法人税率5%下げ掲げるが、国際競争力の確保には疑問 税理論も戦略もその場しのぎ

2010.12.10

 12月は来年度予算の政府案作りで慌ただしい。菅政権は支持率急落だが、この時期には国会もなく野党から叩かれない。予算案で国民の関心を引きつけられる。来年の国会で予算案審議までは菅政権の一人舞台だ。そこで、菅直人首相は成長戦略の目玉として法人税率の5%引き下げを指示した。

 問題は財源確保だ。その減収額は1・5兆〜2兆円程度。昨年の税制改正は小沢一郎という最終決断者がいたが、今年はいない。そこで、小沢氏抜きでもできることを見せるために、なんとか増収になるものを集めている。

 一番簡単なのは、特定業界への優遇税制である租税特別措置の見直しだ。しかし、ナフサ免税の課税化や研究開発減税の縮小は民主党の反発も強く見送りになった。法人に対する課税強化ばかりだと、法人税率の引き下げと合わせてみて実質減税にならず、成長戦略にならなくなるという批判も出ているためだ。

 そこで、企業に対して実質減税になるように、減価償却、貸倒引当金損金控除、欠損期繰越控除、配当益金不算入のほか、相続税増税分や証券優遇税制の廃止なども俎上にのぼっている。

 国税と地方税を合わせた法人課税の実効税率は現在約40%で先進国で最高水準。ただし、実際には優遇税制もあるので、それほど高くないという指摘もある。

 いずれにしても、菅政権は、法人税率下げを国際競争力の確保という観点から主張しているが、その考えには経済理論から批判がある。一つは国際競争力という概念だ。ノーベル賞受賞者のクルーグマン教授は国際競争力を「とらえどころがなくナンセンス」と批判する。

 もう一つは、法人税率下げは国際競争力という観点ではなく、法人に対する二重課税の排除という観点で行うべきだという、これもノーベル賞受賞者のフリードマン教授の批判だ。

 法人は個人の集合体であるので、個人ベースで完全に課税が行われれば、法人税自体が不要のはずだ。しかし、現実の税務執行では、個人の所得・資産は十分に補足できないのでやむを得ず法人課税している。

 この意味で、日本の法人税率が高いのは、納税者番号が先進国の中では徹底していないので、個人の資産・所得把握が不十分な結果ともいえる。この観点からみると、納税者番号の導入が先決で、それで得られた所得税増収分を法人税減税にあてれば、5%どころか10%以上も引き下げられる。

 しかし、民主党政権は納税者番号と密接に関係する国税庁と社会保険料徴収機関を統合する歳入庁を先送りした。民主党には、しっかりした税理論とそれを実行する戦略がない。(嘉悦大教授、元内閣参事官・高橋洋一)

 

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