菅直人首相が、また「小沢カード」を切る意向を固めた。民主党の小沢一郎元代表が昨年7月の衆院解散当日、自身の資金管理団体「陸山会」を通じ、側近議員ら89人に計4億4200万円を配った問題を、徹底追及する構えなのだ。今年6月の首相就任時と9月の代表選後、菅首相は「脱小沢」「非小沢」を掲げて支持率アップを果たした。数多くの失政や不祥事で内閣支持率が急落する中、「二度あることは…」となるのか。
「これは大変な問題だ」。菅首相は1日、2009年分の政治資金収支報告書などをもとに、小沢氏の新たな「政治とカネ」の問題が報じられたことを受け、周囲にこう語ったという。近く、岡田克也幹事長らと会い、党として小沢資金問題の解明に乗り出すことを決める予定だ。
小沢氏の問題は、複雑かつ深刻だ。冒頭の4億4200万円が配られた前日、小沢氏は陸山会に3億7000万円を貸し付け、2日後には全額返済された。この返済に合わせるかのように、旧新生党の政治関係団体「改革フォーラム21」から貸付金と同額の資金が、政党支部経由で陸山会に移されているのだ。
同フォーラムには、1994年に国から同党に立法事務費として4億7970万円が支給されており、日本大学の岩井奉信教授は「小沢氏は私兵を養うために政党資金を都合よく使ったとみることできる。(資金操作は)不自然で、選挙資金の出どころを分かりにくくするためでは」と指摘する。
菅首相の反応は、野党・自民党が「まさに公金の私物化といえる。偽証罪に問われる証人喚問で徹底的に追及するべきだ」(ベテラン議員)などと勢いづく中、与党・民主党として、自ら「政治とカネ」の問題に取り組む姿勢を見せたものだが、別の思惑もある。
中国漁船衝突事件や北朝鮮砲撃事件などで、菅内閣の危機管理能力に疑問が投げかけられ、支持率は「退陣水域」一歩手前の20%台前半まで急落。さらに、党大物である中井洽衆院予算委員長が、秋篠宮ご夫妻に対してヤジを飛ばす前代未聞の失態も発覚するなど、菅内閣と民主党はノックダウン寸前の窮地にある。
民主党関係者は「菅首相は代表再選後、小沢代表時代の政党資金追及にストップをかけたが、イザという時のために『小沢カード』を温存してきた。今こそ、小沢氏の『政治とカネ』の問題を追及し、菅内閣や民主党に対する支持を取り戻す腹ではないか」と語る。
一方、小沢氏は40年以上の政治経歴を誇る猛者だけに、「政治資金規正法に基づき適切に処理している。収支報告書の通り」(小沢事務所)と動じる様子はない。菅首相側の動きをけん制するためか、1日夜、都内の中国料理店で、自身を支持する田中真紀子元外相や、中堅・若手でつくる「一新会」のメンバーら約40人と懇談した。
小沢氏は、2011年度予算編成作業について、「誰が仕切って、どういう風にするのか。本当にしっかりと(国民の期待に)応えられる予算を組めるのか」と、菅内閣のお粗末極まる手法を批判した。
民主党政治への不信感が高まりつつある中、国民は3度目となる「菅vs小沢」の茶番劇に付き合わされるのか。