[菅内閣半年]理念なき政治は危うい

2010年12月8日 09時00分この記事をつぶやくこのエントリーを含むはてなブックマークLivedoorクリップに投稿deliciousに投稿Yahoo!ブックマークに登録

 理想と現実を調合して政策を組み立てる政治の基本作業を菅内閣はうまくこなせているだろうか。きょうで発足から半年を迎えた菅内閣の評価は、20%台に落ち込んだ内閣支持率に示されるように及第点に遠く及ばない。

 「政治主導」「コンクリートから人へ」「対等な日米関係」―。鳩山由紀夫前首相から菅直人首相にバトンタッチしたとき、こうした民主党の理念が色あせてしまった印象がある。菅政権はどこへ向かおうとしているのかさえ見えなくなっている。

 菅首相は来年度の予算編成について「基礎年金の国庫負担や子ども手当、一括交付金、法人税(減税)をどうするか。最終的には私の責任で決める」と語った。

 政治主導を強調したいのだろう。しかし、来年度税制改正で最大の焦点である法人税減税は、企業の国際競争力を高めようと経済産業省は5%減を目指すが、財源不足を懸念する財務相と激しい綱引きを演じている実態がある。

 基礎年金の国庫負担の引き上げで、首相は「2分の1を維持する」と明言している。財源は消費税率の引き上げが不可避とされているが、7月の参院選で首相自身が消費税増税を打ち出して痛い目を見た。増税論議は先送りされているため、国庫負担の見直しも先行き不透明のままだ。

 子ども手当に充てる財源は予算の組み替えや役所の無駄遣い撲滅で捻出するはずだったが、もくろみは外れた。

 予算編成で政治主導を証明する、と9月の党代表選で公約した菅首相の影は薄い。

 現実に合わせて軌道修正するのは仕方ない。ただその際には説明責任を尽くすべきだが、民主党はその最低条件をクリアしていない。

 米軍普天間問題が顕著な例だ。菅首相は6日の会見で「(前首相が)県外・国外を目指すと言ったが実現できず申し訳ない。沖縄の負担軽減、振興策を併せて理解を得られるよう努力する」と語った。

 なぜ実現できないのか、を明らかにすべきだ。米軍基地のために首相が辞める国はおそらく日本だけだろう。普天間移転は「県外・国外」と明記した沖縄ビジョン(2008年版)を見直す動きが民主党内にあるが、政策変更に合理的な説明がなければ場当たり政治になって、危うい。

 最近まで海兵隊撤退論を主張していた菅首相はまだ自身の考えを語っていない。「日米同盟の深化」を目指すのは理念であるが、沖縄問題という現実を無視しては政策になり得ない。

 「コンクリートから人へ」と公共工事を見直す理念は多くの支持を集めた。

 八ツ場ダム(群馬県)や諫早湾干拓(長崎県)は半世紀経たいまも事業が完了せず、民主党はこれまで「ムダな公共事業」と批判してきた。構想から約40年を経た沖縄市の泡瀬干潟埋め立て事業を含め、公共事業は政権交代と関わりなく生き続ける。

 「理想なき現実」「現実なき理想」のいずれも政治の貧困だ。ところで菅首相はどのような理想を掲げているのか、ピンとこない。

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