日、東京都内で開いた会合で「局面打開のため、内閣改造もありうる」などの声が出た。支持率低迷にあえぐ菅首相の足元から強い危機感が示された格好だ。
出席者によると「このままではいけない。菅さんらしくない」などと反転攻勢を訴える意見が相次いだという。仙谷由人官房長官と馬淵澄夫国土交通相への問責決議が参院で可決され、政権運営が厳しさを増すことへの懸念の表れとみられる。首相は30日夜、首相官邸で記者団に「(内閣改造などの)話があったことは聞いていない」と述べた。
一方、民主党の小沢一郎元代表を支持する同党の田中真紀子元外相は国会内で記者団に「早い時期に大改造すべきだ。首相は退陣が嫌なら、あまねく人を募るしかない」と述べ挙党態勢のための内閣改造断行を求めた。
毎日新聞 2010年12月1日 大阪朝刊
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