政権交代を契機に首相番を始めたが、よくこんな質問を受ける。「菅直人首相と鳩山由紀夫前首相の違いは?」。「肉声が多いのが鳩山さん。聞けないのが菅さん」と、答えている。
1日のぶら下がりで、予定の質疑を終えた菅首相はいつものように早々に歩き出した。その時、「総理、最近メモを読みませんけども、どうですか?」と質問が飛んだ。
「いいねえ、この方がよっぽど」「本当ですか?」「はい、みなさんにとってもいいんじゃないかな」
菅首相も肉声を発した方がいい、と意識し始めてはいる。それでもまだまだだ。
閉幕した臨時国会では補正予算は成立したものの、「ねじれ国会」の打開策は見いだせず法案成立率は約5割だった。「政治とカネ」問題を問われている民主党の小沢一郎元代表の国会招致も宙に浮いたまま。政権の屋台骨を支える仙谷由人官房長官らの問責決議案は可決した。
菅グループの重鎮、江田五月前参院議長は「アリ地獄状態。もがけばもがく程深みにはまっている」と発想の転換を求める。鳩山前首相は政治主導が中途半端に終わっている点を指摘し、「官僚を心酔させるには、時間がかかる。私も菅首相も信頼を得られていない」と、告白する。
「ねじれ国会」の打開策としては、政策ごとの部分連合や、連立政権のパートナーの組み替えなどが考えられる。だが、内閣支持率の急落で、菅首相の求心力も低下した。中曽根康弘元首相は「内閣改造し、外交を中心に斬新な政策を打ち出すべき時だが、良き協力者は絶無」と、菅体制の不備を批判する。
求心力の回復には実績を重ねること以外に、リーダーの人間性に国民が共感することが不可欠だ。それを果たした典型は小渕恵三元首相だろう。小渕内閣発足時、毎日新聞の調査では25%に過ぎなかった支持率も一時は48%まで持ち直した。「ブッチホン」と揶揄(やゆ)された電話魔ぶりも、本音を語ることで時と共に実直さと映るようになった。菅首相も「肉声」をもっと発すべきだと思う。(専門編集委員、65歳)
毎日新聞 2010年12月4日 東京朝刊