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クローズアップ2010:小沢氏招致問題 民主迷走、振り出し

 ◇岡田氏、党内対立激化で慎重

 政治資金規正法違反事件を巡って強制起訴を控える民主党の小沢一郎元代表の国会招致問題は13日、岡田克也幹事長が描いた招致議決を決定できず、岡田氏が小沢氏を説得するという振り出しに戻り、混迷ぶりを印象付けた。小沢氏招致には菅内閣からも慎重論がくすぶり、執行部は先鋭化する党内対立をどう決着させるのか展望を描き切れていない。民主党は政権交代効果を示せぬまま党内抗争は泥沼化する様相だ。【朝日弘行、横田愛】

 「この問題が国会運営の妨げになっている。各種選挙に影響を及ぼしかねない。なるべく早く解決していく」。岡田氏は対応一任を取り付けた役員会後の記者会見で強調した。11日には多数決ででも衆院政治倫理審査会(政倫審)への招致議決決定に持ち込む構えだったが、党内の対立激化を目前に強硬路線をいったん引っ込め、慎重に手順を踏まざるを得なくなった。

 岡田氏が小沢氏の国会招致を急ぐのは、福岡市長選、和歌山県知事選、茨城県議選など地方選での連敗が相次いだためだ。地方行脚を続けている岡田氏には厳しい声が浴びせられており、岡田氏に近い議員は「岡田氏は尖閣諸島などの問題より、まず地方の批判で政権が揺らぐという危機感を強く持っている」と説明する。

 岡田氏は役員会の直前、党本部で森ゆうこ参院議員ら小沢氏側の申し入れを受けた際も「小沢氏の国会招致を求める世論が大きい」と主張した。来年1月召集の通常国会への展望が開けないことで菅政権の実行力に疑問符がつき、内閣支持率が下がり、地方選での敗北が続くという悪循環に陥っていることへの懸念だ。

 岡田氏の強硬姿勢は、支持率回復に効果があった「脱小沢」カードを再び使うことで政権浮揚につなげると同時に、野党の小沢氏国会招致要求に応じる姿勢を見せることで与野党連携の糸口としたい狙いがある。

 しかし、役員会で岡田氏は輿石東参院議員会長の収拾案を受け入れた。対立激化を懸念する声が小沢氏側の議員以外にも広がり、無視できなくなったからだ。菅直人首相に近い斎藤勁国対委員長代理は11日、首相と会った際、「党分裂を心配している」と伝え、岡田氏の「突進」を引き留めるよう依頼したのだ。

 役員会前に小沢氏系の政務三役が対応を協議したことも「政権離脱」の臆測を呼び、圧力となったようだ。岡田氏は会見で「権力闘争ということはまったくない」と先鋭化する党内対立の沈静化を図るのに躍起だった。

 岡田氏は一任を取り付けたことで「一定の地歩を築いた」(周辺)というが、野党は納得していない。自民党の谷垣禎一総裁は「自浄能力が恐ろしく希薄だ。民主党は内部の権力闘争に明け暮れるから、茨城県議選でも地方からノーが突きつけられた」と記者団に語り、早期の衆院解散・総選挙を求めた。公明党の漆原良夫国対委員長も「先送りだし腰砕けだ。決めきれない民主党、迷走する民主党を如実に表した」と指摘した。

 自民、公明両党は、民主党が衆院政治倫理審査会で小沢氏の招致を議決する方針を決めれば容認するものの、弁明が不十分な場合はさらに証人喚問を求める姿勢を変えていない。みんなの党や共産党なども喚問要求で足並みをそろえており、民主党が「小沢カード」を切っても、国会で野党の協力を取り付けられる保証はない。

 ◇小沢氏側「小休止」と安堵

 「小休止だ」。輿石氏は13日の党役員会後、長野県上田市にいた鳩山由紀夫前首相に電話でこう連絡した。岡田氏の攻勢を食い止めた安堵(あんど)感がにじんでいた。鳩山氏は記者団に「役員会で結論が出たのであとは円満に進む」と述べ、小沢氏の招致問題を巡る党内抗争はひとまず「休戦状態」となったとの認識を示した。

 「私が出席して政治とカネ問題が決着し、政権運営がうまくいくならいいが、そうでないなら意味がない」。小沢氏は政倫審出席を拒む理由について12日夜、鳩山、輿石両氏と会談した際、説明した。

 小沢氏の発言は、政倫審に出席すれば証人喚問に発展せず、来年1月召集の通常国会で、参院で問責決議を受けた仙谷由人官房長官らが出席しても野党は審議拒否をしないという展望が描けているのかという疑問だ。

 岡田氏は輿石氏との会談で「党として決定して小沢氏に伝える必要がある。一任してほしい」と招致議決決定に理解を求めたが、輿石氏は「野党は納得するのか。(小沢氏招致は)証人喚問だと言っている。次から次へ厳しくなって(岡田氏が)自分のクビを絞めることになる」との見通しを示して反論した。岡田氏が野党との国会対策で手を打っているかどうかに疑問を投げかける指摘だった。

 菅政権は小沢氏を排除することで政権浮揚を狙っているというのが鳩山氏らの受け止めだが、小沢氏側には菅政権が進める野党連携が戦略的ではないとも映っている。首相は社民党取り込みに動いたが、小沢氏は社民、国民新両党とのパイプ役でもあり、「小沢切りは社民党連携とは逆方向の動き」(党関係者)との声も漏れる。

 小沢氏側の戦術は、仙谷氏の問責決議を踏み台に内閣改造を迫り、政権の掲げる「脱小沢」路線から「挙党態勢」路線に切り替えさせ、実権を奪還することだ。

 小沢氏は13日夜、別の党幹部との会合を取りやめ、東京・赤坂のスナックで中野寛成元衆院副議長らと会合。小沢氏に近い党幹部は「中野氏が両院議員総会長なので小沢氏が会った」と述べ、小沢氏の布石だと指摘した。

 ただ、混迷が続けば党全体が地盤沈下するおそれもある。執行部糾弾を狙った両院議員総会開催の動きを巡っては小沢氏側の党幹部が「自粛するように」と指示、岡田氏の出方を見極める構えだ。

毎日新聞 2010年12月14日 東京朝刊

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