社説
2010年12月9日

菅政権6ヵ月/政権末期を自覚し大義を謳え

 菅直人首相の就任から8日で半年を迎えた。この間、民主党の参院選大敗や代表選を経て、中国との尖閣諸島問題、ロシア大統領の北方領土訪問が日本の主権を揺るがした。さらに横浜でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)開催、北朝鮮の韓国砲撃、臨時国会での参院による2閣僚への問責決議など国内外で激動の情勢が展開した。この動きの中で菅内閣支持率は2割台にまで落ち込んでおり、政権末期に近づいている。

貧困な「政治主導」を発信

 首相は、支持率低下を意に介さぬかのように1%になっても続投すると強弁したという。また、自らの発信力が不足して支持を失ったかのような認識も示している。が、これは勘違いも甚だしい。首相は自らの発信によって支持低迷を招いたのだ。

 その典型例が消費税増税発言だ。鳩山由紀夫前首相がやはり支持低迷で辞任し、後継の菅首相は内閣支持率回復を見て、参院選直前に突然、消費税増税に舵を切ろうとした。昨年衆院選の民主党マニフェスト(政権公約)と裏腹に、増税による安易な財政策に走る、貧困な「政治主導」の実態を発信してしまったのである。

 失望した有権者は1年にして民主党離れし、参院選の与党敗北で、ねじれ国会が出現した。代表選では政治資金問題で批判を浴びた小沢一郎元代表と争い、再選後に小沢グループを冷遇する組閣・与党役員人事でクリーンな政治の印象を振り撒く演出はできた。だが、尖閣沖領海侵犯事件はじめ領土問題への対処で、鳩山前内閣における米軍普天間基地移設問題の迷走に続いて、外交・安保への実力の欠如が明白になった。

 特に日本領海に侵入し海上保安庁巡視船に衝突した中国漁船の船長逮捕をめぐっては、中国の恫喝に屈した釈放措置を那覇地検の「政治判断」とし、政権は関知しないという欺瞞的姿勢を内外に発信して日本の面目を潰した。また隠蔽体質が批判を浴びる中で海保官が衝突ビデオをネット上に公開したが、筋道を外した情報漏洩に毅然とした処断を下すこともできない政権の矛盾も露呈した。

 このような状況であるから、ロシアのメドベージェフ大統領は日本政府を恐れもせずに国後島を訪問した。領土問題での後退著しい現象の連続だ。

 閣僚の失言では柳田稔法相の辞任を招き、閣僚の政治的重みが失われている。参院問責決議を受けた仙谷由人官房長官、馬淵澄夫国土交通相を辞任させる考えのないことを首相は早々に示し、当人らもそうした考えを表明した。閣僚としての責任感が希薄なのではないか。これでは支持が失われるばかりだ。

自公両党と協働せよ

 ねじれ国会の情勢で支持率低迷では菅政権は末期症状に等しい。社民党に接近しても事態打開は到底望めないどころか、対米外交重視を打ち出したところへ火ダネとなりかねない。むしろ、市民的視野に加えて国家的な観点に立ち、日本がアジアの自由・民主主義国の確たる砦として発展する大義ある目標を立てて、外交・安保・経済で前与党の自民・公明両党と大きく協働する道を見いだすべきだ。


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