混乱が続いた臨時国会が3日閉会する。展望が見えない外交、相次ぐ閣僚の失言などで菅内閣の支持率は低迷する一方、10月の検察審査会の起訴議決公表後、表立った活動を控えていた民主党の小沢一郎元代表が動き始めた。「師走政局」もささやかれる中、前幹事長代理の細野豪志衆院議員に、終盤3週間の「国会日記」を公開してもらった。【構成・中澤雄大】
■11月10日(水)
科学や芸術などの分野で貢献した人物を表彰する「京都賞」(稲盛財団主催)授賞式に招かれ、京都市の国立京都国際会館へ。同じく来賓の鳩山由紀夫前首相の隣で見ていたら、後半に小沢元代表が姿を見せたので「お疲れ様です」と一言。左手に小沢氏、右が鳩山氏に挟まれる格好で恐縮した。式典後、移動中に稲盛和夫京セラ名誉会長の関係者から「今どちらですか」と電話があったが丁重に誘いを断る。その後、小沢、鳩山両氏と稲盛名誉会長の3者による極秘会談情報が流れたが、レセプションの間に面会されたのだろう。
■13日(土)
地元・静岡県三島市で街頭演説。初老の女性から「民主党はダメ」とはっきり言われた。統一地方選候補予定者との面会でも「本当に民主党でいいのだろうか」との不安がヒシヒシと伝わってきた。気を引き締めてかからないと。
■14日(日)
朝、民放の報道番組に出演。尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件を巡り、政府がビデオ映像の一般公開を拒否したことの是非と、神戸海上保安部の海上保安官がビデオを流出させた行為が混同して議論されていた。この考えは危ない。情報公開と組織としてのあり方は、はっきり分けて考えるべきだと主張した。
夜、柳田稔法相(当時)が地元会合で国会答弁を軽視する発言をしたとの速報が飛び込んできた。柳田さんは時々自虐的な物言いをするので自分を卑下して会場の笑いを取ろうとしたのだろう。早くも辞任論が取りざたされているが、大阪地検特捜部の不祥事事件で辞任論は出なかったのに、この軽口で辞任する必要はあるのだろうか。
■15日(月)
11年間続ける朝の街頭演説の後、帰京。有権者の反応が悪いのが気になる。午後、党本部で、民主党と中国共産党の政党間交流の打ち合わせ。日程が12月17~19日と固まる。岡田克也幹事長を団長に約10人で訪中するが、どのレベルと会談するかは今後の交渉次第。深夜、衆院予算委で補正予算案が可決。これでようやく通過する。
■16日(火)
午後、離日のあいさつに訪れた駐日中国大使館関係者と面会。「日中関係に難しい問題があっても、こういう時期こそ信頼関係が大切。互いに頑張りましょう」と慰労した。11年度税制改正に絡んで団体関係者と面会が続く。夜、同僚議員と会食し情報交換。
■17日(水)
参院予算委で、自衛隊関連の行事の来賓に政治的発言を控えるよう求めた防衛省事務次官通達問題が取り上げられていた。きっかけは「昔の自民党政権に戻しましょう」という発言だ。民間人の来賓に、どこまで政治的発言を控えるよう求められるのかは難しい。ただ、これまでの民主党は、現場で体を張る自衛官への配慮が欠けていたかもしれないと反省する。
夜、東京・赤坂の居酒屋で、新人議員との懇親会に出席。小沢氏も参加していたが、自ら新人に酒をついで回るなど和やかな雰囲気。私は頼まれた講演が重なり1時間余りで退席した。みんな意外と元気で安心したが、やはり最近の民主党への逆風による「統一選や衆院解散・総選挙への不安」などが話題に上った。
■18日(木)
午後、党政治改革推進本部役員会で、国会議員歳費(月額129万7000円)の1割削減を決め、企業団体献金の一部再開方針も議論する。本来は議員定数削減をしっかりやるべきだが、国民の目も厳しく歳費削減も仕方ない。
■19日(金)
会合、講演など10以上の日程をこなして、地元支援者との夜会合。「民主党は駄目なんじゃないか」と散々言われる。「私を信じて党を応援してくれ」と頭を下げ、ようやく納得してもらう。
■22日(月)
朝、地元スタッフとのミーティングの最中に「柳田法相 辞任の意向」との速報。当初はそこまでいくとは思わなかった。状況はますます厳しくなるが、予算編成の真っ最中で、政権を担う与党が立ち止まるわけにはいかない。政治改革推進本部事務総長の長妻昭前厚生労働相と「民主党は結果が出せないと指摘されるが、具体的に出せるものは必ずあるはず。政治文化を変えたと言われるような、政権浮揚につながる前向きなメッセージを出したい」と話し合った。
21時ごろに三島市の自宅に帰宅し一家だんらん。小学5年生の一人娘と、社会科授業で習った「ベルリンの壁」が話題になった。
■23日(火)
朝から地元行事をこなし、知事選の応援で和歌山入りするフライトに乗る寸前、北朝鮮による韓国・延坪島(ヨンピョンド)砲撃事件の発生を知った。首相官邸関係者から電話があったので、我が国への脅威となる「周辺事態」にあたるかどうかなどを確認。選挙応援後、帰りの飛行機に間に合わず、深夜、東京行き寝台特急「サンライズ出雲」に乗り込む。缶チューハイを片手に、最近はまっている大平正芳元首相関連の本や税制資料などを読んでいるうちに眠ってしまった。
■24日(水)
早朝帰京。午後、外務省幹部から北朝鮮砲撃事件の説明を受ける。今後の対応を考える時、つくづく党内で最も周辺事態法に精通する前原誠司氏が外相で良かったと思う。
■25日(木)
小沢氏を支持する当選1回の衆院議員グループが「北辰会」を発足。うわさは聞いていたが、先日の新人議員との懇親会は中間的な立場の人が多く、北辰会は話題にならなかった。
■26日(金)
深夜、参院本会議で仙谷由人官房長官、馬淵澄夫国土交通相に対する問責決議案可決。現時点で今後、政権にどう影響が出てくるかは論評できない。ただ、補正予算を通すのに2カ月もかかったのはいかがなものか。外交案件を延々と議論し、対外的な対応をすべき外交当局が国会での説明にきゅうきゅうとしていては国益を損なう。閣僚の問題発言などは予算や法案と切り離さないと議論が先に進まない。来年の通常国会でもねじれは続くが、これではまともな議論ができない。与野党間でしっかり協議ができる環境を整える必要がある。
■29日(月)
米海兵隊普天間飛行場の移設問題で注目された沖縄県知事選は仲井真弘多氏が再選された。民主党は自主投票で臨んだが、どのような結果でも民意として受け止めなければならないと思っていた。日米合意を重視する政府は仲井真氏と誠実に対話するしかない。応援に行った和歌山県知事選も18万票差で敗れたのは、予想を超えて厳しい結果だ。県連は頑張っていたが、今の民主党が置かれた状況を表しているかもしれない。
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■人物略歴
1971年生まれ。京大法卒。三和総研を経て00年の総選挙で初当選。現在4期目。党役員室長、党組織委員長兼企業団体対策委員長などを歴任。9月の尖閣沖の中国漁船衝突事件では、仙谷由人官房長官の「密使」として訪中した。
毎日新聞 2010年12月2日 東京朝刊