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「通常国会は公明党の力を借りないといけない。このままいけば危険な局面がくる」。11月16日夜、前原誠司外相は東京・麹町のうなぎ店で参院民主党の若手議員と会食し、公明党への働きかけを強める決意を披露した。
3日に閉会した臨時国会で野党との亀裂を深めた菅政権。来年1月召集の通常国会で11年度予算案と関連法案を成立させるため連携のラブコールを送るのは、臨時国会で袖にされた公明党だ。民主党会派と公明党を合わせると、参院では半数(121議席)を超え、安定した政権運営を築ける、という狙いだった。
公明党との連携シナリオは進んでいた。補正予算を巡る水面下の折衝が続いていた11月8日、民主党の城島光力政調会長代理が公明党の石井啓一政調会長と会談。石井氏が「米価対策、中小企業対策、地域交付金を増額してほしい」と求めると、城島氏は「地方交付税の増額は可能」と即答した。地方重視の公明党にとっても、民主党との協力で政策の実を取れば、来年4月の統一地方選でアピールできるという思惑が働いていた。
ところが、自民党との連携を重視する漆原良夫国対委員長らがこの動きを警戒。公明党は会談翌日の9日の衆院予算委員会で質問し、前向き答弁を引き出す狙いだったが、漆原氏が「質問をやめさせろ」と巻き返した。
「政治とカネ」の問題で小沢一郎元民主党代表を政治倫理審査会に出席させられない同党執行部への不信感も公明党の態度を硬化させた。山口那津男代表は10月2日の党大会で「倒閣を目的にしない」と述べたが、11月9日には「1カ月前とは状況が違う」と周辺につぶやき、11月中旬からは民主党との対決路線を強めていった。「気持ちは今でも補正予算に賛成だ。(尖閣諸島沖の)中国漁船衝突事件での政府の対応が混迷したのが大きかった。あれで菅政権には付き合いきれないという雰囲気になった」。公明党幹部はこう振り返る。
菅政権は公明党の強硬姿勢に危機感を強めていった。民主党の玄葉光一郎政調会長は11月9日の党政調幹部会で「政策を取り入れたのに公明党は結局は政局だ。どうにもならない」と悔しがった。
公明党は臨時国会で自民党と歩調を合わせて10年度補正予算に反対し、終盤には仙谷由人官房長官と馬淵澄夫国土交通相の問責決議を参院で可決。通常国会でも両氏が出席する国会審議を拒否すると宣言した。
ある中堅議員は11月末、99年の自公連立の立役者とされる自民党の野中広務元官房長官を訪ね、アドバイスを求めた。野中氏は「部分連合で公明党がやりたい法案だけ一緒にやればいい」と仲介も辞さない姿勢をみせたという。野中氏は同じ京都出身の福山哲郎官房副長官の相談にも応じている。小沢氏の復権には否定的で「『出ていきたいやつは出ていけ』でいいじゃないか。そうしたら公明党は法案に協力する」と関係者に語っている。
局面打開に向け、菅直人首相を支持するグループでも、小沢氏の強制起訴に合わせて離党を勧告し、支持率回復を図ったうえで、公明党の協力を取り付けるシナリオが浮上している。その場合、公明党がノーを突きつけた仙谷氏が閣内にとどまるわけにはいかず、仙谷氏を含めた通常国会前の内閣改造論が現実味を帯びている。
毎日新聞 2010年12月6日 東京朝刊